目を覚ますと森の中だった。
辺りを見渡しても木、木、木に次ぐ木で何もわからない。
わかるのはここはヤバいということ。
それは何故か。
1、女神からモンスターのいる世界だと聞かされていること。
2、そこら中から野生のモンスターの声が聞こえてくること。
3、今まさにモンスターに出くわしていること。
「ああぁあぁあぁああ!!!!!」
ツイッター風に言うなら全力疾走なう、である。
今俺は大きなイノシシのようなモンスターに襲われているのである。
「誰かあああぁあぁあああぁ!!!!」
現実は非情であるということを知っていても叫ばずにはいられなかった。
森の中を全力で突っ走る。土地勘も無く、半泣きで息を切らしながら走る。
そして……やがて限界が来る。
それは思ったよりも早く訪れた。
木の根に躓いて転んでしまったのだ。
「あ……ぁ……」
恐怖と疲労で何も喋ることができない。喉がカラカラに渇く。呼吸すら満足に行えない。
巨大イノシシとの距離はあと数メートル。
転生したばかりで、俺はもう死ぬのか……、と目を閉じた瞬間。
ザシュッ、と肉を断つ音がした、そして
「大丈夫ですか!?僕の後ろに隠れていてください!」
恐る恐る目を開けると、そこには軽装備の少年の後ろ姿。
そして血を流しながら興奮し怒り狂う巨大イノシシ。
俺はカラカラの喉でなんとか息を整え、冷静になった。
ーー現状を整理しよう。
転生して、襲われて、転んで、助けられている。
今俺の前で戦っている少年は、命の恩人ではないか!
恩返しをしようにも、今は無一文だし……
働いて恩を返すしかないか……?と、そこまで考えたところで違和感に気づく。
さっきまでは冷静じゃなかったから気付かなかったが、俺は今、女になっている。
声は高いし、大きな胸の膨らみに、ついているはずの
その特徴群は俺を女と自覚させるには十分だった。
そして、今はそんなことを考えている場合ではない、と冷静になった頭で少年と巨大イノシシの戦いを見る。
少年はまるで巨大イノシシの動きを読んでいるかのように、突進をひらりと躱し、すれ違いざまに斬りつける。
それを見ていて理解する。
巨大イノシシはまっすぐ突進することしかできないようだ。しかし、かなりの速度が出ているように見える。
陸上部の経験があるとはいえ、俺はあんな速度で走れていたのか……?
と、考えているうちに巨大イノシシは動かなくなった。
少年はトドメを刺し、それを確認すると駆け寄ってきた、落ち着いて見ると中々の美少年だ。背丈は160cmくらいだろうか。
あどけなさの残る顔立ち。漆黒の瞳と髪は日本人のそれを思わせる。
「大丈夫ですか?怪我等は無いですか?」
少年は俺を見ると一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに心配そうな顔に戻った。
「ああ、助かったよ、ありがとう」
「いえ、困った時はお互い様ですから。怪我が無くて良かったです。それで、お姉さんはこんなところで何をしていたんですか?」
俺はお姉さんと呼ばれたことに違和感を覚えながら話す。
「その……道に迷ってしまったんだ……」
こう言った方が都合が良いだろう。と思い道に迷ったことにする。
「何処の街から来たんですか?」
予想通りの質問に一瞬詰まる。が
「あっちの方だ。あ〜……名前はなんていったかな……」
と適当な方向を指差して誤魔化す。
「あっちの方角ですと……イナハノドですかね?」
「そう!それ!いなはのど!」
適当に相槌をうつ。
「でも、イナハノドはここからですと遠いですね…とりあえず近くのパックリブに案内します。」
「助かる……がホントに恩返しとかはできないぞ?」
「いえ、大丈夫です……あ!もしかしてお姉さん冒険者志望ですか?でしたら僕とパーティを組んで欲しいな〜……なんて……」
少年は続ける。
「実は僕……冒険者なんですが、小さいからってナメられてパーティを組んでくれる人が居なくて困ってるんですよ……もしお姉さんが冒険者になるためにパックリブに行くつもりでしたら是非一緒にパーティを組んでほしいんです!」
なるほど冒険者か……それも面白いかもしれない。
それに命の恩人に恩を返すのも大事だろう。心残りが有ってはこの生を楽しみきれないかもしれないしな。
「あぁ、俺で良ければ。」
「やったぁ!では自己紹介を……僕はスティルです。職業は剣士で今まではずっとソロの冒険者でした。これからよろしくお願いします!」
「あぁ、俺は……」
とそこまで言ったところで口が止まった。
名前…名前か…森和真…モリカズマ…う〜ん、よし!
「俺の名前はリズだ。これからよろしくな。」
「リズさん……いい名前ですね!これからよろしくお願いします!」
「あぁ。」
「見たところ戦闘経験は無い感じですか?ならギルドで訓練生として働きながら訓練できますよ。」
ギルドか……そういえばそのあたりの情報は女神から聞いていたな……依頼を受けたり冒険者登録したりできるんだよな。スティルの口ぶりからすると訓練もできるみたいだ。
「じゃあ、そうしようかな。」
「では、とりあえず歩きましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
俺たちは歩き始めた。