Muv-Luv The alteration   作:詩仙堂黒猫

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01-03:代償への決意

10月22日 13:40

 

その光景はある意味異様ともいえた。

まるで角のような特徴的な髪型をした無骨な武人といった風貌な大男が、帝都城内の客室に向けての渡り廊下を侍従の女性に連れられて歩いているのだ。

男の名は紅蓮醍三郎、日本帝国軍では名を知らぬ者はいないと言われる斯衛軍大将である。

何故、斯衛軍大将である紅蓮がここを歩いているかというと客室に居る二人、白銀武と楠木和哉に先程決定したことを通知するためである。

本来ならば下の者に任せてもよいのだが、事の内容が秘匿性が高いことと横浜陥落の報から休む暇がなかった為、現在城内では後方の役職で手をあいている者から交代で休息を回しており、一時的な人手不足もあるために大将自ら赴いたのである。

また、彼らの人なりも気にならないといえば嘘になる。

「件の客人らはどうしておるのだ?」

先導して歩く侍従の女性に質問する。

この女性は実は侍従長の一人で、今回の二人の警備や侍従の管理についての責任者でもある。

侍従長とは城内省に属する特別職で、政威大将軍専属に仕える者以外に帝都城侍従職管理、帝都城城内管理の役目を持った者がいる。彼女は侍従職管理の役目に就いており、またそれに伴った裏の顔を持っているのだがそれは別の話。

「報告では特に動くことなく、縁側に座っているとの事ですが」

少し前に警備の者から入ってきた定時報告を告げる。

「ふむ、特に周囲に警戒している訳でもないようだな」

そうして目的の客室まであと少しという所で

 

『なんでだ!?』

 

武の荒げた大声が聞こえた。

二人は顔を一瞬、見合わせる。

無言で何かを示し合わせると、足音を極力立てないように歩く。

彼らの会話が聞こえるところまで行き――

 

――――聞いた

 

細かい事はよく解らなかった

 

何の事なのかよく解らなかった

 

だが、それでも二人には理解できた事があった。

 

彼らが何かをなす為にここまできたことを

 

彼らは背負わなくてもいい事を背負って生きていることを

 

紅蓮は何ともいえない気持ちになった。

彼らが何をしてきたのかわからない。

彼らがどのようにつもりでここにいるのかわからない。

それでも理解できてしまった。

彼らは敵ではない。

だが、今はまだそれを確信しては”いけない”自分に対して紅蓮は苦笑する。

「・・・・・・」

紅蓮は侍従長に目で合図すると、頭を下げて道をあける。

軽く一息つくと、紅蓮はいつもと変わらぬように歩き出した。

その後ろに侍従長がついて歩く。

角を曲がって、二人の姿を確認したところで声をかける。

「・・・興味深い話だが、このような場所で話されて良いのかな」

紅蓮が現れ話しかけられた事に驚き慌てる武とは反対に平然と会釈をする和哉。

その様子を見て、内心でほぅと和哉へ関心を示す。

もっともそれを態度に出すような真似はしなかったが。

「誰がそのような話を聞いているのかわからないぞ?」

「大丈夫ですよ。この周囲にいるのは貴方方と控えている侍従の方、あとは”警備の方”しかいませんから。皆さん、仕事の関係上で口は堅いでしょうし」

問われた和哉は「警備の」と口にした一瞬、庭園の何ヶ所かへ向けて視線を飛ばした。

それを見た侍従長は顔には出さなかったが、驚いた。

潜んでいる警備の者たちの位置を示したからだ。

今回の影からの警備を任せている者たちは皆、腕に覚えがある者ばかりである。

それがこのような歳若い青年に、的確に位置を捕捉されているとは思わなかった。

それを知ってか紅蓮は興味深そうに和哉に問いかける。

「ほう、何を持って、そう言えるのだ」

「勘ですよ」

「勘、とな?」

紅蓮は訝しげに訊き返す。

それに和哉は何のこともないように言う。

「他の人より”少しだけ”勘がいいので」

和哉が本当のことを言っているのか判断できなかった紅蓮は、この件はおいといて本題に入る事にした。

「・・・まあ良い。改めて挨拶させてもらう、私は斯衛軍大将、紅蓮醍三郎だ」

その言葉に背を正して会釈する二人。

「さて、楠木和哉、白銀武」

紅蓮は言葉に力を入れて告げる。

「現在、おぬしらには身元が確認できんために国連軍の身分詐称やその事で前線部隊を混乱、危険にさせたなどの軍務妨害などの罪が問われている」

その言葉を聞いた武はあせる。

「なっ!?オレらは・・・」

「落ち着け、武。これらの罪は真実だと判らないために問われている、だから仕方がない」

慌てて大声を上げようとする武を制しながら、和哉は平然と言う。

紅蓮に向けて口をニヤッとさせながら言葉を続けた。

「それに・・・話はまだ終わっていない、ですよね?紅蓮殿」

紅蓮はその様子を見ながら、楠木に対して評価をあげる。

こちらが何を言いたいのか、ある程度目安がついているのだろう。

「・・・やりにくいの、おぬしは」

「よく言われます」

ゴホン、と咳をして態度を直して、紅蓮は口を開く。

「これより、おぬしらに沙汰を伝える」

二人はキリと背を正し直して次の言葉を待つ。

「明日10月23日、政威大将軍殿下及び五摂家当主の方々が、おぬしら二人に謁見の場を設けてくださるそうじゃ」

武は先程の慌てぶりが嘘のように顔を輝かせてあげる。

和哉はその判断を妥当と言わんばかりの態度をしている。

「とりあえず、色々と怪しいおぬしらは信頼できんが、最低限の信用はできるという殿下の御判断だ」

「まあ、銃殺刑もあったかもしれないと考えると有り難い沙汰ですね」

「まだわからんがな」

「でしたね。それでも有り難いですよ」

紅蓮の軽いぶっちゃけに和哉があったかもしれない結末を示し答える。

傍目からは和哉と紅蓮は笑い合うように軽口を言っているようにしか見えない。

だが、実のところは腹の探り合いである。

「ちなみにその謁見の場に参加なさるのは陛下と五摂家の方々のみですか?」

「一応、おぬしから預かった手紙に書かれていた名前からは榊是親総理と鎧衣だけか。その都合合わせの関係でおそらく午後からになりそうだがな」

その言葉を聞き、和哉は顎に手をあてて考えながら言う。

「やはり、国連の方は無理ですか」

「というか、そこまでは信頼できんからな」

「それは半分建前でしょ、本音は?やはり米国の影響も?」

なかなか言いにくい事を濁さずにはっきりと口にする和哉に対して、紅蓮は苦笑気味に言う。

「ふぅむ、いまだに国連軍は全面的に信用できんからの」

「米国の対応や在日米軍即日撤退に加え、光州の件も含めるとやっかいな話ですからね」

「そこは答えられんな・・・」

「まあ、仕方がないですかね・・・榊総理だけでも御の字ですから」

「おいおい、鎧衣はいいのか」

「どうせ、あの人は呼ばなくても何時の間にか参加してそうですから」

「ひどい言われ様だのう・・・否定できんがな」

和哉はそう言いながら、鎧衣が参加する事に心で喜んだ。

鎧衣左近は仕事柄、多方面に繋がっておりパイプ役になっているのは前回と変わらぬ筈。

無論、それが国連軍だろうとも。

これで自分たちの情報が多少なりとも、彼女、香月夕呼に入るはずである。

これから先のことを考えながら、紅蓮に質問をする和哉は気が付いていなかった。

 

隣の武が何かを自問している事に。

 

 

 

時間は流れ、深夜――

 

 

これから寝るかと和哉が寝間着に着替えていると、戸の前に人の気配がした。

直後、躊躇いがちな声が聞こえた。

「和哉・・・まだ、起きてるか」

武であった。

和哉は、少し待てとだけ言い、さっさと着替えてしまい戸を開ける。

そこには少し表情が硬い武が立っていた。

何となく思いつめてるような感じもしなくはない。

これはいかんな、と和哉は感じた。

少し昼間は言葉がきつかったかなと今さらながら思ってもいたが、あれはいずれわかる事。

それならば早い方が良かろうという思いで話したが、ここまで悩むとはとも思った。

「少し・・・話さないか・・・」

その言葉に和哉は黙って頷いた。

 

 

二人は昼間と同じように縁側に腰掛けていた。

別に部屋の中でも良かったのだが、何となく室内だと空気が重くなりそうだったので、庭園でも見ながらの方が少しは違うだろうという和哉の判断であった。

雨は上がっており、雲は出ているが綺麗な星空を映し出していた。

月明かりの照らし出される静寂の客室前の庭園はそれは美しかった。

それを静かに見つめる和哉の耳に、かすかに武の力ない声が聞こえてきた。

「オレが選んだ未来は、純夏を助けたいって想いは間違っていたのかな・・・」

武は和哉に問いかけるように言う。

昼間の和哉と紅蓮のやり取りを見ているとき、武は不意に感じ思ったことがあった。

オレは和哉にどれだけ助けてもらってきたのだろう、と。

今までの旅でもそうだった。

和哉は常にそこに発生する可能性を、危険性を考えて行動する。

それでも和哉は、オレの意思を尊重してくれた。

今まで、オレの選んだ行動で危険に落ちたのだろう。

今まで、オレは和哉に何回助けられたのだろう。

今まで、オレは相棒に恩を返せてたのだろう。

本当に、オレの選んだ未来は、願いは、想いは正しいのだろうか。

それに対する答えを考えて、考えて、かんがえて――――でなかった。

 

『選んだ未来の正否』

 

その言葉に籠められる思いはどれほどの悩みであろう。

それは未来を変えたゆえに発生する重荷。

あれから一人でそれを悩み、迷い、考え、苦しんだのだろう。

そこからでてきた末の問い。

吐き出すように苦悩の問い。

だから和哉は、その問いにこう返すしかなかった。

「その答えは自分で決めろ」

和哉の突き放すような言葉を受け、武は呆然とした顔で和哉の方を見た。

だが、和哉はその顔を少し呆れたように見ながら口を開く。

「別に突き放して言っているわけじゃないぞ、武」

和哉は横目で武を見ながら、静かに続けて言う。

「そもそも、その問いには答えがない」

そう、武の投げかけた問いには和哉は答えようがない。

なぜならば

「誰が、何が正しい、間違っているかなんてわからない」

歴史でもその事実を語っているではないか。

歴史的には悪党と卑下される人物でも、それに救われた者たちがいる。

歴史的には聖人と称えられる人物でも、それに殺された者たちがいる。

善悪は、それを判断する主観が変われば評価もまた変わるのだ。

百人いれば百人なりの解釈と答えがでるだろう。

ゆえに和哉は語る。

「だから答えは”自分”が決めるしかない」

それは覚悟を決める事になる。

他人の意思に従うのではなく、自らの意思で判断を下す。

その上で自分が選んだ答えの道程で失われる命、砕かれる想い、消え往く未来を背負う覚悟を。

それを和哉は言葉に出さずに問いかけているのだ。

自分の意思を、覚悟を示し、それらを背負えるのかと。

「武、お前はどうしたいんだ」

本当に武が望むものを。

「お前は自分の想いが嘘だと思っているのか?」

自分の心からの想いに対する答えを。

「・・・・」

武はそれを感じ取ったのか、目を閉じ考える。

自分が何を本当にしたいのか?

自分が何をする為にここまできたのか?

自分の旅は何だったのか?

 

 

-「シロガネ、難しく考えんな?やれる事をやる、それだけだ」-

 

 

-「タケルさん、あなたのその想いは忘れないでください。とても大切なものです」-

 

 

-「シロガネさん、貴方の想いが叶うことを僕は応援してます」-

 

 

-「シロガネくん、今”何をするか”ではない。”何をやる”それだけです」-

 

 

-「人一人が出来る事なんて限界がある。だから仲間がいるんじゃねえか、タケル」-

 

 

不意に旅の最中に出会った人たちの言葉を、想いを感じた。

不思議な事に心が、身体が熱くなるような錯覚がした。

それと同時に、暗雲のような重く覆われた心に光が照らしたようにも感じた。

何を悩んでいたのだろうとは言わない。

だが、自分なりの答えは見つけた。

武は心の中で自分に喝を、激を入れてくれた想いに感謝をした。

 

いったい如何程の時間が過ぎたのだろうか。

10分?30分?1時間?

武は静かに目を開く。

目の前に広がる静寂に満ちた庭園を見る武の心には、先程とは違い落ち着いていた。

さっきまでは庭園を見る余裕すらなかった。

今は庭園の光景を幻想的で美しいとさえ思えるほど、心の中が澄み切った感じさえした。

「和哉」

武は身体を和哉に向ける。

その顔にはもはや苦悩していた表情はない。

その瞳からは力強い意志のようなものを感じ取れた。

「オレさ、頭が良くないから、深く考えて理解するのが苦手なんだ」

武は静かに語りだす、自分の意思を。

「だけどさ」

自分なりの答えを

「純夏は、やっぱり純夏なんだと思うんだ」

それはこの世界に来て感じ取った事

「姿とか、中身とか、そんのじゃなくて」

その想いはこの世界の純夏を見た時に感じたもの

「どこで生まれたとか育ったとか、オレが居ると居ないとかでもなくて」

話して衝撃を受けながらも、心から確信した想い

「純夏は純夏なんだ」

助かって良かった、救えてよかったという感情

「・・・あの時のループで理解したつもりだったけど」

思い起こすは主観で二度目のループの時

「あの時は、冥夜とかみんながオレを知らなかった」

知っているのに知らないみんな

「今回は、それに純夏が加わっただけなんだ」

そう、今回はただそこに純夏が加わっただけの話

「だから」

だからもう迷わない

「和哉、オレに力を貸してくれ」

何があろうと進んでいく事を躊躇わない

「迷うかもしれない」

だが選んで進む

「間違えるかもしれない」

だが歯を食いしばり足掻いて進む

「けど、もう後悔したくない」

後悔するのなら何もしないより、何かをして足掻いた末の後悔の方がいい

「オレはこの世界を救いたい」

それは究極の願い

「だけどオレ一人ではそこまでできない」

そう、人間一人に出来る事は限られている

「だからオレの目が、手が届く範囲を確実に護る、そしていろいろと変えていきたいんだ」

一歩一歩小さい事かもしれないけど変えていく未来

「傲慢と言われても構わない」

けど偽りなき確かな想い

「偽善と詰られても構いやしない」

だが後ろめたい想いなき願い

「だけど助けて変えられる命があるなら、運命だろうが足掻いてみせる」

その為に何かを犠牲にしなければいけないのなら、その犠牲も救ってみせるという誓い

それはそこに発生する罪を背負うという覚悟

「それでも、それでもこの手から零れ落ちそうな命があるなら――――和哉、おまえの手を貸してくれ」

その上で武は語る。

「一人で変えられる未来に限りあるなら」

自分一人では救えない未来があるという現実を

「二人で変えられる未来はもっと広がるはずだ」

ならば二人ならば、その未来を変えていけるはずという理想を

「武・・・この世界で何をしたい、いや、何になりたい」

和哉は、覚悟を聞いたうえで確かめるように問う。

「オレは」

武は前回を思い出した。

あの世界で様々な人と出会い、様々な生き方を見て、様々な思いに触れて感じた事を。

そして、あの部隊(・・・・)の設立の時、宣誓の言葉を。

今ならあの言葉に籠められた意味を、願いを、想いがわかる。

だから、その言葉を口にする。

「オレは大切な人たちを護る”剣”になる」

 

後悔するかもしれない

 

嘆き悲しむかもしれない

 

理不尽に罵倒されかもしれない

 

それでも、青年は決意を示す

 

奇しくも10月22日というこの日

 

世界の未来は変化への旅路を示された

 

 

 

その旅路の先には、何があるのか

 

誰も知らない

 

しかし、その先に目を覆いたくなるような絶望が待っていようとも

 

彼らは歩き続けるだろう

 

かつて選んだ生き方を

 

人として生きて人として足掻き人を護る刃

 

人の剣として

 

 




次回予告


それは望郷の思い

それは懐古の記憶

それはあいとゆうきのおとぎばなし

されど、彼は振り返らない

過去は戻らないと知っているから


次回

Muv-Luv The alteration

01-04:決意に到る記憶
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