天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第13話『神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第13話『神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この泥棒猫の娘が!!」

 

そう言う女性………デュノア社・社長の本妻の罵声と共に、シャルロットが平手打ちを喰らって殴り飛ばされる。

 

「…………」

 

その傍では、デュノア社の社長………シャルロットの父親がモノを見る様な目で見下ろしていた。

 

(ああ………またこの夢か………)

 

殴り飛ばされたシャルロットはそう思う。

 

これは何時も見ている夢だと………

 

デュノア家に引き取られた時の事………

 

シャルロットは時たま、この時の事を悪夢として夢に見る。

 

最初は苦しんでいたシャルロットだったが、何時しかただの夢だと割り切り、夢から覚めるまで只管耐えると言う諦めにも似た対応を取る様になっていた………

 

「立ちなさい! こんなものじゃ済まされないわよ!!」

 

本妻がシャルロットを無理矢理立たせて、再び引っ叩こうとする。

 

「…………」

 

シャルロットはただ無抵抗に立ち上がらせられる………

 

 

 

 

 

と、その瞬間!!

 

 

 

 

 

「俺を誰だと思ってやがるキイイイイイイィィィィィィィックッ!!」

 

突如現れた神谷が、本妻に飛び蹴りを噛ました!!

 

「キャアアッ!?」

 

漫画の様にブッ飛んで行く本妻。

 

「えええっ!?」

 

突然様変わりした夢の様子に、シャルロットは驚きの声を挙げる。

 

「よくも俺の可愛いシャルロットをパアアアアアアァァァァァァァァンチッ!!」

 

「うおわぁっ!?」

 

神谷は続いて、社長を殴り飛ばした。

 

社長も夫人と同じく、漫画の様にブッ飛んで行く。

 

「か、神谷!?」

 

戸惑いながらも、シャルロットは神谷へと声を掛ける。

 

「シャルロット! お前はグレン団の一員だ!! 俺が面倒を見る!! 俺はお前の為に生命を張る!! だから、お前の生命は俺が預かる!!」

 

神谷はそんなシャルロットに向かって、笑顔でそう言う。

 

「神谷………」

 

「行くぜ! 俺達グレン団の伝説の幕開けだ!!」

 

と、神谷がそう宣言した瞬間………

 

その背後に、グレン団のマークの入った旗がはためいた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

シャルロットとラウラの部屋………

 

「はわっ!?」

 

そこでシャルロットの目が覚め、朝日の差し込む自室の天井が視界に入る。

 

「…………」

 

少々呆然となりながらも、ベッドの上で身を起こすシャルロット。

 

「………ハア~~………変な夢見ちゃったな~」

 

やがてそう呟きながら溜息を吐いた。

 

「でも………」

 

とそこで、グレン団のマークが入った旗をバックにポーズと笑顔を決めている神谷の姿を思い出す。

 

「………良い夢だったな」

 

夢の内容を思い出して、シャルロットはうっとりとする。

 

「うふふふ、でも夢の中まであんな調子だなんて………まあ、神谷らしいか」

 

そこでシャルロットは、隣のベッドに居る筈の同室になったラウラを見遣る。

 

「アレ? 居ない?」

 

しかし、そこにラウラの姿は無く、使われていないと思われるベッドだけが在った。

 

「何処行ったんだろ?………まあ、良いや」

 

ベッドから降りると、シャルロットは着替えを始める。

 

本日は休日であるが、臨海学校が近くに迫っており………

 

水着を持っていなかったシャルロットは、神谷に付き添ってもらって、買い物に出掛ける予定なのだ。

 

所謂、デートである。

 

(えへへ………断られたら如何しようかと思ったけど………勇気を出して誘ってみてよかったぁ………)

 

昨晩、神谷を誘った時の事を思い出し、またも赤面するシャルロットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同寮内・一夏と神谷の部屋………

 

シャルロットが女子である事が露見した事件後………

 

またも一夏の部屋割りが組み直され………

 

晴れて神谷と同室となった。

 

結局のところ、コレが無難な組み合わせであり、尚且つ問題が出ないからだ。

 

「う………う~~ん………」

 

と、寝ていた一夏が、何か違和感を感じて目を覚ます。

 

そして………

 

自分に密着している何者かの存在に気づく。

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

一夏は慌てて飛び起きる。

 

そして、すぐさま掛け布団を翻して、何者かの存在を確かめる。

 

「う~~ん」

 

それはまるで猫の様に丸まって、気持ち良さそうに寝ているラウラの姿だった。

 

更に………

 

何故かラウラは全裸であり、身に着けているのは眼帯と待機状態のISだけである。

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は絶叫を挙げる。

 

「う~~ん………何だ………もう朝か?」

 

その声でラウラも目を覚まし、寝ぼけ眼を擦りながら、ベッドの上に座り込む様に起き上がる。

 

「何時の間に入って来たんだ!?」

 

と、一夏がそう尋ねた瞬間………

 

ラウラの身体に掛かっていた掛布団が落ち、ラウラのあられもない姿が露わになる。

 

「!? うわぁっ!? 馬鹿馬鹿! 隠せぇっ!!」

 

「夫婦とは互いに包み隠さぬものだと聞いたぞ」

 

慌てて手で顔を覆い、そう言う一夏だったが、ラウラは意にも介さない。

 

「ましてやお前は、私の嫁………」

 

「な、何なんだよ! この間から!!」

 

「日本では気に行った相手を、『俺の嫁』とか『自分の嫁』とか言うそうだが………」

 

「お前に間違った知識を吹き込んでいる奴は誰なんだ!?」

 

そう言って、ラウラを右手で指差す一夏だったが、その瞬間にラウラにその手を取られ、腕挫十字固めを掛けられた。

 

「!? イデデデデデデデッ!?」

 

「お前はもう少し、寝技の訓練をすべきだな」

 

「つ、つええ………ア、アニキ! 助けてぇ!!」

 

思わず隣のベッドで寝ている神谷に助けを求める一夏だったが………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~………」

 

神谷はベッドの上に下半身だけを乗せて、上半身を床に着けている上下逆さまと言う凄い姿勢で気持ち良さそうに寝ている。

 

大分寝相が悪い様だ。

 

「あ、アニキーッ!!」

 

「寝技を磨きたいと言うなら、わ、私が相手になってやらんでもないぞ」

 

一夏の悲痛な叫びも届かず、神谷は爆睡を続け、ラウラは照れながら一夏にそう言う。

 

「何故そこで赤くなる!?」

 

一夏はそう叫んで、如何にかラウラから逃げ出そうとする。

 

しかし、そこで………

 

更に状況を悪化させる出来事が起こる。

 

「私だ、一夏! 朝稽古を始めるぞ!!」

 

部屋のドアがノックされたかと思うと、箒のそう言う声が響き渡り、返事も待たずにドアが開いた。

 

「日曜だからと言って、弛んではイカ………」

 

そう言いながらズカズカと入って来た道着姿で竹刀を携えた箒は、ベッドの上で組み合っている一夏とラウラの姿を目撃する。

 

「んなあっ!?」

 

「あっ!?」

 

「うん?」

 

3人ともそのまま固まる。

 

「…………」

 

箒の手から、持っていた竹刀が落ちる。

 

「不作法な奴だな。夫婦の寝室に」

 

「夫婦~っ!?」

 

ラウラの一言を聞いた途端、箒の身体から赤いオーラが立ち上り始める。

 

「待て箒! これは誤解………」

 

「天誅~~~~~~~っ!!」

 

一夏の言い訳も聞かず、箒は竹刀を拾い直すと、一夏に斬り掛かった!!

 

「!?」

 

その瞬間!!

 

「!? うわっ!?」

 

一夏は信じられない力でラウラの拘束から逃れ、ベッドの上を転がって箒の1撃を躱す!

 

「!? 何っ!?」

 

「うわああっ!?」

 

躱されるとは思っていなかった箒が驚きで固まっている間に、一夏はその背後を擦り抜け、部屋の外へと脱出する!

 

「!? 待て! 一夏!!」

 

「コラ! 嫁を置いて何処へ行く!?」

 

箒とラウラがすぐさま後を追う。

 

ラウラが全裸のままだった為、一夏が逃げた先からは奇妙な悲鳴が挙がっていた。

 

「………今のって、箒とラウラだよね? また一夏絡みかな?」

 

と、その2人と入れ違いになる様に、シャルロットが一夏と神谷の部屋を訪れた。

 

「神谷、起きてる?」

 

開け放たれたままだった扉をノックするシャルロット。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~」

 

返事の代わりに、部屋の奥からイビキが聞こえて来た。

 

「あ、まだ寝てるんだ………神谷、入るね」

 

シャルロットはそう言うと、部屋の中へと入る。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~」

 

そして、凄い格好で寝ている神谷の姿を発見する。

 

「うわっ、酷い寝相………神谷。神谷。起きてよ、神谷」

 

その寝相に呆れながらも、神谷の傍に寄ると、その身体を揺さぶる。

 

「んが………んがんぐ………」

 

反応した神谷だったが、まだ目は覚ましていない。

 

「神谷。今日は買い物に行くって約束でしょ。起きてよ」

 

シャルロットはそれを見て、今度はやや強く揺さぶる。

 

すると………

 

「んん~~~………出やがったなぁ………獣人にガンメン野郎~」

 

神谷がそんな寝言を呟いたかと思うと、突如自分の身体を揺さぶっていたシャルロットの手を摑み、自分の方へ引き倒した。

 

「うわっ!?」

 

そしてそのまま、抱き締めるかの様に拘束する。

 

「えっ!? ちょっ!?」

 

「喰らえ~~………グレンラガン・ブリーカー………」

 

そしてそのまま、ベアハッグを掛ける神谷。

 

しかし、寝惚けているので、力が余り籠っておらず、精々少し強めに抱き締めている様な状態となる。

 

「ちょっ!? 神谷!! 寝ボケてないで起きてよぉ!!」

 

慌てて離れようとするシャルロットだが、ガッチリ捕まっている為、離れられない。

 

「一夏~! 居る~~!!」

 

「一夏さ~ん! 今日のご予定はどうなっていますか~?」

 

するとそこへ………

 

一夏をデートに誘いに来た鈴とセシリアが現れる。

 

「あっ!?」

 

「「えっ!?」」

 

開け放たれたままの扉から、お互いの姿を見て固まるシャルロットに、鈴とセシリア。

 

神谷は現在ズボンは履いているが、上半身は晒だけしか巻かれておらず、半裸の状態である。

 

そしてシャルロットの方も、神谷から逃れようとしている内に、着衣が少し乱れていた。

 

十中八九、誤解される光景である。

 

「「し、失礼しました~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアは真っ赤になってそう言うと、一瞬にしてその場を去って行く。

 

「ちょっ!? 待って、2人共!! 違うよ~~~っ!!」

 

シャルロットが慌ててそう叫ぶが、既に2人には届いていなかった。

 

「ハハハハ………参ったかぁ?………獣人野郎~………」

 

そしてそんな喧噪があってもなお、神谷はまだ夢の世界に居る。

 

「神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

堪忍袋の緒が切れた様に、シャルロットは如何にか片腕を自由にすると、神谷のにやけた顔目掛けて、平手を振り下ろした!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

神谷とシャルロットは、目的地であるショッピングモール『レゾナンス』へ向かうモノレールの中に居た。

 

「おかしいな………何か起きてから妙に顔がヒリヒリすんだよなぁ………」

 

顔に薄らと紅葉を浮かべている神谷が、不思議そうにそう呟く。

 

「気のせいじゃないの?」

 

そんな神谷に不機嫌そうな様子でそう言うシャルロット。

 

「………何でお前はそんなに不機嫌なんだ?」

 

「………知らない!」

 

シャルロットはそう言ってそっぽを向く。

 

「?? 益々分からねえぜ………」

 

神谷は首を傾げるしかなかった。

 

(もう! 神谷ってば………でも………やっぱり神谷って男の子なんだなぁ………力は有るし、胸板なんて逞しかったし………)

 

と、そこでシャルロットは、神谷に抱き締められた時の感触を思い出す。

 

(って!? うわあああっ!? 何考えてるの、僕は!?)

 

慌てて手をバタバタとさせて、その感触を振り払う様にする。

 

「ところでよぉ、『シャル』」

 

するとそこで、何の前触れも無く、神谷がシャルロットの事をそう呼んで来た。

 

「うええっ!? シャ、シャル!?」

 

「? 何驚いてんだよ?」

 

珍妙な声を挙げて驚いた様子を示しているシャルロットに、神谷はそう言う。

 

「え、えっと………そ、その『シャル』って………僕の事?」

 

「おうよ、シャルルだか、シャルロットだか紛らわしくて覚えられねえからな。ならいっそシャルで良いだろうと思ってな。これからそう呼ぶぞ」

 

「う、うん! 分かったよ!」

 

シャルロット改めシャルは、嬉しそうな様子を隠そうともせずにそう返事をした。

 

(シャル………シャルかぁ………うふふ………コレって………ちょっとは特別な存在って事だよね)

 

現在シャルの頭の中はお花畑状態であり、小人さんの様なシャルが数人で踊っている状態である。

 

「オイ、シャル?」

 

「えへへへへ………」

 

神谷が声を掛けているのにも気づかず、シャルはそのまま緩み切った笑顔を浮かべていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして………

 

モノレールは目的のショッピングモールがある駅に到着した。

 

休日だけあって、駅内も人で混雑していた。

 

「わあ、凄い人………」

 

「オイ、シャル」

 

その人波の様子に、シャルが驚いていると、神谷が声を掛けて来た。

 

「ん」

 

見ると、神谷が左手をポケットに入れ、肘を付き出す様なポーズを取っていた。

 

「えっ!? え~と………」

 

「何やってんだ? 早く来いよ」

 

そのポーズの意味を理解したシャルが、一瞬戸惑ったが、神谷が催促をする。

 

「! う、うん」

 

シャルは恥ずかしそうにしながらも、神谷の手をポケットに入れたままの腕に抱き付いた。

 

所謂、腕組みというやつである。

 

「この辺はまだ慣れてねえだろ。逸れると面倒だからな」

 

「神谷は来た事あるの?」

 

「ああ、授業がつまんねぇ日なんかに、学校を抜け出してな」

 

「………アハハハ、神谷らしいね」

 

あっけらかんと言う神谷に少々呆れた様な笑みを浮かべるシャル。

 

2人はそのまま腕組みをした状態でショッピングモールを目指して行く。

 

尚、混雑していた人波は………

 

神谷の異様な風体を見ると、まるでモーゼの十戒の様に割れて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま2人は目的地であるショッピングモール『レゾナンス』へと辿り着いた………

 

「わああ~~~~」

 

シャルはレゾナンスの様子に目を輝かせている。

 

「………ん?」

 

すると、不意に神谷が足を止めた。

 

「? 如何したの、神谷?」

 

「アレ、一夏じゃねえのか? それにアイツ等は………」

 

「えっ?」

 

神谷がそう言ったの聞いて、シャルは神谷の視線の先を見遣る。

 

そこには、見知らぬ赤髪の少女と話している一夏の姿が在った。

 

更にその傍には、赤髪の少女と似ている一夏と同じくらいの少年の姿も在る。

 

「あ、ホントだ。でも、あっちの人達は?」

 

「よう、弾! 久しぶりだな! 蘭も元気だったか!?」

 

シャルがそう言っている間に、神谷はその輪の中へと入って行く。

 

「あ、アニキ!」

 

「!? アニキ!? 神谷のアニキじゃないか!!」

 

「えっ!? 神谷さん!?」

 

一夏がそう言うと、赤毛の少年と赤毛の少女が、驚いた様子で神谷を見やった。

 

「神谷、知り合いなの?」

 

「ああ、五反田 弾とその妹の蘭。昔馴染みでグレン団の1員だ」

 

シャルに、神谷はその兄妹………五反田兄妹を紹介する。

 

「あ、どうも、初めまして。『五反田 蘭』と言います」

 

「『五反田 弾』です。一夏や神谷のアニキとは中学からの付き合いです」

 

「あ、どうも。シャルロット・デュノアです。よろしくね」

 

『五反田 蘭』、『五反田 弾』と挨拶を交わすシャル。

 

「って言うかアニキ。日本に帰ってたんなら言ってくれよぉ。この間一夏から聞いて驚いたんだぜ」

 

「いや、ワリィワリィ。色々とゴタゴタとしててよ」

 

弾の言葉に、神谷は頭を掻く。

 

「暇があったら顔出すぜ。お前んとこの定食も久しぶりに食いてえしな」

 

「ああ、是非来てくれよ。爺ちゃんも喜ぶからよ」

 

「んで? 蘭、オメェも相変わらず一夏にホの字………」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、神谷が蘭にそう言いかけた瞬間………

 

蘭の正拳突きが、神谷のボディに叩き込まれる!

 

「!? オイ、蘭!?」

 

「アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

突然拳を繰り出した蘭に驚く弾と、喰らった神谷を心配する一夏とシャル。

 

しかし………

 

「ハッハッハッ! 良いパンチだぜ!!」

 

蘭の拳は、神谷の腹筋で止められており、効いていなかった。

 

「さ、流石アニキ………」

 

「無茶するなぁ………」

 

その様子に、一夏は尊敬の眼差しを送り、シャルは呆れる様に呟く。

 

(ちょっ! 神谷さん! 本人の前でそんな事言わないで下さい!!)

 

拳の効果が無いと知ると、蘭は神谷にそう小声で言う。

 

(分かった、分かった………だがアイツを狙うんなら、いっそ正面からガツンッと言った方が良いぞ。只でさえ色んな奴のアプローチ受けて気づかずに居る奴だからな)

 

(えっ? 色んなって………やっぱり一夏さんモテるんですか!?)

 

(ああ、少なくても明確に好きだって連中が4人………あと男がアイツしか居ねえ事もあって殆どの女はアイツに注目してんな)

 

(うう、やっぱり………)

 

「如何したの?」

 

「何話してんだ?」

 

と、小声で話し合う2人の様子を怪訝に思ったシャルと一夏がそう尋ねて来る。

 

「!? い、いえ! 何でもありません!!」

 

「気にすんな」

 

慌てて誤魔化す蘭に対し、神谷は別に如何って事は無いと言う様に返事をする。

 

「? そうか?」

 

「…………」

 

不思議そうにしながらもそれ以上は追及しない一夏と、内緒にする神谷にちょっと不機嫌そうになるシャルだった。

 

「ところでよぉ、一夏。お前1人で来たのか?」

 

「いや、実はこの前の事(学年別トーナメントの約束)の事もあるから、箒を誘って来ようと思ったんだけど………今朝の一件で台無しになっちまって………」

 

困った顔をしてそう呟く。

 

「んじゃあ、セシリアでも鈴でも誘ってやらぁ良かったじゃねえか?」

 

「いや、アイツ等もう水着持ってるらしいし………」

 

(馬鹿野郎………)

 

相変わらずの唐変木っぷりに、神谷は頭を抱える。

 

その後、神谷は弾と少し昔話に花を咲かせた後、一夏とも別れて、シャルと共に買い物へと戻った。

 

なお、別れた一夏の後ろを、セシリア、鈴、ラウラが追っていたのが見えたが、敢えて見ないふりをしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レゾナンス・水着売り場………

 

「やっぱりコレだな………」

 

神谷はそう言って、『とある物』を手にする。

 

「すみませ~ん。コレください」

 

と、レジの方から聞こえた声に振り向くと、神谷と『同じ物』を購入している一夏の姿が在った。

 

「えっ!? ええと………コチラをですか?」

 

一夏が持って来た物を見て困惑するレジの女性店員。

 

「? 何ですか?」

 

それに一夏は、真顔でそう返す。

 

「い、いえ………お、お預かり致します………」

 

女性店員は恥ずかしそうにしながら、一夏が購入した物を包装し、代金を受け取る。

 

(へっ! 分かってるじゃねえ、一夏………男の水着はソレよ!!)

 

一夏が去った後、神谷もレジへ向かい、同じ物を購入する。

 

レジの女性店員は同じ様に恥ずかしそうにしていたが、すぐに包装し、代金を受け取った。

 

「うっし!」

 

「神谷。もう終わったの?」

 

とそこで、自分の水着を選んで居たシャルが現れる。

 

「ああ。オメェはもう決まったのか?」

 

「あ、ううん………ちょっとね………神谷に選んでほしいなぁって思って」

 

「? 俺に?」

 

シャルの言葉に、神谷は首を傾げる。

 

「う、うん………駄目かな?」

 

「別に悪かねえが………俺が如何こう言えるもんじゃねえと思うんだがなぁ」

 

「そ、そんな事ないよ! すっごく参考になるよ!」

 

「そうか? まあ、分かったよ」

 

「うん、じゃあ!」

 

とそこで、シャルは視界の端に、一夏を追うセシリアと鈴、ラウラの姿を捉えた!

 

「神谷! ちょっと来て………」

 

するとシャルはそう言うと、神谷の腕を取り、そのまま試着室へと連れ込んだ。

 

(一夏を追って来たんだよね?………どのみち、バレたらからかわれる………)

 

「? オイ、シャル? 何してんだ?」

 

カーテンの隙間からセシリア達の様子を見てそう考えているシャルに、神谷が声を掛ける。

 

「ほ、ほら、水着って実際に着てみないと分かんないし………ね?」

 

「は?」

 

「す、すぐ着替えるから待っててっ!」

 

そう言うと、シャルはいきなり上着を脱ぎ出す。

 

「!?」

 

神谷の顔が驚きで固まる。

 

(ううっ………勢いでこんな事しちゃったけど、どうしよう………)

 

一方、シャルもシャルで、上着を脱いだ所で手が止まってしまう。

 

「オイ、シャル………」

 

「うえっ!? な、何、神………」

 

と、シャルがそこまで言うと、神谷がシャルが背にしている試着室の壁に手を付いて、ズイッと顔を近づけた。

 

壁ドンである。

 

「!?!?」

 

「………誘ってんのか?」

 

そのまま悪そうな笑みでシャルにそう言う神谷。

 

「!? うえええっ!? えっと、その………」

 

その言葉の意味を理解したシャルの脳は一瞬で沸騰し、呂律が回らなくなる。

 

「………フッ、冗談だよ………早く着替えちまえよ」

 

と、そんなシャルの様子を見ると、神谷はそう言って近づけていた顔を離し、後ろを向いた。

 

「…………」

 

そんな神谷の姿に、シャルは一瞬呆気を取られる。

 

(神谷って紳士なのか、エッチなのか、分かんない時があるなぁ………)

 

そんな事を思いながら、幾分が緊張が解けたシャルは、着替えを続ける。

 

(………保つか?………理性………)

 

だが、神谷は背後から聞こえる布が擦れる音で、そんな事を思っている………

 

やはりスケベだ。

 

「もう、良いよ………」

 

と、そこで背後からそう声が聞こえた。

 

「!?」

 

少し驚きながらも振り向くと、そこには………

 

太陽を思わせるイエローの、セパレートとワンピースの中間に位置し、分離している上下を背中でクロスさせて繋げている水着を着たシャルの姿が在った。

 

「ほう………」

 

その姿に、神谷は思わず顎に手を当てて唸る。

 

「変………かな?」

 

「いやあ、中々グッとくる水着じゃねえか」

 

恥ずかしそうに聞いてくるシャルに、神谷は顎に手を当てたままそう答えた。

 

「そ、そう? じゃあ、コレにするね」

 

と、その時………

 

「お客様?」

 

「うえっ!?」

 

「あん?」

 

突如試着室の外から店員の声がして、シャルと神谷は思わず声を挙げてしまう。

 

「………今の声」

 

すると、今度は聞き覚えのある声が響く。

 

そして、試着室のカーテンが開け放たれる。

 

そこには店員を連れた千冬と真耶の姿が在った。

 

「うわぁっ!?」

 

千冬の姿を見て、シャルは思わず悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「て、て、て、天上くん!? デュノアさん!?」

 

「何をしている、馬鹿者共」

 

顔を真っ赤にしている真耶と、呆れ顔の千冬。

 

(マ、マズイよ! このままじゃお説教コース………)

 

と、シャルがそう思った瞬間………

 

「行くぞ! シャル!!」

 

「えっ!?………うわぁっ!?」

 

神谷がそう言ったかと思うと、水着姿のままのシャルをお姫様抱っこで抱き上げ、拾っておいた元の服をその腹の上に乗せる。

 

そして膝を軽く曲げたかと思うと跳躍し、千冬達の頭上を飛び越える!!

 

「ふえっ!?」

 

「!? しまった!!」

 

千冬達が慌てて後ろを振り向いた瞬間には、神谷は駆け出していた。

 

「お、お金! 此処に置きます!!」

 

その途中でレジの前を通過した際、シャルが水着の代金を投げ置く。

 

「神谷! 逃げ切れると思っているのか!?」

 

と、千冬がもの凄いスピードで追って来て、2人を捕まえようとする。

 

「逃げるんじゃねえ! 明日に向かうだけだ!!」

 

しかし、それに神谷が不敵に笑いながらそう返したかと思うと………

 

その姿が緑色の光に包まれ、グレンラガンへ変わった。

 

「うええっ!?」

 

「!? 何っ!?」

 

そしてグレンウイングを展開したかと思うと、ブースターを噴射し、そのまま飛行する。

 

「うわっ!? 神谷ぁ!! 貴様ぁ!!」

 

「ハハハハハッ! アバヨ~、とっつぁ~ん!!」

 

「誰がとっつぁんだ!?」

 

まるで三代目の大泥棒の様な捨て台詞を残し、グレンラガンとなった神谷はシャルを抱き抱えたまま、レゾナンスから文字通り飛び出して行った!!

 

後日、この1件で………

 

千冬がまた始末書を書く事になったのは言うまでも無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、少しして………

 

「此処までくりゃあ、もうだいじょぶだろ」

 

レゾナンスから大分離れた街並みが見下ろせる丘の上に降り立つグレンラガン。

 

辺りはすっかり、夕暮れになっていた。

 

「もう~、神谷、やり過ぎだよぉ。後で怒られるよ」

 

グレンラガンの腕の中から降りると、シャルは来ていた服を抱えながらそう言う。

 

「そん時はそん時だ!」

 

そう言って、グレンラガンの姿から戻ると、神谷は呵々大笑と笑う。

 

「はあ~、全く………」

 

「それよりシャル。早く着替えちまえよ」

 

「えっ?………!? うわぁっ!?」

 

と、神谷に指摘されて、シャルは自分が水着姿のままの事を思い出す。

 

慌てて、近くにあった茂みの中へ逃げ込む。

 

「の、覗かないでよ………」

 

「そう言われると覗きたくなるのが男の性………」

 

「駄目だって!!」

 

堂々と覗きに行こうとする神谷を、シャルは押し留める。

 

「ヘイヘイ、分かったよ………」

 

若干残念そうにしながら、神谷はシャルが居る茂みから離れる。

 

「もう~~」

 

愚痴る様にそう呟きながら、いそいそと着替えを済ますシャルだった。

 

「終わったか?」

 

「うん………」

 

少しして神谷が声を掛けると、着替え終わったシャルが茂みから出て来る。

 

「ホント………神谷と居ると、いつも凄い事が起きるよね」

 

神谷の隣に並び立つと、シャルはそう言って来る。

 

「良い事じゃねえか。刺激のねえ人生なんざ、退屈なだけだぜ」

 

「アハハ、刺激が在り過ぎても疲れそうだけど………」

 

シャルは苦笑いしながらそう言う。

 

「おっと、そうだ………」

 

と、そこで神谷が、マントの内側をゴソゴソとし出した。

 

「? 如何したの?」

 

「え~と………お! 有った、有った!」

 

少しマントの中をゴソゴソとしていた神谷だったが、やがて綺麗にラッピングされた小箱を取り出す。

 

「ホラよ、シャル。やるよ」

 

「うわっ、と!?」

 

神谷はその小箱をシャルに投げ渡す。

 

「コ、コレ、ひょっとして!?………プレゼント!?」

 

「まあそんなもんだ」

 

腕組みをしながらそう言う神谷。

 

実はこの小箱………

 

弾が去り際にコッソリと神谷に渡してきたの物である。

 

(アニキ! 可愛い彼女にはプレゼントの1つもあげないといけませんよ! コレ良かったら、どうぞ! ダチに頼まれて買ったんスけど、生憎フラれたみたいで………)

 

(弾の奴………気い遣わせちまったか?)

 

今度弾に会った時にお礼をしなければと神谷が思っていると………

 

「あ、開けても良いかな?」

 

「ああ、良いぞ」

 

シャルがそう言って、小箱の包装を解く。

 

中から出て来たのは、銀色のブレスレットだった。

 

「うわあ~~!」

 

感激しながらそのブレスレットを取り出すシャル。

 

銀色のブレスレットが夕日の光を反射し、金色に輝く。

 

「わあ~~」

 

その様にまたも感激しながら、シャルはブレスレットを左手首に填めた。

 

「ありがとう、神谷………大切にするね」

 

シャルは眩い笑顔を浮かべて、神谷にお礼を言う。

 

その頬が赤いのは夕日に染まっているからではない………

 

「気に入ったんなら良かったぜ………さて、そろそろ帰るか」

 

照れ隠しか、少々素っ気なく言うと歩き出す神谷。

 

「あ、待ってよ!」

 

それを追って走り出したかと思うと、シャルは神谷の左腕に抱き付く。

 

「へっ………」

 

神谷はそんなシャルを見て、フッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人はそのまま………

 

夕暮れの中を………

 

腕を組んで帰って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

臨海学校前の神谷とシャルのデート模様をお伝えしました。
ラブコメは楽しいですねぇ(真理)

次回から序盤の山場、臨海学校編に突入します。
最初はギャグ話となりますが、銀の福音戦はかなりの激戦になるかと。
更にスペシャルゲストも登場しますのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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