クレマンティーヌ・コンクエスト 作:ク・ドゥ・グラース
襲撃者の顔は人間というよりは作り物めいたものに思えた。それはあくまで直感的なものではあったが――
喜怒哀楽が抜け落ちたように見えたのはおそらく幻だ。それを額面通りに受け取れる余裕は無かったけれど金髪赤目の女戦士クレマンティーヌは確かに見たのだ。
今までの人生おいて見た事の無い武器を携えて戸惑う襲撃者を。
(……こいつ。どこかで……。まさか私を何度も殺しているのはこいつか?)
それが真実であったとしても地に伏せるクレマンティーヌに抗うすべはない。ただ殺されるだけだ。
おそらく交渉事も失敗している。何度も、というところが引っかかる。
いくら短期的な部分が欠落しているとはいえ何度も同じ愚は犯さない。ゆえに結論は出た。
間違いなく腰まで長い
「………」
抵抗は無意味だ。それを悟ったクレマンティーヌに出来る事は死を受け入れる事とみっともなく足掻く事だ。それとて既に失敗している筈だ。
であれば――
(間違った獲物というわけではないはずだ。……現状を打破するだけの方法も無い)
(……もう武技が使えない? ……兆候も確認できなかった。……実験は終了)
ほんの僅かな逡巡を抱くも襲撃者たる『シズ・デルタ』は武器を収めた。
打ち抜いた事で地面に転がったクレマンティーヌの手足の傷跡を確認する。熱線により傷口は焼き潰されており過剰な出血は認められない。――本体の方も同様だった。
これにより彼女が出血死する事は防げた。それにシズは内心で安堵する。
(……予定数の死を超える処だった。次のステージに移行する)
迷彩柄のメイド服を身にまとう暗殺者然としたシズは蹲ったまま動かないクレマンティーヌの身体を仰向けにする。抵抗しなかったのが少し気になった。
少し前までは激しく抵抗した。その時は顔を吹き飛ばしたが――
今回は学習したのか手間がかからない。
「……質問」
「……喋るのかよ」
「……会話してはいけないとは言われていない。……どうして武技を使わなかったの?」
「……ああ? ……チっ。弱体化した今の状態じゃあ無理だ。それくらい分からないわけじゃない」
舌打ちしつつも強者に対し、クレマンティーヌは包み隠さずに答えた。これは何度も死んでいると予想しての結論である。
抵抗する事にもはや意味は無い。そう思ってしまったから。
仮に武技が使えるとしてもシズの攻撃を防げたのか、と言われれば否だ。全く感知できなかった。それは死ぬ前でも同様だったのだと――
「……人間は窮地に立たされると物凄い力を発揮すると聞いた」
「……むぅ。それは……、出来る時と出来ない時がある。……私は出来なかった。それだけだ」
(……嘘は無さそう。……聞く前に殺さなくてよかった。……思わず、ということが私にはあるようだから)
聞くべきことを聞いたので処分する、という命令も
窮地による起死回生の確認はここで終了である、とシズは判断する。
手足を打ち抜かれたクレマンティーヌを近くに作った小屋へと運ぶ事にする。ただ、その際の移動手段について思考する。
首根っこ捕まえるか、抱き上げるか。それとも背負うのが正しいのか、と。
生物をそのまま『
今回、殺害を敢行してしまうと蘇生できずに灰になるところだった。
(……殺し過ぎるとアインズ様に叱られる。……生き物は大切にせよ、と言われたばかりなのに)
最近、大切にする生物が増えてきたので手元に置く許可をもらう時、先の条件を提示された。
シズが所属する組織では部外者に対する規制が厳しい。誰もかれも招くことが出来ない。
一先ずクレマンティーヌを
考え事が長引くと貧血でそのまま死んでしまうかもしれないし、自害の可能性も否定できない。
それから小屋に運び込んだ後、彼女が目覚める前に欠損した手足を再生させる。それにはシズだけでは不可能なので目上の存在たる『
最近、人間の丸かじりが出来なくて不満を漏らしていたが先ほど撃ち抜いた手足を提示すると大層喜んでくれた。早めに保存しないとすぐに腐るのが生物の欠点だ。それと治癒魔法を本体にかけると離れた部位が光りの粒子となって消失してしまう。
ペストーニャによって復活を果たしたクレマンティーヌ。しかし、それでも失った力まで戻ったわけではない。
(……後は食事療法とレベル上げ。……後者はアインズ様やデミウルゴス様にお伺いを立てないと……)
必要事項を忘れないようにメモした後、安静にしているクレマンティーヌの様子を窺う。
伝え聞いた情報が確かならば彼女を飼い殺しにする方が色々と利用しやすい、という事だった。だが、そういう方法に不慣れであるシズにとっては単独での解決方法が浮かばない。
戦闘には自信があるのに、と自分の欠点に気づいて意気消沈する。ただ、見た目には何かが変わったようには見えないけれど――シズの中ではかなり落胆があった。
復活を果たしたクレマンティーヌに色々と条件を付けて逃げ出さないようにするのに一日かけ、次に彼女は人間種なので飲料と食事が必須である。これについてはお詫びもかねて提供する旨を伝えた。
シズにとってクレマンティーヌは絶対に殺さなければならない敵ではない。単に武技の情報を持っていそうな人間だっただけだ。――念のために至高の御方たるアインズ・ウール・ゴウンに尋ねると知らない人間だと言われた。あと、生き物を大切にしなさいと怒られてしまった。蘇生費用もタダではないのだから、と。
ユグドラシル金貨換算で彼女にかかった必要は約七〇〇万枚。確かに殺し過ぎた。
攻撃に使った弾丸も貴重なもの。五〇発ほど浪費したことを思い出す。――つい、興が乗って――
(……遠距離攻撃ばかりしたから……。……接近戦だと身元がバレるおそれが……、という言い訳ばかりしてこの様……)
しばし反省の時間を取り、それから体調が回復したクレマンティーヌとの対話に臨む。
聞きたいとは武技のことについて。問題は情報を得た後の措置だ。口封じすべきか、それとも見逃すか。
質問するのに何度も殺しているので多少――相手に悪いことをしたと自覚している。
元より彼女を殺す命令は受けていない。思いのほか弱くてあっさりと死なれてしまっただけだ。殺すつもりはなかった。反省はしている。と、シズは脳内で反省の弁たれた。だが、それをクレマンティーヌに伝えていない。その必要性を感じなかったからだ。
人間に反省の弁を伝えなければならない理由が浮かばない。反省しているのは己の所業についてのみ。相手への配慮は考慮していない。
(……私の仕事の不始末が招いた結果……。……反省は必要。……次にこの人間への対応)
生き物を大切にしなさい、と言われたので今度はちゃんと生かして逃がさないといけない。多額の資金を費やしてしまったのだから。
可愛いと思えば大きさは関係なくシズは対象を愛でる。クレマンティーヌは
シズに無表情で見つめられるクレマンティーヌ側も生き残るすべを懸命に考えた。だが、蘇生直後は頭の働きが鈍く、うまく考えがまとまらない。
逃げ出そうにも身体が重いし、口も上手く回らない気がする。ちゃんと喋れているのか自信も無い。
(……何度も殺すのはいいとして……、よくはないけど。生き返らせる理由はなんだ? 情報が欲しいにしては……私を殺し過ぎてる気がする)
単に生き物を殺しては蘇生させる狂人か、とも思わないでもない。しかし、そんなことをする裕福な貴族に心当たりはない。そもそも蘇生手段を持っているだけでも尋常ではない。
まず最初に浮かんだのは命乞いだ。それしかないと言ってもいいくらい絶望的な状況になっている。ここは無理矢理にでも足掻くべきだ、と頭では思っているが何度も失敗している気もした。
起死回生を狙おうにも相手方は