マギカではなくリリカル   作:ADONIS+

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1.九兵衛

『僕は九兵衛(きゅうべえ)。僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

 そう私に話しかける白い小動物。それは猫の様でありながらも、ウサギのように長い耳に赤い瞳をした奇妙なナマモノで、おまけに名前が九兵衛だった。それは私の前世の記憶をやたらと刺激するものであった。

 

 私の名前は伊吹りおん(いぶき りおん)、ごく普通の小学生である。前世の記憶があることを除けばという但し書きが付くけどね。

 

 テンプレであるが、前世では30代女性の事務員だった私は、死後に死神にあって物語の世界にトリップすることを進められて転生した。といっても、二次小説とかでよくあるチートオリ主のような強力な転生特典を貰ったわけではない。私が貰ったのは〝『機動戦士ガンダムSEED』の空間認識能力″という何とも微妙な能力だけだった。

 

 別にその能力を選んだわけではないのですが、くじ引きでそれが当たったわけなんです。まあ、強力過ぎる特典を貰っても特に使い道がないからいいですけどね。私は平凡であっても安全でのんびりした生活がしたいからこれで構わない。

 

 そもそもチート能力を貰って原作介入して暴れまくる話なんて、ネット小説で見るからいいのであって、自分でそれを実行しようとは思わない。

 

 そのおかげで、気が付けば『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生していた。ここで「平凡に生活したいだけなら『魔法少女リリカルなのは』ではなくもっと安全な世界にすればいいじゃない」と、突っ込む人もいるかもしれませんが、実は選択の余地がなかったわけです。

 

 というのも、死神が提示した他のトリップ先は、突如として世界中でゾンビが大発生する世界(学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD)、宇宙人の侵略を受けて人類滅亡の危機に瀕した世界(マブラヴ)、人類補完計画によって人類が滅びる世界(新世紀エヴァンゲリオン)などまともな世界がなかったのだ。

 

 これなら『魔法少女リリカルなのは』の方がまだマシです。すくなくともPT事件と闇の書事件さえ原作通りに終わってくれれば安全に暮らせるわけですからね。

 

 そう、思っていたのにこれはどういうことです。何で『魔法少女リリカルなのは』の世界に、『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえがいるんですか!! もしかして「実はなのはとまどかのクロスオーバー世界だったんだ」とかいうオチですか?

 

 いや待て、こいつはキュゥべえではなく、九兵衛と名乗ったよね。もしかしてキュゥべえのバッタものだったりするのか。だとしたらとんでもなく悪趣味なことだよ。

 

『どうしたんだい、伊吹りおん』

 

 あまりの事に硬直していると、理不尽極まりない謎のナマモノ(九兵衛)が、教えてもいないのに私の名前を言った。そういえば【魔法少女まどか☆マギカ】でもスカウトする少女の名前を何故か知っていたね。まあ、こいつは数だけはバカみたいにいるから物量で調べたか、ご自慢の技術力でなんとかしたのだろう。

 

「なんでもないわ。とりあえず話を聞いておくわ」

 

 ここで不審に思われてはいけない。取りあえず、九兵衛から訊きだせることは訊きだすとしましょう。取りあえず、九兵衛のセールストークに付き合うことにした。予想通りならこいつは都合のいい事しか言わないが、それでも嘘は言わないから客観的分析すればある程度の情報は得られる筈だ。

 

 やはりというか、なんというか。九兵衛は魔女や魔法少女の表向きの説明だけをして契約を求めて来た。ようするに一つだけ願いをかなえるかわりに人々に災いを求める魔女と戦う魔法少女になって欲しいということだ。

 

 それだけ訊くならば魔法少女アニメのマスコットキャラな台詞だろうが、私にそれは通用しない。こいつは可愛らしいマスコットキャラの皮を被った外道だ。どれだけ悪質なサラ金や闇金業者でもこいつに比べたら善良的に見える。数多くの物語の中でも屈指の詐欺師にして営業マンだ。

 

 ここで突っ込みを入れたい所であるが、そんなことをすれば怪しまれてしまうだろう。下手にこいつにとって不都合な事を知っているとばれたらあの手この手で私を排除しようとするだろう。それは極めて拙い。といって安易に契約をするなど論外だ。

 

「そうなんだ。まあ、話は分かったけど、私は奇跡とかには興味がないから他を当たってよ」

 と、興味がないと冷たく断ることした。

 

 さてと、これからどうするか。九兵衛から聞きだした情報によると、この世界の地球各地で魔女と魔法少女が戦っているらしい。それはつまりジュエルシードが落ちるだろう海鳴市にも魔女がいるということ意味している。

 

 不完全ながらも願望器としての機能を有するジュエルシードと世界を呪う魔女の組み合わせなんて最悪極まりない。下手をすればワルプルギスの夜よりもたちの悪い災厄を招くことになりかねないのだ。

 

 こうなると、原作に介入しなかったら原作通り危機は去って安全に暮らせるだろう、と暢気に構えていられないから積極的に動くしかない。

 

 今が新暦60年だから後5年しかない。とにかく五年後にはジュエルシードの回収と海鳴市の魔女を排除しなければならない。こうなると監察軍と接触できたのは幸運だった。まずは監察軍にこの異常な世界の調査を依頼すると同時に、自分でも戦えるように準備を整えないといけないね。

 

 こうして、平凡な生活を求めていた筈のりおんは否応なしに原作介入することになるのであった。




解説

■魔女
『魔法少女まどか☆マギカ』で登場する人々に呪いを振り撒く存在。実はキュゥべえに魔法少女にされた少女たちのなれの果て。

■魔法少女
『魔法少女まどか☆マギカ』で登場するキュゥべえと契約して願いをかなえてもらった少女たち。実は魂を肉体から抜き取られてソウルジェムに加工されている上に肉体を作り替えられており、人間と言うよりも仮初の命を与えられたゾンビのような存在である。

■九兵衛(きゅうべえ)
 猫とウサギの特徴を併せ持つ人語を話す白い小動物。ぶっちゃけ『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえそっくりで、ある目的の為に製造された有機物で造られたロボットの様な存在だったりする。
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