Muv-Luv The alteration 作:詩仙堂黒猫
和哉の語りが、静かに謁見の間に染みこむ様に響き渡っていた。
「自分と白銀武の出会いは、可能性の世界の海の中でした」
和哉はどこか遠く昔を懐かしむような口調で出会いの話をしている。
「細かな部分は省きますが、そこでの自分は死人でした」
その言葉を聞き、崇宰は複雑な表情を微かに見せる。
それを見て取った和哉は口に出す。
「勘違いされてはいけません、崇宰殿」
和哉は崇宰に諭すように言葉をかける。
「自分は何かあって死んだ(・・・)から其処にいたのではないですから、ただ其処にいたのは死んでいた(・・・・・)からなのです」
その違いは一体なんだろうか?
斑鳩はその違いがよく理解できなかったが、言葉を挿む事はしなかった。
会って何となくわかったが、この男は自分の中の基準で動く性格の人間だ。
当人が納得して理解している事を周囲がとやかく聞いても仕方がない。
斑鳩はそう自分を納得させると、話の続きに耳を傾けた。
「不思議な声が、自分と白銀に次のように問いかけてきました」
和哉は言葉を溜め、静かに口を開いた
「汝、いかなる力を所望する、と。力、とは簡単に言いますが、実際は何でも良かったらしいです」
何でもないように軽い口調で後半を言った和哉に、斉御司は質問をする。
「それで楠木殿はいかなる力を貰い受けたのですかな?」
「経験です」
斉御司は予想外な言葉に思わず聞き返してしまう。
「経験?」
「はい、経験です」
和哉はそう言うと咳払いをひとつして、自論ですがと前置きをつけて話す。
「力とは、与えられたからといって自由に扱えるものではないと考えています。自分が時間をかけて体得、習得した力ならばまだしも、自分でも完全に把握できない力など余計な邪魔でしかないとも考えています」
おもむろに斑鳩の方を向き、和哉は質問をする。
「斑鳩殿、もしどのような力でも望みが叶うとしたならば、貴殿はどうなさいますか?」
斑鳩は少し考えてみた。
今、自分が求める力はなんだろうと。
財力や権力など五摂家、斑鳩家当主という時点で無用なもの。
籍は入れていないが、妻となるべき女性もいる。
自分に仕える事を誇りに思ってくれる部下もいる。
自分に関しては特に問題はない、はずだ。
ならば―――
「そうだな・・・BETAを駆逐できるだけの力が欲しいと望むか」
その答えを聞き、和哉は心の中でニヤッと笑いながら話を続ける。
「では、その力がどのような”力”で周囲にどのような影響を、被害を齎すほど(・・・・・・・)の力か想像できますか?」
その言葉を聞き、聞いていた者全員がハッとなる。
「!・・・ただ”駆逐できるだけの力”だけではそれの及ぼす影響や被害も想像しきれないし、また、それゆえにどれほどまでの危険性を持つ威力か解らない・・・そう言いたいんだな、貴殿は?」
「ご明察のとおりでございます」
和哉は深く頷き、全員を見回しながら語る。
「人が人の範疇を超えた力を何の苦労も努力もなく得たとすれば、いずれはその力が災いを引き起こす事になるでしょう。無論、力を得た後で、それを使いこなせるように努力すればいいでしょうが、人知を超えたものがどのような事を起こすなどと解るわけがございません」
それに、と言葉を加えながら武の方に手を向けながら続ける。
「この白銀が望んだのは、自らの手で切り開かれるべき道」
榊は和哉の言葉と動作に目を惹きつけられた。
同時に、この場の流れが和哉が制しているのを感じた。
まるで楽団の指揮者のような人間だと榊は思った
「なれば余計な荷物は不要でしょう」
鎧衣は和哉の動作、言葉、その全体を注意深く観察していた。
そして、一時たりとも彼から隙が見つからない事に驚いた。
隙のようなものはあるが、あれは自然体な構えに近い。
白銀が「動」ならば、和哉は「静」というべきか、いや「無」とも言えるかもしれない。
それほどまでに動作から周囲への警戒、緊急時に即時対応が取れる自然な座を周囲の人間に気付かせずにしているのである。
和哉から合気柔術に通じるものを、鎧衣は感じ取った。
「この白銀が足りなかったのは経験」
崇宰と九條は深く同意するように頷く。
話を聞いていて二人は思ったのだ。
彼はその若さで世界を救おうと生きたことは幸福であり、不幸だったのだろう。
若さゆえに悩み、嘆き、悔やみ、それでも未来を求めて進めたのかもしれない。
だが、その若さゆえに白銀には経験が少なかったのだ。
もし、白銀にせめて軍歴が少しでもあれば違ったかもしれなかった。
しかし、無知な若さゆえに未来を進めたのかと思うと複雑な気持ちでもあった。
「人として苦楽を味わう人生の経験、戦士として戦場を戦い生きた経験、衛士として戦術機を操り戦う経験、失敗による挫折や後悔などにも負けず足掻き進む経験、人の生死を知り覚悟を決める経験」
紅蓮、斉御司は確かにと聞きながら思った。
どんなに優れた力を持つ人間であろうとも、中身が足りなければその力は生かすことができない。
例え使えたとしても、それが何かの切欠で周囲を危険に巻き込み、部隊が壊滅などという可能性は消えない。
だが、失敗と挫折を味わいながらも背負い進んできた者は強い。
例え特別な力がなかろうが、どんな危険に陥ろうとも、最後の最後まで諦めないで一瞬の好機だろうが耐えて待つ足掻きがある。
紅蓮は戦場で何度かそのような経験があり、斉御司は配下の部隊の報告で聞いた事がある。
「人の成長は、その歩んだ道の数だけあると私は考えております」
斑鳩はその言葉に心を打たれた。
人は決して自分以外の他の誰になることは出来ない。
それはその者が歩み、悩み、考え、進んだ人生という経験があるからだ。
誰かが同じような人生を歩んでも、その時の悩みや想い、考えまで同じわけではない。
その差こそがその人物の経験であり、その人の成長の歴史なのだ。
当たり前な事なのに意外と気が付いてなかったな、と斑鳩は自問するように思った。
「ゆえに、私たちは経験を望んだのです」
悠陽は目の前にて和哉の話を聞き、心で静かに奮えていた。
冥夜の名前を聞いた時は動揺したが、今は違う。
私にもこのような人間になれるだろうか、という想いが奮え起きた。
自分がこのような考えを、覚悟を持ち実践できるだろうか?
お飾りの将軍、それに甘んじていなかったか?
そのような自問が沸いてきたのだ。
それに対する答えは出ない。
いまだどのように変わるべきか道は見えないからだ。
だが少しづつでも変わっていこう、進んでいこう。
悠陽は心の中に宿ったこの想いにそう強く願った。
「皆様にご納得いただいたご様子ですので、話を戻させていただきます」
先程までと違う表情を見せ始めた全員を見回したのち、和哉は心の中で歓喜した。
(とりあえず、考え方に対しての意識は変わった様だ・・・まあ、二・三名ほどあやしいが)
実は武も知らないが、和哉は既に未来を見据えての行動にでていた。
何が起きるか解らない未来を案じるなら、何が起きても良い様に動けば良いと考えた和哉は、手始めに出来るところから変えていくということで、考え方に対する意識に目をつけた。
これならば話を上手く誘導すれば、これに対する考え方に目を向けるようになるはずだと。
まあ、動けない状況でできそうなのはその程度のことかもしれないが、これが後で有効打になるかもしれないという打算込みである。
そんな思惑を感じさせないまま、和哉は話を続けた。
「そうして、経験をするために私達は旅立ったのです。私達の旅は不思議ながらも貴重なものの連続でした・・・例えば、ある世界でのことです・・・」
side.白銀
オレは和哉の話を聞きながら、本当に上手いよなと思った。
事実をありのまま語らずに、よく上手くまとめって話している。
実際、和哉の話している内容は今までの旅の全容の2割、いや、1割ぐらいかも知れない。
それぐらいにまとめて要所要所を誤魔化して話しているのだ。
オレが話した部分も和哉に事前に言われていた注意事項にだけ気を付けて話したものだから。
しかし、夕呼先生の事も伏せて話せなんて用心深いよな。
前回と同じように感じるかも知れないが、いまだ敵も味方もはっきりしない状況だ。用心は必要、と言われれば仕方がないけど・・・
オレは和哉の話している内容を聞きつつ、そんな事を思っているとフッと一番最初にあった時の事を思い出した。
世界から意識が曖昧になって消えたと思ったら、あの世界の海にいた。
最初は何がなんだか解らず混乱していたとき、あの声が聞こえてきた。
始めは力とか願いとか言われて意味が解らないオレに声は説明してきた。
曰く、オレは世界から弾かれ零れ落ちた存在だと。
曰く、ここはあらゆる世界の可能性が存在する世界の海だと
曰く、力や願いは零れ落ちた存在をそれが叶う世界の選定なのだと。
だから、オレは声にこう言ったんだ。
「みんなの笑顔が見れる世界もあるのか」と。
その時だった、突然割り込むように笑い声が聞こえてきたのは。
と同時に和哉が現れたんだ。
「お前、面白いな」
オレは、そんな事を言った和哉を怒鳴りかけようとしたけど―――できなかった。
その瞳が、どこまでも強い意志を感じさせる眼差しがオレを制していた。
和哉は笑ったような顔で、だが真剣な眼差しでオレに言った。
「だが、それは死者が叶える願いではないと思うぜ?」
カズヤの言葉がオレの心に矢のように刺さる。
死者か・・・ならオレは死者なのか?いや、違う。だけど生者でもないと思う。
静かにオレの口からこぼれる様に言葉が出た。
「オレは・・・死者じゃない・・・おそらく、生者でもない」
「どういう事だ」
オレは話した、あの世界の事、オレ自身の事、鑑純夏の事、あの戦いの事、あの想いの事を。
和哉はしばらく黙っていたが、はっきりとした声でオレに言った。
「それって傲慢とは思わないのか」
「理解している、これはオレの我侭だという事も、それでもオレは」
「何かが代償にするとしてもか」
その言葉にオレの中で逝ったみんなの顔を思い浮かぶ。
まりもちゃん、柏木、伊隅大尉、涼宮中尉、速瀬中尉、委員長、彩峰、たま、美琴、冥夜、純夏
もう二度とあんな別れをしたくない。
これがオレの我侭だというなら、その対価は決まっている
オレは震えそうになりながらも口に出して言う。
「何かを代償にしなきゃいけないなら、オレは、オレは・・・自分を代償にする」
「ほぉ、大きく出たな。お前一人の代償で天秤の秤が吊りあうとでも思うか?」
「思わない・・・だけど、何もしないまま、何もやらないままで、もう後悔はしたくないんだ!」
ガキだったオレの描いた理想。
けど、それは間違いなくオレ自身の理想、叶えたい未来。
「だからオレは足掻く、例え世界がオレを悪党と呼ぼうとも、オレはこの願いを、想いを消したくない」
それは嘘偽りのないオレの叫びだった。
オレは叫び終えると俯いた。
自分でもガキ臭い我侭だと感じていたからだ。
「・・・・ハッ、馬鹿だな、お前」
和哉の呆れたような声がした。
「馬鹿、だろうな・・・けど、オレは」
自分でも理解しているが止められない想いが叫びになって出ようとした。
だが、オレの叫びは和哉の言葉で打ち消される事になった。
「だが、俺はそういう生き方を選ぶ奴は嫌いじゃない」
「え」
顔を上げた先には、和哉の優しげな笑顔があった。
「おい、神もどき。俺の願いが決まった」
和哉は世界の海のどこか遠くに叫ぶように言う。
「経験をくれ。俺とこいつ、白銀武に人として生き、戦士として戦って生き、パイロットとしてあらゆる戦争を戦い生きていく経験を」
それは何か失くしたものを再び得た子供のように無邪気な表情にも感じた。
「ああ?わかりづらいか、要するに様々な世界の可能性を旅させろって事だ。ひとつ、ふたつの世界じゃないぞ?様々だ、そうだな20か30も世界を旅できればいいか?力?いらねえ・・・いや、転生でも送り込むのでも構わないが、常に"人"である事と例え世界を旅し生きてる中で途中死ぬ事があろうともその世界の自分が死んだだけで旅は終わらない事、あとは自分が可能性の中で学び修得したものを失わないようにしてくれ。欲張り?そうだな、欲張りかもしれん・・・だが」
それは何かを再び背負う覚悟を決めた戦士の毅然とした表情にも感じた。
「俺はこいつの歩む世界を、描く未来を見てみたいと思った」
それは夢求め果て無き探究心に溢れた旅人のようにも感じた。
「だから、貰えるものは貰い、背負うものは背負う。それだけだ」
オレは、その時、目の前にいる男の姿に見惚れた。
「そういえば、名前教えてなかったな」
和哉はオレの方に向き直ってそんな事を言った。
「俺の名はカズヤ、クスノキカズヤだ。楠の木に平和の和、ヤは也じゃなくて難しい方の哉って書くが・・・判るか?」
「ああ、けどそんな細かく言わなくても・・・」
オレがそう言うと、和哉はいやいや、と手を軽く振りながら言う。
「名前ってのは大事なんだぜ?自分が自分である証明でもあるからな」
和哉は笑いながら自分の胸に親指を指すような仕草をすると、加えるようにオレに言ったんだ。
「名は人を指すとも言うだろ?それだけの力が宿っていると信じられているんだぜ、武」
それからオレ達の旅が始まった。
オレ達は様々な世界を様々な生き方で廻った。
ある世界ではその世界に生まれて、戦闘機乗りとして硝煙と戦乱に彩られた生涯を送った事もあった。
ある世界ではその世界に迷い込み、人型作業機械の整備班に拾われ騒がしいながらも楽しい日々を送った事もあった。
ある世界では人類が二つの勢力に別れ争い、その戦火に居合わせた民間人とともに巻き込まれた事もあった。
ただ、どの世界でも必ず和哉はオレの近くにいた。
BETAのような奇怪な地球外生命体と戦った事もあった。
それらは世界によって姿形が違い、様々な名で呼ばれていた。
だが、それらに共通していたものあった。
どれもBETAのように人に災いをもたらす存在だという事だった。
それらとの戦いで傷つき、自らの無力さを思い知り、嘆き悲しみ、足掻き苦しみ―――それでも戦った。
仲間も自分も重症を負いながらも戦った事もある。
過酷さに弱音を吐きたい心を殺して戦った事もある。
目の前で何も出来ずに、仲間を失い泣きながらも足掻き戦った事もある。
オレ達は幾つもの出会いと別れ、生と死の旅を繰り返した。
和哉が仲間を逃がすために殿を引き受け、先に逝った事もあった。
オレが無謀を覚悟で戦火に巻き込まれそうになった民間人の盾になり、逝った事もあった。
二人とも後世の人々の為に力を費やし、平和になった世界を見ながら寿命を迎えた事もあった。
人を愛し、愛され育んだ事もあった。
それでも、オレ達は歩む事を止めなかった。
オレ達は選んだから。
オレはみんなの笑顔が見れる世界の為に。
和哉はオレの描く未来の為に。
オレは和哉に返しきれないものを貰った。
オレは和哉にオレの描く未来が対価になるとは思っていない。
感謝も尊敬の意も和哉は断るだろう。
だから、口に出さずにオレは想う。
ありがとう、と
そして、すまないと
「・・・ける。オイ、武!」
オレはハッとした様に顔を上げると呆れたような和哉の顔があった。
「何か考え込んでいたようですが、何かありましたか?」
殿下が心配そうにオレに訊ねてくる。
「いいや、そんなこ、いえ、そのような事はございません。非礼な態度を取った事は申し訳ありません」
思わず素になって答えてしまいそうだったのを、慌てて訂正して頭を下げる。
殿下は少し面白そうに笑い、オレに声をかけた。
「白銀、無理に言葉を言い直さずともよろしいですよ」
その言葉に驚いた紅蓮大将が殿下に口を挟む
「殿下!そのような事を」
「良いのです、紅蓮。楠木、白銀、二人の言葉には確かに信憑性はないに等しい、がその人となりは信頼できるとよく理解できたつもりです・・・五摂家の方々も異論はありますか?」
殿下が五摂家の面々に話を振る。
崇宰の親父さん、憲明さんが少し考えた素振りを見せるも簡単に答えを出す。
「ふむ、楠木殿はまだ腹に隠しておりそうですが、問題ないでしょう。白銀殿は言わずとも顔に出る性格のようですし」
オレって・・・まだ、そんなに顔に出やすいのか・・・
妙なショックを受けてうな垂れかけたオレの耳に斑鳩当主、ええっと、頼成さんの声が聞こえてくる
「まあ、うん、いいんじゃないかな」
何か納得しているようで軽く返答した。
その様子に九條の女傑こと美智羽さんが驚いたように声をかける。
って、オレに一瞬、鋭い眼光を飛ばさないで下さい。
「頼成ちゃんたらどうしたの?あんなに二人を睨んでいたのに、あっさりと返答しちゃうなんて。ああ、私も殿下のお言葉に賛成ですわ」
しかも斑鳩当主をちゃん付けで呼ぶなんて・・・一応、公式の場ですよ、美智羽さん?
そしてとってつけた様に賛成って。
ツッコミてぇ、けどツッコんだら負けか?
「伯母上、このような場でちゃんで呼ぶのはお止め下さい・・・ごほん、こいつらの目を見てたら、信じてもいいかなと思いまして」
オレと和哉はその言葉に静かに頭を下げる。
頼成さんは寄せよ、と言いながら照れてる。
うーむ・・・頼成さんはツンデレって奴か・・・ぐぅお!
俺の考えが読めたのか和哉がふとももを抓った。
和哉、時々思うけど、お前って実はニュータイプに覚醒してない?
あ、呆れたような白い目でオレを見るなよ。
「斉御司殿は如何です?」
殿下はオレの行動に気が付いていないように話を斉御司の爺さんに振る。
振られた爺さんは顎鬚を撫でながら考えている。
「そうですな・・・」
少しオレの方をチラッと見た後、言葉を選ぶように言う。
「現時点においては信頼するのは早計かと・・・ですが」
爺さんは殿下に頭を下げながら口を開く。
「殿下が信頼したくなるのも解らない訳ではございませんので、気だけは許さない様にご注意下さい」
何故かその言葉に和哉は一瞬だがジト目でオレを見た。
ちょっ、和哉!さっきの目は何!?
「斉御司殿も難しい事を言われる」
殿下は爺さんの言葉を額面通り受け取ったらしい。
ふぅー、殿下がそちらに疎・・・かったけ・・・あれ・・・・
オレは顔を殿下に向けて――――目を逸らした。
殿下の瞳に浮かんだ感情は、見なかったことにした。
ああ、別に政威大将軍で在らせられる煌武院悠陽殿下の瞳に好意と興味の感情が感じ取れたとか、そんな事はない。ないったらない。
和哉はそんな緩んだ空気を一蹴するかのように咳払いをすると口を開く。
「さて、話を再びさせていただきます。最も、次の世界で話は終わりますが」
どうやらオレが思い出してる間に話は随分進んでいたようだ。
そうか、あの世界まで話していたのか・・・
「最初に気が付いた時、私は一人で降り立っていたのでした」
和哉の目と言葉に力が篭っていくのを感じた。
そうだよな、オレ達の感覚からだと、つい最近の事なんだから
だけど懐かしむわけにはいかない。
「時は2001年12月24日」
ある意味、オレのはじまりとも言える世界。
だけど、あそこはオレたちの覚悟を本当の意味で決めた世界でもあった。
なぜなら
「その時は知りませんでしたが、そこはオルタネイティヴ5に移行した世界でした」
はじまりの世界のその未来だったのだから。
未来への可能性の分岐が行われた世界
世界には混乱と絶望の鐘が鳴り響き
世界には嘆きと恐怖の音が満ちる
だが人々は知らない
未来への道はまだ消えていない事を
世界の可能性はいまだある事を
誰も知る由はなかった
次回予告
そこは地獄だった
それでも人は生きていた
そこには絶望しかなかった
それでも人は足掻いていた
だから
男たちは人の剣となった
次回
Muv-Luv The alteration
01-06 :旅路の果て