天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第15話『………ゴメンね』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第15話『………ゴメンね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館・くろがね屋………

 

波乱の初日を終えた生徒達は、全員浴衣に着替えて、現在大広間3つを繋げた大宴会場で夕食を摂っていた。

 

「うん、美味い! 美味いな、この刺身!」

 

一夏は夕食に出された刺身の美味さに舌鼓を打つ。

 

「当然ですぜ、兄さん。何せ先生が捌いたんですからねぇ」

 

近くに控えていたイタチの安がそう言って来る。

 

「…………」

 

その先生は、現在生徒達の目の前で、魚を一瞬にして刺身に捌いている。

 

と、先生が刺身にした魚の骨を、横に置いておいた水槽の中へ入れたかと思うと………

 

何と!!

 

骨だけの魚が泳ぎ出したではないか!!

 

まるで斬られた事に気づいていないかの様に………

 

「「「「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

それを見た生徒達から驚きの声が挙がる。

 

「嘘っ!? 如何やったの!?」

 

「これ何の手品!?」

 

「ハッハッハッ! 相変わらず先生の刃物捌きは素晴らしいね~」

 

「ハ、ハハハハハ………」

 

イタチの安は先生の腕を褒めるが、一夏は戦慄を覚えていた。

 

「さあさあ、どうぞどうぞ」

 

そう言いながら、菊ノ助は生徒のコップに飲み物を注ぐ。

 

「あ、ありがとうございます………」

 

「すみませ~ん! こっちに飲み物の御代わりお願いしま~す!」

 

と、そこでやや離れた席に居た生徒が、菊ノ助にそう声を掛ける。

 

「ハイ、ただいま………」

 

菊ノ助がそう返事を返したかと思うと、一瞬で飲み物の御代わりを持ってその生徒の前に現れた。

 

(!? 今、一瞬で目の前に!?)

 

「ささ、どうぞどうぞ」

 

驚いている生徒のグラスに、菊ノ助は飲み物を注ぐ。

 

そんな中で神谷は………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬううううううううんっ!!」

 

クロスと腕相撲で対決していた。

 

どちらも互角の力を見せている。

 

「や~るね~、お兄さん。クロスと力比べで対等に渡り合うたぁ」

 

審判を務めているジャンゴが、神谷に向かってそう言う。

 

「へへっ! 当たり前だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「中々やるなぁ、兄さん。なら………ちょいと本気を出させてもらうぜ!」

 

と、神谷がジャンゴにお決まりの台詞を返していると、クロスがそう言って更に力を上げた!!

 

「!? おわっ!? こなくそおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬腕を倒されそうになった神谷だが、気合で持ち直す。

 

「神谷! 頑張って!!」

 

セコンドの様な位置に付いていたシャルが、神谷へ声援を送る。

 

「あたぼうよ! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ハハハハッ! 無理すんな、兄さん! 降参しちまえよ!!」

 

「馬鹿言うな! 男は死んでも喧嘩には負けねえ!!」

 

「面白い………捻り潰してやるぜ!!」

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

更に白熱した戦いが展開される。

 

何時の間にか、生徒達の注目も2人に集まっている。

 

………と!

 

バギャッ!!と言う音がしたかと思うと、神谷とクロスが腕を乗せていた台がバラバラになってしまった!!

 

「おわっ!?」

 

「うおおっ!?」

 

急に支えを失い、神谷とクロスは倒れる。

 

「イテテテテテ………」

 

「むう、こりゃ参ったな………」

 

頭の後ろを擦りながら起き上がる神谷と、やられたという顔になるクロス。

 

「こりゃ~、引き分けだな~」

 

審判を務めていたジャンゴがそう判定を下す。

 

「煩いぞ! お前達は静かに食事する事が出来んのか!?」

 

と、そこで………

 

千冬がそう言いながら、宴会場に乗り込んで来た。

 

「お、織斑先生………」

 

「んだよ、折角楽しんでるところに水差すなよ」

 

生徒達は沈黙するが、神谷だけはそう反論する。

 

「神谷………またお前か。何度騒ぎを起こしたら気が済むんだ?」

 

神谷に向かって説教を始めようとする千冬だったが………

 

「そう叱らないでおくんなせえ、先生」

 

「遊びに誘ったのはこっちでしてね~」

 

「そうですぜ! 折角の臨海学校! 野暮な事は言いっこ無しにしましょうや!」

 

「そうそう」

 

クロス、ジャンゴ、イタチの安、菊ノ助がそう弁護して来た。

 

「ううっ!?」

 

強面のくろがね屋従業員の面々に迫られて、流石の千冬も1歩下がる。

 

「すみませんね~、先生。ウチの従業員が迷惑をお掛けした様で………」

 

と、何時の間にか現れた女将のつばさが、そんな千冬にそう言って来る。

 

「(!? 何時の間に!?)い、いえ、別にそんな事は………」

 

「お詫びと言ってはなんですが………当旅館自慢のお酒を用意させて頂きました。宜しければどうぞ」

 

「じ、自慢の酒………」

 

その言葉に、千冬は一瞬笑みを浮かべそうになる。

 

「………ハッ!? と、兎に角! 余り騒ぎを起こすな! 鎮めるのが面倒だ!!」

 

しかし、生徒の前である事を思い出すと、すぐに取り成してそう言い残すと去って行った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残された生徒達は、呆れた様な表情を見せながらも、説教は喰らいたくないと思い、大人しく食事を続ける。

 

………神谷以外。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

食事も終わり、生徒達は其々の部屋で自由時間となっていた。

 

持って来ていたゲームをする者達………

 

恋バナに華を咲かせている者達………

 

青春のお約束、枕投げに興じる者達………

 

皆、思い思いに自由時間を楽しんでいる。

 

そんな中………

 

教員室へと向かう人物の姿が在った………

 

「うっ、うっ………酷い目に遭いましたわ………」

 

セシリアだ。

 

何やら疲れた様子を見せながらも、教員室………

 

即ち、一夏の部屋を目指して行っている。

 

実は先程の宴会の際………

 

セシリアは多大な労力を使い、一夏の隣の席を確保したものの………

 

慣れない正座をしていた為、足の痛みが酷く、碌に会話も出来なかったのだ。

 

すると一夏は、そんなセシリアを不憫に思ったのか、後で自分の部屋に来いと誘ったのある。

 

男が女を自分の部屋に誘うと言うのは、所謂『そういう意味』にも取れる事なのだが、一夏の事である………

 

そんな積りは微塵も無いだろう。

 

だが、それを『そういう意味』だと捉えたセシリアは、ちゃっかり用意して来た所謂勝負用の下着を身に着け、高級な香水をして一夏の部屋へ向かおうとしたのである。

 

しかし、その直前に同じ部屋の、のほほん達を含めた生徒達にその事を気づかれてしまい、色々と揉みくちゃにされたのである。

 

「でも、これでやっと一夏さんに会えますわ………ん?」

 

と、教員室の前まで来たセシリアは、あるものを発見する。

 

「「「「…………」」」」

 

それは、教員室のドアの前に座り込み、聞き耳を立ててると思われる、箒、鈴、シャル、ラウラの姿だった。

 

「如何なさいましたの?」

 

思わず集まっていた一同にそう尋ねるセシリア。

 

「しっ!」

 

すると、鈴が黙っていろと促す。

 

「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

 

そこで、教員室から一夏の声が聞こえて来た。

 

「そんな訳あるか、馬鹿者………んっ! す、少しは加減をしろ………」

 

今度は千冬の声が聞こえて来る。

 

「はいはい。んじゃぁ………ここは………と」

 

「くあっ! そ、そこは………やめっ、つぅっ!」

 

「すぐに良くなるって。大分溜まってたみたいだし………ね」

 

「あぁぁぁっ!」

 

そのまま一夏と千冬の会話が続く。

 

それはどう聞いても………

 

所謂『アレ』な会話だった。

 

「こ、こ、これは一体、何ですの?」

 

それを聞いたセシリアは、顔を真っ赤にしながら一同と同じ様に聞き耳を立てる。

 

「「「「…………」」」」

 

箒達の顔も真っ赤に染まっている。

 

そして更に良く聞こうと襖に寄り掛かる。

 

すると………

 

5人分の体重に耐え切れなくなった襖が、中へ向かって倒れた!!

 

「「「「「わああああぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

当然、襖に寄り掛かっていた5人は、そのまま教員室の中へ雪崩れ込んで行く。

 

「………何をしている、お前達?」

 

そんな5人に怒りの籠った千冬の声が掛けられる。

 

「…………」

 

一夏も驚きの表情で固まっている。

 

………因みに、一夏が千冬にしていたのは、マッサージだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千冬は5人を正座させ、説教を喰らわせていた。

 

「マッサージだったのですか………」

 

「しかし良かった。てっきり………」

 

そんな中で、声の正体がマッサージだった事に安堵の息を吐くセシリアとラウラ。

 

「何やってると思ったんだ?」

 

「それは勿論、男女の………」

 

「「「「ストップッ!!」」」」

 

一夏の疑問に、ラウラが答えようとしたところ、他のメンバーが慌てて口を塞ぐ。

 

「べ、別に………」

 

「特に何と言うワケでは………」

 

「オ、オホホホホホ………」

 

「?」

 

誤魔化す様な鈴、箒、セシリアに、一夏が首を傾げる。

 

「あ、あの、織斑先生………神谷は如何したんですか?」

 

と、そこでシャルが、同じ部屋に居る筈の神谷の姿が無い事を尋ねる。

 

「…………」

 

その事を尋ねられた瞬間に、千冬は更に不機嫌そうな顔になる。

 

「「「「「!?」」」」」」

 

マズイ事を聞いたかと、思わず固まる一同。

 

「………神谷の奴なら夜の散歩だとか抜かして出て行ったぞ」

 

「えっ?」

 

「出て行ったって………許可したのですか?」

 

「出すワケないだろう!! アイツめ! 人がマッサージを受けている隙を突いて、堂々と出て行ったわ!! ええい! 思い出しても腹が立つ!!」

 

箒の問いに、千冬は怒りながらそう言ったかと思うと、部屋に備え付けられていた冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

 

「んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!!」

 

そして蓋を開けると一気に飲み干す!

 

「ちょっ! 千冬姉! そんなに一気に飲んだら駄目だよ! それに生徒の前で!」

 

それを見た一夏が慌てて止めるが………

 

「これが飲まずにいられるか!!」

 

千冬は聞き入れず、新たな缶ビールを取り出すと、蓋を開けて再び一気に飲み干す!!

 

「プハーッ!! オイ、一夏!! 女将に言って酒を貰って来い!!」

 

「ええっ!?」

 

「早くしろ!!」

 

弟とはいえ、仮にも生徒に自分が飲酒をする酒を持って来いと言う千冬に戸惑う一夏だったが、千冬は有無を言わせぬ口調でそう言い放つ。

 

「わ、分かりました!」

 

その迫力に負け、一夏は慌てて女将の元へと向かったのだった。

 

「んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

一夏が去った後も、凄い勢いで缶ビールを飲み干して行く千冬に、箒達は唖然とする。

 

「プハーッ! ところでお前等!!」

 

「「「「「!? ハ、ハイ!!」」」」」

 

と、突然話を振られて、箒達は思わず背筋を正す。

 

「お前等一体、アイツの何処が良いんだ?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

千冬の問いに戸惑う一同。

 

アイツとは箒、セシリア、鈴、ラウラにとっては一夏。

 

そしてシャルにとっては神谷の事に他ならない。

 

「わ、私は別に………以前より腕が落ちている不甲斐ない姿が腹立たしいだけですので」

 

「アタシは、腐れ縁なだけだし………」

 

「わ、私はクラス代表としてしっかりしてほしいだけですわ」

 

「じ、自分は………アイツの中に未熟ながら『漢』というものを見ました」

 

箒、鈴、セシリア、ラウラがそう答える。

 

「ふむ、そうか………ではそう一夏に伝えておこう」

 

「「「「言わなくていいです!!」」」」

 

思わず声を揃えてそう言う箒達に、千冬は思いっきり笑いながら、新しいビールを飲み干した。

 

「………で、デュノア。お前は如何なんだ?」

 

「え、ええっ!? 僕もですか!?」

 

「当たり前だ。しかし何だ………お前の場合、ホントにあんな男の何処が良いんだ?」

 

千冬は心底不思議そうにそう尋ねる。

 

「アイツは馬鹿だぞ。オマケに向こう見ずな上に無鉄砲………アイツのせいで一夏が不良の道に………」

 

千冬は手に持っていた缶ビールの空き缶を握り潰しながら愚痴る様に言う。

 

「神谷はそんな人じゃありません!」

 

と、そこでシャルが立ち上がり、千冬に向かって抗議した!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

シャルの思わぬ反応に千冬と箒達は驚く。

 

「確かに神谷は何時も滅茶苦茶で無茶苦茶ばっかりしてるかもしれません………でも! 神谷は何時だって自分が言った事を曲げない! それを現実にして来た!! そう言う漢なんです!!」

 

そのままシャルは、神谷に付いて熱弁する。

 

「まあ、確かに………口先だけの男ではないな………」

 

「アイツに助けられた事って、結構有るわね………」

 

「あの方と一緒に居ると、時々私達の心まで熱くなる様な感覚が致します………」

 

「もし奴が只の無鉄砲な奴だとすれば、とっくの昔に死んでいる筈だ………」

 

そんなシャルの言葉に、箒達も自分達から見た神谷の感じを述べ始める。

 

「………ハア~~、分かった、分かった………悪かった」

 

その言葉に、千冬は折れた様に謝罪する。

 

「まあ、確かに………アイツは今時珍しい大した男だ。だがな、デュノア………気を付けろ」

 

「えっ?」

 

「ああいう男は1人で勝手に走って行ってしまう奴だ。待っているだけでは疲れるぞ。追い掛けて行くぐらいの気骨で行かんとな………」

 

ニヤリとした笑みを浮かべながら、千冬はそう言う。

 

「しかしな………そいつの後ろを追い掛けて走っていると………いつの間にか見た事もない景色が見られる様になる」

 

「………ハイ」

 

千冬の言葉に思う所があり、シャルは頷く。

 

「しかし、まあ、なんだ………お前達もアレだ………まどろっこしい事するくらいなら、いっそのこと押し倒してやったらどうだ?」

 

「「「「「!? ええええっ!?」」」」」

 

突然の千冬のトンでも発言に狼狽する箒達。

 

「馬鹿者ぉっ! 女だったら惚れた男は実力でモノにしろぉ!! それぐらいできなくて、何が女かぁ!?………ヒック」

 

「「「「「ヒック!?」」」」」

 

良く見れば、千冬の顔が真っ赤に染まっている。

 

そして足元には、何時の間に空けたのかと思う程の、大量のビールの空き缶が転がっていた。

 

「ただいま~………って、千冬姉!? 何時の間にそんなに飲んだの!?」

 

と、そこで酒を持った一夏が帰って来たが、既に出来上がっている様子の千冬を見て驚愕する。

 

「おお~~、帰ったか~、一夏~………酒寄こせ」

 

開口1番にそう言う千冬。

 

「だ、駄目だよ! それ以上飲んだら、飲み過ぎ………」

 

「煩い! 良いから酒を寄こせ!!」

 

一夏の忠告も聞かず、千冬は一夏から強引に酒を奪い取る。

 

結局千冬は、更に酒を飲みながら、延々と愚痴(主に神谷の事)を言い続けた。

 

一夏と箒達は、千冬が酔い潰れて眠るまで、その愚痴に付き合わされたのだった………

 

尚、この過度の飲酒が後に発覚し………

 

千冬は3ヶ月の減俸処分を受ける事となった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その千冬がヤケ酒を呷る原因となった神谷は………

 

「オラオラ! グレン団の鬼リーダー! 神谷様が相手だぁ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「やるね~、お兄さん」

 

「ほっほっほっ、やっぱり若い人は凄いね~」

 

「こりゃ俺達も負けてらんねえな」

 

「おうよ! いっちょ派手に行くぜ!!」

 

「!!」

 

くろがね五人衆と共に、旅館を襲撃に来たヤ○ザ相手に大立ち回りを演じていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

臨海学校2日目………

 

本日は午前中から夜まで、丸1日を使ってISの各種装備試験運用と、データ取りが行われる。

 

「良し、全員………うっぷ!!………揃ったな………うぶっ!!………これより………おぶっ!!………各班ごとに振り分けられた………おえっ!!………ISの装備試験を行う様に………うえっ!!」

 

何度か吐きそうになりながら、千冬が生徒達にそう言う。

 

完全に二日酔いで状態である………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな千冬の姿に言葉が出ない生徒達。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

事情を知っている一夏達は目を逸らす。

 

「あ、あの、織斑先生………大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だ………問題無い………おぼっ!!」

 

心配して尋ねて来た真耶にそう返す千冬だが、返事をしただけでも吐きそうになる。

 

「んだよ、頼りねえな………ブリュンヒルデの名が泣くぞ、千冬」

 

事情を知らない神谷は、そんな千冬の姿を見てそう言い放つ。

 

(誰のせいでこうなったと思っている!?)

 

そう声を挙げたかった千冬だったが、口を開くと吐いてしまいそうになるので、声に出せずに居た。

 

「と、取り敢えず、皆さん! 迅速に行動して下さい!」

 

千冬に代わる様に、真耶がそう言った。

 

その言葉で、生徒達はそれぞれに行動を始める。

 

「あ、ああ、そうだ………篠ノ之。お前はちょっとコッチに来い」

 

「? ハイ」

 

打鉄の装備を運ぼうとしていた箒が、千冬に呼ばれて戸惑いながらもそちらへ向かう。

 

「お前には今日から専用………」

 

「ちーちゃ~~~~~~~んっ!!」

 

と、千冬が何かを言いかけた瞬間………

 

それを遮る様な声が聞こえて来た。

 

全員がその声が聞こえて来た方を向くと、そこには………

 

凄まじいスピードでこちらに向かって来る人影が在った。

 

まるで世界を縮める最速のアルター使いの男を思わせる速度である。

 

「………束」

 

その人影を見て呆れる様に呟く千冬。

 

そう………

 

その人影の正体は、ISの生みの親………

 

稀代の天才と称される『篠ノ之 束』その人であった。

 

「やあやあ! 会いたかったよー! ちーちゃん! さぁ、ハグハグしよ! 愛を確かめよう!!」

 

そう言いながら、束は千冬に抱き付く。

 

「うぐっ!?」

 

その瞬間………

 

辛うじて堪えていた千冬のダムが………

 

決壊した………

 

「? ちーちゃん?」

 

何時もならアイアンクローを掛けて止めて来る千冬が、アッサリとハグさせた事に疑問を感じた束が千冬の顔を見上げた瞬間………

 

千冬の口から(千冬さんの女性としての尊厳を守る為、伏せさせていただきます)が『発射』された。

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

束の悲痛な悲鳴が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くお待ち下さい…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………御免なさい、ちーちゃん」

 

洗浄と着替えを終えた束が、千冬に向かってそう謝罪する。

 

「………いや、良いんだ………寧ろ忘れてくれ………」

 

同じく洗浄と着替えを終えた、げっそりとした様子の千冬が力無くそう言って来る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏を含めた生徒達と真耶も、無言で千冬から目を逸らしていた。

 

「よう、ウサミミ女! 久しぶりだな!!」

 

とそこで、空気を読まない神谷が、束に向かってそう挨拶をした。

 

「あ、ああっ! かみやん! 久しぶりー!!」

 

すると束は、気まずいこの空気を変える様に、陽気な様子に戻ってそう挨拶を返す。

 

「相変わらずみてぇーだな。まあ、逆に安心したぜ」

 

「うっふっふ~! この束さんがそう簡単に変わるワケないでしょお! それよりかみやん! 昨日はいきなり酷いじゃな~い! 折角派手に登場しようと思ったら、問答無用でホームランするなんて!!」

 

「馬鹿野郎! いきなり落ちてきたらホームランすんのが男の道だろう!!」

 

「そっか~………男の道じゃあ、しょうがないね~」

 

そのまま神谷と束は、2人だけしか分からない会話を展開する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

生徒達は全員ポカ~ンとしており、「何言ってるんだ、コイツ等?」、「俺に分かる様に説明しろ!!」状態になっている。

 

と、そこで、束は今度は箒の方を向いた。

 

「やあ!」

 

「………どうも」

 

フレンドリーに話し掛ける束に対し、箒の態度は何処か他人行儀だった。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ? おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが………」

 

と、そこで束の手つきが怪しくなった瞬間………

 

箒は何処かからか取り出した木刀で、束をどつく!!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ! 箒ちゃん酷~い!! ねえ、いっくん酷いよねえ?」

 

「は、はあ………」

 

突然話を振られた一夏は、戸惑いながら気の無い返事を返す。

 

「オイ、束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒が困っている」

 

「あ~、ハイハイ~」

 

千冬がそう言うと、束は生徒達の方へ向き直った。

 

「………?」

 

その様子に違和感を覚える千冬。

 

彼女が知る束は、自分の興味の無い事にはとことん無関心になる性格で、それは人間の場合も例外ではなく箒・一夏・千冬・神谷の4人だけに関心を持っていて、後はかろうじて両親を「身内」として判別できるくらいであった。

 

それ以外の人間には興味がないらしく、身内以外から話し掛けられると非情に冷淡な態度で明確な拒絶の意思を示す筈だったが………

 

目の前の束は、確かに身内にフレンドリーだが、他人を拒絶している様子は無い………

 

「どうも~! 皆さん初めまして~! 私が天才の束さんだよ~! ハロ~~!………ハイ、終わり!」

 

生徒達にそう挨拶する束。

 

簡潔な内容ではあったものの、そこに他人を拒絶している様な様子は見受けられない。

 

「束って………」

 

「ISの開発者にして、天才科学者の!?」

 

「篠ノ之 束?」

 

鈴、シャル、ラウラがそう驚きの声を挙げる。

 

「ふっふ~ん………さあ! 大空をご覧あれ!!」

 

するとそこで、束は目を光らせた後、大空を指差してそう言い放つ。

 

その瞬間………

 

突如、銀色のクリスタルの様な塊が、一同の眼前に降って来た!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の出来事に驚く一同。

 

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、『紅椿』!!」

 

束がそう言って、リモコンらしき物のスイッチを押すと、そのクリスタル状の物体が展開し、真紅のISの姿となる。

 

「全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製の第4世代ISだよ~!」

 

束は嬉々として、トンでもない事をサラリと説明する。

 

「何たって、紅椿は………!? うっ!?」

 

とその時………

 

説明を続けようとした束がフラつく。

 

「? 束?」

 

「如何かしたのですか?」

 

「う、ううん………何でも………!? ゴハッ!?」

 

千冬と箒がそう尋ねた瞬間!!

 

突如束は、口から大量の血を吐き出した!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一夏達と生徒達が驚愕に包まれる!

 

「!? 束!?」

 

「!! 姉さん!?」

 

「あっ………」

 

千冬と箒の悲鳴が挙がると、そのまま倒れそうになる束。

 

「姉さん!!」

 

しかし、間一髪のところで、箒が受け止めた。

 

「姉さん! しっかり!!」

 

「う、うう………箒ちゃん………御免なさいね」

 

「えっ?………」

 

突然の謝罪に、箒は困惑する。

 

「私がISを開発したせいで………箒ちゃんにはいつも苦労を掛けちゃったね………多分私が死んでも………その苦労はずっと箒ちゃんに付きまとう………」

 

「姉さん!? 何を言っているんですか!?」

 

「けど心配しないで………紅椿がある限り………箒ちゃんは強いわ! 世界一!」

 

「世界一!?」

 

「そう! 世界一だよ! 箒ちゃん!! 貴方は紅椿を手に入れたたった今から人間を超える! 貴方は超人よ! いや! それ以上の者よ!!」

 

狂気に取り憑かれたかの様に、束はそう語り出す。

 

「箒ちゃん! 貴女は!………神にも悪魔にもなれる!!」

 

「か、神にも………悪魔にも………」

 

「そうよ! 神となって人類を救う事も! 悪魔となり世界を滅ぼす事も! 貴女の自由だよ! 貴女が選べる!!」

 

「わ、私が………世界を………」

 

「貴女の好き勝手に世界を手玉に取るが良いわ! ISの怪物! 紅椿が!! 貴女の望み通りに力を貸してくれるわ!!」

 

束はそこで立ち上がり、紅椿の姿をバックに、両腕を広げるポーズを取ってそう箒に向かって語った。

 

「あ~はっはっはっはっはっ!! 篠ノ之 箒!! 世界は貴女の物よぉ!!………ぐっ!?」

 

そこで束は、バタリと倒れた。

 

「姉さん!!」

 

慌てて駆け寄り、助け起こす箒。

 

「た、只1つの心残りは………紅椿を操縦する箒ちゃんの勇姿を見れない事………」

 

「姉さん!? 嫌だ!! 死なないで!!」

 

「箒………ちゃん………」

 

と、最後にそう呟いて、束は瞳を閉じた………

 

「!? 姉さああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」

 

「束えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

箒と千冬は、束の死に涙を流して悲しむ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏達や他の生徒も、戸惑いながらも沈痛な表情を浮かべている………

 

………と、

 

「………オイ、もういんじゃねえのか? 束」

 

神谷が束の亡骸に向かってそう声を掛けた。

 

「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」

 

その言葉に一同が戸惑いの声を挙げた瞬間………

 

「………そうだね!」

 

死んだと思われていた束がムクリと起き上がる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一同の顔が、今度は驚きで固まった!!

 

「あちゃ~~、着替えたのにまた汚しちゃったなぁ~」

 

そう言いながら束は、服に付いた吐血の血………いや、血糊を拭く。

 

「ね、姉さん………」

 

「束~~~」

 

余りにも質の悪い冗談に、箒と千冬の怒りが頂点に達する。

 

「おりょ? 如何したの箒ちゃん、ちーちゃん? あ~! そっか!! 私の才能に嫉妬したんだね!! フッ………天才は辛いな~」

 

本格的にボコッてみました………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

箒と千冬にボコボコにされ、最早誰だか分からない顔になった束が、紅椿のフィッティングとパーソナライズを行っていた。

 

「全く~~ちょっとしたジョークじゃな~い」

 

ボコボコの顔でそう愚痴る束。

 

「ジョークでも、やって良い事と悪い事がある」

 

しかし、千冬がピシャリとそう言い返す。

 

「全く………心配した私が馬鹿だった」

 

紅椿を装着している箒がそう呟く。

 

「メンゴだよ~、箒ちゃん………ハイ! フィッティング終了~。超速いね。流石私」

 

束が箒に謝罪すると同時に、紅椿のフィッティングが終了した。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの? 身内ってだけで」

 

「だよねぇ。何かズルいよねぇ」

 

と、その様子を見ていた生徒達から、思わずそんな声が挙がる。

 

「…………」

 

すると、その声が聞こえたのか、束が視線を向ける。

 

「「「「「!?」」」」」

 

思わず身構える生徒達だったが………

 

「………ゴメンね」

 

束は一瞬、涙が零れそうなくらい悲しそうな顔をしてそう言った。

 

「「「「「!?」」」」」

 

思いも寄らぬ言葉に、驚きを示す生徒達。

 

「………そんじゃあ、箒ちゃん! 試運転も兼ねて飛んでみてよ! 箒ちゃんのイメージ通りに動く筈だから!!」

 

しかし、すぐにいつもの明るい調子に戻り、箒にそう言う。

 

「ええ………それでは試してみます」

 

すると箒は目を閉じて、意識を集中させ始めた。

 

その次の瞬間………

 

紅椿は、凄まじい速度で上昇する!!

 

「おわっ!?」

 

「ヒューッ」

 

その際の衝撃波で舞った砂から目を守る一夏と、その様を見て口笛を吹く神谷。

 

「何コレ? 速い!!」

 

「コレが………第4世代の加速………と言う事は?」

 

その凄まじい速度に、鈴とシャルがそう呟く。

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょう?」

 

上空を飛び回っている箒に、束はそう通信を送る。

 

「え、ええ、まあ………」

 

「じゃあ、刀使ってみてよ。右のが雨月(あまづき)で、左のが空裂(からわれ)ね。武器属性のデータを送るよ~!」

 

束が空中に指を躍らせたかと思うと、箒は2本の刀を抜き放ち、空中で静止した。

 

「雨月、行くぞ! ふっ!!」

 

そう言って先ず、右の刀・雨月を振るう。

 

すると、刀身から赤いレーザーが放たれ、そのまま雲を突き抜けて、更に上空へと消えて行った………

 

「おお………」

 

放った箒自身も、驚きに目を見開いている。

 

「良いね、良いね! 次はコレを撃ち落としてみてね!! は~いっ!!」

 

と、束がそう言ったかと思うと、その隣に鉄の箱………

 

ミサイルポッドが出現!!

 

そこから紅椿目掛けて多数のミサイルが放たれた!!

 

白煙の尾を引いて紅椿を装着した箒に迫るミサイル群。

 

「エイッ!!」

 

迫るミサイル群に向かって、空裂を振るう箒。

 

すると今度は、斬撃がエネルギー波となってミサイル群を直撃。

 

全てのミサイルを1撃で撃墜した!!

 

「やるな………」

 

「スゲェ………」

 

「ううん! 良いね、良いねぇ! うふふふふ!!」

 

ラウラと一夏がそんな感想を漏らす中、束は自慢げに笑い声を挙げる。

 

「…………」

 

だがその姿に、千冬は良く分からない違和感を感じていた。

 

「やれる………この紅椿なら!」

 

箒は紅椿のスペックにそう感嘆の声を漏らす。

 

と、その時………

 

「た、大変です!!」

 

突然真耶が、そう大声を挙げた!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「如何した?」

 

「こ、コレを!!」

 

真耶はそう言って、小型端末を千冬に手渡す。

 

「特命任務レベルA………現時刻より対策を始められたし…………」

 

それを見た千冬は厳しい顔となり、真耶と何やら会話を繰り広げ始める。

 

「何だ?」

 

「何か事件が起こったっぽいなぁ………」

 

その光景に首を傾げる一夏と、どこかワクワクしている様子の神谷。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務へと移る! 今日のテスト稼動は中止! 各班はISを片付け旅館へ戻れ! 連絡があるまで各自室内待機する事! 以上だ!」

 

すると、生徒達の方に向き直った千冬がそう言い放った。

 

突然の中止命令に、生徒達から戸惑いの声が挙がるが………

 

「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出た者は、我々で身柄を拘束する!! 良いな!!」

 

千冬の重ねての一喝で、慌てて片づけを始める。

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ! それと篠ノ之も来い! あと神谷! お前もだ!!」

 

「はい!!」

 

「おう!!」

 

降りて来た箒と、神谷が威勢良くそう返事を返す。

 

一夏達も、戸惑いながらも指示に従うのだった。

 

「…………」

 

そんな中、只1人………

 

思い悩んでいる様な様子を見せている束の姿が在ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に登場した原作の中核人物の束。
この作品では、所謂白い束になります。
ただ、真実を話すのは矢鱈と勿体ぶります。
今川監督作品の人物みたいに(笑)

そして遂にあの任務が発動します。
しかし、思わぬ事態でグレン団は最大のピンチを迎える事に!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)
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