こうさくいどう、いわくだき、赤い屋根のおおきなお家、初めてのおむつ替え
全てが止まっていた。町の人も、車も、何もかも。
『モウオシマイダァァァ』
何処からともなく姿を現わした巨大な怪物が、街中を練り歩いている。
自身の視点が地上へと移ると、白いスーツに身を包んだスキンヘッドの男と、その背後に佇む黒い影の様な何かが僕の視点と対面している。影に至っては正確なシルエットが見えづらい上に、紅く光らせた不気味な双眸だけが最も鮮明に、こちらを測るような目つきで睨みつけている。
すると影はその場から一瞬で姿を消し、目の前に現れると腕らしきものでこちらの首を締め上げていく。防戦一方である自分らしき視点が、紅い双眸を見下ろすように地面との距離が離れていき、首の辺りに掛かる圧力も徐々に増していく。振りほどこうと抵抗を試みるが、相手の絶大な力に手足が動かず、必死に肺の中へ空気を取り込もうと呼吸に専念する事で手一杯だ。
『フム……他愛ノナイ。コレガコノ
「─────、その辺にしておけ。殺してしまったら、私と契約を交わした意味が無くなる。一応こんな彼でも私の計画には必要な人材だ」
心底呆れた声音で呟いた得体の知れぬ影に続くように、ゆっくりと近づいてくる白スーツの禿げ男。こちらを見上げるその表情からは愉悦と侮蔑の色が伺え、敵対心が容易に推し量れる。
『安心スルガイイ、少シ適度ニ痛メツケテオクダケダ。無駄ナ反抗心ナド起コセナクナルグライノ配慮ハシテヤロウ。ナニ、スグニ治ル身体ダ、問題ハナイ』
「と、言うわけだ。
何故か所々にノイズが走り、聞き取れない箇所がある。だが、会話の内容の流れから察するに、恐らくこの正体不明である影の名を呼んでいると思われる。
「付き合いの長いよしみだ。今すぐ答えろとは言わず気長に待つさ。まあ、それまでに君が大切な者達を何人守れるか……ゆっくり楽しませてもらうとしよう。ああ……君がどれだけの人を失っても耐えていられるのか、実に楽しみだ」
こいつ、狂っている。まるで全てが自分の思い通りに動くことを確信していると言わんばかりの堂々たる振る舞いだ。
「さて、私はあちらを少し手伝ってくるとしよう。いくら戦士とは言えど私に女をいたぶる趣味はないのだが、一人逃してしまうほどに連中は苦戦しているようでね。そちらの相手は任せたよ、────」
そう言い残し、背中を向けて遠ざかっていく白スーツの男。
『フム、相変ワラズ掴ミドコロガナイ奴ダガ、ソコガオモシロイ……デハ、オマエニハ少シ眠ッテイテモラオウ、カル=エル。イヤ……ス──パ───ン』
そんなヤツの言葉とともに、自分の視点が暗転していく。
すると首を締め上げていた力も奴の姿も、靄が晴れるように忽然と消え去り、目を開けた途端視界に白一色の眩ゆい光景が広がっていた。
「ここは、どこだ……?あの影は……」
『予知夢だ、カル=エル』
「誰だ⁉︎」
僕の疑問に答えるよう何処からか耳に届いてくる聞き知らぬ声。無感情で平坦な声音ながらも、その中には威厳と真摯さを感じるものがあった。
しかし、声の主の姿は何処にもなく、一面に白い世界がどこまでも続いているだけだ。
『目が覚めたか、我が息子よ。いや、厳密にはまだ本当に目を覚ましてはいないがな』
「何者だ⁉︎何故お前も奴も僕をカル=エルと呼ぶ!僕は守鋼絢飛だ、カル=エルじゃない!」
『それはあの地球人の夫婦が勝手につけた仮の名前だ。お前の真の名はカル=エル。そして、私はジョー=エル。お前の本当の父親だ』
「ふざけるな、僕は父さんと母さんの子供だ!お前のことなんて知らない!」
冗談でも面白くない。いきなり見知らぬ奴に父親を名乗られて信じる奴などいるものか。
『私を知らぬのも当然だ。お前は生まれて間もなく、宇宙船で地球へ運ばれた。お前は地球人ではなく、地球から遥か遠く離れた惑星クリプトンに住むクリプトン人という種族だ』
「僕が……地球人じゃない?冗談も大概にしろ!いい加減に姿をあらわせ!」
『それが出来れば始めからしている。私はクリプトンの爆発によって既に過去の存在だ。私の声は、お前自身の中にある深層意識の記憶を元に構成されてお前へと届いている』
「冗談話に付き合うつもりはない。すぐにここから出せ」
『話が終わればすぐに目覚める。……息子よ、運命の時は動き始めている。その為にも、お前は己について知らなければならない。真実が知りたければ、お前の宇宙船を探せ。そこにお前の求める答えがある』
「運命……?真実……?何を言っている。僕は僕だ!それ以外の何者でも──ぐっ…………」
『またいずれ話そう。使命を果たせ、カル=エル。我が息子よ……──』
ジョー=エルと名乗る声が徐々に薄れていくと共に、目の前に再び光が差し込みだす。
「──ッ⁉︎ハァ……ハァ……寝ていたのか。凄いリアルな夢だった」
目を覚ましたそこは、ハリーとはぐたんの家の中。その柱の一つに凭れ、休息を取っていたのだった。
ただ、あくまでも休息の為であり、仮眠をするつもりはなかったのだが……やはり、あの夢に何か関係があるのか。
「は〜ぎゅ〜っ!は〜ぎゅ〜っ!」
「わああ⁉︎ごめんねはぐたん寝ちゃってたぁ!」
目が覚めた視線の先では、泣き出すはぐたんを慌てた様子で必死にあやす野乃さんの姿。
「よしよ〜し、よしよ〜し」
「なに泣かしとるんや!」
「はぐたん、どうした?」
てんてこ舞いの野乃さんへ詰問するハリーとは対照的に、冷静に問いかけてみる。
「分かんないよぉ。起きたらはぐたんが泣き始めちゃってたから……お願い泣き止んでぇ、はぐたんは良い子でしょ〜?」
野乃さんの嘆願も叶うことなく、はぐたんは泣き止まず終いには抱き抱える彼女の頬を引っ張り始める。まあ、僕が赤ん坊だったら美少女に抱っこされてる贅沢のあまりひたすらにやけてると思う。そんな赤ちゃん見たくないけど。
そんな中、一向に収まる気配のないはぐたんを泣き止まそうと僕らが頭を悩め始めていると……。
「野乃さん?と、けんと?」
「え〜⁉︎なんで〜⁉︎」
「さあや……?」
おもむろに外から開かれた扉の向こうには、さあやという思わぬ来客の姿があった。
「こんにちは。えーと……」
「はぐたんっていうの」
「はぐたんっ」
「えひぇ〜♪」
「おー、すっごいニコニコだ」
「はーぐたんっ。うふふ」
さあやの呼びかけに、さっきまでの大泣きが嘘のように晴れやかな笑顔で答える。少し離れると、さあやとはぐたんは二人で和やかな雰囲気を作り出していた。
いいなぁ、僕にも前みたいにあんな笑顔向けてくれないかなぁ。
「なに羨ましそうにみとんねん、気色悪い」
「君に分かるか……?女の子に素っ気なくされたり、避けられたりする男の気持ちが……!」
「そんなん知ったこっちゃないわ。それより、あの子ええ感じの子やん。可愛いし」
腹立つネズミだが、その意見には概ね同意する。
「私だって!は〜ぐた〜ん!」
「あ、野乃さん。今はさあやに任せた方が──」
「はぁぁぎゅうぅっ!」
「何で……」
「だから言ったのに」
今度は足で顔を蹴られる始末。別に野乃さんが悪いわけじゃないんだけど。こればかりは、赤ちゃんの気持ちや気分の問題だろうからどうしようもない。
「もしかしてミルク?」
あ、そういう事か。言われてみれば、はぐたんたちと合ってから数時間は経っていたし、その間はぐたんはミルクを飲んでいなかったから、とっくに目安の時間は過ぎていたに違いない。
「ハリー」
「言われんでも分かっとる!何とかせんとぉ……いよっとお!」
僕の催促が要らずとも、ハリーはすぐにキャリーケースの中を探し始め、ミルクの粉と哺乳瓶を取り出す。それにしても色々入ってるいるんだな、このキャリーケース。中は異次元空間にでも繋がっているのだろうか。
「え、誰?」
ハリーが取り出した際の掛け声を耳にしたらしいさあやがこちらへと振り向く。
「ミルク?」
「あ、ああ……今そこから取ってきたんだ」
「そ、そっか……」
思わず話しかけてしまったものの、やはりどこか気まずい。あまつさえ視線すら合わせようとしないさあや。うん、今すぐここから消えたい。
「ネズミグッジョブ」
「ネズミ⁉︎」
いやそれ言ったらまずいよ野乃さん。ほらさあやも何事かと思って驚いてるし。
「いやいや何でもないよ!ただ、守鋼くんがネズミみたいに素早く用意してくれたなぁって!」
「そういう事だったんだ。それにしても面白い例え方するんだね、野乃さん」
「い、いやぁそれほどでも……あははは……」
何とか誤魔化せたのは良いとしても、僕がネズミのようだと言う例え話にさあやが否定しなかったのは少し悲しい気もする。
「だけど、作り方が分からないね」
「分からない時は、調べようっ」
「おお!」
ふと閃いたのか、さあやは自分の鞄から自前のノートパソコンを取り出すと、ネットでミルクの作り方を調べ始めた。彼女は目的に適ったサイトを開くと、手順法を一つ一つ几帳面にメモしていく。年頃の女の子らしい可愛らしさを残しながらも、真面目な性格が如実に現れた柔らかく綺麗な文章を書きとめる彼女の姿が、とても輝かしく見えた。
後ろの席から見えるのは背中ばかりだったので分からなかったが、他の周りの席から見るとこんなにも絵になる姿で黒板を板書していたのかと考えると、今の席も惜しい気はするが席替えも良いかも知れない。
「これで良し。ちょっとキッチン借りるね」
「あ、うん」
キッチンへと向かっていくさあやと野乃さん。本来であればネズミが了承権を持っているのだろうが、ここは野乃さんが代行しておくのが妥当だろう。
「まずは哺乳瓶を熱湯で消毒して、お湯でミルクを作ったら、四十度まで冷ます」
メモの内容を反芻しながら手際良くこなしていくさあやの姿を、野乃さんはすぐ後ろから、僕とハリーは少し離れてスイングドアの向こうから見つめている。
それにしても、足下のハリーの目が輝いている。もしかしてさあやが好みのタイプなのだろうか。だとしたら、既に遅かったね。彼女には阿万野ひなせくんという想い人が──何故だろう、今何処からか呆れた声が聞こえてきてきた気がする。
「あの、はぐたんのこと……驚かないの?てか、何でここに?」
野乃さんの疑問は最もだ。こんな所に目的をもって訪れる人などそうそう居ないはず。なのに、さあやが来たのには一体どういうわけがあるのだろうか。
「前に、不思議なことがあってね。空から赤ちゃんの声が聞こえたの」
「え?」
ああ、あの時か。
「信じてもらえないかもしれないけど……」
そう言うと、彼女は当時の経緯を大まかに説明した。
「時間が……止まった?」
「よく分からないけど……赤ちゃんの声の方に行くと、いつも野乃さんと……けんとに合うの」
やはり僕の名前を呼ぶときだけ声が沈むんだが。完全に嫌われてるんじゃないか、これ。無理、ツラ。
「そっか、あの時も……」
「よし、できた!」
そう言って振り返るさあやの表情はとても眩い笑顔が咲いてた。
クラスの男子が見たらほぼ籠絡されかねん威力に、僕は鋼の精神で耐え凌ぎ──あ、ダメだ可愛い過ぎる死にそう。
ミルクを完成させた後みんなでリビングルームへ戻り、さあやがはぐたんの口元へミルクの入った哺乳瓶を近づけると、躊躇うことなく飲み口へと吸い付き始めた。
「よかったぁ!」
「絵になる……さすが天使」
「はぐたんも喜んでるみたいで何よりだ」
「この子やぁ……!こういう子がプリキュアにええんや……!頭も良いし優しいし可愛いし!」
先程よりも目を輝かせるハリーが囁くように願望を述べる中、それを耳にした野乃さんは何か言いたげな様子だが、何も返す言葉が見つからずに悔しげな表情だ。
いやいや、野乃さんだってプリキュアとしての素質があったんだからそんなに悔しがらなくてもいいような気がするんだがなあ。社交的だし明るいし前向きだし、可愛いし!……可愛いし!……可愛──
「ぐぬぬ……うん、でも確かに」
「え?」
「薬師寺さんはすごいよ。色々丁寧だし、賢いし、私には出来ないや」
「……私に出来ないことが、あなたには出来ます」
「んぉ?」
「あなたに出来ないことが、私には出来ます。力を合わせれば、きっと素晴らしい事が出来るでしょう」
褒め言葉を口にしながら、ゆっくりとさあや達の元へと歩み寄る野乃さん。それを受け、さあやは一息つくと、静かにある言葉を紡ぎ始める。初耳らしい野乃さんは疑問の表情を浮かべているが、僕にはとても懐かしい言葉の響きを感じた。
「力を、合わせれば?」
「尊敬してるマザーテレサの言葉なの。私、この言葉がとても好き。野乃さんは自由な発想があって、なりたい自分の未来があって、私よりずっと凄いよ……私には、何もないから」
「みんなに優しくできるじゃない」
「それくらいしか出来ないの。野乃さんみたいな勇気がない……」
前にさあやは僕にもその言葉を聞かせてくれていた。あの時も、そう……僕とさあやが初めて知り合った日の事だったな。今でもその想いは変わっていないようだった。だが、彼女は自分なりの指針が定まっておらず悩んでいるようだ。
「薬師寺さん……いや、んー……」
「委員長でいいよ」
「委員長と話してるんじゃないもん」
「⁉︎」
「さあやと話してる、だろ?」
「守鋼くん」
「けんと……」
「僕も野乃さんと同じだよ。僕たちが話したいのは、委員長じゃなくて薬師寺さあやだ。それに、君のその優しさこそ、君が持っている魅力の一つじゃないか。君自身が何も無いと思っていても、僕や野乃さん……いや、もっとたくさんの人から、君に対しての何かが今この瞬間も生まれているんだ。僕が、野乃さんが、さあやを優しいと思っている事だって、立派な君の何かの一つになってる。そうは思わない?」
「私が……何かもう、持ってる?」
「うんうん!守鋼くんのいうとおりだし、さあやちゃん勇気あるよ!」
「え……?」
「だって誰かに優しくするって、すごく勇気がいることだもん!」
「そ、そんな……私……」
「褒められたら、ありがとうだよっ」
「⁉︎」
「未来は無限大!何でもできる!何でもなれる!フレー!フレー!さあやー、ちゃん!」
『うふふっ』
「何でもできる、何でもなれる、か。うん、いい言葉だ」
右へ左へ大きく腕を回し両腕を交互に突き上げた後、左右に腕を広げながらさあやへエールを送る野乃さんの言葉が、不思議と自分の胸の中にもすうっと染み渡る。
きっとプリキュアとしての姿は、その人元来の性質を元に変身したものなのかもしれない。
「──っぷぁ」
「飲み終わったね」
「ああぁ……!」
野乃さんが慌てて哺乳瓶を受け取るのを確認すると、さあやはミルクを飲み終えたはぐたんの頭を後ろ向きに抱えて左肩にのせ、背中を優しく叩く。
「背中をトントンしますよ〜」
「けぷぅ」
見事はぐたんのげっぷを引き出す事に成功する。
「カンペキや〜……!」
ちょっと後ろのネズミ空気読んでくれませんかね?
そんなネズミの挙動を気にも止めず、野乃さんは何かを決意したように表情を引き締めると、さあやを真っ直ぐに見つめて口を開き始めた。一体何を言うつもりだろうか。
「さあやちゃん。お願いがあるんだ……」
「…………」
そんな野乃さんの雰囲気を感じ取り、何事かと少し目を見開き言葉の続きを待つさあや。そんな二人の間に静かな時間が流れ始めた時。
「あのね……私たちと──うわ⁉︎」
「地震⁉︎いや、この震動……恐らく何かが地面に落ちる衝撃の震動だ」
「行ってみよう!」
「ああ!」
「わ、私も!」
全員で震源の場所へと駆け付けた先には、グラウンドで目にした時とは違う姿のオシマイダーが雄叫びを上げていた。
『⁉︎』
「は〜ぎゅう!は〜ぎゅう!」
同時に、はぐたんは怪物の方へと両手をばたつかせて泣き叫び始める。
「はぐたん……!」
「一体何が……」
「あかん、アスパワワがどんどん無くなっとる!」
「え、え、喋って……」
うん、さあや。君の反応はえらく正しいよ。人の言葉を喋るネズミがいきなり事情説明持ちかけてきたら、誰だって驚く。
「はな!」
「うん!はぐたんは私が守る!」
「駄目!危ないよ!」
「野乃さん!今ここじゃまずい!」
さあやにプリキュアだとバレてしまう危険があるのに、一体どうやってあのオシマイダーへ立ち向かうというのか。
「さあやちゃん……私、プリキュアなんだ!」
「え⁉︎」
「はぎゅ……」
あー、そういう事かあ。そうだよね、バラしちゃえば何の問題も──てウェイウェイウェイウェイ⁉︎今ワタシプリキュアって言いました⁉︎
(決してみらいちゃんの口癖のアレではない)
世紀の大暴露を披露し、自信に満ちた笑顔を見せて再びオシマイダーへと向き直る野乃さんはプリハートを手にし、再びプリキュアとしての姿であるキュアエールへと変身する。
「野乃さん⁉︎」
「来たなプリキュア!ミライクリスタルを奪えオシマイダー!」
『オシマイダアァ‼︎」
建設途中の鉄骨から高みの見物で命令するチャラ男の声に従い、オシマイダーが巨大な拳を振り上げて一気にエールへ叩きつけるも、彼女はそれを難なくバックステップで躱してみせた。
さすがプリキュア。変身しただけで飛躍的に反射神経も身体能力も向上しているみたいだ。
「凄い……!」
「あなたたちに未来は渡さない!はぁ──っ⁉︎」
『オォウ』
猛然と突進していくエールに対し、オシマイダーは地面についた両腕を伸ばして己の身体を高く上昇させ、攻撃を躱し返す。
「いくら強くても当たらなきゃ意味ないじゃ〜ん」
『ウオォゥ‼︎』
「うわぁあぁ⁉︎」
『オォシマイダァァ‼︎』
そのまま腕を一気に戻し、落下速度を利用して落ちてくるオシマイダーの攻撃を慌てて逃げるように距離をとろうとするエールだが、相手は間髪入れずにダブルハンマーを叩き込んでくる。彼女はすぐに踵を返し、それを両手で受け止めて必死に押し返す。
「ぐっ!絶対未来を、守る……っ!」
「あっ……!」
「エール……」
それを見守っているさあやと僕。
しかし、いつまでも彼女がここにいるのは危険だ。ひとまず二人で安全な場所まで避難した後、他の人へ避難を呼びかけるなりなんなり適当な言い訳をつけてその場を離れ、すぐさまエールの元へ戻る。よし、この作戦で行こう。
「それよりも、今はここから早く離れよう。僕たちも巻きこまれ──さあや……?」
「はぎゅ……!」
「何でもできる……何でもなれる……!」
「うおお⁉︎」
「さあや?──っぐ!」
さあやの呟きと同時に、彼女の胸から青色の光が溢れ出していく。
「心が……溢れる!」
「はーぎゅううううう!」
野乃さんの時と同じように、さあやの胸から溢れ出る光がハートの形を成し、彼女の手に青色のミライクリスタルとして生まれた。
「これは……」
「はーぎゅ、はーぎゅ」
「ミライクリスタルが生まれよった!プリキュアになるんや!」
「まさか、さあやも……?」
僕の驚愕も束の間、キャリーケースから二つ目のプリハートが飛び出してくる。
「私が、プリキュアに?私に、そんな事……出来るのかな……」
目の前で必死に立ち向かっているエールを見つめながら、彼女は不安な気持ちをこぼす。
「さあや」
「けんと……」
「大丈夫、自信を持って。君なら出来る。エールの力になりたいと思ったその願いが、必ず君をプリキュアにしてくれると僕は信じてるよ」
「でも……」
「僕が信じる君を信じて。君は薬師寺さあや。クラスの学級委員長で、頭が良くて、優しくて、知らないことをそのままにはしておけず、困っている人を見捨てられない、僕の自慢の友達だ」
誰にでも躊躇わず手を差し伸べられるさあやがプリキュアに変身出来ないなんて、そんなふざけた話があってたまるか。もしそんな結果になってみろ、僕が全てを敵に回してでも変身出来る運命へと覆してやる。
「ありがとう、けんと……うん、出来るよね。私の中にも、きっと勇気が!」
「ああ。だから、迷わず行っておいで、さあや」
「うん!」
さあやが決意を固め、プリハートを手にした。
「おおおお!」
「はぎゅ〜っ!」
目を輝かせるハリーとはぐたんを背に、さあやの体が青い光に包まる。
「輝く未来を抱きしめて!みんなを癒す、知恵のプリキュア。キュアアンジュ!」
中から、所々に羽根をあしらいナースのような衣装に身を包み、ボリュームあるロングヘア姿のプリキュアが現れた。これが、さあやのプリキュアとしての姿、キュアアンジュ。
「変身できた⁉︎」
「プリキュアが増えた⁉︎」
「キュアアンジュ⁉︎」
「ふざけんな!」
まあ、敵からすればごもっともな心境ですね。
「いけえオシマイダー!」
『オシマァイダァァ‼︎』
怒りながらに命令するチャラ男の感情に同調するかの如く、オシマイダーが鉄骨を拾い上げ、そのまま投げつけてくる。
「フレ!フレ!ハートフェザー!」
すぐさまアンジュがハートの形をした盾を生み出し、エールへ迫っていた鉄骨を跳ね飛ばす。
アンジュの必殺技は守る為のものなのか。なんとも彼女らしい。
「すごい……」
「キュアエール!」
「ありがとう!」
「クレーンは重心が高いから、足下を狙えばバランスを崩すわ」
「へぇ……」
エールの無事をすぐに確認すると、アンジュは自身の知識をエールに伝え、有効な攻撃手段を耳打ちする。
「だったらその作戦は僕がやろう」
「守鋼くん!」
「けんと!でも、これは危険な──」
「まあ、見ててよ。女の子ばかりに守られているだけなんて、男として情けなくなる」
「ダメだよ!下手をしたら、けんとの命が──」
「アンジュ。僕は、君に謝らなきゃならない」
「え?」
「今まで隠していてごめん。だから、その秘密を今ここで見せる為にも、僕はアレと戦う」
「待って、けんと!」
アンジュの言葉を背に受けながらも、僕はゆっくりとオシマイダーのもとへ進んでいく。
「何をコソコソと──て、お前、あの時なんかぶっ倒れた雑魚ガキじゃんか!今更女の前でいいカッコしようと、あんなハッタリもう驚きやしねえっての!それに、距離を取ればお前らの攻撃は届かない!」
チャラ男の舐めてかかったような言動に合わせてオシマイダーが後方へ進み、両腕をこちらへ向けて勢いのままに伸ばしてくる。
「──距離を取れば、だろう?」
「な、なにぃ⁉︎」
『オ、オォオウゥ……ッ!」
「どうした、さっきはもう少し長く伸びてたと思うけど?錆止めは定期的に差しとかないと、すぐに錆びて動かなくなるから、気を付けた方がいい」
が、それを途中で受け止める。
「あ、ありえねぇ……あんな普通のガキがオシマイダーの攻撃を止めるだと⁉︎ハッタリじゃなかったのか⁉︎」
「どうしてけんとが……?」
「アンジュは知らなかったんだね。守鋼くん、すっごい強いんだよ!前に私のこと、さっきのアンジュみたいに助けてくれたの」
「けんとが、エールを……?」
二人の会話が少し気になるが、まずは目の前の敵を無力化しなければ。
オシマイダーの攻撃を止めると、今度は高速移動で鉄骨を拾い上げてオシマイダーの足下へ。
「へ?ど、どこだ⁉︎どこに消えやがった!」
『オ、オォ?』
「ほら、下がお留守だよ」
そのまま横に振り払うと、オシマイダーはバランスを崩してその場へ倒れ伏せてしまう。すぐにその場を離脱し、エールへ合図を送る。
「エール!」
「うん、任せて!」
合図を受けたエールはプリハートを手に取り、前回と同じように手にしたポンポンを振りながら自身の前に翳したプリハートへ力を込めていく。
「フレ!フレ!ハートフォーユー!」
打ち出されたハートがオシマイダーを包み込む、トゲパワワをみるみる浄化していく。
『ヤメサセテモライマス……』
満たされた表情を浮かべ、オシマイダーは消えていった。
「っちぃ……!」
今回も計画を阻まれたチャラ男が恨めしそうに舌打ちをして姿を消すと、周囲を包んでいたトゲパワワがアスパワワへと変わりながら、景色が色づき始めていく。
道路沿いでは、トゲパワワの原因らしき二人が折り合いをつけたようで、互いに申し訳なさそうな雰囲気で道を譲り合っっていた。
「はーぎゅ、はーぎゅ!」
「キュアアンジュ……心強い仲間や」
新たなプリキュアの誕生に、はぐたんとハリーはとても嬉しそうな反応だ。それにしても、まさかまた自身のまわりからプリキュアが出てくるとは、世界の狭さを痛感させられる。だが、まったく知らない赤の他人になられても、それはそれで少し困ったことになる。
「一人じゃできないことも、二人ならできる!……あ。えっと、二人でもできないことは、三人ならできる!」
「うん!」
あれ、今僕を見た後に言葉を加えたような気が……。野乃さんの何気ない親切心が、僕の心を突き刺した。
「さっきのお願いの続き。さあやちゃん!私と一緒に、プリキュアやろう!」
「……うんっ。よろしくねっ、はなちゃん」
おや、これはもしや。この雰囲気ならあの話題を持ちかけても大丈夫かもしれない。うん、寧ろ今が絶好の機会に違いない。
「さあや」
「ん、なに?」
「その、さっきの……放課後のことなんだけど」
「っ!う、うん……」
「本当にごめん。さあやの気持ちもよく考えずにあんな事……君が気を悪くするのも当然だって、今は反省してる」
「ううん。そんな、私の方こそ……大人気ないことしたし、お互い様だよ」
「……頑張れっ」
良かった。これならすぐに仲直り出来そうだ。それにしても野乃さん意味深なきょどが気になってしょうがない。もしや図書室で何かさあやと話したのだろうか。
「だから、その……これからはさっきみたいにいきなり肩を触ったりはしない!いくら友達とはいえ、女の子に断りもなく触れるなんてデリカシーに欠けてたと思う。今後はこんな事が二度とないように気をつけるよ」
「………………え?」
「ん?」
あれ、何かおかしいこと言ったかな。てっきり、いきなり触られて気分を害したものかとばかり思っていたんだが。
「あ、あのね……私がけんとに素っ気なくしたのは、いきなり肩を触られたから、とかじゃなくて…………そこはもう少しあのままでも……」
「へ?」
最後、何か言っていたような……。
「あ、ううんっ、気にしないで!えっと……さっき、私の事を応援するって言ってたでしょ……?その相手だけど……その…………ひなせくんじゃないの」
「え、ひなせくんじゃ、ない……?じゃあ、一体……」
そんな、推理が間違っていたなんて……キューピッド業は引退か。いや、そもそもはじまってすらいなかったけど。
ふと、さあやに向き直ると、彼女は胸に手を当てて深呼吸をしている。まるでこれから一世一代の行動を起こそうとしているような雰囲気だ。緊張のせいか胸の前で握りしめた拳と唇は微かに震えており、夕陽に照らされている為か頰も少し赤く染まっているように見える。
すると、彼女がゆっくりと口を開き始め、
「けんと。私……ずっと前から──」
「ええ話のところ悪いんやけど、はぐたんにアスパワワをはよあげたらんとあかんねん。後でにしてくれへんか?」
「あ、ああ……分かった。さあや、その話はまた今度でもいいかな」
「あ……うん……」
さあやの話を遮り、急かすように催促するハリー。空気を読んで欲しい所ではあったが、はぐたんに関する緊急事案では仕方がない。
しかし、かなり覚悟を決めたような表情だったな。もしかしたら、彼女にとっては余程重要な事を話すつもりだったのかもしれないな、切実に申し訳ない。
タイミングを見計らったように、キャリーケースからあのハートであしらわれたスプーンがアンジュの手元へと吸い寄せられるように飛んでいく。アンジュはそれを手に取るとスプーンのつぼの部分へ自身のミライクリスタルを嵌め、はぐたんの前へと翳す。すると、エールの時と同様にはぐたんの額飾りへアスパワワが吸収される。
「は〜ぎゅう!はっぷっぷ〜!」
とても満足気に笑うはぐたんの姿に、少し浮かない表情を浮かべていたさあやも穏やかに微笑んでいる。やはり、はぐたんの癒しの力は絶大。
「私の時と同じだ!」
「うふふっ」
「はぐたん、ご機嫌やでぇ!」
「ああ、ひとまず一件落着だね」
その後、野乃さんとさやあが元の姿へ戻ると、それぞれに挨拶を交わして帰路へとついた。
だが、僕にはまだやるべきことが残っている。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「ああ、丁度良いところに帰ってきたな。今、面白いニュースがやっていたんだ。お前も観てみるといい」
家に着きリビングへ顔を出すと、両親はソファに寛ぎながらテレビを観ていた。僕も父さんの誘いを受けて別のソファに腰を預けてテレビを眺める。
『昨日7時30分頃、はぐくみ市のびのび町のふれあい銀行にて、強盗事件がありました。通報を受けた警察は、特殊事件捜査係、通称SITを編成、派遣しましたが、到着した際、現場は既に姿を消した何者かによって、犯人と思われる三人組全員が取り抑えられていたようです。所持していたと思われる拳銃は全て壊されており、人質に怪我等はなく、また犯人達は、全員捻じ曲げられた鉄パイプで捕縛されていたとの事です。なお、警察の事情聴取では犯人全員が『気が付いたら体を鉄パイプで縛られていた』等と皆同様の供述しており、警察は犯人を取り抑えた人物も含め、更なる捜査に乗り出していく体制を固めていくとの事です。以上、ふれあい中央警察署前より中継でお伝えしました』
……ああ、そういえばありましたね。そんなこと。
「何か言っておくことがあるだろう?」
「絢飛……」
「ああ、捕まえたのは僕だよ。安心して、正体はバレてない」
「そういう問題じゃないだろう。相手は銃をもっていたんだ、下手したらお前が殺されていたかもしれないんだぞ」
「そうよ。いくらあなたが速くて頑丈とは言っても、もしかしたら銃弾があなたの体を貫いていたかもしれないのよ」
やっぱりこうなったか。あまり彼らに心配を掛けたくはなかった分、黙っていたことの罪悪感が一気に押し寄せて来る。
「分かった……今度からは、あまり無茶なことはしないよ」
「絢飛。私は別にお前の人助けを否定しているわけじゃない。ただ、お前自身の命を大切にして欲しいと言ってるんだ。お前はまだ子供だ今のうちは、皆と同じ、普通の男の子として……」
「普通?普通だって?」
僕は高速移動で納屋から鉈を持ち出してきた。そのまま右手で持った鉈を左腕に振り下ろすが、鉈の刃は腕を切断することなくそのまま無数の破片となって床へ落ちていき、手に把持したまま残ったのは柄の部分だけだった。もちろん、力のコントロールで周囲へ飛び散るような失態は犯さない。
「絢飛⁉︎」
「これのどこが普通だって言うの⁉︎前よりも更に人の身体じゃなくなってる!今じゃ町のタワーから飛び降りたって骨折はおろか傷一つつきやしない!おまけにスピードや反応速度は銃弾を5メートルくらいの距離でも軽く避けられるなんて、全然普通じゃない!教えてよ!僕は一体何者⁉︎」
「落ちつけ、絢飛。鋼の体や弾丸よりも速く走れるスピードがあろうと、お前はお前だ。自慢の私たちの息子だよ」
「父さんっ、はぐらかさないで!僕はもう13歳だ。今まで何かを隠しているのは知っていたし、あえて聞かなかったけど、こんな能力を持ってる奴がただの人間じゃないことなんて薄々感じてたよ!」
どこかでは分かっていた。自分が人と違うのは、普通の人間じゃないから。
そして、あの夢でほぼ確信へと変わった。嘘だと否定をしたものの、本心ではその言葉をすんなりと受け入れて納得していた。奴の言葉を認めるのは癪だが、これまでの自分に対する様々な疑問に当て嵌めると不思議なくらいピースが繋がっていくのだ。
「絢飛……」
「…………」
「教えてよ、父さん……母さん……。僕はなんなの?なぜこんな能力が僕にあるの……?」
「…………分かった、話そう」
「あなた!」
「絢飛も、一人前だ。自分の本当の真実を知る権利がある。そして私たちにはそれを伝えなければならない義務がある」
「だけど……」
「大丈夫だよ、母さん。どんな真実も僕は受け止める覚悟は出来てる」
「絢飛……」
「それに、父さんも言ったろう?僕が何であろうと、父さんと母さんの息子であることに変わりはないよ。だろ、父さん」
「ああ、そうとも」
「ええ……そうね……」
その後、僕は両親から当時の出来事を説明された。隕石群の落下。町の壊滅。両親の前に落ちた宇宙船。そして、彼等を助けて出した一人の赤ん坊。
「僕が二人を助けたんだ。じゃあ、僕はやっぱり宇宙人ってこと?」
「ああ。私たちが必死にこじ開けようと頑張っても開けられなかったドアを、まだ生まれて一年経つかぐらいの赤ん坊が、皮を剥がすみたいに軽々と外したのは今でも衝撃だったよ」
「なのに顔を見たら天使のような笑顔で愛らしくて、この子は神様の贈り物だって、二人とも心から感謝したわ」
それから両親は様々な思い出話を聞かせてくれた。僕と出会う前のことや僕の記憶にない小さな頃の出来事まで。
話が一旦落ち着くと、僕は今日一日の出来事を二人に話した。
「ふむ。今日だけでそんなことがあったのか。それで、オシマイダー、とか言ったか。その怪物はどうやってやっつけたんだ?」
「他の二人がプリキュアっていう戦士の姿に変身して倒したんだ。彼女たちはアスパワワっていう力で、オシマイダー達を倒したんだ。僕も協力したけど、初めはよく分からない内に能力が使えなくなってその場で一度意識を失っていたらしいんだ。二度目はそんなこともなく戦えたけど、多分今の僕では牽制するぐらいしか出来ることがない」
「どういうこと?」
「負けることもないけど、あのオシマイダーはトゲパワワっていう人間の悪感情から生まれるものみたいで、それに対抗出来るのはアスパワワ、つまりプリキュアとしての彼女たちでしかオシマイダーにトドメを刺すことは出来ないみたいなんだ。僕にはアスパワワを使いこなせる技術も量もないから」
「そうか。で、やはりその子たちにはお前の力のことを話したんだろう?」
「ああ。これから共に闘う仲間に、隠し事は出来ない」
「絢飛。それを話したということは、オシマイダーとは別の危険に彼女たちを晒してしまうことになるのよ?」
「もちろん、僕も彼女たちも覚悟はしている。さっきもみんなで立ち向かうって約束をしたよ。あと、秘密を漏らさないことも。バレたらお互い様だったし」
まあ、若干危なっかしい子が一人いるのは言わないでおこう。彼女を信頼したい意味も含めて。
「まだまだ聞き足りない所があるが、一番気がかりなのは、お前が突然能力を使えなくなって気絶したことだな」
「そうね。今まで病気どころか、体調が悪くなったことすら無かった貴方がどうして突然倒れてしまったの?」
「ハッキリとは分からない。でも、あの土の塊を破壊した後、そこに紛れていた緑の石が僕の足下に転がってきた直後からそうなったのは確かだと思う」
「緑の石……まさか」
「あなた、もしかしたら……」
「ああ……」
緑の石の単語を耳にした途端、眉をひそめた両親は二人で何かを確認し始めた。
「父さんも母さんも、その石に何か心辺りがあるの?」
「絢飛。それは隕石だ」
「隕石?あの石が?」
「ええ。隕石群があの町に降った二週間後、テレビで政府が隕石についての調査発表をしていから、恐らく間違いないわ」
「でも何でグラウンドに隕石が……確かあの町は今も立ち入り禁止のはず」
それにここはのびのび町。この町にも隕石が落ちたなんてニュースは過去に一つもない。
「そういえば、当時ラヴェニール学園のグラウンドの土壌を作ったのは、確か私の知り合いだったな」
「そうなの?」
「ああ。なんでものびのび町周辺の土壌では、グラウンドに適した土が調達出来なかったらしく、のびのび町と隕石の町の立ち入り禁止の区域ギリギリの外れに、丁度良い土があったとかでそこから運んだそうだ。もしかしたらあの近くで落ちた隕石の欠片が紛れ込んでしまったのかもしれない」
「もしかしたら、隕石は貴方にとって毒のような作用をもたらすかもしれないわ」
「毒?」
「さっき聞いた話からするに、人間が毒に侵された症状の一つに当てはまるわ。くれぐれも今度からは気をつけるのよ」
「まあ、滅多に出てくることはないだろうが、油断は禁物だぞ」
「うん、ありがとう」
僕にも弱点はあった。よりいっそう秘密を守っていかなければ。
「久しぶりに真面目な話をしたら腹が減ってきたな」
「そうね。じゃあ絢飛、手伝ってもらえる?」
「もちろん」
母さんの要望に笑顔で答える。今日はどんな美味しい手料理が出てくるのだろう、楽しみだ。
「ああ、それと」
「どうしたの、父さん」
「今度その子達を家に連れて来なさい。秘密を共有するのがどんな子達か知っておかなきゃならないからな」
「どんな子達が仲良くしてくれてるのか、楽しみなのよ。もちろん私もだけど」
「まあ、な。それも少しはある」
「分かった。今度連れてくるよ」
今度の週末に、あのハリー達の家でまた会う約束をしていたっけ。その時にみんなへ聞いてみようかな。
新年明けましておめでとうございます。
これからもご愛顧のほどよお願い申し上げます。