八雲紫のおっぱいを揉ませてもらうために土下座する話 作:織葉 黎旺
「お願いがあります」
それまでの楽な姿勢と、声音を正しての一言。談笑していた彼女も雰囲気が変わったのを察してか、「何かしら」と、真面目な顔つきで返す。
「……いただきたいんです」
「?」
「紫さんの帽子を、いただきたいんです」
「少々お待ちくださいな」
少しだけ訝しげな表情をした紫は、スキマの中に手を突っ込む。そこから引っ張り出した、大きな赤いリボンのついた帽子を、俺の方に投げた。
「これでいいかしら?」
「………………ち」
「?」
「ちがーーーーーーーーーーう!!!!」
帽子を優しく抱えて、必死に叫ぶ。何が違うんだ、と言わんばかりの眼をして、紫はこちらを睨んだ。なのでそのまま答えることにする。
「確かにそれは紫さんの帽子でしょう。何日かのサイクルで被り回す、貴女のお気に入りの帽子だ。でも俺が今求めているのはそれじゃない。貴女が今身に着けている帽子そのものだ。紫自身の生の証だ」
また始まった。そう語らんばかりの怪訝な顔で、紫は嘆息した。そこに胡散臭さは欠片もない。心底からの呆れが見える。が、そんなことは知ったことではない。最早相槌を打つのも億劫そうな紫に対し、畳みかけるように俺は言葉を放つ。
「洗濯されたピカピカのものなんていらない。洗練された宝石が、貴婦人の胸元でこそ輝くように、紫の帽子は、紫の頭上にあるからこそ魅力的なんだ」
「それなら渡したら意味がなくなるんじゃないかしら?」
「黙らっしゃい! 三秒ルール的なアレでセーフなんですよ! 紫さんが一度被った後なら永続的に魅力的なの!」
はあ、と一息吐く。ヒートアップし過ぎたので喉を痛めた。紅葉の山の中、綺麗な景色に勝るとも劣らない優雅さで歩く紫から目を逸らし、咳払いした。
「活動時間が違うし、種族が違うし、お互いそこそこ忙しいし、いつもいつでも会えるわけじゃないじゃん。だからほら、会えなくても繋がりを感じたいというか何というか……ああもう! とにかく帽子ください!」
「はい」
ぽふっ、と頭に柔らかいものが被さった。目の前の彼女は、夕陽に当てられたロングブロンドを煌めかせ、いつも通り胡散臭く笑う。
「似合わないわね」
「うるせえ」
そりゃそうだ。この帽子は、貴女が被るからこそ似合うんだ。ぽんぽんと頭を撫でられたのが悔しくて、恥ずかしくて、でもちょっとだけ嬉しくて、照れ隠しに帽子を深く被る。ついでに大きく息を吸う。シャンプーだろうか、旬の果実のような甘い香りがして、思わずクラりとした。原因は恐らく、頬を林檎にした紫の、頭頂部へのチョップだった。