八雲紫のおっぱいを揉ませてもらうために土下座する話 作:織葉 黎旺
「お願いします」
きっかり90度、身体を倒してお辞儀する。眼の前の彼女は訝しげに「貴方が改まるときはロクでもない話が来ると相場が決まっているのだけれど」と嘆息した。
「まあ聞きましょう。頭を上げなさいな」
「うん」
言われたとおりにそうする。少し肌寒くなってきたからと、ドレスではなく導師服に身を包んだ彼女が、縁側でお茶を啜っていた。まあ今回は大したことないし通るだろ、と軽い気持ちで叫ぶ。
「お願いします! 俺をスキマの中にしまってください!!」
「………………」
絶句、あるいは唖然といった表情。この表情は新パターンだな、と他人事のように思っていれば、ずずずと母屋の方に後退られた。
「え、どうしたの?」
「ちょっと近づかないでくださるかしら、その分離れなきゃいけなくなるから」
「それならほら、スキマの中に突っ込んでくれれば一石二鳥だよ。姿見えなくなるし俺嬉しいし、ほらウィンウィン」
「貴方の一人勝ちじゃない」
紫はそういって小首を傾げた。
「今日のは今までで一番意味がわからないのだけれど、一体どういうこと?」
「おや。北極星がナンタラカンタラに食われるまでの時間すら秒で計算できるという紫ちゃんにすら、わからないとは」
「狂人の思考は時として理解しがたいもの」
「はー仕方ない、ここはいっちょご教授いたしましょう」
「いえ、遠慮しておくわ」
「まあまあ、そう遠慮なさらず。これを聞いたらきっと、俺をスキマに入れたくなること間違いありませんよ?」
「幻想郷から弾き出したくなること間違いなしではなくて?」
俺はゴソゴソと、懐から漫画を取り出す。
「これ、『ぼのぼの』っていう漫画なんですけど」
「もう何も言わなくていいわ」
理解までが早い。どうやら紫さんのスパコン並の頭脳はもう答えを弾き出したらしいが、間違っていては
「この中に『しまっちゃうおじさん』ってキャラがいるじゃないですか。主人公のぼのぼのの妄想がネガティブな方向に進んでいったときに脳内に現れて、謎の洞窟の岩戸に押し込んでくるやつ」
『悪い子はどんどんしまっちゃおうね~』のかけごえとともに、涙を流すぼのぼのを暗闇の中に閉じ込めるところで毎回妄想は終わる。しまっちゃうおじさん自体のキャラクターデザインや声音には何も恐ろしいところがない故に、むしろその異常さというか、淡々とした恐怖が演出されている。でもそんなことはどうでもよくて。
「閉所に閉じ込めるって要は監禁じゃないですか。恐ろしいじゃないですか。だから思ったんですよ、スキマに監禁されたいなあ……って」
「理論が一気に三段くらい飛んだわね」
「ヤンデレ、燃えるじゃないですか」
「病んでるわよ、普通に」
貴方が。と大事な一文が足された。
「いやいや失礼な。俺だって暗い洞窟に一人閉じ込められるのは嫌っすよ。でもスキマなら紫さんの能力の中なワケで、まあつまるところ常に紫さんと共にいるような一体感と、包まれているような安心感が──」
「常人なら発狂したくなる空間なはずだけれど」
紫が宙をなぞれば、ジッパーが開くように空間が裂けていき、紫色の空間に繋がるとともにリボンで両端が止められた。スキマである。その内部ではギョロギョロと無数の大きな目が蠢いており、その中の一つと目が合ったのでゆっくりと瞬きをした。動物などに相対したときはこれで敵意がないことを伝えられるらしい。
「狂人だものね、貴方は」
「いやいやそんな強靭だなんて──図太いだけですよ」
「本当にそうですわ」
「どちらかといえば、紫さんにズブズブです」
「心の隙間には入らないでほしいわね」
彼女が呆れたように言う。それができないからこうしているということは、黙っておくことにした。