車椅子探偵えりか   作:ざんじばる

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今日は、PS4版FLOWERSの発売日。
四季全てが同梱された超お買い得版です。

何が言いたいかというと―――買え(直球160㎞/h)



PC版春~冬とPSVita版春~冬をコンプしているのに特典のドラマCD目当てで予約済の作者でした。


FILE11

■Side E

 

 

 

「よお、坊主」

「あ。えりかお姉ちゃん!」

 

 夕日が沈み、神社が薄闇に包まれ始めたころ、本日のメインイベント目当てに境内に人が増えだした。そんな中、少年探偵達を見つけたえりかが声をかけた。コナンはすぐに返事をするとそちらへ歩み寄る。

 

「坊主。依頼はもういいのか?」

 

 えりかがコナンへ問いかける。船上でこの旅の目的を聞いていたからだ。それに対してコナンは依頼人が行方不明になっていること以外はたいして収穫がなかったことを告げた。

 

 役場、お土産屋、そしてこの美國神社。偶然にもえりかと千鳥の後を追いかけるように聞き込みをした中で得られた情報は下記の通りだった。

 

 ①依頼人、門脇沙織は三日前から行方不明になっている

 ②沙織は1年前に当たった儒艮の矢を無くし、一週間前から人魚の祟りを恐れていた

 ③三年前に人魚の死体と噂される、骨が奇妙に砕けた奇妙な焼死体が発見された

 

 今日、最後に聞き込みに来たのがこの神社で、せっかくだから祭りを見物していくことになったとのことだった。

 

「お。始まるみたいだな」

 

 島の男衆が叩く太鼓の音が低く響き渡りだした。えりかの言葉通り祭りが始まったらしい。闇に落ちた本殿がかがり火に照らされ、神秘的な雰囲気を演出する。集まった人々のざわめき。みなの期待が高まり始めていた。

 

「さて、どうなるかね」

 

 えりかもポケットから木札を取り出し、その時を待つ。

 

「あ、八重垣さん木札買えたんだ。いいなー」

 

 それをめざとく見つけた蘭が声を上げる。それにえりかは苦笑して説明した。

 

「この神社の巫女さんとちょっとしたことから縁が出来てな。私と千鳥、一枚ずつ残り物をもらったんだ」

「そっか、八重垣さんたちも君恵さんと会ったんだ」

「ん? なんだお前達もか」

「ええ。依頼人の沙織さんと君恵さんが幼なじみと聞いて、話をうかがいに。さっぱりとしたいい人ですよね。君恵さん」

「ああ……」

「それに、美人だしねッ」

 

 えりかと蘭の会話を聞き咎めてしっかりと口を挟む千鳥。それにえりかは苦笑して。

 

「考崎さん……どうかしたんですか?」

 

 声を潜めて蘭が聞くが、えりかは「なんでもない」と手を振りながら呟き返して、詳細は語らなかった。千鳥の厳しい表情を察して、この話はあまり突っ込まない方がいいと察した蘭は話を変えた。

 

「儒艮の矢、当たるといいですね」

「ま、私はもし当たっても矢は知り合いにやるけどな。永遠の若さなんてゴメンだ」

「どうせなら考崎さんにあげなくていいんですか?」

「コイツには相棒として私といっしょに歳を取ってもらうさ。永遠の若さは学園最強の美人に進呈しようと思ってる。ま、取らぬ狸の何とやらだけどな」

 

 そのえりかの言葉に蘭はとても興味を惹かれた。自身類い希な魅力を持ち、そして傍らは常に絶世の美少女である千鳥を置いているえりかが彼女を差し置いて、最強の美人と言いきる相手。いったいどれほどの美少女なのか。

 

「学園最強の美人って……考崎さん以上の人がアングレカム学院にはいるんですか?」

「ああ。そいつ以外にも去年までは金・銀の豪華な美人もいたんだけどな」

「金・銀?」

「ハーフなんだよ。金髪・銀髪で並んで立つと、それはまあ派手派手しい二人だった。まあ、去年学園を去っちまってるけどな…………ってまあ、それはどうでもいいんだがその二人と千鳥、それに私が学園最強に推すヤツも容姿って意味じゃあ……好みもあるんだろうが同レベルだ」

「それじゃ、何が決め手なんです? 最強の」

「雰囲気だな」

「雰囲気?」

 

 曖昧な答えに鸚鵡返しに問い返す蘭。それにえりかは眉根を寄せてしばらく言葉を選んだ後で。

 

「なんというか存在感が妖精染みてるんだ」

「妖精?」

「そう。まるでこの世のものじゃないような……そうだな。創作に出てくる深窓のお嬢様をイメージしたらピッタリだと思うぞ」

 

 その人物のことを語りながらどこか恍惚とした表情を浮かべるえりか。その態度からどれほどのものか計り知ることはできたが同時に焦る蘭。こんなに熱っぽく語って千鳥が気を悪くしてないかとそちらを見て。けれど千鳥は処置なしと肩をすくめているだけだった。その諦めの入った千鳥の態度からも相当のものらしいと分かる。

 

「そっかぁ。八重垣さんがそんなに言うほどの人だったら私も一度会ってみたいなぁ」

「さて……そんなにフットワークの軽いヤツじゃないからな。学院の外の人間が会う機会があるかどうか」

「えりかが白羽さんのフットワークをどうこう言う? えりかだって私が連れ出さないと旅行なんてきてないでしょうに」

 

 えりかの台詞に千鳥がツッコミ、二人の掛け合いが始まる。そうこうしているうちに祭りは一番の時間を迎えていた。太鼓の音が一層力強く轟く。

 

「お! 出てきよったで!!」

「あれが命様か……」

 

 神官達が開いた障子の奥から一人の老婆が進み出てきた。巫女服に身を包み、冠を乗せている。神社に集った老人達が口々に「命様じゃ」とありがたがって拝んでいた。

 

「ち、ちーせーなー……」

 

 小五郎の言葉通り、非常に小柄な老婆。顔を白塗りに塗りたくっている。平次曰くただの厚化粧のバアさんはその手に長い棒を握る。その棒の先には練習用の槍のように丸めた布がついていて、そこにかがり火から火を付けた。そしてなんと背後の障子に火に移した。

 

 この演出にはさすがのコナンも平次も度肝を抜かれた。けれど当然ながら命様は単に放火したのではなく。立て続けに火を付けられた障子にやがて火文字が浮かび上がる。京都の大文字焼きなどと同じ仕組みらしい。

 

 浮かび上がったのは漢数字。『参』『百七』『拾八』

 

 仕事を終えたのか、命様は障子の奥へと消えていく。そして残された観衆から「外れた」と悔しがる声がいくつも聞こえ、対照的に。

 

「ウ、ウソ……マジ? やったラッキー♡」

 

 という喜びの声も上がる。その黒髪ロングの30手前くらいの女性は当たったらしい。そしてここにも一人。

 

「どうやら狸が本当に取れちまったか」

「え? 八重垣さん当たったん!? すごいやんか!」

 

 さほど嬉しそうではないえりかの手には『拾八』の木札。それを見て歓声を上げる和葉。当たった本人は「まあ、いい土産ができたか」などと言っている。実に対照的だ。

 

 火文字が神官達によって消し止められ、いつの間にか君恵が現われていた。格好こそ昼間と同じ巫女服だが、しっかりと化粧が施されている。その君恵が声を張った。

 

「ではおのおの方……これより一時後、儒艮の矢を授けます。人魚の滝へ……いざ参られィ!!」

 

 矢の授与は別の場所で行われるらしい。君恵が先導して歩き出す。特に当選者のみの秘密の場所というわけではないのか、観衆もぞろぞろとついて行っていた。

 

「ほら、えりか行くわよ!」

 

 千鳥が少々乱暴に車いすを押す。車いす上で揺られて危うく落ちかけたえりかは「おい。危ないだろ」と抗議するが、千鳥はフンと鼻を鳴らし取り合わない。どうやら化粧をきめた君恵に見とれて惚けていたのに気付かれていたらしい。

 

 

 やがて一同は河原に設置したかがり火をしめ縄で囲む露天の祭壇へと至った。奥には滝が流れ落ちており、神聖な空気を醸し出している。そして祭壇の中に一人いる君恵が呼びかけた。

 

「では、幸運を手に入れられたお三方……前へ!」

 

 真っ先に出て行ったのは土産物屋の店員、奈緒子。彼女も当たったらしい。えりかも進み出る必要があったが河原の祭壇まではゴツゴツとした石が一面広がっている。

 

「おい千鳥。代わりに受け取ってきてくれよ」

「ダメよ。こういうのは当たった本人が受け取らないと」

「は? いや、車いすじゃあそこまでいけない―――」

 

 即答で断った千鳥は、続くえりかの言葉を無視し、その華奢な体を一気に抱き上げた。

 

「お、おいッ!? なにしてッ!」

「なにって連れて行って上げるだけよ。君恵さんのところまで」

 

 そのまま祭壇へと歩き出す。えりかをお姫様抱っこしたままで。

 

「ふざけッ…………どんな羞恥プレイだよ…………」

 

 なおも抗議の声を上げようとして、けれど千鳥の顔にその本気を悟って諦めたえりかは小声で毒づいた。千鳥はそんなえりかを無視して進む。胸を張って、えりかの所有権を君恵にアピールするように。そんなこと思いもしない君恵はただ微笑ましそうに見ているだけだったが、事情を知っている蘭は引きつった笑みを浮かべている。そこまでするかと。

 

「あとお一方! あとお一方はおらねませぬか!!」

 

 再び君恵が声を張る。祭壇にはまだあと一人が現われていなかった。境内で歓声を上げていた黒髪ロングの女性。そして君恵の声に促されて出てきたのは、けれど彼女ではなかった。酔った様子の中年から初老へ差し掛かろうかという男性だった。

 

 ―――矢が当たったと喜んでいた女性がいないな。どういうことだ?

 

 違和感を感じたえりか。見れば同じようにコナンと平次も戸惑っている。周囲を見渡してもその女性の姿は見えない。けれど儒艮の矢授与の儀式は、えりか達の戸惑いとは無関係に粛々と進んでいく。

 

 三人への授与が終わり、祭りのフィナーレとして花火が打ち上げられた。轟音と共に夜空に咲く大輪の華。その明かりに照らされた人々が歓声を上げる。けれど。その歓声が戸惑いに、そして戦慄へと変わるまでいくらも時間はかからなかった。

 

 君恵の背後、流れ落ちる滝の前にぶら下がるそれも花火は照らし出した。ゆらゆらと揺れる長い黒髪とその持ち主。まるで滝の中を舞い泳ぐ、人魚のごとき……それは儒艮の矢を当てたはずの女性だった。あの時歓声を上げていた彼女は今は黙し、ただ揺れていた。その首に荒縄を巻き付けて―――

 




■FLOWERS用語解説

金の美人:小御門ネリネ。CV.西口有香。秋編ヒロイン。ニカイアの会(生徒会)前副会長。金髪ハーフのほんわか美人だが、冬編ではどぎつい悪役ムーブを見せる。スイーツイーター。

銀の美人:八代譲葉。CV.瑞沢渓。秋編主人公。ニカイアの会前会長。銀髪美人のトリックスターだがヘタレ。冬編ではネリネとセットで悪役ムーブ。だがメシマズ。

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