Muv-Luv The alteration   作:詩仙堂黒猫

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01-06:旅路の果て

帝都城城内斯衛軍戦術機ハンガー

 

帝都城謁見の間にて話が続く頃、ここ帝都城城内にある斯衛軍第二区戦術機ハンガーに二つの人影があった。本来ならば、第一種臨戦態勢の現在下では整備兵は即時対応できる様に第一区戦術機ハンガーにおいてハンガー内の戦術機の燃料補給や各部の整備から武器や弾薬の補充準備に取り掛かりきりのはずである。

なので、予備機や分解整備の必要な戦術機が並ぶ第二区戦術機ハンガーには本来ならば全機出撃でもないかぎりは用はないはずであった。

彼ら以外は。

 

「最初は何事かと思ったよ」

 

帝国陸軍の軍服姿の男性が苦笑交じりながら口を開く。

男性の名は巌谷榮二、帝国陸軍中佐にして国防省技術廠・第壱開発局副部長である。

巌谷は城内省から自分を名指しで早急に帝都城に登城するようにとの要請連絡を受けたのが4時間前の話である。

横浜の件で国防省内部も慌しい状況下のために今日中には登城が無理かと思われたが、上司である開発局部長が強引に巌谷から仕事を引き継ぎ、送り出してくれたおかげで何とか今の時間に来る事が出来た。

案内するように前を歩く整備兵の男性が頭を下げながら言葉を返す。

 

「申し訳ありません、巌谷中佐。本当ならば、此方から其方へ行かねばならないのですが・・・」

 

そう言う男性の整備服の襟には少尉の階級章が付けられていた。

余談だが帝国陸軍と斯衛軍の仲は良いとは言いにくい。

別段に険悪というわけではないが、斯衛軍=精鋭部隊という認識が多少なりとも仕官以下の兵の中にはあり、また斯衛軍も帝国軍を束ねる国防省ではなく城内省の管轄下の部隊、それに伴う独立した権限を持つ事も拍車をかけている節がある。

だが、それに見合うだけの実力、衛士としての技量や不撓不屈の精神を必要とされているのも事実であり有名な話で、実際に相互交流時に斯衛軍大将直々の若手衛士に対しての訓練が、見学していた陸軍の衛士の心を折ったなどの話もある。なので、帝国陸軍での斯衛軍への感情は憧れ半分妬み半分といったものが近い。

もっとも此処にいる巌谷にはあまり関係がない話である。

巌谷は元々斯衛軍所属であったが、ユーラシア大陸へのBETA反抗作戦に参加するために帝国陸軍に移籍したのだ。

その際に負った顔の傷は、巌谷自身の戒めのためにあえて消していない。

閑話休題。

 

「仕方があるまい、これは機密度の高い話になりそうだからな」

 

それにこんな状況下だしな、と言葉を付け加える巌谷に、少尉は頭をもう一度下げた。

そうして歩いていた二人はある戦術機の前で立ち止まる。

その戦術機を見上げながら巌谷は、ほぅという感慨の声と共に口を開く。

 

「これがそうかね」

「はい、中佐。機体情報からではこの機体は”篝火”と呼称されていました」

 

それは、白銀武の搭乗してきた銀色の戦術機であった。

一見すると不知火を思わせる戦術機を思わせるが、ここにいる二人は意見が違った。

不知火ではなく、改修型である不知火・壱型丙の方に良く似ているのだ。

だが壱型丙ともまた違った戦術機である事は見て判る。

 

「確かに不知火・壱型丙に似ているな・・・けど、肩部に付いているのは、ひょっとして」

 

巌谷は戦術機の肩部装甲に搭載されている推進ユニット(・・・・・)のようなものを指を刺しながら、少尉に聞く。

それを受けて少尉は頷きながらしっかりと答える。

 

「はい、そうです。あれは跳躍ユニットです」

「馬鹿な」

 

巌谷は思わず反射的にそう答えてしまった。

だが、その反応を予想していたのか少尉は同意するように頷きながら言う。

 

「そうですよね、その反応が普通だと思います」

 

肩部装甲とは副腕に支えられた装甲部に過ぎない。

ミサイルコンテナなどの追加武装を搭載した際には操作は可能だ。

だが、操作といってもミサイル発射やパージなどのある程度の操作程度である。

跳躍ユニットのように精密操作が必要となっているものを搭載できるものではない。

また出来たところで操縦にどれ程の影響を与えるか解ったものではない。

簡単に予想できるものだけでも機体バランス、推進剤消費増加などの問題など山積みだろう。

 

「ですが、間違いなく跳躍ユニットです。しかもある程度の可動が可能な型の物でした」

 

だが、目の前にはそれらの問題を解決した実物が存在する。

巌谷は思った。

一体これはどんな夢を見ているのかと。

 

「実際に動かしてみないと判断できませんが、おそらく一般的な技量では扱いきれないでしょうね」

 

巌谷は黙ったまま頷き同意する。

跳躍ユニットを4基も搭載している戦術機の操縦が簡単ではない事は想像がつく。

操作をひとつ間違えれば跳躍しようとしたらきりもみしながら落下した、などということもあるだろう。

 

「機体情報から把握できる性能で比較するならば、不知火・壱型丙の1.3倍ぐらいでしょうか」

 

壱型丙よりも30%も性能があがっているのか。

感心していた巌谷はフッと思った。

だが跳躍ユニットを肩部に加えた程度でそこまであがるものなのか?

巌谷はその疑問を少尉にしてみた。

だが、少尉からの答えは巌谷に更なる衝撃をもたらす事になる。

 

「OSの影響もあるのでしょうね」

「OS?」

「はい、搭載されていたOSがかなり独特なまでに特殊で、一部がブラックボックス化している為に完全に解析できませんでしたが、予備動作から機体制御の実行に至るまでの硬直の隙をほぼゼロという即応性を持っていることは解りました」

 

おかげで徹夜でしたが、と少尉は笑いながら言う。

巌谷は唖然としていた。

現在では考えられない高性能な戦術機とOS。

一体、これはどういうことなのだろうか。

巌谷の中で興味が沸き起こってきた。

 

「この戦術機を操縦していた衛士がいるらしいが・・・」

 

巌谷は少尉にそう話を振ると、少尉は頷き答える。

 

「はい、かなり若い衛士だそうです」

「そうか・・・会ってみたいものだな、その衛士に」

 

巌谷はその衛士に聞いてみたいと思った。

一体、これほどの戦術機でどのような戦場を駆け抜けてきたのかを。

 

 

 

 

 

さて、その注目された衛士、白銀武は別の意味で衝撃を受けていた。

和哉の言葉である。

 

「ちょっと待て、和哉!お前、2001年にはすでにいたのか!」

 

この言葉を聞き、何を言っているのか理解できなかった面々は首をかしげた。

和哉も?といった彼にしては珍しい表情を浮かべている。

 

「武、何を言っているんだ?そんな事は知っているだろう?」

「聞いてないぞ、オレは!」

 

和哉は武と前回会った時の会話を思い出してみる。

 

『和哉・・・お前、いつ来たんだ・・・』

『現状、無駄話の余裕がないから、簡潔に言えば1年以上前だ』

 

・・・・

 

「すまん、あれは俺の言葉が足りなすぎた・・・さて、先程からの続きだが」

 

和哉はあっさりと武に謝ると、身体を悠陽に向けて正して話を続けだす。

武はその反応にがっくと跪き頭を垂れる。

その様子が可笑しかったのか、悠陽はクスクスと笑っていた。

横目で忙しい奴だと思い見ながら、和哉は話を続けた。

 

「2001年に私が降り立った場所はここ、帝都城の中庭園でした。しかも殿下の目の前にです」

 

その言葉に、五摂家は驚く。

まさか政威大将軍の目の前に降り立つとは誰も予想できなかった。

だが、目の前にいる男はどうやってその場を切り抜けたのだろうか?

そのような疑問が全員の心に沸いた。

崇宰は思わず和哉に聞いてしまった。

 

「楠木殿はその時、どうなされたのですかな?」

「とりあえず、月詠真耶殿だったかな、彼女に助けられました」

「月詠に助け・・・られた?」

 

五摂家の面々は何の事だ、とその言葉に首を傾げ悩む。

だが、榊と鎧衣は考え、何となく解った。

中庭園と彼は言ったのだ、あそこで助けられる事といえば・・・

 

「君は中庭園の池に落ちたのか」

 

榊の言葉に全員の目が和哉に集中する。

和哉は少し恥ずかしそうに頬を掻きながら口にする。

 

「榊殿、御明察です。救助された後に聞いた話ですと、轟雷が池に落ちたと思ったら自分が浮かんでいたそうです」

 

和哉はそう言いながら、あれは過去の思い出の中でも三番目ぐらいに恥ずかしい現れ方だと思った。

まあ、一番恥ずかしい現れ方した思い出に比べれば可愛いものである。

気を取り直して和哉は話を続けた。

 

「まあ、現れ方はアレでしたが怪我の功名といいますか、その現れ方のおかげで私の出自に関する話にはある程度は信用していただきました」

 

そう言いきった和哉の口ぶりから武は何となく感じ取った。

また言葉巧みに乗り切ったんだろうな、と考え、和哉の黒い笑みを想像できた。

まあ、武は知る由もないがこの考えは間違っていなかった。

持てる知識と経験を全て巧みに使い、信用を勝ち取ったのだ。

その際、斉御司から「わしと同じくらい黒いの」と在り難くない褒め言葉を戴いたのは良い思い出だ。

 

「それから色々ありましたが、話の本題には関係ないので時を進め、2003年10月22日に武と合流します」

「合流?・・・それまで白銀はどうしていたのですか?」

 

悠陽の言葉に和哉は少し考え、答える。

 

「存命していましたが、存在していなかったといいましょうか」

「?随分と難しい言い回し方をなさいますね」

 

和哉はチラッと武を見る。

武はその目を見て、何を言いたいのかを解ったのか静かに頷いた。

それを見た和哉は、はぁと微かに溜息をつくと言葉にする。

 

「その時の白銀は、ここにいる私と旅を共にした武ではない白銀ではなく、武の言葉を借りれば初めて因果導体となった白銀だったのです」

 

その言葉に全員が和哉が何を言いたいのか理解できた。

理解できたが、新たな疑問がでた斑鳩は素直に和哉に尋ねた。

 

「ではその白銀に接触はしたのか?」

「それが不思議な事に直接対面できる機会がありませんでして」

 

困ったような表情を浮かべながら言うも、和哉は会えなかったことにある程度の確信を持っていた。

おそらく因果導体への干渉に対する世界の修正だろうと予測している。

世界そのものに干渉・介入する因果導体の輪には自分のような「部外者」はいらないのだろう。

それゆえに因果導体に直接の干渉はできなかったのであると推測は立てている。

因果導体の物語は、あくまでも因果導体の為だけの世界なのだから、なと和哉は皮肉気にだが思った。

まあ、それならば別の方法で干渉すればいいだけだが、それはまた別の話であるが。

 

「そういう訳でして2003年10月22日に最初の白銀が死亡すると同時に、ここにいる武が現れるのが確認されたので合流しました」

 

言葉にすると簡単に聞こえるが、実際には違った。10月22日に確実に現れる保障もないのだから、監視の人間をつけるしかなかったのだ。

その際には斉御司直属の隠密部隊を利用させてもらったが、あの部隊は本当に人外しかいなかったなと和哉は思い出す。

隠密部隊にはいまだ謎が多いが、知っている限りでは人外集団には元々将軍家直轄のお庭番の子孫だとか忍びの血を継ぐ一族の者の数多く所属していた。

受け継がれる血筋と遺伝子、そして幼少の頃から受けてきた特殊な鍛錬方法による身体改造といっても良いほどの身体能力を持つ者たち、それが隠密部隊の根底にあるのだろう。

 

「さて、武とは無事に合流できたのも束の間、翌年2004年2月23日世界が一変します」

 

その言葉にピクッと反応させる面々に、和哉は静かに吐き出すように言葉を口から出す。

 

「バビロン作戦が発動しました」

 

榊は目を大きく開いて、苦虫を潰したような顔をした。

和哉はあえて見なかった事にして言葉を続ける。

 

「バビロン作戦、はたして作戦と言っていいものか悩みます。作戦内容はユーラシア大陸に存在する全てのハイヴに対して一斉投下されたG弾は地表構造物を一掃するというものです」

 

榊を除く全員が最初、和哉が何を言ったのか、理解できなかった。

榊はしかめた顔をしたまま黙って聞いていた。

 

「ですが、G弾の集中運用は大規模重力偏差という未曾有の大災害を引き起こす切欠になりました。剥き出しになった海底は塩の砂漠へと化し、大気圧の激変により安全だったはずの南米などの後背地は壊滅的大打撃を受けました。また重力異常は人工衛星網を破壊、原因不明の電離層異常によって大気圏内通信は分断されることになりました。」

 

和哉は淡々と語る。

だが、その表情はまさに悔恨の念が浮かんでいた。

 

「地殻隆起が活発になった影響で、日本の国土が沈み始めました。これにより日本国民は比較的無事だったハワイとシアトルのマタイに移民しました」

 

その言葉を聞いたとき、五摂家の面々は言葉を上げようと彼を見て、そして何も言えなくなった。

悔しそうな表情を浮かべた武の唇の端から血が出ているのだ。

和哉の足に置かれた拳は硬く握られ、赤くなっている。

彼らが如何に自分の無力さを噛み締めたのか、思い出してもなお無念さが残っているのかが良く理解できたのだ。

 

「そして6月、BETAが再び人類の前に姿を現したのです。BETAは大陸が深海へなろうとも滅び去ってはおらず、人類は過酷な自然環境の中で残された僅かな居住可能域を守るための戦いが始まったのでした」

 

そこまで言った和哉は悠陽の目を見ながら、若干の微笑を浮かべて言葉を続ける。

 

「しかし、それを黙ったままいる私達ではありません。戦術機OS”EXS”が完成したのはちょうどその頃でした。」

「EXS?」

「なんじゃ、それは?」

 

斑鳩、紅蓮は聞きなれない言葉に和哉に問うように聞く。

 

「Education X-type System。解りやすく言えば教育型OSの試作型といったところでしょうか」

「教育型?」

「現在使用されている戦術機OSはあちらでの当時のものと変わらないという前提でお話しますが、既存のOSと違い機体操作中に行われる機動情報を蓄積させ、使用頻度の高いものをパターン化させる事で機体操作中に掛ける演算処理の最適化、それによる衛士の負担軽減と技量補強になります。またこのEXSは、機体操作の入力から実行までに発生するコンマ数秒の硬直時間をほぼゼロという処理速度の向上による即応性と動作実行の任意解除を可能としました」

 

だが、と和哉は心の中で思う。

これでもあのXM3のように自由度の高いOSにはならなかった。

やはり香月博士は偉大だったなと思った。

 

「ただ、このOSを完成させるのに時間が掛かり過ぎたのが悔やむ事ですね」

「掛かりすぎた?」

「ええ、本来ならばもっと前に完成しても良かったのですが・・・」

「何か問題があったと」

「はい、このOSを確実に処理させるためには戦術機の既存のコンピューターでは無理でして、第4計画で開発されていた高機能並列処理型のものを完成させる必要がありまして」

 

そう既存のコンピューターでは並列処理をする前にエラーを起こして止まってしまうのであった。

ゆえに高性能並列処理型が必要であった。

紅蓮は和哉の言葉から何かを感じ取ったのか、気になる単語を無視して話の続きを優先させた。

 

「・・・細かい事はあえて聞かぬが、完成させるとは?」

「開発者である香月博士が第5計画の連中によって更迭、軟禁、おまけにバーナード星系に移住する船団に惑星改造の為の人員として乗せられ行ってしまいましたからね。未完成の現物を手に入れたのに完成まで1年以上掛かりましたからね」

 

未完成とはいえ現物を手に入れられたのは行幸だったのだろう。

これが設計図だけだったならば、一体何年掛かったことやら・・・和哉はそう考えると寒気がした。

 

「まあ、何だか言いつつ完成したOSを搭載した事により衛士の生還率もあがり、これにより長期的なBETAとの戦いが見えてきました」

「ふむ・・・という事は、白銀。お主がここまで乗ってきたあの戦術機もそれが搭載されているのか」

 

紅蓮は第二区戦術機ハンガーに置かれた銀色の戦術機を思い浮かべながら言う。

 

「紅蓮殿、違いますよ。あの機体はEXSが搭載されいる(・・・・・・)のではなく、EXSを搭載する事(・・・・・)を目的として開発、というか強化改修した戦術機です」

 

面々はその言葉にどのような意味合いが含まれているのか考えた。

搭載させるのではなく搭載する。

同じように聞こえるが、その言葉の意味合いは大分違うものがある。

 

「あれは、あの世界で私達が人のために剣となる事を誓った証の機体、名はコウカ、篝火(かがりび)と書きますが、かがりびではなく”コウカ”です」

 

和哉はあの戦術機に、故事から篝火狐鳴(コウカコメイ)を引用し名付けた。

篝火狐鳴とは故事に曰く秦末、陳勝が呉広とともに反乱の口火を切ったとき、民衆を味方に付けるために呉広にかがり火をたき狐の鳴き真似をさせて「大楚(陳勝らが名乗った国名)が興って陳勝が王となろう」と叫ばせた事にあり。

人々を導く火となれという想いと数々の思惑が入り混じった機体。

それ故に和哉はそう名付けたのだ。

和哉は言葉を続ける。

 

「篝火は不知火をEXS搭載に完全対応(・・・・)を目的として強化改修しました。改修計画自体は不知火・壱型丙のものを雛形とし、問題点などを解消する事で一応(・・)完成した機体です」

 

紅蓮は言葉の含みを持たせた事に気になった。

 

「一応?」

「ええ、一応です」

 

実は、と和哉が一応とつけた理由を補足として話し出す。

 

「武の全力の高機動戦闘には各部間接や跳躍ユニットへの負担が大きすぎまして、どうやっても完全に対処できませんでした」

 

溜息交じりの和哉の言葉に紅蓮と斑鳩は内心驚く。

そして、同時に機体が対応しきれない機動とやらを見たいものだと二人は思った。

 

「話は少し飛び2008年の秋頃、私は国連軍、その頃にはもはや形骸化していましたが、豪州国連軍司令部に接触、設立計画書を提出しました」

「何故、豪州なのだ?」

「あの頃、通信網はいまだ回復していませんでしたが、豪州は比較的BETAの被害が少ない地域でしたから」

 

九條は他にも理由がありそうね、と感じながらも口を挟まなかった。

言わないという事はあえて伏せたい事か必要ない事柄なのだろうと思ったからだ。

 

「計画名はラスト・ガーディアン。人類の剣となる部隊の設立計画です」

 

その言葉を聞き、武以外の全員が思った。

一士官の設立計画が受理されるものなのかと。

武は当時を思い出し、顔を少し青ざめていた。

 

「まあ、設立に関しては少し揉めましたが、最終的には受理され、設立となりました」

 

その言葉を聞いて、思わずあれで少しかよ、と心でツッコミを入れる武。

事の経緯を知っている武は、当時設立に揉めた際の和哉の暗躍と口の上手さに香月夕呼の幻影を見るほどであったのを思い出す。

あれは、本気で和哉が敵でなくて良かったと感じさせた出来事だった。

 

「ならば、楠木殿がその部隊の隊長に」

「いえ、その頃の私などただの若造ですから、隊長にはもっと相応しい方になっていただきました」

 

崇宰はまあそうだろうな、と思いながら言葉を続ける。

 

「どのような方がなったか聞いても大丈夫か」

 

和哉は少しだけ考えて、これぐらいなら支障があるまいと結論付けて口を開く。

 

「そうですね・・・支障はないかと思います。隊長には元国連軍大西洋方面第1軍のヴィルフリート・アイヒベルガー中佐になっていただきました」

 

予想外の名前を聞き、紅蓮、斑鳩は思わず噴出してしまう。

斉御司、崇宰、九條は目を丸くさせ驚いていた。

 

「ヴィルフリート!?あのヴィルフリート殿か!!」

「他にヴィルフリートと呼ばれる方は知りませんので、そのヴィルフリート殿です」

 

斑鳩は和哉に確認するも、あっさり肯定されて思わず本当かよ、と呟いていた。

 

「斑鳩、紅蓮。私はヴィルフリートと呼ばれる方の事を詳しく知りません。説明をお願いできますか」

 

話においていかれる形になった悠陽は説明を求める事を二人に振る。

紅蓮は斑鳩と目を合わせ、自分が話す事を目で伝える。

斑鳩は首を縦に振り、了承の意を伝えると紅蓮は悠陽に向き直り口を開く。

 

「ヴィルフリート・アイヒベルガー殿は1985年のグレートブリテン防衛戦における七英雄の一人で”黒き狼王”の異名を持つ国連軍の衛士でございます」

 

武はその言葉を聞きながら、当時初めて対面した時に中佐の事をよく知らなくて、彼の部下と揉めた事を思い出した。

金髪のお嬢様にはその後も何度か「不敬だ」とか「調子に乗っている」とか言われていたな、元気にしてるかな、などと考えていた。

武がそんな事を考えている間に話は続いていた。

 

「この部隊の設立には四つの目的がありました」

 

和哉は指を四本立てて口を開いた。

 

「一、いまだ生きることに足掻く者たちの剣となり戦う事」

「一、EXSの普及により衛士の生存率を上げ、人類の損耗を抑える事」

「一、人類の希望となる存在を明確化することで世界が一致団結する事」

「一、BETAに止めを刺す方法を模索する時間の確保」

 

そこまで言った和哉は目を閉じて黙った。

不思議に面々は思ったが、声に出さずに和哉の動きを注視して待った。

しばらくして、ゆっくりと目を開けた和哉は静かに口を開く。

 

「そして部隊設立から5年経ったある時、発見は偶然の産物に近いものでしたある兵器が完成しました」

 

それは神の奇跡だったのか、悪魔の閃きだったのかわからない。

だが偶然、いや、ある意味必然的に完成した。

 

「その名は対消滅爆弾」

 

それは神の裁きの炎か、自らをも滅ぼす悪魔の火か。

存在してはいけない兵器の完成だった。

 

「ツイショウメツ?何ですか、それは?」

 

悠陽は聞きなれない単語の意味を和哉に問う。

 

「詳しい説明は伏せますが」

 

和哉は少し考えてから口を開く。

 

「そうですね、大きさ的にはこの手のひらに乗る程度の量で爆発を起こせば世界が、いえこの星が壊れる程の威力を引き出す事も可能な爆弾です」

 

その言葉に面々は絶句する。

そんな兵器が存在するのかと、そしてこの男はそれを造れるのかという事に恐怖した。

それを感じ取ったのか、和哉はいやいや、と首を横に振りながら言う。

 

「ご安心下さい、あれが完成したのはあの世界だからで、しかも偶然のもの。例え此方で造れたとしても二度と造る気はございません」

 

そう、あれは存在してはいけない。

あの存在はG弾など子供のおもちゃ(・・・・・・・)にしてしまえる常識外の超兵器に近いのだから。

和哉は心の中でそう決心していた。

気を取り直した和哉は、言葉を続けた。

 

「時は2015年暮れ、私は国連上層部にある作戦計画書を提出します」

 

そして、ついにあの世界での物語は終わりに近づく。

 

「作戦計画名はカルネアデス計画」

 

古代ギリシアの哲学者、カルネアデスが出したといわれる「カルネアデスの舟板」の名を冠する作戦。

和哉が背負うものの重さを理解した上で、その覚悟と意思を込めてあえてその名を付けたのだ。

 

「人類の存亡を賭けて、深海に没したオリジナルハイヴ、そこに存在するあ号標的への強襲進攻作戦です」

 

 

カルネアデスの舟板

 

自らの命を助けるために他者の命を奪う事への是非を問う

 

 

問われる自らの命は人類の未来

 

問われる他者の命は地球の未来

 

問いて賭けるものは己の命

 

旅路の果てに問われる選択

 

世界の明日がいま決まる

 




次回予告

世界の果てで問われる選択

望まぬ選択

求めぬ結末

だが目をそむける事は出来ない

それは己の意思の下した答えだから


次回

Muv-Luv The alteration

01-07:果ての答え
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