東方悠幽抄   作:アグサン

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 魔理沙と大妖精の戦い、そしてチルノと悠子の弾幕ごっこが決着します。この話では少女たちの心の葛藤が描かれており、ちょっとシリアスな雰囲気……かもしれません。ちなみに、チョイ役で華扇ちゃんが登場します。良いですね、修行。それでは、東方悠幽抄、第八話です。批評、コメント等ありましたら、よろしくお願いします。


第八話「チルノと悠子の後悔」

 ◇

 

 ――――大妖精が幽々子(悠子)に倒される少し前へと遡る。

 

 大妖精の突然の攻撃により悠子と引き離された魔理沙は、大妖精と対峙していた。

 思惑通り言ったことに大妖精は満足そうな顔をしていた。

 そして、魔理沙の顔をビシッと指差した。

 

「あなたは厄介だから私が相手するわ!」

 

 魔理沙は呆れながら言った。

 

「私はオマケだぜ? 元々、おまえらの邪魔をする気なんかなかったんだがな」

 

 魔理沙はそう言って両手を挙げ、降参のポーズをとった。

 しかし、大妖精は疑いの眼差しを向けた。

 

「ウソつき。さっきのあなたは、チルノちゃんと戦おうとしてたでしょ!」

「そりゃあ、まぁ…… 私のせいで悠子が怪我をしてしまったからな…… それに私なんかにかまってていいのか? 本気を出した悠子は、意外と強いと思うぜ」

 

 魔理沙は悠子の方へと視線を向けた。

 大妖精もチルノの方をチラリと見て、自信有り気に言った。

 

「チルノちゃんは負けないわ。それに、チルノちゃんがあの人に勝ったら、結局あなたの相手をしなくてはならないでしょ? それまで私があなたを削っておくわ」

「はっ! 妖精が私を足止めか? 面白い、遊び相手にはなってやるぜ!」

 

 魔理沙がカッと目を見開くと、周囲に魔力が満ち溢れた。

 その魔力にひるまずに、大妖精は啖呵を切った。

 

「私だってやる時はやるんだから! スペルカードを持っていなくてもね!」

 

 大妖精は再び弾幕を展開するため、両腕を前へと突き出した。

 魔理沙はその動きを見ながら、ふぅと息を吐いた。

 そして、周囲に魔法陣の形をしたオプションを二つ展開した。

 

「スペル無しの妖精なんか、この『マジックミサイル』で十分だぜ」

 

 魔法陣の周囲に魔力が収束し、無数のマジックミサイルが放たれた!

 文字通り『弾幕ごっこ』が始まったのだ。

 

 しかし、マジックミサイルが直撃する瞬間、大妖精の姿が消えた。

 ――!?

 魔理沙は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐさまあることに気付き叫んだ。

 

「紅霧異変のときを思い出したぞ…… こいつ、瞬間移動ができるんだ!」

「正解よ!」

 

 大妖精の自信ありげな声が響き、魔理沙の背後に現れた。

 魔理沙は勢いよく振り向き、再びマジックミサイルを連射した。

 

「当たれぇぇぇぇ!」

 

 しかし、大妖精は再び瞬間移動で魔理沙の視界から消えた。

 魔理沙は地団太を踏んだ。

 

「クソ! ちょこまかと動きやがって!」

 

 魔理沙は大妖精が現れた先に向かって、何度もマジックミサイルを撃ち込んだ。

 しかし、弾速が遅すぎて、大妖精にはまったく命中しなかった。

 魔理沙は逃げ回るだけの大妖精にしびれを切らし、叫んだ。

 

「逃げ回らずに、真剣に勝負しようぜ!」

「ふふふ、逃げる事も立派な戦法よ。追尾能力もなく、速度の遅いあなたの弾では、私には決して当たらないわ」

 

 大妖精はそう言って、魔理沙を挑発した。

 魔理沙は悔しそうに歯軋りした。

 そして、これ以上は無駄だと判断し、魔法陣オプションを引っ込めた。

 

「ふん、お前がそうくるんだったら――」

 

 魔理沙は箒にまたがり、空へ飛び立った。

 大妖精は瞬間移動を止め、不思議そうに魔理沙を見上げた。

 

「どうしたの? 人間のくせに逃げるのかしら?」

 

 そんな大妖精の言葉を聞き、魔理沙はニヤリと笑った。

 

「あまり人間を舐めない方がいいぜ」

 

 魔理沙の手には、いつの間にか『ミニ八卦炉』が握られていた。

 そして、霧の湖の上空からミニ八卦炉を地上へと向けた。

 

「これなら逃げられないだろう! 恋符『マスタ―― 」

 

 魔理沙がスペルカードを宣言し終わる前に、悠子が戦っている方から大きな叫び声が聞えてきた。

 

「くるな!」

 

 それは、悠子と弾幕勝負していたチルノの声であった。

 魔理沙の意識は一瞬、悠子とチルノの方へと向き、スペルカード宣言が遅れた。

 

「チルノちゃん!」

 

 大妖精はチルノの名前を叫び、瞬間移動し魔理沙の前から消えた。

 

「あっ、おまえ! 逃げんな!」

 

 魔理沙はスペルを中止し、悠子が戦っている場所へと降下した。

 目を向けた先では、すでに悠子が大妖精を切り裂いた後であった。

 大妖精の体は、光となって弾け飛び、周囲へと霧散していった。

 

「だいちゃん!!!」

 

 チルノの悲痛な叫びが響いた。

 その姿を悠子が冷たい眼差しで見つめていた。

 

「馬鹿な子ね、こんな身勝手な妖精を助けるなんて」

 

 魔理沙はその言葉を聞き、背筋が凍った。

 ――こいつ、本当に悠子なのか……?

 言葉では言い表せない――まるで幽霊に遭遇したときのような寒気が悠子の周囲に渦巻いていた。

 刀を鞘にしまった悠子はチルノに歩み寄り、冷たい声で言った。

 

「これで馬鹿と言われているあなたでもわかったでしょ? 大切なものを失う悲しみが」

 

 悠子の諭すような言葉は、チルノには届いていないようであった。

 チルノは大妖精が消えた空間を凝視して呟いた。

 

「だいちゃん……」

「哀れね…… 二人仲良く冥界に送ってあげるわ」

 

 そんなチルノに悠子はため息をつきながら、刀に手をかけた。

 魔理沙は、ただただその姿を傍観する他なかった――

 

 

 ◇

 

 

 ――――幽々子はもう一度小太刀を構え、氷の妖精を見据えた。

 

 幽々子は悠子をやられた分、この氷精にもう一度痛い目を見せてやろうと思っていた。

 そして、刀を引き抜こうとした瞬間、心の奥底で声が聞えてきた。

 

(ゆ…ゆ…こ…?)

(!?)

 

 それは意識を取り戻した悠子の声だった。

 幽々子は構えを解き、胸に手を当てた。

 

「こんなタイミングで目を覚ますなんて、相変わらず運の悪い子ね。それでは、選手交代よ、悠子」

 

 そう言った幽々子は目をつぶり、体の主導権を悠子に譲り渡した。

 

 

 ◆

 

 

 ――――っ! 視界がぼやける……

 

 私の意識は闇の中から浮上した。

 私の視界には、ある一点を見つめているチルノの姿と唖然として立っている魔理沙の姿が映った。

 全く状況が把握できなかった。

 膝をついた私の肩に魔理沙が手をおいた。

 

「悠子、ちとやりすぎじゃないか?」

「えっ? 私、何を……?」

 

 私は魔理沙の言っている意味がわからなかった。

 混乱する私に向かい、魔理沙が不思議そうに問いかけてきた。

 

「覚えてないのか? さっきおまえがチルノの前で大妖精を退治しただろ」

 

 私は魔理沙の言葉に衝撃を受けた。

 ――私が? 大妖精を?

 先ほどまで意識のなかった私には何がなんだかさっぱりであった。

 しかし、可能性があるとすれば……

 私はすぐさま幽々子に問うた。

 

(幽々子、あなた…… また私に嘘ついたでしょ?)

(何のことかしら~)

(あなたは私の体は動かせないって言ってたじゃない!)

(――何を勘違いしているの? 私は一度もそんなことは言ってないわ)

 

 幽々子はきっぱりとそう言った。

 私は人食い妖怪と戦った後の会話を思い出した―――

 

『って、なんで私が気を失っている間のこと知ってるの!?』

『あなたが気を失っているだけで、私が気を失っているわけではないからね。声くらい聞こえますわよ』

 

 ――――確かに幽々子は明言してはいなかった。

 

(だけど、『声くらい聞こえる』と言われても、体を動かしてるかどうかなんて、わかるわけないじゃない!)

(追求しないあなたが悪いのよ)

(……それにこの状況、あなたが何かをしでかした結果なんでしょ!)

(凍死させられそうになっていたあなたを助けたんだからいいじゃない。感謝されこそすれ、怒られる筋合いはないわ。ぷんぷん)

 

 幽々子はプイッとつむじを曲げてしまった。

 確かに気を失ったままでは、あの男の子と同じく体の一部を凍らされていたかもしれない。

 そう思うと、私はこれ以上幽々子を追求することができなかった。

 ふと、先ほど茫然自失であったチルノの方を向くと、敵意のこもった目でこちらを睨みつけていた。

 

「よくも大ちゃんを……!」

「落ち着いて! 妖精は自然がある限り不死身なんでしょ!?」

 

 私はチルノを説得しようと、慧音先生から聞いた事実を口にした。

 しかし、彼女は私の言葉など全く聞き入れずに、わめき散らした。

 

「うるさい、うるさい!!!」

 

 チルノは既に冷静さを欠いていた。

 そして、再びスペルカードを取り出した。

 

「氷符『ソードフリーザー』!!!」

 

 チルノの手には氷でできた剣が握られていた。

 そして、チルノはその氷剣を大上段に構え、私に飛びかかってきた!

 

「くそっ!」

 

 私は小太刀で素早く防御した。

 氷剣を防いだ瞬間、顔の側面に凄まじい冷気を感じた。

 ――これはまずい。

 私はすぐさま危険を察知し、氷剣ごとチルノを突き飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

 チルノは地面に叩きつけられた。

 無理矢理弾き飛ばしたので、私も手がしびれてしまい、一度小太刀をおろした。

 もう一度小太刀を構えなおそうとした私に向かって、チルノはその手に持った氷剣を投げつけてきた!

 

「くらえ!」

 

 ――えっ!?

 さすがに予期していなかった攻撃に私はたじろいだ。

 私は反射的にその氷剣を小太刀で薙ぎ払った。

 氷剣は粉々に砕け散り、氷の破片が周囲に舞い散った。

 ――なっ……!?

 無数の氷の欠片が光を反射して輝き、私は目がくらんでしまった。

 その瞬間、私に大きな隙が生まれた。

 

「アンタもあの男の子みたいに凍ってしまえ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!!!」

 

 隙だらけの私に向かい、チルノが次のスペルカードを宣言した。

 私はその声を聞き、すぐさま距離を取ろうとした。

 しかし、無理な体勢で飛び退こうとしたため、その場で足を滑らせてしまった。

 

「痛っ!?」

 

 尻もちをついた私の目には、チルノの周囲の空間が凍結するのが見えた。

 湖畔に生えていた植物は凍結し、氷像のように固まってしまった。

 地面に腰をつけた今の体勢では、到底逃げることはできなかった。

 チルノの本気の攻撃が直撃したら、人間である私は確実に凍死してしまうだろう――

 私は恐怖で身がすくんでしまった。

 

 ――そんな私とチルノの戦いを傍観していた魔理沙は、さすがにまずいと思ったのか、チルノに向かいスペルカードを宣言した。

 

「くそっ、間に合え! 魔符『ミルキーウェイ』!!!」

 

 無数の星型をした弾幕がチルノに向かい放たれた!

 しかし、その弾幕はチルノに届く前に全て凍りついてしまった。

 

「なんだと?!」

 

 魔理沙は驚きの声をあげた。

 

 ――もう間に合わない。

 私が死を覚悟した瞬間、幽々子の声が聞こえた。

 

(悠子、こんなところで諦めるの? あなたはまだやり残したことがたくさんあるんでしょ!)

 

 その言葉を聞いた瞬間、弟の顔が浮かんだ。

 ――そうだ! こんなところで死ぬわけにはいかない!

 

 そう強く思った次の瞬間、私はその場から姿を消した。

 

 

 ◇

 

 

 ――――だいちゃんがあたいを庇って消えてしまった……

 

 チルノは後悔していた。

 あの人間を甘く見ていたのだ。

 チルノは大妖精を消滅させた剣を握った少女を許すことができなかった。

 だが、チルノには自分が犯した過ちを悔い改める方法が思いつかなかった。

 だから、チルノは単純にその人間を消してやろうと思った。

 その人間が足を滑らせ腰をつこうが、白黒の魔法使いが弾幕を放とうが、そんなことチルノにとってはどうでもよかった。

 大妖精の仇を取る―― チルノはその一心から、全力で目の前の人間を攻撃した。

 

 しかし、自分のスペルがその人間に直撃する直前に、その人間は消えてしまった。

まるで霞のように。

 チルノは目を疑った。

 

「あれ? 人間が消えた???」

 

 チルノはスペルを中止し、目を擦った。

 やはりその場所には人間のいた痕跡はなかった。

 そのとき、チルノは完全に油断していた。

 

「 人符『現世斬』!!!」

 

 ――えっ?

 チルノの背後からスペルカード宣言の声が響いた。

振り向いた時にはすでに、チルノの体は悠子の一閃により斬り裂かれていた――

 

 

 ◆

 

 ――――だっ、だいちゃん…… ごめん……

 

 チルノはそう呟き、地面に膝をついた。

 そして、その場でうずくまり、光となって霧散した――

 

 チルノを倒した私は、その場に座り込んだ。

 

「か……勝ったわ!」

 

 こうしてチルノとの二度に及ぶ弾幕ごっこ(?)は終わった。

 そんな私に幽々子が労いの言葉をかけてくれた。

 

(お疲れ様、悠子)

(ええ、ありがとう……)

 

 私自身まだ勝利の実感がなかった。

 ――死にたくない!

 そう強く思った瞬間、私はチルノの背後に立っていた。

 チルノは背後に瞬間移動した私に気付かずに、『パーフェクトフリーズ』を中断した。

 その隙に私は、無我夢中で『現世斬』を放った。

 結果、私はチルノに辛くも勝利することができたのだ。

 

 しかし、勝利した私はあまりいい気分ではなかった。

 私はチルノ自身の反省を促すためにここに来た。

 妖精はある意味、無敵だ。

 退治することでしか懲らしめられない――私はそう考えていた。

 しかし、事はそううまく運ばずに、幽々子に大妖精を消されたチルノは全力で攻撃を仕掛けてきた。

 ――そう、私たちはやりすぎてしまったのだ。

 

 意識が戻ってからの戦いで、大妖精を失ったチルノの悲しみは痛いほど伝わってきた。

 ――もしも私の弟や幽々子が誰かに消されたら?

私は冷静でいられるのか?

 これもまた、私の中では答えの出ない問いであった。

 そう思い悩む私の胸中を察した幽々子が声をかけてきた。

 

(悠子、難しく考えすぎよ。もっと気楽に生きなさい。あなたは良いことをしたのよ)

(……)

(あの氷精には、ああしなければ反省や後悔をさせることはできなかった。――馬鹿につける薬はない、ってね)

 

 そう幽々子は言ったが、私の気は晴れなかった。

 そんな沈みこんでいた私に、魔理沙が声をかけてきた。

 

「悠子、今度も大丈夫か?」

「――ええ、平気よ」

 

 私は力なく言った。

 そんな私の様子を気にかけつつ、魔理沙は遠慮しがちに問い返してきた。

 

「それより悠子、今、瞬間移動しなかったか?」

「えっ、何のこと?」

 

 私はつい聞き返してしまった。

 魔理沙は呆れた口調で言った。

 

「おいおい、ピンチの時にチルノの背後に瞬間移動しておいて…… おまえ自覚がないのか?」

 

 私は自分がどうしてチルノに勝利できたかについて冷静に考えた。

 確かに一瞬にしてチルノの背後へと移動した能力は『瞬間移動』ということができる。

 しかし、私自身は全く実感がなかった。

 そんな私に幽々子は言った。

 

(悠子、とりあえず黙っておいて貰った方がいいわ)

(なんで?)

(あなた、人外として里の人間たちに扱われたいの? ――そういう遊びが好きなら止めないけど)

(いえ、結構です……)

 

 私はコホンと咳をして、魔理沙に向き直った。

 

「魔理沙、このことは他言無用でお願いできるかしら」

 

 魔理沙はそう言った私をまじまじと見て、少し不思議そうな顔をした。

 しかし、すぐ納得したように頷いた。

 

「私は別にかまわないぜ。それじゃあ、さっき弾幕に突っ込ませちまった借りはチャラってことでいいか?」

「ええ、ちょっと癪だけど構わないわ」

「よし、契約成立だぜ」

 

 魔理沙はニカッと歯を見せて笑い、サムズアップした。

 

 

 ◆

 

 

 ――――悠子さん、無事でしたか!?

 

 慧音先生は心配した様子で私たちに駆け寄ってきた。

 私たちはチルノと大妖精を退治した後、寺子屋へと戻って来ていた。

 

「本当に心配しましたよ…… あの氷精は本当に危険ですから」

「妖精たちは退治しました。たぶん、相当反省したと思います」

 

 私の言葉を聞き、慧音先生はひどく驚いた顔をした。

 

「噂には聞いていました…… さすがですね」

「いえ、こちらも全く余裕はありませんでしたが…… そういえば、凍傷になってしまった男の子は大丈夫ですか?」

 

 不安な顔をしてそう尋ねた私に対して、慧音先生は笑顔で答えた。

 

「聞いてください! あの後、仙人様に助けてもらったんです。完全に腕が動くようになったのですよ!」

 

 慧音先生は嬉しさのあまり飛び上がりそうな勢いであった。

 私と魔理沙は顔を見合わせた。

 

「仙人様って?」

「誰だ? 私もわからん」

 

 新入りの私は知る訳もないが、ここで生まれ育った魔理沙も知らないらしい。

 すると、寺子屋の奥から、右腕が包帯に包まれた、美しい牡丹の装飾が施された服をまとった少女が姿を現した。

 その少女は私の顔を見て微笑んだ。

 

「あなたが悠子さんですね。はじめまして。私は号が茨華仙、本名が茨木華扇と申します」

「茨木華扇さん……? 私の名前は藤見悠子です。よろしくお願いします」

 

 私は名前の響きに違和感を覚えたが、素直に頭を下げ挨拶をした。

 華扇さんは落ち着いた口調で話を続けた。

 

「あの子は大丈夫ですよ。今は奥の部屋で寝ています」

「私からもお礼を言わせてもらいます。ありがとうございました。 ――でも、どうして突然現れたのですか?」

「腕を怪我したことどもがいるという鳥の噂を聞き、駆けつけてきました。――私自身、腕を失う苦しみに関してはわかっているつもりですからね……」

 

 そう言って、華扇さんは右腕を左手できつく握りしめた。

 私はそのことには触れずに話を続けた。

 

「一つお聞きしたいのですが…… どうやってあの子の腕を治癒したんですか?」

 

 私はあの凍傷になった腕が簡単に治ったなんて信じられなかった。

 しかし、華扇さんはこともなげに言った。

 

「『怪我を治す特別な酒』を使ったんですよ」

 

 華扇さんはそう言って、小瓶を取り出した。

 私はその小瓶を眺めて、へぇ~と声を漏らした。

 ――すると、さっきまで黙って見ていた魔理沙が華扇さんに声をかけた。

 

「あんた、仙人なんだって? 私とも自己紹介しようぜ」

 

 そう言って身を乗り出した魔理沙に対し、華扇さんはため息をついた。

 

「魔理沙…… あなたとは以前会ったことがあるはずですが……」

「いや、まったく覚えてないぜ」

 

 魔理沙はそう言って、ニカッと笑った。

 華扇さんはぷるぷる震えながら、ふぅ~とため息をついた。

 そして、手枷のついた左手を突き出し、くどくどと説教を始めた。

 

「くっ……! あなたは自分の興味あることにだけ目が行き過ぎている。 もっと周りを見るべきです。それに、あなたのお父さんも心配して……」

 

 魔理沙はそんなお小言じみた説教に耳をふさぎながら叫んだ。

 

「あーあー、わかった! わかったから! それに、その説教で思い出したぞ。あれだろ、あんた博麗神社で霊夢に説教してたよな!」

「やっと思い出しましたか……」

 

 華扇さんは再びため息をついた。

 魔理沙と華扇さんのやり取りを微笑ましく見守っていた慧音先生は、私に話しかけてきた。

 

「悠子さん、あなたは剣を扱うのが上手と聞きましたが?」

「ええ、そうですが……」

「それでは、悠子さんに一つお願があります。――寺子屋の子供たちに剣術の稽古をつけていただけませんか?」

 

 私はその提案にひどく驚いた。

 

「私がですが!?」

「はい、私は今回の事件で一つ思いました。――我々は子供たちを守るべきですが、自らも守る力を身につけさせるべきであると」

 

 そう語った慧音先生に私は深く頷き返した。

 

「その考え、賛同しますわ」

「――それと、あなたは人間の里に来たばかり宿泊場所がないと聞いていますが?」

「恥ずかしながらそうです……」

 

 私は恥ずかしくて頭を掻いた。

 すると、慧音先生は笑いながら続けた。

 

「ふふっ。でしたら、この寺子屋に住みませんか? 人里の子供たちの先生として」

 

 私はその提案にひどく驚き、目を見開いた。

 

「そんな、いいんですか!? こんなわけのわからない人間なんかに……」

 

 私は謙遜しを口にした。

 昨日今日現れた素性も知らない人間が先生なんていう大任を任されて良いものなのか……

 ――しかし、慧音先生は、驚き、黙り込んだ私を諭すように言った。

 

「ええっ、いいんですよ。一つでも人間にとって良いことをしてくれた、それだけでいいんです。 それに、私だって―― いえ、なんでもないです」

 

 慧音先生は最後に何かを言いかけたが、途中で止めてしまった。

 そして、真剣な眼差しでもう一度私に問うた。

 

「この話、受けてくださいますか?」

「いえ、こちらこそ願ったりかなったりです!」

 

 私は慧音先生の提案に喜んで返事をした。

 慧音先生は私の返事に満足そうにうなずいた。

 

「それでは決まりですね」

「よろしくお願いします! 慧音先生!」

 

 そうして私と幽々子は、この寺子屋に住み込みで剣術の先生をすることとなった。

 

 

 ◇

 

 

 ――――白玉楼にいた妖夢はてんやわんやしていた。

 

 妖夢は昨晩この冥界に迷い込んできた宵闇の妖怪・ルーミアの相手をしていた。

 ――どうやって、この妖怪を人里周辺に返そうか……

 妖夢がそんなことを考えてきたときだった。

 突如、西行妖の陰から妖精が二匹現れたのだ。

 妖夢は驚き、妖精たちに向かい声を荒げた。

 

「どこからこの白玉楼に侵入した! 理由次第では……」

 

 しかし、妖精たちは妖夢のことを全く気にした様子もなく喜びあっていた。

 

「だいちゃんが無事でよかった! あたい心配したよ!」

「私ももう終わりかと思ったわ」

「よし、だいちゃんが無事だった記念! この木を凍らせて遊ぼうよ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 

 突然、西行妖を凍らせようとし始めたチルノを妖夢は止めに入ろうとした。

 

「こら、止めろ! 妖精どもめ!」

 

 しかし、スペルカード宣言がなされたのに、まったく凍る気配は見られなかった。

 

「あれ、凍らない???」

「おかしいね、チルノちゃん……」

 

 チルノと大妖精は首をかしげた。

 しかし、どうでもよかったのか、再び元気よく叫んだ。

 

「まあ、いいや! じゃあ、かくれんぼして遊ぼう! そこの金髪も参加してよ!」

「えっ、いいの?」

 

 妖夢の背後にいたルーミアは嬉しそうに返事した。

 

「遠慮はいらないよ! そして、だいちゃんが鬼ね!」

「ええー しょうがないなぁ……」

 

 大妖精はため息をつきながら、西行妖の幹に顔を伏せた。

 チルノとルーミアはその姿を見て走り出した。

 妖夢はそんな彼女らを見て頭を抱えた。

 

「ああー、もう! せっかく手入れした庭で暴れないで!」

 

 妖夢は、かくれんぼで隠れ場所を探し、走り回るチルノたちを追いかけようとした。

 そのとき、妖夢の背後にスキマが開き、紫が現れた。

 紫はチルノたちに目も向けず、妖夢に問うた。

 

「あら、妖夢。幽々子と悠子に会いにいったのではないの?」

 

 紫の問いに妖夢は即座に答えた。

 

「今は忙しいので後でお願いします!」

 

 そう言って、妖夢はせっかく手入れした桜の木を折ろうとするチルノを止めに走って行った。

 妖夢は完全に『真実を知るため悠子を斬る』ことを忘れているようであった。

 紫は扇子で口元の笑みを隠した。

 

「妖夢、やっぱりあなたは未熟者ね」

 

 そう呟いた紫は、スキマへと姿を消した。

 

 そんな幽霊で活気づいていた白玉楼は、突如現れた妖怪と妖精の登場で一段と華やかになった――――




 悠子と幽々子に退治されたはずの妖怪や妖精たちが次々と冥界へと送られ、そして能力を失う…… 悠子の能力とは何なのか? これから徐々に明らかになっていきます。
 次回から萃夢想編です。楽しみにしていてください。
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