八雲紫のおっぱいを揉ませてもらうために土下座する話 作:織葉 黎旺
「お願いします」
頭を下げると、長年の経験からか、彼女は大変嫌そうな顔をした。
「嫌ですわ」
口に出された。お願いする前に断られた。
「や、今日はマジで大丈夫です。安心してください、紫さんに害はないので」
「私の衣服を取られるのは、四肢をもがれるほどに苦しいことなのよ?」
「嘘泣きやめてください」
よよよ、と扇子で顔半分を覆っての泣き真似。うん、つまりそこまで不機嫌じゃないな。あと、人を追い剥ぎみたいに言うのはやめていただきたい。
「お願いします!」
斜め45度、キレイなお辞儀で、キレイな心で頼む。小さく咳払いした紫が「何かしら」と聞き返す。
「お願いします! その服の出処、教えてください!」
*
八雲紫の服装は、一年を通して大変珍しいものとなっている。まず、暖かくなってきた春から晩夏にかけてはドレス。このドレスというのも、サツマイモと見紛うほど鮮やかな紫に染め上げられた上、フリフリとリボンの散りばめられた少女趣味の、なかなか見ないものであり、それにナイトキャップみたいな例の帽子だとか白手袋白ニーハイソックスとか、組み合わせのセンスがまあ大変珍しい。新宿なんかを歩いた日には多分、十人が十人振り返って変って言う。溶け込めるのはハロウィンの渋谷程度である。しかも秋先にはデザイン変更して布地の面積を増やすし、リボンやフリルの量を増すし、それに応じて微妙に容姿を幼くする。なんだその拘りは。
秋から冬にかけての服も珍しい。中国の導師みたいな服装ってことはわかるけど、それにしてはドレスのフリフリの量がえぐいし、前掛けも何か違うデザインになってる気がするし、変なデザインの太極図が描かれてるし、何もわからん。なに? 洋風のドレスと中華風の導師服でバランス取ってるの? 太極図ってそういうことなの?
──閑話休題。
「つまり俺が何を言いたいのかといえば、その謎センスと謎デザインが羨ましくて堪らないので、同じようなものをくださいってことです」
「今の話を聞いたあとで差し上げると思う?」
笑顔から圧を感じる。つまり不機嫌のサインだ。
「何故ですか、俺はちゃんと気に入ってるんですよ! その意味不明なセンスを!」
「私も私のセンスが気に入ってるから真似されたくないのよ」
どうにもはぐらかされている気がする。
「なら、同じメーカーの別の商品を買うので販売元を教えてください」
「プライベートブランドへのオーダーメイドだから、それは難しいわね」
「……紫さん、その服いつから愛用してましたっけ?」
「結構前からかしら」
ここで俺の脳内コンピュータが電卓を叩き始める。既に数千年生きている大妖怪・八雲紫の基準でいえば、最近=ここ数十年、ちょっと前=数百年、結構前=千年くらい前、という方程式が成立するッ!
「中国で導師が多かった時代も恐らくそのくらい……ということは今! 点と点が繋がったッ! 紫さん、導師服をパクって自分で裁断しましたね!?」
「アレンジですわ」
パクリじゃなくてオマージュよ、とウィンクして続ける紫さん。なるほど、ならもう話が早い。
「お願いします! 俺に服を作ってください!!」
「お断りします」
普通に断られた。
「幻想郷の管理者に呉服屋の真似事をさせる気?」
「はい。最悪製作は委託でもいいので!」
「そういう問題じゃないのよね」
呆れるように言われると、なんだかムッとしてくる。俺はあんたにとって、自分の労力を割くに値しない存在なのか、と言いたくなってくるが、そりゃまあそうだろって感じだった。身銭を切れば変わるだろうか。委託するとしたらどこだろうか、やっぱり藍さんだろうか。
ん、とここで気づく。
「藍さんと紫さんの冬服、デザイン似てますよね」
「まあ、そうね」
「もしかして、あの服も紫さんがデザインしたんですか?」
「────ノーコメントよ」
これはもう間違いない、と思った。
「え────、ならいいじゃないですか! 絶対橙の服も考えたでしょ! そこまで来たら俺の服もほら! さあ!」
「はいはい、考えておくわ」
絶対考えてないでしょ、なんて返せば、はぐらかすように笑われた。そんな夕方の一幕だった。