あきらかに通常とは違う異常な空間である魔女の結界の中を私、伊吹りおんは突き進んでいた。今の私はレオタードみたいな形状のスーツに機械を取り付けたサブカルチャーにおけるメカ娘のような格好をしていたが、これはコスプレではない。TA-ユニットと呼ばれる一種のパワードスーツで、更にこのプロヴィデンスは私の専用機として製造された代物だ。
私は時折襲い掛かる使い魔をレイザーブレードで引き裂き、私の周囲で浮遊しているドラグーンでレーザーを打ち込んでいた。
私は使い魔を蹴散らしつつ、魔女に突撃していく。この魔女も大したことはなく随意領域(テリトリー)で拘束して魔力砲を打ち込めばあっさりと始末できた。魔女を倒したことで魔女の結界が解除されて私は通常空間に戻った。
私が九兵衛と遭遇して5年が過ぎた。当時小学生だった私は14歳の中学生に成長した。監察軍に接触した私はトリッパーでありながら何の力も持たなかった為に戦闘手段としてTA-ユニットを使用する事を選択した。というよりほかに選択の余地がなかったと言っていいだろう。
そして、この五年間はこのTA-ユニットを用いた戦闘訓練に明け暮れてようやくTA-ユニットを実戦で使えるようになり、先月から海鳴市の魔女と使い魔を狩っていた。
今年は新暦65年。つまり間もなく原作が開始されてジュエルシードが海鳴市にバラまかれてしまう。正直、先月からかなりのハイペースで魔女と使い魔を狩っているのだが、未だに海鳴市の魔女を駆逐できていない。
確かに狩りを開始した当初は順調に魔女の数を減らせたのだが、他所から魔女や使い魔が流れ込んでしまいキリがないのだ。
「あんたが私の縄張りを荒らしている奴ね」
不意にそんな声を掛けられた。
「魔法少女ですか?」
私に声を掛けたのは私と同じぐらいの年齢の少女で、いかにも魔法少女という格好をしていた。ただのコスプレイヤーならばともかく、このような格好をしていて私に縄張りを荒らしているなどど言うのは魔法少女しかいない。
「あんたが魔女どころか使い魔まで根こそぎやるからこっちはいい迷惑なのよ。邪魔だから消えて頂戴!」
そう言って魔法少女は剣で切りかかってきた。
この世界の魔法少女は魔女を倒してグリーフシードを確保するために他の魔法少女と争いになることが多い。ましてや魔法少女ですらないのに魔女や使い魔を根こそぎ始末している私は彼女にとって邪魔以外の何物でもないだろう。その為、彼女の行動は当然と言えば当然なのだが、魔法少女の剣は私の防御を突破することはできずに弾かれた。
「そんな攻撃が効くわけがないでしょう」
確かに魔法少女は常人よりも身体量能力が向上しているが、TA-ユニットを装備した私は随意領域(テリトリー)とシールドエネルギーを同時展開している。並の魔法少女程度がこの二重の守りを突破することなどできるわけがない。
「なっ、体が動かない」
そして、この程度の魔法少女など随意領域(テリトリー)をバインドの要領で拘束に使えば容易に抑えられる。私は拘束した彼女を倒すべくレイザーブレイドで彼女のソウルジェムを砕くと同時に随意領域を解除した。
その途端彼女は人形のように倒れこんだ。ソウルジェムだけを砕いたために彼女には外傷はまったくないが、彼女の生命活動は停止していた。否、元々魔法で動いていただけの死体がただの死体に戻っただけだ。
「さてと、九兵衛いるんでしょう。でてきなさい!」
『僕に何のようだい、伊吹りおん』
いくら魔法が使えるとはいえ一般人の少女でしかない魔法少女が、偶然私の存在を嗅ぎ付けて襲い買ってきたと考えるよりも、九兵衛が海鳴市の魔法少女を使って私を襲わせたと考えた方が自然だ。そして、そうであるならばこの場に九兵衛がいるはずだと判断してそういったわけだが、案の定九兵衛がでてきた。
「魔法少女をけしかけるなんてやってくれたわね」
『僕はただ彼女に情報を提供しただけだよ。君を襲ったのは彼女の意思だ』
あくまであの魔法少女に私の事を言っただけで、私を襲ったのは魔法少女が自分の判断でやったことだと言いたいのだろう。こいつらしい責任逃れの言い分だ。
「そう」
そんな言い分など受け入れてやるつもりなどない私はドラグーンで九兵衛を打ち抜いたが、
『ひどいじゃないか。いくら予備があるとはいえ無駄に減らされるのは困るよ』
九兵衛を殺しても、すぐに次の九兵衛がでてきて文句を言ってきた。
こいつは数だけは馬鹿みたいにいる上に、この星だけでなく次元世界各地にいるものだから目の前の一匹を殺しても全く意味がない。それが分かっていてもついやってしまうのは九兵衛クオリティというべきか。
『それにしても伊吹りおん、やっぱり君はトリッパーだったんだね』
やはり気づかれていたか。九兵衛が魔法少女を使って私を始末させようとした事からばれているとは思っていたが、こうしてはっきりと言われるのはやはり面白くない。
『おっと』
思わずドラグーンを使おうとしたところを九兵衛は後ろに下がって後退した。
『このままいると無駄に殺されそうだから、とりあえず逃げることにするよ』
そういってその場から立ち去る九兵衛を私は追うことなく、その場を後にするのであった。
解説
■ドラグーン
『機動戦士ガンダムSEED』で登場する分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システム。要するにSEED版ファンネルである。
■TA-ユニット(タクティカル・アーマー・ユニット)
『短編及び中編集 TA-ユニット』で登場したブリタニア帝国軍の歩兵用装備。ISとCR-ユニットの良いとこ取りをしたような代物で、今回りおんが使用しているプロヴィデンスはドラグーンシステムを導入した伊吹りおんの専用機である。