東方賢者槍   作:赤辻康太郎

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ルドガー幻想入り第二話です。残念ですが、世界一位さんは出てきませんのであしからず


第二話 2つの異世界

第二話 2つの異世界

 

 

「博麗神社?」

 

 聞きなれない単語に、ルドガーは首を傾げる。

 

「そう。博麗神社。幻想郷に二つしかない神社のうちの一つよ」

「まあ神社つっても、あんまり人は寄り付かないけどな」

「話しの腰を折らない」

「あいた!」

 

 アリスの説明を茶化す魔理沙。しかしその直後にアリスの制裁を受け、痛い目をみたが。

 

「何で俺をそんな所に?」

 

 当然その理由はルドガーと幻想郷に関係することだが、ルドガーは情報を整理する意味でも口に出して尋ねる。

 

「そうね。それにはまず『幻想郷』について話しましょうか」

 

 アリスは食後の紅茶で喉を湿らせ、話を始めた。

 

 幻想郷。それは忘れられた存在が行き着く場所。人と妖と神々が共存する楽園。『幻と実体の境界』と『博麗大結界』という二つの結界により『外の世界』即ち『現代』と隔離させた世界。現代での幻が幻想郷では実体となり、幻想郷での常識が現代の非常識となる世界。それが幻想郷である。

 

「博麗の巫女は代々、博麗大結界を維持、管理しているの」

「(似ているな)」

 

 ルドガーは幻想郷が自分が存在していた元の世界によく似ていると感じた。

 

「何か質問はある?」

「何故幻想郷は隔離されたんだ?」

「確か、文明が近代化していって、妖怪や神の存在が『迷信』とされてきたから、だったと思うわ。妖怪も神も、それがそれとして存在する為には人々の認識、信仰と言ってもいいわね。つまり『知られている』ことが必要不可欠なの。けど迷信になったらいずれ忘れ去られてしまう。だから隔離するしかなかったのよ」

 

 ルドガーはその話を聞いて、ますます元の世界と酷似していると感じた。

 

「他に質問はあるかしら?」

「何故博麗の巫女の所に行くんだ?」

 

幻想郷の成り立ちは分かった。しかしルドガーが博麗の巫女の所へ行かなければならない理由は触れられていない。

 

「博麗の巫女が結界の管理をしていると言ったわよね?」

「ああ」

「博麗の巫女の管理の仕方は特殊で、簡単に言えば『幻想郷内に存在する、幻想郷及び結界の維持に影響を及ぼしかねない因子の排除』なの」

「?」

 

アリスは『簡単に』とは言ったが、ルドガーはアリスの説明を殆ど理解できていなかった。

 

「おいおい、アリス。そんな小難しい説明の仕方はないだろう?」

 

魔理沙が呆れ顔でアリスをさとす。先の説明では幻想郷の住民である魔理沙にも分かりにくかったようだ。

 

「じゃあ、貴女は何て説明するのかしら?」

「『幻想郷を壊そうとしてる奴をぶっ飛ばす』」

 

アリスとは対称的に、魔理沙の説明はかなり大雑把で過激である。

 

「そんな粗暴な説明で--」

「成る程。何となく分かった」

「……」

 

元よりルドガーも、どちらかと言えば自分の倫理に従って生きてきた方なので、魔理沙の説明の方が何となくではあるがしっくり来たようだ。ただしアリスから「お前もか」と言う眼で睨まれたが。

 

「……コホン。まあその因子の中には人やモノ以外にも『事象』も含まれるの」

「事象?」

「ええ。私達は便宜上『異変』と呼んでいるわ」

 

『異変』とは、幻想郷で起きた『人知を超えた怪奇現象』の総称である。アリスと魔理沙曰く、紅い霧が幻想郷を覆い陽の光が届かなくなった。曰く、暦の上では春になっても温かくなることはなく極寒の雪の日が続いた。等など様々な異変が幻想郷では起きていた。

 

「これらの異変を解決するのも博麗の巫女の仕事なんだぜ」

「……何で魔理沙が誇らしげに言うんだ?」

 

何故博麗の巫女ではない魔理沙が自慢げに語るのか。何てことはない。その理由は--

 

「異変解決に勝手に付いていって勝手に一役買ってるからよ」

「ああ」

 

本当は手柄を横取りしようとしての行動であるのだが、いつもいい所でヘマをして博麗の巫女に手柄を取られていた。結果、異変解決の立役者の一人には上げられるのだけで終わっている始末である。

 

「ウルセー!今に見てろよ。次の異変は必ず--」

「それでね、ルドガー。貴方には申し訳ないのだけれど……」

「分かってる。俺が此処に来たことも異変なんだろう?」

「無視すんなー!」

 

アリスとルドガーは魔理沙を無視して話を進める。当然抗議の叫びもスルー。

 

「ええ。貴方を含めて、幻想郷の外から来たモノを総して『外来人』と呼んでいるのだけど、『外来人の幻想入り』も異変に含まれるの」

 

外来人は『外の常識』、即ち『幻想郷の非常識』を持っているため、幻想郷の住民の生活に影響を与えかねない。それが芸術などの良い影響を与えるものならば大して問題はないが、必ずしも良い影響ばかりでない。実際、今まで起きた異変の中には外来人が起こした  ものも幾つかある。中にはそのまま幻想郷の住民となったモノもいるが、博麗の巫女らの手で排除されたモノも少なくなかった。

 

「だから一応外来人は博麗の巫女の元に連れて行くことになってるの」

「まあ外来人を外の世界に戻せるのは霊夢か紫だけだからな」

「レイム? ユカリ?」

 

ルドガーはアリスと魔理沙の話から、外来人を元の世界に帰せるのは博麗の巫女だけだと思っていたが、実際は少し違う様だ。

 

「『霊夢』はさっき言った博麗の巫女の名前よ。そして、『八雲紫』。約500年以上前に『幻想郷計画』を発案・実行した『妖怪の賢者』の一員。『境界を操る程度の能力』を有する大妖怪よ」

「境界を操る程度の能力ってことは……」

「そう。幻想郷を護る結果の一つ、幻と実体の境界は彼女が創ったものよ」

 

八雲紫はその他にも『空間の境界』を操り瞬間移動(ワープ)したり、『年齢(若さと老い)の境界』を弄り見た目の年齢を自由に変えることができる。これ程のことができる能力が『程度』で済むはずがないのだが。

ルドガーはその突拍子もない能力にただ呆けた様に口をポカンと開けるばかりだった。

 

「まあ。そうなるわよね」

「そりゃあな」

 

アリスと魔理沙はルドガーがどんなリアクションをするか大体の予想はできていたようだ。まあ幻想郷の住民でなければ皆同じ様なリアクションになるだろう。

 

「なら八雲紫に頼んでもいいんじゃないか?」

 

 ふと、ルドガーはそう提案してみる。結界を管理しているなら、八雲紫はルドガーが幻想入りしたのに気付いている筈だ。ならば態々こちらが博麗神社に行かなくても八雲紫の方がこちらに来てくれるのでは? そう思っての提案だったのだが……

 

「「それは無理ね(だな)」」

 

 二人から同時に、キッパリと否定された。

 

「な、なんでだ?」

「そりゃあ紫に頼めれば一番だろうけどさ」

「彼女の居場所は誰にも分からないの」

 

 アリス曰く、八雲紫は自分の住処を誰にも、それこそ博麗の巫女にも教えていないらしい。噂では、自身の能力で次元の狭間に家を建てているだの、スキマで移動するから家はあっても場所が分からないなどと言われているが、真実は誰にも分からなかった。

 

「まあ博麗神社に行けば恐らく会えるから、その時に頼んでみましょう」

「頼む」

「そんな事より、今度はお前の居た世界の話をしてくれよ」

 

 魔理沙はルドガーの今後より、ルドガーの世界に興味があるようだ。その証拠に、魔理沙の眼は興味津津とばかりに爛々と輝いてる。ルドガーがアリスを横目でチラ見すると、アリスは首を横に振った。どうやらこうなったら止められないらしい。

 

「……分かったよ」

 

 一呼吸おいて、ルドガーは口を開く。

 

「まず始めに言っておくけど、俺の居た世界は二人の言う外の世界じゃない」

「「え?」」

 

 ルドガーの言葉に、二人は眼を丸くする。ルドガーは二人に構わず、話を続ける。

 

 かつて、ルドガーの居た世界は自然豊かな世界だった。そこは、人と動植物、そして『精霊』と呼ばれる、世界の法則を司る存在が共存する世界だった。精霊が存在する影響か、幻想郷、いや地球の人々にはない、とある器官が発達していた。それは『霊力野(ゲート)』と呼ばれていた。霊力野は脳にある器官で、自身の持つ生命力の一部を『マナ』として外部に放出することができる。精霊は人からマナを糧として受け、その代わり精霊は人の助けをする。これは『精霊術』と呼ばれ、人と精霊の共存関係の一つの形であった。

 しかし、この関係はとある発明により一変する。その発明品は『黒匣(ジン)』と名付けられた。黒匣の発明により、それまでは一部の人にしか扱えなかった精霊術を、誰でも扱うことが出来るようになり、また黒匣を応用した発明も次々に現れ、人々の暮らしと文明は急速に発達していった。だが、その黒匣にも、精霊を殺してしまうと言う致命的な欠点があった。

 

「その欠点って……」

「精霊を殺してしまうことだ」

 

 黒匣は精霊術を使えない者でも精霊術と同等の術を使えるようになる機器であるだが、精霊を殺してしまうと言う世界にとって致命的な欠点を孕んでいた。しかし、人々がその事実に気づいた時には、黒匣は人々の生活には欠かせないものになってしまい、中には黒匣なしではまともな生活すら送れない人も現れ始めた。このままでは、いずれ世界が崩壊してしまう。

そのことを危惧し、また嘆いた精霊の王『マクスウェル』は、精霊と、精霊術の扱える一部の人類を結界の中に隔離し世界の崩壊を防ぐことを決めた。そして、断界殻(シェル)によって隔てられた内側の世界『リーゼマクシア』と外側の世界『エレンピオス』の2つの世界が誕生した。2つの世界はそれから2000年の間、互いに互いの世界の存在を認識することもなく、其々独自の文化を発展させていった。

 

「2000年の間ってことは……」

「今はもう断界殻はない。1年前に俺の仲間たちが断界殻をなくしたんだ」

「じゃあ今そっちの世界は1つなのか?」

「ああ」

 

 ルドガーの時間軸で1年ほど前、『ジュード・マティス』と『ミラ・マクスウェル』らによって消滅した。ことの始まりは20年前に起きた事故なのだが、ルドガー自信その事故については詳細を知らないので説明を省いた。

 

「ん? ちょっと待って、ミラ・『マクスウェル』?」

「ああ。ミラは元はマクスウェルによって創られた、謂わば防衛システムみたいな存在だったらしいんだ。今はマクスウェルとして世界の均衡を保つために動いているみたいだけど」

 

 この辺りもルドガーはジュード達から話を聞いただけなので説明を省略。ルドガーは「ここからは俺の話になるけど」と前置きをして続ける。

 

 ルドガーの冒険の始まりは、一人の少女と出会いから始まる。少女に『カナンの地』に連れて行ってほしいと言われ、『分子世界』を破壊する任を『クランスピア社』から受け、自分の一族、『クルスニクの一族』に関する時を司る精霊『クロノス』との因縁を知り、人類と精霊の命運を賭けた『オリジンの審判』に挑む。話せば長くなる話ではあるが、ルドガーはなるべく簡潔に、省略しながら説明した。

 

「……なんだか、凄い話ね」

「ああ……」

 

 ルドガーの経験した壮大な冒険譚は、幻想郷で幾多の異変に関わって来た魔理沙達の想像を絶するほどのものだった。

 

「じゃあ……もっと聞かせてくれよ!」

 

 だが魔理沙の興味は途切れることはなく、寧ろ助長させる形になってしまったようだ。その証拠に、話を聞く前よりも瞳が輝いている。

 

「もう! 魔理沙止めなさい」

「ええ~」

 

 窘めるアリスにぶーたれる魔理沙。この二人を見ていると、旅していた時の事を思い出す。

 

「(まあ話せてないこともあるけどな)」

 

 苦笑しながら、ルドガーは心の中でそう加えた。彼は魔理沙達に『旅の途中』としか伝えていなかった。自分の迎えた結末についても、また然り。

 

「まあルドガーの話はこれくらいにして。そろそろ博麗神社に――」

 

 と言ってアリスは席を立つが、窓から見えるそらは、既に黄昏となっていた。

 

「もうこんな時間か。話してたらすっかり遅くなっちまったな」

「そうね。神社に行くのは明日にしましょうか」

 

 そう言うと、アリスは何かを操る様に指を動かす。

 

「? 何をやってってうわぁ!」

 

 気づくと、ルドガーの食器を、金髪にリボンを付けた、高さ30cm位の何体かの人形がテキパキと食器を片付けていく。

 

「あら? 気づいていなかったの?」

「あ、ああ……」

「アリスは人形使いだからな。こういった雑用は全部人形達にやらせてるんだ」

「そうなのか」

 

 ルドガーの知っている少女のぬいぐるみとは違い、アリスの人形は全て人型であるので簡単な雑務は熟せるようだ。

 

「シャンハーイ」

「ん?」

 

 足元から声がする。ルドガーが下に視線を向けると、今食器を片付けている人形達と同じ姿の人形が、ルドガーに向けて万歳の様な格好で立っていた。

 

「その子は上海人形。他の子たちとは違って半自立型の人形なの」

「へえ」

 

 そう呟きながらルドガーが上海を抱き上げると、

 

「キヤスクサワンジャネエヨロリコン」

 

 無表情のまま罵られた。ルドガーが硬直してる傍らでは、アリスが慌てて上海を引っ手繰り、魔理沙が腹を抱えて大笑いしている。

 

「……」

 

 無言で眼を閉じるルドガー。その頬には、小さな一筋の涙が零れていた。

 

「(ここでもロリコン呼ばわりかよ……)」

 

 ルドガーの声にならない悲想を含んで。

 

 

――翌朝――

 

 

「う……ん……」

 

 翌日の朝。アリスはいつもと同じ時間に起床した。ただし、普段とことなるのは、

 

「……いい匂い」

 

 誰もいない筈の台所から朝餉の香りがするということだ。いや、正確に言えば、今は誰もいないわけではない。

 

「早いのね。ルドガー」

 

 アリスが着替えを終え台所へ向かうと。果たして彼女の予想通り、ルドガーが朝食の支度をしていた。

 

「おはよう、アリス」

「おはよう。別に朝食の支度なんてしなくてもいいのに」

「いいからやらせてくれ。それに、料理は俺の趣味なんだ」

「そう。ならお願いしようかしら」

 

 好きでやっているなら、アリスに止める理由はない。アリスはルドガーに任せることにして、自分はテーブルについた。

 

「お待ちどうさま」

 

 暫くして、ルドガーが朝食を乗せた大きめのトレイを持ってテーブルに来た。メニューはトーストとベーコンエッグ、サラダにトマトスープと、至って普通の品々だ。

 

「あら? 貴方の世界の料理を出してくれるんじゃなかったの?」

「これも一応俺達の世界の料理だよ」

 

 ちょっと拍子抜けした様に言うアリスに、ルドガーは苦笑交じりに答えながら自分も食卓につく。

 

「「いただきます」」

 

 手を合わせ、アリスはまずトマトスープを口に運ぶ。

 

「……美味しい」

 

 アリスの口からそう感想が零れ、自然と笑みが浮かぶ。

 

「よかった。本当はもう少し煮込んだ方がいいんだけど」

「これで十分よ」

 

 二口目を口に入れ、また笑みが零れる。ルドガーのスープはどこか気持ちをホッとさせてくれる。アリスはそう評した。

 

「今度は貴女の世界にしかない料理を食べさせて欲しいわ」

「分かったよ。機会があれば用意しよう」

「お願いね」

 

 ルドガーとアリスが暖かで微笑ましい朝食を摂っていると、

 

「おいーっす! アリス、ルドガー!」

「……」

 

 ドアが少々乱暴に開かれ、箒を担いだ魔理沙が乱入してきた。

 

「お、朝飯食ってんのか。丁度いいや」

 

 魔理沙は無言で睨むアリスを無視すると、ドッカリと開いている席に座り、

 

「アリス、私にも同じもの」

 

 とバーでカクテルを注文する気障な客の様に食事を所望してきた。アリスは睨むのを止め、ベーコンエッグにナイフを入れると、

 

「自分で用意しなさい」

 

とにべもなく告げる。

 

「それに、今朝用意したのは私じゃないわ」

「え?じゃあ……」

 

 魔理沙が首をもう一人の方に向けると、件の彼は、もう彼女の中でお馴染みになった苦笑いを浮かべていた。

 

「まあいいや。ルドガー飯!」

「自分でやりなさいっての!」

 

 まるで帰宅した親父の様な注文をする魔理沙に母親の様に怒鳴りつけるアリス。そんな夫婦漫才を繰り広げる二人を、ルドガーは苦笑いではなく、優しい微笑みで見つめていた。

 

 




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