車椅子探偵えりか   作:ざんじばる

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 ■Side E

 

 しばらく経って、廊下の奥、おそらく放送室へと消えていた皆が戻ってきた。役場内にいた全員が村役場のロビーへ集められた。彼らを前に目暮警部が話し始める。放送室で起きた第二の殺人事件の説明とその犯人の分析について。

 

 殺害した後、曲の入ったテープを再生し、死体を発見させるという手口と、その曲が、どちらもベートーベンのピアノソナタ『月光』という点からみて昨夜『月光』の第一楽章と共に発見された川島と、今夜『月光』の第二楽章と共に発見された村長の黒岩を殺害したのは同一犯だと思われること。

 

 さらに、成実医師による検死結果による死亡推定時刻と、かかっていたテープの頭に5分30秒の空白時間があることから、黒岩が殺されたのは発見される数分前、6時30分前後と思われること。

 

 即ち、その時間この役場内にいたものの中に犯人がいるということだと。

 

 

 容疑者は、警察とその関係者といえる小五郎一行を外すと。

 

 第一発見者の西本。成実医師。村長秘書の平田。村長の娘、黒岩令子。その婚約者、村沢。村長選立候補者、清水正人。それにえりかと千鳥の8人だ。

 

「ちょっとまってよ! どーして私がパパを殺した容疑者の中に入ってるわけ!?」

 

 父親殺害の容疑者に含まれてしまった令子が目暮に食ってかかる。続けて言い募った。自分は6時20分頃から死体発見まで取り調べを受けていたのだから犯行不可能だろうと。

 

 これには目暮警部も納得するしかなかった。すると続けて蘭が言う。6時過ぎから自分たちといっしょにいた成実医師も容疑者から外れると。コナンも同意を示した。

 

「それに八重垣さんと高崎さんも。彼女たちも6時前からいっしょにいたから容疑者から外れますよ。ね、八重垣さん」

「あ? ああ……」

 

 次いでえりか達のことにも言及した。なぜかえりかは心ここにあらずな反応をしていたが。

 

 話の流れでそれぞれのアリバイを確認していく目暮。結果アリバイのない人間は男四人に絞られた。秘書の平田。村長令嬢の婚約者村沢。対立候補の清水。そして第二の事件の発見者、西本だ。

 

 西本に放送室へいた理由を聞く目暮警部。西本から返ってきた答えは被害者の黒岩に呼び出されたというものだった。6時半に放送室に来るようにと。その話に目暮警部は、黒岩より夕方に人と会う約束があるため、取り調べは昼前にするよう依頼を受けていたことを思い出し、呟いていた。

 

 西本が犯人だと疑う小五郎。西本を揺さぶって反応を確かめている。それに対して西本は必死に否定するが、なにかを隠しているようで怪しい態度を隠せない。黒岩からどのような話で呼び出されたのか回答できなかった。

 

 一方で村長令嬢の令子が清水を犯人扱いして騒ぎを起こす。殺された二人がいなくなれば村長の椅子は清水のものとなり、一番得する人間だからとのことだった。一方的な決めつけに清水も冷静ではいられない。周りを巻き込んでの大騒ぎを始めてしまった。

 

 その騒ぎを気にすることなく、譜面の暗号解読に集中しているコナン。蘭からアドバイスを受けながらついに解き明かすことに成功した。

 

「わかってるな……次は、おまえの番だ……」

 

 ロビーに響いた不穏な台詞に、騒いでいた人々が一斉に振り返った。声の主はコナン。台詞は暗号を解読したものだった。ピアノの鍵盤の左端から順にアルファベットをあてはめて、メッセージの文字に相当する音を、譜面に書き記しただけのものとのことだった。そして川島が殺された現場にあった暗号を解くと「わかってるな。次はお前の番だ」となる。

 

「じゃ、じゃあ……さっきの血で書かれた譜面は!?」

 

 血相を変えて小五郎がコナンに聞く。それに答えてコナンは第二の暗号を解く。

 

「業火の怨念ここに晴らせり」

 

 12年前に焼身自殺した麻生圭二をたやすく連想させる暗号文だった。

 

「麻生圭二は生きていたんだぁぁぁ!!」

 

 恐怖に絶叫する西本。しかしそれを島駐在の老いぼれ警官があっさり否定した。

 

 焼け跡から麻生圭二とその妻、娘の三人分の遺骨が見つかっていること。歯型も一致していることから、麻生圭二の死は間違いないとのことだった。何もかも焼けてしまい残っていたのは耐火金庫に入っていた手書きの楽譜だけだったという。

 

 その楽譜が今回の事件を解く鍵になるのではと色めきだつ目暮警部や小五郎たち。楽譜は公民館の倉庫に保存され、倉庫の鍵は派出所に保管されているという。目暮の指示で老警官が派出所まで戻り、鍵をとってくることになった。走り去る老警官の後を追うコナン。蘭の制止も聞かずに飛び出していった。

 

「私たちは行かないでいいの、えりか?」

「ああ。あっちは坊主に任せよう」

 

 この事件に並々ならぬ好奇心を抱いているアミティエに千鳥が聞くが、帰ってきたのは意外な返答だった。

 

「それより気になることがあるんだ」

「気になること?」

 

 オウム返しに聞く千鳥には答えず、えりかは車いすを操って、小五郎のもとへ向かう。

 

「ちょっといいか、名探偵殿?」

「あん? ……なんだ?」

「さっきあんたが言ってた血で書かれた譜面ってのは何のことだ?」

 

 普段なら子供の言うことなど相手にしない小五郎だが、美少女に名探偵と呼びかけられたことに、それなりに気をよくしたのかすんなりと口を開く。

 

「ああ。黒岩村長の死体の傍に、その血でかかれた譜面があったんだよ。それが暗号になってたって話だ」

「ふぅん。被害者の血でね。……その暗号、なにか変わったことはなかったか?」

「変わった事って?」

「なんでもいい。気付いたことがあれば教えてくれ」

 

 えりかの曖昧な質問に考え込む小五郎。やがてなにか嫌なことを思い出したのかその顔が歪む。

 

「何かあったのか?」

「……いや」

「その顔はそう言ってないぜ?」

「……バカなガキが好奇心から譜面をのぞき込んでたから頭を叩いてやったら譜面の上に倒れやがったことを思い出しただけだ」

「なるほど。それで血の譜面が消えちまったのか」

「いいや、消えてない。何も問題なかったさ。……これ以上話すことは何もねーぞ。お嬢ちゃんもミステリごっこはほどほどにしとけよ」

 

 そう言いながら目暮の方へ離れていく小五郎。その背中に一言礼を投げるとえりかも千鳥の所へと戻った。

 

「小五郎さんと話したかったの?」

「ああ」

 

 千鳥の質問に生返事を返し、何事か考え込んでいるえりか。こうなると外の声はなかなかえりかに届かない。千鳥は溜息一つつくと壁にもたれ掛かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「楽譜の確認は明日にして、今日は一旦解散にしよう」

 

 一時間近く経っても帰ってこないコナン達に業を煮やし、目暮はそう切り出した。

 

 役場に留め置かれていた人々から不満が出始めていたこともある。月影島は孤島なので簡単には逃げられないし、暗号の中で「怨念ここに晴らせり」と言っているのだから、これ以上殺人事件は起きないだろうという腹づもりも目暮にはあった。

 

 目暮の号令に容疑者を含む皆はそれぞれ家へと帰っていった。それをコナン達に知らせに蘭も走り出した。

 

「私たちも宿に戻るか」

「ええ」

 

 続いてえりか達も村役場を後にした。千鳥がえりかの車いすを押して進む。皆足早に帰ってしまったのか、満月に照らされた夜道に二人だけだった。二人の間に会話はない。えりかはなにかを考え込んでいる様子で。そして千鳥はそんなえりかを見守っていた。

 

 もうまもなく旅館へと帰り着くというタイミング。思考に沈んでいたえりかが顔を上げた。

 

「どうしたの、えりか?」

「ああ……別に。この事件の犯人が分かっただけだ」

「え?」

 

 千鳥の問いかけにえりかはあっさりとそう言ってのけた。あまりになんでもないことのように言うので千鳥は一瞬何を言われたのか理解できず、間抜けな声を漏らす。

 

「え……え? 犯人が分かったって……殺人事件の?」

「他に何があるって言うんだよ?」

 

 相棒のどこか抜けた確認に呆れ顔のえりか。

 

「まあ、最初から疑わしくはあったんだが……」

 

 そこでようやく千鳥のスイッチが入った。

 

「殺人犯が分かったって、ど、どういうことよ!」

「どうもこうもねーよ」

 

 声を荒げる千鳥に至極面倒そうな反応を返すえりか。そしてすました猫の笑みを浮かべるとこう言った。

 

 

 

「まあでも……さすがに嘘も二つ目となれば見逃せねえよな?」

 




次回、謎解き編。
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