でも、なんで大切なんだっけ......?
アサルトライフル戦術人形、G41を主人公に一本書いてみた。
はじめての短編チャレンジ。拙いのは大目に見てください。
正直G41が指揮官以外にどう接してるかわかんないから色々考えた結果別人ぽい。誰だお前......
私にはこれが限界だ。
「なあ、なんでそんなもんつけとるんや」
「そんなもの?」
相席したガリルが、ふと気がついたように呼びかけた。首をかしげると呆れたように自分の首筋を触って示す。
「首輪や首輪。まるで奴隷か何かみたいや。ちょっと悪趣味やと思うで」
一般的に組み込まれているプログラムには、そう映るかもしれない。だけど、彼女にとってはコレは大切なものなのだ。
「ありがとう。でも、いいの」
「そうか、ならええわ。悪かったな」
愛想笑いを返すと、興味をなくしたらしいガリルは形ばかりの謝罪を告げ、食べ終わったからの食器を片付けに席を立った。
無意識に指先で首輪を撫ぜる。
鉄製ののっぺりした表面に、真鍮製の小ぶりな鍵、そして動くたびじゃらじゃらと音を立てる千切れた鎖。
悪趣味というのを理解するのは持ち主の彼女にも難しくない。ましてや、こんなに不細工なものをつけている人形はどこを探しても彼女だけなのが、それを際立たせていた。
それはたった一度の共闘の証。
窓から空を見上げる。
冬に差し掛かった空は、気まぐれて、最近は青空をのぞかせる事はない。多分にもれず、今日の空も灰色の雲を一面に敷き詰めていた。
「でも、誰と......?」
共闘したことは覚えている。
だが、その相手をG41は知らない。
◇◇◇
無意識に指先で首輪を撫ぜる。
鉄製ののっぺりした表面に、真鍮製の小ぶりな鍵、そして動くたびじゃらじゃらと音を立てる、鎖。
その先は手で探らなくても分かる。
「あの、もうちょっと寄ってくれませんか。苦しいです」
「ご、ごめん」
じゃらりと音がして、少し張り詰めていた鎖が緩む。首回りが少しだけ軽くなり、G41は少しだけ深く息を吐いた。
(鉄血に捕まるなんて......)
彼女がいるのは鉄血の前線基地。
そのどこかで首輪をつけて閉じ込められていた。
彼女自体は新人そのものだったが、所属する基地がいけなかった。
S09地区、現在鉄血とG&K社がしのぎを削り合う最前線。膠着した戦線の隙をつくための情報源として彼女は拘束され今に至る。
(しかも、人間と)
ハイエンドモデルの気まぐれか思考ルーチンの幅を狭めるためか、どういうわけか彼女を繋ぎ止める鎖のもう一端は今背中合わせでいる人間の首輪に繋がっている。もう一端は壁のくぼみに古臭いアナログ鍵で繋がれているた。
「いやはや、まさか人形さんだとは。てっきり自分と同じ逃げ遅れた鈍臭いやつかと思いましたよ」
「私はそんなんじゃない」
「そうですか、そうですよね。すみません気を悪くして」
へこへこと背中越しに謝る青年らしい男。頼まれてもいないのに話し出したのだが、どうやら放棄されたはずの基地の職員らしい。
しばらく隠れたはいいもあっという間に捕まり、どういうわけかG41と背中合わせで独房の中に放り込まれている。
「......さて、これからどうしましょうか」
「これから?」
「こんなところからオサラバしましょう。心強い人形さんも来たところですし、手伝ってくれません?」
「はぁ」
「ため息?!」
その能天気さに、呆れて物も言えない。
G41は状況を理解していないらしい背中越しの男に現実を突きつける。
「私たちは今檻の中。武器もない上に、入り組んだ基地の中に閉じ込められてる。
それに鎖の先だって壁に」
「ほい」
じゃら、と鎖が落ちる。
「......え」
振り向くと、カーキの袖口の先にある手が自慢げに伸びたクリップを振っていた。
「事務職柄、クリップは持ち歩くようにしているんですよ。こんなところで役に立つとは思いませんでしたけど」
これからどうしますと無言で問いかけてくる男。決まっている、やるしかない。
「......まずは武器を探しましょう」
扉側にいたG41は部屋を出ようと扉に手をかけるが当然のごとく鍵はかかっている。
「これどうするの?」
「人形のスーパーパワーで壊したりできないの?」
考えなしなのかワザとなのかと思わずにはいられないセリフ。G41は何を言うまでもなく扉を叩き、厚みや強度を確かめる。
どうしようかと考え込む男をひっぱたいて扉に肩が正対するように身体の向きを変えさせ、後ろに下がるように指示する。
「「せーの!」」
数歩の助走、そして踏み込みからの全体重をぶつけたタックル。放棄されてからしばらく経っていたせいか、人形と大の大人のタックルを支えるには頼りなく二度三度とぶつかるたびに扉が歪み、数度の挑戦であえなく道を明け渡した。
「よっしゃ、脱、しゅ......」
男の声がつまる。そして、銃の安全装置を外すような小さなレバー音が静かな廊下に反響した。
それから数分後。
ヴィー、ヴィーとアラートが響き渡り、時折パパパ、パパパと軽い銃声が混ざり、たくさんの足音が全てをかき消す。
詰まる所、2人は普通に見つかり普通に逃げていた。
「次、左よ!」
「は、はいぃ!」
背中合わせのまま、G41が後ろ向きになる形で2人は廊下をひた走る。後ろから追いすがる鉄血兵をG41の5.56mm弾が貫き砕き、それにつまずいた後続が足をもつれさせ転ぶのが見えた。
「お願いします!」
タタン、と足音が不自然なリズムを刻み、社交ダンスのようにクルリと2人の位置が入れ替わる。その一瞬にG41は進行方向に現れた敵の頭を撃ち抜き、
「クリアだよ!」
またクルリと一回転、走り出す。
G41のライフルでは首の鎖がどうやっても撃てず、何より危険だということでこのような苦し紛れな移動方法になった。
「すみません、無茶言って」
「いいのよ、私は人形なんだから」
「......そう、ですよね。でも謝らせてください。ケジメみたいなものです」
「律儀なのね、あなた」
「よく言われます」
へこへこと謝っているらしい男、頭を下げるたび鎖が引っ張られ少し息がつまる。
「あやまるの禁止!」
「なんでよ?!」
実は割と短気なG41が怒るのにそう時間はかからなかった。
「私たちは当然のことをやってる、それを謝られるのはおかしいんじゃないの?」
「気分的な問題です、困るなら次からは気をつけますね」
右、左と入り組んだ道を走る。普段なら乱雑で苛立ちすら感じる基地の内部構造が今回だけはありがたい。
「グレネード、白!」
「はいさ」
男が銃を取り返すついでにくすねた手榴弾を前方へ投げ込む。一瞬のち白煙が通路を覆い隠し敵の目を潰す。
「真っ直ぐ通り抜けて!」
G41の意見に従い、固まる鉄血兵を押しのけ、突破。そのまま外に通じるドアに取り付き鍵をモノの数秒で外し、
「一瞬、待つんでしたよね?」
「よくできました」
外に開け放たれた扉がチーズみたいに穴あきになるのを、すぐ目の前で冷や汗を垂らしながら眺める男。
その背中でG41は冷静にカウントを取り、
「グレネード!」
「了解、ふたつ投げます!」
弾幕が一番薄くなるリロードタイミングを見計らい飛び出す。同時に閃光手榴弾と発煙手榴弾を投げ込んで相手の目を潰すことも忘れない。
「さあ、走りますよ!」
「ちょ、事務職はそんな体力無いんだから!」
ぱちぱちと炎が爆ぜる音が響き、木々のざわめきに溶けてゆく。
放棄された倉庫らしき建物に潜り込んだ2人は、そこら辺の森で仲良く薪を調達しどうにかこうにか火をくべ身体を温めていた。
無言の空間が場を支配する。
気まずさなのか暇を持て余したのか、理由は本人にもわからないが先に話を切り出したのはG41だった。
「......名前、聞いてなかったわね」
「今更ですか......」
逃走劇で疲れ切ったのか、いくらか弱弱しい声が返ってきた。男はしばらく考えこむように黙り込むと、少し笑いながら答える。
「もう、どうでもいい気がしてきました。どうしてもと言うのであれば。自分はただのしがない事務員、そう呼んでください」
「事務員さん?」
「そ、書類仕事とかしたり、自由な指揮官さんにたまに怒ったりするのが仕事です。まだ新人ですけどね」
「そうなんだ、楽しい?」
「配属当日にこうでした。寝坊したのがいけなかったんですかね」
「うわ、不良なのねあなた」
「不良ですよー」
あはは、と気の抜けた笑い声につられて思わずG41も笑いかえす。
「あなたがしがない事務員なら、私はしがない人形さんね」
「互いに名乗らないなんて特殊部隊みたいですね。秘密特殊部隊エージェント! みたいな」
「じゃあ私はエージェント・ドール、あなたはエージェント・クレーク?」
「おお、なんかそれっぽい、スパイ小説みたいですね」
「スパイだったらあんな捕まり方しないわ」
ひとしきり笑って、おし黙る。
逃げたとは言えここは敵地、一度逃げ出した以上温情は認められないだろう。捕まってしまえば終わり、そう考えると、不安が何処からともなく押し寄せる。
「帰れる、のかな」
ポツリと不安の声がこぼれる。
「帰れますよ」
「ふえ?」
「きっと帰れます。なんせ、自分は必ず帰ると決めてますから」
「......何それ」
「屁理屈みたいなもんです。別に、いいじゃないですか」
じゃらり、と鎖が揺れる。若干こちら側に体重がかかってきたのを感じて、男が窓から空を見上げていることを理解した。
「............まだ初任給も貰ってないんです、死んでも死にきれません」
「全部台無しじゃない!」
「人間そんなもんですよ?」
「ご主人様はそんな事言わない」
「自分は不良ですから」
「むー」
言い負かされて唸るG41。不満げなむくれ顔が眼に浮かぶのか、得意げに男が笑うのも不満に拍車をかけた。
「なんでこんなのと一緒になっちゃったんだろう」
「自分ももっと優しい人形が良かったです」
「私ももっと頼れる人が良かった......ご主人様みたいに」
「ご主人様?」
男が不思議そうに繰り返す。
「私のご主人様はね、とってもいいひとなの。頭撫でてくれるし、かわいいって褒めてくれる。おとぎ話もしてくれるし、勝ったら褒めてくれるし......」
「......どうしました?」
「......」
ぱちり、と炎が弾ける。
「ご主人様......私のこと見捨ててないかな......私のこと......助けてくれるかな。
また、頭撫でてくれる、かなぁ......」
「人形さん......」
「ご主人さまぁ、あいたいよ、また、あたまなでてよう、かわいいって、いってよう......」
「......」
「ふえっ」
ぽすり、とG41の頭に手が乗る。そして2、3度ぎこちない手つきながらも、頭をワシワシと撫でた。
「指揮官じゃないですけど、今は自分で我慢してください」
「じむ、いん?」
「不安になる気持ちもわかります。だから、思い切って吐き出しちゃいましょうよ。自分は何も聞かなかったことにしますから」
男はそう言って手を離そうとするが、G41がそれを引き止めた。
「このままで、いい」
「ですが......人に聞かれるのも嫌でしょう?」
ブンブンと首を横に振る。
「聞いて、欲しい」
「......わかりました」
根負けしてか、男はまた不器用な手つきでポンポンと頭を撫でた。
しばらく黙っていたG41が、叫ぶ。
「......う、う、うわああああん!
ご主人さまぁ!みんなぁ! 会いたいよ、会いたいよ! 私を見捨てないで! 私を置いていかないで! 私は、私はここにいるんだから!ここに、いるんだからぁぁぁぁ!」
「今日も元気に頑張りましょう、事務員さん!」
「はい、五体満足で逃げおおせられるよう全力で頑張りましょう」
一夜明け、本調子までとはいかないものの体力を回復した2人。G41のマッピングからおおよその位置は把握済みであり、最寄り基地まではおおよそ50キロ。
「救難信号とか出さないんですか?」
「鉄血に見つかっちゃいます。あれは敵味方問わず位置を伝えるものですから、安全圏に入ってから使うものなんです」
「はー、それで。難儀ですねぇ」
「だから安全地帯、基地のそばまで行かないと」
「なるほどなるほど......」
「ひとつもってて」
G41はX字の入った丸い髪飾りを髪から外し、男の方に放りなげた。
「いざとなったら、必要だから」
「......わかりました、でもひとつだけ良いですか?」
「なんでしょう?」
「なんでX○oxなんです?」
「えくすぼっ○す?」
その丸い髪飾りは明らかに某ゲームのロゴであった。
疲れ知らずの人形ならばさておき、ここにいるのは人間、それも頭脳労働の重きをおく文官である。無理はできない。脳内マップを思い浮かべて、無理のないかつ最短の距離を算出する。
「今日は30キロ。歩きますよ事務員さん」
「ひえー、生まれてこのかた10キロ以上歩いたことないんですよ」
「昨日14キロ歩いてますが」
「......生まれてこのかた14キロ以上歩いたことないんですよ」
「......」
「......」
「......行きましょうか」
「......行きますか」
無駄な意地の張り合いと揚げ足取りが微妙な空気しか産まないと学習したところで、2人は廃倉庫を後にした。
「それにしても、曇り空ですか......幸先悪いですね」
「晴れているよりいい、本当なら雨とか、風が強い日が良かった。薄暗い方が見つからないから」
「なるほど、戦場に立つ人は考え方が違いますね」
これは一本取られた、と楽しそうな様子の事務員。それを見てG41は眉間にしわを浮かべていた。
「戦場なのに、そんなに気楽でいいの?」
「見つからなければただの散歩ですよ」
今時散歩も呑気にできないですからいいじゃないですか、とひらひらと振った手のひら。
それが、弾け飛んだ。
「......え」
「伏せてっ!」
G41が無理矢理に事務員の足を払い前に倒す。仰向けに倒れたG41の鼻先を銃弾がかすめた。
「え、あ......え?」
「落ち着いて! 逃げるのよ!」
G41は事務員のポケットから閃光手榴弾を抜き、ピンを抜いて上空に投げる。
事務員は手を失ったショックで動けそうにない。なんとかして敵の目がくらんでいる今の内にこの場を離れなければ、そう判断したG41の行動は正しい。
「それが読まれていなければ、の話ですが」
たたた、と軽い銃声が聞こえ、放り投げられた閃光手榴弾が穴だらけになり地面に落ちる。
「......さて、随分とやってくれましたね。一応計算通りですが、ここまで長引くとは」
「スケアクロウ......!」
「おや、自己紹介の必要もありませんか」
すらりとした体格、戦場に似つかわしくない燕尾服をアレンジした戦闘衣装。自身の周囲に侍らせるビットの1つからは白煙が立ち昇っていた。
「本当なら頭を狙うはずだったのですが、うっかり手元が狂いました」
嘘だ、わざと当てたに違いない。自分から情報を引き出すためにワザと人間の方を傷つけた。
「さて、どうしますか」
「っ!」
「銃は使わせませんよ」
G41はとっさのことで手放していたライフルに手を伸ばすが、スケアクロウに銃弾で弾かれ手の届かない位置まで蹴り飛ばされた。
「殺してやる......!」
「どうやってですか? 武器もないのに」
顔が歪むほど牙をむき出しにして、怒りをあらわにしてもスケアクロウにはどこ吹く風。
高度なAIが搭載されているとはいえ一兵士、そんな事に構う暇もないのだから。
グルルル、と唸り声さえ上げ始めたG41に、スケアクロウが話しかける。
「では、取引しませんか?」
「取引? そんなもの乗らない」
「はぁ、話は最後まで聞くものです。
あなたはこの人間を逃がしたい。
私はあなたの情報が欲しい。
であれば、別段この人間に拘る必要はないと言う事です」
あなたが此方側に来るかわり、人間は逃がしてあげましょう。
スケアクロウの提示したのは、現在のG41の思考につけ込むような、人形であればすぐにでも飛びついてしまいそうな好条件。
「めっちゃ痛い......というかいまどういう状況?」
G41に押し倒された時に気絶していたらしい事務員も、都合よく目を覚ました。
声の調子からしてあまり状況は良くないだろう、そう判断したG41が考える時間は長くはなかった。
「......わかりました、従います」
「従いますって、何を?」
「彼女と取引しました。自分が戻る代わりに、あなたを解放すると」
「......何を、言っているのですか」
「......人間を助けるのは、人形の仕事だから」
そのようにプログラミングされているのだ。人形がいかに人間らしいとはいえ、たかが機械。プログラム通りにしか動けず、必ず逆らえない条件がある。
例えば、人間と自分の命どちらを優先するか、など。
「帰りたいって、言ってたじゃないですか」
「......」
「また褒めてもらいたいって、撫でてもらいたいって。ご主人様とまた会うんだって」
「......ごめん、なさい」
「なぜ、なぜなんですか」
「私たちは、人形だから。
人間を守るのが私たちの仕事だから」
「そんな理由で......!」
「話し合いはまとまったようですね」
ばきん、と首筋で鈍い音が響く。遅れて首元が軽くなり、2人を繋いでいた鎖が壊された事を理解した。
「行きましょう」
「......ごめんなさい、事務員さん」
スケアクロウに促されるまま立ち上がる。
悲しみからか、自分の情けなさからかG41は男の方を振り向こうとはしなかった。
「謝るのは禁止、そう言ったじゃのはあなたではないですか」
強く肩を引かれたたらを踏む。
一瞬下を向いたG41がまた前を見た時には、カーキの軍服の男が目の前に立っていた。
「......すみません。そのお願いは聞けません。人形さんには、帰る場所も、待っている人もいるので」
「正気ですか? せっかく助けようとした命を失うなどと」
「今どき命の価値なんて紙切れ同然でしょうに」
「......それでも、自分の命を惜しいとは思わないのですか?」
「事務員さん、なんで!」
「自分は、家族がいないんですよ」
混乱するG41の頭に、男の言葉はよく響いた。
「あなたのような、暖かい家も、帰りを待つ人も自分にはいません。
だから、自分は人形さんには生きて欲しい」
「そんな、だって私は」
「人形だから、ですか」
「一体いくらの大量生産製品が人間より価値があるとでも? 変わった価値観をお持ちですね」
「......人形、人形とおっしゃいますが、自分には人形さんは人形には見えません。
自分には、家に帰りたいか弱い女の子にしか見えないんですよ」
だからです。そう男は言い切った。
「人形なのは自分の方ですよ。だから、人間を助けるのは当然です、でしょう?」
「......付き合うだけ無駄のようですね。いいでしょう、ならば望み通り」
死ね。
指揮者が腕を振り下ろす。
なんのこともないワンアクションが、スローモーションに引き延ばされた。
だめ。
だめ。
腕を振り下ろしちゃ駄目。
あの人が、事務員さんが死んじゃう。
駄目、駄目なんだから。
あの人を、殺すのだけは!
「駄目ええええええええええ!」
銃声が轟く。
「ぐ、ふっ......」
倒れ伏したのは、スケアクロウの方だった。
「......えっ」
「G41、迎えに来たよっ!」
ぴょこん、と身軽なスコーピオンが駆け寄ってG41に抱きつく。スコーピオンの耳元からは慌ただしい通信が漏れ、情報を伝えてくれた。
『ナイスショット、ガーランド!』
『棒立ちなら外しませんよ、次です!』
『早く安全を確保しましょ!』
ざざっ、と森の中から見慣れた仲間たちが飛び出してくる。そして銃声が潜伏していたらしい鉄血兵を追いちらし、壊し、殺していく。
「心配してたんだよみんな。早く帰ろう!」
「え、あ、うん、そう、だよね」
スケアクロウは倒した。
隠れていた鉄血兵はみんなが倒してくれたはずだ。
では、あれはなんだ。
G41は自問する。
スケアクロウの残骸。
その前に、赤い血を流して倒れている、カーキ色の軍服。
倒れている、人は......
「あ、あ、あ」
「41、どうしたの、ねえ」
「いやああああああああああああ!」
G41は現実を受け入れないために、自身を強制シャットダウンした。
◇◇◇
「ごっしゅじんさまー!」
「41ちゃんかー!」
「撫でてー!」
「仕事中に突撃とはいい度胸、悪い子にはお仕置きだー!」
「キャー!」
「指揮官様働いてください!」
今日も今日とてカリーナの叱咤が飛ぶ。
あいもかわらず、指揮官のサボり癖は健在らしい。
「なんかお話聞かせてー!」
「ヘリアンさんが合コンまた駄目だったお話聞きたい?」
「聞きたーい!」
「......はぁ。少し外しますね」
指揮官とG41の楽しげな声をドアで締め出し、とある場所へ向かった。
「どうぞー」
銃器整備場、普段はあまり立ち入る事のない場所にカリーナが足を踏み入れる。
そこでは、回転椅子で暇そうに回っているナガンとPCと睨めっこしているガンスミスがいた。
「要件は?」
「G41ちゃん、戻らないんですか?」
「戻る? なんの話じゃ」
「半年くらい前に捕虜になってたG41が帰ってきたろ? 貴重なデータだからどうしてもほしいんだと」
「でも強制シャットダウンで記録データがエラーを起こしたみたいで」
「ふうむ。お主の弟にやらせてみるのはどうじゃ、ソフトなら得意じゃろう」
「それが無理だとさ」
「なんと」
打つ手なしと言わんばかりに首を振るガンスミス。あいつが言うには、と前置きして言葉を続けた。
「破損データはもう戻らないそうだ。断片的にゃ思い出せるだろうが、それっきり」
「敵の情報が手に入ると思っていたんですけどね、なるならあるだけ引き出してもらいたいですが......」
「ま、指揮官が許可せんじゃろ。本人もあまり詮索せんでほしいと言っておったし」
「そうなんですよねー」
たまに甘くなっちゃうのがウチの指揮官ですもんね、とぼやくカリーナ。だからこそ人形たちに慕われているのだろうが、人が良くても戦争に勝てないのがこの世界の常識だ。
「この方向はもう無理ですか」
「半年前の情報なんて古いしのう、優先度も低い以上、もう無理にせんでもええじゃろ」
「そうですよねー」
「うんうん」
「うん......うん?」
「......」
「......」
「......」
「「「誰?!」」」
「あ、宅配のものです」
気の良さげな青年が3人にぺこりと頭を下げる。手の中には、重そうな段ボール箱。
「本部から書類届いたんで、ハンコお願いします」
「あ、はーい」
ペラペラと書類をめくる手つきに、ふとガンスミスが口を挟む。
「その右手、義手です?」
「手首から先はそうですけど、よくわかりましたね」
「職業柄そういうのに鋭いんですわ」
「おい、気を悪くするじゃろう! 不躾な!」
「いやー、つい?」
「つい、ではないわぁ!」
「すみません、いつもこんな調子で」
「楽しそうなことは良いことですから。気にしてませんよ」
ワイワイと騒ぎ出した2人の代わりに苦笑いしてしながらカリーナが頭を下げるが、青年は気にしていないとなだめる。
「サインオッケーです」
「はい、では確かに」
それでは、と青年がこの場を去ろうとしたところで、ふとナガンが声をかけた。
「なあ、お主なぜそんなものをつけているのじゃ?」
「そんなもの、ですか?」
わからんのか、と言いながらナガンは首筋を指差す。
「首輪や首輪。奴隷か何かのようじゃぞ。少し悪趣味ではないかのう?」
「繋がりみたいなものですかね。
名前を知らない、背中を預け合った誰かさんとの」
ところで、なんで俺はG41と登場人物を首輪で引っ付けたんだ?
事務員......特技:ピッキング。グリフィン本部勤務のエリート。
某バイオシリーズの警官Lくらい不幸な星の元に生まれている。
名字が千川、好きな色はライムグリーン。
モチーフはデレステのあの人。
Gr G41......ケモミミロリ美少女ヤッター! CV釘宮。
なんかG41って人気の割にはSS少ない、少なくない?
私的首輪が似合う戦術人形ランキング1位。