伝説の戦士と人類の希望   作:昆布たん

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やっと本編1話終わりました。
前回のあらすじ。
屋上で三人の美少女とキャッキャウフフしてました。


episode:2〜encounter〜part3

 紆余曲折に見舞われながらも、無事薬師寺さんと仲直り記念に共犯でコロッケを買い食いした。あの時の一口目は、今まで口にしたどんなコロッケの一口目よりも美味かったと思う。

 

「じゃあ薬師寺さん、また明日」

「うん、またね」

 

 どこか名残惜しそうな表情の薬師寺さんに向けて手を振りながら、帰路に向けて踵を返す。まあ、僕の方が500倍名残惜しいんですけどね。校門を出てからコロッケを二人で頬張るまでを永遠ループの記憶リセット方式で発注させて頂きたいのだが。

 

「……っ──待って…!」

「や、薬師寺ひゃん?」

 

 一歩目を踏み出す直前、薬師寺さんが僕の袖を掴んで呼び止めた。

 まずは落ちとぅけ守鋼絢飛13歳。あ、もう噛んでるし。

 足りない脳みそを捻り出して考えろ。この行為には、一体どんな意味が込められている?

 ①私、帰りたくないの……

 ②あともう少しだけ……ね?

 まあ、この二択の内どちらかなのは明らかだろう。いずれにせよ、ここは慎重な対応が求められている。結果次第では恐らく、今の関係から発展していく可能性が極めて高い。なので、彼女が続ける言葉がどちらであるかにせよ、ここで今朝と同じ轍を踏むわけにはいかない。

 さあ、どっちだ……⁉︎

 

「これからは、その……名字じゃなくて、名前で呼んで欲しいのっ!」

「デスヨネー、シッテマシター」

 

 数秒前の自分を殴り殺して焼却したい。あ、でも僕耐熱性抜群だったんだ意味無え……。

 

「どうかしたの?」

「いや、何でもない。呼び方だったよね。さあやさんって呼べばいいかな?」

「さんは付けなくていいよ」

「じゃあさあや様?」

「本気でそう呼ぶつもり?」

「冗談ですごめんなさい」

 

 危うくまた地雷を踏むところだった。

 

「さあや。さあやでいいよ」

「あ、うん。分かった」

「…………」

「……?」

「………………」

 

 何かいきなり黙り込んだと思ったら、頬染めながらもじもじと期待の眼差しを向けられているけど一体どうしたらいいんだこれ。

 

 ①彼女の頭を撫でる。

 ②彼女の両肩に手を添え、そのまま目を瞑って顔を近づける。

 ③彼女の耳元で「今夜は寝かさないよ……」と囁く

 

 あのさぁ……全部BADエンドのルートまっしぐらだよね?②と③に至ってはただの自意識過剰ナルシストだろこれ。いや①も普通にアウトな気がするんだが。それに彼女はクラス内でも一二を争う人気者だぞ。僕のような怪力とかけっこだけが取り柄のクソモブチンパンが存在を認知されているだけでも奇跡みたいなものなのに、彼女に触れるどころか、ましてやそれ以上の不敬を働けというのか。そんな蒙昧になるぐらいなら喜んで切腹するまである。あ、僕鉄より硬いから切腹出来ない。

 そもそもこんな選択肢が浮かんでいる時点で全てが間違いだ。僕が彼女にいずれの選択肢も行う資格や権限など微レ存の可能性すら無いのだから当然だろう?

 

「……いま、呼んで……」

「え?」

「今、名前を……呼んで欲しいの…………うぅ……」

 

 あ、そういう事か。彼女に言われるまで気付かないとか、僕の紳士力低すぎないか?それはそうとまた顔隠しちゃって可愛いなぁ、もう。おじさん何でも買ったげちゃう!

 

「あ、そっか。今ね今──おほん!えっと……呼ばせて頂きます!」

「う、うん……」

 

 いや何の自己申告?彼女若干引いてるし今のは自分でも引いた。しかし、呼び捨てで名前を呼ぶだけなのに、手に汗握るような緊張感が半端ない。

 よし、腹は決めたぞ。今こそ僕は、薬師寺さんを下の名前で呼ぶ!

 

「さ、さ、さ……しゃあや!」

 

 ktzwさん。今のシーンをリプレイでご覧頂きましたがどうですか?

 いやあここは一発で決めておきたかったでしょうねえ。まさかの思わぬミスに絢飛選手も顔を覆い隠してしまいましたよぉ。相手選手の形勢逆転の流れとならないよう早めにリカバリーして欲しいですよねぇ。

 

「ぷ、クスッ……ちょっと、ごめんなさ──ふふっ……」

「待った、今のなし!もう一回!もう一回だけ!」

「う、うん……ぷふっ、うふふふっ……」

 

 いっそ清々しいまでに笑って頂けて何よりですよ。多少不服ではあるが、薬師寺さんなら全然許せますとも。

 大きく深呼吸をして、一旦気持ちを落ち着かせる。

 大丈夫、次こそいける。美少女の期待に応えずして男が務まるものか!

 

「さ、さ……さあや!」

 

 い、言えた!言えたよ父さん!母さん!僕はついに女の子を呼び捨てで呼ぶことに成功したんだ!さらば非リア!ようこそリア充!

 

「うん。なに、絢飛?」

 

 まさかの呼び捨て返しからの女神の微笑み。今なら己の闘気全てを天へ放って自ら絶命出来るぐらいには我が生涯に一片の悔いも残っていない。一生分の幸運使った気がする。

 

「ま、また明日、学きょうで!」

「ふふっ、また『学校』で」

 

 今、彼女の中では僕は最後まで締まらない男というレッテルが加えられたに違いない。

 僕の慌しげな姿を穏やかに見つめてくる彼女は、後腐れの無い晴れやかな笑顔だった。すぐさまファインダーイ──心のシャッターが最近、忙しないな。

 その後、お互い振り返ることなく、反対の道を歩み始めた。

 

「…………よしっ」

 

 その為、彼女が何かの手応えを感じたように胸の前で小さくガッツポーズをしていた事など、僕には知る由もなかった。

 

 

 

 

〜HUGっとプリキュア !〜

 

 

 

 幸福の余韻がさめることなくついつい浮かれ気味であったが、正体がバレるような失態もなく、帰宅前の人助けを数件ほどこなして家に着くと、空は既に濃紺色に染まり、まばらに星の光が瞬き静かな時が流れている。牧草が風に揺らされ擦れ合う音に耳を澄ませて深呼吸をすると、体がリフレッシュするような気分になる為、個人的にオススメしたい疲労解消法である。まあ、実質的に疲れているわけではないので気分の問題だ。

 自宅で一番のお気に入りは、家の離れにある納屋の二階部分の隅に作られた、僕が今いるプライベートスペース。まあ、特に壁があるわけでもないので、プライベートというには少し微妙なものだが。それでも、ここから父さんが誕生日にくれた望遠鏡で様々な星を観察するのが僕の日課で趣味でもある。

 

 

「さあ、今日も観察観察──ん、何だ?」

 

 目ぼしい観察対象を探していると、ふと夜空に一際瞬く光を見つけた。今まで見たこともない輝き方から、もしかすると新種の一等星を探り当ててしまったのかもしれない。望遠鏡の位置を合わせるため、見失わないようにじっくりと目を凝らし始めた途端、なんとその光がより強く薄桃色に輝き、ゆっくりとアーチ状に下降し始めたのだ。まるでほうき星の様に尾を引きながら落ちていくその光に、既視感を覚えた。

 

「あの光、もしかして今朝のと同じものか⁉︎」

 

 流れ落ちる流星の動きは、徐々に地上の方へと向かっていく。あのままでは、あの時の隕石と同じ悲劇を繰り返してしまう恐れがある。

 

「こうしちゃいられない。すぐに止めなきゃ」

 

 言うが早く、僕はすぐに光の落下地点となる周辺へ向けて走り出した。

 

 

 

 

「……どこだ?もう光が見えない。もしかして間に合わなかったのか?」

 

 無我夢中で能力を行使していた為、空を仰ぐ間も無く落下地点周辺にたどり着いたが、光の姿も無ければ、落下して騒ぎになっているような声も特に聞こえない。結局、光の正体は掴めず終いとは。全力で駆け付けた挙句の果てが徒労に終わるなど、誰が予想出来るものか。

 

「おかしいな、あれは幻じゃなかったはずだ。もしかして、隕石のようなものでは無かったとしたら……?でもあれだけの光量だ。何かエネルギー源となるようなものがなければあんな輝き──」

「は〜ぎゅ!」

「さっきから何をごちゃごちゃ一人で喋っとんねん」

「──続けられるはずが──ん?何だ?」

 

 ふと背後から擲たれた二つの声に振り返るが、誰もいない。

 

「はぎゅ、はーぎゅ!」

「どこ見とんねん、下や下」

「え、下──って⁉︎」

 

 ズボンの裾が両方とも引っ張られる感触に視線を下ろしていくと、可愛らしさ抜群の金髪赤ちゃんと、二足歩行のネズミが僕のズボン裾を何度も引っ張りながら見上げている。というか何故ネズミが立ってるんだ。

 

「赤ちゃんと……ネズミ?」

「ネズミちゃうハリハム・ハリーや!」

「しかも喋ってる……」

「天丼リアクションすな!もう見飽きとるわ!」

 

 いや、生まれてこの方初めてとったリアクションなんですけど。

 

「動物が喋られへんとは、ホンマにここは遅れとるんやなぁ」

 

 動物である自身が人の言葉を話すことなど、何でも無さそうにやれやれと言った様子で溜め息を溢すネズミ。いやいや普通に由々しき事態ですよ大ごとですよ。もし同じ様に猿が人間の言語知識を会得してしまったら、それこそ『猿の惑星シリーズ』みたいなことになりかねないじゃないか。

 それにしてもなんて流暢に関西弁を話すネズミだろうかわ。恐らく見せ物にすれば世紀の大発見として、色んなメディアから引っ張りだこになるかもしれないが、生憎と人助けや天体観測で間に合っているのでさして興味がない。

 

「まあ、時代遅れ云々は良いとして、その赤ちゃん……」

「はぎゅ」

「はぐたんや、かわええやろ」

「うん養いた──いや、そうじゃなくて。何故こんな所に赤ちゃんが野放しになっているかを質問しているんだが」

「色々事情はある。けど、お前が知る必要はあらへん」

「いや、そんなこと言われてもほっとくわけには──」

「はーぎゅ、はーぎゅ」

「──ん?」

 

 ネズミと対話をするという望まぬ幻想的な体験を強いられている僕の心境を知らずに裾を今もなお引っ張り続けているはぐたん。僕にこちらを見ろと呼びかけるかのように繰り返すその仕草につられて視線を向けると、こちらを見上げながら今度は仕切りに手を伸ばしており、何かを要求しているようにも見える。

 うむ、可愛いな。それにしても親御さんは一体どこで何をしているんだろうか。見つけたらまずは正座で5時間説教だ。そこから世間の危うさや怖さを存分に両親たちに諭し、今後一切このような過ちを犯さぬように誓いを嫌でも立てさせてやる。絶対にだ。

 

「はぐたんがお前に抱っこをせがんどる。はよしたれや」

「え、僕なんかが抱っこして大丈夫?」

「本人が望んどるんやから別にかまへんやろ。なんや赤ん坊は嫌いか?」

「いや、そういうわけじゃないけど、でも……」

 

 人助けで大人を抱えたことは幾らでもあるけど、赤ん坊は一度も抱っこしたことないんだよなあ。抱っこが下手くそで泣かれたりしたら、将来我が子を手に取るときが不安だ。

 そもそも、そんな日が訪れるのかすら自信が無くなってきた。だって嫁さんすら見つからない可能性も……いやいや今から将来の相手心配してどうするんだ。

 

「…………っ」

「はぎゅ?はーぎゅ……?……は、はぎゅっ……はぎゅ……っ」

「何をモタモタしとんねん!はぐたんが泣いてまうやろ!」

「あ、はいただちに!」

 

 意を決し、迷いを捨ててはぐたんを慎重に胸の中へ抱きかかえた。

 

「はぎゅ、はーぎゅ♪」

「よ、よかった〜……」

「ふぅ、ギリギリやったな。それにしても、何でさっさと抱っこせえへんかったんや!危うく他の奴らに見つかるとこやったやろ!」

「無茶言わんでくれ、こちとら初めて赤ちゃん抱いたんだぞ⁉︎」

 

 とりあえずは杞憂に終わったようで一安心だ。腕の中で嬉しそうにはしゃぐはぐたんの姿が可愛いすぎて悟りを開きそう。なんて言えばいいのだろう、一言でいうなら可愛さを通り越して尊い。

 それはそうとさっきから気にはなっていたが、

 

「そういえば、君たちの家はどこなんだ?」

「ない」

「え」

「せやから、あらへんねん。家」

 

 まさかの捨て子と捨てられたペットだったとは。現代の家庭水準が軒並み下がり続けているとニュースで取り上げられてはいたが、まさかその影響の波がこんな所にも押し寄せていたなんて。

 

「頼む!お前ん家で一晩泊めてくれへんか?そない迷惑はかけへんし、はぐたんはワイがきっちり面倒みたる!この通りや!」

 

 ネズミながらに器用に顔の前で両手を合わせる姿に感心しつつ、未だきゃっきゃとはしゃぎ続けるはぐたん。再び僕と目が合うと、動きを止めてじっと見つめ返してくる。

 

「はーぎゅ♪」

 

 ▼はぐたんのスマイルアタック!

 

「グハッ……!」

 

 ▼けんとにかいしんのいちげき!

 

 一度身を縮めるように体を丸めたと思えば、今度は一気に手足を伸ばしながらこちらに向けて満面の笑みを浮かべるその愛らしすぎる姿に、全身へ衝撃が走った。

 

「し、仕方ないなぁ。君たちをこのままにもしておけないし?困っている人がいたら助けるのは当然だし?」

 

 決してはぐたんスマイルに絆されたわけじゃない。これは人助けの一環であるからして──

 

「はぎゅ?」

 

 ごめん嘘。可愛いは無敵。

 

「すまんな、一晩だけ世話んなるで。ほんで、お前の家はどこなんや?」

「ああ、ここから車で片道20分くらいの所だよ」

「何や遠いんか。まあ、ええわ。ほんで車は?」

「ないよ」

「は?じゃあバスか?」

「ここら辺はバス停なんてないよ」

「せやったらタクシーか?」

「いや、今は携帯も財布も持ってない」

「ほなどないして帰んねん!あほんだら!」

 

 まあ、普通そういう反応になるよなぁ。

 

「どうどう、落ち着いて。車はないけど、それよりも速く着くから心配はいらないよ」

「何を言っとるんやお前、ひょっとして距離も測れへんぐらいバカなんか?」

 

 さっきから馴れ馴れしい上に頻回に罵倒してくるぞこのネズミ。

 

「とりあえず、落ちないように僕の上着のポケットに入ってくれ」

「えー……」

「露骨に嫌な表情をするんじゃあない」

「何が悲しゅうて野郎のポッケに入らなあかんねん……」

 

 ネズミはぶつぶつと愚痴をこぼしながら、渋々手の平からポケットに飛び移った。これで準備は万端だ。

 

「はぐたん、しっかり掴まるんだよ?」

「はぎゅ!」

 

 しっかりとはぐたんを片手に抱きしめると、僕は弾丸よりも速く家に向かった。

 

「さあ、僕の部屋に着いたよ」

「はぎゅ?」

「何いらんボケかましとんねん、まだ5秒も立ってへんのに……て、え……?」

 

 二人とも状況が飲み込めていないのか、呆然としながら周りを見渡している。まあ、無理もないか。徒歩で移動するという発想すらあんな距離では思い立つわけがないのだから。増してや、ポケットに隠れていたハリーはともかく、はぐたんにしてみれば一瞬で景色が様変わりしただろうから、不思議に思うのも当然だろう。

 

「はぎゅ、はーぎゅ?」

「ほんまに着いたんか……お前瞬間移動でも使うたんか?」

「んー、企業秘密ってことで。僕にも色々と事情があるんだ」

 

 ネズミとはいえ言葉を話すのであれば無闇に自分の正体を明かす必要もない。あちらも特に事情を説明する気はない様子だし。

 

「まあ、ええわ。せや、お前の名前聞いてへんかったな」

「ああ、言われてみれば。守鋼絢飛だ」

「絢飛か。今日は世話んなるで」

「何もない部屋だけど気兼ねなくくつろいで貰って構わないからね」

「さっきとあんま変わらんあばら家けど、まあ雨風凌げるんやったら別にええか」

「おいこらネズミハッキリ言うじゃないか」

「はぎゅ〜……」

「うん、可愛い過ぎて逆にライフ削れそう」

 

 我が物顔でクッションに身を預けるハリーを空の彼方へ投げ飛ばしたい衝動に駆られるが、船を漕ぎ始めているはぐたんの姿で一気に苛立ちが払拭された。赤ちゃんは最強。

 

『おーい、絢飛。いるのか?』

「まずい、父さんだ」

 

 はぐたんの可愛さに気が緩まったのも束の間、階段を上ってくる父さんの声に、すぐさま身が引き締められる。ただでさえ自分に手を焼いているだろう両親へ、さらに面倒ごとを持ち込む事は憚られる為、はぐたんに布団を掛けて周りを有り合わせのクッションや枕で覆い隠す。

 

『開けるぞ?』

 

 扉が開かれ、怪訝な顔で父さんが入ってきた。

 

「絢飛。さっき納屋に行ったらいなかったが、どこへ行ってたんだ」

「風が気持ち良かったから、少し走ってきたんだ。大丈夫、誰にも見られちゃいないよ」

「そうか。だがあまり無闇矢鱈に力を使うなよ。誰かが何処で見ているとも限らんからな。細心の注意を払うんだぞ」

「ああ、もちろん」

「ご飯、出来てるからな。今日はお前の好きな母さん特製のアップルパイだ」

「用事を済ませたらすぐ行くよ」

「ああ、冷めないうちにな」

 

 僕の巧みな話術に、父さんは疑うことなく部屋を後にした。騙すことに躊躇いが無かったわけではないが、彼等に余計な負担をかけるわけにもいかない。今夜一晩この子たちの面倒をみるぐらい、僕だけでも充分だ。

 

「あれがお前の父ちゃんか。なんや誰かさんと違ってエラい頼りがいのありそうな人やんか」

「君はもう少し配慮することを身に付けた方がいいと思うぞ」

「はぎゅ……すぅ……すぅ……」

 

 しょうもない言い合いをする僕らを他所に、はぐたんはすっかり寝息を立てていた。寝てても可愛いとかどこまで僕を癒せば気がすむんだ小さな女神よ。

 

「疲れたんやろな、よう眠っとる」

「君たちも色々あったみたいだね」

「まあな。ワイも大変やったけど、この子は尚更や」

「でも、聞かせてはくれないんだろ?」

「知らん方がええ。それがお前自身のためや」

「そうか……」

「ふわぁ……オレもそろそろ眠たなってきたな。すまんけど、先に寝かせてもらうで」

「ああ、今日はゆっくり体を休めるといい」

 

 再びクッションへ横になるハリーを労い、僕もゆっくりと扉を閉めて部屋を後にする。

 静かな夜が平和に更けていく。

 

 

 

 

〜HUGっとプリキュア !〜

 

 

 

 朝、目がさめると、側にははぐたんとハリーの姿はどこにもなかった。室内を見渡すと、机の上に書き置きを見つける。

 

昨日はエラい世話になったな。はぐたんに変わって感謝するで。直接言いたかったんやけど、ワイらはやるべきことがあるからもう行くわ。ほな、達者で。

 

「あの姿で一体どうやって書いたんだ?」

 

 殴り書きの様子から、僕を起こさぬよう音を立てず迅速にはぐたんを連れてこの家を後にしたのだろう。

 それにしても、どうやってはぐたんを連れて行ったんだあの体で。

 あまり深く関わるなと釘を刺されたものの、言葉を話すただのネズミ(人語を話せるのは普通じゃない)とまだ立つことも出来ない赤子を放っておけるわけがないだろうに。

 

「登校中と放課後だけでも、はぐたんたちを探そう」

 

 確固たる決意を胸に抱え、僕は早々に朝の身支度を整え、ダイニングへと向かいテーブルに置かれた食パンを口へ一気に放り込みコーヒー牛乳で流し込むと、側に作り置かれていた弁当と水筒をカバンに詰め込む。この間、凡そ0.5秒にも満たない動作だった。

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「あ、絢飛。出て行く前に少しいいか」

「手短にしてくれるなら」

「なに、時間はとらせない。実は今朝、家の自転車が無くなっていたんだ。盗まれた可能性もあるとは思うが、お前は何か知らないか?」

 

 家の自転車と言えば、僕が昔幼稚園に通う時に両親が送迎で使っていたあのママチャリか。最近は月に一度買い物か何かで母さんが使うぐらいの頻度だったから、そこまでという程のものでは無かったが、それも同時進行で探すとするか。

 

「いや、知らない。どっちにせよ、放課後に僕が走り回って探しておくから心配しないで」

「ああ、頼む」

「お願いね」

 

 

 

 登校の道すがら、辺りを探し回ったものの、はぐたんたちの姿はどこにもなかった。あと自転車も。

 仕方なく探索を中断し、素直に学校へと向かったのはいいのだが……。

 

「ふんふふふ〜ん♪ふんふ〜んふ〜んふ〜ん♪……」

「…………はぁ……何だったのかなぁ……?」

 

 教室に入るなり、思わず唖然とする光景が目の前に広がっていた。

 僕の前の席である女神委員長とお茶目転校生。この二人の気分の温度差が途轍もなく激しい。特に上がっている方のやくし──さあやが。

 

「あ、絢飛。おはよう」

「う、うむ。おはよ」

 

 いや何様だよ僕。動揺のあまり全く使ったのことない『うむ』とか出てきたんだが。

 そんな僕の心情を知らずに、彼女はゆっくりとこちらへ近づき、耳元僅か数センチの距離まで顔を寄せて口許に手を添えながら──いやいやいや顔近いし息が耳にかかってこそばゆいんですけど誰か助けて──

 

「昨日はありがとう……凄く嬉しかった」

「────っ」

 

 何その囁き惚れそうになるからやめたげてぇ!絢飛のライフはとっくにゼロよっ‼︎

 日直だよね、日直のこと言ってるんだよね。他の男は騙せても僕は騙せないんだからっ!

 

「昨日のことは、誰にも言っちゃダメだよっ?」

 

 あー、やっぱりそっちの方ですよねえ。じゃなかったらわざわざヒソヒソ話なんかしませんし。

 釘をさすように言葉を残し、さあやは再び席へと戻る。さ、さあて、僕も荷物を置いて教科書を取り出さないと──

 

「守鋼……ちょっと外までツラ貸してもらおうか」

 

 この後、クラスの男子達から散々問い詰められたのは言うまでもなかった。また、朝からさあやとは対照的な雰囲気の野乃さんは、午前中ずっと授業にも身が入らない様子で、背中に影を落としながら上の空で時折何かを呟いていたのだった。

 

 

 

 教室でいっせいに僕の机を取り囲んで尋問を繰り返してくる男子共から解放された頃には昼休みも終わり、別の場所で昼食を取り終えた生徒達が徐々に教室へと戻り始めた頃。

 学園周辺の上空が突如黒い雲に覆われると、教室内で次々と僕以外の生徒たちが脱力したように倒れてこんでいく。その中心から、地上へ向けてろうとのように雲が渦巻き始め、中から時計塔の形を模した大きな黒い怪物がグラウンドへと飛び降りるように現れた。

 近くに倒れている男子生徒の側で腰を下ろし、意識があるか呼び掛ける。

 

「おい、大丈夫か、どうしたんだ⁉︎」

「何だか、心がトゲトゲして……やる気が出ないんだ……」

 

 精一杯言葉を搾り出した生徒は、そのまま気絶してしまった。

 

 何だか分からないが、恐らくはあの怪物がこの状況と関連性があるのは火を見るより明らかだ。高速移動を使い、グラウンドへと向かう。

 グラウンド前で一度足を止めると、そこには、あの怪物の頭に金髪のチャラ男然とした男が乗っており、それに対面するようにはぐたんとハリーの姿があった。そこから少し離れて石畳の道で、グラウンドの状況を同じく目の当たりにしている野乃さんの姿があった。

 

「はーぎゅー!はーぎゅー!」

「ふんぎぃぃぃぃっ、あぶないてぇ!」

 

 はぐたんは怪物とチャラ男に立ち向かおうと、前に進もうとするが、それを良しとしないハリーが彼女の足を掴み、小さな体で精一杯踏ん張り引き止めている。

 

「あぁー?なんか文句あんのーっ⁉︎」

 

 その姿に苛立ちを感じたのか、男の感情へ同調するように、怪物が威嚇目的で右足を大きく振り下ろす。その衝撃で地面は抉れ、大小様々な土塊となって舞い上がった。

 

「危ない!」

 

 はぐたん達の身に危険を感じた野乃さんが、二人のもとへ駆け寄ろうと走り出した刹那、彼女の頭上に一際巨大な塊が降り注ぐ。

 

「まずい!あのままだと野乃さんが!」

 

 正体がバレることなど構うことなく、僕は高速移動で彼女の前に背中を向けて立ち塞がり、右手に渾身の力を溜め込んで土塊へ向けて振り抜いた。拳をぶつけると、塊は蜘蛛の子を散らすように細かく砕け散り、見事に野乃さんを守ることに成功した。

 

「はぁー⁉︎アレを素手で砕くとかあり得ないっしょー⁉︎」

「守鋼くん……?」

「ふぅ、間に合ってよかった……怪我はないか──」

 

 思わぬ人物の登場に目を見開く野乃さんの安否を確認しようとふりむいたその矢先、

 

「──っ、ゔっ⁉︎ぐっ……!」

 

 突如全身を倦怠感と息苦しさが襲い、力が抜けてその場に倒れてしまった。

 か、身体が動かない……どういうことだ?高速移動はおろか力を入れることもままならず、必死に呼吸を行うのがやっとの状態。

 こんなことは生まれて初めてだ。今まで風邪は愚か、身体的に疲れたと感じたことすら無かったのに。全身を目まぐるしく回る強烈な倦怠感に、意識を飛ばされそうだ……っ!

 

「どうしたの守鋼くん⁉︎しっかりして‼︎」

「ち、力が入らない……苦しい……」

 

 僕を心配そうに覗き込む野乃さんへ、自身の状態を伝える。

 朧げになる視界の中、周りを見渡しはぐたんたちの姿を捉える。更に視線を下ろしていくと、自分の足下で緑色に光り輝く見たこともない石が転がっていた。恐らく先程砕いた土塊の中に紛れていたのだろう。

 

「緑の…っ、石……っ?」

 

 だが、初めて目にした石なのに、それを認識した途端、既視感と嫌悪感が同時に襲い掛かり更に自身乃呼吸が荒くなっていくのが分かる。

 

「は……ははっ!な、何だか分かんないけど勝手にくたばってくれラッキー‼︎アレを壊したのはちょびっと予想外だったけど、あんたが戦えないなら勝ったも同然じゃーん?」

 

 再び状況が自分へ好転したことで戦意を取り戻したのか、チャラ男は顔の前で横向きにピースサインを掲げている。

 向こうでは、威嚇を受けたはぐたんが嗚咽をもらし始め、ハリーが心配そいな表情で寄り添っている。

 

「はぐたん……!」

「野乃さん……はぐたんたちを連れて、逃げるんだ……」

「守鋼くん、はぐたんを知ってるの⁉︎」

「そんなことより……今は早く……っ!あの子達を、頼む……!」

 

 今この場であの怪物を倒せる者はいない。ならば、自分が犠牲となって野乃さんたちの囮になる。それが唯一残された手段だった。

 

「フレフレ、私……!」

 

 しかし、そんな僕の言葉を受けたにも関わらず、野乃さんは己を鼓舞するように拳を握りしめてゆっくりと立ち上がり、怪物の方へ決意を決めたまっすぐな瞳を向けていた。

 

「野乃さん……君、まさか……」

「待ってて、守鋼くん。私、皆を守ってみせるから」

「だ、ダメだ……っ、危険だ……!」

 

 僕の警告に耳を傾けることなく、彼女は怪物の方へと駆け出していく。

 

「俺ちゃん、赤ん坊の泣き声って苦手なんだよね。いけっ!」

『オシマイダァアァァア‼︎』

 

 そんな中、男ははぐたんの泣き声への不快感から痺れを切らしたのか、怪物から降りてはぐたんへ襲い掛かる命令を出す。それに従い、怪物がはぐたんへとその鋭利な魔の手で迫り出した前に、

 

「だめぇぇぇぇ‼︎」

 

 野乃さんが両手を広げて立ち塞がった。

 

「お前……」

 

 その姿に呆然とするハリーと嗚咽を止めて顔をあげるはぐたん。

 

「どいてー」

「どかない!」

「どけぇ‼︎」

「絶対にどかない‼︎」

 

 男の怒声に怯むことなく、野乃さんはその場から動かずに毅然とした表情で立ち向かい、己の揺るがぬ意思を示している。

 

「うっぜ。潰せぇ、オシマイダー‼︎」

『オゥシマイダァアァァア‼︎』

 

 男にオシマイダーと呼ばれた怪物は、両足に力を溜めて天高く飛び上がり、野乃さんの頭上まで達すると、踏み潰さんとする意気込みで重力に任せその巨体を落として行く。

 

「何してんねん!お前潰されるぞ‼︎」

「お前じゃないもん!はなだもん‼︎」

「は〜ぎゅ〜っ!」

「ここで逃げたら、カッコ悪い。そんなの……私のなりたい、野乃はなじゃない‼︎」

 

 野乃さんがはぐたんを抱え上げ、猛然と立ち向かう意思を秘めた目で再びオシマイダーへと向き直ると、彼女の体が強い光に包まれ始めた。

 

「アスパワワが……!」

「心が……溢れる!」

「はーぎゅぅぅぅぅ‼︎」

 

 光は二人をさらに強く輝かせ、野乃さんの胸とはぐたんの額のハート型の飾りから、互いに光が発せられてやがて一つに重なると、中心に花の形が彩られた、桃色に輝くハート型の宝石が二人の前に現れる。

 

「ミライクリスタルが生まれた!」

 

 野乃さんがミライクリスタルと呼ばれたその宝石を左手に取ると、今度はハリーの後ろに置かれたキャリーケースの中から、光を纏った手の平サイズの楕円形にかたどられた何かが野乃さんの右手へ導かれるように飛び出して行った。

 

「はなー!お前の気持ち、かましたれぇ‼︎」

「いっくよー!」

 

 ハリーの叫びに応えた野乃さんがプリハートを前に翳すと、たちまち大きな光の柱が野乃さんを包み込む。

 

「輝く未来をー、抱きしめて!みんなを応援!元気のプリキュア 、『キュアエール‼︎』」

 

 輝きが消えると、其処には両側頭部をシニョンにした、野乃さんよりも少し背丈の高い煌びやかな衣装を纏った女性が佇んでいた。

 

「プリキュア 、ホンマになりよった」

「は〜ぎゅ〜……!」

「めっちゃイケてる!」

「あれが、野乃さん……なのか?」

 

 変身前とは全くの別人だ。言うなれば大人に近づきはじめた将来の野乃さんを体に表したような姿にみえる。

 

「新しいプリキュア⁉︎まさかクリスタルが増えたのか⁉︎まあいい、いけえっ、オシマイダー!」

『オシマイダーァアァァア‼︎』

「はっ!」

 

 オシマイダーが振るった腕を、キュアエールは片手で受け止める。そこから、キラキラと粒子のようなものが飛び散る。

 

『オォシマァイダァアァァア‼︎』

 

 更に両手を使って猛威を振るい、叩きつけようと力を込めるオシマイダーの攻撃を、キュアエールは難なく受け止め、そのままぶん回しながら勢いをつけてグラウンドへと思い切り叩きつける。

 

「行ったれぇぇ!キュアエェェェェル‼︎」

『オシマイダァアァァア‼︎』

 

 更に激昂し、よろめきながらも立ち上がるオシマイダーに向け、キュアエールは空中に翳したプリハートの後ろから大きくなったポンポンを振り続け、最後にプリハートへ突き出すようにポンポンを振り終えると、プリハートから放たれた巨大なハートがオシマイダーを包み込む。

 

『ヤメサセテモライマァス〜……』

 

 包み込まれたオシマイダーは綻んだ表情で空高く舞い上がり、やがてその身が浄化されるように消失していった。

 

「これは始末書モノ……!」

 

 追い込まれた男は、苦虫を噛み潰したような顔つきでその場から忽然と姿を消した。

 すると、澱んでいた空模様が一気に晴れ上がり、再び豊かな日光が学園へと降り注ぎ始める。

 

「はぐたん、ハリー」

 

 事態の収拾が落ち着くと、キュアエールは真っ先にはぐたんたちの元へと駆け寄り、無事を確認する。すると、再びキャリーケースの中から、ハートがいくつもあしらわれたポップな装飾のスプーンらしきものが現れ、そのつぼ部分へ吸い込まれるようにミライクリスタルが嵌ったのだ。

 それを目にしたハリーが、腕を組みながら様々な説明を始める。

 

「ふむ。ミライクリスタルはアスパワワの結晶。ミライクリスタルから、はぐたんにパワーを上げるんは、プリキュアにしかできへん大切なお仕事や」

「は〜ぎゅ!」

 

 ミライクリスタルから溢れ出した七色粒子が、はぐたんのハート型の額飾りへと吸い込まれていき、はぐたんが満面の笑みで喜んでいる。

 

「はぐたんにアスパワワを与えても、まだミライクリスタルが光っとる!こいつの心には、どれだけのアスパワワがあるんや……!これなら、未来を……!」

「はぐたん、よろしくね!」

「はぎゅ〜、えへへ〜‼︎」

 

 ハリーの呟きは耳にも届いていないのか、キュアエールははぐたんとひと時の喜びを分かち合っていた。

 あ、もうダメだ……意識が……、

 

「あ、そういえば守鋼くんが大変なことに──守鋼くん、しっかり‼︎守鋼くん!守鋼くん‼︎──」

 

 慌てた様子で僕のもとに駆け寄り、懸命に名前を呼びかけるキュアエールの顔が視界に映したのを最後に、僕の意識はぷっつりと電源が切れたように意識を手放した。

 

 

 




頭疲れました。ガッツリ寝ます。
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