これは………
女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………
それに付き従う女達の物語である………
天元突破インフィニット・ストラトス
第24話『集まったかぁ! グレン団の野郎共!!』
ドラゴノザウルスの騒動から暫し日が経ち………
IS学園の夏休みも、残り僅かとなっていた。
生徒達は残り少ない休みをエンジョイする者と、溜めていた宿題を大慌てで片付ける者に分かれ、残る休みを過ごしている。
帰省していた生徒達も、次々と寮へと戻り始めている。
中には帰省して、そのまま退学した者達も少なからず居たが………
そんな中………
学園に居る生徒達の間で………
ある噂が持ち切りとなっていた。
その噂とは………
IS学園・学生寮………
食堂………
「幽霊船?」
一夏が冷やし中華を食べている手を止めてそう言う。
「ガツガツ! んがんが!」
その隣では、10杯目となるカツ丼を平らげようとしている神谷の姿も在った。
因みにその隣にはシャルが居り、一夏の方も箒を中心にセシリア、鈴、ラウラが集まっている。
「そうなんだよ~。私は見た事無いけど、皆は見たって~」
その一同と一緒の席に居る本音ことのほほんが、ゆったりとした口調でそう言う。
「わ、私、そう言うお話はちょっと………」
「ぼ、僕も………」
その手の話が苦手なのか、セシリアとシャルが怖がっている様な様子を見せながらそう言う。
「どうせ何かの見間違いでしょ?」
「非科学的だ」
対照的に、その噂をそう一刀両断する鈴とラウラ。
「ホントだよ~! 私の友達も見たって言ってるし~!」
(友達が見た、っていうのって、怪談話の常套句だよな………)
のほほんは手をバタバタさせながらそう言うが、一夏は内心でそう思ってしまう。
「一体どんな噂なんだ?」
とそこで、箒が改めてそう尋ねる。
「え~とね………草木も眠る丑三つ時に、IS学園が面している海の沖合に………何の前触れも無く霧が掛かって、巨大な船が現れるそうなの」
「益々眉唾物ね………」
のほほんは思いっきり怖い迫力を出しながら語るが、その姿は全然怖くなく、寧ろ鈴から呆れの声が挙がった。
「む~! 少しは怖がってよ~~!………あ、そう言えば………その幽霊船には、スッゴイお宝が積まれてる、って噂もあるんだよ」
「………お宝?」
と、今までマイペースに食事を続けていた神谷が、お宝と言う単語に反応して動きを止める。
「? アニキ?」
「フッフッフッ」
首を傾げる一夏の横で、神谷は不気味な笑いを響かせるのだった………
◇
その深夜………
IS学園が面している海の波止場にて………
「集まったかぁ! グレン団の野郎共!!」
「お、お~」
「「「「「…………」」」」」
波止場の船止めに足を掛けている神谷が、集合している一夏達にそう声を掛けるが、返事が返って来たのは一夏だけだった。
箒、セシリア、鈴、ラウラは不機嫌そうな表情を浮かべており、シャルも苦笑いを浮かべている。
「良いかぁ! 不敵にもこのグレン団様が居るIS学園の海に! 幽霊船の野郎が現れやがった!!」
そんな一同の様子も気にせず、神谷は演説する様にそう言葉を続ける。
「学園の連中を怖がらせている幽霊船を放ってはおけねえ!! 一丁、俺達グレン団が悪霊退治と行こうぜ!! ついでに幽霊船のお宝も頂いちまおう!!」
「アンタの目的はソッチでしょうが!?」
お宝と言う単語が出た瞬間、鈴がそう指摘する。
「くだらん………幽霊など非科学的だ。存在する筈が無い」
「夜更かしは美容の大敵なんですわよ。私、帰らせていただきます」
ラウラとセシリアがそう言い、寮に帰ろうとする。
「ちょちょちょちょ! 待ってくれよ! ラウラ! セシリア!」
一夏が慌てて止める。
「一夏! お前からも神谷に何か言ってやれ!!」
「コッチには夜中に叩き起こされて、いい迷惑なのよ!!」
しかし、そんな一夏に箒と鈴が食って掛かった。
「い、いやだって………アニキがああなったら止まらないのは2人が良く知ってるだろ?」
「「だからと言って限度があるぞ!!(わ)」」
「うひぃっ!?」
ステレオで怒鳴られ、一夏は思わず怯む。
「シャルロットさん! 貴女も何か言ってやりなさい!!」
「そうだぞ、シャルロット」
「え、えっと~」
セシリアとラウラも、シャルにそう言って同意を呼び掛ける。
シャルは如何したものかと困惑する。
すると、その時………
「ヒヒヒヒヒヒヒ………」
突然、不気味な笑い声が辺りに響き渡った。
「!? ちょっと一夏! 変な声出さないでよ!!」
「えっ!? いや、俺何も言ってないぜ?」
鈴が一夏に抗議するが、一夏は何も言っていないと言う。
「何っ?」
と、箒が驚きの声を挙げた瞬間………
神谷達が居る波止場から見える沖合に………
何の前触れも無く、突然霧が掛かった!!
「「「「「!?」」」」」
箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラが驚く。
「ア、アニキ!!」
一夏も狼狽しながら神谷に声を掛ける。
「出やがったな」
只1人神谷は、待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
やがて、沖合に立ち込めていた霧の中に………
巨大な船の様なシルエットが浮かび上がった!!
「「「「で、出たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」
箒、セシリア、鈴、シャルが悲鳴を挙げる。
そして即座に、箒、セシリア、鈴が一夏の後ろ。
シャルが神谷の後ろに隠れた。
「レーダーにもセンサーにも反応が無いだと………馬鹿な………こんなにハッキリと見えているのに………」
一方ラウラは、ISのセンサー部分だけを展開して、霧の中に浮かんでいる船の正体を確かめようとしたが………
こんなにもハッキリとシルエットが浮かんでいるにも関わらず、レーダーやセンサーには何の反応も浮かんでいなかった。
「ま、まさか………本当に幽霊船が………」
「あの中にお宝が有るのか………よっしゃあっ!!」
震えている一夏とは対照的に、神谷はワクワクを100倍にするとパーティーの主役になろうとするが如く、波止場から飛び降りて、下に停めてあった大きめの手漕ぎボートに乗り込む。
「!? 神谷!?」
「ちょっ!? アニキ!? 何する気だよ!?」
シャルと一夏が、慌ててそう問い掛ける。
「決まってんだろ! あの幽霊船の幽霊どもを退治して、お宝を頂戴するのよ!!」
ボートを係留していたロープを外しながら、神谷はそう言う。
「そんな! 無茶苦茶だよ!!」
「そうだよ神谷! 本当に幽霊が出て来たら如何するの!?」
一夏とシャルは、そう言って止めようとしたが………
「決まってんだろ! ブン殴るまでよ! 幽霊と喧嘩が出来るなんざ、滅多にねえ機会だから!!」
神谷は当然の様にそう言い返した。
この男に怖い物なんてあるのだろうか?
「アニキ!?………ああ、もう!!」
とそこで、一夏が髪を掻き毟ると、神谷の乗っているボートに飛び乗る。
「!? 一夏!!」
「一夏さん!?」
「「一夏!?」」
そんな一夏の行動に驚く箒、セシリア、鈴、ラウラ。
「俺も行くよ、アニキ。アニキだけ行かしたとあっちゃあ、弟分の名が廃る!」
「そう来ると思ったぜ、一夏!」
一夏と神谷は、そのまま2人で出港準備に入る。
「ええい、全く! お前等という奴は!!」
「神谷! 僕も行くよ!!」
とそこで、箒とシャルがボートに飛び乗る。
「箒!? シャル!? ああ、もう!!」
「わ、私も!!」
「嫁が行くのなら、私もだ!」
そして更に続いて、鈴、セシリア、ラウラがボートに飛び乗った。
「おわっ、ととっ!? 乗り過ぎだよ!?」
次々にボートに乗り込まれた為、危うく転覆しそうになり、一夏が思わずそう言う。
「さあ、行くぜ、一夏!! グレン団の船出だ!!」
と、船首の片足を掛け、腕組みをしたポーズを取って、神谷がそう言い放つ。
「! お、おう!!」
それを聞いた一夏は、オールを手に取り、ボートを漕ぎ始めた。
そのまま、沖合に出現した霧の中を目指して行く。
「待ってろよ~! 幽霊船!! グレン団の鬼リーダー! 神谷様が相手になってやるぜ!!」
海風にマントを棚引かせながら、神谷がそう言う。
「ア、アニキ………手伝ってよ………」
と、1人必死にオールを漕いでいる一夏がそう呟く。
「しっかりしなさい、一夏! 男でしょ!?」
「ファイトですわ、一夏さん!」
「私の嫁なら、それぐらい1人で如何にかしろ。でないと戦場で生き残れんぞ」
「一夏! 何時もの気合で如何にかしてみせろ!!」
「頑張って、一夏」
鈴、セシリア、ラウラ、箒、シャルが無慈悲にもそう一夏に言う。
「う、うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」
すると一夏は、自棄になったのか、凄まじいスピードでオールを漕ぎ始めた。
神谷達の乗るボートは、凄まじいスピードで進み出す。
「うおっ、と!? 流石だぜ、兄弟! もっとスピードを上げろい!!」
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」
神谷はそれに気を良くしてそう言うと、一夏は更にスピードを上げた。
ボートは霧の中へと突っ込む。
すると………
その眼前に、巨大な影が立ち塞がった!!
「「「「「「!?」」」」」」
一夏を除く一同が、その巨大な影を見上げる。
それは、ボロボロの船体に、同じくボロボロの帆を差して、風も無いのに進んでいる巨大帆船………
幽霊船の影だった!!
「ゆ、幽霊船!!」
「まさか………本物ですの!?」
「信じられん………」
幽霊船の実物を目にした鈴、セシリア、ラウラが驚きの声を挙げる。
「このままではぶつかる! 一夏! ボートを止めろ!!」
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」
と、ボートが一直線に幽霊船へと衝突コースを取っている事に気づいた箒が一夏に停止を促すが、熱くなっている一夏の耳には届かない。
「ぶ、ぶつかる!?」
シャルが叫んだ時、既にボートは衝突を回避できない距離まで近づいていた。
「チイッ!!………!? アレだ!!」
と、そこで神谷が、何かを見つけた様に声を挙げた。
その次の瞬間!!
ボートは幽霊船の船首に激突!!
そのまま転覆し、幽霊船に押し潰される様に沈没して行った………
「………ふう~~~、あっぶねえとこだったぜ」
それを見ていた神谷が、そう声を挙げる。
間一髪のところで、幽霊船の錨が半分降りている事に気づいた神谷が、その錨を繋いでいる鎖目掛けて跳躍し、しがみ付いたのである。
そして、それに倣う様に、シャル達も跳躍して、鎖へとしがみ付いたのだ。
「一夏! この馬鹿者が!」
「ボート沈めちゃって如何すんのよ!!」
「うう………ゴメンナサイ………」
箒と鈴の、ダブル幼馴染の罵倒に、一夏はシュンとなる。
「仕方ありませんわ。帰りはISを使って帰りましょう」
「止むを得ないな。非常事態だ」
帰りの足について、セシリアとラウラがそう言い合う。
「兎に角! 幽霊船に着いたんだ!! 早速お宝を探すぜ!!」
と、そこで神谷がそう言って、鎖を登り始めた。
「あ、神谷! 待って!」
その下に居たシャルがすぐに神谷を追う。
「取り敢えず、この船に乗り込むか………」
そして、一夏達もそれに続いて、船に乗り込んで行くのだった。
幽霊船の甲板………
船体がボロボロな幽霊船は、やはり甲板もボロボロであり、所々に穴が開き、床板が腐っていた。
「へっ! いかにもな雰囲気じゃねえか」
「ほ、本当にコレ………幽霊船なの?」
ワクワクしている神谷と対照的に、ビクビクしている鈴がそう言う。
「何だぁ、鈴? ビビッてんのか?」
「ビ、ビビッてなんかいないわよ! ビビッてなんか!!」
神谷のからかう様な言葉に、そう反論する鈴だったが………
「うらめしや~~~」
そこで一夏が、持って来ていた懐中電灯で、顔を下から照らしてそう言った。
「!? ぎにやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」
「キャアッ!?」
鈴は奇天烈な悲鳴を挙げて、近くに居たセシリアにしがみ付く!!
「アハハハハハッ! いや~、そんなに驚いてもらえるとはなぁ」
それを見た一夏が、満足そうに笑う。
「~~~~~っ!!」
途端に、鈴はセシリアから離れると、一夏の弁慶の泣き所を蹴っ飛ばした!!
「#$%&*+@?!」
声にならない悲鳴を挙げて、一夏は足を押さえて転げ回る。
「さいってい! 死ね、馬鹿!!」
「一夏さん、今のは感心しませんわよ」
「そうだよ、一夏。女の子を怖がらせるなんて」
「全くだ」
「猛省しろ………」
鈴、セシリア、シャル、ラウラ、箒から容赦無く罵声が浴びせられる。
「す、すみませんでした………」
自分に非が有るだけに、反論は出来ず、素直に謝罪する一夏だった。
「オイ、何時までも遊んでないで、さっさとお宝探しに行くぜ」
とそこで、仕切り直す様に神谷がそう言う。
「うむ。宝は措いておくとしても、こんな不審な船を放っておくワケにはいかんな。徹底的に調査すべきだ」
軍人であるラウラが、生真面目に考えてそう言い放つ。
「アイテテテ………しかし、コレだけデカい船となると、手分けして捜索した方が良いんじゃないか?」
と、やっとの事で痛みが引いて来た一夏が、立ち上がりながらそう言う。
「確かにな………よ~し! 手分けしてお宝を探すぞ!!」
「いや、アニキ。お宝も良いけど、この幽霊船の正体も調べてね………」
相変わらずお宝探しに燃えている神谷に、一夏はそうツッコミを入れる。
一方、箒達はと言うと………
((((………一夏〈さん〉〈嫁〉と一緒に!!))))
一夏と一緒のチームになる事という思惑を浮かべていた。
(………神谷と一緒だったら良いな~)
そしてシャルも、そんな期待に胸を膨らませる。
その後………
公平を期す為に、じゃんけんによる組み分けが行われ、結果は………
一夏&箒チーム………
「うう~………やっぱり不気味だな」
幽霊船の船内を、恐る恐ると言った様子で歩いている一夏。
「一夏。何を怖がっている。それでも男か?」
対照的に、その前を行く箒は堂々としており、微塵も怖がってはいなかった。
「そう言ってもさ~………(箒の奴、良く平気だな………こういうの得意なのか?)」
愚痴る様に呟きながら、一夏はそんな箒の様子に感心する。
だが………
(ま、まさか本当に一夏と2人っきりとなるとは………イカン! 落ち着け! 落ち着くのだ、篠ノ之 箒! 何時も通りに振舞えば良い!!)
実は、内心一夏と2人っきりになれた事が物凄く嬉しくて、舞い上がりたい気分なのだが、持ち前の性格がそれを許さず、高揚した気分のまま何時も通りの振る舞いを見せているのだ。
つまり、今の箒の心には、恐怖と言う感情が入る隙が無いのである。
「さあ行くぞ。この船の正体を突き止めるんだ」
そう言うと、そのまま物怖じせず、ズンズンと歩を進め出す箒。
「あ、オイ、箒! ちょっと待ってくれよ!!」
慌てて一夏がその後を追う。
(しかし、何だ……こういう状況では………手、手を繋いだ方が良いのか?)
と、箒が内心でそう思った瞬間………
箒の右手を、冷たい手が握って来た。
(ひゃあっ!? な、何だ、一夏の奴………分かってるじゃないか)
その冷たい手に驚きながらも、一夏の行動に満足げな笑みを浮かべる。
「しかし、一夏。随分と手が冷たいな。冷え症か?」
「えっ? 箒? 何言ってんだ?」
箒がそう指摘すると、後ろから一夏の声が聞こえて来た。
「えっ?」
箒が驚きながら振り返ると、一夏は自分の後ろの少し離れた位置に居て、自分と手を繋げる状態ではない。
「で、では………この手は?」
恐る恐る箒は、自分の右側を確認する。
そこには………
「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」
骸骨の様な顔に、青白く丸っこい身体で、足が無い物体………
所謂、漫画やアニメ等で描かれる幽霊(ゴースト)の姿が在った。
「「…………」」
箒と一夏は、一瞬思考が停止する。
「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」
そして、幽霊が再び不気味な笑い声を挙げた瞬間………
「「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」
悲鳴を挙げて、来た道を戻り始めた!!
「出た! 出た出た出た出たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
「幽霊~~~~~~~っ!!」
大慌ての様子で疾走している一夏と、泣きながら走っている箒。
強がっていてもやはり女の子………
幽霊とかには弱かった様である。
「!? あうっ!?」
と、その時!!
腐りかけた床板を踏み抜いてしまい、箒が転ぶ!!
「!? 箒!!」
それを見た一夏が、すぐに引き返し、箒を助けようとした瞬間………
通路の床全体にヒビが入り、そのまま崩壊した!!
「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」
一夏と箒は、悲鳴と共に暗闇の中へと落下して行く。
「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」
幽霊は、2人が落ちて行った暗闇を見遣りながら、不気味な笑い声を響かせるのだった。
一方、その頃………
別の組………
セシリア、鈴、ラウラチームは………
「ん?」
「如何しました? ラウラさん」
「今、一夏の悲鳴が聞こえた気がしたのだが………」
突然足を止めたラウラに、セシリアが尋ねると、そういう答えが返って来た。
「一夏さんの? それって………」
「んも~~っ! 如何してアイツが一夏と一緒なのよ~~!!」
セシリアが言葉を続けようとした瞬間、イライラしていた様子の鈴がそう声を挙げる。
如何やら、一夏が箒と一緒のチームになったのが気に入らない様だ。
「あの女~、夏休みに何か距離縮めてた感じがしてたけど………まさかこの機に乗じて一気に既成事実にまで持ち込む気なんじゃ」
「き、既成事実!?」
「有り得るかもしれんな………好都合な事に、今は2人っきりの状態だ」
鈴がブッ飛んだ考えに至り、狼狽するセシリアを尻目に、ラウラが肯定的な意見を返す。
そんな事は有り得ないのだが、一夏絡みとなるとこの3人は目の色が変わる。
「そうだとしたら、のんびりとはしていられないわ! とっとと捜索なんて終わらせて、一夏を連れ戻すわよ!!」
と、鈴がそう言いながら、手近に有った船室へのドアを開く。
如何やらそこは食堂だった様であり、ボロボロのテーブルクロスが掛かった長いテーブルに、罅割れている食器が置かれっ放しになっていた。
「此処は食堂みたいですわね………」
セシリアがそう言う中、3人はその船室へと入り込む。
すると………
突然、セシリア達が入って来たドアが、独りでに閉じられた!!
「!? ドアが!?」
「ちょっと!? 如何なってるのよ!?」
鈴がすぐに、ドアを開けようとするが、ノブを回す事が出来ない。
「退いていろ!!」
すると、ラウラが拳銃を取り出し、ドアノブを破壊しようと試みる。
その瞬間!!
突如飛んで来た皿が、拳銃を持ったラウラの手に命中した!!
「!? ッ!?」
思わず拳銃を落としてしまうラウラ。
その次の瞬間………
食堂に置かれていたテーブル、椅子、食器等が、宙に舞い始めた!!
「!?」
「ポ、ポルターガイスト現象!?」
「何っ!?」
宙に舞った品々は、驚いていた鈴、セシリア、ラウラへと襲い掛かる。
「キャアッ!?」
伏せたセシリアの頭の上を通り過ぎ、壁にブチ当たって砕け散る食器。
「ちょっ!? 冗談じゃ! ないわよ!!」
弾丸の様に飛んで来る椅子を、鈴は軽業師の様な身の熟しで回避する。
「クウッ!!」
凶器となって襲い掛かって来るナイフやフォークを、ラウラはコンバットナイフで叩き落とす。
だが、3人は気づかなかった………
宙に舞っている品々が、自分達を1箇所に集め始めている事に………
「「「!?」」」
やがて飛んで来る物をかわしている内に、1箇所に集められた3人は、背中をブツけ合ってしまう。
その瞬間!!
ボロボロのテーブルクロスが、3人に覆い被さって来た!!
「!? キャアアッ!?」
「何よ、コレ!?」
「グウッ!?」
急に視界を塞がれ、混乱しながらもテーブルクロスを外そうとするセシリア達だったが、次の瞬間!!
その姿が、パッと消えてしまった!!
暴れていたテーブルクロスが床に落ちて広がる………
「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」
誰も居なくなった船室に、不気味な笑いが木霊するのだった………
そして………
神谷&シャルチームは………
「ううう………」
ビクビクとした様子で、シャルは神谷の腕にしがみ付いている。
「オイ、シャル。歩き難いぞ」
「だ、だってえ~~」
神谷がそう言うが、シャルは心細そうな声を発して、神谷の腕から離れようとしない。
「ぼ、僕、こういうの苦手で………」
「何言ってんだよ。もう何度も獣人野郎を相手に戦ってるじゃねえか」
「ああいうのとは、怖さのベクトルが違うんだよ~」
と、シャルがそう言った瞬間………
バキッ!と言う音が響き渡った!!
「!? キャアッ!?」
シャルは可愛らしい悲鳴を挙げて、更に神谷へ抱き付く。
「何だ? 何か居るのか?」
一方神谷は、その音がした方向へズンズンと歩いて行く。
「ちょっ! 神谷! 確かめに行くの!? 本当に幽霊だったら如何するの?」
「そうだな………動物園にでも売り飛ばすか!」
ニヤリと笑いながら、神谷はそう言い放つ。
『恐いもの知らず』とは、この男の為に有る様な言葉だ。
「ちょっ! 神谷~!………!? うわっ!?」
すると、神谷の腕に抱き付いたままだったシャルが、突然転ぶ。
「!? オイ、大丈夫か? 何で転んだんだ?」
「アイタタタタ………な、何かが足を摑んで………」
と、シャルが転んだまま自分の足を見遣ると………
床から飛び出した骨の腕が………
シャルの足を摑んでいた。
「えっ?」
そうシャルが声を挙げた瞬間………
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」
地の底から聞こえてきそうな怨念の声と共に、ボロボロの服を纏った骸骨が飛び出して来た!!
「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」
悲鳴を挙げるシャルに、骸骨は奇声と共に襲い掛かる。
と、その途端!!
「オラアッ!!」
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」
骸骨は神谷のハイキックを受けて、バラバラになった!!
「えええっ!?」
あまりの光景に、シャルは思わず驚きで目が点になる。
と、バラバラになった骸骨の頭が、2人の傍に落ちて来たかと思うと、そのまま顎をカタカタと鳴らし始めた。
「ひいっ!?」
「な~にがカタカタだ、コラ」
その骸骨の頭を、神谷は鷲摑みにして持ち上げる。
「オイ、お宝は何処にあんだ?」
神谷の問いに、骸骨は顎をカタカタと鳴らす。
しかし、それは相手を恐怖させる動きでは無く、自分が恐怖している為に出ている動きだった。
「チッ! 喋れねえのかよ………ったく」
そう言うと神谷は、その頭を無造作に放る。
骸骨の頭はそのまま通路の端に転がった。
「………神谷って、本当に怖い物知らずだね」
「あったりめえよ」
呆れながらそう言って来るシャルを、立たせてやる神谷。
そのまま2人は、通路を進んで行く。
そして、1つのドアの前に行き着く。
「此処は………船長室みたいだね」
「船長室か………お宝の匂いがプンプンするぜ」
神谷は何の躊躇いも無く、船長室の扉を開け放つ。
「あ、待って!」
シャルも慌ててその後に続く。
船長室内も、他の場所と同様にボロボロであり、カビの臭いが漂っていた。
「うう、カビ臭い………」
「何処だ? お宝は?」
カビ臭さに怯むシャルとは対照的に、神谷は船長室内を家探しし始める。
すると………
「立ち去れ~」
何処からとも無く、そう言う声が響いて来た………
「!? ひゃああっ!?」
「あん?」
シャルと神谷がその声が聞こえた方向を向くと、そこには………
「立ち去れ~此処から立ち去れ~」
額縁に入れられて、壁に掛けられていた絵が、口を動かしながらそう呟いていた。
「え、絵が喋ってる!?」
「立ち去れ~此処から立ち去れ~」
シャルが震えると、額縁の絵は畳み掛ける様にそう言って来る。
「オイ、お宝は何処だ?」
と、神谷がその絵に向かってそう問い質す。
「立ち去れ~此処から立ち去れ~」
「だから、お宝は………」
「立ち去れ~此処から立ち去れ~」
「………アチャアーッ!!」
と神谷は、いきなりその額縁の絵に向かって、パンチを繰り出した!!
額縁の絵はブチ抜かれ、物理的に沈黙する。
「ちょっ!? 何やってるの、神谷!?」
「だってよ~、コイツが人を無視して喋るからよぉ」
またも驚くシャルに、神谷は相変わらずシレッとそう言い放つ。
と、神谷が手を引くと、額縁の絵が外れる。
その後ろに隠し棚が有り、宝箱が鎮座していた。
「おおっ!? コイツは!?」
「ホントに有ったの!? お宝!?」
驚くシャルを他所に、神谷は嬉々として宝箱を棚の中から取り出す。
「へへへ、何が入ってるのかな~」
そして、そのまま宝箱を開けようとした瞬間………
「アニキーーーーーーーッ!!」
一夏の声が響き渡って来た。
「!? 一夏!?」
「甲板の方から聞こえたよ!」
「チッ! 何かあったのか!?」
神谷は宝箱を開けるのを中断すると、それを手に持ってシャルと共に甲板目指して駆け出す。
幽霊船・甲板………
「一夏ーっ! 何処だあーっ!!」
甲板に出るや否や、そう叫ぶ神谷。
「!? 神谷! あそこ!!」
するとシャルが、頭上のメインマストを指差す。
「!?」
神谷が見上げると、そこには………
ロープで縛られ、メインマストから吊り下げられている一夏達の姿が在った!
「アニキーッ!!」
「神谷!!」
「シャルロットさ~ん!!」
「早く助けなさ~い!!」
「クッ! 不覚を取った………」
吊り下げられている一夏達が、そう声を挙げる。
「皆!」
「待ってろ! 今助けてやるぞ!!」
と、神谷がそう言った瞬間………
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」
床板をブチ抜いて、またも動く骸骨が出現した!!
「うわぁっ!? また出た!!」
「!!」
と、神谷がその飛び出した骸骨の両肩を摑む!!
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」
そしてそのまま、飛び出して来た穴へと押し戻す………
「って! 帰るかぁ! アホンダラァッ!!」
と、その次の瞬間!
骸骨は、そう怒りの声を挙げて飛び出す。
「何だよ、ノリ悪いなぁ………」
ウンザリしている様な表情で、そう言う神谷。
「うぬうっ!!」
「舐めやがってぇっ!!」
「幽霊舐めるなよ、コラァッ!!」
「ウラアアッ!!」
「ホワチャーッ!!」
するとその途端!
怒りの声と共に、無数の骸骨達が甲板の床を勢い良くブチ破って次々に登場した。
「………こんなに生き生きしてるの? 幽霊って?」
そんな活きの良い幽霊を見て、何だか怖がっているのが馬鹿らしくなり、シャルは呆れながらそう呟いた。
「大人しくその宝を置いて行け~~っ!!」
「然も無いと呪い殺してやるぞぉ~~~~っ!!」
生き生きながらも不気味な様子を醸し出し、骸骨達はそう訴え掛ける。
「へっ!冗談じゃねえ! この神谷様が、一度手にしたモンをそう易々と手放せるかよ!?」
神谷は、宝箱を片手で掲げる様に持ってそう言い放つ。
「小癪なぁ! 掛かれぇっ!!」
「「「「「「「「「「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」
甲板に現れた骸骨達が、一斉に神谷とシャルに向かって行く。
「うわぁっ!?」
「シャル! コレ持って伏せてろ!!」
と、シャルが驚いていた瞬間、神谷が宝箱を渡して来た。
「神谷!?」
シャルが宝箱を受け取りながら神谷を見遣ると、その瞬間神谷はグレンラガンの姿となった。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」
そして気合を入れて螺旋力を高めたかと思うと、フルドリライズ状態となる。
「!!」
それを見た瞬間、シャルは宝箱を抱えて床に伏せる。
「グレン! ハリケエエエエエェェェェェェーーーーーーーンッ!!」
神谷の叫びと共に、グレンラガンは全身のドリルを高速回転させて、アッパーカットを繰り出す様なポーズを取った。
「「「「「「「「「「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」
途端に、凄まじい突風が甲板一体に吹き荒れ、骸骨達はバラバラになって吹き飛んだ!!
しかし………
「ちょっ!? マストが!?」
「倒れる!?」
やり過ぎたのか、メインマストが根元から折れ、倒れそうになる。
「!? やっべ!?」
グレンラガンは慌てて先回りし、倒れそうになっている方向から支える。
「うおっ!? お、重い!!」
しかし、かなりの大きさを誇るメインマストだけに、グレンラガンは支えるだけで精一杯となる。
「オノレエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ! 現代っ子めええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」
と、その瞬間!!
微妙に間違った怒り方をしながら、バラバラになった骸骨達が1つに纏まり、巨大な骸骨となった。
「うええっ!? ちょっ! タンマ!!」
メインマストを支えていて動けないグレンラガンはそう言うが、骸骨がそれに応じる筈も無く、容赦無く襲い掛かって来る。
「おわあっ!?」
グレンラガン大ピンチ!!
と、その瞬間!!
「このぉっ!!」
何時の間にかISを展開したシャルが、骸骨に向かって両手からガルムを発砲した!!
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」
巨大骸骨の頭蓋骨が消し飛ぶ!
「おおっ! ナイスだ! シャル!!」
「き、効いた………幽霊にも攻撃って効くんだ………」
歓声を挙げるグレンラガンに対し、攻撃が効いた事に驚いているシャル。
「よし、今の内に一夏達を………」
「その必要は無いわ」
と、一夏達の救出に向かおうとしたところ、ISを展開した鈴達が降りて来る。
「!? お前等!」
「幽霊だと思って、正直ビビっちゃったけど………」
「攻撃が効くのなら、別に怖がる事はありませんわ」
「全くだ………」
鈴、セシリア、ラウラがそう言って、頭の無い巨大骸骨に、龍砲、スターライトmk-Ⅲ、大型レールカノンを向ける。
「!?」
「私達はIS専用機持ちだ」
「運が悪かったね………幽霊さん!」
巨大骸骨が驚いている様な様子を見せると、箒が雨月・空裂、一夏が雪片弐型と雪羅を構える。
「「「「「成仏しろ〈しなさい〉!!」」」」」
全員がそう言ったかと思うと、一斉攻撃が骸骨目掛けて叩き込まれた!!
「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!? これだから最近の若い奴はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」
またも微妙に間違った断末魔を挙げて、巨大骸骨は粉々に吹き飛んだ!!
しかし、勢い余ったのか幽霊船まで吹き飛び始める!!
「! やっばっ! やり過ぎた!?」
「逃げるぞ!!」
「「「「!?」」」」」
一夏がそう言うと、神谷がそう叫び、一同は慌てて幽霊船から離れて行った。
IS学園が面している海の波止場………
一夏達が波止場に着陸すると、幽霊船は真っ二つに折れ、そのまま沈没して行った………
「幽霊船が沈む………」
(可哀そうに………アニキの前に現れなきゃ、こんな事にはならなかったのに………)
箒がそれを見ながらそう呟き、一夏が内心で幽霊船の幽霊達に同情する。
「へっへっへっ! いよいよお宝が拝めるぜ!」
しかし、船を沈める事になった大元の原因である神谷は、沈む幽霊船に全く興味を示さず、宝箱の開封に掛かっていた。
そして、遂に宝箱が開け放たれる。
「よっしゃあ!!」
嬉々として蓋を開ける神谷だったが………
宝箱の中に入っていたのは、黒い小さな粒ばかりだった。
「な、何だこりゃあ!?」
その黒い粒の正体が分からず、神谷は困惑する。
「(ペロッ)………コレは胡椒だ」
と、その黒い粒を指に付けて、少し舐めてみたラウラがそう言う。
「胡椒~っ!?」
「そうか………昔は胡椒が金と同じ価値が有る時代が有ったから………」
「何だよ! 骨の折り損のくたびれ儲けかよ!!」
神谷はそう言って、波止場に寝転んだ。
「「「「「「…………」」」」」」
すると、そんな神谷を一夏達が驚いた表情で見据えている。
「? んだよ?」
「アニキが難しい言葉を使ってる………」
「明日は嵐か?」
首を傾げた神谷に、一夏と箒のそう言うヒソヒソ声が聞こえて来る。
「ズコッ!? テメェー等はなあ!!」
ズッコけながら、神谷は大声を挙げるのだった。
こうして………
IS学園を騒がせた幽霊船騒動は………
何ともお粗末な結果を残して終息したのだった………
つづく
新話、投稿させて頂きました。
夏休み編、最後という事で、夏らしく肝試し的な話をお送りする………
………筈だったのですが、いつの間にか神谷無双になってしまいました(笑)
さて、次回から2学期編。
あの生徒会長が登場します。
次回のエピソードから、オリジナル要素が強くなります。
その辺を予めご了承ください。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。
新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は
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天元突破ISと同時
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土曜午前7時
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別の日時(後日再アンケート)