Muv-Luv The alteration   作:詩仙堂黒猫

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01-08:答えなき未来

1998年10月23日、帝都城謁見の間

 

時刻は22時を少し回ったところである。

現在、謁見の間には政威大将軍である煌武院悠陽をはじめとした五摂家の面々、紅蓮大将が居た。

和哉と武は既に退室しており、榊総理は明日も仙台への首都機能移転の閣議がある為、再び官邸に戻るために退室している。

鎧衣課長も何事か用があるようで少し前に退室した。

紅蓮と榊は鎧衣の用事の行き先にはある程度検討がついているが、あえて触れなかった。

 

「巌谷中佐をお連れいたしました」

 

謁見の間の外に控えていた侍従の言葉が聞こえた。

紅蓮は悠陽の方を向き見る。

悠陽が静かに頷くのを確認すると、紅蓮は外に向けて声をかける。

 

「良い、通せ」

 

戸が静かに開かれ、巌谷が入ってくる。

 

「失礼いたします」

 

巌谷は入ってすぐに上段に座る悠陽の方に一し、その後五摂家の方に一礼する。

一礼後、巌谷は下段の中ほどのところまで進むと、悠陽の方を向き背を正して座る。

巌谷は平身低頭するように頭を下げ、口を開く。

 

「本日、煌武院悠殿下のご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じまする」

 

悠陽は五摂家の面々の方に視線を送る。

五摂家はそれぞれ静かに頷くと、代表するように斉御司が口を開く。

 

「巌谷、楽にして良いぞ。今より私的な(・・・・・・)時間だ」

 

巌谷は下げたまま、肩をピクリと反応させる。

それを見取った斉御司は言葉を続ける。

 

「何も皆、知らぬ顔ではあるまいて。楽に話した方が用件も早く片付くであろう」

 

しばし下げたまま考えていた巌谷は、ふぅと一息つくと顔を上げて口を開く。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきまして・・・改めて、お久しぶりでございます、殿下」

 

巌谷は悠陽に向かい軽く会釈しながら挨拶をする。

 

「此度は不意な要請にも関わらず、ありがとうございます」

「巌谷、忙しいところをわざわざすまんな」

 

それに対して悠陽は軽く頭を下げるように、巌谷に礼を述べる。

紅蓮も軽い口調だが礼を述べる。

今日、巌谷を指定して城内省から要請を出したのは五摂家の人間とも面識があり、斯衛軍の内情も理解でき、固体概念に囚われない発想と理解力を持った衛士ということで選定されたからである。

それに推薦として巌谷の名を上げたのが紅蓮であった。

悠陽も数回程度だが会った事はあるため、これを了承。

五摂家からも反対の声がなかった為、巌谷が呼び出された。

 

「いえ、そのような事は」

「そうか・・・でだ、単刀直入に聞くが、アレ(・・)をどう見る」

 

紅蓮はあえて何とは言わずに巌谷に問いかける。

巌谷は紅蓮の問いかけに少しだけ考えた後、自分の感想を述べ始めた。

 

「あの不知火・壱型丙を思わせる外見、肩部跳躍ユニットという現在では考える事も実現もできない技術と絶妙な機体バランス、既存のものを上回る未知数のOS。最初はあの香月博士のものかとも思いました」

 

この世界において、あのような発想を持った戦術機を考え出せる人間は限られている。

その中でも、日本帝国の戦術機をあそこまで改良できる人間となると更に絞られる。

その筆頭が国連軍所属の香月夕呼博士。

彼女ならできるだろうと思っていた(・・・・・)。

 

「ですが、内部の整備点検表を見たとき、直感的に思いました」

 

少尉から戦術機の整備表を見せてもらって、息を呑んだ事を思い出す。

 

「これは現在の技術のものではないと」

 

その答えは直感にすぎない。

だが開発衛士などで戦術機に長年関わった勘を、それを巌谷は信じた。

 

「では、巌谷はあれはどこのものだと思ったのだ」

 

巌谷は真面目な顔をして、紅蓮にはっきりとした声で答える。

 

「紅蓮殿、笑っていただいても構いませんが、私はあれは未来から来たものではないかと考えています」

 

その答えを聞いた悠陽含め五摂家は、表情を変えないものの内心驚きを隠せなかった。

自分たちは和哉の話を聞いて、納得した事をこの巌谷は自分自身の思案の末にそれを導き出したのだ。

紅蓮はその答えを聞き、内心でほぉ、己の勘で見抜きおったかと思った。

表情を変えないで紅蓮は、巌谷への評価が間違ってない事に喜んだ。

悠陽は巌谷に問いかける。

 

「巌谷、なぜそう思ったのですか」

 

巌谷は悠陽の問いかけに、戸惑いなど感じさせないはっきりとした口調で答える。

 

「はい、殿下。確信に到った理由は、点検表の消耗した機体各部に使用されている部品の記載情報を見たからでございます」

 

そこに載っている情報は巌谷の知りえる限り、現在(・・)ではある筈のない記載だった。

 

「そこにMADE IN AUSTRALIA/JPという記載がありました」

 

それは、本来ではありえない記載なのだ。

海外製品でも米国製の部品ならまだしも、豪州製はありえないのだ。

開発されていない訳ではないが、基本的に日本帝国内には流通していない。

しかも豪州と日本帝国の共同開発となれば余計にありえない。

日本帝国とオーストラリアは1998年現在は友好的な関係とはいいがたい。

これはかの世界でも変わらなかったが、和哉がEXSと一部の技術をお土産にすることで日本の戦術機メーカーをオーストラリアに避難させる事に成功させたのだ。

これにより、かの世界では地殻変動によってユーラシア大陸崩壊後も日本帝国が戦術機の開発を続ける事ができ、ラスト・ガーディアン設立の際に戦術機の整備面からオーストラリアを本拠地とする事に決めた要因でもあった。

 

「また、肩部の跳躍ユニットに目を奪われがちですが、可動兵装担架システムには邪魔にならない様に小型軽量化(・・・・・)がされたスラスターユニットが施されていました。これは、米国といえども今だに開発に成功していません」

 

巌谷の指摘は正しい。

現在、肩部や背部にスラスターを搭載した戦術機は確かにある。

だが、そのどれもがスラスターは大型で搭載によって何らかの負担が発生している。

しかし、篝火のスラスターユニットは違った。

肩部と可動兵装担架システムと一体化し、なおかつ可動兵装の機能が損なわれていないのだ。

また肩部跳躍ユニットの邪魔にもなっておらず、機動性などに影響はでていない。

しかも、それがスラスターユニットと言われなければ気が付かないほどさりげなくあるのだ。

これが未来からきた技術でなければ、今いる戦術機開発に関わる者全員が明日から職を失うだろう。

それほどのものなのだ、小型軽量化をするという事は。

 

「ほう、巌谷。それでその事をどう感じた?」

 

紅蓮は巌谷にそれらの技術を見た感想を聞く。

巌谷はその問いかけに目を輝かせながら、顔を綻ばせながら言った。

 

「素晴らしい、と」

 

巌谷は素直にそう賞賛の声を送ったのだ。

崇宰は巌谷のその様子を子供のようだと思って見ていた。

 

「戦術機の基本を覆しながらも、不知火らしい機体性」

 

巧妙に隠されているが外装部には放熱用と思われる排熱口があるのは整備の際に確認されている。

巌谷は、これらは特殊な機能に対応させる為に取り付けられたものと推測している。

しかし、平常時の事も想定すると、排熱口は正しいと巌谷は考える。

この未知のOS『EXS』の完全解析は出来ていないが、これを乗せる為にメインコンピューターを高性能なものに変更しているらしい。

それらの処理の際の放熱をも考えるならば、排熱口の増設は納得できる。

また隠す事で、被弾率を下げる事も出来る。

また、不知火の特性にある接近戦も損なう事のないOSの性能。

それらをさらに高める為に最先端技術による増強。

 

「惜しみなく使われている最先端技術」

 

肩装甲部に搭載された可動式跳躍ユニット。

小型軽量化が図られたスラスターユニット。

既存の概念を打ち破った革新的なOS。

OSの能力を見えぬ形で支える内装排熱口。

 

「さらには理にかなった武装の発想力」

 

篝火の前腕部に装着された可動式長刀を思い起こしながら言う。

最初見たときは、何をふざけたものをとも思った。

だが、少尉との会話で気が付いた。理にかなった装備であると。

本来のナイフシースを除外し、装着された長刀は可動式のアーム側面に装備されているのだ。

これにより、両腕のマニピュレータが射撃兵器を構えた状態でも展開する事ができるのだ。

また、これは高速機動によってBETAの間を擦り抜けて行く際にもアームを展開するだけで攻撃を与えられる。ただ、問題点は長刀の消耗率の高さであろう。

しかし、この発想はブレードエッジ装甲よりも安価で既存の戦術機でも改良するだけでできる。

アームの耐久度など詳しくわからない点もあるが、この技術だけでも目から鱗であった。

巌谷はそれを見て、胸が熱くなるのを感じた。

この戦術機を生み出した者はどのような者なのだろう。

また、これほどまでに扱いが難しいと思われる戦術機を操縦する衛士も気になった。

そう思い起こしながら目を輝かせる巌谷を見ながら、紅蓮は聞いた。

 

「巌谷、気になるか」

 

紅蓮の言葉に巌谷は迷うことなく答える。

 

「ならないと言えば嘘になります」

 

巌谷の答えに紅蓮はしばし何事か考える。

悠陽や五摂家の面々はなんとなく嫌な予感がした。

紅蓮は何か思いついた様に顔を上げながら口を開く。

 

「では、巌谷」

 

その時の事を斑鳩は後にこう語る。

 

「会ってみるか?その戦術機、篝火の衛士とある意味、生みの親とも言える男に」

 

そう言った時の紅蓮大将の表情は実にイイ笑顔だった、と。

 

 

 

 

 

 

帝都城の和哉の客室。

武と和哉の二人は今、楽にして座りながらくつろいでいた。

武と和哉は謁見後、退室してここに再び戻ってきて、二人で遅い夕飯をいただいたのだ。

今回の件で、二人に対する嫌疑は一応(・・)払拭された。

だからといってすぐに自由の身とはいかない。

今後を含めた二人への通知は後日(・・)に出る事になっている。

少しその事について考えている和哉に、武は声をかける。

 

「なあ、和哉」

「何だ、武」

 

考え込んでいると思ったが、即座に反応した和哉に流石だなと思いつつ、武が謁見で疑問に思った事を聞く。

 

「前回の世界の事だけじゃなくEXSの件まで話したけど、問題ないのか?」

「さあ」

 

和哉は軽い口調で肩をすくめながら答える。

その答えを聞いて驚きの声をあげる武。

 

「さあって、お前・・・」

「何も考えてないわけじゃない。だが、EXSについては話さなくても、篝火を調べれば気が付くからな」

 

そうEXSの現物が搭載されている専用機が斯衛軍によって預かられているのだ。

和哉的には調べられていない筈がないだろうから、先に言っておけという事だろう。

 

「そういえば、気にしなかったけど・・・何で、篝火がオレと一緒にきたんだ?」

 

武は唸るように自分なりに考えてみるが答えが出ない。

元々、そういった作業は苦手なのは自分でも理解している。

それでも考えたくなってしまう話だ。

かの世界での最後の自分の愛機とも言える戦術機が共に来たのだから。

 

「・・・そこまでは知らんよ」

 

和哉の答えにそりゃ、そうだよなと武は自分なりに考えてみるのを放棄する。

その時、武は見ていなかったから気がつけなかった。

和哉の表情が一瞬だが能面のようになった事を、その後に武から目を逸らした事を。

 

「なあ、篝火で思い出したんだが前に言っていた、たしか・・・叢雲計画だったけ?あれはこの世界でも行うのか?」

 

武はフッと前回の世界で進行中だったある開発計画を思い出した。

叢雲計画。

日本神話において素戔嗚尊(すさのおのみこと)が出雲国の簸川上流で八岐大蛇を退治した際に、その尾から出たと伝えられる剣の名が天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)という。

一般的には草薙剣という名の方が有名かもしれない。

その剣の名を冠した計画が、前回の世界ではあった。

もっとも、その後の計画がどうなったかは今では知る事も叶わないが。

 

「篝火後継機(・・・・・)の話か、それなら造らんよ」

 

和哉の言葉を聞き、武は不思議そうな表情を浮かべる。

それを見た和哉は、やれやれという感じで口を開く。

 

「武、間違えるなよ」

 

その言葉は厳しい口調だが、武に諭すように放たれる。

 

「その技術が生み出すために何を犠牲にしてきたものなのかを、そしてそれは本来俺達が我が物顔で齎すものではない事を忘れるな」

 

和哉は基本的に別の世界の技術を持ち込む事に否定的である。

それはその世界に生きる技師や技術に敬意を持っているからである。

その技術が生み出されるまでに、その世界の技師の血と涙と汗が流れたのか。

どれだけの犠牲や失敗を出しながらも生み出された技術を、別の世界だからと言って勝手に自分のもののように齎していいものか。

また、それを踏みにじるようにその世界の技術を別の世界の技術で蹂躙(・・)していいものか。

和哉はそう考えている。

ゆえに技術をそのまま自ら齎す事をしない。

それらをヒントにその世界の人間たちと力を合わせ考え、その世界の技術として生み出す。

今までの旅でも、そういうスタンスでやってきたのだ。

もっとも予想外な事態にも何度か陥った事もあった。

 

「でも、前回はあれを造ったじゃないか」

「あのもどき(・・・)のことか?あれは予定外というか予想外だったな」

 

その例外的な事態のひとつが前の世界におけるナノマシン型自己修復金属の失敗作である。

 

「本当は電磁伸縮炭素帯の増強が出来る材質を開発してたんだが、あれの技術理論を思い出してな」

 

本来、あれを造るつもりはなかった。

せいぜいオリジナルの持つ金属の自己修復機能を応用して間接部などの金属疲労による破損を減らす特殊資材が出来れば(・・・・)良い程度の見通しだった。

だが試行錯誤した結果、できそこないのナノマシンもどき(・・・)を再現(・・)してしまったのだ。

 

「試しに技術応用したものを造ろうとしたら、あんな失敗作ができたんだ」

 

本来ならあのような毒しかない紛い物などどんな悪影響をもたらすかわからないので即破棄処分、開発記録なども抹消している。

ただBETAにも有効性があるかもしれないという研究班の言葉によって、作成された分は特殊コーティングされた銃弾2発へ姿をかえ、開発記録や資料は全て焼却処分とした。

 

「まあ、その時に”先生”の言葉を思い出したんだ」

 

和哉の言う先生とはある世界において、襲来する異星人に対抗する人類を導く為に自ら悪を為した天才科学者のことで和哉や武にとっては命の恩人であり、和哉には言葉どおり”先生”であった男であった。

 

「人間は力を理解したつもりで使う。だが、その力の齎すものまで考えていない。そのことを忘れてはいけない」

 

それはあの世界で先生が最終決戦の出撃の際に別れとして自分に送った言葉。

この言葉を送られた時は、あの世界の事を指した言葉だと思った。

だが、よく考えてみればそうではない。

この言葉は、先生なりの和哉達の旅への訓示なのだろう。

 

「確かに今までの旅の中で得た技術や理論を、この世界で使えば何とかなるだろうし、色々できるだろう」

 

いままで旅をしてきた世界には戦術機に近い概念の兵器が存在し、それらの世界ではここでは未だに未知の領域であるビームなど光学兵器の発展が激しかった。

それらの世界の技術はこの世界を大いに革新させ、BETAを駆逐して世界に光をもたらす事も可能だろう。

だが、それらの技術は同時に世界に新たな闇ももたらす。

 

「だが、同時に新たな火種を生む事になる」

 

そう、少なくとも世界各国の中にはある疑念が芽生えるだろう。

 

「今までの技術を上回るもの、それを人類の存亡の為だけに使いますと言って、どれだけの人間が信じると思う?」

 

おそらく世界に住まう者たちの内、力を持たない一般市民たちは喜んで信じるだろう。

だが、今まで戦ってきた衛士などの軍人や国家を運営する政府の人間はどうだろうか?

 

「そんなに世界は甘くないし、優しくもない」

 

答えはNOだろう。

自ら命を懸けて戦ってきた軍人にとっては、何処の誰が造った兵器か分からないものに命を預けられないだろう。

国家を動かす政府の人間もそう簡単に飛びつかないだろうし、まず徹底的に確かめるだろう。

そして大丈夫だと確信できたなら、それを自分たちのものに(・・・・・・・・)するだろう。

 

「最低でもアメリカ、ソ連は動くだろう。しかもかなり強硬的にな」

 

統一中華戦線、EUはおそらくだが友好的に見せるか、下手ながらも強気でくるだろう。

だが特にアメリカやソ連はどんな手を使ってくるやら想像してもキリがない位に浮かぶ。

 

「ヘタをすればBETAを地上から駆逐した後、月とか火星とかのBETAの対策を放置して、人類同士で戦争するかもしれん」

 

いや、ヘタをしなくても戦争を起こしかねない事態は見えている。

既存の技術からでは考えられない精錬された特殊な金属や光学兵器など、基礎技術の部分ではあるが知識として習得している。

これらがこの世界に齎されたらどうなるか?

考えなくてもわかる事だ。

かの世界はすでに人類が追い込まれ、ほとんどの国家が機能を崩壊している為、戦争まで発展しようがないと判断の上で最低限の技術を応用させた。

だがこの世界は違う。

人類にはまだ余裕がありすぎる(・・・・・・・・)のだ。

この状況で革新的な技術を齎されたならば、火種に油を与えるようなものだ。

 

「この世界の答えはまだ出ていないんだぞ。いや、ひょっとしたら”答え”なんてものはないのかもしれない」

 

武にその危険性を教え込むように、和哉は厳しい口調で言う。

 

「今の俺たちはそれすら判らない世界にいる」

 

和哉の言葉に、ハッとした様に項垂れる武。

昨日の和哉の言葉を思い出したのだろう。

 

「この世界の未来は、まだ俺達がその答えの鍵を握っている。そう思え、武」

 

和哉はそう話の結論を出して、この晩は終わりとなった。

武は、話の主点がずらされている事に気が付くことなく。

 

 

 

日付は24日に変わった深夜。

 

寝ていた和哉は目をパチッと開かせる。

しばらく何か探るように耳を澄ませた後、静かに起きる。

隣の武の部屋からはいびき声が聞こえてきている。

疲れていたのだろう、よく眠っているようだ。

和哉は障子戸を音を立てないように静かに開けると、自室の前の縁側に腰を下ろす。

今日は夜空が綺麗に映し出されていた。

星明りの下に照らし出される庭園を見ながら和哉は搾り出すように呟く。

 

「”答え”か」

 

先程の武とのやり取りを思い出す。

フッと、少し自虐的な笑みを浮かべながらもさらに呟く。

 

「我ながら詭弁だよな」

 

和哉はそう言って手に持っていた古ぼけた手帳を見る。

この手帳は謁見後、退室する際に返却されたズダ袋の中に入っていた物だ。

これを返却する際に紅蓮が目ですまないと謝罪していた事を思い出す。

律儀な事だと思いながら、手帳に何か挟まれている部分を開く

そこには数枚の写真が挟まっていた。

そこから二枚の写真を取り出す。

今よりも少し歳を取った紺のスーツ姿の和哉を中心に左隣に椅子に座ったセミロングな赤髪の女性、右隣には和哉の腕と組むようにクセの強いショートカットの金髪の女性が立っていた。

 

「いや、そもそも嘘吐きかな、俺は」

 

和哉は苦笑いするように言う。

武を含め全員に対して、和哉はある嘘をついている。

この世界がどうなるか、どのような未来を歩くか判らない。

そんな事はない(・・・・・・・)

和哉だけはこの世界の未来をある程度予測、いや、知ってしまった(・・・・・・・)のだ。

無論、全てを知っている訳ではない。

だが、それでも0と1の差は大きい。

他にも篝火が武と共に来た理由(・・)も知っている。

しかし、それらを誰にも伝えてはいけない。

それは和哉だけが背負わねばならないもの。

そしてそれは、これからこの世界で和哉が信念を捨てて(・・・・・)でもやらねばならない事。

それに関わってくるのだが、それはまだ語るべき時ではない。

 

「これは俺の我侭だと怒るか」

 

 

 

 

「マリア」

 

手元にある一番古ぼけた写真に目を向ける。

そこには緊張したように力の入り、少し硬いながらも笑顔の和哉のタキシード姿と、その隣に幸せそうに微笑み立つアッシュブロンドの長髪の少女のウエディングドレス姿が写っていた。

写真をどこか大切なことを思い出す様に眺める和哉を、月は静かに照らすのだった。

その月明かりに輝くように和哉の頬を流れるものがあったのは、錯覚だったのだろうか。

 

それを知る者はいない。

 

 

 

 

かくして、世界は静かに動く

 

歴史も静かに変わっていく

 

だが

 

いまだそれが何処に向かうのか

 

どのように変わっていくのか

 

その答えはでていない




次回予告


未来とは先の見えない闇

だが旅人は進む事を恐れない

旅人は決めたから

人を護る人の剣になることを


だからこの一歩から全てがはじまるのだ


次回

Muv-Luv The alteration

01-09:未来へのはじまり
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