第五話 黒幕
「この異変の『元凶』です」
妖怪の賢者、八雲紫が放った一言は、その場を一瞬で凍り付かせるには十分な威力と重みを孕んでいた。冗談であってほしい。霊夢は心からそう思いながら紫の表情を覗き見るが、紫は奥義で口元を隠したまま霊夢をジッと見ていた。
「……冗談、じゃないようね」
「ええ。残念ながらね」
しかしその眼に揶いの感情は感じられない。霊夢もそれを察し、少し落胆する。紫はそんな下らない冗談を言う性格ではないことは霊夢が一番理解している。
「まさか、アンタを退治する日が来るなんてね……」
紫を睨みつつ、霊夢は懐から数枚の札を取り出す。
「あらあら。気が早くってよ?」
「っ!」
紫がスッと扇を翻すと、霊夢の手の当たりにスキマが開いた。霊夢は反射的に手を引くが、その手に先程握っていた札はない。
「もう少しお待ちなさいな。時期に役者が揃うわ」
「役者?」
霊夢が訝しげに眉を顰めると――
「霊夢さーん!」
神社の鳥居の向こうから霊夢を呼ぶ声がした。霊夢たちがそちらを振り返ると、此方に向かって空を飛んでくる人影が3つ。
「霊夢さん! 大変なんですよ! 弾幕の効かない妖怪が沢山出てきて!」
「早苗の所も?」
早苗と呼ばれた、緑の髪に蛙のヘアピンと蛇の髪飾りを付け霊夢と色違いの青い巫女服を着た少女は、着地早々霊夢に詰め寄りながらそう捲し立てた。
「落ち着きなさい。被害にあったのは貴女の所だけじゃないのよ?」
その後ろからメイド服に身を包んだ銀髪の少女が歩いてくる。
「紫様と……見慣れない方がいますね。やはり外来人関係でしょうか?」
メイド服の少女の少し後ろから、銀髪で緑色の衣服、背中と腰に大小二振りの刀を差した少女がついて来ている。
「……揃いましたね」
「役者って、早苗たちのこと?」
紫の言っていた残りの役者とは、今来た少女たちのようだ。
「ええ。霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗、そしてルドガーさん。貴方達には全員で協力して今回の異変を解決してもらいます」
「そこの外来人の方も、ですか?」
二刀流の少女、魂魄妖夢が紫の言葉に首を傾げる。霊夢や魔理沙達と異変を解決したことは何度かあるが、今初めて見た外来人も一緒だと言うのはなかった。
「それより、そのルドガーって人の事を紹介してくれないかしら?」
メイド服の少女、十六夜咲夜が少し苛立ったように紫とルドガーを交互に睨む。ルドガーは咲夜に睨まれてたじろいでしまったが、紫は飄々とした表情を崩さない。
「ええ。勿論ですわ。ではルドガーさん、自己紹介をお願いします」
「あ、ああ……」
紫に促され、ルドガーは魔理沙とアリスの時と同じような内容で自己紹介をする。
「それで、君たちは?」
「私は東風谷早苗と申します。守矢神社の巫女兼『現人神』です」
現人神(あらひとがみ)とは、『この世に人の姿で現れた神』若しくは『人であると同時に神でもある存在』の事を指す。つまり早苗は祀る側でもあり祀られる側でもある。
「魂魄妖夢です。白玉楼で庭師兼剣術指南役を仰せつかっています」
妖夢はぺこりとルドガーに向けて丁寧に頭を下げる。それにつられてルドガーも「あ、どうも」と頭を下げる程だ。
「十六夜咲夜。紅魔館でレミリアお嬢様のメイド長をしているわ」
レミリアは魔理沙の話に出てきた吸血鬼の名前だと、ルドガーは思い出した。
「では自己紹介も済みましたし、そろそろ本題に――」
「――ちょっと待った!」
紫が本題に入ろうとした時、待ったをかける声が。全員が声のした方を向くと、そこには金髪の少女がこちらに向かって歩いて来るところだった
「アリス! 無事だったのか!」
「ええ。久々だったから感覚を取り戻すのに時間がかかったけど、何とか勝てたわ」
歩いて来るアリスの身体は擦り傷程度の負傷はあるものの、目立った外傷は見受けられなかった。
「で、私も聞く権利はあるわよね?」
「ええ。勿論ですわ。寧ろ都合が良いくらいね」
キッと睨むアリスにも、紫は優美な微笑をしたまま。だがアリスも紫の性格を熟知しているのか、それだけで何も言わなかった。
「では説明の前に、霊夢たちはスペルカードを1枚出してくれるかしら?」
「スペカ?」
「何の為に?」
疑問に思いながらも、紫に「説明の為です」と言われて、全員渋々カードを取り出す。紫はそれを確認すると満足げに頷き、
「それでは……ボッシュートになります♪」
指を弾いた途端、皆が持っていたカードが弾けて消えた。
「な……!?」
「げ!?」
「は?」
「え?」
「ええ!?」
「……」
突然のカードの消失に、全員驚きを隠せない。ただ、霊夢とアリスは何か別のモノも感じ取ったようだ。
「おい! 何してくれんだ!?」
「これじゃまともに戦えないじゃないですか!」
紫の行動に抗議する魔理沙と早苗。今まで使ってきた武器をいきなり消されたのだ。文句の一つも言いたくなるだろう。
「二人とも落ち着いなさいな」
「消した本人が何言ってやがる!」
「けど、これからは必要ないわよ?」
「……やっぱりね」
「そう言う事、ね」
紫の何気ない一言で、霊夢とアリスの予感が確信になる。
「どういう事?」
「貴方達、魔物が出たからここに来たのよね?」
「はい」
「なら話は早いわ。この異変は魔物を退治することが解決なのよ」
そうよね? とアリスが紫に確認を取る。
「流石アリス。話が早くて助かるわ」
「そりゃどうも」
「けど、それだと正解は半分なのよ」
アリスに受け答えしながら、紫は視線をルドガーに向ける。
「時にルドガーさん。こちらに来てから身体が動かし難かったりしませんでしたか? 特に『戦闘中』に」
「!?」
ルドガーの反応に、紫はニッコリと微笑む。
「それが異変と何か関係あるの?」
「大有りですよ。何せ、ルドガーさんが異変解決の『鍵』ですから」
「鍵……」
自分が鍵という異変。ルドガーの脳裏には一人の少女の姿が浮かぶ。
「ええ。ですから、ルドガーには『万全の状態』で異変に挑んでもらわないといけません」
「それは分かったから、早く内容を説明しなさい」
苛立ちを隠そうともせずに急かす霊夢。紫はそんな霊夢にすら微笑みで返す。
「皆さんにはあるモノを破壊してもらいます」
「あるモノ?」
「これです」
紫はスキマの中からソレを取り出した。歯車が無数に絡み合った、時計の内部の様なソレを。
「『時間因子(タイムファクター)』!?」
ソレを見た瞬間、ルドガーは叫ばずにはいられなかった。紫の取り出したソレは、ルドガーが今まで幾度となく破壊してきたものだったから。
「そう。これは時間因子、その劣化版。『時限因子(ピリオドファクター)』とでも呼びましょうか」
「で、何なのですか?」
早苗が不思議そうに時限因子を見ながら尋ねる。
「時間因子は、分史世界を創るもの、だったかしら?」
「ああ……」
ルドガーから聞いた話を思い出す様に確認するアリス。しかしルドガーは時限因子を食い入る様に睨みつけ、どこか上の空だ。
「その通りですわ」
「つまり、それも分史世界を創れるってのか?」
「ええ。触媒が必要ですが」
「触媒?」
ルドガーの世界では、時間因子がマナを媒介にして分史世界を形成していた。しかし、幻想郷にマナはない。
「この時限因子に触れたモノ。そのモノの心に触れて、時限因子は分史世界を創ります」
心にはそのモノの記憶や強い情念が宿っている。時限因子はそれを読み取り、分史世界を創りだす。
「じゃあ、ソレを壊すって事は……」
「ええ。世界を壊してもらいます」
恐る恐る紫の言葉を半数する妖夢に、紫はアッサリとにべもなく肯定。他の面々もギョッとしている。咲夜、アリスとルドガーを除いて。
「……世界を壊すだなんて。質の悪い解決方法ね」
「何だか後味が悪くなりそうですね」
普段から理不尽に妖怪を退治している二人の台詞とは思えないが、世界を壊すのを躊躇しないほど大人びてはいないようだ。
「あら? 二人とも意外と甘いのね」
「本当ね。どうせこちらの世界とは関係ないんだから割り切ればいいのに」
咲夜がそう言った時、紫が「はたして割り切れるかしら?」と呟いたのは誰の耳にも届かなかった。
「まあ、いいわ。で、ソレを壊せばいいのよね?」
「そうです。ただし、貴女達にこれを破壊することは不可能です」
「はあ!? ならどうやって壊すんだよ?」
「……」
壊せと言うのに壊せないと言う紫。魔理沙でなくとも怒るのは必然。そして紫の視線は、再びルドガーへ。
「ルドガーさんに壊してもらいます」
「ルドガーに?」
「あ、そうか! 『クルスニクの力』か!」
「やっと思い出したの?」
確かに元の世界で分史世界を破壊してきたルドガーになら可能だろう。しかし――
「今の俺には――」
「コレの事でしょうか?」
無理だ、と言いかけたルドガーに、紫がスキマから取り出したモノを見せる。
「っ!! その時計は!」
紫が取り出したのは傷だらけの銀時計。ルドガーが今一番取り戻したかったモノ。
「お返しします。もう用事は済みましたので」
紫はスキマを通してルドガーに時計を渡す。
「何で貴女がルドガーの時計を?」
「時限因子を創るのに必然でしたので」
「おいおい。マジで何が目的なんだよ?」
異変を起こす為にルドガーをわざわざ呼び寄せ、時計から時限因子を創り、あまつさえその異変解決にルドガーを駆り出す。魔理沙には紫の意図が全く読めなかった。
「幻想郷の為。私の行動理念の根源は常にそこです」
「その為に異変を起こす? 矛盾もいいとかだわ」
「そうかしら? より良くする為に一度壊す場合もあると思いますが?」
紫の言う事も一理ある。それは分かっているが、やはり霊夢としては納得のいくものではなかった。当然、霊夢以外の面々にも言えることだが。
「だからって今回はやり過ぎです! スペルカードだって使えないですし」
「そもそも、何で魔物にはスペルカードや弾幕が効かないのよ?」
スペルカードが使えなくなった事を憤慨する妖夢。そんな妖夢を横目に、咲夜は抱いていた疑問を紫にぶつける。
「それは簡単なことですわ。魔物はスペルカードルールも弾幕ごっこも理解していませんもの?」
「どういう事?」
咲夜の疑問に何を今更、と言う感じに答える紫。しかし咲夜は今一ピンと来ていないようだ。
「スペルカードルールはね。一種の結界なのよ。『宣言』と『承諾』を『印』として、その場に結界を張るの。結界の効力は貴女達が今まで経験した通り、人と妖怪の差をなくすことよ」
「宣言と承諾で印なんて結べるのか?」
「あら、魔理沙。気づかないの?」
「あん?」
「『言霊』よ」
魔理沙の代わりに、アリスが答える。紫はアリスの答えを聞いて満足そうに頷いた。
「そう。言霊。詠唱による魔法の発動も、呪詛による呪術も、経や祝詞も、全ては言霊の為せるもの。スペルカードもそれと同じ。けどスペルカードは一人では印を結べない。宣言を承諾してくれる『相手』が居ることで、初めて効力を発揮する」
「じゃあ、魔物にスペルカードや弾幕が効かなかったのは……」
「魔物がスペルカードルールを理解していなかったから。いいえ。そもそも発動してすらいなかった。」
スペルカードが宣言と承諾によって発動するモノなら、承諾を得られない魔物相手では結界が不完全。弾幕こそ撃てるものの、それが魔物に届くことはない。
「だから、スペルカードを消したのか」
「その事なんだけど、別に消されたわけじゃなさそうよ?」
アリスが待ったをかける。
「どういうことですか?」
「私も気になるぜ」
「なら二人とも、スペルカードを使う要領で魔力か霊力を練ってみなさい。適当にカードを意識しながらね」
アリスに言われた通りに、魔理沙は魔力を、妖夢は霊力を練り上げる。
「お?」
「あれ?」
すると、二人は自分達の胸の奥でカードに力が宿っていくのを感じた。
「分かった? スペルカードは消されたんじゃなくて、私達の『中』に封印されたのよ」
「へえ。けど、これどうやって使うんだ? これじゃ取り出せないぞ?」
「その点も大丈夫ですわ」
紫は「皆様これをどうぞ」と言うと、スキマから全員に一つの球を渡す。闇の様に深い黒いその宝珠は、よく見ると中に七色の結晶の様なモノが入っていた。
「アローサルオーブッ!!」
「これはその紛い物。『エレメンタルオーブ』とでも名付けましょうか」
紫の差し出したオーブは、またもやルドガーの世界のモノを模した物だった。
「効果はルドガーさんの持っていたアローサルオーブと基本的に同じ。身体能力の向上と魔力や霊力の属性変化です」
「それはいいわ。で、どうやってこれでカードの封印を解くのよ?」
勿体ぶって言う紫を咲夜が急かす。
「このオーブにエネルギーを溜めれば、自然と封印は解けます。ただし、発動には条件がいりますが」
「エネルギー?」
「条件?」
首を傾げる早苗と妖夢。紫はその疑問も織り込み済みなのかスラスラと説明を続ける。
「エネルギーに関しては、『気』と理解してくれたらいいですわ」
「気……霊力や妖力でもいいのかしら?」
「勿論。気の溜め方は、普段通り過ごしているだけでも少しずつ溜まっていきますが、相手を斃す方が効率はいいです」
「斃すだけでいいの? 魔物以外でも?」
「ええ。最低限気絶させることが出来ればいいです。勿論、魔物、人、妖怪問わず」
アローサルオーブは自然界に存在するエレメンタルコアや魔物を斃して得られるエネルギーを糧にして成長していく。このエレメンタルオーブも基本的にこの方針に則って造られているのだろう。
「それと発動の条件ですが、このエレメンタルオーブには、戦闘中に持ち主の闘気が溜まるようになっていて、それを爆発させ一種のトランス状態、便宜的にオーバーリミッツとしときましょう、になれば発動できるようになります」
「タイミングは?」
「オーブが紅く輝いた時が溜まりきった時です。あとは頭の中で気が爆発するイメージを起こせばいいわ。ただし、オーバーリミッツ中に発動できるスペルカードは1枚までです。複数発動したい時はその都度オーバーリミッツ状態になる必要があります」
「面倒臭いわね……」
普段より複雑化したスペルカードの発動条件に、霊夢は心底辟易しているようだ。
「仕組みは分かったわ。で、それどうやって創ったの?」
「……そういやそうだな。どうやってルドガーの世界の情報をそんなに得たんだ?」
アリスと魔理沙はルドガーから直接話を聞いていたので大体の情報は得ている。しかし時間因子やアローサルオーブの詳しい情報は得ていない。何故紫はその情報を得ているのか。
「彼方の方に『聞いた』と言うのもありますが、多くはルドガーさん自身から『得ました』」
「得たって……まさか、アンタ」
「はい。ルドガーさんを此方に引き込む際に情報を読み取らせて頂きました。彼方の方の情報では根源は分かりますが具体的な運用法等は分からず仕舞いでしたから」
紫は悪びる様子もなく、淡々と、寧ろ少し楽しげに話している。
「また人の記憶を勝手に……」
「それも仕方ないことですわ。でないとルドガーさんを此方に呼び寄せられませんでしたから」
『???』
「まあ、この話はいいでしょう。それと、ルドガーさんの身体の調子が悪かったのはその影響です」
ルドガーはこの一言で属性技である蒼波刃や紅蓮翔舞はまだしも、体術である鳴き時雨や一迅までもがアローサルオーブなしで使用できなかった理由が分かった。
「けどそれも自然と回復しますので心配はいりませんよ。簡単に言えば、風邪の後の気怠さが残っているような感じですから」
「そんな単純なのか?」
紫の簡素な例えに、魔理沙が嘆息する。
「難しく言えば、『理(ことわり)の適応』ですね」
「いや、飛躍しすぎだろ」
一転して複雑さを孕む単語に、魔理沙がすかさず手を横に振る。確かに、風邪と理とでは飛躍どころか次元が違う。
「けど、理を適応させる必要があったの?」
「ええ。いくら似たような世界とはいえ、根源が違いますもの。思わぬ事態を招きかねません。『おかき』と『あられ』は似たようなお菓子だけど、おかきはあられではないですから」
『???』
この紫の分かりにくい例えは、誰にも理解されなかった。
「まあ、それは今はいいわ。そうそう。そのオーブの効果で、皆さんもルドガーさんの世界の術技を使用できるようになります」
「お、マジか?そりゃありがたいな」
「でもどうやって使うんですか?」
知らない魔法が使えると知ってはしゃぐ魔理沙だが、妖夢の言う通り、使い方を知らなければ宝の持ち腐れである。
「使い方はオーブが教えてくれます。直接脳内に」
「何かグロいわね」
擬似的とは言え脳に直接介入してくるわけだからアリスが眉をしかめるのも仕方ない。
「それと、オーブを持つモノ同士が共鳴(リンク)し合うと合体技が出せるようになるから、興味があれば試してみるといいわ」
これもルドガーの世界で『共鳴術技(リンクアーツ)』と呼ばれるものだ。共鳴の仕方は感覚で掴めと紫は言う。
「共鳴術技も含めて、使える術技は沢山あるので、自分の好きなモノを『選択』して下さいね」
選択。紫が言った何気ない言葉。それ以上の意味もそれ以下の含みもないが、ルドガーには別の意味に聞こえた。
「ルドガーさん」
そんなルドガーの心情を察してか、紫がルドガーに声をかける。
「こたびの異変を起こした私が言うのも何ですが、貴方には『選択肢』があります」
「選択肢……」
「はい。貴方が望むなら、私の能力で貴方を元の世界へ還す事も可能です」
「ちょっと!そんな事したら異変はどうなるのよ!」
紫の突然の申し出に、霊夢が声を荒げる。霊夢だけでなく、咲夜、妖夢、早苗も眼を見開いている。
「その時は、ルドガーさんの力の一部を皆さんにお貸しします」
「なんだ、ちゃんと考えているんですね」
「安心しました」
ホッと一息吐く早苗と妖夢。しかし他の面々にはある懸念が拭えずにいた。
『何故最初からそうしなかった?』
「どうさますか?ルドガーさん?」
「……」
紫に再度尋ねられ、ルドガーは霊夢を、咲夜を、妖夢を、早苗を、アリスを魔理沙を、紫を一通り見渡し、最後にその手にギュッと握り締めた時計を見つめる。
「……やるよ」
顔をあげたルドガーは、覚悟を決めた顔で、決意した声で、ハッキリと答えた。
「やるよ。それが俺には与えられた選択肢なら、俺は皆の為に戦う道を選ぶ」
「よろしいのですか?魔理沙やアリスには、助けられた恩があるとは思いますが、他は私を含め初対面の赤の他人。それ以前にこの世界は貴方には何ら関係のない世界。それでも、貴方は戦う道を選ぶのですか?」
「ああ。もう、決めたんだ」
「そうですか」
眼を臥せた紫はルドガーの前で来ると、彼に向かって頭を垂らす。
「私が言うのも烏滸がましい事ではありますが、幻想郷の為協力して頂き、心より感謝を申し上げます」
「い、いや。……それ以前に、俺は貴女が幻想郷に連れて来てくれなかったら、こうして話す事も、歩く事もできなかったんだ。俺の方こそ、貴女に感謝したい」
「そうおっしゃって頂けてありがたいですわ」
紫はルドガーに微笑むと、彼から離れ、全員から一定の距離を取るまでまで移動した。
「それでは皆様。貴方達が私の異変を無事に解決してくれる事を願います」
紫はそう言うと足元にスキマを開き、沈んでいく。
「あ、そうそう言い忘れていました。今回の異変でスペルカードを封印されたのは幻想郷の住民『全員』ですので注意して下さいね」
『え!?』
ではご機嫌よう。と紫は最後に爆弾を投下してスキマに消えた。
「……どうします?」
紫が消えてから数刻。最初に口を開いたのは妖夢。その声は不安を隠し切れず少し震えていた。
「どうするもこうするも。起こったものは仕方ないだろ」
「そうね。私はお嬢様にこの事を伝えないと」
「私も神奈子様と諏訪子様に相談しないと」
「と言うか、幽々子は紫と仲いいんだからお前何か聞いてないのかよ?」
「それが幽々子様も今回の事は一切知らされていないようで……」
「何だよ。使えねぇなあ」
「使えないって……」
妖夢達があーだ、こーだと言っている間、霊夢、アリス、ルドガーは今後については話し合っていた。
「それで、実際問題どうする?」
「先ずはオーブにエネルギーを溜める事ね。スペルカードも術技も使えない状態だと分史世界に挑んでも何もできないわ。分史世界が出来たらGPSに情報が来るみたいだし、そっちの心配はしなくても良さそうね」
「ああ。それに魔物との戦いに慣れておく必要もあるな」
「ならやっぱり特訓かしらね」
「そうね。一先ずはそれでいいかしらね」
紫は時限因子を撒くまでに時間を置くと言っていた。ならその間、各自で身体を鍛え、戦いに備えておいた方が良いだろう。
「なら萃香か華仙あたりにでも付き合ってもらいましょうか。……面倒だけど」
萃香はともかく、修行と説教好きな(自称)仙人の相手は大変だ。と霊夢は陰欝な溜め息を吐く。
「私は魔理沙を特訓させるけど、ルドガーどうする?」
「人里に行くよ。いつまでもアリスの家に厄介になるわけにもいかないからな」
「あら。別に気にしなくてもいいのに」
「男のプライドってやつでしょ?よく知らないけど」
霊夢の問いを苦笑いではぐらかしつつ、ルドガーは心の仲で、
(腹は括った。あとは、進むだけだ)
と自分の決意を再確認する。
彼の『選択』は、彼等の未来に如何なる道を照らすのか――
(エル、ミラ、兄さん、皆。俺は……)
それは、神すら知らぬ業(カルマ)。
さて……次からどうしよう。もしかしたらアンケートを募集するかもしれません。その時は活動報告に乗せます。
ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。