俺は俺じゃなけりゃあ認めねぇ!さんはまあ、ご自由にどぞ。
あの災厄ともいえる隕石襲来から十数年。隕石の被害を受けた町は、今では『隕石の町』とよばれ、今もなお当時と変わらない惨状のまま立入禁止区域となり、政府の関係者以外は誰も近寄ることが出来ない。
そんな町からの移民者である僕の父さんと母さんはあの日、この『のびのび町』へと避難する道中、山道で一人だった幼い僕を見つけ、躊躇うことなく手を取って抱き上げ共にのびのび町へと避難したらしい。だが、僕が何故そこにいたのかという経緯については、二人とも分からないと同じ答えを返すのみだが、何かを意図的に隠していると最近になってそう感じ始めた。
しかし、それはまだ僕自身がまだ精神的に未熟だからということへの、両親の愛情による配慮であることも分かっている。だから、僕は二人がいずれ話してくれる日が来るのを気長に待つことにした。
「父さん、母さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう
「ご馳走さま」
「……絢飛。食事の時ぐらいゆっくり食べられないのか」
「そうよ。早食いなんて身体に悪いわ」
「今日は日直の用事があるから早く学校へ行かなきゃならないんだ。それに、僕は噛むのだって皆より"速い"んだ。もちろん消化もね」
呆れ顔で説得する二人へ、僕は悪戯が成功したような気分で笑顔を送る。いつもなら寧ろダラダラしていても、授業開始1分前ですらここから学校までゆとりを持って登校できる。無論、遅刻なんてしない。
──かといって、学校と家が近いというわけでもない。
「いいか、絢飛。"
「ああ、分かってるよ。小さい頃から父さんに嫌というほど釘を刺されてるんだから大丈夫さ」
「能力を使う時はよく考えなきゃだめよ?あなたのそれは確かに素晴らしいものだけれど、場合によっては取り返しのつかないことになりかねないんだから」
「母さんも心配しすぎだよ。僕は二人を見て育ってきたんだ、こんなに自慢の両親は他にはいないよ」
「ありがとう、嬉しいわ。それより時間は大丈夫なの?」
「そろそろ行くよ。じゃあ二人とも、いってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「ああ、くれぐれも──」
ヒュンッ
「──高速移動で登校なんか……」
父さんの警告を半ばに、僕は颯爽と玄関を飛び出して行く。
「……あいつは忘れる能力も早いのか?」
「まだ子供なのよ。能力を使いたい気持ちが抑えられないのね」
「ドアを突き破っていかないだけまだマシか……」
「さて、今日は日直であるとはいえ、まだまだ時間に余裕があるな。街の方によってみよう」
そう独り言を呟きながら再び高速移動で街の方へ向かって行く。
自分が他の人と違うことに気づいたのは5歳くらいの頃だった。
その日、僕は近所の顔馴染みの友人たちといつものように公園で遊んでいた。遊びの最後は毎回隠れ鬼でしめるのが通例で、鬼役を免れた僕はなるべく遠くの場所に隠れようと普段と変わらぬ意識で走り始めたのだが、走り始めてからすぐに周りの景色に異変が起きていることに気が付いた。
まず、僕以外の他の人の動作がとてつもなくゆっくりと、いや、ほとんど止まっているとすら錯覚してしまうほどの動きだった。最初は己の目が可笑しくなってしまったのかとその場で立ち止まってみると、今度は何事もなく普段どおりの速度で歩いており、歩行者の一人が立ち止まって凝視していた僕を怪訝な表情で横目ながらに過ぎ去っていった。恐らく自分の気のせいであったと自己完結させ、再び足を運び始めると、二度目の静止した世界が自身の前に現れた。
その時、幼いながらに僕は一つの結論に至った。これは彼らが止まっているわけではない。そう錯覚するような程の速度で自分が走っているのだと。そんな自分の能力を自覚するやいなや、僕は胸の内から湧き上がる高揚感に身を任せ、更に加速させた。流れ行く景色、肩を切る風、どこまでも走れるような軽い足取り。初めての体験であるはずなのに、まるでこれが本来の感覚であるかのように、徐々にその要領を掴み始め、ふと我に帰り、足を止めた時には見知らぬ町に辿り着いていた。自分の状況を飲み込み始めた際は不安の余り大声を上げて泣いてしまった。たまたま近くを通りかかった親切なおばあさんが、自営している駄菓子屋に招き入れてくれた。そこで電話を貸してもらい、自宅に電話をかけさせてもらった。通話状態になると、おばあさんが電話を代わり、場所を伝えてくれたおかげで事なきを得たものの、その後両親が一週間ほどナーバスになり、自宅謹慎を強いられたのは懐かしい話である。後日、友人たちにはお腹が減って先に帰ってしまったのだと慣れない嘘をつく結果となり、少し良心が傷んだことを子供ながらに感じていた。
さて、そんな思い出に耽りつつ走っていたら、どうやら目的の街へと着いたようだ。中心街なだけあって、平日にも関わらず人通りの多い喧騒絶えぬ賑やかな所であり、そんな人々を見下ろすように高い窓張りのビルが沢山建ち並んでいる。
辺りを軽く見回していると、周辺の建物とは一線を画した燦然たる様相のビルから、人々が蜘蛛の子を散らすように出入り口から必死に逃げ出してくる姿があった。ちょうどすれ違いかけた一人の男性から、事情を伺うために呼び止めることにする。
「何かあったんですか?」
「ぎ、銀行強盗だ!拳銃を持った奴らが殴り込んできて……人質が一人捕まってる!」
「警察に連絡は?」
「逃げた内の誰かがしてたよ!あんたも早く逃げないと追っ手に人質にされちまうぞ!」
「忠告ありがとうございます」
必死の形相で経緯を言い残して逃げ始める男性を見届けると、再びビルの方へと向き直り。ゆっくり歩を進めて行く。出入り口の前まで差し掛かると、中から体格の大きな筋骨隆々としたスキンヘッドの男が現れた。一見すると自身と頭一つ半程には身長差があり、こちらの姿に気付くと厳つい人相を更に険しくさせた。
「なんだ、てめえ」
「お前が人質を追い回していたのか。鬼ごっこはもう終わりだ」
「けっ、だったらてめえが最後の人質ってことだな」
警告を気にも止めず、大男は右手に持っていた拳銃をこちらの額に突き付け、不敵な笑みを浮かべている。
「土下座して大人しくするんなら悪いようにはしねぇ。ただし抵抗するってんなら……こいつがてめえの頭をトンネルみたいに開通するだけだ」
まるでマウントを取った言わんばかりの表情で脅しをかけながら、大男はゆっくりと拳銃の撃鉄を起こす。
「抵抗はしない。僕はお前らをあるべき場所に送り届けに来ただけだ」
「あるべき場所、だと?」
「きっと退屈はしないぞ。いつでも監視の目と決まった生活リズムで過ごせるんだからな」
「──っ、てめえっ……!」
刑務所送りを遠回しに伝えると、大男は額にいくつもの青筋を浮かべて引き鉄に掛けた指を曲げ始める……が、遅い。
「んが、ぐぁ、でぇ……っ!」
僕はすぐに、拳銃を把持した大男の手首をじっくりと握りしめていく。痛みに耐えきれず、大男の手から拳銃が落ちた。
「いでででで!や、やめでくれっ!手首がもげちまう!」
「言っただろ、鬼ごっこはもう終わりだ」
「わ、分かった、もう何もしねえ、だから早く手を……!」
「だったらお前らの
「っ──………………」
戦意を失い、その場に崩れ落ちる大男の変わり様に呆れながらも、首筋に手刀を軽く当てて気絶させた。
「さて、残りの奴らは聞き分けが良ければいいけど……いや、それだったらこんなコトしてないか」
胸中で溜息を吐きながら、残りの清掃活動を済ませるために正面口からビル内へと重い足取りで進んでいった。
「警察だー!無駄な抵抗はやめて大人しく人質──を?」
「…………」
「ちっくしょー!なにがどうなってやがる⁉︎なんでいつの間に俺たちは捕まってんだー!」
「私に聞かれても分かりませんよ!……くそっ、この計画ならば警察からも余裕で振り切れていた筈だったのに!」
「あ、警察の方ですか?良かったー、私人質だったのに……いつまでもこの人達の見張りなんて、怖すぎて耐えきれずに逃げるところでしたよ!」
数分後に警察官達が到着したときには、無線連絡の情報にあった銀行強盗のメンバー達は既に、不自然に折り曲げられた鉄パイプの様なもので、全員まとめて縛られており、側で見張っていたと言う人質だったと思わしき女性が颯爽と警官に駆け寄り、鬱屈していた不安や恐怖を一気にこぼし始めた。
「作戦部長、これは一体……」
「俺にも分からん。ただ一つ言えるのは……」
作戦部長と呼ばれた壮年の男性は、部下の問いに対して冷や汗を流しながら、一度唾を飲み込むために閉じた口を再び開き、言葉を紡ぎ始める。
「あの日、隕石群があの町に落ちて以降、とんでもない化け物どもが現れ始めたってことだけだ……」
すみません。まだ、原作キャラでてきマシェリ。