車椅子探偵えりか   作:ざんじばる

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2話は短め3千字。3話が1万字書いてもまだ終わってないので分割して投稿するかもです。


FILE2

 ■Side E

 

 月影島の公民館。前村長の法事が営まれるなか、奥の部屋から流れてきたピアノソナタ『月光』。その音色を追って部屋に突入した私たちの目の前にあったのは一台のグランドピアノと演奏用の椅子に座って顔を鍵盤の上にうつ伏せている大柄な成人男性、川島英夫。探偵の毛利小五郎がその体を調べているのを遠巻きに見つめている弔問客やその他の集団。その中に車いすの少女、八重垣えりかもいた。やがて小五郎が呟いた。

 

「ダメだ……死んでる……」

 

 ———なにか面白いことが起こればとは思っちゃあいたが、まさか殺人事件とはな。コイツはいくらなんでも刺激が強すぎるぜ。

 

 そう思いながらもえりかは、さほど動揺していない自分に気付いていた。もともとそういう気質だったのか。あるいは学院でもっと酷い状態だった貴船さゆりの遺体を見たことで耐性がついていたのか。それは本人にも分からなかった。ただ冷静に考えを巡らせる余裕があることだけは事実だ。

 

 小五郎がテキパキと指示を出していく。蘭には駐在所への連絡を。他のものにはこの場を動かないように。そして成実医師に検死を依頼した。成実医師が検死を進める傍ら、えりかはこの奇妙な事件を整理することにした。

 

 

 まず毛利探偵に届いたという怪文書。その文面は『次の満月の夜 月影島で再び影が消え始める 調査されたし 麻生圭二』

 

 麻生圭二は12年前に焼死したピアニスト。その際に弾いていたピアノが『月光』。そして二年前にも前村長亀山勇が『月光』とともに心臓麻痺で死んでいる。つまり今回の事件の犯人は以前の二件と関係がある、もしくは関連があると思わせたい。

 

 ここから文面の意味を考えていく。『次の満月の夜』今夜は満月。つまり今時分だ。『再び影が消え始める』これは素直に人が死んでいくと捉えればいいだろう。影が消えるとしたのは満月の『月光』で照らされるからということだろうか。

 

 ———ふん。光が強くなっても影は濃くなるだけだけどな。いずれにしても怪文書の目的は、犯行阻止の依頼か、あるいは。犯行の予告だ。

 

 

「の、呪いだ……これはピアノの呪いだああ!!」

 

 村長秘書、平田の絶叫にえりかは一旦思考を打ち切った。ピアノの中に置かれ、『月光』を奏でていたテープレコーダーを取り出した小五郎。呪いの存在を否定し、誰かが仕組んだ殺人事件に過ぎないと喝破した。ニットキャップにサングラスをかけた色黒の男が断定的な小五郎の態度に反発する。

 

「だいたいあんた何なんだよ……さっきから偉そーに……」

 

 男の問いかけに小五郎はもったいつけてから名乗った。

 

「俺か? 俺は東京から来た名探偵……毛利小五郎だ!!」

 

 けれど。その台詞に対して周囲の反応は鈍かった。残念ながら『眠りの小五郎』の異名は伊豆沖の小島までは届いていないようだった。小五郎は恥ずかしそうにしながら毒づいている。

 

 ———ま、自分で自分のことを『名探偵』もないよな。

 

 遺体の横でそんな喜劇が繰り広げられるなか、コナンは何かを発見したのか床を観察した後、窓際へと寄っていった。

 

 ———床に濡れた跡があるな。部屋の奥の扉から続いてる。外から引き摺ってきたか。

 

 

 しばらく経ち、成実医師から検死結果が伝えられた。死亡時刻は30分~1時間前。死因は溺死。更にコナンが補足する。窓の外、海に浮かんでいる上着から、川島は海で溺死させられた後、ピアノのところまで引き摺られた。海に通じるドアやこの部屋の全ての窓に内側から鍵がかかっていたことから、犯行後廊下へ出ている。さらに玄関ではえりか達が1時間以上待っていたことから、犯人は法事の席に戻った可能性が高いと小五郎が結論づけた。

 

 今も犯人がこの中にいるかもしれないと知ってざわつく弔問客たち。まだ警察が到着していないこともあり、小五郎が聴取を始める。殺された川島はトイレに行くと言って出て行った。それ以降、法事の会場から出たものは、明確に分かっているのは成美医師。その他の人間で誰が会場から出たのか確信を持って言えるものはいなかった。

 

 

 コナンが犯人像の推理を披露した。犯人は男の単独犯。大柄な川島を短時間で海で溺死させ、引き摺りながらこの部屋へ運んできたことを根拠に上げたと言う。納得できる話だ。

 

 このピアノは15年前に麻生圭二が公民館に寄贈したものだという。贈り主の名前も名前も蓋に記されていると聞きピアノの蓋を閉じる小五郎。その時、蓋とピアノ本体の間に挟まれていた紙片がヒラリと落ちた。小五郎が拾い上げたその紙は。

 

「譜面……? ヘンだな……昼間見たときはこんな物なかったのに……」

 

 訝しがる小五郎。周囲も怪訝な表情を浮かべて、けれど一人劇的な反応を示すものがいた。中年の男が「うわあああ」と叫び声を上げながら走り去っていく。男は西本健。昔は羽振りがよく、酒・女・賭博と大枚をはたいて遊んでいたが、2年前に前村長の亀山が死んで以来、何かに怯えて外出しなくなったという。現村長の黒岩と幼なじみとのことだったが、当の黒岩は答えにくそうにしていた。西本の素行が悪いことから関わりがあると思われたくなかったのだろうか。

 

 みなの興味が西本に移っている間にえりかは車いすを押して進み、紙片を確認した。五線譜にオタマジャクシが踊っている。確かに譜面だ。残念ながら音楽的素養の低いえりかにその中身までは分からなかったが。

 

「あら?」

 

 背後から千鳥ものぞき込んでいた。片眉をあげて不思議な物を見るような顔をしている。

 

「なにか気付いたのか、千鳥?」

「え? ええ……。多分だけどその譜面———」

 

 千鳥が言いかけたところで背後から響く大声。

 

「お、お父さん。お巡りさん連れてきたわよ!!」

 

 蘭が警官を連れて戻ってきたらしい。よほど急いで戻ってきたのか、老域に差し掛かっていそうなその警官共々大きく息を荒げていた。小五郎から事態を伝えた上で今日は一旦解散となった。夜も遅いため本格的な事情聴取は明日となったのだ。

 

 

 夜道。コナン達一同とえりかと千鳥、それに成実医師が連れ立って帰っていた。成実医師は住まい兼病院へ。コナン達とえりか達はそれぞれの旅館へと戻る途中だった。成実医師は先ほどのコナンの推理劇を道中の話題に上げた。

 

「ビックリしたわよ。コナン君! さっきの名推理……説得力があってみんなすごいって」

 

 ———確かに。言っちゃあ悪いが毛利のオッサンより遙かに物事をよく観察し、論理立ててまとめていた。とても小学生とは思えないな。逆に毛利のオッサンはあれで本当に名探偵の一人に数えられてるのか? 何かこの辺りカラクリがありそうな気がするが……まあ、無理に踏み込むのも野暮か。

 

 コナンが小五郎のことを持ち上げてなんとか話を逸らそうとするのを見ながらえりかはそんなことを考えていた。

 

 やがて、成実医師と別れるときが来た。「早く事件を解決してくださいよ」と言いながら病院の方へ去って行く成実医師。小五郎はあんな事件ちょろいと安請け合いしている。それを半目で見送って。コナンがえりかにひっそりと問いかけた。

 

「えりかお姉ちゃん、なにか分かったことある?」

「いや。全然? 分からないことだらけだ。現時点では情報が足りなすぎるな」

「現時点では?」

「ああ。事件の進行を待つしかないな」

「進行? 進展じゃなく? ……まさかまだこの殺人劇が続くってこと!?」

「そりゃ続くだろう? なにせあの手紙には影が消え『始める』ってあったんだ。一回で済むなら『影が消える』でいいだろう?」

 

 えりかは猫の笑みを浮かべながらそう言う。「なんだ、坊主。気付いてなかったのか?」とでも言いたげな表情。コナンは戦慄に目を見開きながら、背後、公民館の方へと視線を向けるのだった。

 




■用語解説
八重垣えりか:CV.佐倉綾音。車椅子の少女。夏編主人公。クールを装っているが、原作中一番惚れっぽい気がする。性的接触に男子中学生並に耐性がない。たぶんむっつりスケベ?

考崎千鳥:CV.洲崎綾。夏編ヒロイン。夏編より編入生として登場。歌・バレエダンスが得意。本人曰くリードされたいタイプだがえりかが奥手のため、結果千鳥が肉食系に。

貴船さゆり:えりか達の約20年前に学院に在籍していた生徒。とある理由から学院の隠し部屋で自殺しそのまま放置。約20年もののミイラになっていたのをえりか達が発見する。
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