伝説の戦士と人類の希望   作:昆布たん

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前回のあらすじ
悪夢を見た。主人公は宇宙人説。また出たチャラ男とオシマイダー。さあやプリキュアに。そして仲間に。


episode:4〜peebish〜

 待ちに待った週末。今日は女子二人と待ち合わせという、今年の運を使い果たしたようなお恵みを授かったことで漲る高揚感に身を任せ、浮わついた足取りでハリーハウスへ到着。

 しかし、そこで僕を待ち受けていた景色は思いがけないものだった。

 

「いないいなーい、ばぁっ。……ぶぇあっ」

「はぁぎゅ、はぁぁぎゅぅぅぅ!」

「やあ、お待たせ……て、何だか朝から前途多難のにおいがするね」

 

 寝不足で下瞼を隈に染めたハリーが抱える絶賛大泣き中のはぐたんへ、変顔を披露し笑いを引き出そうと野乃さんが試みているものの、効果は見られずはぐたんは再び癇癪を起こし始めた。

 

「はぐたん、めっちゃご機嫌ナナメや」

「その顔から見るに、今日に始まったものじゃあなさそうだね」

「昨日の夜からこの調子。ミルクあげてオムツもちゃーんと取り替えとんのに……」

「んぅ……」

「……」

 

 はぐたんが不機嫌である原因と思われる他の要素が思い浮かばず、皆頭を悩ませ始める。

 

「泣きたいのはこっちやー!」

 

 悲痛に嘆く彼の姿が、今回だけはどうしようもないぐらいに痛ましく思え、そっと肩に手を置いて労った。

 

「んー……ちょっと、調べてみるね」

 

 そう言って、さあやは一度ハリーハウスの中に置いていたパソコンを持ち出してくると、赤ちゃんが泣き出す様々な要因について早速調べ始める。流石我らが唯一の頭脳派であるさあや。慌てず冷静に究明方法を見出すその姿、正に知恵のプリキュアを担っているのも頷けるというもの。

 

「えーと……思い当たるなら、これかな。赤ちゃんは新しい環境に慣れなくて、不安でぐずることがあるって」

「なるほど。じゃあはぐたんの不安が吹き飛んじゃうくらい、楽しいことをしてあげたら!」

「楽しいこと……て、もしかして──」

「いないいなーい、ぶぁ!」

「……ふぃっ」

 

 これぞ正に天丼。野乃さん、赤ちゃんを楽しませる為の手段がいないいないばあのみの一辺倒で、流石のはぐたんも見飽きたのか顰めっ面のままそっぽを向いている始末。

 

「もうそれええって。全然ウケてへんし」

「笑わせる作戦はあまり効果が無いみたいだね。他にないの?」

「赤ちゃんの機嫌が良くなるもの、と……何だろう?」

「せやなぁ……なーんかあった気がするんやけど……んー…………ぐぅ……ぐぅ……」

「寝るなー!」

 

 いや野乃さん。一睡も出来なかったハリーに対してそれはちょっと酷な気がするよ。

 

「──っは⁉︎せや!アレがあるやんか!んーと……お、あったあった。ミライパッド!」

 

 何かを思い出したハリーが、キャリーケース内を物色して取り出したのは、手の平より少し大きいサイズのこれまたハートがあしらわれたポップな装飾のタブレットだった。

 

「まぁ、何それタブレット⁉︎」

「さあやなら食いつくと思った」

「プリキュアだけが使えるパッドや。色んな事が出来てな、はぐたんが困った時にも調べられる、超イケてるシロモンや!」

 

 ハリーはミライパッドと呼ばれたタブレットの概要を説明すると、さあやにそのまま手渡す。

 まあ、ここは機械の扱いを一番心得ているさあやに渡すのが妥当だろう。こんな印象を抱いているのは不躾かもしれないが、野乃さんでは、使いこなすまでに時間と労力がかかりそうだし。

 

「すごーい!って、そんな便利なものがあるなら、早く出してよ!」

「しゃーないやろ。寝不足で頭がボーッとしてて、うっかり忘れとった……」

「はぁ……!ふふっ!ほらけんとっ、見て見てっ。色んな機能があるよっ!」

「え、あ、うん。便利そうだね……」

 

 最近携帯電話を購入し、つい一昨日通話方法を会得した僕からすれば、タブレットの画面に映るアイコンの意味など何も分からないので、もはや自分には無用の長物だ。そもそもプリキュアではないため、触っても起動すらしないのでやはりゴミにしかならない。プリキュアしか使えないのに、超イケてる代物とはこれ如何に。

 

「はぐたんの機嫌をなおすには……これ?──え?」

「んぉ?」

「お?」

「これは……」

 

 さあやが一つのアイコンをタップすると画面が切り替わり、真ん中に赤い丸印が点滅しながら表示される。いや、どゆこと?

 

「はぐたんをご機嫌にするもんが、そこにあるんや」

 

 あくまで表示されるのはご機嫌になる対象の位置のみらしい。いわゆる位置表示機能とかいうものらしいが、その表示されているものや周辺の詳細分からないのは、かなり不安なのだが。

 何だか使えるのか使えないのかいまいちな性能としか評価出来ないぞ、ミライパッド。本当にこれではぐたんの機嫌をなおす手がかりが見つかるのか甚だ疑問に思う。

 いずれにせよ、このままはぐたんを不機嫌にしておくわけにもいかないので、僕らはミライパッドが示すポイントに向かって移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動中はミライパッドを逐一確認し合いながら、目的地へと向かっている。幸い、町でも一際目立つタワーの周辺に座標が表示されていたので大した徒労も負わずに近づいてはいるのだが……、

 

「ちょ〜……待ってぇ〜……」

「おそーいー!」

「寝不足には堪えんねんてぇ〜……」

 

 寝不足のハリーが虚ろ目で必死に僕らを追いかけてくる。その精神的肉体的疲労による余りに奇抜な走り方は、見るものが自ずと脇に逸れたくなるような姿をしており、出来るなら他人のふりをして遠ざけたい所ではあるが、はぐたんを抱えているのは彼なので、生憎知らぬ顔をするわけにもいかないのが現実だ。

 それにしても、先程から野乃さんのハリー対する扱いが散々過ぎて同情の念を抱かずにはいられない。今の今まで一度たりとも彼を気遣ったり労う様な素振りなど見せておらず、何か恨みであるのかと邪推してしまいそうになる程に。

 

「ここだ!」

「へ?」

 

 さあやがそう言って突き止めた場所には、のどかな日本庭園が広がっており、中に設けられたししおどしが水の貯留を流すと、落下の衝撃から生まれる独特な音が響き渡った。

 

「渋い……日本庭園、ししおどし……」

 

 日本庭園独特の雰囲気にあてられたのか、野乃さんの顔まで渋い目つきをしていた。そんな姿もまだキュートなんだよなぁ。

 

「はぁぎゅぅぅぅっ!」

「ダメなのっ?確かにここなのに」

 

 どうやら目的のものはここではないようだ。しかし、なぜミライパッドはこの場所を示したのやら。もしや不良品をつかまされているんじゃないだろうか。

 

「違うところが光った!」

「えっ?」

「それ壊れてるんじゃないの?」

「けんと」

「イエス、マム」

 

 今のさあやの呼び方で全てを察した。あれは『機械音痴が口出しするなすっこんでろ』のサインですね。

 

「あかん、もう動かれへん……」

 

 そう最後に言葉を絞り出したハリーはネズミの姿へと戻ってしまう。

 

「よし、任せて!」

 

 ハリーの脱落によって、次は野乃さんがはぐたんの運び屋を名乗り出た。

 

「ん〜っ初抱っこ紐、感動!」

「……いやぁぁぃゆ、えぁぁあぁ!」

 

 初めて抱っこ紐を経験した事で感動も一入なのは分かるが、どうせならはぐたんがご機嫌な状態の方がもっと良い思い出として残せただろうに。それと、自分も使った事はないしあまり自信もないから口を挟まなかったが、紐の付け方緩くないか?もう少し密着するように調整しないと、はぐたんが不安定になるし野乃さん自身腰回りに負担が掛かってしまうのではなかろうか。

 

「よしよーし」

「あ、はなちゃん。紐が緩いかも。もう少しはぐたんとくっつくように締めないと」

「え、そうなの?でも、もう付けちゃったから自分でやるのが、ぐっ、うぬぬ……っ、ダメだ、届かないよぉ……」

 

 僕と同様に、抱っこ紐の付け方に違和感を示していたらしいさあやが指摘するも、野乃さん一人では後ろの調整ベルトに手が届かないようだ。まさか抱っこ紐までもが欠陥品とは、あのネズミ、商品選びの眼力は節穴らしい。

 

「さあやちゃん、手伝ってくれない?」

「そうしたいんだけど……私ミライパッド持ってるから、片手で調整なんて出来ないし、調整する時ははなちゃんにはぐたんを抱えてもらわないとだし……」

「んむぅ……じゃあ、守鋼く……じゃなくて。けんとくん、手伝ってくれない?」

「ゑ」

「え?」

 

 な、なんですと?まさかの自分に白羽の矢が……というか、今けんとくんと呼ばれましたが……あ、そっか。そういえばさあやが仲間に加わった後に、僕の事も下の名前で呼んで良いか尋ねられたから、思わず二回も大袈裟に頷いていたんだった。

 さあやに続いて野乃さんにまで下の名前を呼ばれるなんて。もしかして僕、順調にリア充道中への道を切り開いているんじゃないか?

 

「ぼ、僕が、調整するの?」

「だって、さあやちゃんにはミライパッドに映ってる光を見てて貰わないといけないから、けんとくんしか頼める人いないんだもん」

「そ、そっか」

「ほら、早く急がないと」

 

 催促しながらこちらへ背中を向ける野乃さん。やっぱり小柄で細いよなぁ……まて、そんな感慨に耽ってる場合じゃないぞ。事態は急を要しているのだから。いや、だが、しかし……!

 

「どうしたの?」

「あ、いや、何でもない」

 

 あまり見られ続けると緊張のあまり色々とコントロールを失いそうなので、意を決して野乃さんの背中へと手を伸ばす。あ、良い匂い……フローラルの甘い香りがする。一瞬、まるで一面の花畑に身を投じながら暖かな日差しを受けて日向ぼっこをしている自分の姿が頭に浮かんだ。しかし何故だろう、初めて感じた匂いなのにどこかで嗅いだことがあるような既視感を感じているのは。

 恐らく勘違いであることを自分に言い聞かせる為、かぶりを振る。

 直し方の方法は単純。真ん中に止められたテープを一旦外し、ショルダーハーネスを調節したのち再び付け直すだけの簡単な作業だ。

 

「じゃ、じゃあ、いくよ……」

「?うん」

「まずは真ん中のテープを……」

「ひゃ⁉︎」

「あっ。ご、ごごごごめにゃさい!痛かった⁉︎」

「う、ううんっ。ちょっとくすぐったかっただけだから、大丈夫……」

「そ、そっか。なら良か──」

 

 ミシィッ!

 

「った…………」

 

 突如鼓膜を襲った不穏な音に首を向けると、顔をうつむかせたさあやが静かに身を震わせており、ミライパッドを持つ手に力が込められていた。

 

「さ、さあや……?」

「ん?どうしたの?」

 

 僕の呼びかけに顔を上げたさあやはとても穏やかな笑顔を見せてくれたのだが、手元のミライパッドは相反するようにみしみしと嫌な音を立てていた。

 な、なんだろう……。今のさあや、これまでに見たことが無いくらい怒りに打ち震えている気がするのだが。

 

「いや、その……ミライパッドが……」

「大丈夫だよ。私が見失わないようにちゃんと見てるから」

「そうじゃなくて、ミライパッド……」

「ほら、早く終わらせないとまた違う所に行っちゃうよ?」

「ねぇ、けんとくんまだー?」

「あ、う、うん……」

 

 いやいや野乃さん!あれ、あれぇ!もしかして気付いてないの⁉︎どう見てもさあやの背後から凄まじいオーラが漂い始めてるじゃないか!何だかよく分からないけど、この現状の何かが彼女の怒気を高めている原因であることは間違いない!今まで人助けの際に様々な危険を乗り越えてきたつもりだったが、今この時が断然恐ろしい。

 だが、まずは紐の調整を済ませなければ……よし、今度は右側のハーネスから短くなるように締めていき──あ。腕が恐怖のあまり震えて──

 

「ゃんっ。け、けんとくん……もう少し優しく……んっ……」

「ひぇ、ひゃい!」

 

 ミシ、ビシィッ!

 

「…………」

 

 お、オーラが般若になってる⁉︎新手のスタンド使いか⁉︎いやいやそんな暢気な実況してる場合じゃないんだって‼︎早く左も締め直して……

 

「ぁんっ!また……ぅんっ!……お願いだから……っ、ゆっくり……シて……」

「しゅ、しゅみましぇんっ!」

 

 あ、すんごい艶かしい声──ではなく頼むから声量を抑えてぇ!こっちの心臓が色んな意味でもたないから!

 

「…………ふふっ」

 

 ビシ、メキィッ!

 顔は天使、手元は瀕死。

 ミライパッドはかなり頑丈に設計されているためか、傷やヒビ一つ付いてはいないものの、己の危機を知らせるように悲鳴をあげていた。

 

「ふぅ……これでよし、と。野乃さん、終わったよ」

 

 静かに微笑み続けるさあやからの見えない重圧と怒りを秘めた視線に耐えながら、辛くも試練を乗り越えることが出来た。

 

「うん、ありがとう。あと野乃さんじゃなくてはな!名前で良いよってこないだ言ったじゃん」

「あ、そうだったね。ごめん」

「別にいいよ。次から呼んでくれれば」

 

 あー、そういえば僕も呼んで良かったのか。じゃあこれからは遠慮なくはなと呼ばせて頂きますっ。

 

「待たせちゃってごめんね、さあやちゃん。で、どこにいけばいいの?」

「え?う、ううん。大丈夫だよ。ついてきて」

 

 あれ、いつの間にか怒気がすっかり消え去ってる。一体全体何が彼女の怒りを引き起こしていたというのか。

 光点を見失わないようにさあやが先導し、僕とはなはそれに走って続く。ハリーはくたびれて動けない為、労いの意味も兼ねて僕が抱えるやくめを名乗り出た。

 しばらくして、皆で足を止めたそこは定期的に開かれている移動動物園だった。多種多様な動物達が柵の中で自由に動き回り、その愛らしさを存分に振る舞っている。自分の家にも動物はいるものの、殆どが馬や牛などの大型な為、普段目にすることのない小動物たちの姿はまた違った保護欲を掻き立たせる。

 

「ここっ」

『うん!』

 

 僕たち三人はお互いに顔を見合わせ頷くと、すぐにはぐたんの機嫌が直せるものの在処を突き止める為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ークライアス社ー

 社内のとある一室。そこには無表情で佇む少女と椅子に凭れかかるあのチャラ男が対面している。

 

「上層部から報告書の催促です。迅速、且つ速やかな提出をお願いします」

「そう言われてもな〜。ルールーちゃんには教えちゃおっかな〜」

 

 ルールーと呼ばれた少女から淡々と伝えられる上司の言伝に、チャラ男は更に姿勢を崩しながら報告を渋らせる。しかし、容姿端麗なルールーには特別に知らせようと思い立ったのか、椅子から腰を持ち上げ、すぐに口を開き始めた。

 

「実はぁ、報告書出さないのには理由あんの。あのね、見たことないプリキュアが出ちゃってさ〜。それも二人!おまけにとんでもないガキんちょまで出てきてもうてんてこ舞いってわけ!」

「捜索中のプリキュアではない上、新たな未知のイレギュラーが出現したと」

「うん」

「不足の事態。より迅速、且つ速やかな報告が必要です」

「え、ダメダメぇ〜!ミライクリスタルホワイトの手掛かりないし、何より新しいプリキュアもガキんちょも倒してないのよぉ!俺ちゃん怒られちゃーう!何か手ぇ無いかな?」

 

 両手をバタつかせ、ルールーへ報告の延期と良策の提供を要請するチャラ男に対し、彼女は嫌な顔一つせずに人差し指をこめかみに当てて頭の中で何かを考え始めた。

 

「……データの分析完了。プリキュアが居るところにクリスタルあり」

「へ?」

「ミライクリスタルホワイトのヒントは、新たなプリキュアにある確率95パーセント」

「なるほどぉ!さーすがルールーちゃん。持つべきものは可愛いバイトぉ!」

 

 ルールーの導き出した分析結果を受け、チャラ男は指を鳴らして不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこれぇ⁉︎」

「のびのび町の名物、車で移動する動物園だよ」

「へぇ〜!」

「はなって、移動型の動物園見たことないの?」

「うんっ。こんな場所で色んな動物が見られるなんて凄いね!」

 

 初めて目にする光景に、彼女は物珍しそうにはしゃぎながら忙しなく周りを見渡している。

 

「こうして月に一度、ここの広場を借りて動物達と触れ合う機会を作ってるんだって。大人しい動物ばかりだから、子供でも安全に楽しめる動物園として、ネットでも評判なんだよ」

「さすがさあやちゃん、ものしりっ。でも、さすがに羊以上に大きいのはいないよね……私、馬とかも目の前で見たかったなぁ……」

 

 む。これは、自宅に招待する絶好の機会が到来。これを口実に招かずして何とする守鋼絢飛。

 

「だったら、二人とも今度僕の家へ遊びにおいでよ。牧場やってるから、馬はもちろん牛なんかも近くで見れるよ」

 

 いや何この誘い文句。馬や牛自体は問題ないけど、よくよく考えたら糞尿の臭いがきついよなぁ。別に普通に誘っても特に問題無かったかもしれないし、寧ろ家畜を口実にしてしまった時点で逆効果だったのでは。

 

「え⁉︎けんとくんの家牧場やってるの⁉︎じゃあ、馬に乗れたりとか出来たりする⁉︎」

「う、うん。少しコツはいるけど」

 

 意外にも好感触の反応だった。

 

「行く!行くよ!さあやちゃんも一緒にどう⁉︎」

「え……えっと……それってつまり、私がけんとの家にっ?そんな、まだ心の準備が……」

 

 反面、さあやは両頬に手を添えて後ろを向いてしまい、どこか難色を示すような仕草を見せていた。まあこれもあり得ないことではないか。いくら掃除を欠かさないとはいえ、厩舎はある程度家畜の糞尿の臭いが充満しているからなぁ、恐らく臭いが染み付くことやそのものに抵抗を覚えるのだろう。

 

「さあや、嫌なら無理をしないで──」

「行く!行かせてっ!」

「あ、う、うん」

「じゃあ決まりだねっ」

「……けんとの家っ」

 

 何だろう、さあやの目的がはなと全く別な気がするのは。それに何だか覚悟を決めたような顔付きだけど、特段大したこと何も起きないから大丈夫ですよ?

 

「そう言えばハリーは……」

 

 ふと行方をくらませたハリーの所在が気になり周りを見渡してみると、何故か柵の中で子供達にいじくり回されていた。まあ、あの姿じゃ移動動物園の一匹に間違われるのも無理はない。

 

「まぁ、いいか。あれは放っておこう」

「地図によれば、ここの筈だけど……」

「これでご機嫌も……」

「んぅ〜……ふぃっ」

「まだななめってるね……」

 

 てっきり小動物によるアニマルセラピーを期待していたのだが、どうやらはぐたんのお眼鏡にはかなわなかったようだ。

 

「はぁぎゅうぅぅっ!はぁぎゅうぅぅ!ぇあぁぁあぁぁ!」

「ひとまず、柵から出よう。ここじゃ他の人の目にとまる」

「うん」

「そうだね」

 

 僕の打診に二人が了承したことを確認し、すぐさま皆で柵の外へ出てはぐたんをあやす。

 

「よしよーし」

「びいびいうるせえなぁ。だからガキは嫌いなんだよ」

「……はあ?」

 

 到底無視出来ぬ言葉に顔を向けると、サラリーマン風の中年男がふてぶてしそうにこちらを睨んでいた。

 

「ほう……貴様、たかだかまだ言葉を紡げぬ赤子の癇癪如きに、さも鬱陶しいと言わんばかりにこちらへ具申するとは、何様のつもりだ。(オレ)に口を開くときはこうべを垂れてからものを言え、雑種風情が」

「あぁ?何だにいちゃん文句でもあんのか?」

「けんと、くん……?」

「け、けんと……?」

(オレ)の許しなく口を開くなと命じたのが聞こえなかったか雑種。二度は言わんぞ」

「この野郎、言わせておけば……!」

 

 再び変な英霊が憑依した僕の煽動に怒りを誘発されたサラリーマンが、ズカズカとこちらへ歩み寄ろうとしたその時、

 

「あっ」

「輝木ほまれさん⁉︎」

「ふむ」

 

 あの不良生徒、輝木ほまれさんが僕らを背にサラリーマンへ向けて立ち塞がった。

 

「何だねえちゃん」

「カッコ悪い」

「はあ?」

「ガキは嫌いって、あなたも昔は子供だったんじゃないの?」

「んだとぉ?」

 

 更に険しく睨みをきかせるサラリーマンに対し、輝木さんは怯むことなく悠然と睨み返している。その物々しい雰囲気を感じ取ったのか、周囲から視線がこちらへと集まり始め、ちょっとした野次馬に変わり始める。

 

「子供相手に向きになることもねえか……」

 

 周りの視線を察した男は、急にしおらしい態度でそそくさと元いたベンチへ踵を返していく。

 

「はあ……!」

「カッコいい!」

 

 おっしゃる通りですね。もう二人の視線が輝木さんに釘付けですもん。

 あーあー、ひなせくんにハリーに輝木さん。僕の周りやたらとイケメン枠多いんだよなぁ。いや、輝木さんは女子だけど。

 

「ありがとうございます!今日もオシャレ……大人っぽーい……!」

 

 はなの言う通り、彼女の私服は体のラインが見えるオフショルダーのトップスに、白いフリルのスカートとモデルの様に着こなしている。極め付けはそのスカートからすらっと伸びた細長い脚。正に美脚の言葉が当てはまるほどの素晴らしい逸材で、超イケてる大人のお姉さんを夢見るはなが憧れの眼差しを向けるのも頷ける。

 

「可愛い〜……」

『え?』

「はぇ?」

 

 普段の凛とした面貌を突如弛めた輝木さんの姿に、全員が一瞬戸惑いながらもその目線を辿った先は、はなに抱えられているぐずりがひと段落ついたはぐたんの姿だった。

 その後、はぐたんの様子が落ち着いてきたので一度柵の中へ戻ると、輝木さんは近くにいた一匹のモルモット抱き上げ、適切な抱え方を説明してくれた。

 

「こうしてハグする感じで抱っこすると、落ち着くの」

「詳しいっ……」

「よく来るから、移動動物園」

「へぇ〜、そうなんだっ」

 

 もうすっかり仲睦まじそうに会話してますね、皆さん。僕なんか未だに輝木さんと一言も言葉を交わしてませんよ、ええ。さあやの時はともかく、はなの時も成り行きの流れで何とか話せた感じだったけど、輝木さんに関してはこっちから声をかける勇気はない。元来僕はナイーブでコミュ症なのだ、多分。

 

「そう言えば、あんた」

「え、僕?」

「他に誰がいんの?」

 

 思いがけぬ向こうからのアプローチ。どうしよう、何を話したらいいのかな。あーもう、緊張で顔も見れないよぉ……いや女子か。

 

「さっきあの男の人に変な感じで喋ってたよね。あれってどうかと思うんだけど」

「うぐっ、あ、あれは、その……一時の気の迷い?みたいな……」

「まあ、何にせよ気をつけた方がいいよ。完全に上から目線の言い方だったし」

「はい……」

「えっと……どんまい、けんとくん」

「ああ……」

「けんと……」

「さあや……」

 

 ああ、我がクラスの天使、いや、女神よ……その御言葉(みことば)で我が魂の救済をば……。

 

「あれは……その……ちょっと、ね……?」

 

 あー、ツラ。もう無理。生きるのしんど。あーもうどうでもいい!あー僕かわいそー!

 

「お姉ちゃん!」

 

 聞きなれぬ声に皆が振り向いた柵の外側では、親子二人がこちらを見つめいた。子供の方は小学生の高学年ぐらいの見た目で、ほぼはなと同じくらいの背丈に見える。というか、顔もどことなくはなと似ているような……。

 

「赤ちゃん⁉︎」

「はぎゅ……っ」

 

 少女は、はなが抱えているはぐたんの姿に気付き、驚きに目を見開かせながらこちらへと駆け寄ると、見慣れぬ人物の接近にはぐたんが少し不安の色を見せていた。

 しかしこちらも驚きだ。似ているとは思っていたがまさか実の姉妹だったとは。ということは、今ゆっくりこちらへ来ているあの眼鏡を掛けた美人お姉様がはなたちのお母様⁉︎え、嘘。この見た目で二児の母⁉︎しかも上の子に至っては中学二年生なのに⁉︎若ない⁉︎ズルない⁉︎

 

「え、何してるの?」

 

 ほう。妹ちゃん、近くで見ると益々はなに似ているな。まだまだ容姿にあどけなさが目立つものの、佇まいや雰囲気ははなよりも落ち着いた印象が感じられる。

 

「抱っこさせて」

「え?うん」

 

 はなママはそう言ってはなからはぐたんを引き受けると、慣れた様子ではぐたんを抱える。

 

「どうしたの?ほら、よしよし」

「はー……ぇひ、は〜ぎゅ〜♪」

 

 優しく腕に包まれるはぐたんから、みるみる笑顔が咲き始めた。

 

「笑った⁉︎」

「どうして……?」

 

 先程までのぐずりが嘘のようににこやかなはぐたんの姿を目の当たりにし、はなママ以外の僕らは皆呆気にとられた表情をしていた。

 

「で、この子、どこの子?」

「うっ!」

「んー……」

「え、と……」

 

 突然の思いも寄らぬ質問に、はなは目を逸らしながら音の無い口笛を吹き始め、さあやは何か上手く納得させられる説明は無いかと考えをめぐらせ、僕はどもりながら後頭部へ手を伸ばす。

 

「娘さんに、えらい世話になってます」

 

 そんな困りあぐねている状況の中、知らぬうちに人の姿へ変身を遂げたハリーがはなママへと話しかける。ナイスタイミングじゃないか、今日イチの活躍に感謝する。

 

「あなたがこの子の?若いお父さんね」

「え、お父さんていうか……」

「ママもっ、動物園に来たのっ?」

「んー、ちょっと取材。タワーにね」

 

 フォローするどころか事態をややこしくさせるような言葉を紡ぎかけたハリーから気を逸らそうと、はなが大振りに手を動かしながら母親へ質問を捻り出した事で、多少有耶無耶ではあるが何とか話題を変えることに成功したようだ。

 その後、僕らは観覧がてら、はなママのタワー取材に同行し、展望台へとやって来た。

 どこからでものびのび町の町並みを一望出来る壮大な光景を前に、野乃姉妹は食い入る様に外の景色を眺めている。特に、はなに至っては窓に張り付く姿が小さな子供を想起させ、同級生とは分かっていながらもついつい親心で見守りたくなる愛らしさに溢れていた。

 

「あなたがさあやさんで、ほまれさんでしょ」

「はいっ」

「え?ええ」

「はなに聞いてるわ。とっても素敵な方たちだって」

「そんな……」

「はぁ」

 

 目を配らせながら、顔と名前を確かめて来たはなママに、二人はそれぞれ頷く。輝木さんは自身の名前が出て来たのが予想外のようで、少し目を見開かせていた。その後、はなママがはなが話していた二人の印象について伝えると、どちらも照れくさそうに顔をうつむかせていた。

 

「それと、君がけんとくんね?」

「あ、はい」

「君のこともはなから聞いてるわ。何でも転校初日から一番最初に話し掛けてくれたり、休み時間も一人でいるところを気にかけてくれたとっても親切な人だって」

「い、いえいえ。自分はなにも……」

「皆そんなに謙遜しなくてもいいのに。こんなに素晴らしい人達と知り合えて、あの子も凄く喜んでるわ。本当にありがとう」

 

 笑顔で謝辞を述べるはなママに、僕らは照れくささと申し訳なさで言葉が上手く浮かばなかった。

 すると、会話の内容を変える為か(おもむろ)にさあやが口を開いた。

 

「タワーに遊びに来たんですか?」

「うーん、半分仕事っていうか……」

「ママはね、記者さんなんだよ。さっきも日本庭園見て来たんだよね」

 

 途中から話を聞きつけたらしい妹ちゃんが、はなママの後ろから顔を覗かせてタワーに来た理由と職業を明かす。なんと、彼女達も先程日本庭園へ訪れていたとは、もしや入れ違いをしていたのだろうか。タイミングが悪ければ、危うくハリーの正体が知られて面倒な事になっていたかも知れなかった。桑原桑原。

 

「ママたちも行ったんだ」

「町を取材するならやっぱり、名物ののびのびタワーよね」

 

 ひとしきり町並みを見終えたはながこちらに駆け戻り話の輪に入り始めると、はなママに抱かれていたはぐたんが次第に目をゆっくりと瞬かせ始め、そのまま眠りについた。思い返せば、はなママに抱かれ始めてから今まで一回も泣き声を上げずに大人しくしており、かなりリラックスする事が出来ていたようだ。

 

「寝よった。まるで魔法や!」

「ちょっとコツがいるのよ」

『え?』

「心臓の音を聞かせると落ち着くの。お母さんのお腹の中にいた頃を思い出すらしいわ。だから胸にこうして、赤ちゃんの耳をつけるようにして抱くといいのよ」

 

 なるほど、なんとも勉強になる。抱っこするにもそんな技術があるだなんて、子育てはやはり奥が深いようだ。

 

「すごいなぁ……!」

「はなとことりで、慣れたもんよ」

 

 さすが二児の母。育児に関してはお手の物という余裕の貫禄が見える。

 しかし、超能力を持つ僕を育てた母さんも、また違う苦労があったのだろうか。今度聞いてみようかな、小さい頃の色々な苦労話。

 

「代わります」

「待って。まだ眠りが浅いから、しばらくはこうやって落ち着かせないと」

「寝顔も、可愛い〜……!」

 

 はぐたんの寝顔につられ、輝木さんとはなの妹ちゃんははなママの後を着いて行き、その場に僕とはな、さあやにハリーが残った。

 

「移動動物園じゃなかったなかったかも。はぐたんをご機嫌にするものって」

「え?」

「じゃあ一体どんな?」

「ほら、光」

 

 そう言ってさあやが差し出したミライパッドをはなと二人でじっくり目を凝らして見ると、光は前方のはなママ達の歩みと重なるように移動していた。

 

「これって、ママ?」

「はなのお母さんが、はぐたんをご機嫌にするものだったのか」

 

 どうりで光があちこち位置を移動していたわけだ。

 

「お母さん、凄い。やっぱり経験には敵わないね」

「うん。悔しいけど私、まだまだ子供だな」

「命を育てるって、とても大変そうだ」

 

 これからたくさん未知の壁に突き当たるのだろう。それでも、それを乗り越えて行かなければならない。それこそが、命を預り育てる者としての義務であり責任なのだから。

 

「ねえ、ハリー」

「ん?」

 

 ミライパッドを眺めるハリーへ、唐突にはなが呼びかけた。

 てか、プリキュアにしか使えないはずなのに何でハリーが持ってる状態で起動しているんだ?だったら、僕が手にしても扱えるってことじゃないか。よし、ハリー、それをこちらに渡してもらおう。

 親指以外を二回ほど折り曲げ、彼にミライパッドを渡すようサインで促すとはなへ返事をしながら快く渡してくれた。よし、超イケてる機能満載と噂の性能、存分に確かめさせてもら──

 消えた画面。固まる僕。

 働け僕のアスパワワ!

 

「はぐたんのママは?」

「あ──…………」

 

 はなの質問に、彼は何かを黙考しながら窓際へと移動し、町を眺めながらこちらを背にして静かに語り始めた。

 

「オレがおった世界もこうやった……」

「え……?」

「明るくて、笑顔と希望に溢れる世界やった……あいつら、クライアス社の連中に時間を止められるまではな……!」

 

 どうゆうこった?オラのアスパワワでなんも反応しねェぞ。このミレェパッドっちゅうヤツ壊れてんか?──あ、さあやに没収され……はい、すみません大人しく話聞きます。

 

「アスパワワを奪われて、未来が無くなってもうた……オレ以外は……!」

「そんな……はぐたんの、ママも?」

「何とかオレは、はぐたんと一緒にミライクリスタルホワイトの力で逃げてきたけど……ミライクリスタルホワイトは、そん時力を使うてしもうた……」

 

 じゃあ、あの時の光の流星はハリー達がミライクリスタルホワイトという結晶の力を使って逃げて来たものだったのか。

 

「はぐたんに8個のミライクリスタルの力を与えたら、また時間が動き出すんや」

「ミライクリスタルって……?」

「はな達のクリスタルのことや」

「てことは……残り6個?」

「ああ、見つけんと。クライアス社の奴らを放っといたら、ここも……オレの世界みたいに……!」

 

 えーと……話を要約すると、ハリーとはぐたんは彼らの世界の時間を止めたクライアス社の魔の手からミライクリスタルホワイトの力を使ってこの世界へと逃げ延びたが、ミライクリスタルホワイトはその時力を使い果たしてしまった。そして、ハリー達の世界の時間を取り戻す為にははなたちが手にしているミライクリスタルを合計8個揃え、それらの力をはぐたんに与えることが唯一の方法である。おまけにクライアス社の魔の手はこの世界まで迫って来ており、放っておけばやがてこの世界もハリー達の世界と同様の結末を辿る事になってしまう、と。情報量多いよ。

 

「こっち来る!」

『⁉︎』

 

 唐突なはなママの言葉にすぐさまそちらを振り返ると、風船のように浮いて回遊している巨大なオシマイダーが現れていた。

 

「あれは⁉︎」

「クライアス社や!」

『オシマイダァァア』

 

 風船オシマイダーは徐々にタワーへと近づくと、両手でタワーを掴み前後に大きく揺らし始め、震動でハリーがネズミの姿へと戻ってしまい、はなはバランスを崩すが、間一髪のところでさあやが支えた。

 僕は、向こうで気を取られている輝木さん達の一瞬の隙を伺い、非常階段経由ではなとさあや、ハリーを抱え高速移動でタワーの頂上へと連れ出す。

 

「っ!え、あれ?ここって……」

「大丈夫?酔ったりしてない?」

「けんとくんがここまで?」

「ああ。便利な運び屋だろ?」

「ありがとう、けんと……」

「さあやも問題なさそうだね」

「う、ウブっ……ウップ。おえぇぇ……」

「……君は慣れるまで時間がかかりそうだ」

 

 地べたに手足をついて吐瀉するハリーを見下ろしながら、悩ましげに呟いた。ネズミの姿だからまだマシだが、人の姿でやられていたらと思うとバツが悪いな。

 その後、ハリーはすぐに元の調子を取り戻すと、はなとさあやへ目を配らせて頷き、二人もそれを受け、お互いで目線を合わせて同じ様に頷き合うとプリハートを取り出す。

 すぐに二人を目映い光が包み込み、光が消えるとプリキュアの姿で佇んでいた。

 

『はああああああ!』

 

 エールとアンジュは勢いよく地面を蹴り出すと、その力を利用して突進するように拳を前に突き出し、オシマイダーへぶつけて遥か後方へと殴り飛ばした。しかしオシマイダーは風船状の体であるためか、空中でバランスを取り戻すとすぐに体勢を整えた。

 二人は近くのビルへと着地し、再びオシマイダーへ対面する。それに続き、僕も手で圧縮させて懐に忍ばせていた黒一色の丈長レザーコートと顔を目元まで覆い隠せる目出しのバンダナを身につけて彼女達の元へと飛び降りる。

 

「いよ、っと。エール、アンジュ。油断はするな」

「出たなぁプリキュア!と……アンタ誰?」

 

 待っていたかのような口調で、オシマイダーの頭へ舞い降りたのは、またしてもあのチャラ男だった。

 こいつしつこいなぁ。む、何だその不思議そうな顔は。僕の顔になんか──ああ、このバンダナで顔が分からないのか。

 

「その声……もしかして、けんとくん……?」

「けんと……その格好……」

「ん?ああ、正体がバレないよう僕なりに考えんだけど……どうかな」

「あー、うん……」

「え、えーと……」

 

 この間の出来事があった後、こういう時に備えての正体を隠す手段が必要ではないかと思い立ち、すぐに衣装作りに取り掛かったのだ。本当はレザーコートのみで活動したかったが、自分はプリキュアのように容姿まで変身するような能力等持ち合わせていない為、仕方なく被り物も拵える事を余儀なくされた。しかし、これなら能力を堂々と使用しても僕の能力を知る者以外が正体に勘づくことはまず無いだろう。我ながら素晴らしい名案を生み出したとほめてやりたいトコロダァ……!

 

「オマエ、もしかしてあの怪力小僧?なんでコソ泥みたいな格好してんのか知らないけど、今回はオレちゃんのオシマイダーひと味違うよぉ!」

「コソ泥だって⁉︎」

『ぷっ』

 

 エールとアンジュへ即座に振り向くと、二人とも口元を手で隠し、こちらから顔を逸らしながら、クスクスと体が小刻みに震えており笑い声を懸命に抑えていた。

 あのチャラ男……今に後悔させてやるからな。

 

「なんで、こんなことを!」

「組織で成り上がるには仲間を出し抜かなきゃあ!オレちゃん一人でぇ?お手柄一人占めってやつ」

『オシマイダァアァ!」

 

 エールの詰問に対し、悪徳社員のような言い草を返すチャラ男を乗せたまま、オシマイダーは凄まじい速度でこちらへと猛進してくる。

 

「きゃあ!」

「うぐぅっ!」

「っ……!」

『きゃあああ!』

「ぬわっ!」

 

 三人でオシマイダーの攻撃を飛び上がり受け止めるも、予想以上に力が強く、纏めて後方のビルに吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 

「おっさんのトゲパワワ、イケるじゃん!」

『え⁉︎』

「なに⁉︎」

 

 チャラ男の言葉に心当たりを感じた僕らは、先程あのサラリーマンと口論した移動動物園の方角を見下ろす。そこには、トゲパワワのオーラに包まれ意識を失っているサラリーマンが立っていた。

 

「あ!あの人!」

「あいつをやっつけへんと、おっさんは元に戻らへん!」

 

 タワーから声を張って解決法を教えてくれたハリーの助言を受け、再び敵へと向き直り態勢を立て直す。

 

「ま、おっさんだけじゃなくてオマエらみーんな、明日は来ないから!」

『オシマイダァァァ!』

「人の時間を……未来を奪って!」

『オシマイダァア!』

「フレ!フレ!ハートフェザー!」

『オシマイダァァァァァァ‼︎』

 

 オシマイダーの二度目の突進に合わせてアンジュは前に出ると、ハートフェザーで盾を作り出し、正面から衝撃を受け止めて拮抗する。

 

「オシマイダー!押せ押せ!」

 

 チャラ男が鼓舞するように煽り立てると、オシマイダーが口を開き周りの大気を一気に吸い込み始める。奴の体はそれに連れてみるみると体積を増大させていき、遂には以前よりも倍以上の大きさとなった。

 

「流石にムリじゃね?どうよこのデカさ!」

 

 ああ。確かに驚くほど大きくなったさ。でも、

 

「体が大きくなったからといって、別に強くなったわけじゃない」

「あ?」

「はああああ‼︎はぐたんの為にも‼︎」

「今度はこっちの番だ、デカ風船」

『オシ⁉︎』

 

 エールとともオシマイダーへと跳躍し、二人同時にパンチを入れて奴の体勢を崩させて一度タワーの天辺へと着地する。

 

『オシマイダァァ』

「私はもっともっと、大きくならないといけないから!」

「エール!」

「うん!」

 

 エールとアイコンタクトを交わし、僕は手を組んで腕を伸ばすと腰を屈める。エールが僕の腕に飛び乗るのを確認すると、そのままカタパルトの様にオシマイダーへ向けてふり飛ばした。

 

「イケてる大人に!」

『ヌォ!グァァアァァ……』

「カッコいい大人に!」

 

 凄まじい速度で前方へと飛び出した勢いを利用し、渾身の拳を振り抜いたエールの猛攻にオシマイダーはみるみる後方へと押し出されていく。

 

「ふっ!」

『オシマイダァァァァ‼︎』

 

 ある程度までタワーから離れたことを確認したエールは一度ビルの屋上へと着地し、動きが止まったオシマイダーの隙を見計らい、必殺技を繰り出す為の体勢を整え始める。

 

「フレ!フレ!ハートフォーユー!」

「アレはヤバイやつ!ふっ!」

 

 二度も目の当たりにしている為、危険を感じたチャラ男はオシマイダーからすぐさま飛び降りる。打ち出された必殺ハートがオシマイダーへとぶつかり、その巨体をも容易に包み込みトゲパワワを浄化していく。

 

『ヤメサセテモライマス……』

 

 充足感溢れる弛緩の表情で、オシマイダーが消えていく。

 チャラ男はそれを見届けると、やる気を無くしたようにすぐさま踵を返して何処かへと姿を眩ませた。

 ふとあのサラリーマンを思い返し移動動物園のベンチを見下ろすと、清々しい表情のまま軽い足取りで走り去って行くのが見えた。どうやら無事元に戻ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れ、三人でタワーに戻ると、他の皆が麓で心配そうに僕らを探している姿が見えた。

 

「ママー!」

 

 母親の姿を見つけたはなは、一目散に胸の中へと飛び込み、無事を確かめた。

 

「心配したんだから」

「ママ……」

「ハグ」

「うん、ハグ……!」

 

 うむ。誠尊き光景よな。

 

「心臓の音が、聞こえる」

「……子供」

「ん?」

「甘えちゃってぇっ」

「うるさいなぁっ」

 

 揶揄う妹、揶揄われる姉。この姿も、また尊きものよな。

 感動のあまり語彙力下がってるなぁ、僕。

 

「だあぁ〜……」

「今度はなんや?」

「ああ」

 

 その後、いつの間にか目を覚まし何かを要求するはぐたんをきっかけに、はなママの招待にあやって皆ではなの家へとお邪魔し、はぐたんのミルクを作ってもらった。

 

「はい、どうぞ」

「おおきに」

 

 はなママから哺乳瓶を受け取り、ハリーがはぐたんへミルクを与えると、勢いよく飲み始めた。

 

「いい飲みっぷりだ」

 

 笑顔で腕を組み、はぐたんの姿を見つめるのは、はなのお父さん。かなりのガタイで、例え悪漢に襲われても容易く組み伏しそうなほど頼りがいのある風体の人物だ。

 

「パパさんまで。何から何まで、えらいすんません」

「一人で大変でしょう?」

「んぉ?」

「困ったことがあったら、いつでも来て」

「ほんまでっか⁉︎ほな、お言葉に甘えて!」

 

 ハリーとはな以外野乃一家はとても賑やかに団欒のひと時を過ごし、はな、さあや、僕の三人はそれを離れて見守っていた。

 それにしてもあの人間ネズミもどき、僕が部屋に招き入れた時とはえらい態度が違うじゃあないか。まあ、書き置き残していってたし、感謝の気持ちは受け取ってるから別にいいけど。

 

「輝木ほまれさん、一緒にくれば良かったのになぁ」

「うん……あっ」

「おっ」

「ん、どうしたの?」

「これ見て……光が、増えた?」

「動いてる?」

「この光、一体……」

 

 ミライパッドには、はなの家に三つ、そこから離れていく一つの光が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕焼けに染まる橋を一人で歩く輝木ほまれの姿があった。彼女は今日目にしたプリキュアと、異様な黒一色の装いをした彼らの姿が頭から離れず、ずっと思い返していた。

 

「プリキュア、それにあの黒いコートの男……あんな風に、また……飛びたい……!」

 

 見上げた空は、彼女の心情を描くようにまばらな混色の景色が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぐくみ市のとある空港。

 一台の自家用ジェットが着陸し、開かれた乗降扉の中から、白スーツ姿のスキンヘッドの男が降り立った。それを下で待っていた黒スーツ姿のボディーガード風の男が一礼する。

 

「搭乗お疲れ様でした、社長」

「ああ、御苦労。しかし、日本に来るのも十数年ぶりだな。あの頃は親父に連れられて、殆ど遊ぶ暇も無くビジネスについての社会勉強ばかりさせられてたからな」

「は、はぁ……」

「まあ、思い出話はよそう。あまり面白い話じゃないからな」

「では、今後の予定ですが、まずはホテルへチェックインし、翌日──」

「いや、このまままっすぐあの町へ行く」

「え?ですが……」

「首脳同士で話はついたんだ。やれることはすぐに取り掛からないと気が済まない性分でな。すぐに車を用意してくれ」

「承知しました。ではすぐに車の手配を……」

 

 どうやら黒スーツの男は付添人のようだ。車を手配する為、その場を離れて行く姿を見届けると、スキンヘッドの男は憎々しげに呟く。

 

「久しぶりの対面だな。私をこんな姿にした隕石め。償いがわりに思う存分研究させて貰うぞ」




ついに本編へあの男が参戦、運命が動き始めましたね。
それにしてもこれでやっと通常円盤1巻終わりですよ。この調子だと番外話を含めて100話は超える気がするなぁ。
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