Muv-Luv The alteration 作:詩仙堂黒猫
横浜にBETA強襲
その報告が、新帝都・東京にある帝都城にその知らせが入ったのは、22日を少し回った頃であった。
帝都の目と鼻の先にあたる横浜が襲撃され、制圧された事に知らせを聞いた者たちは息を呑んだ。
国防省及び城省は帝都に第一種臨戦態勢を発令、帝都の夜に警報が響き渡った。
これに先立ち、帝国本土防衛軍は陸軍から移籍し、再編成中の帝都防衛第1師団第2戦術機甲連隊が出撃、多摩川にて戦線を維持、膠着状態まで持ち込む事に成功する。また帝国軍厚木基地からも第404戦術機甲大隊第1、第2中隊が出撃、鎌倉・金沢方面への戦線の拡大を国道22号線沿いで押さえ込んだ。
緊迫した状況下で、戦線と横浜の現状の把握が混乱を極める中、帝都城に不思議な報告が入る。
いわく、国連軍特殊任務部隊を名乗る者たちが戦術機随伴で横浜から救助者を連れて多摩川にて展開中の部隊が接触、その際に「特命」で陛下に直接の報告があると告げたとの事。
そして、身元が明かせないが身分証明の為にと二つの物を預かったとの事。
五摂家の一、煌武院(こうぶいん)の家紋の印璽がされた封蝋をした封書と同じく紋の入った鞘に納まった小刀であった。
これら持ち込まれた品物は、ただちに政威大将軍をはじめとした五摂家各当主、帝国斯衛軍より神野志虞摩(かみのしぐま)上級大将と紅蓮醍三郎(ぐれんだいざぶろう)大将らの立会いの下で確かめられた。
結果、これらの品物が『本物』であると確認された。
たとえ、その小刀を政威大将軍がいまだに所持しているとしても、である。
事態は歴史の水面下で、確実に変化していった。
当事者たちが、それを望ぬ、望まなくとも――――
10月22日 13:40
朝方未明から降り始めた雨を見つめる様に縁側に座る男が二人。
国連軍士官服姿の白銀武と楠木和哉の二人である。
彼らが帝都城に入ったのは雨雲に隠れていたが、日が昇った時間であった。
それぞれが個室の客間に通され、監視の意味も兼ねてか二人それぞれに侍従が付けられた。
といっても彼ら二人に自由が無いわけではない。
五摂家、特に政威大将軍である煌武院悠陽から直々に大切にもてなす様に言いつけられており、怪しげな行動を取らぬ限り、侍従と警備の者が付いて一部の区域以外帝都城内である自由に動けるのだ。
もっとも二人して動く用も無いので沙汰を待っている状態であるが。
手持ちの荷物は全て、検査と用心のために帝都城に入る際に警護の衛士に預けている。
その中には二人のウィングマークや階級章なども含まれていた。
武が着ていた強化装備も無論、仕官服に着替えた後に預けられている。
なお、ここには鑑純夏はいない。
純夏は帝都城に来る当初は和哉や武と共に同行の予定であったが、接触した帝国軍の部隊に彼女が横浜からの避難者であるという事と母親とはぐれている事、また父親が彼女と母親を逃すために犠牲になっていることを和哉が純夏に聞こえぬように告げ、再会できる様に計らったためである。
一応、軍機に触れているため名目上・警備という事で斯衛軍の者が付いている。
特例な事であるこの対応に和哉は五摂家の面々に内心で感謝している。
純夏を送る際に出会った彼(・)は、前回の時と所属が変わっていなければ「あの」独立警護小隊と並び、色々と噂高い特務警護部隊のはずだ。
「(まさか、お会いできるとは思いませんでしたよ・・・中尉)」
誰もあの穏やかな顔つきと細身な体格から、戦場から生身でBETAから生きて帰ってくる程の強者とは思いもしないだろう。
前回、紅蓮大将から直々にそう紹介された時は思わず天を仰ぎ見たのをよく覚えている。
おまけに神野大将のお気に入りの一人でもあるらしい。
まさにリアルチートな存在だ。
あれと敵対しようとする者に同情する。
そんな事を考えている和也の隣で武はうなだれていた。
見た目から落ち込んでいた。
それはもう「ぼくとっても悩んでます」って顔つきで。
「はぁ・・・何で純夏は知らないんだ・・・」
実は純夏と顔を合わせて以来、こんな感じである。
よほど「はじめまして」が堪えたらしい。
正直、多摩川で帝国軍と会う事ができるまでの間に何度かBETAと遭遇して生き延びた事に一番安堵していたのは和哉だったりする。
純夏に気づかれないように、武は頑張っていたが長年の付き合いの和哉には落ち込みはモロバレだった。
その場は誤魔化して気合を持たせていたが、そろそろ限界だなと和哉は思った。
本日何度目かに解らぬ武の呟くような悩みに、和哉はふぅと息を吐くと静かに口を開く。
「多分」
武がうつろな目であるが、和哉の方を見る。
それを受けながらも和哉は静かにはっきりと口にする。
「代償なんだろう」
「代償?」
その答えが不思議そうに、武は聞き返す。
何を言っているのか、解っていないのがよく判る顔までしている。
和哉は、ふぅと再び一息吐くと身体を武の方に向き直した。
「武、考えた事は無かったか」
「・・・何をだ?」
武は何を聞かれれているのか、まったく解らなかった。
「過去のループについて」
「あれは・・・夕呼先生が、たしか平行世界だとか言っていたような記憶が」
過去のループの時に、香月夕呼から聞かされた因果律量子論の説明をおぼろげに思い出しながら武は口にする。
それを和哉は肯定も否定もせずに聞きかえした。
「お前は平行世界について、どれ位理解してるんだ?」
武はその質問に戸惑いながらも、自分で理解している範囲で答える。
「え?・・・ええっと、同じ世界ような世界が隣りあわせで存在するとかって事かな」
「本当に同じ歴史を、いや世界を起点に繰り返していたと考えた事あるか?」
その和哉の言葉に、武は何故か衝撃を受けた。
「・・・そんな考えすらなかったな」
それは本当の事だ。
だけど――――心のどこかで嘘だと訴えているような気がした。
そんな武の動揺に気が付かないように和哉は言葉を続ける。
「平行世界理論。これはいろいろな説があってな、一般的には説明しても理解しにくい」
平行世界理論、多元世界論などの説が存在する。
それらの証明は容易な事ではないし、ほとんどが仮説の域を出ていない。
しかし
「だが今のお前、いや俺たちならば理解できる言葉がある」
彼らは違うのだ。
なぜならば、彼らは
「・・・可能性の世界、たしか博士の言葉だと”枝分かれの世界”だったか」
この世界で二人しかいない他世界から旅の体現者なのだから。
武の目に力が戻ってきた事を見取った和哉は、話の核心に向けて覚悟を決めて話し出す。
「で、それを踏まえた上でだ。これについては俺の推測でしかないが、いいか?」
武は無言で頷く。
それを確認した和哉は話を進めた。
「武、お前はあの時なんて想ったか、覚えているよな?」
「ああ、純夏を救いたいって」
武は、この世界に来る時の決意を思い出す。
あの時の心から想った誓いは、自分の本心だ。
それが一体何なんだろうか?と武は思った。
「もうあんな姿になった純夏は見たくないだった筈だけど・・・」
「それだ」
和哉は、武の言葉にはっきりと断言する。
何がそれなんだと思い、武は首を傾げる。
「それが、その救いがこの世界へ導いたんだ」
「?」
武には和哉が何を言いたいのかが理解できなかった。
次の言葉を聞くまでは。
和哉ははっきりと武の目を見つめて口にした。
武の悩みに対しての答えを。
「理解しがたいだろうがな、武。お前のその願いがお前の存在しない世界へと来る事を確定させたんだ」
その瞬間、空気が凍りつくような錯覚を感じた。
「なんでだ!?」
ハッとした様に武は声を荒げて立ち上がろうとした。
それを見た和哉は、落ち着けと言わんばかりに武の肩に手を乗せる。
少し何か言いたそうな顔をしながらも、武は息を整えて座りなおす。
和哉は苦笑していた顔を引き締め、真剣な目で武を見ながら口を開く。
「本来ならば、お前と純夏はBETAに捕まる」
そう言って、武の目の前に左手の人差し指を立たせる。
「お前は銃夏を守って死ぬ」
次に中指、2番目だと言って立てる
「純夏は言いがたい地獄の末に、脳髄になる」
3番目で薬指。
「脳髄の純夏がお前への想いで、可能性のお前への因果導体の鎖を発生させる」
4番目で小指。
「因果導体としての可能性のお前が来る」
親指、これで5本指全てが開かれた。
「そして、特定の条件達成以外では起点へ繰り返す」
その言葉と同時に、全ての指を握りこむように曲げる。
「お前のループに関しては、大雑把に言えばこんな感じだ。だが、もしも、世界にシロガネタケルが存在しなければ、この流れはどうなった思う?」
その言葉に武は考える。
自分がいなくなった場合を考えてみる。
純夏は自分がいなければどんな風になっただろうか。
純夏の自分への想いが、無くなったらどうなるか。
純夏は自分がいない状況でBETAに―――
そこまで考えた時、パッとある答えが浮かんだ。
否定しようとした、が否定できなかった。
否定できる要素がないからだ。
武はその時、自分の身体が震えているのに気が付かなかった。
それ程の動揺をする考え。
それは
「――まさか」
武は和哉に否定してほしかった。
だが現実は残酷である。
「おそらくだが、この世界の鑑純夏は捕まり、脳髄になった時点で――」
和哉はそこまで口にするものの、少し言いにくそうに言葉を噤む。
しかし、濁そうとは思ってはいないらしく、しばしの沈黙のち残りの言葉を静かに告げた。
「――死んでいたんだろう」
二人の間に暗く、重い空気が流れる。
武は頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。
もし、あの時、助けられなかったら、ifの結末を考えると今さらながら怖くなった。
そんな武の様子を見て、それを払うかのように、話を纏めるように和哉は口にした。
「だからこそ、この世界へ来たんだ」
そう未来は変えられた。
鑑純夏は脳髄に、00ユニットになるという確定された未来はなくなった。
だが
「シロガネタケルの存在無き鑑純夏が救われる可能性の世界に、そして」
和哉はそう言うと、未だ雨が止む様子を見せない帝都の空を見上げる。
この天気は、まるで今の俺たちの有様のようだな。
そんな事を想いつつ、俯いて震える様子の武に言った。
自分にも言い聞かせるように。
「それゆえ、未来定まらぬ道標無き世界に」
定められた未来を失くすという事は、台本の無い舞台を開幕から終幕までカーテンコールを受ける様に演じる事と一緒だ。
いつ、どんなアクシデントやハプニングがあるのか分からぬ物語。
だが、それは本来ならば人生においては当たり前のこと。
人生には決められた道筋などありえないのだから。
しかし
この二人の目的の未来にとってはそれは絶望と苦難の道でしかないのだ
本来ならば辿り着く筈の確認済みの選択肢がないのだから
暗闇の中、見えぬ道を進むが如く、果たしてどこに辿り着くのか解らない
ゆえに和哉は例えて言ったのだ
未来定まらぬ道標無き世界と
運命の天秤が秤にかけるものはいつも残酷なのだ。
次回予告
運命の改変は叶えられた
払われた代償は未来への鍵
代償に苦悩する若者は言う
自分は正しかったのかと
足掻く者は答える
答えなど自分が決める事だと
次回
Muv-Luv The alteration
01-03:代償への決意