天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第28話『お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第28話『お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティトリーや楯無の騒動から時は流れ………

 

とうとうIS学園の学園祭が開催された。

 

一般公開はされていないので花火は上がらないが、生徒達の盛り上がりっぷりは半端では無かった。

 

そして、神谷と一夏が居る1年1組の出し物………

 

『猫耳ご奉仕喫茶』だった。

 

「嘘!? 1組であの織斑くんの接客が受けられるの!?」

 

「しかも執事の燕尾服!」

 

「プラス犬耳!!」

 

「それだけじゃなくて、ゲームもあるらしいわよ?」

 

「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!! ツーショットよ、ツーショット!! これは行かない手はないわね!!」

 

いや、正確にはそこで働く一夏が人気なのである。

 

何せ一夏は学園に2人しか居ない男の片方な上、見た目で敬遠されがちな神谷と違い、顔もそれなりにハンサムだ。

 

それが執事姿で接客してくれるのである。

 

しかも、ネコ耳喫茶ながら、一夏にはコッチの方が似合うと犬耳にされている

 

女子としてこんなチャンスを放って置く手は無かった。

 

「いらっしゃいませニャン! こちらへどうぞ、お嬢様」

 

接客担当班の中で、一際楽しそうにしているシャル。

 

何せ彼女は、以前成り行きからメイド喫茶のアルバイトをした事があるのだが………

 

男装が似合うと言う理由で執事服を着させられてしまい、メイド服を着れなかったのである。

 

幾ら男装が似合うと言ってもシャルも女の子。

 

可愛いものが好きな女子として、メイド服には憧れが有った。

 

それが念願叶って着られたのである。

 

喜びも一入だった。

 

「ティトリーちゃんの猫耳、すっごく良く出来てるね?」

 

「ホントホント、何処で買ったの?」

 

そして、猫耳メイドの姿が1番良く似合っているティトリーには、クラスメイトや客から質問が飛んでいた。

 

「え、えっと………これはその………自前で………」

 

「あ~、自前なんだぁ」

 

「ティトリーちゃんってこだわり派だったんだね~」

 

「ニャ、ニャハハハハハ………」

 

クラスメイト達の声に苦笑いを浮かべるティトリー。

 

勿論、この耳は本物である。

 

だが、周りには自分と同じ猫耳の少女が沢山居る為、結構手が込んでいる作り物として見られており、本物だと気づく人物は居なかった。

 

(ティトリー………)

 

楯無から事情を聞いていた一夏を除いて………

 

(まさかアニキ………ティトリーの為に猫耳メイド喫茶にしようなんて………)

 

一夏がそんな事を考えていると………

 

「お~い、繁盛してるかぁ?」

 

客引きに出ていた、当の神谷が戻って来た。

 

その恰好は、下半身は裾がボロボロになっているドカン、足には下駄。

 

上半身は晒を巻いた上に、袖が肩口から無くなっている長ラン。

 

頭にはつばがギザギザになっている学帽を被って、その上にどら猫の様なボロボロのネコ耳を付け、口には先の方に葉っぱが付いた茎を咥えていると言う………

 

ネコ耳の部分を除いて、まるで漫画からそのまま飛び出して来た様な『番長』の恰好をしていた。

 

「あ、アニキ! お疲れ!!」

 

「おう。繁盛してるみてぇだな」

 

「アニキが客引きしてくれてるお蔭だよ、きっと」

 

繁盛している様子を見てそう言う神谷に、一夏はそう返す。

 

出し物を決めた際に、神谷は接客など出来そうにないというクラス全員の意見と本人の弁もあり、接客では無く客引きの仕事に就いていた。

 

実際、神谷の恰好が目立つものであったのと、神谷自慢の強引な誘いで、客引きはそれなりに上手く行っている。

 

「しかし、何でお前は番長スタイルなのだ?」

 

「知らねえよ。衣装を届けに来た奴が俺を見るなりこっちの衣装を寄越しやがったんだ。まあ、気に入ったけどな」

 

ラウラに尋ねられて、神谷はそう返事を返す。

 

「良いな~、アニキ。俺もそっちが良かったなぁ」

 

と、一夏がポツリとそう漏らすと………

 

「「「「「「「「「「それだけは絶対に止めて!!」」」」」」」」」」

 

1組の生徒達と、客として来ていた他のクラスの生徒達が、声を揃えて一斉にそう言って来た。

 

「うわっ!?」

 

その声に一夏は驚く。

 

(神谷くんは似合ってるし、本人も気に入ってるから別に良いけど………)

 

(一夏くんのあんなダサい格好なんて見たくないわ!!)

 

困惑する一夏を尻目に、小声でそう話し合う生徒達だった。

 

「何だってんだよ?」

 

「ちょっと、そこの執事。テーブルに案内しなさいよ」

 

すると、そんな一夏にそういう声が掛けられた。

 

「おう、鈴………何してるの、お前?」

 

振り返った一夏は、鈴の姿を見てそう言う。

 

鈴の現在の恰好は、チャイナドレスを纏った姿だったからだ。

 

「う、う、煩い! うちは中華喫茶やってんのよ!!」

 

「そうなのか。飲茶って奴だな」

 

「アタシがウェイトレスやってるってのに、隣のアンタのクラスのせいで全然客来ないじゃない! って言うか、何よネコ耳ご奉仕喫茶って!? 誰よ、こんな馬鹿な企画考えたの!!」

 

「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!? 前衛的なサービスに溢れた独創的な店じゃねえか!!」

 

鈴の発言に、神谷が噛み付く。

 

「神谷!? アンタなの!? とうとう脳がイカレちゃったの!?」

 

「んだと、コラァ!? やんのかぁ!?」

 

「上等じゃない! 掛かって来なさい!!」

 

すると、鈴は何処からともなくヌンチャクを取り出し、構えを取る。

 

「吐いた唾飲むんじゃねえぞ!!」

 

神谷も神谷で、何処からとも無く愛用の長刀を取り出した。

 

「ちょっと! アニキ、ストップ!! 鈴も止めろって!!」

 

慌てて止めに掛かる一夏だったが………

 

「良いぞ良いぞ~!」

 

「やれやれ~!!」

 

「ええっ!?」

 

如何やら客は、店の演出と思っている様で、無責任に囃し立て始めている。

 

「ど、どうすれば………?」

 

「ホラホラ、鈴。折角来たんだから、座って座って。神谷も一休みに来たんでしょ? 今お茶淹れるから待ってね」

 

一夏が戸惑っていると、シャルがそんな2人の雰囲気など気にせず、そう言って来た。

 

「ちょっと! 邪魔しないでよ、シャルロット!!」

 

「まあまあ、鈴………」

 

収まりが効かなそうな鈴だが、シャルはそんな鈴に近づき………

 

(『執事にご褒美セット』を頼むと、一夏が食べさせてくれるサービスがあるよ)

 

(!?)

 

それを聞いた鈴は………

 

「一夏! 何やってんの!? 早く注文聞きに来なさい!!」

 

「!? 何時の間に!?」

 

何時の間にか席に着席し、一夏に注文を催促したのだった。

 

「一夏! 早く!!」

 

「わ、分かったよ! 今行くよ!!(シャルロットの奴………何言ったんだ?)」

 

一夏は、どうやってシャルが鈴を収めたのか気になりながらも、鈴の注文を伺いに行く。

 

「チッ! 何だよ、拍子抜けさせやがって………」

 

「まあまあ、神谷。今日はお祭りなんだからさ」

 

不完全燃焼で、イマイチ煮え切らなかった神谷は、長刀を背の鞘に戻しながらそう呟き、そんな神谷をシャルが宥める。

 

「それもそうだな………」

 

「と、ところでさぁ、神谷」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕のこの恰好………如何………かな?」

 

シャルは自分が着ているメイド服と、装着しているネコ耳について神谷に尋ねる。

 

「ふむ………」

 

神谷は、ジッとシャルを足の爪先から頭頂部まで観察する様にジッと見る。

 

「ど、如何?」

 

「良いじゃねえか。このまま持って帰りたくなっちまうぜ」

 

「ふえええっ!? お、お持ち帰りぃ!?」

 

神谷のその発言に、シャルは顔を真っ赤に染める。

 

「そ、そんな、神谷………駄目だよ。僕達まだ高校生なのに………」

 

照れながらそう呟くシャルだったが………

 

「ねえねえ、神谷! アタシは如何かな!?」

 

「おう! オメェもスゲェ似合ってるぜ! ハマリ役だな!」

 

「ニャハハハッ!!」

 

「…………」

 

神谷がティトリーにもそんな事を言っているのを見て、一瞬で不機嫌になった。

 

「………フンッ!」

 

するとシャルは、神谷の足を踏み付けた!

 

「アイダッ!? 何だよ!?」

 

「べっつに~」

 

突然足を踏み付けられ、困惑する神谷と、頬を膨らませてそっぽを向くシャル。

 

((((((((((………他所でやれ、バカップル))))))))))

 

そしてそんな2人の様子に、口から砂糖を吐きそうになる1組生徒と客達だった。

 

「お熱いね~、御2人さん。あんまりお熱いと此処の居る人達、皆砂糖吐いちゃうよ~」

 

すると、それを直に2人に言い放つ者が現れる。

 

「!? 貴女は!?」

 

「んだよ? またお前か?」

 

シャルが驚き、神谷がうんざりした様な表情を浮かべる。

 

「楯無さん!? 何でメイド服!?」

 

と、一夏もその姿を見つけ、楯無がメイド服姿である事を突っ込む。

 

「気にしない、気にしない。あ、私にもお茶くれる?」

 

そんな一同の視線を華麗に無視すると、楯無はそう言いながら席に腰掛けた。

 

「………手伝う気は無いんですね。分かりました」

 

一夏が呆れた様に呟きながら、楯無からの注文を受け付ける。

 

と、そこへ………

 

「どうもー! 新聞部でーす! 話題の織斑執事を取材しに来ましたー!!」

 

そう言いながら、新聞部のエース『黛 薫子』が店内に姿を見せる。

 

「あ、薫子ちゃんだ! やっほー」

 

「わお! たっちゃんじゃん! メイド服も似合うねー。あ、どうせなら、織斑くんとツーショット頂戴」

 

「いえい!」

 

薫子がそう言うと、楯無は既に立ち上がり、一夏の傍に行き、ピースサインを決めていた。

 

しかし………

 

それが呼び水になったかの様に………

 

一夏のラヴァーズが、挙って自分も一夏とツーショットを取りたいと言い出し………

 

店内は一時、撮影所状態となる。

 

 

 

最初に権利を得たのはセシリア。

 

他の一同に見せつけるかの様に、腕を絡ませてのツーショットを撮影してもらった。

 

 

 

続いてはラウラ。

 

身長差がそれなりにある為、抱っこして欲しいと一夏に強引に強請り、漸く抱っこしてもらった際には、実に幸せそうな表情となり、その瞬間を見逃さずにシャッターが切られる。

 

 

 

続いては鈴。

 

その場に居合わせたので、勢いで一緒に取って貰える事になったのである。

 

ポーズについては、彼是揉めた末………

 

一夏の背中に飛び付いた瞬間を撮影して貰い、実に満足気な表情を見せた。

 

 

 

そして、最後は箒である。

 

「…………」

 

「如何したんだ? さっさと写真撮っちまおうぜ」

 

何やら沈黙していた箒に、一夏がそう声を掛ける。

 

「こ、この様な恰好の写真が残るのは避けたいのだが………」

 

如何やら、メイド服+ネコ耳姿の写真を撮られる事に抵抗がある様だ。

 

「何だよ。俺だって似た様なもんなんだから………」

 

「似ていない! 全然違う! 大体お前は!………」

 

「はいはい、分かったから。お店も忙しいし、早くやっちゃおうぜ」

 

何か言おうとした箒を遮り、一夏は箒の手を取る。

 

「て、て、手を握るなっ!」

 

いきなり手を握られた箒は、振り解こうと暴れる。

 

「あ、暴れるなよ!!」

 

「うっ、煩い! 煩い!」

 

激しく抵抗する箒。

 

すると………

 

握っていた一夏の手がすぽ抜け、支えを失った箒の身体が倒れそうになる。

 

「あっ?」

 

「! 箒!!」

 

その瞬間、一夏は自分でも驚く程の反応とスピードで、倒れそうになっていた箒の傍に寄ると、そのまま背に左腕を回し、浮き上がりかけていた足の膝裏に右腕を差し込んで、お姫様抱っこで抱き上げた。

 

「「………えっ!?」」

 

「シャッターチャンスッ!!」

 

一夏と箒が同時に驚きの声を挙げた瞬間、薫子がカメラのシャッターを切った。

 

「ありがとう、一夏く~ん。お蔭で良い写真が撮れたよ~」

 

「え、あ、ああ、そうですか………」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

呆然としている一夏に対し、トンでもない写真を撮られた箒は、慌てて薫子に詰め寄る。

 

「大丈夫、大丈夫。校内新聞には使わないであげるから」

 

「そういう問題じゃないんです! 今の写真は無しです! 消して下さいー!!」

 

箒は、必死に薫子からカメラを奪おうとするが、薫子は華麗に回避する。

 

「それじゃあ、次はシャルロットちゃん、行ってみようかぁ?」

 

そして色んな意味で疲れ果てた箒を尻目に、薫子は今度はシャルロットにそう声を掛けた。

 

「あ、ハイ。えっと………僕は、神谷とで良いですか?」

 

「えっ? 神谷くんと?………ま、まあ、シャルロットちゃんがそれで良いなら良いけど………」

 

「ハイ! 神谷、お願い!」

 

「おうよ! そんじゃ、ポーズはこんなんで如何だ?」

 

「!? うわぁっ!?」

 

と、そう言うや否や、神谷はシャルを抱き上げたかと思うと、そのまま右肩に座らせて担いた。

 

「まあっ!?」

 

「何とっ!?」

 

セシリアとラウラが驚きの声を挙げる。

 

「相変わらず無駄に馬鹿力ね………」

 

「全くだ………」

 

鈴と箒は呆れる様な声を漏らす。

 

「スゲェ! 流石だぜ、アニキ!!」

 

只1人、一夏は相変わらず尊敬の眼差しで神谷を見ていた。

 

「おおう!? これは迫力有るねえ! それじゃ、ハイ、チーズ!!」

 

「ブイッ!!」

 

「あううう………」

 

ノリノリでVサインを出す神谷と、終始照れた表情を浮かべるシャル。

 

「いや~、思った以上に良い写真が撮れたよ~。じゃあ、最後はティトリーちゃんね」

 

「あ、あの………」

 

薫子がそう言うと、ティトリーは何か言いたげな表情をする。

 

「ん? 如何したの?」

 

「ア、アタシはその~………ツーショットとかより、皆と一緒の写真を撮りたいなぁ~って」

 

遠慮しがちにそう言うティトリー。

 

「あ~、成程ね~。うん、それも良いね。じゃあ皆! 集まって~!」

 

すぐさま薫子は神谷達にそう呼び掛ける。

 

「貴様、退けぇ!!」

 

「貴女こそお退きなさい!」

 

「ちょっ!? お前等、引っ張るな!!」

 

一夏の隣を争って、一夏を左右から引っ張り合う箒とセシリア。

 

「ちょっと! 何デレデレしてんの!?」

 

「お前は私の嫁だろうが!!」

 

更に後ろからはチョークスリーパーを掛ける様に鈴がしがみ付いて来て、ラウラも前から抱き付いて来る。

 

「ぐううぅぅぅぅ………」

 

色んな意味で限界な状況に、一夏の顔が青褪めて行く。

 

「ハ~イ。織斑くんが限界になる前に、皆さんポーズをお願いしますね~」

 

しかし、薫子は笑顔を浮かべたまま撮影準備を整える。

 

「ホラ、オメェも来い、生徒会長!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

「ティトリー! オメェはそこで生徒会長とだ!!」

 

「ええっ!?」

 

そして神谷は、何を思ったのか楯無とティトリーを並ばせている。

 

「ア、アハハ………どうも」

 

「…………」

 

苦笑いしているティトリーに対し、楯無は複雑そうな表情を浮かべる。

 

「ホラ、シャル。もっと寄れ。写らねえぞ」

 

「う、うん………」

 

そして、嗾けて置いて放置し、神谷はシャルを傍に寄せていた。

 

「それじゃ行くよーっ! ハイ、チーズ!!」

 

そしてそのまま、カメラのシャッターは切られのだった。

 

 

 

 

 

その後、楯無が手伝いをすると名乗り出てくれたので、一夏は少し休憩を取り、招待券で招待した悪友の弾を迎えに行く。

 

神谷も、再び客引きへ行く序にと付いて行く。

 

「ちょっと良いですか?」

 

すると、そんな一夏に声を掛ける人物が居た。

 

「はい?」

 

「失礼しました。私、こういう者です」

 

一夏が若干戸惑いながら振り返ると、スーツ姿の女性が名刺を差し出して来る。

 

「えっと………IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙 礼子………さん?」

 

「ハイ。織斑さんに是非、我が社の装備を使っていただけないかと思いまして」

 

(ああ………またこういう話か………)

 

一夏は平静を装いながらも、内心で「またか」という気持ちになる。

 

世界で唯一ISを動かせる男性である一夏の元には、宣伝の為に自社の製品を使って欲しいと言う依頼が殺到しているのだ。

 

なお、グレンラガンはISであると世間には公表してる神谷にも同じ事が言えるかもしれないが………

 

そちらへの取り次ぎは、全て千冬が(物理的にも)シャットアウトしている。

 

まだグレンラガンがISでないと世界に知られるワケにはいかないのだ。

 

しかし、白式のコアが後付けの武器を拒絶している為、実質武器の装着は不可能なのである。

 

雪羅は以前一夏がシャルのライフルを借りて射撃を行った経験から、白式が独自に作り出したものであると推測されている。

 

「いや、あの………」

 

「何やってんだ、一夏! 弾の奴が待ちくたびれちまうぞ!!」

 

一夏が何か言おうとしたところ、神谷が一夏の腕を摑んで強引に連れ始めた。

 

「うわぁっ!? す、すみません!!」

 

「あ、ちょっと!」

 

礼子が呼び止める間も無く、一夏と神谷は去って行ってしまう。

 

「………チッ」

 

すると、2人の姿が見えなくなった後………

 

礼子は苦々しげな表情で舌打ちをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・正面ゲート前………

 

「ふ、ふ、ふっ」

 

弾は、込み上げそうになる笑いを必死に押し殺していた。

 

「遂に、遂に、遂にっ! 女の園! IS学園へと………キタ━━ッ!!」

 

しかし、堪え切れずにどこぞのスイッチで変身する宇宙ライダーの様な声を挙げる弾。

 

実は遡る事、3日前………

 

弾は一夏から、外部の者がIS学園の学園祭に参加する事が出来る招待券を貰っていたのである。

 

招待券を貰えると一夏から言われた際の弾は、正に天元突破せん程のテンションとなっていた。

 

精一杯決めた恰好をして、今は招待してくれた一夏を待っている。

 

「しっかし………」

 

弾はふと、ゲートから学園内を見やる。

 

「「「…………」」」

 

数人の生徒と目が在ったが、その内の何人かがサッと逃げ出す様な態度を取った。

 

「………何か俺、変なのかな?」

 

その様子が気になり、自分の恰好をチェックする弾が、特におかしな所は見当たらない。

 

………いや。

 

本人は全くおかしくないと思っているが、1つだけ生徒達が彼を敬遠する理由を作っているモノがあった。

 

それは………

 

私服の背中に堂々と刻まれている、グレン団のマークである!

 

IS学園の不良として名を通らせている神谷は、入学からかなり経った今でも、その容姿や言動、行動から嫌っている生徒がかなり多い。

 

その為、彼と同じマークをしている弾を警戒しているのだ。

 

「はあ~~、何かヘコむな~………」

 

弾は肩を落として溜息を吐く。

 

「いい加減にして下さい!!」

 

するとそこで、凛とした声が聞こえて来た。

 

「??」

 

弾が、その声が聞こえて来た方向を見やると、そこには……

 

「い~じゃねえかよ~、ちょっとぐらい」

 

「招待券の無い人を学園内に入れるワケには行きません!」

 

「固い事言うなよ~、姉ちゃん」

 

正面ゲートで入場客の受付をしていた虚が、6人ぐらいの不良かチンピラと思わしき男達に絡まれていた。

 

如何やら、招待券が無いにも関わらず、学園に入れろといちゃもんを付けているらしい。

 

(アッチャ~、最近また増えたよなぁ~、ああいう連中………)

 

その連中を見ながら、弾が内心でそんな事を思う。

 

ISの登場で女尊男卑の風潮が広まっていたこの世界だったが、ロージェノム軍の登場でISが何度も撃墜され、通常兵器の再配備と男性軍人の復帰が進むと、勘違いして幅を利かす男が出始めていた。

 

「じゃあよ~、姉ちゃんが俺達の相手してくれよ。それで勘弁してやるぜ」

 

「ふざけないで下さい! いい加減にしないと警察を呼びますよ!!」

 

不良達のいちゃもんや誘いにも、凛とした態度を崩さない虚。

 

「まあまあ、そんな事言うなよ~」

 

と、不良の1人がそう言いながら、虚の腕を取る。

 

「! 触らないで下さい!!」

 

そこで我慢が限界に達したのか、虚はその手を振り払うと、そのままその不良に平手打ちを見舞った!

 

「イテッ!?」

 

「あっ!?」

 

やってしまってから、「しまったっ!?」と後悔する虚だったが、時既に遅し。

 

「この………クソアマァッ!!」

 

逆上した不良は、拳を振り被って、虚を殴り付けようとする。

 

「キャアッ!?」

 

虚は思わず目を閉じる。

 

「グアアッ!? イデデデデデデッ!?」

 

「? えっ!?」

 

しかし、衝撃が来るかと思われたが、来たのは不良の悲鳴であり、驚いた虚が目を開けると………

 

「お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ」

 

弾が、虚を殴ろうとしていた不良の腕を摑んで、後ろ手に捻っていた。

 

「な、何だ、テメェは?」

 

「お前等こそ、俺を誰だと思ってやがる? 俺はグレン団の特攻隊長、五反田 弾様だぜ」

 

痛がりながら問い質す不良に、弾はそう言う。

 

「えっ!? グレン団!?」

 

グレン団と言う単語を聞いた虚が驚きを示す。

 

「離れてて下さい。危ないですよ」

 

と、そこで弾が、虚に向かってそう言う。

 

「! ハ、ハイ!」

 

その言葉で、虚は不良達と弾から距離を取った。

 

「よっ、と」

 

それを確認すると、弾は後ろ手に腕を固めていた不良を解放する。

 

「イデデデデッ!? チキショウーッ! ふざけやがって!! やっちまえっ!!」

 

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」

 

腕を固められていた不良がそう言うと、5人の不良達が弾に向かって行った。

 

「へっ」

 

だが、弾はフッと笑うと、最初に掛かって来た不良が繰り出して来たストレートパンチをしゃがんで躱し、そのまま踏み込んで不良のボディに強烈なボディブローを見舞う!

 

「ゴハッ!?」

 

胃液を吐き出してノックアウトされる不良。

 

「せりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

続く不良が、今度はハイキックを繰り出して来たが、弾はそのキックを難無く受け止める。

 

「そりゃっ!!」

 

そしてそのまま、ドラゴンスクリューで投げ飛ばす!

 

「ガフッ!?」

 

不良は地面に叩き付けられて動かなくなる。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

続く不良が、まだ地面に寝たままだった弾の顔面目掛けて足を振り下ろして来たが………

 

「おっと!」

 

弾は背中を地面に付けたまま、駒の様に回転して躱し、そのまま不良の足を水面蹴りで払った!

 

「うおっ!」

 

不良が頭から地面に叩き付けられるかと思われた瞬間に、回転の勢いに乗って立ち上がった弾が、浮いていた不良の足を摑み………

 

「ほいっ!!」

 

その後から殴り掛かろうとして来ていた不良目掛けて投げ付けた!

 

「「ぐばあっ!?」」

 

投げ飛ばされた不良は、ぶつけられた不良と折り重なって倒れる。

 

「うがああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

最後の不良が摑み掛ろうとして来たが、弾は跳躍すると、月面宙返りを決めながら、不良の肩の上に肩車される様に着地。

 

「そらっ!!」

 

そのままフランケンシュタイナーで地面に叩き付ける。

 

「ガフッ!?」

 

「何だ、もう終わりか? 歯応えがねえなぁ………」

 

首の骨を鳴らしながら、倒れている不良達に向かって、弾はそう言い放った。

 

「テ、テンメェ………」

 

すると、虚を殴ろうとしていた不良が、ポケットから折り畳み式ナイフを取り出した!!

 

「! 危ない!!」

 

「あん?」

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

虚の叫びで、残っていた不良の1人が、ナイフを持って突っ込んで来ている事に気づく弾。

 

そのまま不良が、弾にぶつかる!

 

弾と不良の間の地面に、血がポタリと垂れる………

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

弾が刺されたと思って、虚は悲鳴を挙げる。

 

何時の間にか集まってギャラリーと化していた生徒達の顔も青褪める。

 

しかし………

 

「………残念だったな」

 

次の瞬間には、弾は不敵に笑ってそう言った。

 

「ひ、ひいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!?」

 

不良が、ナイフを手放して尻餅を着く。

 

そこで漸く状況が露わになる。

 

何と!!

 

弾はナイフの刃を素手で摑んで受け止めていた!!

 

当然、受け止めている右の掌が切れて、血が流れているが、弾は痛がっている様子は見せていない。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、自分で刺しておいて恐ろしくなったのか、逃げ出す不良。

 

「へ、ヘッドォッ!」

 

「待ってくだせえ~!」

 

弾にやられた不良達も次々に起き上がり、逃げた不良の後に続く。

 

「やれやれ………ビビるんなら、最初から凶器なんか使うんじゃねえよ」

 

握っていたナイフを捨てると、弾は愚痴る様にそう言う。

 

「あ、あの!!」

 

そこで、虚が弾に声を掛ける。

 

「ん? ああ、大丈夫でしたか?」

 

「それはコッチの台詞です!!」

 

弾が笑顔で虚にそう言うと、虚からそう言うツッコミが帰って来た。

 

「ああ、もう! こんなに血が!!」

 

「大丈夫ですよ、唾付けとけば治りますから」

 

「そんな怪我じゃないでしょう! 取り敢えず、コレで………」

 

と、虚はポケットからハンカチを取り出すと、血を流していた弾の手に巻き付ける。

 

「あ、いや、そんな事をしてもらう必要は………」

 

「ちょっとジッとしていて下さい!」

 

弾の声を聞き流し、虚はしっかりとハンカチを包帯代わりに巻き付けて行く。

 

(うわっ………良く見ると、この人………スッゲェ、美人………いや、可愛い!)

 

結果的に虚の顔を至近距離で見る事になってしまった弾は、虚の美しさと可愛らしさを見て、思わず頬を染める。

 

「これで良し。後は保健室で………」

 

と、そこで虚が弾の顔を見て、赤くなっている事に気づく。

 

「? 如何したんですか?………あ?」

 

そう尋ねた瞬間、自分が弾の手を握ったままなのに気づく虚。

 

「す、すみません!!」

 

「ああ、いや、こちらこそ!!」

 

虚が慌てて飛び退き、互いに謝罪し合う形となる2人。

 

「え、えっと、その………あ、ありがとうございました………」

 

「あ、いや………何て事無いッスよ、アレくらい」

 

虚は顔を伏せたままそう言い、弾は左手で頭を掻く。

 

と、そこへ………

 

「おーい、弾!」

 

「何かあったのか?」

 

騒ぎを聞き付けたかの様に、一夏と神谷が姿を見せた。

 

「あ、一夏! アニキも!」

 

「アレ? 虚さん?」

 

「あん? オメェ、確かのほほんの………」

 

と、そこに虚の姿までが在って、一夏と神谷は驚く。

 

「ど、どうも………」

 

一方の虚は、神谷の姿を見た瞬間、若干退く。

 

「それで、何があったんだ?」

 

「いや、馬鹿な不良が居たから、ちょいと捻ってやったんだけど………油断して怪我しちゃってさぁ」

 

一夏の問いに、右手に巻かれたハンカチを見せながらそう言う弾。

 

「オイオイ、大丈夫か?」

 

「大した事無いって」

 

「何言ってるんですか! さ、来てください! 保健室へ案内しますから!」

 

そこで虚が、思い出した様にそう叫び、弾を保健室へ連れて行こうとする。

 

「あ、いや、ちょっと待ってもらえませんか!? 一夏とアニキに………」

 

「弾。俺は良いから、ちゃんと治療してもらって来い」

 

するとそこで、神谷が弾にそう言う。

 

「アニキ。でも………」

 

「良いから、良いから………」

 

と、神谷はそう言うと、弾の耳元に近づき………

 

(折角のチャンスじゃねえか。その女、しっかりとものにしてみな)

 

(!? アニキ!?)

 

そう言われて、弾は驚いた表情で神谷を見遣る。

 

「フッ」

 

神谷は不敵に笑って、虚からは見えない様にサムズアップする。

 

「………ありがとう、アニキ」

 

「おう!」

 

弾は神谷に礼を言うと、虚に連れられて保健室へと向かったのだった。

 

「弾の奴、ついてないな………折角IS学園の学園祭に来たってのに、イキナリ保健室行きだなんて………」

 

「そうでもねえさ。あの野郎、良い思いしてんじゃねえか」

 

弾を憐れむ一夏だったが、神谷はそう言い返す。

 

「えっ? 如何言う事、アニキ?」

 

「そいつは自分で考えな。自分と………あと、箒達の為にもな」

 

首を傾げる一夏に、神谷は学ランの裾を翻すと、そのまま正面ゲートから立ち去り始めた。

 

「ちょっ!? 待ってよ、アニキ! 如何言う事なのさー!!」

 

ワケが分からないまま、アニキの後を付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

いよいよ始まった学園祭。
神谷の提案した猫耳メイド喫茶は、意外にも大好評です。

そんな中姿を見せた巻紙 礼子………
ご存じの通り、彼女です。
詳細は後に語りますが、彼女は残党としてロージェノム軍とは別の勢力として活動してもらう予定です。
更に、『彼女』にも出番が………

そして今回、ISで地味に好きな弾×虚のカップリングが描写出来ました。
このカップル好きなんですよね。
今後も色々と見せてくれるカップルになりますので、応戦してやって下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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