ある日の事だ。
僕、こと森近霖之助は外の世界の武器を手にした。その名も『特殊用途向け自動式散弾銃』という、どうにも長ったらしい物だ。
外の武器らしいゴツゴツとしたデザインに、無駄に黒く頑丈な素材。そして『人を殺す』という明確な用途。
個人的にではあるが、僕はこういった類の物が嫌いだ。幻想郷にも不似合だ。だから、だからこそ、それを持ち帰る。用途も目的も分からない誰かがこんな物騒な物を振り回したりなんかしたらたまらないからね。
だからといって店に置いておくのも失敗だったかもしれないと、今の僕はつくづく悩まされていた。
「なぁ香霖、この黒くてでっかいのは何だ?」
そう、僕の悩みの種といえば大体魔理沙だ。人が居ない時も勝手に上がり込むし、気に入った物があれば勝手に持って行ってしまう。この外の武器をまだ持ち出してないあたりは不幸中の幸いとは言えるだろうが。
なにも店頭に置いておいた訳じゃ無く、僕の寝室の、しかもそこの箪笥の奥の奥に突っ込んでおいた物が今魔理沙の両手に収まっている。これは最早お転婆どころではない。
「魔理沙、気になるのは分かるがそれを降ろしてくれ。危ない物なんだ」
それを聞いて魔理沙はキョトンとしたが、直ぐにそれを机の上に置く。僕はそれを確認して、魔理沙に説明を始めた。
「これは外の世界の散弾銃だ。いわゆるショット・ガンだよ。僕としてはもっと別の物に興味を持ってもらいたかったんだけどね」
そう言って僕は椅子に深く腰掛け直した。魔理沙はというと興味深々といった感じにさっきの言葉を復唱した。
「へぇ、ショット・ガンか……。なあ香霖」
と、魔理沙が言いかけた処で僕は手を挙げて制止する。
「魔理沙、これは非売品だし譲る事も出来ないよ。」
「相変わらずケチだな、香霖は」
ケチと言われようがこれだけは譲れない。魔理沙を危ない目に逢わせるのは正直気分が悪いしね。
しかし今日の魔理沙はなんだか大人しい。いつもならもっと食って掛かるはずなのだが。
「魔理沙、何か隠してないか?」
「あー、そういえば野暮用で急用を思い出したぜ。じゃあまたな香霖!」
僕が疑うなり、すぐに魔理沙は店から飛び出して行った。これは何か盗まれたか…
そう考えて店の見回りを始めた途端に、来店した人影が見えた。今度は霊夢だ。何かの箱を大事そうに抱えている。
「やあ霊夢。君も僕の店を荒らしに来たのかい?」
「やーねぇ霖之助さん。まるで私がいつも店を荒らしてるみたいじゃない」
そういって霊夢はいつも魔理沙が座っている壺に腰かけた。それは椅子じゃないんだけどな。
「それで何の用だい?」
僕が霊夢に尋ねると、大事そうに抱えていた箱を開きながらこう答えた。
「美味しい饅頭を頂いちゃったから、おすそ分けついでに美味しいお茶でも貰おうと思って」
そう言って机の上に饅頭の箱を置こうとした霊夢の目にあるものが映る。
「ねぇ霖之助さん、この…黒くて変な形の物は何かしら?邪魔なんだけど」
「…ああ、それは散弾銃だよ。危うく魔理沙に盗まれそうになってね」
そう言いつつ僕は散弾銃を拾い上げたが、何故か違和感を感じた。
「……どうしたの?霖之助さん」
固まった僕に霊夢が声を掛ける。だが僕は返事をせずに銃を揺すってみた。
…おかしい。音がしない。その上何故か前に手に取った時より軽い気がする。
「霊夢、なんだか嫌な予感がするんだが」
「あら、霖之助さんの嫌な予感って外れた事、殆ど無かったわよね。
それで予感ってのは魔理沙絡み?これは私の勘だけど」
僕の嫌な予感と霊夢の勘の的中率は極めて高い。物的証拠から見ても十中八九魔理沙がロクでもないことをやらかすのだろう。
僕は霊夢に向き直り、話を切り出す。
「霊夢、ちょっとお願い事があるんだが」
「そうね、いままでのツケをチャラにしてくれるなら」
魔理沙を無法とするなら霊夢は横暴だ。
──────────
と、そういう訳で私は魔理沙の家の前にまでやって来た。
でかでかと掲げられた『霧雨魔法店』と書かれた看板に、コケだらけの壁に変色した屋根がある。間違いなく魔理沙の家だ
前に来たときと変わった所は……魔理沙の部屋の窓ガラスが割れているくらいかな。ついでに言うとガラスは外に散らばっているから空き巣という訳でもないだろう。
「ちょっと魔理沙、居るんでしょ?」
少し大きな声で家主を呼びながら扉を叩く。けどちょっと待っても返事は無かった。
「魔理沙ー!」
ドンドンと扉を叩きながら大声で叫ぶ。やっぱり返事が無い。
腹が立ったので扉を蹴飛ばすと、メキリと変な音がして扉が傾いた。蝶番でも外れたのだろうか。
とにかく、これでは鍵もずれて意味を成してないだろうと考えてドアを思い切り引っ張った。するとドアノブがすっぽ抜け、扉がゆっくりと家の中側に倒れて大きな音を立てた。
「…えっと、脆いドアね」
まさかここまで見事に壊れるとは思わなかったので、ドアのせいにして冗談を飛ばす。それを聞いて笑ってくれる人は居ないのだけど。
しかし、ドアを壊してまで家に押しかけたのに声の一つも無しとは、本当に留守かもね。
そう考えながら魔理沙の部屋の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。
…と、ここで気が付いたのだが、なんだか扉が傾いている。試しに押したり引いたりしてみたがびくともしない。
またも腹が立ったので蹴飛ばそうとしたが、さっきの玄関の二の舞になると考えてやめた。
「ひょっとしてこれ、引き戸だったりしてね」
そんなことは有り得ないと考えながらドアを横に動かす。するとドアはあっけなく開いた。
蝶番が壊れる音と共に。
「……えっと、脆いドアね」
ドアを放り投げ、正面を向くと机とその上にばら撒くように置かれた円柱状の何かがあった。サイズは大人の親指より少し太いくらいだろうか。うち一つが焼け焦げ、破裂している。何かが爆発したか燃えるかして中身が飛び出したようだ。
焼けたそれを一つ拾い上げ、割れた窓側を見てみると…魔理沙が居た。
「魔理沙…?」
返事は無い。魔理沙はうずくまる様に横になっていて、苦悶の表情を浮かべている。
そして口から、赤い血を吐きだしていた。
──────────
「いやー、あれはマジで死んだと思ったぜ!まさかアレが爆発するなんてな!」
永遠亭、その一室で魔理沙の元気な声が響く。なぜこんなところに居るかというと、霊夢が魔理沙を抱えてここまで搬送したのだ。
後に聞いた話だが、永遠亭の兎曰く「鬼のような形相の巫女が飛んできてこの世の終わりだと観念したレベル」の出来事だったとのこと。
「全く、魔理沙もそろそろ懲りてくれないかな?正直得体の知れない物を突き回すなんて藪蛇もいいところだよ」
僕はそう言い、魔理沙に兎の形に切ったリンゴを手渡す。
霊夢は焼けた円柱状の何かを手で弄んでいた。
「で、霖之助さん。これは何だったの?」
霊夢は焼けた何か…おそらく魔理沙の言う『アレ』、こと薬莢を僕に手渡した。
「ふむ…これは空砲だね。弾の代わりに空気が飛ぶ奴さ。強い衝撃を加えると爆発するって聞いた事はあるけど、まさか魔理沙が実験台になるとはね」
「ですって。良かったわね魔理沙、弾が入ってたらあんた死んでたわよ」
それを聞いて魔理沙は苦笑いをしながらリンゴをかじった。かじったリンゴにはうっすら血が滲んでいるが、まあ、口を切ったから当たり前と言えば当たり前か。
他に怪我をしたと言えば、胸を強く圧迫された事と、背中を打ったくらいだ。霊夢はそのことで「無い胸がさらに潰れなくてよかったわねー」と魔理沙をからかっている。
そんな他愛のないやり取りを見ながら、僕は考え事を始める。ずっと僕の心の隅で一つの懸念が渦を巻いていることだ。
あのような武器が外からやってくるという事は外の世界に不要とされたからに違いは無いのだが、どのように不要になったのかがずっと気になっている。
──果たして、あの武器は外が平和になったから不要になったのか。
──あるいは、さらに効率的な殺戮兵器が出来たから不要になったのか。
答えは今の僕には分からないが…きっと近いうちに、答えが幻想入りするだろう。
登場したショットガンはSPAS12。現在生産されてません。
チューブ式マガジンは再装填に時間がかかるうえにSPAS自体がやや欠陥兵器だったからです。
現在はSPAS15のほうに生産が移っているとか、いないとか。