天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第32話『考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第32話『考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・食堂………

 

「えっ? 一夏の誕生日って今月なの?」

 

夕食を摂っていた神谷、一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、ティトリーのグレン団メンバーの中で、シャルがそう声を挙げた。

 

「ああ」

 

「そういや、そうだったな………もうそんな時期か」

 

一夏が返事を返し、神谷も思い出したかの様にそう言う。

 

「何時?」

 

「9月の27日だよ」

 

「おお! 御誂え向きに日曜じゃねえか!」

 

神谷が食堂の壁に掛かっていたカレンダーで確認し、そう声を挙げる。

 

「一夏さん、そういう大事な事はもっと早く教えてくださらないと困りますわ」

 

とそこで、一夏の隣に座ってビーフシチューを食べていたセシリアが、パンを置いて話し掛けて来た。

 

「い、いや、自分の誕生日なんか教えたら、何かあからさまにプレゼントが欲しいって言ってるみたいで、心象悪いかなぁと思って………」

 

「水臭えこと言ってんじゃねえよ、一夏! 俺たちゃグレン団!! 魂の絆で結ばれた仲間だろうが!! その仲間に、遠慮なんかすんじゃねえよ!!」

 

そう言う一夏の肩を摑み、神谷はそう言って来る。

 

「アニキ………」

 

「そうそう! 仲間として誕生日を祝うのは当然っしょ!」

 

感激している一夏に、ティトリーもそう言って来る。

 

「しかし、知っていて黙っていた連中も居る様だな………」

 

「「うっ!?」」

 

嬉々として純白の革手帳の予定表の9月27日の欄に2重丸を描いているセシリアの横で、ラウラが箒と鈴をジト目で見ながらそう言う。

 

当の箒と鈴は、ラウラの視線を受けて固まる。

 

「べ、別に隠していたワケではない! 聞かれなかっただけだ!」

 

「そ、そうよそうよ! 聞かれもしないのに喋るとKYになるじゃない!」

 

「いや、すまねえなぁ! てっきり俺は、そんな事とっくに問い質してると思って言ってなかったぜ!」

 

やや言い訳染みた事を言う箒と鈴に対し、神谷も後頭部を掻きながら、余り悪びれた様子も無くそう言って来た。

 

「兎に角! 9月27日! 一夏さん、予定を空けておいて下さいな!」

 

「あ、ああ………あ、でも、当日ってアレがあるから………夕方か夜からだな」

 

「『キャノンボール・ファスト』か………」

 

 

 

 

 

『キャノンボール・ファスト』………

 

言うなればISを使ったレースである。

 

本来は国際大会として行われるものだが………

 

IS学園では、市との特別イベントとして開催されるモノに参加する形となる。

 

勿論、専用機と訓練機では性能差が在り過ぎるので、其々に分かれて行われる。

 

 

 

 

 

「ん? そう言えば、明日からキャノンボール・ファストの為の高機動調整を始めるんだよな? アレって具体的には何をするんだ?」

 

「ふむ。基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の白式には無いだろう」

 

「その場合は、駆動エネルギーの配分調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ?」

 

首を傾げた一夏に、ラウラがプチトマトを頬張りながら、シャルが白身魚のフライを齧りながらそう言う。

 

「ふうん。確か、高機動パッケージっていうと、セシリアのブルー・ティアーズには有るんだったよな?」

 

「ええ! 私、セシリア・オルコットの駆るブルー・ティアーズには、主に高機動戦闘を主眼に据えたパッケージ『ストライク・ガンナー』が搭載されていますわ!」

 

一夏がそう言うと、セシリアはお決まりの腰に手を当てるポーズを決めながらそう語る。

 

(最近、何か元気なさそうだったけど、問題は解決したのだろうか?)

 

そんなセシリアを見ながら、一夏は内心でそう思う。

 

実はその原因が、一夏自身に有るとは夢にも思っていないだろうが………

 

元々白式は、エネルギー兵器を無効化する能力を持っており、第2形態移行(セカンド・シフト)してからはそれが防御にも使える様になり、ビーム兵器主体のセシリアのブルー・ティアーズは、模擬戦に於いて負け越している。

 

他の者がそれなりの戦いを繰り広げる中、自分だけは置いて行かれている様に思えたセシリアのプライドは、酷く傷ついていた。

 

本国(イギリス)に実弾兵器を送って欲しいとも陳情したが、元々ブルー・ティアーズはBT兵器の実働データのサンプリングを目的に建造された為、敢え無く却下されている。

 

BT兵器の稼働率が最大になれば、ビーム自体を自在に操れるらしいが、現在の稼働率は37%前後………

 

最大稼働など、夢のまた夢であった。

 

セシリアは毎日皆が帰った後も特訓を続け、BT兵器稼働率を上げようと頑張っているのだが、結果は芳しくなかった。

 

「それだとセシリアが有利だよな。今度超音速機動について教えてくれよ」

 

「………申し訳ありません。それはまた今度。ラウラさんにお願いして下さい」

 

一夏の願いを微笑みながらも断るセシリア。

 

今はまだ、自分の事で手一杯の様だ。

 

「そっか………分かった。じゃあラウラ、教えてくれ」

 

「良いだろう。最近はあの女にかまけてばかりいるお前を、私が教育してやろう」

 

あの女とは、楯無の事である。

 

学園祭の1件以来、楯無は神谷とすっかり意気投合しており、そんな彼女を神谷がグレン団に入れるのに時間は掛からなかった。

 

それに伴い、楯無は忙しい時間を割いてまで、放課後のグレン団による一夏の特訓に顔を出す様になる。

 

学園最強のIS乗りの教えは分かり易いものだったが、特訓内容は他の誰よりも厳しい。

 

必然的に一夏は楯無から多く教えを受ける様になり、それが箒達をやきもきさせる事になった。

 

「つうか、有利だって言うならアンタも同じでしょうが。白式のスペック、機動力だけなら高機動型に引けを取らないわよ。ま、それを言うなら、紅椿もだけどね」

 

鈴がそう言うと、話題はそのまま、キャノンボール・ファストに向けて、其々のISを如何調整するかに入る。

 

セシリアと鈴は、高速機動パッケージを装着する。

 

一夏と箒は、機体出力を調整。

 

シャルとラウラは、スラスターを増設する調整を行うと言い合った。

 

そして、神谷は………

 

「アニキは………」

 

「俺は勿論! 気合で勝つに決まってんだろ!!」

 

「………だよね~」

 

当然の様にそう返した神谷に、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

グレンラガンはISでない為、パッケージの装着はおろか、スラスターの増設をする事も出来ない。

 

となると、機体出力の調整という事になるのだが………

 

前にも言った通り、グレンラガンの動力は神谷自身の螺旋力である。

 

つまり神谷の気合次第で上下するので、理論上、神谷が気合を出せば出す程、機体速度も上がる事になる。

 

「前から思ってたけど、アンタの機体ってホント便利よね………取り敢えず気合さえあれば、細かい調整なんて一切要らないんだから」

 

「何言ってやがる! お前等だってもっと気合を出せば強くなれるぜ!!」

 

「いや、アニキ。ISは気合じゃ強くならないから」

 

羨ましがる様に言って来た鈴に、神谷はそう返し、一夏が冷静なツッコミを入れるのだった。

 

「良いな~、専用機持ちは~」

 

と、ティトリーが更に羨ましそうにしている発言を繰り出す。

 

「あ、そっか。ティトリーは量産機での部門だっけ」

 

「細かい事は気にすんな! それにお前だって何時かは自分の相棒が持てる日が来る! 俺が保証してやる!!」

 

(相変わらず根拠も無しに自信満々だ………)

 

一夏が思い出したかの様に言うと、神谷がそうティトリーを励まし、シャルが内心で神谷お決まりの根拠無い自信にツッコミを入れる。

 

「そう言えば、一夏。結局『あの話』、如何なったの?」

 

「? 『あの話』って?」

 

「アンタを他の部活に貸し出すって話よ」

 

鈴が言っているのは、先日グレン団がIS学園の正式な部活として、楯無から認可を受けた時の事である。

 

あの時神谷は、一夏を貸して欲しければ直接俺に言いに来いと良いっていた。

 

当初は、神谷の見た目や噂を怖がり、頼みに来る様な者は居なかったのだが………

 

ここ最近になって、覚悟を決めた猛者が現れる様になったのだ。

 

皆そんなに一夏を自分が居る部活へ誘いたいのだろうか?

 

まあ、女の園の学園に神谷を除いて1人しかいない男である。

 

しかも結構なイケメンで朴念仁である事を除けば性格も悪くない。

 

優良株である事は間違いないだろう。

 

「ああ、今生徒会の方で抽選と調整をしてくれるそうだから」

 

「生徒会が?」

 

「ああ………」

 

何故生徒会が一夏の貸し出しの調整をするのかと疑問に思った鈴だが、一夏はそんな鈴の思惑を察したのか、耳打ちする様に小声で言って来る。

 

(アニキに任せてたらスケジュールが破綻するだろうから、生徒会の方で調整してあげるって、楯無さんが言ってくれてな)

 

(成程ね………)

 

それを聞いた鈴が納得の行った表情になる。

 

確かに、神谷がスケジュールや予定を立てる様な人物には見えない。

 

適当に貸し出す部や順番を決めたら、決死の思いで頼み込んで来た生徒達に申し訳が立たない。

 

そう思っての判断だろう。

 

「そう言えば、皆部活に入ったんだよな?」

 

そこで一夏が、また思い出した様にそう言う。

 

「私は最初っから剣道部だ」

 

当然とも言える箒だが、当初の頃は一夏の特訓に時間を割いており、幽霊部員状態であった。

 

学園祭で、一夏と一緒に回っていた時に、一夏が強引に剣道部へ連れて行った事で、部長に幽霊部員な事を釘を刺され、今はよく顔を出す様になったらしい。

 

「アタシはラクロス部ね。入部早々期待のルーキーなんて言われて、参っちゃうわ」

 

イメージからして運動が得意そうな鈴は、期待通りに運動系の部活である。

 

専用機持ちな為、身体能力も他の生徒と比べて一線を画しているので、早速活躍している様だ。

 

「僕は、その………料理部に」

 

シャルは頬を染めて、神谷の事をチラリと見ながらそう言う。

 

部長に誘われたからというのもあるが、1番の理由はやはり神谷に美味しい手料理を食べさせたいからだ。

 

頑張れ、恋する乙女。

 

「私は英国が生んだスポーツ、テニスですわ。一夏さん、よろしければ今度ご一緒に如何ですか? 私が直接教えて差し上げてもよろしいですわよ? と、特別に」

 

一夏を見て、微笑みながらそう言うセシリア。

 

この時ばかりは悩みの事を忘れている様だ。

 

「因みに私は、茶道部だ」

 

日本文化好きであり、しかも顧問が千冬である。

 

ラウラが入らない理由はなかった。

 

「あ~、アタシはまだ何処にも………」

 

1人、まだ部活に入っていないティトリーが気まずそうにそう呟くが………

 

「何言ってやがる、ティトリー! お前はグレン団だろ!!」

 

神谷がそんなティトリーにそう言う。

 

「えっ!? で、でもアタシ、専用機持ちじゃないし………」

 

「馬鹿野郎! 専用機持ちだとかそんな事は関係ねえ! 熱い魂を持ってりゃ、そいつはもうグレン団の一員だ!!」

 

戸惑うティトリーに、神谷は続けてそう言う。

 

「お前等も分かってんな!? お前達の一の所属はグレン団だ! 学園と世界を守る正義の軍団だ!! 助っ人の部活に託けて、グレン団の活動を蔑ろにするんじゃないぜ!!」

 

そこで神谷は、今度は一夏達の方を見ながらそう言った。

 

「分かってるよ、アニキ!!」

 

「ア、アハハハ………」

 

「「「「…………」」」」

 

一夏は素直に返事をし、シャルは苦笑いを浮かべ、箒、セシリア、鈴、ラウラは憮然として黙り込む。

 

その後も、神谷が会話でも一同を振り回し、楽しい夕食の時間は過ぎ去ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第5アリーナ………

 

学園内に建設されているアリーナ内で、唯一夜間も使用可能なアリーナに、1人の人物が姿を見せる。

 

好き好んで夜間戦闘訓練を行う者はこの学園には少ない。

 

その理由は………

 

「寝不足はお肌の大敵だから」

 

と言う、何とも女子らしい理由だ。

 

だが、今宵この場に現れたのは、そんな事も気にしない者である。

 

「………ブルー・ティアーズ!」

 

静かに愛機………ブルー・ティアーズを呼び出すセシリア。

 

そして、射撃用のターゲットを出現させたかと思うと、ビット連動の高速ロール射撃を開始する。

 

(曲がりなさい!)

 

射撃の度に撃ったレーザーに曲がれと念じるが、レーザーはただ直進するばかりだった。

 

「くうっ! まだ駄目ですの!?」

 

悪態を吐く様にそう言いながらも、セシリアはBT偏向制御射撃(フレキシブル)の特訓を続ける。

 

意識を集中し、水のイメージを連想して引き金を引くが、やはりビームは真っ直ぐ進むだけであり、一向に曲がる気配を見せなかった。

 

「ハア………ハア………駄目ですわ………」

 

徐々にセシリアに、疲労と共に焦燥が募って行く。

 

「何故ですの………何故上手く行かないんですの………」

 

「知りたいか? セシリア・オルコット」

 

と、不意に呟きを漏らした瞬間、アリーナ内にセシリア以外の声が響き渡った。

 

「!? 誰ですの!?」

 

慌ててアリーナ内を見回すセシリア。

 

しかし、アリーナ内には自分以外は見当たらない………

 

だがそこで、曇りであった空が晴れ始め、月明かりがアリーナを照らし始めると………

 

実況席の上の方に、妙な影が映っている事に気づく。

 

「!?」

 

慌ててセシリアが実況席を見上げると、そこには………

 

「漸く気づいた様だな………」

 

腕組みをして悠然と佇む、シュバルツ・シュヴェスターの姿が在った。

 

「!? 貴方は………シュバルツ・シュヴェスター!?」

 

一夏から聞いていた人物像と目の前の人物の恰好が一致し、セシリアが驚きながらも身構える。

 

(ハイパーセンサーに全く反応が無い!? こんなにハッキリと姿を捉えているのに!?)

 

「セシリア・オルコットよ。お前は自分のISの名前に込められている意味を考えた事が有るか?」

 

そんなセシリアの戸惑いの様子など気にせず、シュバルツはそう問い掛ける。

 

「えっ? 名前の………意味?」

 

シュバルツの質問の意味が分からず、セシリアは更に困惑する。

 

「それが分からぬ内は幾ら特訓を重ねたところで、BT偏向制御射撃(フレキシブル)を使う事など、出来はせんぞ」

 

「なっ!? いきなり現れて、何を偉そうに………」

 

「考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!! そして解き放て! 螺旋の魂を!!」

 

いきなりの叱咤に、セシリアは反論しようとしたが、それよりも早くシュバルツがセシリアに向かってそう叫んだ。

 

「名に込められた意味………螺旋の魂………」

 

何故かその言葉が心に響いて来て、セシリアは反芻する。

 

「その意味が分かった時………お前のISは真の意味でお前の物となる」

 

「真の意味で? 如何言う事ですか!?」

 

「それは己で考える事だ………さらば!」

 

肝心な質問には答えず、シュバルツは煙と共に消えてしまう。

 

「あっ!? ちょっと!?」

 

セシリアは困惑するしかなかったが、するとそこで………

 

「よう! 調子は如何だ?」

 

今度は、良く聞き慣れた声が、アリーナに響き渡る。

 

「!?」

 

セシリアが驚きながら振り向くと、そこには当然の様に佇んでいる神谷の姿が在った。

 

「神谷さん!? 何故此処に!?」

 

「特訓してるんだろ? 俺も手ぇ貸してやるよ」

 

「!? ど、如何してそれを!?」

 

「オイオイ、俺を誰だと思ってやがる! グレン団の鬼リーダー、神谷様だぜ! 団員の悩みが分からねえ様じゃ、リーダーなんざやっちゃいねえぜ!」

 

ニヤリと笑いながら、神谷はセシリアにそう言う。

 

「で、ですが、コレは私の問題で………」

 

「何言ってやがる! お前の問題はグレン団の問題! それを解決するのはリーダーである俺の役目ってもんだ!!」

 

「…………」

 

そこでセシリアは、神谷をジッと見遣る。

 

「………フフフ、貴方と言う方は………ホントに不思議な方ですわね」

 

やがてそう言いながら笑みを零した。

 

「さっ! とっとと特訓を始めるぜ!!」

 

そこで神谷は、グレンラガンの姿となる。

 

「ええ、よろしくお願いしますわ!」

 

セシリアはそう答え、神谷と共に特訓を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ外の林の中………

 

「これで当面の心配は要らんか………若き獅子達は、共に己を鍛え合うのが一番………」

 

目の前に投影されているアリーナの映像を見ながら、木陰に隠れているシュバルツはそう呟く。

 

「さて………天上 神谷よ………お前は今度の試練を如何乗り切る? じっくりと見させてもらうぞ」

 

そしてそう言ったかと思うと、その姿は忽然と消えるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

IS学園・学生寮の廊下………

 

「ふう~~………良い汗掻いたぜ」

 

セシリアとの特訓を終え、アリーナのシャワールームでシャワーを浴びるセシリアと別れ、神谷は寮に戻っていた。

 

「しかっし、セシリアの奴………結構悩んでやがったかと思ったが、意外と元気だったな………何かあったのか?」

 

シュバルツから叱咤を受けていた事を知らない神谷は首を捻る。

 

すると………

 

「あ! 神谷!!」

 

後ろから声がして振り返ると、風呂帰りと思われるシャルがコチラに向かって駆けて来ていた。

 

まだ若干湿っている髪と、ほんのりと赤くなっている肌が、何とも色っぽい。

 

「おう、シャル! 風呂帰りか?」

 

「うん、神谷は如何したの?」

 

「何、ちょいと身体動かしてきただけさ」

 

セシリアの心境を考え、神谷はホントを事は伏せる。

 

「そっか………」

 

と、そこでシャルは、何やらモジモジとし始める。

 

「? どした?」

 

「え、えっと、その………」

 

そのシャルの態度に神谷は首を傾げるが、シャルは相変わらずモジモジとしたままだ。

 

「んだよ? 言いたい事があるならハッキリ言え」

 

そう言った煮え切らない態度が嫌いな神谷が、急かす様にそう言う。

 

「!? う、うん!! ちょ、ちょっと待ってね! す~~~~………はあ~~~~」

 

シャルはそこで深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 

「えっとね、神谷………今度の週末に、一緒に駅前に行かない?」

 

「駅前?」

 

「う、うん………ホラ、一夏の誕生日がもうすぐでしょ? 一緒に選ぼうかなと思って」

 

「成程な………」

 

そう言われて、神谷は顎に手を当てた。

 

「だ、駄目かな?」

 

不安そうに、神谷を上目遣いで見遣るシャル。

 

「別に駄目とは言っちゃいねえぜ」

 

しかし、神谷はそんなシャルの不安を吹き飛ばす様に笑う。

 

「ホント!? 良かった~………じゃあ、約束だよ」

 

そう言うとシャルは、小指を立てた右手を神谷に差し出す。

 

「ん?」

 

その手の意味が分からず、神谷が首を傾げていると………

 

「ホラ、指切りだよ」

 

シャルがそう説明して来た。

 

「あ! な~るほど………しかし、オメェも子供っぽい事すんなぁ」

 

「むう………せめて恋人同士の微笑ましい光景とか思ってよ」

 

「ハハハ! ワリィワリィ」

 

神谷は笑いながら謝罪する。

 

「もう………まあ良いや。それじゃ約束だよ」

 

「おう! 男は約束事は死んでも守るぜ!!」

 

そう言って神谷は、シャルの手の小指に、自分の手の小指を絡ませる。

 

「指切りげんまん、嘘吐いたら………」

 

「ドリルでどてっぱらに風穴開ける!!」

 

「ええっ!?」

 

クラスター爆弾呑ますと言おうとしたシャルは、神谷のトンでもない罰に驚きの声を挙げる。

 

………クラスター爆弾と言うのもかなり物騒だが。

 

「約束も守れねえ奴はそうなって当然だろ」

 

「う、うん………そうだね」

 

当然の様にそう言う神谷に、シャルは苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

キャノンボール・ファスト編、開幕です。
今回はセシリアにスポットが当たる回でもあります。
シュバルツに助言を受けるセシリア。
彼女はこんな感じにちょくちょくグレン団メンバーを助ける様な事をしてきます。
そして一夏に………

次回、シャルとのデート模様と、例の獣人が襲来します。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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