天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第27話『それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第27話『それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第3アリーナ………

 

その空中では、楯無が自分の愛機………『ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)』を装着した状態で浮かんでいた。

 

観客席には、例によって一夏と楯無が戦うと言う情報を入手した生徒達が、ギャラリーとして集まっている。

 

「さ~て、面白い事になったぜ………」

 

そんなギャラリーの中に混じっていた神谷は、購買で購入したポップコーンを片手に、試合が始まるのを待っていた。

 

「アハハ………何でこんな事になっちゃったんだろうね?」

 

ちゃっかりその隣に腰掛けているシャルが、苦笑いを浮かべながら、同じ様に集まって来ていた箒、セシリア、鈴、ラウラに向かってそう言う。

 

「あのバカが………」

 

「一夏さんったら、もう………」

 

「アイツ、最近益々神谷に似て来てる気がするわ………」

 

「全くだ………」

 

箒達は一夏の無謀とも言える行為に、憮然とした表情を浮かべていた。

 

「あっ! 一夏が来たよ!」

 

とそこでティトリーがそう声を挙げる。

 

一同の視線がアリーナの射出口に注がれると、そこからカタパルトを使って、白式を装着した一夏が飛び出した。

 

「遅かったね。レディーも待たせるなんて、紳士失格だよ」

 

楯無が挑発する様に、一夏に向かってそう言うが………

 

「生憎、生まれてこの方、紳士なんて言葉には縁が無くてね。不良とかって言われた事はあるけど」

 

一夏は気にした様子も無く、シレッとそう言い返す。

 

「(カチンッ!)ふ、ふ~んそう………じゃあ、お姉さんが教えてあげるよ………紳士な男の子の在り方ってものをね!!」

 

楯無はそう言うと、水を螺旋状に纏ったランス………蒼流旋(そうりゅうせん)に内蔵されていた4門のガトリングガンを向けて発砲する。

 

「! ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

しかし一夏は、雪片弐型を身体の前で構えると、両手でプロペラの様に高速回転させた。

 

ガトリングガンの弾丸は、回転する雪片弐型の刃に当たって、斬り落とされる。

 

「フッ!!」

 

弾丸を全て斬り落とすと、雪片弐型を右手に構え直し、楯無に向かおうとしたが………

 

「!? いない!?」

 

先程まで楯無が居た場所に楯無の姿が無く、一夏は慌ててハイパーセンサーをチェックする。

 

だが………

 

「遅い!!」

 

楯無のそう言う声が響いたかと思うと、一夏の背中に衝撃が走った!!

 

「!? ぐああっ!?」

 

一夏が悲鳴を挙げると、シールドエネルギーが減少する。

 

「くうっ!!」

 

反射的に、後ろを振り向きながら雪片弐型を振るう。

 

「よっ、と」

 

しかし、楯無は軽々と躱してしまう。

 

「まだまだぁっ!!」

 

だが、一夏は雪羅から荷電粒子砲を見舞う。

 

「甘い!」

 

しかし、荷電粒子砲は、ミステリアス・レイディの水のヴェールに防がれる。

 

「如何したの? 今のじゃ有効打って認められないよぉ~」

 

「舐めるなぁ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

楯無の台詞に、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、一気に楯無との距離を詰める。

 

「………その台詞………嫌いだよ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そう言うと、楯無は一夏が振り下ろしてきた雪片弐型の刃を、蒼流旋で受け止める。

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏はそのまま楯無を連続で斬り付けて行くが、楯無はその全てを軽く往なしてしまう。

 

「一夏の攻撃を全て往なしている………」

 

「ランスでは、懐に入られれば不利の筈ですのに………」

 

「やるわね………」

 

「学園最強の名は伊達ではないと言う事か………」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラが、その様子を見てそう呟く。

 

「へえ~~、やるじゃねえか、生徒会長の奴」

 

しかし神谷は、呑気にそう言いながら、相変わらずポップコーンを頬張っていた。

 

「神谷、やっぱり無茶だったんじゃない? 生徒会長は学園最強なんだし………」

 

シャルが、一夏の事を心配して、そんな事を言うが………

 

「馬鹿野郎! 相手が最強だとか名乗ってるんなら、そいつを乗り越えて進むのが漢ってもんよ!!」

 

神谷はそう反論する。

 

「でも………」

 

「それに俺が勝てたんだ! 弟分の一夏が勝てねえ筈がねえ!!」

 

「如何言う理論!?」

 

相変わらずの神谷節に、思わずツッコミの声を挙げるシャル。

 

「ま、そう心配すんなって………食うか?」

 

カッカッカッと言った具合に笑うと、神谷は持っていたポップコーンをシャルに差し出す。

 

「あ! 頂きまーす!」

 

すると、後ろの席に居たティトリーから手が伸びて、ポップコーンを摑んだ。

 

(むうっ)

 

それに若干ムッとしながらも、シャルも神谷からのポップコーンを頂いたのだった。

 

その間にも、一夏と楯無の攻防は続いている。

 

(クソッ! 攻撃が全て往なされる! 何て人なんだ!!)

 

楯無に斬撃を出し続けながらも、一夏は内心で戦慄する。

 

先程から、一夏の攻撃は全て蒼流旋で受け止められては逸らされ、場合によってはキックで逸らされる事もあった。

 

「フフフ、一夏くん。コレで分かって貰えたかな? IS学園生徒会長の強さが?」

 

そんな一夏に向かって、楯無は勝ち誇る様に言って来る。

 

「ああ、認めるよ………貴女は強い………」

 

楯無に向かって攻撃を繰り出し続けながら、一夏はそう呟いた。

 

「なら!」

 

「それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!」

 

だが、何か言おうとした楯無を遮って、一夏はそう吠える。

 

「…………」

 

そんな一夏の言葉に、楯無は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

 

「生意気な子は………お姉さん、嫌いだよ!!」

 

そして、不意打ち気味に、一夏に向かって前蹴りを繰り出した!!

 

「!? グハッ!?」

 

楯無の繰り出した前蹴りが腹に命中し、一夏は大きく後ろにブッ飛ぶ。

 

「ゲホッ! ゲホッ! クソッ!!」

 

咳き込みながら如何にか静止し、体勢を立て直そうとする一夏。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、楯無はそんな暇は与えないとばかりに、蒼流旋で突きを繰り出して来た!!

 

「!!」

 

(さあ、如何する、一夏くん!? 避けようとしても無駄だよ。全ての回避パターンは予測済み。如何逃げても当てられるよ!!)

 

驚く一夏を見ながら、楯無は内心でそう思う。

 

だが、一夏が選んだ行動は………

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

避けるでも防ぐでも無く………

 

『迎え打つ』だった!!

 

「!? 何っ!?」

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

迫り来る蒼流旋での突きに向かって、黄金に輝く雪羅の手の部分を繰り出す!!

 

蒼流旋での突きとシャイニングフィンガーが真正面から激突!!

 

激しいエネルギーのスパークが、辺りに迸る!!

 

一部はアリーナのバリアにまで到達。

 

神谷達の眼前でも激しい火花を散らした!!

 

「キャアッ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

目の前で散るスパークに、シャルとティトリーが思わず声を挙げる。

 

「「「「!?」」」」

 

箒達も驚きを示す。

 

「おお、綺麗じゃねえか」

 

しかし、神谷は1人平然と構えて、花火でも見ているかの様にしていた。

 

「ぐうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

「くうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

拮抗する一夏と楯無のぶつかり合い。

 

やがて、蒼流旋が纏っていた水の螺旋が、シャイニングフィンガーの熱で蒸発し始める!!

 

「!? うそっ!?」

 

「このまま押し切る!!」

 

楯無が驚いたのを見て、一夏はそのまま押し切ろうとする。

 

「くうっ! 神谷くんと言い、君と言い! 本当に驚かさせてくれるね!!」

 

だが、楯無はそう言うと、両手で握っていた蒼流旋から左手を離し、その手に蛇腹剣………ラスティー・ネイルを出現させる!!

 

「せやあっ!!」

 

そして、押し合っていた一夏に、不意打ち気味に伸ばした刃を叩き込んだ!!

 

「ぐはっ!?」

 

火花を散らしてぶっ飛ばされる一夏。

 

「クウッ!!」

 

そのままアリーナの地面に叩き付けられそうになったが、回転して着地する。

 

「けど、そんな戦い方して、シールドエネルギーは大丈夫かな? 私にはまだ有効打を入れられてないけど?」

 

「クッ!!」

 

楯無の言葉を聞いた一夏が、苦い表情を浮かべる。

 

彼女の言う通り、白式のエネルギーは既に残り少なくなっていた。

 

第二形態移行(セカンドシフト)し、パワーアップした一夏の白式だが………

 

雪羅の使用や、スラスター増設による副作用で、益々エネルギー消費が悪くなっている。

 

只でさえ、零落白夜が自機のエネルギーを攻撃に転用する技なだけに、燃費については以前より悪くなったと言っても良いかも知れない。

 

(エネルギーは残り僅か………何としても楯無さんに有効打を入れないと………けど、有効打を与えるには零落白夜を使うしかない………楯無さん、それを知ってか、まるっきり隙を与えてくれない………)

 

一夏は冷静に今の状況を分析する。

 

神谷が熱さに任せて突っ走るタイプな為、そんな神谷のフォローに回る事が多かった一夏は、本人も知らぬ内に冷静な思考と分析力が身に付いていた。

 

(………待てよ?………有効打って事は、別に零落白夜を使わなくても………真面な1撃を喰らわせれば良い、って事だよな?)

 

ふと一夏の脳裏に、そんな考えが思い浮かぶ。

 

(何か………何か手は?)

 

そこで、一夏は白式の機能について再チェックを掛ける。

 

(!? コレは!?)

 

すると、とある機能に目が行く。

 

「ボーッとしてて良いのかな!?」

 

とそこで、痺れを切らしたかの様に、楯無が突っ込んで来た!!

 

ラスティー・ネイルを戻し、再び蒼流旋に水の螺旋を纏わせての突撃!!

 

「!?」

 

一夏は驚きながらも、先程の機能の事を思い出す。

 

「………一か八かだ!!」

 

すると、一夏はその場で仁王立ちする!!

 

「!? 一夏!?」

 

「何をやっていますの!?」

 

「アイツ! 気でも狂ったの!?」

 

「避けろ! 一夏!!」

 

それを見た箒、セシリア、鈴、ラウラが慌てて叫ぶ。

 

「アイツ………何かする積りだな」

 

しかし、神谷だけは分かっているかの様にそう呟いた。

 

「神谷!? 一夏は何を考えてるの!?」

 

「神谷は分かるの!?」

 

シャルとティトリーが、そう尋ねて来るが………

 

「まあ、黙って見てな」

 

神谷はそんな答えを返す。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏目掛けて迫り来る蒼流旋。

 

「…………」

 

それを見ても、なお仁王立ちを続ける一夏。

 

「諦めたの!? だったら終わりにしてあげるよ!!」

 

その瞬間に、楯無は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

 

残っていた距離を一気に詰めた!!

 

蒼流旋が一夏に命中する!!

 

「!? 今だ!!」

 

………かと思われたその瞬間!!

 

一夏は僅かに身体を左へとずらす。

 

蒼流旋は直撃せず、一夏の右脇腹を抉る様に命中!!

 

シールド状で火花を散らす!!

 

「ぐあああっ!?」

 

シールドで防がれてはいるが、衝撃は一夏の身体に伝わり、悲鳴が出る。

 

「! うおおおおっ!!」

 

だが、一夏はそれをやせ我慢し、蒼流旋を右腕と脇で挟み込む様に抑え込んだ!!

 

激しく火花を散らしていた蒼流旋だが、やがて完全に止められ、楯無の動きが止まる!!

 

「!? 嘘っ!? けど、シールドエネルギーは大きく削られた筈! その状態じゃ、零落白夜は………」

 

「零落白夜なくても………俺にはコレが有る!!」

 

楯無は驚きながらもそう言うが、一夏はそう叫んで拳を握った雪羅を楯無に向ける!!

 

その瞬間、轟音が響いたかと思うと………

 

楯無の身体がブッ飛ばされ、地面に倒れた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

アリーナに居た観客に生徒達は、何が起こったのか分からず呆然となる。

 

「「「「「「「!?」」」」」」

 

箒達も、何が起こったのか分かっていない。

 

「一夏の野郎………中々燃える事してくれるじゃねえか」

 

しかし、神谷は一夏が何をしたのか見えていた様で、そんな事を呟く。

 

その視線の先には………

 

アリーナの地面に拳の部分を突き刺す様に埋まっている………

 

雪羅の姿が在った。

 

では、その瞬間を今一度見てみよう………

 

それは、一瞬の出来事だった!!

 

白く、堅く、強い!!

 

その威風堂々たる巨大な拳が、全てのケリを着けた!!

 

誰もが思いもしなかった出来事………

 

ISの基礎機能の応用!!

 

一夏がそれに気づいた瞬間!!

 

白き騎士は構えた………

 

己が左腕を………

 

楯無生徒会長が驚く!

 

だが、時既に遅し!!

 

何故なら、まだ未熟な一夏の、本人も知らぬ未知なる力が、無意識にその巨体を構えさせた!!

 

そして!

 

放たれる1撃! 必殺の力!!

 

その名を!

 

その名を!!

 

その名を!!!

 

その名を!!!!

 

その名を!!!!!

 

その名を!!!!!!

 

「ロケットォ! パアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーンチッ!!」

 

爆発と共に射出された白式の左腕………雪羅が、楯無の身体に真面に命中!!

 

「!? ぐはあっ!?」

 

まさか腕がブッ飛んで来るとは思っていなかった楯無は、その攻撃………

 

漢ならば、1度は誰もが使ってみたいと思う、必殺武器………

 

己の魂を込めた拳を、ブッ飛ばすロマンの兵器………

 

『ロケットパンチ』の直撃を受けた!!

 

楯無はそのまま地面に叩き付けられ、雪羅はアリーナの地面に減り込んだ。

 

「………やった………やったぞぉ!!」

 

一瞬呆然としていた一夏だったが、やがて自分の勝利を確認し、ガッツポーズを決めながら叫びを挙げる。

 

「ちょ、ちょっと待って! そんなの有り!? パーツパージ機能を攻撃に使うなんて!?」

 

喰らった楯無も呆然としていたが、一夏の叫びを聞いて、慌てて身を起こしながらそう言って来た。

 

そう、実は一夏の使ったロケットパンチ………

 

本来は攻撃用ではない機能を使っての攻撃だったのである。

 

ISは万が一量子化システムが故障し、装着者がISを装備したままの状態となってしまうという事態を想定し、パーツを其々にパージする事が出来る機能が有るのだ。

 

本来ならば、緊急時の非常用措置としての機能なのだが、一夏はこれを攻撃に転用したのである。

 

当然の事だが、パーツをパージすれば、そのパーツが担っていた機能は使えなくなるし、射出したパーツが破壊されてしまうと言う恐れもある。

 

普通の人ならば、思い付いたとしても先ずやらない行為である。

 

しかし、一夏は普通では無かった。

 

神谷と一緒に喧嘩に明け暮れ、勝つか死ぬかのロージェノム軍との戦いを経験してきた一夏にとって、思い付いた手段は即座に実行するものである。

 

命の遣り取りの中で迷って居ては、命が幾つあっても足りないからだ。

 

「何言ってるんですか? パーツパージ機能を攻撃に使用してはならないってルールはありませんでしたよ?」

 

一夏はシレッと楯無にそう言い放つ。

 

「そ、それはそうだけど………」

 

「取り敢えず、楯無さんに1撃喰らわせたから、勝負は俺の勝ちって事で良いですね?」

 

何とか言い包め様とした楯無だったが、何か言う前に一夏がそう言葉を続けた。

 

「い、いや、でも………」

 

「アレ? まさか生徒会長ともあろう方が、約束を違えるんですか?」

 

「うぐうっ!?」

 

言葉に詰まる楯無。

 

暫しの間沈黙していたかと思うと………

 

「………分かったわ………ルール上………私の負けね」

 

苦い顔を浮かべながら、そう呟いた。

 

「いよっし!!」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた一夏が、再びガッツポーズを決めると、ギャラリーの生徒達が歓声を挙げた。

 

「…………」

 

その歓声に律儀にも答えている一夏を尻目に、楯無は逃げる様にアリーナを後にして行く………

 

「ハッハッハッハッ! 流石一夏! それでこそ俺の弟分だぜ!!」

 

一夏の勝利に満足そうにしながら、神谷は空になったポップコーンの袋を丸める。

 

「アイツめ………」

 

「まさかあんな攻撃手段を思いつくなんて………」

 

「普通やらないわよ、あんな事………」

 

「しかし、だからこそ敵の虚を衝く事が出来たと言えるな………」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラも、一夏が使った意外な攻撃手段に、舌を巻いていた。

 

「凄かったねえ、ティトリー」

 

シャルも驚きを露わにしたまま、ティトリーに話し掛ける。

 

しかし、先程までいた筈のティトリーの姿は、何処にも無かった………

 

「アレ? ティトリー?」

 

「何時の間に?」

 

「アイツ………時々唐突に姿を消すわよね」

 

シャル、ラウラ、鈴がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

そんなシャル達を見ながら、神谷は何やら考えている様な顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのティトリーはと言うと………

 

アリーナの裏手、人気の無い場所で………

 

[首尾は如何だ?]

 

「中々難しいよぉ~。一夏も神谷も、他の専用機持ちも、中々隙を見せないし………」

 

チョーカーに付いた鈴に向かって何やらボソボソと話していた。

 

如何やら、鈴が通信機になっている様だ。

 

[そうか、分かった。お前はこのまま任務を継続しろ。くれぐれも獣人だとばれない様にな]

 

通信先の相手がそう言って来る。

 

「う、うん………分かってるよ」

 

ティトリーはその言葉に、若干詰まりながら返事を返す。

 

何せ既に楯無に見破られており、神谷にも知られているのだ。

 

[? 如何した?]

 

「えっ!? う、ううん!! 何でも無い!!」

 

それに気づかれて、ティトリーは慌てて誤魔化す。

 

(でも………如何して神谷はアタシを獣人と知りながら、庇ってくれるんだろ………?)

 

心の中に、そう疑問が湧き上がる。

 

[ティトリー………]

 

すると再び、通信先の相手から声が響いて来た。

 

「えっ!? な、何っ!?」

 

ティトリーは若干慌てながら返事をする。

 

[この任務、何としても成功させるんだぞ。そうすれば、螺旋王様も四天王様もお前を処分しようと言うのは思い留まって下さる筈だ]

 

「! う、うん………分かってるよ」

 

通信先の相手からその話を聞いた途端、ティトリーは表情を曇らせた。

 

[では、余り長話をしていたも怪しまれるな。これで定時報告は終えるぞ]

 

「了解………」

 

通信先の相手とそう言い合い、ティトリーは通信を切断した。

 

「…………」

 

そのまま、曇った表情のままで呆然と立ち尽くしているティトリー。

 

「やるしかないんだ………だって、アタシは………獣人なんだから」

 

そしてその表情のままでそう呟き、その場から立ち去ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

神谷と一夏の部屋………

 

「やるじゃねえか、一夏! 生徒会長の奴のあの悔しそうな顔ったらなかったぜ!!」

 

神谷は改めて、楯無に勝利した一夏を褒めていた。

 

「いや、アレは運が良かったんだよ。俺の実力じゃ………」

 

「何言ってやがる! 運も実力の内! 流石は俺の弟分だぜ!!」

 

「アニキ………」

 

神谷に褒めちぎられ、一夏の気分は最高潮まで達しようとしている。

 

「よっしゃあっ! 今夜は飲めや歌えやの大宴会だ!!」

 

「いや、それはマズイよ。千冬姉に怒られる」

 

しかし、止める所は止めるのであった。

 

「何だよ、ノリワリィなぁ」

 

「アニキは何でも無いかもしれないけど、千冬姉に怒られる事ほど、俺に取って憂鬱な事は無いんだよぉ」

 

幼き頃から千冬の折檻を受けている一夏にとって、千冬は尊敬する姉であると同時に恐怖の対象である。

 

「ったく、情けねえなぁ………分かったよ、取り敢えず、祝いは後だな」

 

「ゴメンね、アニキ。その代わり、今日は先にシャワー使って良いから」

 

「おっ! そうか、すまねえな! じゃあ遠慮無く」

 

一夏にそう言われて、神谷は着替えとバスタオルを用意するとシャワールームへ入って行った。

 

「フウ~~」

 

残った一夏は、椅子に腰掛けると、備え付けの机の方に向き直る。

 

(それにしても………そもそも如何して楯無さんはアニキと戦ってたんだ? それに、俺にあんなに拘りを見せて………)

 

そこで、楯無についての疑問を思い浮かべる。

 

戦いにこそ勝ったものの、結局は多くの謎が残されており、釈然としない気持ちが、一夏の心を埋め尽くしていた。

 

(正直、戦ってみて分かったけど、楯無さんがそんなに悪い人だとは思えない………けど、アニキは理由も無く喧嘩を売る様な男じゃない………一体、2人の間に何があったんだ?)

 

考えを巡らせるが、堂々巡りであり、答えが見つけられない。

 

(うう~~ん、一体何が………)

 

それでも必死に頭を回転させ、答えを見つけようとしている一夏。

 

(不良と生徒会長の対立………ってな感じじゃなかったしな~)

 

「だ~れだ?」

 

するとそこで不意に、一夏の視界が塞がれ、そう言う声が聞こえて来た。

 

「うわっ!? た、楯無さん!?」

 

「ピンポ~ン! 正解!!」

 

一夏はその声を聞いて、楯無の物であると判断したものの、楯無は正解だと言いながらも、一夏の視界を塞いだままである。

 

「もう、一体何ですか、楯無………さ~~んっ!?」

 

視界を塞いでいる楯無の手を外しながら、一夏は振り返り、そのまま叫びを挙げた。

 

「なぁに? 一夏くん?」

 

楯無はそんな一夏に向かって微笑みながらそう言う。

 

「何じゃありませんよ! 何って格好してるんですか!?」

 

一夏は慌てながら更に叫ぶ。

 

現在の楯無の恰好は………

 

所謂、『裸エプロン』の姿だったのだ。

 

「うふふ………」

 

すると、楯無は微笑んだまま、一夏に背を向ける。

 

「うわあぁっ!?」

 

益々慌てる一夏だったが………

 

「じゃん! 水着でした~」

 

楯無はケラケラと笑ってそう言う。

 

その言葉通り、裸エプロンかと思われた楯無の恰好は、実は水着エプロンだった。

 

………それはそれで素晴らしいが。

 

「…………」

 

「んふ。残念だった?」

 

「そ、そんなワケないでしょう!」

 

「あは。顔赤いわよ?」

 

「うっ………い、一体何の用ですか!?」

 

徐々に楯無のペースに持って行かれそうになり、一夏は慌ててそう尋ねた。

 

「…………」

 

それを聞いた楯無は、真面目な表情になると、再び一夏の方に向き直る。

 

「一夏くん。神谷くんは何を考えているの?」

 

そして、一夏にそう尋ねて来た。

 

「えっ?」

 

「神谷くんは獣人のスパイ………ティトリー・キャッツを庇ったわ。一体何の考えが有ってそんな事をしたの?」

 

「!? ティトリーが獣人のスパイ!?」

 

楯無の言葉に、一夏は驚きを示す。

 

「そうよ。巧妙な偽装がされていて、書類上でも見破れなかったけどね………でも私は確かに見たわ。あの子が獣人だって事を。そして………神谷くんもね」

 

「…………」

 

「でも彼は彼女を庇った。一体如何して!? 彼にとっても獣人は憎むべき敵の筈よ!」

 

「確かにロージェノムはアニキの父さんの仇さ。でも………アニキは憎しみだけで戦ってるんじゃないと思う」

 

「えっ?」

 

一夏の思わぬ言葉に、今度は楯無が驚きを露わにする。

 

「上手く言えないけど………アニキはどんなに大変な目に遭ったって、いつも笑ってた。何ていうか、アニキは………」

 

「底無しの馬鹿って事?」

 

「………そうかも知れないな。けど、馬鹿ってのは許せないな」

 

楯無を若干睨みながらそう言う一夏。

 

「だから獣人と知ってても庇うって言うの? 彼女を信じるって言うの? 有り得ないわ」

 

「確かにそうだ。でも………アニキはそう言う男だ。そして………アニキが信じるなら、俺も信じる。ティトリーは俺達の友達だ」

 

「………兄弟揃って本当に馬鹿ね! そんな甘い考えが通じると思ってるの!?」

 

今度は楯無が一夏を睨みながらそう言うが………

 

「いや、あの………そんな恰好で言われても、イマイチ説得力が無いんですが………」

 

そこで一夏は、楯無から目を逸らしながらそう言う。

 

「うぐっ!?(私のペースに持ち込む為にして来た恰好が裏目に出たわね………)」

 

言葉に詰まり、内心で己の失策を責める楯無。

 

と、その時………

 

「オイ、一夏。誰と話してるんだ?」

 

シャワーを浴びていた神谷が、一夏達の話し声に気づいて、シャワールームから出て来た。

 

………全裸で。

 

長身に引き締まった肉体が惜しげも無く晒され、更に股間には男の象徴たる巨大な『ドリル』が、天高く隆々とそそり立っている。

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

迫力のある『ドリル』を直に見てしまった楯無は、悲鳴を挙げて、そのまま気絶してしまった。

 

「た、楯無さん!?」

 

「あ? 何で生徒会長が居るんだよ?」

 

慌てる一夏とは対照的に、神谷は不思議そうに首を傾げている。

 

「ア、アニキ! 取り敢えず、パンツを!!」

 

「一夏! 神谷! 何だ今の悲鳴は!?」

 

一夏が慌てながらそう言おうとしたところ、今度は玄関の扉の向こうから、箒の声が響いて来る。

 

稲荷寿司を作ったので、一夏に食べてもらおうと持ってきたところ、楯無の悲鳴を聞いてしまった様だ。

 

「ほ、箒!? だ、駄目だ! 今は入るな!!」

 

そう叫ぶ一夏だが、時既に遅し!

 

扉は開かれ、慌てた様子の箒が飛び込んでくる!!

 

「一夏!」

 

「よお」

 

そして、部屋に飛び込んだ箒が最初に見たものは………

 

シャワールームから全裸で出て来ていた神谷と、その股間の巨大なドリルだった。

 

「#$%&¥@+*?!」

 

声にならない悲鳴を挙げて、箒もそのままバタリと倒れてしまう。

 

「わあ~~っ!? 箒~っ!?」

 

「何だってんだよ? 2人して………」

 

「アニキーッ! 兎に角パンツを穿いてくれ~~~~っ!!」

 

ワケが分からずキョトンとしている神谷に向かって、一夏は疲れた様子を見せながらそう叫ぶのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日………

 

余りにショックな出来事だった為か………

 

楯無と箒の記憶から、この1件はポロリと消え去っており………

 

無理に思い出そうとすると酷い頭痛に見舞われる様になったそうだ。

 

まあ………

 

それが彼女達にとって、1番良いのかも知れない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

一夏VS楯無の戦い。
学園最強の名は伊達ではなく、苦戦する一夏だったが、男のロマン兵器『ロケットパンチ』で一発逆転を掴む。

その夜に、楯無からティトリーが獣人のスパイである事を聞かされる一夏だったが、神谷が信じるものを彼も信じると返す。

段々と熱血になってきた一夏の成長具合が見れた回だったかと思います。
そして楯無と箒はトラウマが………(笑)

次回から学園祭開幕。
あのキャラやあのキャラも登場しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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