八雲紫のおっぱいを揉ませてもらうために土下座する話   作:織葉 黎旺

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八雲紫のふとももに埋まるために土下寝する話

「お願いします!!」

 

 平身低頭。文字通りその姿勢で、俺は叫ぶ。対して相手の女性は、呆れ返ったように深く嘆息した。

 

「頭を上げてくださいな。そのままじゃ話しづらいでしょう」

 

「いえ、結構です!!」

 

「遠慮しないで。ものを頼むときの態度だとか礼節だとかは、私たちの間には不要よ?」

 

「いえ、この姿勢じゃなきゃいけないんです! この姿勢のままじゃなければいけないんです!!」

 

 深く息を吸う。空気が変わったのを察してか、紫さんがごくりと唾を飲む音が聞こえた。

 

「お願いします!! 俺の頭を太ももで挟んでください!!!」

 

「…………は?」

 

 フリーズ。返答は一向に返ってこない。これはもしや聞こえていなかったのかな、もしくは姿勢が間違ってたのかな、という結論に至り、地面に伏して再び叫ぶ。

 

「お願いします!!! 俺の頭を、御御足で挟んでくださいませ!!!!」

 

「お、お断りしますわ!」

 

 後頭部に痛み。否、コンマ数秒ごとに強まっていくこの負荷、それに前頭部と後頭部に間を空けてかかる曲線と真円の感触。間違いない、俺は今ヒールで踏まれている。しかしこのままだと頭蓋骨が陥没してしまうので、大きく横転して立ち上がった。そして再び頭を下げた。

 

「お願いします、太ももに埋めてください!」

 

「……意味がわからないわ」

 

 ちらりと視線を上げる。紫の目は過去一番と言っていいほどレベルの冷ややかさを誇っていた。口元は扇子で隠し、その妖怪じみた眼力だけを俺に向けてくる。見定めるような見下すような、侮蔑するような軽蔑するような目。返答を誤れば殺す、と訴えているようにも感じた。

 

「意味はわかるでしょう。俺が紫さんの太ももに魅力を感じていたということです」

 

「それはわかるわ。だとしても、それを本人に堂々と提案してくるのは常識を逸脱した行為ではなくて?」

 

「はい、そこでこちらを用意致しましたー」

 

「……は?」

 

 指を鳴らす。暗くなる室内。前面のモニターに、事前に作成しておいたパワー〇イントの内容が映し出される。タイトルは「八雲紫の太ももに付随する魅力、またそれに挟まれることにより生じるメリットについて」。

 

「えー、それではまず八雲紫氏の太ももに付随する魅力についてご説明致したいと思います」

 

 取り出した伊達眼鏡をくいっと上げる。紫が微妙な顔をした。

 

「①八雲紫の太腿は普段、ドレスや導師服の面積によって隠されています。しかしその裏側に、程よい筋肉と脂肪で覆われた、プロポーション抜群の曲線美といって差し支えない太ももがあるのは俺知の事実

 ②更にいえばその服の裏側であっても、白タイツにより覆われている。つまり蒸れ」

 

「蒸れないわよ、汗かかないから! 妖怪だし!」

 

「えー」

 

「残念そうな顔しないで、それしたいの私だから」

 

 心底疲れた顔をする紫を見て、これはどうにか俺が癒してあげなければと使命感に駆られる。そのための次のパワポである。

 

「それでは八雲紫の太ももに挟まれるメリットについて説明します。①俺がめちゃくちゃ気持ちいい!!」

 

「………………」

 

 控えめに言って死ねばいいのにみたいな表情だった。

 

「②他人との肉体的接触やボディタッチでストレスが和らぎ、幸せ物質であるオキシトシンが分泌され、多幸感や満足感を得られるのは科学的に実証されている事実です。そして日々のストレスに咽び泣く我々がそれを行うのはいわば医療行為です。治療の一貫です。だからさあ! 今こそ!!」

 

「今こそ! じゃないわよ!」

 

 妖怪の賢者による貴重なノリツッコミ、そしてチョップを受けた。痛かった。

 

「そもそも、軽度のスキンシップでもいいのだから太ももで挟む必要はないでしょう?」

 

「え、じゃあハグですか!?」

 

「変なところに抱きつかれそうだからお断りしますわ」

 

 にっこりとした胡散臭い笑顔。変なところってどこだろうか、皆目見当もつかない。

 

「それなら……手を繋いでもらってもいいですか?」

 

「そのくらいなら、まあ」

 

 接地面積は広い方がいいはずなので、指は絡める。ドキドキする。折角モニターがあるので映画でも見ましょうか、と提案してみる。体の奥がバクバクする。

 

「何を見ようか?」

 

「貴方にお任せするわ」

 

 迷ったら恥だと思って適当に選んだ。上映が始まる、指先の温もりが気になって、内容なんて微塵も頭に入ってこない。小っ恥ずかしくて、隣なんて向けやしない。でも、この映画が終わらなきゃいいのにな、なんて少しだけ思う昼下がりだった。

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