天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第17話『俺を此処から出しやがれ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第17話『俺を此処から出しやがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋から近い病院………

 

その病院の手術室の前に、一夏達が集まっている。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

しかし、一同の表情は暗く………

 

会話も出来ない程の重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「神谷………」

 

シャルなどは今にも泣き出しそうな様子であり、ジッと顔を伏せている。

 

「アニキ………」

 

だが、それ以上に酷いのが一夏だ………

 

目からは光が完全に消えており、影が落ちている不気味な無表情は、まるで死人か幽鬼を思わせる………

 

あの後………

 

重傷を負った神谷は、一夏と箒によって運ばれ………

 

陸地へ戻ると同時に、待機していた医療班の応急処置を受け、そのままこの病院へと搬送された。

 

手術室へ運ばれ、緊急手術が開始されたが………

 

日が傾いて来た今でさえなお、終わっていない………

 

彼是もう数時間以上経過している大手術だ。

 

それだけ………

 

神谷が負った傷が深かった事を物語っている。

 

と………

 

そこで点灯しっぱなしだった手術室のランプが、消えた!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

一同がビクリと反応すると、手術着を血で染めたままの執刀医が姿を見せる。

 

「先生!!」

 

「アニキは!? アニキは如何なんですか!?」

 

途端に、シャルと一夏が執刀医に詰め寄った。

 

箒達も集まって来る。

 

「手術は終わりましたが、まだ予断の許さない状況です………」

 

と、執刀医がそう答えると………

 

奥の方から、ストレッチャーに寝かされて運ばれてくる神谷の姿が在った。

 

人工呼吸器が付けられ、点滴まで打たれている。

 

正に重傷者と言う雰囲気だった。

 

「! アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「「「「!!」」」」

 

それに気づいた一夏とシャルが駆け寄り、遅れて箒達も集まる。

 

「…………」

 

神谷はまるで死んだ様に眠っている………

 

何時ものあの大声も聞けない………

 

力強く、爽やかな笑みも無い………

 

信じられない神谷の姿だった。

 

「アニキ! 俺だ! 一夏だ!! 目を覚ましてくれよ!!」

 

「神谷! 起きてよ! からかってるんでしょ! 本当はそんな傷、如何って事ないんでしょ!? そうだって言ってよ!!」

 

「落ち着いて下さい! 重傷者なんですよ!!」

 

思わず神谷の身体に手を伸ばそうとした一夏とシャルを止める看護師。

 

神谷はそのまま、集中治療室へと運ばれて行った………

 

「………天上さんはご家族は居られないのでしたね?」

 

とそこで、執刀医が残された一夏達にそう言って来た。

 

「………ハイ」

 

一夏がそれだけ返す。

 

「そうですか………では、貴方達に伝えておきます………天上さんの状態は非常に危険です。もし運良く命が助かったとしても………2度と目を覚まさないかもしれません」

 

「!?」

 

それを聞いたシャルが膝から崩れ、倒れそうになる。

 

「! ちょっ! ちょっと!?」

 

慌てて鈴が駆け寄って支える。

 

「そ、そんな………嘘だ………」

 

「手は尽くしたのですが………残念です」

 

狼狽する一夏に、執刀医は頭を下げると、そのまま去って行く。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

残された一同は、ただ茫然とその場に立ち尽くした。

 

「…………」

 

拳を血が出んばかりに握り締める一夏。

 

「い、一夏………」

 

そんな一夏の様子を見た箒が、恐る恐る話し掛ける。

 

神谷を助ける為に海に突っ込んだ際にリボンを無くしており、黒い長い髪を下ろしており、印象が変わっている。

 

と………

 

「………お前のせいだ」

 

「えっ?」

 

「箒! お前のせいだぞ!!」

 

戸惑いの声を挙げる箒の両肩に、一夏が摑み掛かりながらそう叫んだ!!

 

その表情は、様々な感情が入り混じったグチャグチャな表情だった。

 

「あの時、お前が素直に逃げて居れば! アニキはあんな事にならなかった!! お前がアニキをあんな目に遭わせたんだ!!」

 

「!?」

 

一夏のその言葉に、箒はショックを受ける。

 

「一夏さん!?」

 

「一夏! 言い過ぎだぞ!!」

 

セシリアとラウラがそう言って一夏を箒から引き剥がそうとするが………

 

「煩い! 邪魔だ!!」

 

一夏は乱暴に2人を振り払った!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「おわっ!?」

 

セシリアとラウラは、床に尻餅を着いてしまう。

 

「い、一夏………」

 

シャルを支えていた鈴が、驚愕の表情を浮かべる。

 

箒に八つ当たりの様な言葉を吐いたり、セシリアやラウラを乱暴に振り払うなど、普段の一夏からは想像も出来ない様な振る舞いだ。

 

………それ程までに、一夏の心は闇に沈んでいたのだ。

 

「わ、私は………」

 

箒の目から涙が零れ始める。

 

「………そこまでにしておけ。クソガキが」

 

とそこで、そう言う声が響き渡る。

 

「!?」

 

一夏が振り返ると、そこには憮然とした表情を浮かべている千冬の姿が在った。

 

傍には、オロオロとした様子の真耶も居る。

 

「千冬姉………」

 

「全く………女に当たるとは………情けないぞ、一夏。何時からそこまで堕ちた」

 

千冬は、一夏に向かって容赦無くそう言い放つ。

 

「お、織斑先生!!………」

 

「煩い! 黙れえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

と、真耶が千冬を止めようとした瞬間………

 

何と、一夏が箒を解放し、今度は千冬に殴り掛かって行ったのだ!!

 

「!!」

 

しかし、千冬は一夏を軽く往なし、そのまま足を掛けて転ばせる。

 

「ガッ!?」

 

「病院で殴り掛かって来る奴があるか!? お前達もすぐに旅館に帰れ! 待機だと命じただろう!?」

 

一夏を一瞥すると、今度は箒達に向かってそう言い放つ。

 

「お、織斑先生………」

 

「福音に対しての命令は、まだ解除命令が出ていません。再度の作戦もあるかも知れません。専用機持ちの皆さんには待機してもらわないと………」

 

戸惑うセシリアに、真耶がそう補足する様に言う。

 

「尤も………そのザマでは如何にもならんだろうがな………」

 

千冬は倒れたままの一夏に向かって、冷たくそう言い放つ。

 

「………千冬姉………前に言ったよな………アニキに………お前は死んでも良いけど、俺の事は守れって」

 

とそこで、一夏が起き上がりながらそう言って来た。

 

「………ああ、言ったな」

 

一夏に背を向けたままそう言い放つ千冬。

 

「だからアニキはあんな事をしたんだ………俺達を庇って自分が………」

 

「今度は私に当たる積りか? いい加減にしろ! 貴様が不貞腐れていれば神谷は目を覚ますのか!? とっとと宿に戻れ!!」

 

「…………」

 

千冬がそう言うが、その言葉は一夏に届いていない様で、一夏はどこまでも虚ろで目の焦点も定まっていないまま、フラフラと歩き出した。

 

「…………」

 

「箒さん、行きますわよ………」

 

それに続く様に、涙目で立ち尽くしていた箒を、セシリアが連れて行く。

 

「ホラ、シャルも………」

 

「…………」

 

鈴もシャルに肩を貸して歩き出す。

 

「………失礼します、教官」

 

最後にラウラが、千冬に向かって敬礼した後、去って行った。

 

「…………」

 

「織斑先生………」

 

残された千冬に声を掛ける真耶。

 

(馬鹿者め………死ぬんじゃないぞ………お前はそんな事で死ぬ男ではないだろう………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某・海上にて………

 

そこに、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は居た………

 

海上から200メートルの上空で、まるで胎児の様な姿勢を取ってジッとしている。

 

「…………」

 

その更に上空では、エンキドゥが腕組みをして空中に仁王立ちしている。

 

「なあなあ、部隊長さんよ~。何時までこうしてりゃ良いんだ?」

 

と、その近くで浮遊していたナギーウが、エンキドゥに向かって退屈そうに言う。

 

「奴が第2形態に移行するまでだ………」

 

ヴィラルは、腕組みをしたままそう答える。

 

「何でそんなまどろっこしい真似をすんだよぉ! このまま街へ行って、人間共を一気に殺しまくってやろうじゃねえか!!」

 

「貴様………螺旋王様の命令に逆らう積りか?」

 

ヴィラルは、若干声に凄みを効かせてそう言う。

 

「べ、別にそんな積りはねえさ………分かった。分かりましたよ」

 

ナギーウは不満そうにしながらも待機を維持する。

 

(グレンラガン………天上 神谷………よもやお前との決着がこんな形で着くとはな………だが、私は螺旋王様のに仕える戦士………個人の決着よりも、螺旋王様の計画を遂行するのが任務だ)

 

そしてヴィラルは、まるで自分自身に言い聞かせる様に、そんな事を考えていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋………

 

夕日がほぼ沈みかけている中、縁側に座り込んでいる者達が居た………

 

セシリア、鈴、ラウラだった………

 

「「「…………」」」

 

重苦しい沈黙を続けながら、3人してジッと縁側に座り込んでいる。

 

「如何………する?」

 

ふと唐突に鈴が、2人に向かってそう尋ねた。

 

「如何………と言われましても………」

 

セシリアが戸惑った様な返事を返す。

 

「教官は指示あるまで待機………そう言っていた。ならばそうするべきだ」

 

軍人のラウラが冷静な様子でそう言う。

 

「じゃあ、何でアンタ、アタシ達と一緒に居るのよ?」

 

「そ、それは………」

 

しかし、鈴にその事を指摘されると、戸惑った様子を見せる。

 

「「「…………」」」

 

その後、再び沈黙する3人。

 

と、そこへ………

 

「あ、皆………此処に居たんだ」

 

そう言いながら、シャルが姿を見せた。

 

「!? シャルロット!?」

 

「シャルロットさん!? 大丈夫なんですか!?」

 

「無理をするな」

 

シャルの姿を見た3人が、口々に心配する様な言葉を掛けて来るが………

 

「平気だよ。何時までも落ち込んでたら、神谷に笑われるからね」

 

シャルはそう言って笑みを浮かべる。

 

しかしそれは………

 

明らかに無理をしている笑顔だった。

 

「「「…………」」」

 

だが、3人には今のシャルに掛ける言葉が見つからない………

 

「その通りだ………」

 

すると、今度はそう言う言葉と共に、箒が姿を見せた。

 

「!? 箒!!」

 

「負けたまま終われるか………アイツをあんなにした原因が私なら………この問題は私がケリを着ける」

 

箒は、拳を握り締めてそう語る。

 

こっちの表情も、危うい表情であった。

 

「………どの道、このままジッともして居られないわね」

 

「そうですわ。やるなら、トコトンやりましょう」

 

「その方が気も紛れるというものか」

 

それを見た鈴、セシリア、ラウラが立ち上がる。

 

2人が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にリベンジをしようとしているのは目に見えていた。

 

しかし、こんな危うい2人を放っておくワケにはいかない。

 

無理矢理入らされた様なものだが、自分達はグレン団………

 

仲間なのだ。

 

こんな時こそ助け合わなければならない。

 

そう言う気持ちが、3人の中に燃え上がって来ていた。

 

皮肉にも神谷が倒れた事が、彼女達の中に更なる仲間意識を持たせたのだった。

 

 

 

 

 

その後、箒達は近くの海岸へ集結………

 

箒を除いた一同は、今日の午前中に送られて来ていたISの追加パッケージをインストールし、ISを強化する。

 

そして、ラウラがドイツの軍事衛星を使って、海上で浮遊している銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿を発見した。

 

いざ出陣せんとしたその瞬間………

 

「俺も………その喧嘩に混ぜろよ………」

 

そう言う台詞と共に、一夏が姿を見せた。

 

「「「「「!? 一夏〈さん〉!?」」」」」

 

突然現れた一夏の姿に戸惑う5人。

 

「アイツにリベンジするんだろ………なら俺も連れて行けよ」

 

そんな5人の戸惑いなど知らず、一夏は淡々とそう言い放つ。

 

その表情は変わっておらず、どこまでも虚ろで、目の焦点も定まっていないままである。

 

「「「「「…………」」」」」

 

だが、5人は一夏が付いて来る事を拒否出来なかった。

 

いや………

 

例え拒否したところで、一夏は勝手に付いて来るだろう………

 

ならせめて、自分達の目の届く範囲に置いて、何かあればフォローするしかないだろうと考えた。

 

しかし………

 

この考えが………

 

どれだけ甘いものだったか………

 

この時、彼女達は気づかなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某・海上200メートル………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、相変わらず同じポーズで沈黙を続けている。

 

「…………」

 

「あ~、暇だ暇だ~」

 

それをジッと見守っているエンドゥと、露骨に退屈そうな様子を見せているナギーウ。

 

「………ん?」

 

するとそこで、エンキドゥが何かに気づいた様な様子を見せる。

 

「? どしたぁ?」

 

ナギーウがそう言った瞬間………

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びと共に突撃して来た白式を装着した姿の一夏が、エネルギーブレード状態の雪片弐型で、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に斬り掛かった!!

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はブッ飛ばされ、海面に叩き付けられるが、すぐに姿勢を取り直す。

 

「一夏さん! 先行し過ぎです! もっと連携を!!」

 

「煩い! 先手必勝だ!! アニキならそうする!!」

 

遅れてやって来た一同の中で、セシリアが一夏にそう言うが、一夏はそれに応じず、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を更に追撃しようとする。

 

「あ~ん? アイツ等、性懲りも無くまた来たのか? しかも今度は団体で?」

 

「それが人間と言うものだ………何度踏み潰しても雑草の様に伸びて来る………螺旋王様がそう仰っていた」

 

ナギーウが呆れる様に呟き、ヴィラルがそう言う。

 

「まあ良いさ。それなら………2度と立ち上がって来れない様に………此処で殺してやるぜぇ!! ヒャッハーッ!!」

 

すると、ナギーウは世紀末を思わせる叫びを挙げながら、遅れて来ていた箒達に襲い掛かって行く。

 

最初に狙いを定めたのは、シャルだった。

 

「!? うわっ!?」

 

シャルは、追加パッケージである防御パッケージ『ガーデン・カーテン』………実体シールド2枚、エネルギーシールド2枚の内、実体シールドで、ナギーウの諸刃の剣を受け止める。

 

「お前が………神谷を………」

 

と、シャルはナギーウの姿を見て、怒りを露わにする。

 

「あ~ん? お前、あの馬鹿な男の恋人かぁ? ヒャハハハハッ!! そりゃ悪かったな!! お前もすぐ同じ場所に送ってやるよぉ!!」

 

「!! 煩い! 黙れぇっ!!」

 

ナギーウの言葉に激昂し、シャルは諸刃の剣を弾き返すと、レイン・オブ・サタディを両手に構え、ナギーウ目掛けて発砲した。

 

「ヒャハハハハッ!! 当たらねえよぉ!!」

 

しかし、ナギーウは高速で飛び回って弾丸を躱す。

 

「シャルロット!………!? クウッ!?」

 

援護に向かおうとした箒を、エンキラッガーが掠める。

 

「貴様は俺の相手をしてもらおうか………」

 

「獣人ヴィラル………」

 

「如何した? 怖気づいたか? まあ、あんな大失態を演じた後では無理も無かろうがな」

 

「! 貴様あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、箒は怒りを露わにしてエンキドゥに斬り掛かって行った。

 

「ちょっと!? 箒さん!!」

 

「マズイ………全員バラバラだ! 連携が取れん!!」

 

セシリアがそう叫び、ラウラが苦い顔をしながら言い放つ。

 

「クッ! 仕方ないわ………其々にフォローするわよ! ラウラはシャルロットに! セシリアは一夏! アタシは箒にフォローに回るわ!」

 

と、鈴が咄嗟にそう判断を下す。

 

「分かりましたわ!」

 

「了解した!!」

 

すぐにセシリアが一夏、ラウラがシャルの元へと飛んだ。

 

「全く………こんな事になるなんて………」

 

鈴もそう呟き、箒の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋・大座敷………

 

一夏達が再び銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)達に戦闘を挑んだのは、すぐにも判明した。

 

「あ、あの子達!?」

 

「クッ! 馬鹿共が………山田くん! すぐにアイツ等を呼び戻せ!!」

 

「ハ、ハイ!!」

 

真耶がすぐに、一夏達へと通信を送ろうとする。

 

しかし………

 

「だ、駄目です! 妨害電波です!! 通信が繋がりません!!」

 

「ならば! 封鎖を行っていた教師部隊を向かわせて………」

 

「それも無理よ」

 

千冬の言葉を遮り、リーロンがそう声を挙げる。

 

「今連絡が入ったけど、封鎖を行っていた教師部隊をガンメン達が襲撃してるって。とても手一杯で一夏くん達の方には回れないそうよ」

 

「何だと!?」

 

「そんな!?」

 

千冬が驚き、真耶が悲鳴の様な声を挙げる。

 

「クッ! こうなれば私が出る!!」

 

と、千冬がそう言うと、作戦司令室を後にしようとする。

 

「止めなさい。幾らブリュンヒルデの貴女でも、専用機が無いんじゃ無理よ」

 

しかし、リーロンがそう言って千冬を止めた。

 

「じゃあ如何すれば良いんだ!?」

 

千冬は珍しく、焦りと苛立ちの籠った声でそう言う。

 

「………賭けるしかないわね」

 

「賭ける? 一体何にだ!?」

 

「神谷によ………」

 

リーロンは、不敵に笑いながらそう言った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「ん?」

 

神谷が意識を取り戻したかと思うと、周囲全てが暗闇の空間の中に居た。

 

「何処だ? 此処は?」

 

神谷は自分が置かれている状況が分からず、混乱する。

 

「確か俺は………銀色野郎とガンメン野郎達と戦ってて………」

 

意識を失う前の事を思い出そうとしている神谷。

 

「それで、一夏と箒の事を庇って………ひょっとして………俺は死んだのか?」

 

そこで神谷は、そういう考えに至る。

 

「そうか………やれやれ………短い人生だったぜ」

 

神谷は溜息を吐きながらそう呟く。

 

死んだかもしれないと言うのに、あまり悲壮感や絶望は感じられなかった。

 

「まっ、悪くはなかったな………一夏やシャル、色んな連中とも出会えたしよ………散り際は潔くってのが男ってもんだ」

 

フッと笑ってそう言う。

 

すると………

 

『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!』

 

神谷以外誰も居ない筈の空間に、何者かの声が響いて来た。

 

「!? この声は!?………一夏!?」

 

そこで神谷が驚きの声を挙げると………

 

『一夏さん! 落ち着いて下さい! もっと冷静に!!』

 

『煩い! このぐらいアニキならなんとかしてたさ!!』

 

目の前に、一夏とセシリアが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っている様子が映し出される。

 

しかし、その様子は劣勢そのものだった。

 

無闇矢鱈と突撃を繰り返す一夏の白式はどんどんボロボロになって行き、フォローしているセシリアのブルー・ティアーズの損傷も酷い。

 

「あの馬鹿! 何やってやがるんだ!? しっかりしろ! 一夏!!」

 

その様子を見た神谷が思わずそう声を挙げるが、一夏には聞こえていないらしく、無謀な突撃を繰り返す。

 

するとそこで、映像が切り替わり………

 

今度は、ナギーウとエンキドゥに苦戦しているシャル、ラウラ、箒、鈴の姿が映し出される。

 

「!? アイツ等まで! オイ! お前等!!」

 

とそこで、神谷がその映像に向かって手を伸ばすと、映像は煙の様に消えてしまい………

 

神谷の手は、何も無い空中を摑む。

 

「!? チキショーッ! オイ! 誰か居ねえのか!? 俺を此処から出しやがれ!!」

 

神谷がそう騒ぎ立てる。

 

と、その時………

 

「………神谷」

 

突如として今度は、自分を呼ぶ声を聞こえて来た。

 

「!?」

 

神谷は驚愕を露わにする。

 

何故なら………

 

その声は、自分が良く知る人物の声だったからだ。

 

「こ、この声は!?………まさか!?」

 

神谷が驚きの声と共に、声が聞こえて来た後ろの方向を振り返ると、そこには………

 

「神谷………」

 

そこには、白衣を来た神谷と良く似た中年位の男の姿が在った。

 

「お、親父………」

 

神谷は驚愕したまま、漸くの思いでそれだけ呟く。

 

そう………

 

今神谷の目の前に居るその男は………

 

死んだ筈の神谷の父親………

 

あの篠ノ之 束と並ぶ天才と評された世界的な権威………

 

『天上 譲二』博士の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

瀕死の重傷を負った神谷。
屋台骨を失ったグレン団は空中分解寸前。
特に一夏など、ヒロイン達に当たり散らすなど、カミナを失った直後のシモンよりも酷い状態です。
箒に関しては後でフォローしますので、どうかココは寛大な目で見てやってください。

神谷抜きでリベンジに挑んだグレン団だったが、チームワークはバラバラ。
そして生死の境を彷徨う神谷の前には………
死んだ親父の姿が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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