一応真面目に論じてはおりますが、一部曖昧な部分に目をつぶっての説なので、「ファンタジー論文」だと捉えて頂ければ、と思います。ご意見や、新しい資料があれば、是非お知らせ下さい。
今回の執筆に当たっては、HP『八極拳的収集資源』 (onetanmen)に大きく助けられました。また、『馬式通備八極について。』 姫賢(onetanmenと同一人物)にも貴重な示唆を頂きました。
「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。
八極拳の謎
八極拳の開祖と成立に関する一考察
八極拳の成立に関しては、種々の説がある。
曰く、
曰く、四川生まれの回族・
曰く、河南省焦作、岳山寺の僧・
曰く、孟村鎮生まれの回族・
などなど。
呉氏開門八極拳(以下呉氏とする)宗家の孟村呉家には、呉鐘は“
以上のように、八極拳の成立について色々な説が上がっているが、私は、やはり呉鐘が八極拳の開祖で、呉連枝老師が嫡伝の宗家であると考えている。
「
「孟村呉家に伝わる『老架子』が八極拳の原形である」
というものである。
その仮説に至った元となったのは、皮肉にも馬家
馬鳳図の弟である
馬鳳図―馬
現在、八極拳は種々な系統に分派しているが、対打にもなる八極拳(
ここで、比較検討のもう一つの素材として、
回族系(孟村老架)は、
漢族系(羅疃硬架)は、起式の後、両拳を伸ばし(作揖)、一歩踏み込んで馬歩頂肘を打つ。この動作的な相違は、馬家の物とも共通している。
作揖頂肘の動作は、
呉氏に伝わる最古の套路と言われる老架子は、羅疃硬架とほぼ同一の動作であり、現在の小架二路がその発展形である。しかし、呉氏には老架子の他にもう一つの古い套路が伝わっている。それが老小架である。老小架は、現在の小架一路に近い構成であり、作揖の後に撑拳を用うる。この動作は、馬令達系と強氏以外はほとんど用いられていない(
私は、小架の撑拳は、回族八極拳独自の技法である、と考えている。その理由は、漢族系の小架には撑拳が含まれない、という事実と共に、
湯瓶とは、穆斯林(ムスリン)(イスラム教徒―回教徒)の沐浴用具であり、回族武術では、その湯瓶を模した構えを湯瓶式と呼ぶ。湯瓶式は「
鄭州開封市の朱仙鎮に伝わる、回族の秘密拳法・湯瓶七式拳の伝承者、
その仮説は、
呉氏の套路、特に老小架は、呉氏独特の起式の後、両拳を伸ばし(作揖)、足を右、左と進め左前の四六歩となる。その時左拳を前に伸ばし、右拳を腰に安ずる(
確信とは、この無敵式と定陽針こそ、"湯瓶式"なのだ、という事である。
四六歩で構える無敵式が陰の湯瓶式「防御の形」、上歩して馬歩で打つ定陽針が陽の湯瓶式「攻撃の形」とすると、呉氏の「八極無形論」の陰陽変化にも合致する。
この構えこそ、八極拳が孟村呉家の拳である事の証明であり、回族の呉鐘が開門した教門武術である事の表示である。だからこそ、老小架は漢族には伝えず、湯瓶式の入っていない老架子(小架二路)を伝えたのであろう。
馬家は呉家とは遠戚で回族なので、湯瓶式を伝えられた。また強氏は漢族ではあるが、強瑞清が五世の
湯瓶式をもって回族呉氏開門八極拳の正統と見なせば、先の呉鐘以前の八極拳開祖説の脆弱性が見えて来る。
丁発祥を八極拳の開祖と考える人々は、黄絶道長(道士) - 丁発祥 -四川・張士成(懶披裟)・
癩魁元も、少林僧だったり、孟村に来て八極と六合槍を伝えた、或いは陜西省延安府城西北の梭羅寨で槍法のみを伝えた、と伝承に統一性が無い。
張四成は、四川生まれの回族。雍生五年(1727)、反清復明の志だった彼は、捕らえられぬよう僧に身なりを変えて都を去り、放浪した。袈裟を着ようとしたがらなかったので、「懶披裟和尚」(=袈裟を着ようとしない和尚)と呼ばれた、とあるが、回族だから袈裟を着けない僧、というのは何とも目立ち易く、また回族の村で僧形でいる事も、逆に目を引くもので、追手から姿を隠している、という事実と相反する行動であり、どうにも実在性に欠ける。
張岳山に至っては、師と拝した張岳山夫妻が還俗した少林僧だという理由で回教を棄て仏式で祀った、などと回族のアイデンティティさえ失う話しになっている。この説を支持しているのが、回族で、しかも呉家とは遠戚の馬家なのだから世の中判らない。
ここで最初の話題に戻ると、呉氏で最古の套路と言われる老架子には撑拳は入っていない。つまり、八極拳は呉鐘が手を入れる事によって初めて回族武術となった、という事である。
呉氏の拳譜に現れる"癩"や"癖"が如何なる人物であるかは判らない。反清復明の志士であったかも知れないが、それも明確には伝わっていない。ただ、"癩"や"癖"のもたらした「異術」が呉鐘の手によって『八極拳』として後世に残された。そして、
孟村呉氏開門八極拳七世宗家・呉連枝老師の功夫は高く、その実力は量り知れない。当に八極拳を体現した現代の達人である。
終
20181130
参考:
通備拳 馬鳳図 (回族 光緒十三1887~1973) 孟村呉世科の八極拳(回族系)、羅疃張景星の八極拳(漢族系)、塩山県
呉懋堂(馬鳳図の母方の祖父) 呉世科 馬鳳図(孟村老架)
伝馬令達
張克明 張景星 馬英図(羅疃硬架)
伝馬明達