それは唐突におとずれた。
テレビで流れていたバラエティ番組から一変、緊迫ただよう雰囲気の収録スタジオが映し出され、手元の即席で作り上げたであろう紙面を読み上げるアナウンサーの顔には恐怖や焦燥の色が見て取れ、これから伝える内容が尋常ではないものであることは火を見るより明らかな事態であった。
『──番組の途中ですが、緊急速報です!はぐくみ市○○町のほぼ全域へ、隕石群がおよそ一時間後に衝突するとの情報が政府より発表されました!当局は引き続き隕石群についての最新情報をお知らせするとともに、前番組を一時中断し、首相官邸での会見発表の模様を中継でお伝えしていきます。また、これから避難を始められる住民の方々は、慌てず、現場の警察官や自衛隊員の指示に従って安全且つ速やかな避難を行ってください。繰り返します、緊急速報です──」
無論、そんなアナウンサーの警告など虚しく、人々は我先と避難を始め、数十分後には主だった大道路は車列の渋滞を成し、怒号と車のクラクションが響いていた。
「ですからさっきも言ったとおり、Uターンは出来ません!このまま前の車に続いて頂かないと──」
「ふざけんな‼︎隕石が降ってくるって状況で渋滞なんざ待ってられるわけねーだろうが‼︎オレたちに死ねってのか⁉︎」
「途中からUターンなんて、周りはもう他の車で一杯ですし、到底出来ません!しばらくこのまま待っていればまたスムーズに進めるように──」
「そん時にゃ、もう手遅れに決まってるだろうが!いいからさっさと横の車にどくように伝えろ!」
各所のポイントでは現場へ駆けつけた警察官や自衛隊員が交通誘導を行い、混乱の一途をたどる状況を解消しようと懸命に動き回っていた。
一方、とある山道の中。
「ねぇ、ほんとにこの道で大丈夫なの⁉︎」
「間違いない!のびのび町への近道なんだ!車道じゃないが、道を選んでる暇はない!」
渋滞の道を避け、ひたすら山道を横断する一台の車に若い夫婦の姿があった。夫は自身の確かな記憶を辿りつつ額に汗を滲ませながら、ひたすら獣道を突き進んでいく。妻はそんな夫の姿を不安げに見つめながら、静かに彼の言葉を信じて視線を前へと戻した。
その後も道なき道を進むタイヤは砂利や泥を踏み越え、その度に車体を汚し、揺らし上げて二人の不安や焦りを煽るように募らせていく。しばらくそんな状態が続き、現在の状況を把握しようと妻が車のラジオを入れるが、
『──げん──じょ────ま──近づ────みな──しょう、げ、き──えて──』
「ダメ、電波が届きにくいみたい」
「クソッ、これじゃいつ来るかも分からない!」
と、二人がラジオの不調に気を取られた次の瞬間。
「きゃ──」
「
目の前に大きな黒い何かが落下し、その衝撃により二人を乗せた車は後方へ数十メートル程転がるように吹き飛ばされる。夫は妻の名前を呼びながら、彼女の身を守る為、咄嗟の判断で力一杯自分の胸に抱きしめることが出来た。
「……っ、ぐっ、大丈夫か?」
「っ、ええ……大した怪我じゃなかったわ」
奇跡的にどちらも頭の表面を少し切っただけの軽傷であったが、車はあちこちがひしゃげており、ドアも半端に潰れて開くに開けられず、逆さの状態でその動きを止めていた。おまけに窓の部分も大の大人が通るにはとても不可能なほどに曲がってしまい、二人は絶望の淵に立たされた。
「携帯は……くそ、圏外か」
「車からも出られないみたい……それにこの山の中じゃ助けも呼べないわ」
「せめて君だけでも生き延びられれば……」
「いいえ、そんなの願い下げよ。例え私だけが生き残れる状況であったとしても、私はあなたと一緒じゃなければ一歩も動かないわ。誓ったでしょう?健やかなる時も、病める時も……私はあなたと共に人生を歩みたいの。例え今日が最期の日でも、私はあなたと一緒に最期の時を迎えるつもりよ」
「由乃……」
二人が互いの最期を受け入れようとしていたその時、
車へ大きな音と振動が発生すると共に、夫側からのドアがまるで薄皮を剥くかのようにゆっくりと外され始めていた。
しかし、二人は救援を呼んだ覚えはない。ましてやこんな山道を人が通りかかるなど万一にもあり得なかった。しかし、ドアの端から覗かせるその手は確かに人間の手であり、一気にドアが外され、彼方へと投げ飛ばされた。
かくして、光の向こうからしゃがんで顔を覗かせたのは、生後2年にも満たないような赤ん坊であったのだ。敵意も善意もない純粋な瞳で二人を見つめている。
「あなた……この子は……」
「ああ……小さな英雄≪ヒーロー≫だ」
これが彼と二人の夫婦の出会いであった。これから彼らは、かけがえのない絆を築いていき、やがて小さな英雄は成長し、またかけがえのない者達との出会いが待ち受けているのだった。
久しぶりで疲れた。
驚くほど文才乏しくてつらひ。