クレマンティーヌ・コンクエスト 作:ク・ドゥ・グラース
森の外までモンスターに出くわさず、また厄介な強敵の姿も無く――
多少の空腹を覚えつつ歩き続けた。
何度蘇生されたのか分からないが、何度も森の中で死にたくはないし、外でも同様――
途中身体の感覚を取り戻すために鍛錬を
思いのほか体力が落ちていた。野宿しても休めた気がしない。
(……こんな調子で帝国まで行けるとは思えない。かといって他の都市に潜伏するには遠すぎる)
どの道、距離的に遠いのはどこも一緒。近隣の村でもこの際我慢することにする。
もし、復活地点が同じであれば王国領に近いはず。追っ手に捕まっていないところから
(……だが、それでも何度か殺されている。一体誰に?)
死亡する前の記憶が思い出せないのは痛い。
復活拠点に誰も居ないのは確かだが――もしかして行く手に待ち構えられているのか、と危惧する。
しかし――
そうした思索を重ねたところで結果が同じであればどこに逃げても同じである。
クレマンティーヌは深くため息をつく。そして、森の外の空を見上げた。
奇麗な空だと思った。何度も死んでいるからなのか――気持ちはとても穏やかだった。
(……ああ、この先に進めば私は
食欲があるならば希望は
多くの修羅場には慣れた
(……怖いよー。マジで怖い。多くを手にかけてきたツケが一気に来たみてーだ)
恐怖心は強者との戦いには必須。恐れるものがあるから無茶をしなくて済む。
引き際を見極められなければ長生きできない事をクレマンティーヌは
出来ないというよりは未知の恐怖が自分を捉えていて逃げられない状態になっている、気がする。
森の外に敵と思われる姿は確認できない。魔法的な結界の
出てすぐに殺されるわけではなく、ある地点で待ち構えていると思われる。根拠は無かったけれど長年の勘に今は頼る以外の
おそるおそる足を日の光りに当てる。もし、自分がアンデッドであれば浄化作用が起きる。無自覚に変質させられている可能性もあるので、念のための行動だ。
(……弱体化だけか? それとも別の要因か?)
運命に翻弄される生き方を選んだ自分が悪いのだが、今はとても素直な自分を行け入れている。もう悪いことはしたくないほどに。
自分が信奉する六大神に祈りを捧げる。今回は六人全員だ。
久しく頼らなかった無神論者ではあるが元々は敬虔な信者であったクレマンティーヌ。
様々な要因を経て、今の
(そういえば……。私の装備品は何処へ?)
人間――死んだ後蘇生魔法による復活の際、生前身に着けた装備品も一緒になることがある。装備から外していた場合は諦めるしかない。
今のクレマンティーヌは幾分か軽装であった。完全な裸でなかったのが運が良かった。
季節柄葉っぱだけで森の中を移動することになるのは――女性としては――抵抗があった。
最低限の装備品だけで満足するとして、随分と軽くなった事は残念に思う。
(ガントレットは無し。
改めて自身の身体を確かめる。
街に入っても怪しまれない程度の装備に安心と不安が半分半分といったところ。
飲食するための資金稼ぎが最大の問題だと判断する。
(私の後ろはもう無い。前に進んで終わりなら……、それもまた良し、か……)
軽く息をつく
武器を握れるだけの存在だとしても生きているからには前に行かなければならない。
もう引き返す道は無いのだから。
バシュ。
耳に届いた音は聞き慣れないものであった。
いざ森の外へ身を乗り出そうとした瞬間に聞こえた。疑問を覚える
「……?」
閃光。一瞬だったが何かが光った。おそらく音の元凶だ。であればそれは
呆けた状態のクレマンティーヌは視界が揺らぐのを感じた。より正確には態勢が傾き始めた。自分の意志とは関係なく。
ふと下を見れば繰り出す筈の右足が無い。太腿付近が
「……ひっ」
短く悲鳴をあげつつ側にある木に手を突こうとした。しかし、感覚が普段と違うことに気づく。
肩口から先が麻痺したように――。否、それは麻痺ではなかった。
左腕が無い。
態勢を整える事が出来ずに無様に木にぶつかり、地面に崩れ落ちる。そして、目の前には
何者かの攻撃であるのは理解した。それは普通の樹木に擬態した植物モンスターとは違うと予想。
自分の知識にある植物モンスターにここまでの殺傷能力を持つ者を知らないだけだが――
それにしては意識外からの攻撃は予想していなかった。いや、これこそが自分の死因ではないかと気が付いてくる。
「……ぐうぅ……」
咄嗟の事とは言え大声をあげなかったのは拷問などによる痛みへの耐性があったからか。しかし、それでもやはり痛い。傷口が熱くなってきた。
出血の度合いは多くないのは熱線により焼き潰されていると予想。
小さな音を発し、人体を吹き飛ばす高度な攻撃方法の記憶は無いが、敵が居る事だけは理解した。
やはり、自分は森の中で何度も殺されている。おそらく手口も同じはずだと。
――であればもう、足掻くことは無意味ではないのか。そう思ってしまう自分を自覚する。
生と死を繰り返す。普通ならば蘇る事に喜びを感じる。けれども即座にまた死を
普段以上に重い身体そのものが今はとても邪魔くさく思えた。
声を出そうとしても無意味である。助けを呼ぶことも出来ない。けれども――助かりたい気持ちがある。
生きていたい。もはや後には何もない。
クレマンティーヌは残った腕一本で地面を這いずる。どこへ行こうというのか、と自分に尋ねてみても答えは出ない。それはそうだ。
自分が一番知りたいことだから。
(……今度は蜘蛛に生まれ変わるのかな……。一人で暗い世界を這いまわる……。けれども助けは無し……)
痛みで余計な風景を幻視し始めた。
朦朧としているのは何となく分かる。身体も重い。
なんとなく――
もうすぐ死ぬ。
いくら出血量が少ないと言っても血の匂いを嗅ぎつけた獣に襲われればひとたまりもない。
もう少しで森から出られると思っていたのに。
その希望こそが罠だった。だが、それでも――進まなければならなかった。
惨めな薄暗い世界はもう嫌だ。
「……クソ。クソっ、クソクソ。……こんなところで」
弱々しく呟くクレマンティーヌ。
後方に置いてきた自分の手足にはもう未練すら感じない。今はただ前に進むだけ。
生きるためなら自分の肉体すら犠牲にする。ただ、生存したい本能だけが彼女の原動力であった。
その彼女に止めを刺すが如く、足音が聞こえてくる。死角から静かに。
迎撃する余力はない。思いのほか弱体化していたせいだ。
(せめて顔くらいは……見ておかないと)
大きなケガのせいで反撃したとしても助かる確率はほぼ無い。確実な死しか感じない。
それでも自分を攻撃してきた者の存在だけは見ておかなければ。
腐っても漆黒聖典の第九席次を務めた戦士だ。敵に対する敬意は僅かでも残っている。
近づく足音に対し、攻撃の手は止まっていた。そして――
クレマンティーヌは何とか音の方向に顔を向ける。
そこには――無があった。
喜怒哀楽のどれでもない、けれどもあえて限定するのであれば僅かな驚き。それと悲哀か。
間違った獲物を仕留めてしまった失策を犯した顔。
腰にかかるほど長い