Muv-Luv The alteration   作:詩仙堂黒猫

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01-09:未来のはじまり

1998年10月24日早朝、国連軍仙台基地

 

この日、香月夕呼はすこぶる機嫌が悪かった。

もっとも、ここ数年は彼女の中で機嫌が良かった記憶がない。

何故かといえば、結論から言えばBETAのせいである。

そもそもの話、夕呼は軍人ではなく科学者である。

事の始まりは、1995年にオルタネイティヴ第四計画が正式に決定した際である。

その総責任者として任命された時から彼女の不機嫌な日々は始まったのだ。

初めの頃は、責任者に任命されたからにはそれなりの成果を出さねばと頑張ってみた。

ところがその成果を見せる為に自らの研究を進めたいのに、様々な障害が立ちふさがった。

某大国の思惑や計画への非協力的な対応、夕呼の研究を妄言と嘲笑う態度などなど・・・

ほとんどが某大国が原因であるが、それでもそんな中を夕呼は頑張った。

しかし、本年1998年に入って状況は大きく変わった。

BETAが日本本土に進攻を開始したからである。

元々は仙台基地ではなく、帝国陸軍白陵基地に計画司令部と計画直属の衛士訓練施設、第207衛士訓練学校が設置された。

だが、BETAの首都圏進攻を目前に迫った10月上旬に帝国陸軍白陵基地からここ、仙台基地へと全ての機能を移設した。

そのおかげで、夕呼はここ数週間は今まで以上に寝ている時間などなかった。

目の下に濃い隈ができるほどである。

余談であるが、現在の夕呼は隈のせいでただでさえきつい目つきが更にきつく見えている。

そのせいか、ただ考えながらじっと見ていただけで小さな協力者の少女にかすかに涙目になられたり、司令部に夕呼が現れると、何でもなくても睨まれている様にしか見られないため、一部では女王と囁かれたりとか色々と散々だった。

その夕呼は今、最高潮に機嫌が悪かった。

この忙しいときに、目の前に立っている男が来たからだ。

しかもこんな朝早くにだ。

 

「こんな朝早くに何のようなのかしら」

 

夕呼は言葉に刺々しさを隠さずに、目の前に立つトレンチコート姿の男性―――鎧衣左近に投げかける。

 

「いやはや」

 

鎧衣は帝都城での会談の後、即座に仙台基地に向かったのである。

此処に来た目的はただひとつ。

それは――――

 

「香月博士は渡り鳥の性質をご存知ですかな」

 

鎧衣はいつもと同じように、唐突に関係ないような話を口にする。

 

「有名なところではツバメでしょうな?あれは繁殖のために日本より南の国から渡ってきて、夏の間は日本で過ごし、繁殖期が終わりとともに越冬のために南の国に渡って行く。いやはや、BETA災害による影響は今のところは見えませんが、これから後は一体どうなる事やら」

「さっさと本題に入りなさい」

 

夕呼はいらつきを隠さずに厳しい口調で、鎧衣の話を切る様に言い放つ。

鎧衣はその様子をさらと流し、本題を口にする。

 

「昨日未明、帝都に国連軍特殊任務部隊を名乗る者が現れまして」

 

鎧衣の言葉に夕呼の眉がぴくりと微かに動く。

それに気が付かないように、鎧衣はそのまま言葉を続けた。

 

「何でも4番目も5番目も失敗した世界から渡ってきたとか」

 

その言葉に、夕呼は不機嫌そうな感情を隠し、無表情に近い顔をする。

鎧衣は、嘘かどうかを測りかねているのだろうと思った。

部屋の中を奇妙なまでに重い空気が漂う。

しばらくして、夕呼の方が静かに口を開いた。

 

「・・・・詳しく教えなさい」

 

その言葉に、鎧衣は彼女が話に食いついた事を確信した。

同時に帝都城で会った青年の片方の顔が思い浮かんだ。

(やれやれ、彼にはこの事も想定済みだったかな?)

鎧衣の脳内では和哉が黒い笑みをたたえている姿が浮かんでいた。

まるで地獄の釜を前でクケケケとでも笑っていそうな姿でもあった。

(妙に似合うな・・・・)

鎧衣はそんな事を、夕呼に帝都城での話をしながら思っていた。

 

 

この時、隣の部屋で控えていた少女が何かに怯えていたのは、本当に余談である。

 

 

 

10月24日???

 

 

和哉は夢を見ていた。

 

それは古い思い出。

 

『もう、ここまできたのに難しい顔してる』

 

それは、遠く昔の記憶。

 

『そんなに・・・私と■■するの、いやだったの?』

 

しかし、決して色あせる事のない大切な思い出。

 

『今度は困った顔してる』

 

何故なら、その思い出は

 

『私?あのね、そんな事言うと怒るよ!』

 

楠木和哉の旅において

 

『何度でも言うよ。私はカズヤの事を』

 

ある意味ではじまりを告げた思い出なのだから。

 

 

「愛してる」

 

 

和哉はそこで目が覚めた。

枕元に置いた時計を見ると、5時38分を指していた。

 

「夢か・・・」

 

和哉は身体を起こし、先ほどの夢を思い出した

寝る前に彼女の事を思い出したからなのだろうか。

心が澄みきっていて、温かく感じる。

和哉には、それが不思議と心地よいものであった。

静かに目を閉じ、和哉は思う。

 

この思い出があるから自分は、どんな未来があろうと恐れずに進んでいけるのだと。

 

たとえ、その先にどのような結末(・・・・・・・)があろうとも

楠木和哉は、楠木和哉(・・・・)として進んでいけると。

 

 

「和哉、起きてるか?」

 

武の声に静かに目を開ける。

時計に目をやると、既に起床してから30分は過ぎていた。

いつもならば和哉が先に起きて、武に声をかけているのだが、今日は武の方が先に着替えを終えて、声をかけに来たのだろう。

 

「ああ、起きたところだ。少々待て」

 

和哉は立ち上がり、掛け布団を畳む。

寝間着から枕元に畳んでおいた国連軍の制服に着替える。

制服の襟を正しながら、和哉は戸を開く。

 

「待たせたな。おはよう、武・・・?」

「どうした、和哉?」

 

そこには何やら良い顔をした武が立っていた。

昨日の晩はまた少し悩んでいる様に思ったが、吹っ切れたのだろうか?

自分の事もあったから良い夢でも見れたかと思い、和哉は聞いてみることにした。

 

「ふむ、何か良い夢でも見れたのか、武?」

「いや、何でだ?」

「何やら良い顔をしているからな」

 

和哉がそう告げると、武は右手を振って否定する。

 

「え?ああ、違う違う」

 

昨日の夜の話だけどさと言って、武は自分の思いを口にした。

 

「オレさ、オレ自身が何をどうできるとかどうすればいいとか、難しく考える事はやめたんだ」

「はあ?」

 

武の予想外な発言に、和哉は思わず何言ってんだ、こいつは?という顔をする。

それに反応する事なく、淡々と武は自分の考えを口にしていく。

 

「初心貫徹って事で、オレはオレができることを頑張る。オレが解らない事は、解る人間の手を借りて頑張る。それで行こうって改めて考えただけだ」

 

武はそこまで言うと、握った右の拳を和哉の胸元に軽く当てながら言葉を続ける。

 

「だから、頼りにしてるぜ、相棒」

 

和哉は一瞬呆気に取られるが、すぐに可笑しそうに声を殺しながら笑う。

武は自分が何か可笑しな事でも言ったのかと首を傾げる。

 

「ああ、了解したよ。そして改めて、おはよう、相棒」

「ああ、おはよう、相棒」

 

武の少々子供のような笑みを見ながら、和哉は心で誓う。

 

(武、俺はおまえの未来を全力で支えてやるよ)

 

(たとえ、この身が果てようともな)

 

 

 

10月24日 9:30

 

紅い斯衛軍の制服に身を包んだ眼鏡をかけた女性が武らの泊まる客室に向けて、渡り廊下を歩いていた。

(何故、このような時期に国連軍から来客がいるのだろうか・・・いや、余計な事を詮索するな、真耶)

彼女の名は月詠真耶といい、斑鳩率いる第16斯衛大隊に所属する斯衛軍中尉である。

何故、真耶が客室へ向かっているのかといえば、それはある種の偶然、いや運命(・・)だった。

本来ならば、この状況下の帝都城内において第16斯衛大隊所属の真耶が、侍従のような仕事をしている暇はない筈であった。

だが、第一種臨戦態勢のこの帝都城内において、BETA警戒以外にも通常警備に人を割り振らなければいけないという現状もあり、そこに斑鳩率いる第16斯衛大隊は臨時で帝都城城内警備に回されていた。

これは五摂家として優遇されたためとか左遷などではなく、第16斯衛大隊への補充人員や京都防衛戦の激戦による戦術機の各部への疲労からくる分解整備など処理しなければいけない問題が、BETAの東日本侵攻によって後回しにされたからである。

それらが後回しになった結果、首都圏進攻の際も第16斯衛大隊はいまだに再編中であった。

この事から現状の通常警備の人員不足からの”穴”を懸念した神野大将が侍従長と相談し、一時的に第16斯衛大隊を城内警備の勤務へ回したのだ。

だからといって、それがこのような侍従の真似事をさせる理由にはならない。

それは真耶本人も思っている事であった。

(だが・・・紅蓮大将は何故、私を指名なさったのだろうか?他にも人がいるはずなのだが)

真耶が客室に行き、そこに居る客人を案内して連れてくるように言われたのは今朝方の事だった。

告げられた真耶は始めは軽く疑問に思った程度だったが、紅蓮から笑顔でお主から見てその客人をどう感じたか教えて欲しいと言われては何かあるのを悟ってしまう。

真耶は元々は将軍家並び五摂家の要人守護を担う武家の出身で、真耶自身は政威大将軍である煌武院悠陽に仕えていた。

だが、関西方面へのBETA進攻の際に皇帝と将軍の京都離脱を支援するため、京都防衛線構築時に殿軍となる第16斯衛大隊へと配置転換となった。

悠陽に直接仕えていた真耶は機密情報を知る事が多いが、知った事以上の事を知ろうとも調べようとも思わない。

それ以上は、自分の任務には関係ないからだ。

だから、真耶はこの任務にどのような意図があるかは知らないが、深く詮索するつもりはなかった。

自分はただ任務を遂行すればいい、そう真耶は自分に言い聞かせた。

心には微かな疑問の棘は残したまま。

 

客室を目前にした真耶は、目的の客人らは探すことなく無事に見つけられた。

客室の前の縁側で二人が座っているのが見えた。

二人、武と和哉は座禅をしていた。

これは真耶には解らない事だが、この二人は何もする事がないときは座禅を組んでいる。

座禅をするこれといった深い理由は特になく、もはや剣の修行時代からの習慣になっていた。

それはさておき、真耶はその光景に目を奪われた。

武の座禅は、まあ、普通だった。

だが、和哉の座禅は違った。

和哉の姿が何故か霞むように薄れて見えているのだ。

言葉で例えようとすると難しいが、あえていうならば静の極致とでもいうべきだろうか。

もっとも、いまだに未熟と自分を称する和哉は、その様に言われても否定するだろうが。

真耶は自然に溶け込むという言葉を思い起こした。

武道における気配を”絶つ”でも”消す”でもない、周囲に”溶け込み”一体となる。

和哉の座禅はそれを体現しているようであった。

これは修行してなる類のものではない。

それを為す者の心構えが表す自然体の型である。

(一体何者なのだ?・・・いや、今はそれよりも)

いつまでも見ていたかったが、職務がある以上そういう訳にはいかない。

真耶は静かに息を整えると、再び歩き出す。

二人の近くまで来ると静かに片膝を折って座ると、声をかけた。

 

「失礼いたします、楠木様と白銀様で宜しいでしょうか」

 

その言葉に先に反応したのは和哉だった。

和哉はゆっくりと目を開け、顔を向けて真耶の方を真っ直ぐに見る。

真耶は、一瞬その瞳に引き込まれる様な錯覚を感じた。

動悸が激しくなったようにも感じたが、真耶は静かに呼吸を整えて落ち着かせる。

 

「紅蓮大将がお二方に話があるとの事で、案内を申し付かってきました」

 

真耶の言葉に二人は一瞬目を合わせる。

口を開いたのは和哉の方であった。

 

「紅蓮殿が、か」

 

その声を聞いた途端、再び自分の心臓の鼓動が激しくなったような気がした。

真耶はそれを二人に悟らせない様にその沸き起こった何かを押し殺しながら、はいと短く告げて頷く。

(一体、私はどうしたというのだ・・・このような事は今までなかった・・・)

身体が妙に熱く感じた真耶は、まさか風邪でも引いたかと思った。

(とりあえず、二人を連れていけば私の任務は終わりだ。それから医務室に行こう)

フッと真耶は気づかれぬように、視線を二人の胸元に向けた。

そこには本来あるべきウイングマークが着いてなかった。

二人の襟を見るが、そこにも階級章が着いていなかった。

(これが私を選んだ理由のひとつかも知れんな・・・)

何やら深い理由ありの国連軍の軍人二人・・・疑問に思わない方がどうかしているだろう。

(だが、私の任務にはそんな事は関係ないな)

真耶が視線を戻すと、武が和哉の耳元に近づいて何か言っていた。

 

「(なあ、なんでオレらこんなに丁重扱いされているんだ?)」

「(武、お前な・・・)」

 

真耶の耳には、そのように和哉に話す武の声が聞こえた。

 

「いえ、最上位の対応をと、言い付けれておりますゆえ」

 

そう言葉にした後、真耶は一礼をして立ち上がると、では案内いたしますとだけ言い歩き始める。

武は和哉と顔を見合わせると、和哉は肩をすくめたように仕草をして立ち上がり歩き出す。

慌てて武も立ち上がり、真耶と和哉の後ろについて歩いていく。

 

この時、誰も気が付かなかったが真耶の頬は赤く染まっていた。

それは当人である真耶も気がついていなかった。

 

 

もっとも本当に(・・・)気がついていないか知らないが

 

 

帝都城第二応接室

 

 

真耶に案内された場所は第二応接室だった。

応接室の扉を静かに4回叩いて、室内へ真耶は声を掛ける。

 

「失礼いたします。 御二方を御連れ致しました」

 

「御苦労、入って良いぞ」

 

真耶が応接室の扉を開け、二人に入るようにと道をあける。

会釈しながら和哉と武が中に入ると、紅蓮と少し厳つい目付きをした額左からから口元左下まで大きな傷跡が有る壮年の男性、巌谷が座って待っていた。

見慣れない男性を見た和哉は、階級よりも先に巌谷が着ている軍服が気になった。

(あれは、確か帝国軍の・・・?)

和哉がその男性が何者か思い出す前に、紅蓮が二人に声をかけた。

 

「おお、よく来てくれた二人とも。まあ座れ」

 

促されるまま、紅蓮たちの対面の席に座る二人。

その背後にいる真耶が退室しようとするが、紅蓮が目線で此処にいるように合図する。

一瞬考えるものの即座に頷き、扉を閉めて二人の背後に立つ。

それを確認した紅蓮は、満足そうな笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「まずは話に先立って紹介しよう、此方は」

 

紅蓮はそう言うと、隣に座っていた巌谷が立ち上がり、敬礼すると口を開いた。

 

「私は日本帝国陸軍中佐、巌谷 榮二という。宜しく頼む」

「!これは失礼しました。私は――――」

 

その言葉に反射的に立ち上がり、敬礼する二人。

和哉は目の前にいる巌谷が何者なのか完全に思い出す。

あの世界では巌谷とは直接の面識は一度しかなく、それも移民の時のゴタゴタで会っただけなのだ。

思い出せただけでも行幸かもしれない。

ちなみに武は、名前を聞いてもまったく誰だか思い出せなくて少し困惑していたが、佐官と聞いて瞬時に背を正しただけでもよく出来たと褒めておきたい。

 

「楠木和哉君だろう?隣にいるのが白銀武君だね?既に紅蓮殿から伺っている。君があの戦術機の開発者で、白銀君が戦術機の衛士だと」

 

その言葉を聞いて、和哉は紅蓮へ含みを持たせた視線を投げかける。

何せ、後ろには部外者(・・・)にあたる真耶が立っているのだ。

(紅蓮殿は彼女も巻き込むつもりなのか・・・それとも)

和哉は少し遠回りに問いただすように聞く。

 

「―――紅蓮殿?巌谷中佐にどの程度(・・・・)のお話を」

「わしからは名前ぐらいで後は詳しくは話とらんよ。だが、こやつ自身はお主らの正体(・・)に気が付いておる。まあ、全部ではないがな」

 

その言葉を聞き、和哉は素直に驚きの声をあげる。

 

「それは凄い」

 

おそらく自分たちの正体に気がついた判断材料は篝火の解析結果だろう、と和哉は思った。

だが、あれだけで気が付くのはある意味では常識を捨てなければ気がつけないだろう。

目で見て、感じたものを素直に受け入れられた感性は凄いとしかいえない。

 

「ところで、私は二人をどう呼べばいいかな?」

 

武は何を言われたのか理解しきれなかったが、和哉はああ、と頷くように納得すると自分の胸元を指しながら言った。

 

「いえ、ここではまだ(・・)軍人ではありませんので、お気にせずに」

 

その含みの持たせた言葉に巌谷は苦笑しつつも、自分の本題を切り出す。

 

「単刀直入に聞くが、あの戦術機、篝火は不知火・壱型丙の発展機と見るが違うかね?」

 

本当に単刀直入な言葉に、和哉は心の中で苦笑しつつ真面目に応える。

 

「発展機と見るかといわれると、答えは『違います』ですかね。原型に壱型丙の設計を流用しましたから、そう見えますが・・・」

 

和哉はそこで言葉を止め、何かを思い出すように考える。

大事な事を確認するように、巌谷に問いかける。

 

「巌谷殿、”弐型”の案は既に国防省内で上がっていますか?」

 

巌谷はその言葉に衝撃を受けて一瞬だが動揺を見せる。

だが、目の前の人物が何者だったか思いだして、気を取り直し答える。

 

「まだ開発図案程度であるが一応出ているが・・・・・・まさか!?」

 

その問いかけに、和哉は頷きながら答える。

 

「あれは壱型丙の他に、弐型の技術も流用されています」

 

その言葉に、真耶は目を大きくさせて驚きを表す。

(今・・・何と言った、この男は・・・開発予定の戦術機の技術の流用?・・・どういう事だ?)

巌谷は思わず前に乗り出し、和哉に何か言おうと口を開き・・・何も言わずに閉じた。

そのまま椅子に身を預けるように座りながら、巌谷はゆっくりと口を開く。

 

「・・・詳しくは聞かない方がいいのだろう?」

 

巌谷の言葉に和哉以外が驚く。

和哉は、内心でおっ!と思いながら答える。

 

「はい、理由は予想されている通りです」

 

そうだろうな、と巌谷は苦笑いしながら言う。

その言葉に和哉は、この人は本当に大した人だと巌谷に対しての評価を上げた。

 

「わしにはよく分からんが、話しては駄目なのか?」

 

紅蓮は考えて疑問に思った事を、和哉に尋ねるように問う。

 

「場合にもよりますが、未来を不安定にさせたくはありませんから」

「?」

 

知る事と不安定がどうにも結びつかないのか、紅蓮は顎をさすりながら首を傾げてしまう。

そんな様子を見ながら真耶は、今更ながら自分が此処に何故いるのかと考えていた。

 

「確かに知ってしまうと、逆に支障が出るでしょうな」

 

紅蓮は、巌谷の言葉にさらに首を傾げて考える。

 

「例えばの話ですが、紅蓮殿。もしも、新型戦術機の開発計画が未来において確実に失敗すると知っていたら、どうしますか?」

「そうじゃな・・・計画を早々に縮小させるか、最悪は打ち切るだろうな」

 

失敗するのが知っているなら、その分の時間と物資、人材を無駄にする事はあるまい。

ならば計画は縮小、最悪は中止したほうがいいだろう。

紅蓮はそう思いながら、問いに答えた。

 

「その結果が、多くの将兵や民が犠牲になる可能性に繋がるとしても、ですか?」

 

紅蓮は和哉の言葉に驚く。

何故、計画縮小・中止と犠牲がでる可能性が出るのか、どうやったらそこに結びつくのか。

それらを紅蓮が問う前に、和哉は片手で制止するようにしぐさすると口を開いた。

 

「まず、紅蓮殿が勘違いというか早計であったのは、開発が失敗するという結果しか知らないで判断した事にあります。開発は失敗するかもしれませんが、その開発中に既存技術の向上や新たな技術があったかも知れない。それらの技術によって、今ある戦術機が僅かながらでも性能が良くなるかも知れません。」

 

成る程と紅蓮は思った。

結果だけに目を奪われていて、過程のことには考えが及ばなかった。

これでは早計といわれても仕方がない、と紅蓮は思った。

 

「また、この失敗が次の、ないしは別の開発計画の成功に繋がる鍵になる事もありますし、ひょっとしたら開発に関わった衛士や整備兵の成長に関連する事もあります。無論、これらの副産物が発生しない可能性もあります。しかし、開発計画が中止になれば」

「それらの事は確実に起こらず、逆に自分たちの首を絞める事もあるという事か。縮小もまたしかり、やる事を狭めれば、それらの副産物も起きない確率を高めるということか」

 

説明する和哉の言葉から、予測される結果を思いついた紅蓮は言葉を続けるように言った。

和哉はその言葉に頷き、言葉を更に続ける。

 

「無論、先ほどの結果は極論ですが、我々の仕事柄では事の結末次第で人の生死が関与する事は否定できません。だからこそ、生半可に未来を知るという事は恐ろしい事です」

 

確かにと納得するように紅蓮は頷く。

 

「また危険な事と知ってしまえば、人は無意識で危険な事を避けようとします。普通は言われなければ、このような事は気が付かないものです。ゆえに理解している者はこのことをこう言います、知りすぎる罠と」

 

だが、と和哉は言いながら思う。

自分はこれからあえて(・・・)その罠だらけの道を進もうとしている。

これで、どのような混乱と裏切り(・・・・・・)をもたらすか解らないというのにだ。

(本当にちぐはぐ、というか天邪鬼だな、俺は)

 

和哉の隣に座る武は思う。

(本当にこういう話だと、オレって空気だよな・・・)

そう思いながら、出された茶を静かに飲んでいた。

 

二人の後ろに立つ真耶は思う。

(私は本当に無事に職務に戻れるのでしょうか・・・悠陽様)

真耶の脳内の悠陽はふぁいとですよ、真耶さんとイイ笑顔で激を送っていった。

何気に真耶は現実逃避気味の混乱中だった。

 

 

 

 

「さて、わしからも話があるがいいかな?」

 

紅蓮は咳払いすると、本題を切り出す。

 

「おぬし等に公開模擬戦をやってほしいのだが」

 

和哉と武、二人してえっ?という表情になる。

唐突といえば唐突な話であるが、和哉はある可能性を頭に浮かべる。

 

「まあ、他の連中にもおぬし等がそれだけの力量を持つ、ということを知ってもらうにも良いかと思ってな。相手については斯衛から選抜するつもりじゃ」

 

やはりな、と和哉は頷きながら思った。

これは二人を上位の階級に就かせる布石なのだろう。

和哉は最初から佐官を望んでいない。

確かに、階級が高ければそれなりの権力行使などは出来るだろうが、周囲が認めるかどうかは別物である。

また、和哉はともかく武は言動でわりと異質に見られがちである。

その辺は士官教育で徹底して仕込むしかないが。

ちなみに和哉と武は仕官教育は経験しているが、それは別の世界の話であり前回においては佐官昇格の再教育という形で短期間しか受けていない。

士官教育など一度経験すればいいのではないか?

そう思うかも知れないが、実際は異なる。

見た目よりも長い軍歴から判断されれば十分と思われがちだが、軍隊とはそう甘い世界ではない。

所属する軍によって戦術観や部隊の動かし方、構成も変わるのだ。

同じような世界でも細かな差異は出る。

その差異を知らなければ、いづれそれが原因で危険を招く事もあるのだ。

それは和哉と武自身がよく理解している。

また、上の階級になるという事は、それだけ多くの人の命と責務を背負うという事である。

人員と物資、金を自分の考えで動かし、消費(・・)させていく。

軍において上に立つという事の本質はそういう事である。

その事は長い旅路で嫌という程、身を持って経験していた。

紅蓮は二人がそれを経験している貴重な新兵(・・)なのだから、下でいるのは勿体無いと考える。

しかし、斯衛軍に仮に所属させるとしても周囲が納得しないだろう。

またどこの馬の骨か判らぬ者が突然、大尉だとか少佐だとか言われれば他の者たちから不平不満が出る。

それが火種となり、後に帝国軍全体に害を為す事態に拡大する事も考えられる。

そこで紅蓮は始めに実力を周囲に見せて認知させる事で、昇格を異常に(・・・)速めても問題ないようにしようとしているのだろう。

ちなみに紅蓮は二人の腕前は知らないが、武人としての直感で問題ないと判断した。

後、模擬戦には真耶も選ばれるのであろう。

下手をすれば斑鳩率いる第16斯衛大隊からの選抜もある。

おそらくだが真耶がここにいる意味はこれだろう。

二人と顔合わせと異質さを知らせる意味も含めて、真耶を案内役に就かせたのだろう。

これで模擬戦の際に、二人を格下の存在だと思わせないための事前情報をある程度(・・・・)渡した事になるからだ。

紅蓮にこの大狸め、と思いながら和哉は現状からの予測を立てる。

(ふむ、それならば・・・)

和哉は頭の中で状況を上手く使う閃きが思いつく。

閃きのメリット、デメリットを考えた末で、ゆっくりと口を開いた。

 

「紅蓮殿、それについて此方からも提案があるのですが、よろしいですか?」

「あまり無茶な提案でなければの」

 

それを聞いて、和哉は大丈夫ですよと答えて言葉を続ける。

 

「BETAへの警戒もありますから、そうですね・・・模擬戦は今から1週間後で」

 

和哉は頭の中で段取りを考えながら口を開く。

武は、その様子を見ながら言い様のない不安感が包まれていた。

(順調に進んでるはずなのに、なんだ・・・この嫌な予感は)

表情に出ていたのか、和哉は武の方を一瞥すると、口端をニヤッと歪ませる。

武は、その瞬間、予感が当たった事を悟った。

 

「あと模擬戦前に、私と武とで一騎打ちをやらせて頂きたいと願います」

 

和哉は不敵な笑みを浮かべながらそう告げたのだ。

武はその顔を見て、心の中で静かに溜息をついて項垂れた。

 

 

 

世界はまわる、回る、廻る

 

されど、あるべき道はない

 

世界はまわる、回る、廻る

 

ならばと新たな道をさがして

 

世界はまわる、回る、廻る

 

新たなる道に沿うように

 

 

変革の未来が、いま静かにはじまりを告げた




次回予告

男と男が戦う

互いに認め合った男たち

だから、今この場だけは

己と己の全力を持って

剣と剣をぶつけ合うのみ

次回

Muv-Luv The alteration

01-10:はじまりの篝火
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