Ex 魔理沙   作:アサルトゲーマー

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咲夜は魔理沙のはじまり

「いやー、やっぱタダで食べるケーキは絶品だな!」

「あら、そんなに気に入った?」

「おう!」

 

 今、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は紅魔のメイド長が作るケーキに舌鼓を打っていた。

 そして魔理沙がケーキを食べ終わった頃を見計らい、紅魔のメイド長たる咲夜は次のケーキを差し出す。

 

「それじゃあこっちのケーキはどうかしら?」

「お、いいのか?」

 

 魔理沙は返事も聞かずにケーキにフォークを入れ、そのまま口に運ぶ。そしてそのケーキを口に含んだ後、何とも言い難い微妙な顔をした。

 

「……なんだかしょっぱいぜ」

「あら、口に合わなかったかしら?」

 

 魔理沙は手元にあった紅茶をぐいとあおり、口の中のケーキを早々に飲み込んだ。それを見た咲夜は魔理沙のカップに紅茶を足す。

 そして咲夜は自分のカップを持ち上げ、香りを確認しながらケーキについて語りだした。

 

「実はそのケーキ、美鈴のお気に入りなのよ?」

 

 魔理沙は目を見開き、「えっ」と驚きの声をあげた。

 

「あの門番、寝てばっかりだからどっかおかしいんじゃないかと思ってたがまさか味覚がとはなぁ」

 

 魔理沙はもう一口ケーキを食べると、やっぱ食べるんじゃなかったといった顔をしてまた紅茶で飲み込んだ。そしてまた咲夜が紅茶を足す。

 

「寝てても美鈴は美鈴よ。ああ見えて優秀なんだから……盾としては」

 

 その言葉を聞いた魔理沙は「ああ、盾か」と納得し、可哀そうな物を見る瞳で門の方に目をやった。

 しかし窓から見える門に美鈴はおらず代わりに妖精が三匹いる程度だ。

 魔理沙があれ?と首を傾げたまさにその瞬間、大きな音と共に部屋の扉が開け放たれた。

 

「おやつおやつー♪……あれ?こんな所で何してるんですか?」

 

 扉を開けた犯人はスリットから覗く生足が綺麗な美鈴だった。それはこっちの台詞だぜ、と魔理沙は呟く。

 

「あら美鈴、ここは休憩室なんだから休憩してるに決まってるじゃない」

「いやまあそうなんですけどね」

 

 そう言うと美鈴は空いている椅子に腰かけた。するとどこからともなく紅茶が現れ、それを見た美鈴は驚きながらも咲夜に一礼する。

 

「ところで美鈴、門番の仕事はどうしたの?」

「あ、それなんですけどお嬢様から今日お暇を頂きまして」

 

 美鈴は紅茶の香りを楽しみながらゆっくりとカップに口を付ける。魔理沙は美鈴を見て、手元のケーキに視線を落とし、もう一度美鈴を見た。そしてそのまま美鈴に声をかける。

 

「あー、ケーキいるか?」

「えっ?……あー!そのケーキ私の大好物なんです!いいんですかもらっちゃって!」

「お、おう……」

 

 美鈴のテンションに若干引きながら魔理沙はケーキを手渡す。美鈴は魔理沙からケーキを受け取ると美味しそうに頬張りだした。

 それを見た魔理沙は心底理解できないといった感じで咲夜の方を見ると、それに気づいた咲夜は肩を竦めてヤレヤレといった感じで首を振った。

 ケーキを渡したので手持無沙汰になった魔理沙は頬杖を着いていたが、暇になったのか足元に置いてあった数冊の本を机に置き始める。

 

「それは何?」

 

 咲夜が本について聞くと魔理沙はそれに快く応じた。

 

「ん?こいつはパチュリーが『これでも読んで少しは勉強なさい』……とか言って渡してきた本だぜ」

 

 魔理沙は似てない口真似を披露した後、本を順番に並べていった。

 右手側から『魔女狩りの歴史』『串刺し公』『中国武術入門』『メイドの作法~上級編~』などといった統一性のない物が魔理沙の手によって並べられていく。そして最後に置かれた本が咲夜の目に留まり、それを拾い上げた。

 

「切り裂きジャック、ね」

 

 本と云うよりは節穴を開けて紐を通しただけの簡単な資料。だが咲夜の心を揺さぶる何かがあったようで、表紙や裏表紙をくるくる回しながら見たり適当に開いたページを読み始めたりした。

 それを見ていた魔理沙は「やっぱこの館はおかしな奴ばっかだぜ」と呟き、さらにため息を吐く。そして一番手元にあった中国武術入門という本を手に取り、自分の世界に入った。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、魔理沙」

 

 十分か二十分か、そこそこの時間が経った頃合いに咲夜は魔理沙に声を掛けた。

 魔理沙が「ん?」と声をこぼし、自分の方を向いたのを確認して冷えた紅茶を指差す。

 

「もう紅茶を片付けるから飲んじゃって頂戴な」

 

 その紅茶にはいつの間にか小さな氷が少しと生のレモンの輪切りが入っていた。

 

「嫌に気が利くじゃないか」

 

 魔理沙が不敵に笑うと咲夜も微笑み返し、「そうでなければお嬢様の我侭に振り回されてしまいますわ」と明後日の方に目を逸らしながら答えた。

 魔理沙は一息で紅茶を飲み干すとレモンの輪切りを口に咥え、カップを咲夜に渡した。咲夜はカップを受け取ると「皮は渋いわよ」とひとこと言い残してキッチンの方に消えていった。

 レモンを丸呑みした後魔理沙は本の続きを読もうとしたが、机の上にあった一冊の本に興味が向く。

 タイトルは『Jack the Ripper』。魔理沙は先程まで読んでいた本を適当にひっくり返して置く。美鈴が見ていたら黙ってはいないだろうが、生憎当人はケーキを食べた後さっさとどこかへ行ってしまったようだ。

 魔理沙はその本を拾い上げて開く。果たして、その内容は切り裂きジャックと呼ばれる外の世界に実在した殺人鬼について綴られていた。

 ロンドンの貧民街に突如現れた亡霊のような男といった記述から始まり、少なくとも五人は殺したとか、最大で二十人近くその手に掛かっているかもしれないとか、ユダヤ人であるとか、外国人であるとか、医者であるとか、左利きである可能性が極めて高いだとか、実は女だったのではないかといった感じに事実と憶測が綯い交ぜになっている。

 

「資料としては三流だぜ」

 

 魔理沙が椅子の背もたれに体を預けそう評価した時、いつの間にか向かい側の席に座っていた咲夜が「そうでもないわよ」と答えた。

 

「うお!いつの間に!」

 

 魔理沙は驚いて手から本を滑り落としてしまうが、それは地面に着く前に咲夜に拾われる。咲夜はそのままその本を開き、適当なページを読みながら魔理沙に語りかけた。

 

「やっぱり迷宮入りした事件の醍醐味というのかしら?雑多な情報がまたミステリアスさに拍車を拍車を掛けてるでしょう?」

「ふぅん。やっぱり資料としちゃダメじゃないか」 

 

 魔理沙は頬杖をついて、咲夜の方に面白くなさそうに顔を向けた。だが咲夜は魔理沙の言葉を否定する。

 

「いいかしら?これは事件の情報として見るから三流なのであって、ミステリー小説を書く上ではこの上ない資料よ。ほら、ここのページなんか死因から犯行現場までしっかり載ってる」 

 

 咲夜は淡々と続けて行くが、魔理沙は気味が悪そうに顔の前で手を振る。

 

「止めてくれよ。私は外の世界のイかれた奴なんか興味ないぜ」

「私はあるわ」

 

 咲夜の返事にげんなりした魔理沙は椅子にだらしなく身体を預け天を仰ぐ一方、咲夜はまた楽しそうにその本を読み始めた。

 そしてはたと本を読むのを止め、咲夜は本を机の上に置く。

 

「12」

 

 咲夜はそう呟いた。先程から天井と睨めっこをしていた魔理沙は咲夜の方へ向き直る。

 

「何の話だ?」

 

 怪訝そうな魔理沙の目を見て、咲夜は語り出す。

 

「いつかは話そうと思っていたのだけれどね。切り裂きジャックの事」

 

 咲夜は立ち上がり、魔理沙の座る椅子の後ろにもたれ掛かる。椅子からはギシリという悲鳴が聞こえた。

 

「魔理沙に質問よ。私の性別は?」

「え?男だったのか?」

「ぶっ飛ばすわよ」

 

 それから咲夜は魔理沙の周りをぐるりと回るように歩き始める。左手でナイフを弄びながら。

 

「次の質問。私の利き腕は?」

「そりゃあ……左だった、よな?ナイフのホルスターも左だし」

「ご名答」

 

 魔理沙は言いよどみながら、なんとか咲夜の欲する答えを提示することが出来た。

 そして咲夜は魔理沙と向かい合い、間を挟むテーブルに右手を付いて口を開く。

 

「最後の質問。私の趣味は?」

 

 魔理沙の背中には冷たいものが流れる感覚があった。先程読んだ本の殺人鬼考察と同じ、左利きで女性という点。そして咲夜は何かを楽しんでいるように微笑んでいる。

 魔理沙は恐る恐るではあるが、咲夜の質問に答える。

 

「えっと……人殺し、とか?」

 

 魔理沙の右手にはこっそりとミニ八卦炉が握られていた。いつでも咲夜の方へ向けられるように全身を強張らせて。

 しかしそんな魔理沙の反応とは裏腹に、咲夜は吹き出しながら笑い出した。

 

「ぷふっ、あはははっ!そんな訳無いじゃない!

 …私が好きなのはお嬢様方に食事を作る事よ」

 

 その笑顔を見た魔理沙は全身から力が抜けた。拍子抜けというやつである。

 咲夜はにこにことした笑顔で魔理沙にこう尋ねた。

 

「何?私が切り裂きジャックとでも思ったかしら?」

「べ、別にそんなんじゃないぜ…」

 

 魔理沙は赤くなった顔を隠すように帽子を深く被り、それを見た咲夜はまた笑った。

 ひとしきり笑い終わった後、咲夜は魔理沙のじとりとした視線に気が付いたのか、オホンと咳払いをして話を続ける。

 

「ところで魔理沙、どうして私が切り裂きジャックって思ったのかしら?」

 

 そう尋ねられた魔理沙はまた顔を赤くして、そっぽを向きながらも律儀に答える。

 

「そりゃ、さっきの冊子に『女』とか『左利き』とか『外国人』とか書いてたのがお前に当てはまりまくるじゃないか」

「それが落とし穴なのよ」

 

 咲夜の一言に魔理沙が固まる。固まったのは一瞬だけだったので咲夜はさらに続ける。

 

「あの資料には『男』とも書いてたし、『左利き』も可能性でしかないわ。そもそも国籍なんて噂でしかないじゃない。

 でも例外的に書かれた文章が印象に残るのはよくある事よ」

 

「つまりお前は何が言いたいんだ?」

 

 話を黙って聞いていた魔理沙はぶすっとした感じで質問を飛ばす。

 咲夜は質問を受け取って、にこやかに笑いながらこう答えた。

 

「魔理沙、貴女はこの冊子と私の演技にまんまと騙されたって訳なのよ」

 

 さらに咲夜は、パチュリーが書庫を荒らす鼠に恥を掻かすかお灸を据えてほしいと言っていた旨を付け足す。

 それを聞いた魔理沙は「あー」と呻りながら、やられたぜと小さく呟いた。

 

「全く、この館の奴らはイタズラ好きな奴ばっかりだな。

 あの質問の前に言っていた『12』ってのも何かの布石だったのか?」

 

 魔理沙にそう尋ねられた咲夜は、腕を組んで魔理沙の向かいに座った。

 

「そうよ、でもそれを答える前に私から一つ質問するわ」

 

 なんだ?と魔理沙は机に肘をついて頬杖をつくような形で咲夜に顔を近づける。

 

「あのしょっぱいケーキ、私は味見すらしたことは無いわ。この意味、わかる?」

「……?」

 

 魔理沙は正直訳が分からないといった顔で悩んだ。そしてその顔は一瞬後にどっと冷や汗が噴き出る。吸血鬼のケーキに血を入れるんだから妖怪のケーキにも準ずるものが入ってても不思議ではない。そのことに気が付いたのだ。

 

「さっきの数字」

 

 その一言で魔理沙の顔がさらに青ざめたものへと変わり、そして咲夜は、今まで誰にも見せたことの無いような、心底幸せそうな笑顔で口を開いた。

 

 

 

 

「私が、幻想郷に来る前に殺した人数よ」

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

「ああ、楽しかった」

 

 咲夜は誰も居なくなった休憩室で一人優雅にお茶を楽しんでいた。ポケットから自分の手帳とペンを取り出し、横線を引く。

 

「お仕事完遂。これでしばらくは魔理沙も悪さしないでしょう」

 

 横線を引いた場所。そこには『ネズミ撃退大作戦 案・パチュリー様』と書かれていた。




咲夜さんはこの話の中で一つだけ嘘をつきました。どれでしょう?

1「実はそのケーキ、美鈴のお気に入りなのよ?」
2「あのしょっぱいケーキ、私は味見すらしたことは無いわ。この意味、わかる?」
3「さっきの数字 私が、幻想郷に来る前に殺した人数よ」


答えは次回のまえがきにて
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