Muv-Luv The alteration 作:詩仙堂黒猫
過去の世界における話はいよいよ佳境へ入ろうとしていた。
崇宰は大陸が深海になろうとも存在し続けるオリジナルハイヴに嫌悪感を抱きつつも、気になったことを和哉に質問した。
「しかし、深海に沈んだオリジナルハイヴへどのように突入したのかね?」
水陸両用の戦術機は存在する。
だが火力と機動力の面においては難点がある機体のため、まさかそれでハイヴ攻略とは不可能に近いではないかという考えからの質問であった。
崇宰の懸念は正しい。
実際にかの世界において和哉は水陸両用だけでの攻略もシュミレータで試しているが、ほぼ不可能と言っても過言ではなかった。
「えーと、ですね」
和哉は質問に対して珍しく目を泳がせて、どう答えるか考えていた。
しばらくして考えが纏まったのか口を開く。
「あまりにも無茶苦茶な話なのでご了承下さい」
和哉は答えを口にする前に断りを入れる。
それを聞いた全員が何を今更言うかと心で突っ込んだのは秘密である。
「再突入カーゴを利用した潜水艇を造りました」
一瞬の間をおいて、武以外の全員がえ?という顔になる。
紅蓮と斑鳩は予想外の答えだったのか、随分と面白い表情をしていた。
「いや、カーゴの防水機能や耐水圧設計に時間をとられましたが、何とかなりまして」
和哉は軽い口調で言っているが、その過程は大変なものであった。
何せ真空と深海では似て非なるものどころではない。
深海でBETAの襲撃にあっても一撃では沈まないように設計するなど問題だらけだったのだから。
これがなければ計画は一年半は前倒しができたと言われていた。
そもそも大気圏突入を想定したカーゴを潜水艇に改造するという想定されていないのだ。
何とかなっただけでも凄い事である。
「まあ、それを抜かしても色々と準備やら根回しなどがありまして、計画実行まで1年ほど掛かりました」
実際に作戦決行前までに済ませなければいけないことは山積みだった。
限られた艦艇と水陸両用戦術機を使ったオリジナルハイヴへの偵察報告の解析、外面から推測されるハイヴ内部の状況把握、バビロン作戦によるハイヴ内部の茎構造の変化範囲の予測、決戦部隊への志願者選別からシュミレータを使った攻略特別訓練など上げればキリがなかった。
それを陣頭指揮を取りながらこなしていたのが、和哉本人なのは言うまでもない。
無論、和哉一人が奮闘した程度ではどうにもならなかっただろう。
それを支えてくれる部下がいたから何とかなったと、和哉は考えている。
だが当時の状況を知る者は口をそろえて語る、「楠木大佐(・・)がいなければ1年以内には処理しきれていなかっただろう」と。
「そして2016年12月31日深夜に作戦が発動します」
和哉は語りながら思い起こす。
まだ自分の体感時間では、そんなに経っていない筈なのに昔の事のように感じていた。
それ位までにあの一日は長く感じさせるものであったのだ。
その一日の始まりを告げた、あの出撃の事を。
2016年12月31日
アフリカ大陸リビア湾とも言うべき場所にその艦隊はあった。
ここはかつてリビアがあったがバビロン作戦の影響による地殻変動によって広範囲が水没した。
地殻変動が落ち着いた頃、アフリカ駐屯混成部隊が仮設基地として使っていた海上基地である。
時刻はカルネアデス計画発動まであと数時間といった頃であった。
このために再建された洋上支援艦隊の旗艦アイギスを背に出陣式が始まろうとしていた。
本作戦の後方支援部隊隊長としてラスト・ガーディアン新副長(・・・)フィカーツィア・ラトロワ中佐の姿もこの場にあった。
和哉は出撃準備の済んだ36名の衛士たちの前に置かれた台に上る。
台に上がった和哉は整列した衛士たちを見回した後、口を開く。
「この長き果てのない地獄を終わらせるために、あの憎きBETAどもに対して我ら人類は最大にして最後の攻勢に出る」
毅然とした態度で和哉は最後の訓示を始める。
「後に続く者たちのためにも、この作戦は失敗は出来ん」
この作戦の成否が未来を人類の存亡を決める。
作戦の失敗は人類終焉のカウントダウンの開始でもある。
しかし、作戦決行には問題が残されていた。
「だが、この作戦を行うことは、世界にとっては地球の生態系を更なる混乱に陥れかねない」
そう対消滅爆弾の威力は絶大だが、影響は未知数のもの。
これ以上地球環境に与える影響などは予測不可に等しい。
だが、既に賽は投げられたのだ。
「また、世界の人々の希望の火となる我らラスト・ガーディアンがこの作戦を行うことは上より禁じられた」
実際は禁じさせている(・・・・・・・)のだが表には出ない話である。
これは全て国連上層部との話し合いによって事前に(・・・)決められた事なのだ。
「ゆえに、我ら36名は現時刻を持ってラスト・ガーディアンより離反、世界にとって害悪な事を為す悪党となる」
計画実行とその責任の在りかについての取引(・・)。
予定どおり(・・・・・)の36名の衛士の暴走による造反事件。
それのついで(・・・・・)でハイヴが消えるだけである。
ただそれだけの話だ。
「今日という日を持って、我らは国を追われる立場となる」
世界に生きる者たちには裏切りに等しいだろう。
だがここにいる36名にはそれに対しての未練はなかった。
「これより我らには帰る場所はない、我らを語る者はない、我らを縛るものはない」
ここにいる衛士たち全ては志願してきた(・・・・・・)者の中から選抜した者しかいない。
全員、家族はなく、愛する者はなく、故郷もない。
ただ、BETAを駆逐する為に戦ってきた歴戦の衛士たちだ。
「ならば、これより我らは鬼となろう」
和哉は左手握り締め、天高く掲げるように振り上げる。
「地獄のような戦場を嬉々として駆け巡る修羅となろう」
歌い上げるように高らかに声を上げる。
「修羅となり世界を侵す化け物を道連れに、我らは地獄に落ちよう」
その瞳は海の彼方深くにある目的地を見据える様に力強くあった。
「化け物どもに、我ら人間の底力を、真の恐怖を叩き込み地獄へ落としてやろう」
衛士達はその瞳に静かな闘志を宿し、ただ静かに和哉を見つめる。
「人々に、後世で畏怖される情け容赦のない糞の様な地獄を見せてやろう」
その言葉に込められる真意と想いを感じ取れぬ者はこの場にいなかった。
全力を尽くし、何と言われようが作戦を遂行させる決意。
それを口に出さぬ誓いの言葉。
不退転の覚悟の意思が静かに、だが確かに全員に伝わる。
「我らは現世後世の人々から蔑まれ、憎まれる悪党となって消えていこう」
和哉は其処まで言うと、手を下げて口を噤み、自分の前に並ぶ36名の衛士たちの顔を改めて見る。
そこには憂いの表情はない。
そこには後悔の表情はない。
全員が和哉の瞳を真っ直ぐに見返して、和哉の言葉を待つ。
和哉はフッと軽く微笑むと、瞬時に顔を引き締めて挙手の敬礼をしながら口を開く。
「皆の命をくれ」
その言葉に、歴戦の衛士たちは一斉に毅然と誇り高く挙手の敬礼をする事で答える。
その光景を見て、ラトロワはどうしても涙をこらえる事はできなかった。
彼らはこれから死地へと向かう。
反逆者の汚名と世界の明日を背負って、孤立無援の地獄を歩くのだ。
だが、彼らの表情には悲しみや怒りなどはない。
あるのは明日を見据えた何処までも真っ直ぐな瞳をした戦士の姿ではないか。
だから、何もできずただ彼らを見送ることしかできない自分がどうしようもなく悔しかった。
この心から溢れてくる想いを胸にしたのは彼女だけではなかった。
基地に残る若き衛士は、死地へ向かう熟練の衛士を目に焼き付けるように。
長年彼らと付き添った整備技士は、これ以上自分たちが何もしてやれない事を悔やむように。
後方支援の年老いた将校は、旅立つ戦士たちに全ての願いと汚名を背負わせる事の無力さに。
心に想う事は違えども、この場にいる見送る者たちは知らずうちに涙を流して、彼らの姿を目に、心に焼きつけた
わずか1個大隊、36名の衛士の決戦部隊。
彼らに世界全ての命運が託された瞬間でもあった。
和哉はあの時の想いを思い起こしながら、言葉を続けた。
「オリジナルハイヴに突入できた我々を待っていたのは想像以上の地獄でした」
ハイヴ内への突入口にはかつての門ではなく、何度かの強行威力偵察の結果判明した元地表構造体の瓦礫と現在の地表構造体の隙間口を選んだ。
この隙間口の先には開けた空間が存在し、其処から先は酸素がある事までは判明していた為、この経路を利用することにした。威力偵察ではその先に元主縦抗にまで繋がっている事が解っていたが、実際は主縦抗は縦抗ではなくなっており、バビロン作戦の影響によってブロック天井が崩落しており、幾重のもの変則的なフロア化していた。
それらを強制的に破壊せず、地下茎構造の拡張によってできた縦抗と横坑を駆け抜けていったのである。
強制的に破壊しない理由は確実にあ号標的を破壊、消滅させなければいけないからである。
万が一、破壊の余波で崩落した事で部隊は全滅したのにあ号標的が健在したままという可能性の上での判断である。
オリジナルハイヴ突入より13時間が経過――――
和哉達はようやくハイヴ最深部主広間に繋がる横坑を4機の戦術機が噴射跳躍で移動していた。
そう、4機(・・)だけである。
36名の衛士達がもはや4名しかいないのだ。
そのうち6名は潜水艇によるオリジナルハイヴ突入時、水陸両用に搭乗して和哉達を先導しながら守るために深海の中で散っていった。
残りの30名の仲間も此処に来るまでに和哉達を最深部に送る為に、全力を尽くして足掻き戦い、そして倒れ散っていった。
和哉のイーグル改良型、武の篝火の他には先程まで補給コンテナを搭載していたフレッドのF-16”ファイティング・ファルコン”とヴァシリーのSu-37M2”チェルミナートル”だけだ。
和哉はこの作戦の要の為、全員の援護もあって弾薬や機体状態は無傷に近く、武は長刀一振りと87式突撃砲の予備弾倉の残りが36mmが2つと120mmが1つまで消耗したぐらいだが、フレッドやヴァシリーの機体はそういう訳にはいかなかったようだ。
補給コンテナ搭載によって他の機体よりも重量が増して機動力が下回った事が大きいのか、F-16は跳躍ユニットと脚部の電磁伸縮炭素帯の異常負荷のアラートが発生している。
Su-37M2は主にF-16の援護をしていた事もあり、予想以上の消耗増大に伴って左腕部のモーターブレードが強制排除され、右腕部のモーターブレードも辛うじて使用できる程度まで疲労していた。
また、近接戦主体の影響もあり装甲なども小破していた。
横坑の出口と思われる先には隔壁で塞がれていた。
隔壁目掛けて和哉は担架システムによって展開させた試作型無反動砲を放つ。
爆発とともに崩れ落ちる隔壁を見ながら武は言う。
「威力は凄いな」
「砲身の耐久度と弾数はいまいちだがな」
そう言いながら和哉は焼付けた砲身を見て、その場に廃棄する。
贅沢な兵器だ、と武は思いながら、崩れ落ちた隔壁の先に広がる広間の奥を見る。
ここからセンサーとカメラを見る限りではBETAは最終目標であるあ号標的しか存在しないようだ。
戦術機のカメラでも距離がありすぎて上手く確認できないが、反応炉とあ号標的と思われるシルエットは見えた。
「さて、どう攻めるかね」
和哉は射程範囲内にあ号標的をどう収めるか思考する。
その間に機体情報をチェックしていたフレッドは個別通信中のヴァシリーに目で何かを確認する。
同じくチェック中だったヴァシリーは顔を上げると、黙ったまま神妙な表情で頷き返す。
フレッドはふぅと苦笑い混じりの溜息を吐くと、和哉へ通信を開く。
通信に出た怪訝顔の和哉に、フレッドは明るい口調で言う。
「隊長、機体の稼動限界が近いみたいです、ですから」
「後は頼みます!行くぞ、フレッド!」
「なっ、お前ら!!」
機体の稼動限界を悟ったフレッドとヴァシリーが両脇に展開して攻めるようとする。
和哉が止めようとするも空しく彼らは突進する。
しかし、その二機の突進に呼応するかのようにあ号標的から凄まじい勢いで触手のようなものが雨の如きに放たれる。
前進しつつ回避運動を取りながら迎撃する二機であったが、不調の機体では荷が重かったか触手の雨によって二機はそれぞれが片腕部、片脚部を吹き飛ばされてしまう。
だが、二人はそのままでは終わらなかった。
「先に逝きます!!」
「また、今度は地獄で飲みましょう、隊長たち!」
機体を中破させたフレッドとヴァシリーが加速噴射で前滑りさせながら、触手に管制部を貫き抜かれる直前に搭載したS-11を強制起爆させる。
直後、S-11による凄まじい爆風と熱光が和哉達を襲いくるが、この仲間が身を挺して生み出した煙幕を無駄にしてどうすると和哉は動いた。
兵装担架システムを起動させて搭載していたガトリングモーターキャノンをあ号標的に向けて放ちながら
和哉はイーグルを突貫させる。
「武は援護を頼む、先に行くぞ!」
「了解!」
和哉は自身を狙ってくる触手に向かい、ガトリングと両手に構えたAMWS-21を乱射させる。
幾つかの触手は弾け飛び赤黒い粘液を撒き散らすが、それをも潜り抜けてくる触手もある。
ほとんどは後方から武の87式支援突撃砲で撃ち落しているが、それでも抜けてきたものを躱しつつ、あ号への距離を縮めるために加速噴射を止めない。
だがどこかで、慢心していたのかも知れない。
だからこそ気が付かなかったのだ。
あ号標的の動きが変化した事に。
あとわずか踏み込めば手が届くところまで来た瞬間、イーグルに衝撃が襲った。
「和哉!」
武は後方から見ていたので何があったのかはっきりと見た。
和哉が躱した触手の影から更に触手が襲い掛り、和哉のイーグルの左脚部を吹き飛ばしたのだ。
あ号標的はこの短時間で学習してきた知識から対応策を引き出してきたのだ。
動きが緩慢になったイーグルに触手が幾つも突き刺さり、機体への侵食を開始する。
凄まじい速度で機体を侵食するのを悟った和哉は、思わず舌打ちをする。
「チッ、予想以上に侵食が速いか(これが効いてくれよ)」
そう呟くと和哉は万が一に備えて用意していたリボルバーに似た拳銃を片手に持ち、完全に機体制御される前にハッチの強制排除ボタンを叩き押した。
搭乗ハッチが強制排除によって吹き飛ぶと、和哉は目の前に鎮座するあ号標的の感覚器官の一部に向けて拳銃を即座に2発放った。直後、和哉の腹部をあ号標的から放たれた触手が貫き侵食する。
「ぐぅぁ!」
腹部の激痛とそれに伴う焼ける様な熱さ、身体を侵食する不快さに声がこぼれ出る。
だが、和哉も黙ってやられた訳ではない。
あ号標的の感覚器官に撃ち込まれたのはただの弾丸ではなかった。
ナノマシン型金属と呼ばれる特殊金属を加工した弾丸だ。
この特殊金属はかつてある世界において機動兵器を取り込む事によって自己再生・自己進化をもたらすとして戦争に利用されていたものがオリジナルだが、この特殊金属にはそんな機能はない。せいぜい取り込んだものの生体構成や感覚を狂わせる程度の毒性を持っているぐらいである。おまけに特殊金属も加工するのが弾丸2発分が限界の量しかなかった。
だから有効活用したのであった。
撃ちこまれた弾丸が瞬時に融解、その毒があ号標的の器官を侵食する。
≪GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA≫
音にならないあ号標的の絶叫が触手を通じて振動音のように伝わる。
それに伴い、篝火に向かって伸びていた触手の動きが止まる。
それを感知した和哉は、痛みを堪えながら武に向かって全力で叫ぶ。
「い、いまだぁぁ!タケルゥゥゥゥゥ!!解除しろぉぉぉぉ!!!」
その和哉の叫びに武は止まりかけていた意識を覚醒させた。
「あ、ああ、いくぜぇぇぇ!!」
武は本来ならば(・・・・・)S-11の起爆スイッチを樹脂製保護カバーを叩き割って押す。
瞬間、管制ユニット内の電源が一斉に落ち、即座に再起動をはじめる。
武の網膜投影システムに再起動を告げるウィンドが表示される。
[Education X-type System Ver.1.13-S]
[Safety Lock Release]
EXS完全起動によって制限されていた(・・・・・・・)跳躍ユニットの出力が解除され、機体各部に内装されていた放熱ファンが展開される。
これが武の篝火に作戦決行前の整備の際にS-11の代わりに積み替え調整した『切り札』である。
EXSはXM3のような自由度に比べると低いと言わざるを得ない。
だが、XM3にはないEXS独自のシステムが存在する。
それの説明にはEXSの役割が関係してくる。
EXSの役割はXM3の簡易版の他に衛士の技量を分析し、衛士に過度の負担が掛からないように機体性能に制限調整をかける役割を有していた。これは衛士が戦術機の限界性能に対応できるとEXSが判断しない限り、その戦術機の性能を安定させるための仕組みでもあった。しかし衛士が対応できるとEXSが判断すればリミッターを解除後、EXSは衛士と戦術機との同調性を極限まであげて、性能を最大限界値の状態で安定させ維持できる補助システムを行うようになっていたのである。
だが、このシステムはデメリットが高い為に一般普及用にはオミットされている。
このシステムで衛士に掛かるデメリットは戦術機そのものの稼動限界が5分と短い事と発動までに硬直時間が発生する事の二点である。
また、引き出された戦術機の限界性能は、搭乗する衛士の事を考えられていないために想像以上のGが発生するなど身体面への負担も凄まじい。
整備班からは使用後は解体整備確定のお墨付きであった点も大きい。
だがもはや後のないこの状況、使い方によっては状況を一変させる要因になるかも知れないということで搭載されたのだ。また元々篝火はEXS完全対応を目的として強化改修された戦術機であるため、このシステムの起動にも対応した改装を施されていた。
だからこそ、武の篝火に『切り札』が搭載されたのである。
篝火が全身から悲鳴ような駆動音を上げながら再起動すると、高速による3次元多角形機動を駆使した変則的な軌道を描きながらも、あ号標的に向かって突進していく。
操縦している武の身体にも凄まじいGが襲い掛かり、内臓などの器官にもかなりの負担が掛かったのか口端や鼻からは血がこぼれていた。
それでも武は全身の意識を強く入れて、気を失わないように感覚を研ぎ澄ましながら操縦している。
この時、和哉も武も目の前のことに集中していた為、篝火に起きた現象に気が付いていなかった。
あ号標的から放たれた触手が大幅にばらけている事に、そして篝火が通り過ぎた後の場所も狙った事に。
これは放熱ファンによる強制冷却が行われる際に、装甲表面から剥離した金属片が機体の周囲を舞い漂った結果、あ号標的の持つセンサーに似た感覚が質量を持った残像として捕らえている為に捕獲しきれていないのであった。
もっともこの現象は、和哉も意図したものではなく偶然の産物であったが。
また、毒によって感覚が狂っているのも影響があるのだろう。
「うおぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉおぉぉぉおぉ!!」
雄叫びを上げながら武は篝火を真正面から(・・・・・)突進するように動かした。
真正面から突進する篝火目掛けて触手が集中して放たれ、機体を貫くかと思われた瞬間、篝火の姿が消える。
直前に肩部の跳躍ユニットの最大噴射で急上昇したのだ。
武は回避した事で瞬間的にがら空きになったあ号標的の真上から長刀を構えて急降下する。
あ号標的目掛けて長刀を振り落ろそうとする武の篝火に向けて、触手が嵐のように襲い掛かる。
篝火から振り落とされる長刀は、襲い来る触手の嵐を斬り裂いてる途中で金属疲労の限界に達したのかへし折れてしまった。
だが、篝火の勢いは止まらなかった。
肩装甲部などが触手で破損するが、それでも篝火の勢いは止まらない。
「人類を、人間を無礼るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
武はその勢いのまま前腕部に装着された長刀部を可動展開させ、和哉の戦術機を捕らえている触手を全て切断する。
和哉は、腹部を貫いた触手も切断された事で勢いに引きずられそうになるが堪え、反動を使いシートに倒れこむ。
再起動した網膜投影によって、あ号標的の侵食からシステムが完全に開放された事を確認した和哉は残された力を振り絞りながら、軋む音を上げながらイーグルの両椀部を反応炉の装甲殻に拉げながらも突き刺す。
「これが対消滅だ、喰らえよ」
そう叫びながら和哉は、最後の渾身の力を入れて副衛士席部分に繋がるレバーを引き抜く。
管制システムの副衛士席部分に搭載されていた筒状の機械が駆動音を上げて排気とともにロックが外れる。
瞬間、機械から凄まじい黒い光が触れあがっていき、全てを消し去っていく
「フッ(・・・悪いな、武・・・)」
痛みを感じるまもなく光が和哉を、あ号標的を、武の篝火を、全てを包んで消し去っていく。
そして、全てが黒い光に包まれた。
時は2017年 1月1日 19:41
オリジナルハイヴ海域において対消滅爆弾とおもわれる広域に及ぶ爆発を確認。
これに同調するかのように世界中のBETAの進攻が緩慢に単調になっていく。
この現象と先の爆発を持って、国連はオリジナルハイヴならびにあ号標的の消滅を認定、発表する。
国連軍は、この爆発による影響は現在のところ未確認であるが、未知数の影響があると考えユーラシア全海域を立入禁止海域とした。
ここにBETAとの戦いはひとまず幕を下ろした。
だが、これは全て過去の物語
これは全て可能性の世界の結末
これは全てかの世界の答えにすぎない
なぜならば
この世界の答えはまだ出ていないのだから
次回予告
過去は語られた
だが過去は今ではない
現在は進む
されど現在は混迷の中
なれば
未来はどうなのだろうか
次回
Muv-Luv The alteration
01-08:答えなき未来