寝台に横になり、だるい体をもてあましている自分。
こんな調子では、自分の手にかかって死んでいった者も浮かばれないだろう。と、戒莉は思う。
そして、籐香にも酷いことをしたし、惨い言葉を投げた。
今、思うと、何故にあんな風に振舞ったのか、戒莉は理解できない。
自分が自分ではなくなるような、それでいて、まぎれなく自分だという意識がある。
だが、冷静になってみても、籐香に応えられるものを、戒莉は一切持たない。慰めの言葉も、謝罪の心も。
だとしたら、憎まれるようなことを言ったことが、正しかったような気にもなる。
籐香から逃れるように、戒莉は寝返りをうった。
だが、次に戒莉の脳裏に現れたのは、冬果という女だった。
珊揮がどこかの妓楼で、気まぐれに身請けなどした娘だ。
あの時、どんなことを言われたのか、そこがまだ思い出せないが、戒莉は冬果の言葉に、腹を立てたことは憶えている。
冬果を斬った憶えは、戒莉にはない。斬れと、どこかで声が聞こえたような気がしたが、斬らなかった。
思いだしたことは、こうだ。
あの時、冬果に背を向けて、戒莉は歩き始めた。
どれほど、罵声を浴びせかけられようと、戒莉は振り返ることはしなかった。
戒莉は、冬果の悲鳴を聞いた。
ここで初めて、戒莉は振り返った。
そこに居たのは、あの優男だった。
籐香の秘密の恋人だった、あの男だ。
あの男の名前も知らないことに、戒莉は気付いた。
あの男は、数人で冬果に詰め寄っていた。何かを渡せと迫っていた。思えば、あれは沈翠楼の見取り図の入った首飾りを取り戻しに来たのだろう。
あの首飾りが、どうして冬果の元に辿り着いたのか、実は分かっていない。巡りあわせと言うには、残酷なものだ。
たまたま、冬果はあの首飾りを手にしてしまった。
あの男が、落としたものを誰かが冬果に与えたのかもしれない。
あの男自身が、冬果に預けたのかもしれない。
今となっては、冬果が死んだ今となっては、もう分からないのだ。
『助けて』
と、冬果は言った。
戒莉は、冬果を助けられなかった。
見殺しにした訳ではない。
だが、何人かを倒したところで、ふつりと戒莉の意識が途絶えた。
そうして、気付けば、今のように寝台の上だった。
挙句、戒莉はその時のことを、すっかり忘れていた。
そういえば、あの男。戒莉を助けて妓楼まで運んだ男は、何者だったのだろうか。今さらなことを考えて、戒莉は己の酷薄さに嗤った。
籐香が首をくくって死んでいるのを彩香が見つけたのは、戒莉があの男を殺した翌日のことだったという。