天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第21話『シャル………ここは俺に任せておけ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第21話『シャル………ここは俺に任せておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋での補習が終わり………

 

IS学園に帰還した一同は間も無く………

 

夏休みを迎えていた。

 

世界の状況は混沌に包まれているが、そんな状況だからか家族の無事を確かめる様に帰郷する生徒達も居た。

 

そんな中、神谷は………

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

一夏と神谷の部屋………

 

「お祭り?」

 

「おうよ。箒の奴の生家の神社でな………毎年この時期に祭りやってんだ」

 

もう1人の部屋の主である一夏の姿は無く、神谷と彼が招待したシャルがそんな会話を交わす。

 

「へえ~、そうなんだ………」

 

「でよぉ、シャル。そいつに行かねえか?」

 

「えっ!?」

 

神谷の言葉に驚きを示すシャル。

 

「そ、それって、ひょっとして………デートのお誘い?」

 

「まあ、有り体に言っちまえばそうだな」

 

照れながらそう尋ねるシャルに、神谷はあっけらかんとそう返す。

 

「昔は一夏や弾の野郎を誘って大暴れしてたんだがな………弾の奴は用事があるみてえでな。一夏も今年は祭りの祭事を箒の奴が手伝うらしいからな………別行動だ」

 

「2人っきりにさせてあげるの?」

 

「まあな。他の連中には悪いが、俺はやっぱアイツには箒の奴が似合いだと思うんでな」

 

「神谷らしいね」

 

そう言う神谷の言葉を聞いて、シャルは笑う。

 

「うん、それじゃあ………行こうかな」

 

「決まりだな。んじゃ、今週末に現地集合って事で頼むぜ」

 

「楽しみにしてるよ、神谷」

 

互いに笑みを浮かべてそう言い合う神谷とシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

シャルとラウラの部屋にて………

 

(えへへへ………神谷からデートのお誘い………あ~んもう! 今から胸がいっぱいだよ~~!!)

 

この間ラウラと出かけた際に買った、白猫の着ぐるみパジャマに身を包んで浮かれた様子のシャルが、枕を抱き締めたままベッドの上でゴロゴロとしている。

 

実はこのパジャマを買いに行った際にとある騒動に巻き込まれたりしたのだが、それは別の話………

 

「シャル?………何をやっているんだ?」

 

とそこで、シャワーを終えたラウラが現れ、そうツッコミを入れて来た。

 

「!? ラ、ラウラ!? う、ううん!! 何でも無いよ!!」

 

慌てて照れ隠しの様に、シャルはそう取り繕う。

 

「そうか? なら良いが………」

 

ラウラは引っ掛かる様なものを感じながらも、それ以上追及する事はなかった。

 

「そう言えば………日本ではこの時期には『夏祭り』と言うものが開かれるらしいな」

 

「えっ? ラウラも知ってたの?」

 

お揃いの黒猫の着ぐるみパジャマに着替えているラウラがそう言ったのに、シャルは驚く。

 

「ああ、クラリッサが教えてくれてな」

 

「クラリッサって………前に言ってた、ラウラの所属してる部隊の副隊長さん?」

 

「そうだ。一夏の事を嫁と呼ぶ様に教えてくれたのもアイツだ。本当に頼りになる」

 

自慢するかの様に誇らしげに語るラウラだが、その人物………『クラリッサ・ハルフォーフ』が得ている日本の知識とは、少女漫画やアニメと言った………

 

所謂、サブカルチャーの知識なのである。

 

一般的な知識とは違うのだが、生憎ラウラも教えているクラリッサ本人もそれに気づいていないから困ったものである。

 

「そ、そうなんだ………」

 

シャルも日本の事をそれ程詳しく知っているワケではないが、明らかに間違っていると思われるラウラの日本観を聞いて苦笑いを浮かべる。

 

「それでクラリッサ曰く………『夏祭り』は男女の仲深める定番イベントの1つらしい」

 

「ひょっとして………一夏を誘う気?」

 

そこでシャルはラウラにそう尋ねる。

 

そうなると、一夏と箒をデートさせるという神谷の計画が台無しになってしまうと危惧した。

 

「いや、残念ながら肝心の夏祭りなるものが何処でやっているか分からないのでな………無念だ。やっている場所さえ分かれば、嫁と一緒に行ったのに………」

 

悔しそうな表情で拳を握りながらそう言うラウラだったが、黒猫の着ぐるみパジャマ姿では迫力が無い。

 

寧ろ可愛いだけである。

 

「そうなんだ………(良かった………ラウラには悪いけど、今回は箒に譲ってあげないとね)」

 

心の中でそう思うシャル。

 

「そう言えば………クラリッサは、夏祭りには『浴衣』が付き物だとも言っていたな」

 

「? 『浴衣』?」

 

「日本の伝統的な衣装だそうだ。夏祭りにそれを着て行くと、男を喜ばす事が出来るらしい。確か映像データが在った筈だが………」

 

クラリッサからの知識を語ると、ラウラは部屋の端末を弄り出す。

 

「………有ったぞ。コレが『浴衣』だ」

 

「どれどれ………」

 

やがてお目当ての映像を見つけるとそう声を挙げ、それに反応したシャルが、その映像を覗き込んで来る。

 

そこには、夏祭りの場を共に浴衣姿になって練り歩いているカップルの写真が在った。

 

当然の様に手は繋がれている。

 

「コレが浴衣………」

 

「何とも簡易な服だ。これでは武器を隠し持つ事も出来んぞ」

 

浴衣に目を奪われるシャルと、ミリタリー点を考察するラウラ。

 

何とも対照的である。

 

(夏祭りにそれを着て行くと、男を喜ばす事が出来るらしい)

 

(僕がコレを着てったら………神谷、喜ぶかな?)

 

先程のラウラの言葉を思い出し、シャルはそんな事を考える。

 

そして脳内に、妄想が展開して行く………

 

 

 

 

(シャル、似合ってんじゃねえか)

 

(そ、そう? ありがとう、神谷)

 

(シャル………)

 

(えっ? か、神谷!?)

 

(もう辛抱堪らん!!)

 

(キャアッ!!)

 

 

 

 

 

(!? わあ~~っ!? 何考えてるの~!? まだ早いよ~~!!)

 

シャルはそこまで妄想して、真っ赤になった顔に手を当ててブンブンと頭を振る。

 

………『まだ』?

 

「オイ、シャル………大丈夫か?」

 

ラウラは、突然奇行に走り出したルームメイトを心配そうな目で見る。

 

(良し! 明日浴衣を買いに行こう!!)

 

しかし、シャルはそんなラウラの事など気にせず、そう決意を固めるとグッと拳を握ったポーズを取る。

 

「………寝よう」

 

ラウラは諦めた様にベッドに向かい、そのまま横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はあっと言う間に流れ………

 

夏祭り当日………

 

篠ノ之神社・境内前………

 

「わああ~~~っ! コレが日本のお祭りかあ」

 

鳥居から神社に繋がる通路の両脇に、連なって出店している出店を見て、シャルが感嘆の声を漏らす。

 

道行く人と出店の店員は皆活気に溢れており、絶えず聞こえる祭り囃子が更に場を盛り上げている。

 

「如何だ、シャル。良いもんだろ」

 

祭りの様子に目を奪われているシャルに向かってそう言う神谷。

 

因みにその格好は………

 

足は地下足袋で、下半身は白いステテコ。

 

晒だけを巻いた上半身に、背中に『祭』と書かれた真っ赤な法被を羽織り、それを止めている半纏帯の後ろ腰にはこれまた『祭』の文字が書かれた団扇を差している。

 

トレードマークの赤いV字型のサングラスに加えて、頭には白い捻り鉢巻きを巻いている。

 

何処からどう見ても、立派なお祭り野郎の恰好だった。

 

「カッコイイね、神谷」

 

そんな神谷の姿を見て、シャルは純粋にそういう感想を漏らす。

 

「サンキューな。お前もその浴衣、似合ってるじゃねえか」

 

「そ、そう? あ、ありがとう………」

 

神谷にそう言われて、照れるシャル。

 

今の彼女は、オレンジの布地に、多数のヒマワリが模様としてあしらわれた浴衣を着て、黄色い兵児帯をリボン結びで締めていた。

 

足元は足袋と草履で決められている。

 

手には浴衣とお揃いの柄の巾着が握られている。

 

(頑張って着方覚えて良かった………)

 

「しかし、浴衣なんて何時の間に用意したんだ?」

 

「いや、ホラ、えっと………日本のお祭りは浴衣で行くのが定番だって聞いたから」

 

「まあ、間違っちゃいねえな………」

 

シャルの言葉に神谷は頷く。

 

「おっし! 今日は心行くまで祭を満喫するぜぇっ!!」

 

「おーっ!」

 

神谷がそう宣言すると、シャルもそれに同意する様に手を上げる。

 

「んじゃ、行くか」

 

「あ、待って!」

 

歩き出そうとして神谷の手を、シャルが取った。

 

「? 如何した?」

 

「もう~、気が利かないな~。こういう時は手を繋ぐものだよ、だって僕達………こ、恋人同士なんだから」

 

「そうだっけか?」

 

「か、神谷~!!」

 

「ハハハッ! 冗談だって!! そんな怒んなよ」

 

「もう~」

 

シャルはハムスターの様に頬を膨らませる。

 

「そら、行くぞ」

 

だがそれに構わず、神谷はシャルの手を引いて、境内へと足を踏み入れた。

 

「あっ!?」

 

一瞬慌てながらもすぐに歩き出すシャル。

 

「さ~て、先ずは何から行くとするか………」

 

神谷は品定めをするかの様に出店をキョロキョロと見回す。

 

「…………」

 

その子供の様に無邪気な笑みを浮かべる神谷の横顔を見て、シャルは頬を紅潮させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2人は、思うがままに祭りを楽しみ出した………

 

神輿担ぎに神谷が飛び入りで参加したり………

 

くじ引きでシャルが特賞を引き当てたり………

 

輪投げでどっちが多く景品を取れるか競い合ったり………(2人共1歩も譲らず景品をゲットし続けた為、店員が泣きを入れて来て引き分けで終わった)

 

綿菓子と杏子飴を2人で食べさせ合ったりと………

 

心底祭りを楽しんでいた。

 

そして今は、休憩所で一息吐いていた………

 

「アグッ! んぐっ! ガツガツッ!」

 

焼きそばにタコ焼き、ベビーカステラにチョコバナナ、フランクフルトにお好み焼きと、屋台で買い漁った食品を次々に平らげていく神谷。

 

「うっ!? 来た!!」

 

その隣で、かき氷を食べていたシャルは、アイスクリーム頭痛を起こした頭をトントンと叩いていた。

 

「んぐっ! んぐっ!………プハーッ! 食った食ったぁ!!」

 

最後にラムネを流し込み、神谷は満足そうにそう言う。

 

「神谷。この後は如何しようか?」

 

「ん~~、そうだな~………まだ花火まで時間があるしなぁ………」

 

シャルにそう言われて、この後の事を考える神谷。

 

「おっ! そうだ!! 一夏達の事でも冷やかしに行くか!!」

 

そこで、まるで悪戯っ子が悪戯を思いついた様な笑みを浮かべてそう言う。

 

「ええっ? 良いの?」

 

「構わねえよ。どうせ一夏(アイツ)の事だ。2人っきりだってのに頓珍漢な事やってるに違いねえ」

 

「うわっ、リアルに想像出来るなぁ、それ………」

 

その光景が容易に想像出来て、シャルは苦笑いを浮かべる。

 

「良し! アイツ等探してみるか!!」

 

神谷はそう言って、シャルと共に、一夏と箒を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「………何で蘭の奴まで居るんだ?」

 

一夏と箒の姿を発見したものの………

 

そこに五反田 蘭の姿までも在る事に困惑する。

 

「一見すると、両手に花状態なんだけど………」

 

「一夏の野郎はそう思ってねえみたいだな」

 

事実上、浴衣姿の美女を2人も引き連れている一夏。

 

周りの男から羨望と嫉妬の入り混じった視線が送られているのだが、一夏は全く気付いていない。

 

と、その時………

 

一夏の右隣を歩いていた蘭が、通行人にぶつかり、一夏の方へ倒れ掛かった。

 

一夏はそんな蘭を自分の胸で受け止める。

 

蘭は一夏の腕の中に居るという事態に軽くパニックを起こし、アタフタとし出す。

 

そして、咄嗟に射的の屋台を指差した。

 

それを見た一夏は皆で射的をやろうとし出す。

 

すると………

 

「アレ?………ひょっとして、アニキ?」

 

(!? ヤベッ!!)

 

神谷の長身が災いして、一夏に姿を見つけられてしまう。

 

(如何するの? 神谷?)

 

(逃げたら逃げたで怪しまれる………しゃあねえ、合流すっぞ)

 

シャルと小声でそう言い合うと、神谷は止むを得ず、一夏を合流するのだった。

 

「「…………」」

 

合流の際に、箒と蘭が恨めしそうな視線を送って来る。

 

(そんな目で見るんじゃねえよ………)

 

その視線に流石の神谷も、若干居た堪れない思いを感じる。

 

「ああ、シャルも一緒だったのか。浴衣似合ってるな」

 

「あ、うん。ありがとう………」

 

若干苦笑いを浮かべながらそう答えるシャル。

 

「ところでよぉ………箒は分かるとして、何で蘭まで此処に居るんだ?」

 

とそこで、合流したならばと神谷がその疑問を一夏に問い質した。

 

「ああ、学校の友達と秋の学園祭でのアイデアを探しに来たらしいんだけど、何か友達は急に帰っちゃって………ふざけるのが好きな子達だったみたいでさあ」

 

(そりゃ気を遣ったんだよ………)

 

気づけよ、と神谷は心の中でツッコミを入れる。

 

「オイ、兄ちゃん姉ちゃん達。店の前で話し込まれると困るんだがなぁ………やるのか? やらないのか?」

 

とそこで、射的の屋台の大将が痺れを切らした様にそう言って来た。

 

「あっと、すみません」

 

「まあ、良いか………親父、やるぞ」

 

それを聞いた一夏と神谷達は、射的の屋台の大将に金を払う。

 

「おっ! そっちの兄ちゃんは兎も角、坊主、女の分まで払うたぁ、甲斐性があるじゃねえか。今時のガキにしちゃあ珍しい………よっし! オマケは無しだ!!」

 

「ええっ!? 何で!?」

 

「決まってるだろう! モテる奴は男の敵だからだ! ガハハハハハッ!!」

 

戸惑う一夏に向かって、大将は豪快に笑う。

 

「…………」

 

先ず最初にコルク銃を構えたのは蘭。

 

その表情は真剣そのもので、まるでプロのスナイパーを思わせる。

 

纏っている空気は、触れれば切れるという事を主張していた………

 

(アイツ………射的得意だっけ?)

 

しかし、一夏と同じくらい蘭との付き合い神谷は、そんな疑問を感じていた。

 

(緊張している………きっと本当は得意じゃないんだ)

 

射撃戦を得意とするシャルも、蘭の様子からそれを感じ取りそう思う。

 

そのままの状態が続いていた蘭だったが………

 

不意に緊張していた表情が緩み、頬が若干紅潮する。

 

すると、良い具合に力が抜けて、その瞬間に引き金が引かれた。

 

放たれたコルク弾は、重そうな鉄の札の支点を捉え、バタリと倒す!

 

「お」

 

「おお?」

 

「おおおっ!?」

 

一夏、箒、大将からそう声が挙がる。

 

「えっ?」

 

だが、撃った本人である蘭は、状況が理解出来ずに困惑する。

 

「そ、その鉄の札を倒すとは………! え、液晶テレビ当たり~~~~~っ!!」

 

「えっ? えっ? え?」

 

如何やら無意識に撃った弾が、最強難易度の景品を落とした様で、一夏達と大将、観客達が一気に沸き立った。

 

「すげえな、お嬢ちゃん。絶対に誰にも倒せない様にして………ああ、いや。何でもない」

 

「は、はあ………」

 

若干狼狽し、思わず本音を漏らしかけた大将に、気の無い返事を返す蘭。

 

「液晶テレビを狙うなんて、すげえな。しかもゲットしてるし。いや、驚いた」

 

一夏が本当に感心した様に拍手をすると、周囲に居た観客達も拍手を送り始めた。

 

「がっはっはっ! 赤字だ赤字! チクショウ、持ってけ~!!」

 

「ど、どうも………」

 

大きめながらもギリギリ持てる大きさの包みを、蘭は大将から受け取る。

 

「良かったな」

 

「そうでしょうか………」

 

「?」

 

大金星を挙げたというのに、浮かない顔をしている蘭に、一夏は首を傾げる。

 

(ありゃりゃ………)

 

(運が良いんだか、悪いんだか………)

 

その射撃が彼女の本意で無かった事を見抜いていたシャルと神谷は、心の中でそう同情した。

 

「ぐっ………」

 

と、そこで………

 

箒の悔しそうな声が聞こえて来て、一夏達がそちらを見やると………

 

そこにはコルク弾を全弾使い切った箒の姿が在った。

 

「箒、相変わらず下手だなぁ」

 

「う、煩い! ゆ、弓なら必中だ!!」

 

そう言って来た一夏に、箒が言い返す。

 

「いや、それ景品壊れるだろ、絶対………ったく、しょうがねぇなあ」

 

一夏はそう言いながら、自分の残弾を箒にあげると、既に装填してあったコルク銃も渡す。

 

「大体、構え方がおかしいんだよ、お前の場合。こうやって、腕を真っ直ぐにしながら、射線に対して真っ直ぐに視線を置いてだな………」

 

そう言いながら、一夏は箒の身体を触って射撃姿勢を取らせる。

 

箒は仏頂面だったが、内心は大慌てだった。

 

(わああああっ!? ち、近っ、近いっ!? て、ててっ、手がっ、体に触れてっ!? うううっ、い、息が顔に掛かる………離れ………て欲しくは、ないけど)

 

「アイツ………」

 

「一夏ってば、また………」

 

ナチュラルに女心を擽る事をしている一夏を見て、神谷とシャルが呆れる様に小声でそう言い合う。

 

「こんな感じだな。うん、如何だ? 分かったか?」

 

「う、うむ」

 

「じゃあ撃ってみろよ。ちゃんと狙えよ」

 

「わ、分かっている!」

 

つい語調を強くしてそう言い返した瞬間、引き金に指が触れて、コルク弾が発射された。

 

「お! ぬいぐるみが当たったな!!」

 

放たれたコルク弾は、クッションとしても使えそうな、少し大きめの1頭身のデフォルメされたペンギンに命中し、落下させた。

 

「おー、嬢ちゃんも上手い事やったな。がっはっはっ、今日は大損だ!!」

 

大将がまたも豪快に笑いながらぬいぐるみを箒に渡す。

 

「………隣の達磨が良かったのだが………」

 

「うん?」

 

「いえ、何でも………」

 

その際に箒がそう呟いたが、慌てて誤魔化す。

 

狙っていた景品とは違った様だが、受け取った際の顔は何だか妙に嬉しそうだった。

 

(ま………及第点って、とこか)

 

そんな様子を見て、神谷はそう思う。

 

「えいっ! ああ、駄目か………」

 

と、そこで、シャルのそう言う声が聞こえて来た。

 

見れば、コルク銃を構えたシャルが、必死に『とある景品』を落とそうとしている。

 

それは、イミテーションだと思われるが、ケースに入って本物そっくりの輝きを放っている指輪だった。

 

「今度こそ………えいっ!………ああ、また………」

 

ISでは射撃戦を得意とするシャルだが、普通の銃とは違うコルク銃を扱い倦ねている様である。

 

そうこうしている内に、弾が尽きてしまう。

 

「ああ………」

 

「ハハハハッ! 嬢ちゃんはイマイチだったみたいだな!」

 

落ち込むシャルに大将が笑いながらそう言う。

 

と、そんなシャルの肩に、神谷の手が置かれた。

 

「シャル………ここは俺に任せておけ」

 

そして神谷が力強く微笑みながら、シャルにそう言う。

 

「神谷………」

 

そんな神谷の姿に頬を染めるシャル。

 

と、そこで………

 

何を思ったのか、神谷は自分の分のコルク弾を全部手で握る。

 

「…………」

 

それを右手だけでお手玉して弄ぶと、シャルが狙っていたケースの入っている指輪を見据える。

 

「兄ちゃん?」

 

「神谷?」

 

「「「??」」」

 

大将もシャルも、そして一夏達も神谷が何をするのか分からず困惑していると………

 

「………そりゃっ!!」

 

何と神谷は、サイドスローで手に持っていたコルク弾を1つ投げ、見事ケースに入った指輪を叩き落とした!!

 

「んなっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

神谷の常識破りの射的に、大将も一夏達も目を丸くして驚いた。

 

「よっしゃあっ! 大当たりだな!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、兄ちゃん!? そんなのアリか!?」

 

「何だよ? ちゃんとコルク弾を当てて落としたろ? 文句あんのかよ?」

 

ツッコんで来た大将に、シレッとそう答える神谷。

 

「た、確かにルール上は問題無いかもしれないけど………」

 

「相変わらず常識に捉われん奴だ………」

 

「スゲェ! スゲェぜ! アニキ!!」

 

常識外れの神谷の射的に呆れる蘭と箒に、対照的に神谷に羨望の眼差しを送る一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

当たった液晶テレビが、やはり荷物として邪魔になった蘭は、兄の弾に引き取りに来てもらう為に、境内を出たところの道路まで行った。

 

一夏と箒も、途中までそれに付き添って行き、もう少し出店を回りたかった神谷とシャルとは別れたのだった。

 

「漸く一夏と箒も2人っきりになれそうだな」

 

一夏と別れてから暫くして、神谷がそう呟く。

 

「そうなの?」

 

その言葉に首を傾げるシャル。

 

「ああ、多分あのシスコンの弾の事だ。荷物を引き取りに来たところで、蘭の奴を連れ帰るに決まってるさ」

 

「そうなんだ………大変だね、その蘭って子も、お兄さんの弾さんも」

 

「ま、一夏に惚れちまったのが運の尽きってヤツだな………おっと! 忘れるところだったな………ホラよ、シャル」

 

とそこで、神谷は先程取ったケースに入った指輪を、ケースごとシャルに投げ渡した。

 

「うわっ、と!?」

 

「お望みの品、確かに渡したぜ。この前やったブレスレット、壊れちまったんだろ? ニセモンで悪いが、改めてプレゼントだ」

 

「あ、ありがとう、神谷」

 

照れながらケースを開けて、中に入っていた指輪を見遣る。

 

「…………」

 

若干頬を紅潮させながら、その指輪をケースから取り出すと、やや躊躇いがちに左手の薬指の填めた。

 

(………何時かは………本物の指輪をこの指に………!! わあ~~っ!? 何考えてるの僕~~!!)

 

思わずパパパパーンッ!な妄想を展開してしまい、シャルは慌ててそれを振り払う。

 

と、その時!!

 

石畳の僅かな段差に足を取られ、シャルの姿勢が前滑りになった。

 

「!? あっ!?」

 

「おっと!!」

 

だが危機一髪、気づいた神谷が支える。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん………ありがとう………! あ!?」

 

と、神谷に支えられながら足元に目をやったシャルが、何かに気づく。

 

「? 如何した?」

 

それに釣られる様に、神谷がシャルの足元を見やると………

 

シャルの右足の草履の鼻緒が切れてしまっていた。

 

「あ~、鼻緒がぁ………」

 

「あちゃ~、やっちまったなぁ」

 

「如何しよう………」

 

途端に困った顔になるシャル。

 

すると………

 

「ホラよ」

 

何と、神谷がシャルの前で背中を向けて座り込んだ。

 

「えっ?」

 

「何やってんだ? 早く乗れよ」

 

「え、ええっ~~~~っ!?」

 

シャルは思わず、驚きの声を挙げてしまう。

 

それで只でさえ集まっていた通行人の視線が、更に2人へと注がれる。

 

「ホラ、如何した?」

 

しかし、神谷はそんな視線など何処吹く風と言う様に、シャルに重ねてそう言う。

 

「う、うん………お、お邪魔します」

 

微妙に間違っている事を言いながら、シャルは覚悟を決めた様に、神谷の背に負ぶさった。

 

「よっ、と!」

 

それを確認すると、神谷はしっかりとシャルを支えて立ち上がる。

 

「「「「「おお~~~っ!!」」」」」

 

ギャラリーと化していた通行人達が、冷やかす様に拍手を送って来る。

 

「ううう………」

 

「んじゃ行くぞ」

 

恥ずかしそうにしているシャルを他所に、神谷はそのまま歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏と箒は………

 

神谷の予想通り、蘭は荷物を引き取りに来た弾によって半ば強制的に帰宅させられる事となり、一夏と箒は再び2人っきりとなっていた。

 

「おー、変わってないな。此処も」

 

現在2人は、花火を見る為の秘密の穴場………

 

神社裏の林の中の一角に来ている。

 

高い針葉樹の林の中には、1ヶ所だけ天窓の様に開けている場所があり、一夏と箒、千冬に束、そして神谷だけが知る秘密のスポットなのである。

 

一夏はワクワクしながら花火が始まるのを待っているが、箒はまたもそれどころではなかった………

 

(い、今は、一夏と私しかいない………そ、それに、その、何だ………ふ、雰囲気も、良い………)

 

悶々としている様子で、そう考えている箒。

 

(こ、こ、これは、こっ、ここっ、告白のっ、チャンスではないだろうかっ!?)

 

祭りの喧騒も聞こえず、虫の音色しか聞こえないこの場所で、自分の心音がヤケにハッキリと聞こえる様な気がした。

 

(いや! でも! しかし! もし………もし断られたら………いや! そんな事はない筈だ! しっかりしろ! 篠ノ之 箒!! お前は自分を誰だと思っている!!)

 

無意識の内に、箒の思考内が神谷の言動の様になり始める。

 

(箒! 自分を信じろ!! 私が信じる、私自身を!! そして!!………私が信じる………織斑 一夏を!!)

 

やがてキッと決意を固めた表情となり、一夏を見やる箒。

 

既にその顔は湯気が出そうなくらい真っ赤っ赤である。

 

「い、一夏!!」

 

「ん?」

 

「わ、私は、お前がっ、すっ………」

 

好きだ………と箒が言おうとした瞬間!!

 

ドーーーンッ!!という、大きな音が轟いた。

 

「おおっ!? 始まったな、花火!」

 

一夏がそう言いながら空を見上げる。

 

如何やら、打ち上げ花火は始まった様だ。

 

「す、す………」

 

肩透かしを喰らわされてしまった箒は、一気に頭が冷えて行く………

 

「ん? 如何した、箒?」

 

一夏はそんな箒を怪訝そうな目で見る。

 

「…………」

 

それに答えず、箒はただ、両手をギュッと握って俯いた。

 

(ううっ………花火などに邪魔されるとは………今日は諦めよう………はあ~)

 

箒は一気に脱力し、心の中で溜息を吐いた。

 

「あ! そうだ」

 

するとそこで、一夏が突然、今まで寄った出店等で買ったり得たりした代物を入れていた紙袋を漁り出す。

 

「?」

 

何だ? と箒が首を傾げた瞬間………

 

「ハイ、箒」

 

一夏がそう言って、紙袋から取り出した物を、箒に差し出す。

 

それは、あの射的屋で箒が本当に狙っていた代物………達磨だった。

 

「!? コレは!?」

 

「本当はそれが欲しかったんだろ? ホラ」

 

驚く箒の手に、一夏は達磨を握らせる。

 

「………如何して?」

 

「ん? それは………っと」

 

何か言いかけて口を閉じる一夏。

 

(アニキが実は取ってたんだけど………その事は言うなって言ってたからなぁ………さて何て言おう………)

 

「一夏?」

 

急に黙って一夏に、箒は怪訝な目を向ける。

 

「うん、まあ、何だ………箒の事だったら、何でも分かるさ」

 

そこで一夏は咄嗟にそう答える。

 

………咄嗟でそんな言葉が出て来る辺りが天然誑しの所以だ。

 

「!?!?」

 

当然、そんな台詞を聞いた箒は、ボッボッボッと言う音と共に顔を真っ赤に染める。

 

「あう、あう、あう………」

 

そのまま意味不明な言葉が口から漏れ出す。

 

「ほ、箒? 大丈夫か?」

 

思わず一夏が心配する様にそう言う。

 

「い、一夏………」

 

真っ赤な顔を見せたくない様に、俯いて一夏の事を呼ぶ箒。

 

「お、おう?」

 

「その………ありがとう」

 

そう言いながら少し顔を上げて、箒は呟く様に言った。

 

その瞬間に、また花火が天に咲き誇り、その光で頬を上気させた箒の、はにかんだ上目遣いな顔が照らし出される。

 

「!?(ドキッ!?)」

 

その顔を見た瞬間、一夏の胸が一際大きく高鳴った。

 

(ア、アレ!? ほ、箒………だよな?)

 

一瞬目の前の少女が箒だと信じられず、一夏は内心で狼狽する。

 

「き、綺麗だな! 花火!!」

 

そんな内心の狼狽を鎮める様に、一夏は若干大声を挙げて、花火の方に向き直った。

 

「ああ………」

 

箒も、まだ頬を染めたまま、一夏から貰った達磨を抱き締める様にして花火に向き直る。

 

(うう~~っ!? 如何しちまったんだぁ、俺!?)

 

未だに狼狽が治まらず、一夏はガシガシと右手で頭を掻く。

 

すると………

 

「…………」

 

何と箒が大胆にも、一夏の左腕にそっと自分の腕を絡めてきた!!

 

「!?」

 

「…………」

 

硬直する一夏。

 

箒も箒で、何も言葉が出ずにいる。

 

結局………

 

2人は花火が終わるまで、無言でその状態を続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

時間は花火開始の時刻まで戻り………

 

草履の鼻緒が切れてしまったシャルを背負った神谷は、帰路に着いていた………

 

「おっ? 始まったか………」

 

すると、背後の空で轟音と共に閃光が煌めいたのを見て、足を止めると振り返る。

 

「わあ~………綺麗だね」

 

夏の夜空に色取り取りに咲き誇る花火を見て、そう感嘆の声を漏らすシャル。

 

「だな………やっぱ夏祭りのシメは花火よ」

 

神谷も、夜空に咲く一瞬の芸術に感心する。

 

「あの、神谷………ホントにゴメンね。僕が慣れない草履なんかで来たせいで迷惑掛けちゃって………」

 

「馬鹿野郎。迷惑なんて幾らでも掛けやがれ。幾らでも笑って許してやるよ」

 

またも申し訳無さそうにするシャルに、神谷は力強く笑ってそう言う。

 

「神谷………」

 

「それに………コイツはコイツで結構役得だしな」

 

「??」

 

「う~ん、柔らけえな~」

 

神谷は何かの感触を確かめる様にそう言う。

 

「?………!? あっ!?」

 

そこでシャルは、神谷が感じているのは、彼の背中に当てている自分の胸の感触である事に気づく。

 

「か、神谷のエッチ!」

 

「言っただろう。男は皆スケベな生き物だってな!」

 

「も~う………」

 

頬を膨らませて抗議する様にそう怒るシャル。

 

「…………」

 

しかし、すぐにフッと笑うと、神谷の首に手を回して抱き付く。

 

「………ありがとう、神谷」

 

「へっ」

 

耳元で呟かれた言葉に、神谷はニヤッと笑って見せる。

 

そのまま神谷は、シャルを背負ったまま、花火の明りに照らされて帰路に就いて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

夏祭り編の夏祭りイベントに、神谷とシャルをお邪魔させてお送りしました。
前にも言いましたが、この作品の一夏のメインヒロインは箒で行きます。
今回以後、彼女への優遇措置が取られる事が多くなると思いますので予めご了承ください。
夏祭りイベントはホント定番ですね。

さて次回からはオリジナル夏休みエピソードとなります。
バトル物の話となります。
ヒントは、『東映まんがまつり』です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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