天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第14話『俺たちゃ無敵のグレン団よ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第14話『俺たちゃ無敵のグレン団よ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海っ! 見えたぁっ!!」

 

トンネルを抜けたバスの中でクラスの生徒達が声を挙げる。

 

臨海学校初日………

 

天候にも恵まれ、無事快晴。

 

窓の外に見える海は太陽光を反射して煌めいており、窓を開けると潮の香りが漂って来た。

 

「やっぱ海ってのは良いぜ。いつもデッカくってよぉ」

 

「う、うん? そうだねっ」

 

神谷がそう言うと、隣に座って居たシャルが若干気の無い返事を返す。

 

「んだよ? そんなに気に入ったのか?」

 

「えっ!? あ、うん………ま、まあ、ね。えへへ………」

 

先程からシャルの視線は自分の左手首………神谷がプレゼントしたブレスレットに注がれている。

 

「えへへへ」

 

再びブレスレットに視線を注ぎ、シャルは夢見心地と言った様子になる。

 

(こうなると、貰いもんだってのが後ろめてぇなぁ………)

 

そんなシャルの様子を見て、神谷は若干申し訳無さを感じる。

 

一方、一夏は………

 

早くも彼のラヴァーズの争奪戦に巻き込まれていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから程なくして………

 

バスは目的地である旅館………

 

『くろがね屋』へと辿り着いた。

 

4台のバスから降りた生徒達が整列すると………

 

「いらっしゃいませ~」

 

『歓迎 くろがね屋』と言う文字が掛かれた垂れ幕を持った幽鬼の如き長身をポンチョとソンブレロで包んだ男………『ジャンゴ』

 

「ようこそ、くろがね屋へ」

 

顔面に十字の縫い傷がある禿頭の巨漢………『クロス』

 

「IS学園さん御一行、ご案な~い」

 

ティアドロップ型の黄色いサングラスを掛けたヤ○ザ風な男………『イタチの安』

 

「まあまあ、遠い所からようこそ」

 

短躯の老女………『菊ノ助』

 

「…………」

 

板長姿の無口な男………『先生』

 

「ようこそ、くろがね屋へ。私、当旅館の女将の『錦織 つばさ』です」

 

そして最後に、くろがね屋の七代目女将………『錦織 つばさ』が挨拶をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

明らかにカタギには見えない旅館の従業員達の姿を見て、生徒達は沈黙する。

 

(あ、あの………織斑先生?)

 

(何も言うな、山田くん………私もまさかこんな宿だったとは………)

 

と、真耶と千冬が小声でそう話し合っていると………

 

「お久しぶりね、女将さん」

 

リーロンが女将のつばさにそう挨拶を送った。

 

「ああ、久しぶりだね、リーロン。相変わらず男だか女だかハッキリしないね」

 

つばさはリーロンにそんな言葉を返す。

 

「良いじゃない別に~。些細な問題だし」

 

「ふふふ、確かにね………」

 

((((((((((いや、全然些細じゃないんですけど!?))))))))))

 

口には出さず、心の中でそうツッコむ生徒達。

 

(何故こんな事に………)

 

頭痛を感じ、千冬は頭を押さえる。

 

当初、臨海学校で泊まる旅館は、IS学園が毎年利用していた旅館を使う積りであったのだが………

 

その旅館はロージェノム軍の世界征服作戦の影響で客足が遠のき、現在営業休止状態になっていたのである。

 

近場の他の宿も同じ様な状態であり、如何したものかと悩んでいたところ………

 

リーロンから馴染みの秘密旅館を紹介され、止むを得ずそこに宿泊する事を決定したのである。

 

(ちょ~っと授業員が変わってるけど、温泉も有って、料理は美味しいし、良い旅館よ)

 

(アレが『ちょっと変わってる』ってレベルか?)

 

明らかに普通ではない、くろがね屋の従業員の姿を見てそう思う千冬。

 

「………んで? そいつ等がグレンラガンを操る男と、世界で唯一ISを使える男かい?」

 

と、そこでつばさが、神谷と一夏の姿を見てそう言った。

 

「ええ、そうよ」

 

「天上 神谷と! その弟分、織斑 一夏だ! 覚えておきな!!」

 

「よ、よろしくお願いします………」

 

強面の従業員達を前にしても、物怖じせずにそう言い放つ神谷に対し、一夏は逆に思いっきりビビっている。

 

「ふふふ………威勢が良い様だね………気に入ったよ」

 

そんな神谷の姿を見て、つばさは不敵に笑う。

 

「さて………それじゃあ皆さん。お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられる様になっていますから、そちらをご利用なさって下さいな。場所が分からなければ、何時でも従業員に聞いて下さいまし」

 

接客モードへ戻り、生徒達にそう言うつばさ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

生徒達は未だに従業員達を見たショックから立ち直れず、無言のままに其々の班ごとに部屋へと向かい出す。

 

「一夏! さっさと着替えて海へ行くぜ!!」

 

「お、おう!」

 

初日は終日自由時間となっており、2人はすぐにでも海へ行きたい気持ちでいっぱいだった。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~、かみや~ん」

 

「えっ?」

 

「おう、何だ?のほほん」

 

と、そんな2人に異様に遅いスピードを近寄って来てそう尋ねて来る袖丈が異常に長い制服のクラスメイトの『布仏 本音』、神谷曰く『のほほん』。

 

数少ない、神谷と普通に接している生徒である。

 

「おりむーとかみやんの部屋何処~? 一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて~」

 

「いや、俺も知らない。廊下にでも寝るんじゃねえの?」

 

「俺は断然屋根の上だな! 星空を眺めながら寝るのは気持ち良いぞ~!」

 

「わ~~、私もそれが良いな~」

 

「オイ、男子共」

 

と、神谷と一夏が、のほほんとそう話していると、千冬が声を掛けて来た。

 

「お前達の部屋はコッチだ。付いて来い」

 

「あ、ハイ………じゃあ、また後で」

 

「またな」

 

「バイバ~イ」

 

袖を振りながら神谷と一夏を見送るのほほん。

 

そのまま2人は千冬に付いて行くと………

 

「此処だ」

 

千冬は、教員室と書かれた張り紙がしてある部屋の前で立ち止まり、そう言う。

 

「え? 此処って………」

 

「んだよ、ブラコンアネキ。女共から一夏を取り上げて1人占めか? 相変わらずのブラコンだな~」

 

「…………最初は個室という意見も有ったが、絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけてくるだろうという事と、神谷………お前は目を離すと何をし出すか分からないからこうなったんだ」

 

若干怒りを帯びた口調でそう言う千冬だったが、神谷は意にも介していない。

 

「ま、んな事がどうでも良い。一夏! 海行くぞ!!」

 

「合点だ、アニキ!!」

 

そして、ズカズカと教員室に入り込むと荷物を置き、海水浴用の荷物だけを持ち出して、別館へと向かって行く。

 

「………アイツ等………!? イツツツツツツツッ!! く、薬………」

 

そんな2人の姿を見た千冬は最早持病となった神経性胃炎に襲われ、バッグから薬を取り出すと、慌てて飲み干すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別館へと向かっていた一夏と神谷は、その途中で箒と合流した。

 

そして改めて別館を目指していたのだが………

 

その途中の渡り廊下から見える庭で、『ある物』を見つける。

 

その『ある物』とは………

 

『地面から生えているウサミミ』だった。

 

しかも御丁寧に『引っ張って下さい』と書かれた看板まで建てられている。

 

「久しぶりだな、このパターンも」

 

神谷は、そのウサミミを見て、懐かしそうな顔をしてそう呟く。

 

「なあ、コレって………」

 

「知らん、私に訊くな。関係ない」

 

一夏は箒に向かって何か言おうとしたが、箒は突っ慳貪にそう返し、そのままスタスタと行ってしまった。

 

「あ、箒………」

 

「何だ? アイツ姉貴と喧嘩でもしたのか?」

 

その様を見た神谷が、一夏にそう尋ねる。

 

「うん………如何もそうみたいなんだ。詳しい原因までは分からないけど」

 

「そうか………まっ、アイツ等の事だ。すぐにでも仲直りすんだろ!」

 

そう言って神谷は笑い飛ばす。

 

「ハハハハ………それじゃあ、抜いてみるね」

 

一夏はそんな神谷を見て苦笑いすると、地面から生えていたウサミミを引っこ抜こうとする。

 

「待て、一夏。それじゃまどろっこしいだろ」

 

「えっ?」

 

神谷の言葉に一夏が振り返ると、そこには………

 

グレンラガンの姿となり、右手をドリルにして回転させている神谷の姿が在った。

 

「ええっ!?」

 

「退いてろ、一夏!!」

 

驚く一夏にそう言い、グレンラガンは右手のドリルを振り被る。

 

「!? うわぁっ!?」

 

逃げる様に飛び退く一夏。

 

そして次の瞬間には、グレンラガンのドリルが、ウサミミが生えていた地面に突き刺さった!!

 

土が凄い勢いで巻き上げられる。

 

「ちょっ! アニキ! ストップ! ストップ!!」

 

「………ん?」

 

一夏が止めると、神谷も違和感を感じてドリルを止めた。

 

ウサミミが生えていた地面は大きく抉られているが、何かが埋まっていた様子は無い………

 

「ア、アレ?」

 

「んだ?」

 

「一夏さん? 神谷さん? 何をなさっているんですか?」

 

首を傾げている一夏と神谷に、声を掛ける人物が居た。

 

海水浴用の道具を携えたセシリアである。

 

「おう、セシリア」

 

「いや、束さんが………」

 

神谷が挨拶をし、一夏が答えようとしたところ………

 

上空から、何かが高速で降って来た!!

 

「えっ!?」

 

「な、何ですの!?」

 

慌てる一夏とセシリア。

 

落下して来る物体は、2人への直撃コースを取っている。

 

「うわぁっ!?」

 

「キャアッ!!」

 

「チイッ!!」

 

すると、グレンラガンが2人を守る様に立ちはだかる。

 

そして………

 

「グレン! ホオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーームランッ!!」

 

何処からか取り出したバットで、落下して来た物体………

 

巨大な機械仕掛けの人参をホームランした!!

 

[きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?]

 

巨大な機械仕掛けの人参は、女性のものと思われる悲鳴を響かせながら、空の彼方へ帰って行く………

 

「お~、飛んだ飛んだ」

 

「って言うか、大丈夫かな? 束さん?」

 

「あの女が、この程度でくたばるタマかよ?」

 

「………それもそうだね」

 

飛んで行った巨大な機械仕掛けの人参を見上げながらそう言い合う神谷と一夏。

 

「………一体全体何ですの?」

 

セシリアは状況に付いて行けず、そう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸………

 

水着姿のIS学園生徒達が、思い思いに燥いでいる。

 

まさに男から見れば、今この海岸はパラダイスで有った。

 

「ねえ、一夏見なかった?」

 

と、そんなパラダイスビーチの中で、一夏の姿を探している鈴。

 

「ううん。見てないけど………」

 

「そう言えば天上くんも居ないね?」

 

「一緒にビーチバレーしようと思ったのに………」

 

鈴の言葉で、一夏と神谷の姿がビーチに無い事に気づく生徒達。

 

「全く………何処で油売ってんのよ?アイツ」

 

「ホントですわ。折角サンオイルを塗ってもらう予定でしたのに………」

 

ビーチパラソルの下に敷いたビニールシートの上に寝そべっていたセシリアがそう愚痴る。

 

「………それならアタシが塗ってあげるわよ。それそれ!!」

 

と、そんな良い思いはさせないと言う様に、鈴がセシリアのサンオイルを引っ手繰ると、そのまま寝そべっていたセシリアの背に塗り出す。

 

「キャアッ!? つ、冷たい! や、止めて下さい! 鈴さん!!」

 

冷たいサンオイルを塗られて、セシリアは悲鳴を挙げる。

 

「あ、鈴にセシリア。此処に居たんだ」

 

とそこで、2人の姿を見つけたシャルがそう言いながら近寄って来た。

 

「あ、シャルロット………!? うえっ!?」

 

「シャルロットさん?………!? キャアッ!?」

 

シャルの方を見て悲鳴を挙げる鈴とセシリア。

 

何故ならその隣に………

 

「…………」

 

全身バスタオルに包まった、ミイラの様な人物が居たからだ。

 

「だ、誰よ、アンタ!?」

 

鈴がその人物に向かってそう尋ねる。

 

「ホラ、大丈夫だよ」

 

シャルはその人物の肩を摑んで、揺さぶりながらそう言う。

 

「だ、大丈夫か如何かは私が決める………」

 

「!? その声………ラウラさんですの!?」

 

その人物から聞こえた声が、ラウラのものであると気づき、セシリアは驚く。

 

「アンタ………何珍妙な格好してんのよ?」

 

「それがね………一夏に水着姿を見られるのが恥ずかしいんだって」

 

「! シャル!! 私は別に、その様な事は………」

 

アッサリとネタばらししたシャルに、ラウラが抗議の声を挙げると………

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

突如、ビーチに居た生徒達から、黄色い悲鳴が挙がった。

 

何事かとシャル達が視線を遣ると、そこには………

 

黒い水着に身を包んだ千冬が、悠然と佇んでいる姿が在った。

 

傍には同じく、水着姿の真耶の姿も在る。

 

「織斑先生、モデルみたい~」

 

「カッコイイ~~」

 

羨望の眼差しが、千冬へと注がれる。

 

「お前達………天上と織斑を見なかったか?」

 

と、集まって来た生徒に向かって、千冬はそう尋ねる。

 

「えっ? いえ、見てませんけど………」

 

「おかしいですね? 誰よりも先に出て行ったと思ったのですが………」

 

「全く………アイツ等、一体何処に……?」

 

真耶の言葉に、千冬がそう言いかけた時………

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

またも生徒達から悲鳴が挙がる。

 

しかし、今度の悲鳴は千冬の時の黄色いものではなく………

 

心底の恐怖から出ている悲鳴だった。

 

「!? 何だ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その悲鳴を聞いた千冬とシャル達が悲鳴が挙がった方向を見やる。

 

するとそこには………

 

「荒ぶる怒涛が圧し掛かろうと! ドンと踏みしめ両の足!!」

 

「焼け付く砂に足裏が真っ赤っ赤に燃えようと!!」

 

「「ビーサン無用の漢の意地よっ!!」」

 

焼け付く砂のビーチを素足で踏み締め、仁王立ちしながら啖呵を切っている神谷と一夏の姿が在った。

 

まあ、それ自体は問題では無い………

 

問題なのは、2人の恰好である………

 

今、神谷と一夏は………

 

お揃いのV字型の赤いサングラスを掛け………

 

そしてそのサングラスと同じ色をした………

 

六尺褌を身に着けた姿………

 

 

 

 

 

即ち!!

 

『赤ふん』姿だったのである!!

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

近くに居た生徒達が、悲鳴を挙げて逃げ惑う。

 

「海ってのはでっかくて激しくて! いつ来ても良いもんじゃねえか、一夏!!」

 

「全くだね! アニキ!!」

 

しかし、そんな周りの喧騒も聞こえていないかの様に、神谷と一夏はごく普通に振舞っている。

 

「何が良いものだ! 貴様等! 何て格好をしてるんだ!?」

 

そこで漸く、千冬が2人に向かってそうツッコミを入れる。

 

その後ろでは、シャル達が手で目を覆っている。

 

………ちゃっかり指の間から覗き見ているのはご愛嬌。

 

「あ、千冬姉………」

 

「んだよ? 男の水着姿にケチ付ける気か?」

 

水着姿の千冬を見て、若干見蕩れる様な様子を見せる一夏と、楽しもうとしていたところへ水を差されて不満そうな声を挙げる神谷。

 

「当たり前だ! 六尺褌なぞと………貴様等、何時の時代の人間だ!?」

 

「馬鹿野郎! 真っ赤に燃えるこの褌こそ! 漢の魂の色よ!!」

 

「その通り!!」

 

そこで神谷と一夏は、ボディービルダーの様にポージングを決めた。

 

その際、褌姿なので、露出している臀部が晒される。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

またも生徒達が逃げ惑う。

 

「着替えろ、馬鹿者共!! そんな恰好で彷徨く………」

 

と、千冬が説教を重ねようとした瞬間………

 

その頭に『何か』が命中した!!

 

「ゴフッ!?」

 

油断していた千冬は真面に喰らってしまい、砂浜に倒れた。

 

「!? 千冬姉!?」

 

「織斑先生!?」

 

「「「「「お姉様!?」」」」」

 

一夏、真耶、生徒達が慌てて駆け寄る。

 

千冬の頭からは、赤い液体が流れている。

 

「!! 千冬姉ぇっ!!」

 

「血、血がこんなに!?」

 

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ! お姉様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

途端に生徒達から悲鳴が発せられる。

 

しかし………

 

「………アレ? コレって………スイカじゃないですか?」

 

そこで、シャルがそう声を挙げた。

 

「えっ?」

 

真耶が驚きながら良く見てみると………

 

確かに、千冬の頭から流れていた赤い液体は血では無く………

 

スイカの果汁であった。

 

如何やら、先程千冬に命中した物体の正体は、スイカだった様だ。

 

その証拠に、飛び散った破片が、辺りに散らばっている。

 

「と言う事は………」

 

生徒の声で、真耶が慌てて千冬の状態をチェックすると………

 

「………ハア~~、良かった。気絶しているだけです」

 

そんな安堵の声を挙げ、生徒達も取り敢えず安心した様子を見せる。

 

「でも、如何してスイカが………?」

 

と、シャルがそう言った瞬間!!

 

今度はシャル目掛けてスイカが飛んで来た!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

しかし、シャルに命中する直前で、神谷の手が伸び、飛んで来たスイカをキャッチする!!

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん………ありがと、神谷」

 

「何でスイカが飛んで来んのよ!?」

 

そこで、鈴がそうツッコミを入れると………

 

「スイカと言えば夏と海の華! ソイツを投げ付けるってのは! 喧嘩を売られたって事よっ!!」

 

「「「「はあっ?」」」」

 

神谷の無茶苦茶な理論に、シャル達が呆れる様な声を挙げたが………

 

「その通り!!」

 

その瞬間、何処からとも無く、いかにもチャラ男と言った水着の集団が、スイカを携えて現れた!

 

「この辺の海は俺達の縄張りよ! 使うんなら許可を取ってもらおうか!!」

 

「へっ! 何言ってやがる! 海はテメェ等みてぇなチャラい奴等のもんじゃねえ! 太陽よりも熱い漢の故郷よ!!」

 

「面白い。ここいらで俺達、棲鋳寡(スイカ)団に逆らって、生きていた連中はいねえぜ!!」

 

瞬く間に喧嘩へと突入する棲鋳寡団と神谷。

 

「何が棲鋳寡団だ! 俺たちゃ無敵のグレン団よ!! 行くぞ、一夏! シャル! セシリア! 鈴! ラウラ! ついでにメガネ姉ちゃんもだ!!」

 

「おう!」

 

「何だか良く分からないけど………この人達が邪魔なのは分かるよ」

 

「ちょっ!? 私達もですか!?」

 

「諦めなさい、セシリア………ああなったらもう巻き込まれる事は決定よ」

 

「教官にスイカをぶつけるとは………許せん!!」

 

「え、ええっ!? 私もですか!?」

 

神谷が呼び掛けると、多種多様な返事を返しながら、一夏達も立ち上がった。

 

「フフフフ、覚悟しろ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そのままグレン団の面々は、棲鋳寡団とスイカの投げ合いを開始したのだった………(使ったスイカは、後でスタッフが美味しくいただきました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は夕方まで流れた………

 

ビーチから少し離れた、切り立った崖の上に佇む1つの人影………

 

「…………」

 

それは、水着姿の箒であった。

 

ただ只管に、夕日が沈む水平線を眺めている箒。

 

「こんな所に居たのか………何をしている?」

 

と、そんな箒に声を掛ける人物が現れる。

 

「あ、千冬………織斑先生」

 

振り返ると千冬の姿が目に入り、思わず昔の様に呼んでしまおうとした箒だったが、すぐに訂正する。

 

が………

 

「………如何したのですか? そのコブは?」

 

千冬の頭には、まるで漫画の様なコブが出来ており、箒は思わずそう尋ねる。

 

「………何でも無い。気にするな」

 

明らかに気にしない事は出来ないレベルなのだが、千冬の顔が不機嫌を現している事を察した箒は、それ以上追及しなかった。

 

「気もそぞろと言った様子だな………何か心配事でもあるのか?」

 

「それは………」

 

千冬の問いかけに、箒は言葉に詰まる。

 

「束の事か?」

 

「!」

 

「先日、連絡を取っているな?」

 

そう………

 

実は箒………

 

実姉であるISの開発者、篠ノ之 束に連絡を取っていた。

 

現在、各国が精鋭を挙げて捜索している束だが、実は実妹である箒、そして親友である千冬とは何時でも連絡が取れる様になっており、本人達の目の前に現れる事も少なくなかった。

 

相次ぐ一夏を巻き込むトラブルの発生と、ロージェノム軍の襲来に………

 

これまで専用機を持たない箒は苦い思いをしており………

 

このままではいけないと思い、苦肉の策で、現在あまり仲が良いとは言えない姉の束に、専用機の開発を依頼しようとしたのだ。

 

尤も、束は既に箒の専用機を用意しており、すぐにでも届ける積りである。

 

「ラウラのVTシステムの一件は、無関係だそうだ………尤も、ロージェノム軍の工作員の仕業、と言う可能性が浮上したがな」

 

「ハイ………」

 

千冬にそう言うと、箒は再び夕日の沈む海原を見遣る。

 

「明日は7月7日だ………姿を見せるかもしれんな………アイツ」

 

「…………」

 

千冬の言葉に、箒は無言で頷く。

 

(勿論、用意してあるよ。最高性能にして規格外。そして白と並び立つもの! その機体の名前はぁ!!)

 

「『紅椿』………」

 

束に教えられた自分の専用機の名前を呟く箒だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷達は………

 

「チ、チキショウ………覚えてやがれぇ!!」

 

棲鋳寡団の頭らしき人物がそう捨て台詞を残すと、スイカの果汁塗れの姿で退散して行く棲鋳寡団。

 

「へっ! 一昨日来やがれ!!」

 

「か、勝った………ハア、ハア………」

 

勝ち誇る神谷の後ろで、一夏は息を切らして座り込んでいる。

 

「あ~も~、ベトベトですわ~」

 

「やだ~、もう~」

 

「大丈夫? 2人共?」

 

スイカを何発か喰らい、果汁塗れの姿で愚痴るセシリアと鈴に、無傷なシャルが心配そうに声を掛ける。

 

「…………」

 

「脈拍、心拍数、正常………問題無いな」

 

そして、大量のスイカを浴びて気絶している真耶と、それをシャルと同じく無傷なラウラが診察していた。

 

「あ~………何時の間にか、もう日暮れか………」

 

「全く………何で初日からこんな目に遭わなきゃならないのよ……?」

 

水平線の向こうへ沈み行こうとしている夕日を見てそう言う一夏と、愚痴る鈴。

 

「何不満そうにしてやがんだ!? 俺達は喧嘩に勝ったんだぞ!? もっと誇らしげにしろ!!」

 

「お蔭で自由行動の時間が潰れてしまいましたわ!!」

 

不満そうにしている一同に神谷がそう言うが、セシリアがそう反論する。

 

彼女の言う通り、間も無く自由時間は終わりであり、ビーチに残っていた生徒達は、皆疲れた表情をしながら、旅館へと引き上げて行く。

 

多かれ少なかれ、グレン団と棲鋳寡団の被害を被っており、思い通りな自由時間が過ごせなかった様だ。

 

「男が細かい事気にすんな!!」

 

「「「女ですわ〈よ、だよ〉!!」」」

 

「我々も引き上げるぞ」

 

と、神谷達の中でも、ラウラが最初にそう言い………

 

真耶を背負って旅館へと引き上げて行く。

 

「はあ~、もう疲れましたわ~」

 

「温泉入ってゆっくりしよう………」

 

もう気力も残り少ない様子で、セシリアと鈴も引き上げて行く。

 

「さてと………」

 

神谷も旅館へ戻ろうとすると………

 

「あ、神谷。ちょっと良いかな?」

 

シャルがそう言って、神谷を呼び止めて来た。

 

「あ? んだよ?」

 

「アニキ。俺、先に戻ってるね」

 

神谷が立ち止まると、一夏がそう言う。

 

「ああ、分かった」

 

「それじゃあ………(箒の奴、如何したんだろうな?)」

 

一夏はビーチに姿を見せなかった箒の事を気に掛けながら、旅館へと戻って行く。

 

何時の間にか、夕焼けに染まるビーチには、神谷とシャルだけが残される。

 

「んで? 一体何の用だ? シャル?」

 

「え、ええと、その………」

 

改めて問い質す神谷だが、シャルは何やら赤面しながら神谷に視線を合わそうとせず、明後日の方向を見遣りながら口籠る。

 

(うう………やっぱり直視出来ないよ………)

 

赤ふん姿の神谷を直視出来ないシャル。

 

スイカ合戦の間は意識している暇が無かったが、イザ2人っきりとなった瞬間に意識が行ってしまい、思考が定まらなくなっていた。

 

「んだよ? ハッキリ言えよ」

 

「う、うん………えっとね………スイカ合戦中に色々と助けてくれたよね? 改めてお礼を言っておこうと思って………」

 

神谷の言葉で、どうにか落ち着きを取り戻したシャルがそう言う。

 

そう………

 

シャルが無傷だったのは、本人の才能も有るが、危ないところで常に神谷が助けていたからなのだ。

 

「何だ、んな事か。気にすんな! 大事な団員を守るのもリーダーの役目よ!」

 

神谷はサムズアップして屈託無い笑顔でそう言う。

 

「団員か………」

 

と、団員という言葉に、シャルは若干不満そうな様子を見せる。

 

「? どした?」

 

「あ!? う、ううん! な、何でも無いよ!!」

 

しかし、神谷に尋ねられると、そう誤魔化す。

 

「? 変な奴だな………さて、とっとと帰って飯にすっか!」

 

神谷はそう言うと、シャルに背を向けて旅館の方に歩き出した。

 

「う、うん………そうだね」

 

シャルは少しその場で佇んでいたかと思うと………

 

「………えいっ!」

 

やがて、先に歩き出していた神谷を追い掛け、その腕にしがみ付く。

 

「っと、何だよ?」

 

「僕もちょっと疲れちゃった………連れてって、神谷」

 

シャルは神谷の腕を抱き締めながら、上目遣いでそう言う。

 

「ったく、しょうがねえなぁ………」

 

そう言うと神谷は、シャルに腕に抱き付かれたまま歩き出す。

 

「えへへ………」

 

その状態で、凄く幸せそうな笑みを浮かべるシャルだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させれいただきました。

臨海学校編、開幕です。
初日の様子はギャグで飛ばしてみました。
束をホームランするグレンラガン。
赤ふん姿の男2人。
そしてスイカ合戦。
青春でですなぁ(どこが!?)

スペシャルゲストとして、真マジンガーのくろがね屋一向に出演していただきました。
この人達はきっとISを生身で倒せます(今川だからしょうがない)

次回は束が本格登場。
果たしてどんなキャラになるかお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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