伝説の戦士と人類の希望   作:昆布たん

6 / 10
前回までのあらすじ
主人公がさっそく使えない。


episode:3〜angel〜part1

 時は少し進み、放課後。

 あの後、野乃さんがグラウンドから僕を懸命に運んでくれたおかげですぐに意識を取り戻すと共に、身体中から力が漲り始め、先程までの倦怠感や呼吸苦となっていた状態も嘘のように治っていた。

 なぜ急にあのような状態に見舞われたのかは未だはっきりとしたことは不明だが、土塊に紛れていたあの緑の石が妙に気掛かりではある。帰ったら一応両親に相談してみよう。

 

「言いたくても言えない……あぁ、ヒーローは辛いぜ!」

 

 人を助けられる絶大な力を手にしたことですっかり浮かれている野乃さんの気持ちはよく分かる。

 僕も最初の頃はそれでよく加減を間違えて、悪者を病院送りにしてしまったことがあったっけ。まあ、今では自分の能力に驕らず、最低限の無力化を心掛けて人助けに精を出している。しかし、あまり聞き分けのない行き過ぎた輩には、その限りではないケースも珍しくはないが。

 

「──あ、そうだ。ねぇ薬師寺さん、図書室って何処かな?」

 

 そういえば野乃さんとさあや。何でも昼休みは二人で仲睦まじく屋上で弁当の中身を分け合いっこした後、学校案内していたというべらぼう羨まめでてぇ校内デートを満喫していたんだとか。そこに水を差したのが、あの男と怪物だったようで、それを知った時は羨ましさや百合百合しいひと時を瓦解した奴らへの怒りの余り、此の手で徹底的な制裁を加えたいと奮い立ちたくなった自分は正しいに違いない。

 

「案内しようか?」

「え、いいの?」

「もちろん」

 

 お、まさかの校内デート再開か。この広い学園だ。あの昼休みの間ではろくに案内も出来なかっただろうし、放課後に持ち越して続きを始めるのは当然の流れ。この二人、どぅぇきてる〜。

 

「委員長、このプリントさ……」

 

 至福の時間に再び水を差す不毛な輩が誰かと思えば、イケメン眼鏡(リア充フェイスは疾く爆ぜよ)阿万野ひなせくんじゃあないか。二人のささやかな恋路の始まりを邪魔するなんておじさんちょっと紳士じゃないと思うよ。いいかい?こういうのはあたたか〜い目でそっと後ろから見守ってだね……──

 

「先生に提出するのね?後でクラス日誌を持ってく時に一緒に渡すね」

 

 しかしそこはさすが我が神友のさあや。不快そうな表情をおくびにも出さず了承し、快くプリントを受け取る。まあ、単に嫌だなんて一つも思ってないだろうけど、女神だし。

 

「サンキュー、委員長」

「どういたしまして」

 

 ひなせくんは申し訳なさそうに首の前あたりで両手を合わせながら感謝を述べると、颯爽と教室を後にしていく。おい、こら。感謝の念が足りないんじゃあないか?さあやにその意を示すならば床に頭を擦り付けてその腑抜けた面貌を涙と床の埃にまみれながら敬うのが常だろうに。

 なに?イケメンへの風当たりが強すぎるだと?たわけ!眉目秀麗ならずとも、(オレ)以外の雑種共は全て倣うべき謝礼の儀に決まっておろう!しかし、言うまでもないが……この(オレ)が認めた奴らに関してはその限りではないぞ?──ごめん、今変な英霊憑依してた。

 

「薬師寺さんて、ほんと優しいね」

「ひなせくん吹奏楽部で全国大会が近くて、忙しそうだから」

 

 そんな数分で済むような雑用に嫌な表情一つせず了承し、尚且つフォロー溢れるひなせくんの事情説明とかさあやさん優しすぎません?そこに痺れる憧れるぅ!

 

「みんなから頼りにされてるんだね」

『気付いちゃいましたぁ⁉︎』

「ひゃ⁉︎」

 

 野乃さんの褒め言葉で僅かに頬を染めて恥ずかしがるさあやの背後からひょっこり姿を現したのは、ショートヘアに眼鏡姿の十倉じゅんなさんとツーサイドアップのはねっ毛が特徴の百井あきさんだった。

 

「委員長は誰にでも優しくて」

「学園の天使と呼ばれているのでぇす!」

「分かる!」

「おまけに、学年で成績一番」

『そのうえ……かーわいい‼︎』

 

 とてつもなく同意の気持ちを口にしたいが、そこは分をわきまえています守鋼絢飛くん。思わず賛同に参加しようものなら「え……なに……」とか「うわ、守鋼くん……そういう感じだったんだ……ちょっと、ムリ……」とか静かに忌避されていくのが目に見えている。終いにはさあやから「……この間の事は、忘れて…………後、一生話しかけて来ないで」と辛辣な表情で関係を断たれるまである。いやなにそれツラ。普通に死にたくなるんですけど。

 

「私、そんな……」

 

 ていうか、褒めちぎられ過ぎて真っ赤に俯くさあやちゃん可愛い過ぎ。君たちナイス追い打ち。

 

「だけど、これで驚くのはまだ早い!」

「これらはただの前座に過ぎない!」

「え、まだ何かあるの?」

 

 まだ揶揄い足りないのか君たち。とっくにさあやの精神耐久値は底をついていると思うのだが。

 

『ムッフッフッフ……』

「?」

 

 含み笑いを隠そうともせずに、二人は一瞬、僕の顔をチラッと目にして再び野乃さんたちの方に視線を戻すと、

 

『実は委員長には気に──』

「ダメェェ‼︎」

『──ムグッ』

「へ?」

「ん?」

 

 十倉さんたちが決定打となろう何かを言おうとした刹那、さあやが目にも留まらぬ速さで彼女たちの口を塞いだ。その顔は何故か先程より一層赤みを増し、今にも沸騰しそうな勢いの赤面具合で、おまけに少し目が潤んでいる気がする。

 

「二人とも、それだけは……言わないでっ……‼︎」

「分かってるって。冗談だよ冗談」

「ごめんごめん。委員長のその顔が一番可愛いからつい」

「もうっ……」

 

 え、すっごい気になる。彼女たちだけが知り得るさあやさんが懇願する程の秘密とはこれいかに。

 

「薬師寺さん?」

「の、野乃さんっ!た、ただの冗談だから!何でもないのっ」

「あ、そうなんだ」

「そうそう。だから気にしないでねー」

「うんうん」

 

 まあ、優しさの権化と呼ばれても遜色ないぐらいの聖人たるさあやにも知られたくない秘密の一つや二つはあるだろう。かくいう僕も両親以外には秘密にしているし。

 あ、野乃さんにはなし崩し的に知られてしまったけど、秘密は守ると約束してくれた。白状した当初は物凄いキラキラした目で「ヒーローがすでにいたんだ⁉︎」と盛り上がっていたが、僕自身そこまで呼ばれるほどの大層な任をこなしているとは夢にも思っていないので、その認識はやめていただくようお願いしている。

 

「ところでさー」

 

 さあやを揶揄い満足した様子の百井さんが、再び目だけをこちらに向けると、それに倣うような仕草で十倉さんが百井さんの会話を中継する。

 

「守鋼くんはさー、鈍感な人ってどう思う?」

「というと?」

「んーそうだねぇ、例えばあからさまに好きな人にしかしないようなアプローチを掛けられているにも関わらず、全くそれに気づいていない人とか?」

「私たちが見た中だったら、『他の人と違ってその人と話す距離がやたら近い』とか、『翌日やけに浮かれて登校してきた』とかかなぁ。そういうのに気付かない人がいたとしたら、守鋼くんはどう思う?」

 

 なんだかやけに具体的なエピソードを例に挙げてきたな。その二つの内容、なぜかやたらと身に覚えが──……ははーん。そうか、そういうことだったのか。

 ならば、君たちが望むべく返答をご覧に入れようではないか。

 

「それは大いに然るべき問題だね。そんな誰でも分かるようなアピールに気付かないなんて、その人の前世は恐らく石像だったに違いないと僕は思う」

 

 そう。彼女たちが指している人物がこのクラスの中にいるということ。それは勿論、『阿万野ひなせ』その男だろう!爽やか系眼鏡美男子の彼は、部活内でもかなり女子の人気を集めていると専らの噂だ。

 恐らく彼は数多の女子からの分かりやすい好き好き光線を、その天然鈍感スキルで軽やかにいなしているんだろう、なんとも度し難い。一度マンツーマンでこの『好意の機微に敏感なキューピッド守鋼くん(自称)』が直々に教育してやる必要がありそうだ。

 

「ア、ウン……ソウダネ」

「やっぱそうじゃないかとは思ってたけど、まさかそこまでとは……」

 

 お、なんかいきなり百井さん達の目から生気が失われ始めて……まさか、またあの心がトゲトゲしてとかいうあれか⁉︎

 

『委員長……』

「な、なに?」

『あれはかなり手強いと思う』

「う、うん……私も改めてそう思う」

 

 三人そろって呆れたように項垂れ始めたな。それにしてもなぜ十倉さん達はさあやにそんな言葉を掛けて──も、もしや!さあやは……さあやは……!

 

「さ、さあや!」

「ふぇ⁉︎は、はい‼︎」

「守鋼くん?」

『おお⁉︎』

 

 遂にさあやの秘密の真相を導き出した僕は、思わず彼女の正面へ駆け寄り、両肩に手をかけて真剣な表情でまっすぐ見据える。予想だにしていなかった僕の行動に、他の三人もかなり目を見開いてて驚いている様子。百十コンビに至っては、こちらに期待の眼差しを向けられているような気がする。

 ああ、分かっているさ。謎は全て解けた。百十コンビの揶揄い方、さあやの反応。これらのことから導き出される答えはただ一つ。ならば、一人の男としてさあやに届けなければならないだろうその言葉をいま、ここに紡ぎ出す!

 

「さあや……」

「う、うん……」

「え、え?なに?どういうこと?」

『こ、これは……ついに、ついに⁉︎』

 

 一人蚊帳の外な野乃さんはともかく、さあやの為にも僕は応えなければならない。よし、言うぞ。言うんだ守鋼絢飛。

 

「ひなせくんは手強いし、ライバルも多いと思う。でも、さあやなら大丈夫。君の優しさと色んなことを知ろうと努力する君の力があれば、ひなせくんをモノにするなんて容易いことだ。勿論同性からの意見や考え方も欲しい時は僕も喜んで協力するよ!」

 

 決まった!これは会心の一撃だ!男側としての協力提供を申し出たのは、さあやも助かるだろうに違いない。

 答えに至った決め手はあのやり取り。態々大した時間のかからない用事を頼まれて断らずに快く了承する理由など、それ以外にあり得ないだろう。全国大会云々なんて説明したのはあくまで建前。本心は彼の為に少しでも貢献し、印象を深めようというさあやらしい細かな作戦の一つだったのだろう。さすが委員長、そこまで手の込んだことを。

 少し羨ましい、いやべらぼう妬ましいひなせくんに某春日部在住の会社員課長の三日間熟成させた靴下を口の中に突っ込みたい心境だが、神友の為だ。ここは一肌脱いで少しでも彼女の役に──

 

『……あー、うん。知ってた』

「へ?へ?」

「…………」

「ん、どうしたんだいさあや?」

 

 あまりの喜びに打ち震えているのかな?それは友人冥利につきるというものだ。

 

「……何でもないっ」

「え、ちょ──」

「野乃さん、図書室案内するから、行きましょう?」

「え?う、うん……」

 

 この間よりいっそう顔を顰めたさあやは、野乃さんの手を取って足早に教室を後にした。え?あれ?

 

『守鋼くん……あれはない』

「……なぜだ」

 

 その場に崩れ落ち、涙ながらに床へ額を擦り付けて埃にまみれる一人の男の姿があった。ていうか僕だった。

 

 




またパート毎に分かれます。
オリジナル展開こばさみがこの作品の特徴なのでご容赦を。
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