東方賢者槍   作:赤辻康太郎

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何とか年内に本編を更新できました。


第三話 魔物

第三話 魔物

 

 

「さあて。飯も食ったし、早速霊夢のとこに行こうぜ!」

 

 ちゃっかりルドガーの作った朝食をしっかりと平らげ、魔理沙が意気揚々と立ち上がる。帽子のずれを直しながら言うその姿は、まるでピクニック前の子供の様だ。

 

「そうね。昨日行けなかったから、今日は行かないとね」

 

 でないとややこしくなりそうだし。と付け加えて、アリスも立ち上がる。

 

「いや。ちょっと待ってくれないか?」

 

 とそれをルドガーが制する。むしろルドガーが積極的に行かなければいかないのだが。その待ったにアリスと魔理沙は当然困惑する。

 

「どうしたの? 具合でも悪くなった?」

「いやそういう訳じゃないんだ」

「じゃあどうしたんだ?」

「少し寄りたい所があるんだ」

「「寄りたい所」」

 

 ルドガーは幻想郷に来て3日も経っていない。そんなルドガーに土地勘があるはずもない。では一体彼はどこに行きたいと言うのか。

 

「魔理沙が俺を見つけた所まで連れて行って欲しいんだ」

「なんだ。そんなことか」

 

 これに魔理沙とアリスも納得がいった。よく考えてみれば、ルドガーが博麗神社意外に行きたい場所など、そこか魔理沙の家、或いは人里に限られるのだ。アリスたちがその事に気付けないのが珍しい方だ。外来人の到来に、少なからず気持ちが浮き上がっているのだろうか。

 

「けど、どうしたの? そこに何か用でもあるの?」

「ああ。探し物をしたいんだ」

「探し物? 何をだ?」

「……時計なんだ」

 

 魔理沙が探し物の詳細を尋ねた時、ルドガーは少し顔を曇らせた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「こら魔理沙」

 

 そこを追求しようとした魔理沙が、アリスの軽い拳骨の制裁を受ける。それに対し、ルドガーは「いや」と言って話すことにした。

 

「兄さんの、形見なんだ……」

「「……」」

 

 『形見』その単語を聞いた瞬間、魔理沙は罰の悪そうな顔に。アリスは予想がついていたのか、申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「気にしないでくれ。どうぜいつかはいう事なんだ」

 

 そう、いつかは。その続きを心の底に飲み込み、ルドガーも立ち上がる。

 

「魔理沙。案内してくれるかい?」

「……ああ」

 

 聞いてしまったものは仕方ない。魔理沙も気を取りないし、ルドガーを案内することにした。

 

「ま、どっちみち神社に向かう途中だからな。少し距離はあるけど」

「分かった。アリスはどうする?」

「勿論行くわよ。魔理沙だけだと心配だし」

「どういう意味だよ!」

 

 アリスを怒鳴りつけ、不貞腐れながらドアを乱暴に開けて魔理沙は外に出る。ルドガーはそれを心配そうに見送った。

 

「ごめんなさいね。魔理沙が変な事聞いて」

「いや。さっきも言ったけど、どうせいつかは話さないといけないし」

「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるわ。あの娘、ああ見えて気にしてると思うから」

「そうか……魔理沙には悪い事したかな?」

「それなら大丈夫よ。魔理沙は傷つきやすいけど――」

『おーい! 何してんだー? 早く行くぞー!』

「立ち直りも早いから」

 

 外から聞こえて来る魔理沙の声は、もう苛立ってはいなかった。ルドガーもその声を聴いて少し安心したようだ。

 

「そうそう。ここの外。『魔法の森』について少し説明しておくわね」

 

 魔法の森。そこは幻想郷中の『魔』が萃まる森。しかし強すぎる『魔』は人体にとって害悪でしかなく、滅多に人はおろか、妖怪ですら寄り付かない。また、魔法の森に自生しているキノコ、正確にはその胞子には魔力を高める作用があり、魔法使いを志す者は好んで住み着くという。当然、魔理沙もその一人である。

 

「じゃあ、アリスも?」

「私は魔理沙と違って『人間』じゃないわ」

「人間、じゃない?」

「私は『魔法使い』なの」

 

 幻想郷でいう『魔法使い』は職業や役職ではなく『種族』である。ルドガーの居た世界にも『精霊術師』と呼ばれる魔法使いに似た者達はいるが、それはあくまでも人間。幻想郷では『身体の原動力が魔力になっている妖怪』を魔法使いと呼んでいる。魔力が原動となっている為食事も睡眠も必要としない。さらに人間よりも寿命も数十倍以上長い。アリス曰く『魔法に魅入られた人間が研究を続けるために人間らしさを捨てた姿』だそうだ。

 因みに魔法使いには先天的な魔法使いと後天的な魔法使いとが存在し、アリスは後天的な魔法使いだそうだ。

 

「まあ私の知り合いの魔法使い曰く、私は『中途半端』だそうよ」

「何でだ?」

「魔法使いの癖に人間らしさを捨てきれていないから、らしいわ」

 

 確かにアリスは食事も摂るし睡眠もする。確かに魔法使いとしては人間に近い行動だ。恐らくそこが中途半端の由来だろう。

 

「まあ私の事は良いわ。それより、さっきも言ったけど、森には瘴気が溢れているのだけれど、大丈夫かしら?」

「まあ、なんとかなるだろう」

 

 ルドガーも今までの冒険である程度危険な場所には行っているし、そもすれば瘴気よりも危険なものが漂うところにも行ったのだ。今更その程度で危険を感じる様な事はなかった。

 

「そう。なら私達も行きましょうか。魔理沙がまた拗ねるといけないし」

「そうだな」

 

 二人は魔理沙が開け放したドアから連れたって外へ出た。

 

「……ここだ。この木の根元にお前が転がってたんだ」

 

 魔理沙は一つの木の根元を指さしてそう説明した。

 

「……」

 

 ルドガーは目的の場所に辿りつくと直ぐに周囲を探索し始めた。丹念に、丁寧に、隈なく探索する。それこそ、葉っぱの一枚一枚の下、木々の枝の間まで。アリスと魔理沙もその真剣さに、黙って探索を手伝った。

 

 

――1時間後――

 

 

「……もういいんじゃないか?」

 

 探索を始めて1時間。最初に根を上げたのは魔理沙だった。しかしアリスも表情にこそ出してはいないが、気持ちは同じだった。ルドガーが倒れていた所を中心的に一時間も、人形も動員して探索したのに、時計はおろか金属らしき物の一つも見つけられないのだ。ここにはないと判断した方がいいのだろう。

 

「……そうだな」

 

 まだ探索したい気持ちはあったが、ルドガーも諦めざるを得なかった。それにこれ以上自分の個人的な行動にアリスと魔理沙を巻き込むのも申し訳ない。そんな気持ちもあり、探索はここで終了となった。

 

「まあ、また探せばいいさ」

「……ああ」

「簡単に言うけどねって、あら?」

 

 気のない慰めを言う魔理沙を窘めようとした時、アリスが何かを見つけた。

 

「ん? どうした? 見つかったのか?」

「本当か!?」

 

 目当ての時計でも見つかったのか。そう思った魔理沙とルドガーの視線がアリスに集中する。

 

「あ、いえ。違うの。そこの茂みが……」

「茂み?」

 

 アリスが指さす茂みを見てみると、茂みの一部がガサガサと揺れている。

 

「猪でもいるんじゃないか?」

「ここは魔法の森よ。普通の動物がいるわけないじゃない」

「(この感じは……)」

 

 ルドガーは茂みの中から感じるその気配を察し、いつでも動けるように身構える。心の中ではそんな事はあり得ないと否定しながらも、頭の中の警鐘が鳴りやまない。寧ろ段々と強くなっていく。

 

「キュー?」

「は?」

「え?」

「……!!」

 

 茂みから出てきたのは、魔理沙とアリス『には』見覚えのない生物だった。水色の身体に大きな目を付けたその姿は――

 

「オタマジャクシ?」

 

 そう。その姿はオタマジャクシである。ではあるが、その大きさは、ウシガエルのオタマジャクシの何倍も多い。加えてオタマジャクシは水生であるのに対し、眼の前の生物は手足こそないがどう見ても陸生。しかし魔理沙もアリスも、今までこのような生物は見たこともない。それこそ、妖怪も含めて。

 

「新手の妖怪か何かか?」

「さあって魔理沙、危ないわよ!?」

 

 アリスの制止も聞かず、魔理沙は謎の生物へと無警戒に近づいて行く。

 

「魔理沙っ!」

「っ!」

 

 ルドガーが鋭い声で魔理沙を制す。その声の大きさに、魔理沙だけでなくアリスも身を飛び上がらせるほどに驚いた。

 

「……何だよ。ルドガーまでそんな大袈裟な――」

「違う! そいつは――」

「キュアアアアアアアアアア!!!!」

「「「!!!」」」

 

 ルドガーの声を遮り、オタマジャクシ(?) は耳を劈かんばかりの奇声を放つ。周りの枝葉すら騒めきかねない、その何とも言えない不快な声に、アリスと魔理沙は反射的に自分の耳を塞いだ。

 

「キュアアア!」

 

 硬直して動けなくなった魔理沙に向かってオタマジャクシモドキは尻尾を身体に巻き付けるように丸まり、魔理沙に向かって突進してきた。

 

「魔理沙っ!」

 

 いち早く反応したルドガーが、魔理沙に向かって走り出す。が――

 

 

――ビッ――

 

 

「くっ!」

 

 ルドガーのすぐ横の茂みから伸びてきた『何か』によって遮られてしまう。その茂みから、今度は水色のカエルの様な生物が現れる。

 

「っ!」

 

 そうこうしている内に、オタマジャクシモドキが、魔理沙に迫る。魔理沙も回避は間に合わないと覚悟し、眼を閉じた。

 

「……?」

 

 しかし魔理沙の予想とは反し、何の衝撃も襲ってこない。魔理沙が恐る恐る瞼を開けると、

 

「……ッ!」

「……」

「……」

 

 オタマジャクシモドキと鍔迫り合いをする二体の人形の姿が眼に映る。

 

「お前ら、アリスの……」

「魔理沙、ボサッとしてないで早くこっちに来る!」

「っ!」

 

 アリスの叱咤にハッとした魔理沙は急いで後退。そのままルドガーから少し離れた位置に移動していたアリスと合流する。

 

「何なんだよアイツは?」

「私は知らないわよ。知っているのは……」

 

 アリスがルドガーに視線を送ると、ルドガーも丁度カエルモドキの攻撃を避けアリス達と合流。

 

「ルドガー。アイツ等一体何なんだ?」

「……アイツ等は、『魔物』だ」

「魔物って、ルドガーの世界に居たって言う?」

 

 ルドガーは黙って一度頷いた。魔物はルドガーの世界に居た、幻想郷で言う妖怪に近い存在だ。容姿は動物が大型化したモノから化け物じみたモノ、性格も凶暴なモノから比較的大人しいものまで様々。妖怪と違い人間型はおらず、また知能も妖怪ほど高くはない。しかしその身体能力の高さは妖怪に引けを取らない。

 

「何だってそんなのがここに居るんだよ!?」

「私が知るわけないでしょう?」

「残念だが、俺にも分からない」

 

 三人が言い合っている内に、周囲を囲まれてしまった。魔物は2種類で計5体。魔理沙を襲ったオタマジャクシモドキこと『オタオタ』が3体と先程ルドガーを襲ったカエルモドキ『ゲコゲコ』が2体。どの個体も口から威嚇の唸りをあげて臨戦態勢万端である。

 

「……どうする?」

「どうするって、やるしかないでしょう」

 

 答えながらアリスが指を繰ると、先程オタオタの攻撃を防いだ2体の人形、青いドレスを着た金髪眼の上海人形と、上海人形と色違いの赤いドレスを着た金髪緑眼の蓬莱人形がアリスを護る様に其々の獲物(上海人形が槍で蓬莱人形が大剣)を構えて浮遊する。

 

「ヤレヤレだぜ……」

 

 魔理沙も嫌々ながら、懐から中央に大極図が描かれ、その周りに八卦の図柄が描かれた八角形の手のひらサイズの炉『ミニ八卦炉』を取り出し、魔物の群れに向かって腕を突き出す様に構える。

 

「油断するなよ」

 

 ルドガーも愛用の双剣を逆手に構え態勢を低くとる。

 

「「「キュアアアアアアアア!!」」」

 

 3体のオタオタの奇妙な合唱が合図となり、両者が其々敵へと突進していく。

 

『……始まったわね』

 

 それをそこではないどこか別の『空間』から観察するモノがいることに気づかず、ルドガーたちの闘いは始まった。

 

 




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