天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第38話『その………妹をお願い!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第38話『その………妹をお願い!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファストが行われた日………

 

そして、一夏の誕生日の翌日の夕方………

 

「シュバルツ・シュヴェスターに襲われただと!?」

 

「ああ、如何もそうらしいな」

 

寮の食堂で夕食を摂っている一夏を除いた一同の中で、一夏から昨日何があったのかを聞いた神谷から事情を聞いた箒が、そう驚きの声を挙げる。

 

他の一同も大なり小なり驚きを露わにしていた。

 

「如何言う事よ! アイツ味方じゃなかったの!?」

 

「いや、抑々正体不明に奴だ………信用する方が間違っていたのだ」

 

鈴が意味が分からないと言う様に声を挙げ、ラウラは声に若干殺気が籠る。

 

「ですが………私にはあのお方が理由も無く一夏さんを襲う様な真似をするとは如何しても思えませんわ」

 

だが、シュバルツから助言を受けているセシリアは、信じられないと言う意見を挙げる。

 

「それに、シュバルツさんは別に一夏の命を取る様な事はしなかったんだよね?」

 

シャルもそう意見を言って来る。

 

「それは………そうもかもしれんが………」

 

「それで、肝心の一夏は?」

 

ラウラが言葉に詰まっていると、ティトリーがそう尋ねて来た。

 

「シュバルツの野郎から渡されたボロボロの刀で木を斬ろうと躍起になってるぜ。完敗したのがよっぽど堪えたみてえだな」

 

「早朝や昼休みにも同じ事やってたよ………お昼ご飯も食べないで」

 

神谷がそう言うと、シャルも思い出した、そして心配する様な声を挙げる。

 

「こうしちゃ居られないわね………アタシも一夏の特訓を手伝って来るわ!!」

 

「! な、なら私も!!」

 

「私もだ!!」

 

と、鈴、セシリア、ラウラが食事も半ばに一夏の特訓を手伝いに行こうとする。

 

「止めとけ」

 

だが、神谷がそれを止めて来た。

 

「!? 神谷さん!?」

 

「何故だ!?」

 

「そうよ、如何してよ!? 大体アンタも、兄貴分のクセに知らんぷりしてるって如何いう事よ!!」

 

それを聞いたセシリア、ラウラ、鈴は、神谷に向かって抗議の声を挙げるが………

 

「男にゃなぁ………どんなに不利でも、1人で戦わなきゃならねえ時がある………今一夏は自分自身と戦ってるんだ。他人が如何こう言ってやれる問題じゃねえ。少し吹っ切れるまでは放っておいてやれ」

 

神谷は夕食の牛丼を頬張りながらそう返す。

 

「「「「…………」」」」

 

しかし、箒、セシリア、鈴、ラウラは理解はしたが納得はしていない表情となる。

 

「…………」

 

と、そんな中で、ふとティトリーが食事の手を止めて、ボーッとし出す。

 

「? ティトリー? 如何したの?」

 

「ニャッ!? な、何が!?」

 

シャルに声を掛けられて、ティトリーは驚きの声を挙げる。

 

「いや、何かボーッとしてたみたいだったけど」

 

「べ、別に! な、何でも無いよ! ニャハハハハハッ!!」

 

ティトリーは明らかにバレバレの誤魔化しをする。

 

「………そう。なら良いんだけど」

 

しかし、その姿にシャルは男装していた頃の自分の姿を重ね、深くは追及しなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕食が終わり………

 

箒達は特訓から帰って来た一夏をもて成そうと、其々に手料理を作って、彼と神谷の部屋に集まって、一夏の帰りを待っていたが………

 

夜の10時を回っても一夏は帰って来ず、仕方なく手料理を備え付けの冷蔵庫へと入れ、其々の部屋へと帰って行った。

 

そしてそれから2時間近くが経過し、時計の針が深夜の0時を指そうとしていたところ………

 

「…………ただいま」

 

すっかり草臥れた様子の一夏が、シュバルツから渡された刀を片手に戻って来た。

 

「おう、一夏。帰ったか。箒達の奴がお前の為に飯作って来てくれてたぞ。冷蔵庫に入ってるぜ」

 

ベッドに寝っ転がっていた神谷が、一夏を見ながらそう言うが………

 

「ゴメン、アニキ………明日食べるよ………ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

一夏は自分のベッドの脇に刀を立てかけたかと思うと、そのままベッドに倒れ込み、すぐに寝息を立て始めた。

 

「………大分参ったみたいだな」

 

そんな一夏を見て、神谷はそう言うとベッドから起き上がる。

 

そして、一夏の制服を上着だけ脱がしてやると、大雑把ながら掛布団を掛けてやる。

 

と、そこへ………

 

「じゃじゃ~ん! 楯無お姉ーさん参上!!」

 

そう言う声と共に、部屋のドアを開け放って楯無が姿を現した。

 

「シーッ、静かにしろ」

 

「アレ? 一夏くん、寝ちゃってるの?」

 

神谷が静かにしろと言うと、楯無は一夏が寝ている事に気づく。

 

「ついさっきまで特訓してたみてぇでな………疲れ果てて倒れるみてぇに寝ちまったよ」

 

「もう、頼みたい事があったのに………一夏く~ん! 起きて~!」

 

すると楯無は、一夏の耳元で叫んで起こそうとする。

 

「ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

しかし、一夏は爆睡まっしぐらだった。

 

「駄目だな。こうなったら例えブラコンアネキにだって起こせねえぜ」

 

「むうう………」

 

神谷の話を聞いた楯無は、悔しそうな表情を浮かべる。

 

「ふう~、仕方ないか………神谷くんに話すから、明日にでも一夏くんに伝えて」

 

「内容次第だな。お前の頼みっつうと碌な事じゃない気しかしねえからな」

 

止むを得ず、神谷に話そうとする楯無だったが、コレまでの事を踏まえ、神谷はそう釘を刺して来た。

 

「もう! 真面目な話なんだよ! お願いだから聞いて!!」

 

その言葉に怒る様な様子を見せる楯無だったが、それでもお願いと言って話している辺り、如何やら本当に真剣な話の様である。

 

「………一体どんな話だ」

 

それを感じ取った神谷は、話を聞く姿勢を取った。

 

「実はね、その………」

 

何やら言葉に詰まる楯無。

 

何時もの神谷と同じ唯我独尊な彼女らしくない。

 

「? んだよ? ハッキリ言え」

 

煮え切らない楯無の態度に、神谷は急かす様にそう言う。

 

「その………妹をお願い!!」

 

「ハアッ?」

 

そして、漸く楯無から出た言葉を聞いて、神谷は首を捻るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、オメェに妹が居たのか?」

 

「そう。名前は『更識 簪』。あ、コレが写真ね」

 

互いに椅子に座って向かい合いながらの状態に移った神谷と楯無の内、楯無がそう言って、携帯電話の写真を神谷に見せて来た。

 

そこには、楯無に良く似ているが、特徴的な髪飾りを付けて、メガネを掛けた、何処と無く陰りのある少女が写っている。

 

「へえ? 流石姉妹、似てるな………で? その妹が如何したんだ?」

 

まどろっこしい話は苦手な為、神谷はスパッと本題に入る。

 

「実はね………昨日のキャノンボール・ファストでの襲撃を受けて、各専用機持ちのレベルアップを図る為に、今度全学年合同のタッグマッチを行うのよ」

 

「へえ………楽しそうじゃねえか」

 

イベント好きな神谷は、その話を聞いてワクワクしているかの様な様子を見せる。

 

「それでね………そのタッグマッチで、一夏くんか神谷くんが簪ちゃんと組んで欲しいの」

 

「俺か一夏が? 何でだよ?」

 

「その、えっとね……実はその、私の妹って………」

 

楯無はまたも言葉に詰まる。

 

と言うよりも、言葉を選んでいる感じだ。

 

「性格がちょっとネガティブって言うか………暗いのよ」

 

「本当にお前の妹なのか?」

 

楯無の性格からはイメージ出来ない彼女の妹の性格に、神谷は思わずツッコミを入れる。

 

「いや、その………そうなったのにはワケがあるって言うか………」

 

「ワケ?」

 

神谷が首を傾げると、楯無はボソボソと語り出し始める。

 

「あの子ね………私にコンプレックスを感じてるみたいで?」

 

「コーンフレーク?」

 

「そうそう、牛乳掛けて食べると美味しい、サイコガンの宇宙海賊のパワーの源………って違~う! コンプレックス! 劣等感よ! 劣等感!」

 

1人ボケ、1人ツッコミをする楯無だが………

 

「劣等感………って何だ?」

 

そこで更に神谷はボケ倒す。

 

「………まあ、貴方そんなモノ感じた事なさそうだもんね」

 

呆れる様に、楯無は溜息を吐きながら頭に手を当てた。

 

「まあ、何て言うか………私って何でもそつなく熟すし、才能もあるでしょう? それで姉と比べて自分は駄目な子だって思ってるのよ」

 

「くだらねえな。楯無は楯無、妹は妹じゃねえか」

 

「それはそうだけど………世の中、神谷くんみたいに芯の強い人ばかりじゃないのよ」

 

あっけらかんと言う神谷に、楯無はそう返す。

 

「…………」

 

そこで、神谷は何やら考える素振りを見せる。

 

そして………

 

「OK、良いぜ。取り敢えず、一夏の方は明日話してからだが、俺の方は引き受けた」

 

「ホント!? ありがとう。流石グレン団の鬼リーダー………」

 

「但し! 1つ条件が有るぜ!!」

 

「えっ? 条件?」

 

引き受けてくれた事に感謝する楯無だったが、神谷がすぐにそう言ったのを聞いて、驚いた表情になる。

 

「オメェも妹に歩み寄る努力をしな」

 

「えっ!?」

 

「当たり前だろ。要するにオメェは拗れてる妹との仲を改善したいと思ってんだろ? ならお前が直接出るのは当然だろ」

 

「で、でも、私には生徒会や更識としての仕事が………」

 

「今までにそれに感けてたから妹との仲が拗れたんじゃないのか?」

 

「うぐっ!?」

 

核心を付いた神谷の正論に、楯無は何も言えなくなる。

 

「嫌なら、この話は無かった事にするぜ………」

 

神谷はそう言うと横を向き、机の上に足を投げ出して、両手を頭の後ろで組む姿勢を取る。

 

「ううう………」

 

楯無は、暫く思い悩む様な様子を見せていたかと思うと………

 

「………分かったわ。その条件を飲むわ」

 

やがて観念したかの様にそう言う。

 

「交渉成立だな」

 

「全く………IS学園の生徒会長を手玉に取るなんて、貴方ぐらいなものよ」

 

「当たり前だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

呆れる様にそう言う楯無だったが、神谷からはお決まりの台詞が帰って来た。

 

「じゃあ、話はコレでお終いね。ふぁああ~~~………流石に夜更かしし過ぎたわね。それじゃあ、明日一夏くんに宜しくね」

 

時刻は既に深夜2時を回ろうとしている。

 

コレ以上は流石に明日の授業に響くと思った楯無は、そう言うと引き上げて行った。

 

「さて、俺も寝るか………」

 

楯無が引き上げて行ったのを確認すると、神谷は自分のベッドに横になる。

 

「ZZZZZZzzzzzzz~~~~~~~~」

 

そして程なく、イビキを立て始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

すっかり寝過ごし、大遅刻をしてしまった神谷と一夏は、千冬からこっ酷い説教を受ける事になる。

 

縮こまる一夏に対し、神谷は説教中にも爆睡。

 

千冬の胃を更にストレスで痛め付けたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間目の休み時間………

 

「やっほー。織斑くん。篠ノ之さん」

 

1組の教室に、薫子が姿を見せる。

 

「あれ、如何したんですか?」

 

2組からやって来ていた鈴を含めた何時ものメンバーで屯っていた一夏達の内、一夏が薫子の姿を認めると、そう尋ねて来た。

 

「いや~、ちょっとね………織斑くんと篠ノ之さん………それとデュノアくんと天上くんに頼みたい事があって」

 

「頼み? 私と一夏にですか?」

 

「僕と神谷にも?」

 

自分と一夏に頼みと聞いた箒とシャルがそう尋ね返す。

 

(何だか妙に頼み事されるな………)

 

そして神谷は、昨日の楯無の一件を思い出し、内心でそう思う。

 

「うん、実はね………私の姉って出版社で働いているだけど、専用機持ち達と噂のグレンラガンに独占インタビューさせてくれないかな? あ、コレが雑誌ね」

 

そう言うと薫子は、姉が勤めている出版社が発行しているティーンエイジャー向けのモデル雑誌を取り出し、一夏達に見せて来た。

 

「えっと、あのー………この雑誌、ISと関係なくないですか?」

 

「ん? ひょっとして、こういう仕事初めて?」

 

「如何いう事だよ?」

 

神谷がまどろっこしい言い方してないでスパッ言えとの感じで言う。

 

「えっとね、専用機持ちって普通は国家代表かその候補生のどちらかだから、タレント的な事もするのよ。国家公認のアイドルっていうか、主にモデルだけど。あ、国によっては俳優業もするみたいだけど」

 

「そうなのか? 箒」

 

「わ、私に聞くな! 知らん!」

 

お互いに芸能関係には疎い一夏と箒はそう言い合う。

 

「そう言や、前にセシリアが国でモデルしてるって話したなぁ」

 

と、そこで神谷が思い出す様に、セシリアの方を見ながらそう言う。

 

「ええ、コレも代表候補生の務めの一環ですわ」

 

「うむ、私も広報課にポスターのモデルにされた事があるぞ」

 

セシリアが答えると、ラウラもそう言って来た。

 

「はあ~、良い御身分なこって………シャル、オメェはそう言うのあるのか?」

 

「あ、ううん。僕はホラ、性別を偽って代表候補生になってたから、そう言うのはやらなかったんだ」

 

「そうか………」

 

あんまり話したくない話だろうと思い、神谷はそこで会話を打ち切る。

 

「何よ、一夏。モデルやった事ないワケ? 仕方ないわね、アタシの写真、見せてあげる」

 

「いや、いい」

 

「何でよ!!」

 

鈴は自分がモデルを務めた写真を一夏に見せようとしたが、即座に断られて、思わず一夏の頭を引っ叩いた!!

 

そして、携帯を開き、自分がモデルを務めた写真を見せようとする。

 

「でも、日本出身で何処の代表候補生でもない一夏や箒、それに神谷の取材は兎も角、フランスの代表候補生の僕にも取材したいって言うのはちょっと………」

 

と、それを横目で見ながら、シャルが薫子にそう言う。

 

「あ、デュノアくんと神谷くんには、それはもっと上の方からの要請が来てるの?」

 

「もっと上?」

 

その言葉に首を傾げるシャル。

 

「うん、日本政府と国連から」

 

「ええっ!?」

 

薫子の口から語られた上の方と言うのが、まさか日本政府と国連だったとは思っていなかったシャルは、驚きの声を挙げた。

 

「いや、ホラね………世界中彼方此方、今もロージェノム軍との戦いが続いてるじゃない? 一応戦況は今のところ五分五分らしいけど、長期戦になったら人類側は不利だって言われるのよ」

 

今まで、IS学園延いては日本を襲撃してきたロージェノム軍は、神谷達グレン団の活躍で倒されている。

 

しかし………

 

世界全体の戦況は膠着状態であり、長期化した場合、人類側が圧倒的に不利だと推察されている。

 

その為、近頃では軍・民間を問わず、不安が蔓延し、一部では士気崩壊や暴動を起こしているらしい。

 

「それで、ロージェノム軍相手に連戦連勝しているグレンラガンの事をもっと知らせて、不安を和らげようとしてるみたい」

 

「それは分かりましたけど………益々何で僕まで選ばれたのかが分からないんですけど………」

 

「アラ? デュノアくん知らないの? グレンラガンの後ろ盾さん」

 

「グレンラガンの後ろ盾?」

 

薫子の口から出た聞きなれない言葉に、シャルはまたも首を捻る。

 

「デュノアくんって、結構有名なのよ。何時もグレンラガンの背中を守って戦ってるから、そんな何時の間にかそんな渾名が付いてるのよ。他にも守護天使だとか、盾の女神だとか言われてるわよ」

 

「て、天使!? 女神!? 僕が!?」

 

あまりと言えばあまりな持ち上げぶりに、シャルは照れた様子を見せる。

 

「天使に女神か………成程な。お似合いだぜ、シャル」

 

一方の神谷はそれを聞いて、ニヤニヤと笑いながらシャルにそう言う。

 

「か、神谷まで! もう止めてよ~!!」

 

益々顔を赤く染めて照れ捲るシャル。

 

「ハイハイ、御馳走様。そういうワケなんだけど、協力してくれるかな?」

 

と、薫子がそう言った瞬間に、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「あ、もう時間か………ゴメンね! 放課後でまた聞きに来るから、考えといて!! じゃ!!」

 

そう言い残すと、薫子は颯爽と去って行った。

 

その後、一夏に写真を見せるのに夢中になっていた鈴が千冬に引っ叩かれ、神谷に天使や女神の名がお似合いだと言われたシャルは、その言葉が脳内で延々とリピートされ、授業にならなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その放課後………

 

薫子は、取材を受けてくれる報酬に豪華1流ホテルのディナー招待券(ペア用)を用意していた。

 

当初は、今は修行に忙しいから断わろうとしていた一夏だったが、ペアのディナー招待券と言う報酬に箒が飛び付き、神谷や千冬にも煮詰め過ぎるのは良くないと言われた為、半ば無理矢理参加させられる事になる。

 

勿論、神谷とシャルも特に断る理由が無かった為、引き受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

専用機持ちの全学年合同タッグマッチの件が、SHRで正式に発表された。

 

その日の4時間目が終わっての昼休みに………

 

「神谷! 一夏! 食堂行こう!」

 

シャルが昼食に神谷と一夏を誘う。

 

「あ、悪い、シャルロット」

 

「今日はちょいと野暮用が有るんでな」

 

しかし、簪を専用機限定タッグマッチのパートナーに誘いに行く予定だった2人は断る。

 

「えっ? そうなの? 何野暮用って?」

 

「それがなぁ………」

 

「ちょっ!? アニキ! 話しちゃうの!?」

 

事情を説明しようとし始めた神谷に、一夏が驚きながらそうツッコミを入れる。

 

「別に良いだろう。口止めされてるワケでもねえし」

 

「あ、それもそうか………」

 

しかし、神谷のその言葉で、一夏も別に口止めされていない事を思い出し、シャルに簡単に事情を説明するのだった。

 

「楯無さんの妹と………」

 

「そうなんだ。だから、これから誘いに行こうと思って」

 

「ふ~ん」

 

一夏とそう遣り取りすると、神谷の方に向き直るシャル。

 

「神谷………本当に楯無さんに頼まれたから、その妹さんと組むの?」

 

「ま、しゃーねえだろ。あの生徒会長が頭下げて頼んで来たんだ。引き受けなかったら男が廃るってもんだぜ」

 

ティトリーの事もあり、若干浮気の気を疑っていたシャルは、神谷にそう問い質すが、神谷は堂々とそう返す。

 

その言葉に他意は感じられなかった。

 

「あ、うん………そうだよね………」

 

その言葉で、シャルは逆に神谷を疑った自分に自己嫌悪する。

 

「………ゴメン」

 

「あ? 何で謝るんだ?」

 

突然謝られて、神谷は首を傾げる。

 

「いや、その………何となく」

 

「んだよそりゃ? ま、いっか………ああ、そうそう。簪って奴には俺か一夏の内どちらかが組めば良いんだ。向こうさんが一夏と組みたいって言ったら、俺はシャルと組むぜ」

 

「えっ!? 本当!?」

 

「ああ。お前も一夏と同じで、俺が安心して背中を預けられる奴だからな」

 

神谷はニヤリと笑って、シャルにそう言い放つ。

 

(安心して背中を預けられる!! 神谷はそんなに僕の事を!!)

 

その言葉に、シャルは天にも昇る様な気持ちとなった。

 

「えへへへ………」

 

「アニキ、そろそろ………」

 

「おっと、そうだな。じゃあ、シャル。悪いが、俺たちゃもう行くぜ」

 

「うん………頑張ってね………」

 

若干惚けた顔でそう言い、教室を出て行く神谷と一夏を見送るシャル。

 

「はわ~~」

 

「でゅっちー。一緒にお昼行かない?」

 

とそこで、のほほんがシャルを昼食に誘う。

 

「はわ~」

 

「でゅっちー?」

 

返事が無かったので、再度のほほんはシャルへと声を掛けるが………

 

「はわ~」

 

シャルは、惚けた表情のままボーッとしており、のほほんが目の前で手を振っても、全く反応を示さなかった。

 

「ありゃりゃ~、ま~た自分の世界に入ってるのかな~」

 

それを確認したのほほんがそう呟く。

 

良く有る事なので、のほほんはそのまま友達と一緒に食堂へと向かう。

 

結局………

 

シャルが正気に戻ったのは、それから10分後だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、神谷と一夏は………

 

途中で一夏をパートナーにしようとした鈴に出会すと言うトラブルに見舞われながらも………

 

シャルと同じ様に事情を説明して切り抜けようとしたものの、シャルとは違い、鈴は承服しかねた。

 

だが、神谷が強引に押し通し、結局半ば強行突破する形で、如何にか1年4組の教室へ辿り着く。

 

「ふう。やっと4組に着いた」

 

と、一夏がそう漏らすと………

 

「ああっ! 1組の織斑くんだ!!」

 

「え! 嘘々! 何で!?」

 

「よ、4組に御用でしょうか?」

 

途端に、その姿を発見した4組の生徒達が群がって来るが………

 

「よう!」

 

「「「「「ゲェーッ!? 天上 神谷!?」」」」」

 

神谷の姿を見るがいなや、蜘蛛の子を散らす様に踵を返して行った。

 

「俺は悪魔超人か何かか?」

 

「まあまあ、アニキ………」

 

憮然となる神谷に、一夏が宥める様に言う。

 

「あ、あのさ………更識さんって居る?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

一夏が若干遠巻きになって見ていた生徒達にそう尋ねると、生徒達は驚きの声を挙げた。

 

「更識さん、って………」

 

「『あの』?」

 

と、その瞬間に、一夏と神谷の進路を開ける様に生徒達は左右に広がり、クラスの1番後ろ、窓際の席が見える様になる。

 

「…………」

 

楯無と良く似ているが、若干幼さがあり、特徴的なアクセサリーとメガネを身に付けた生徒………簪の姿がそこに在った。

 

購買で買ったパンを端に置き、空中投影ディスプレイを見ながら、一心不乱にキーボードを叩いている。

 

「へえ………アイツか」

 

(暗い子だって聞いてたけど………何だ。結構活動的じゃないか)

 

その姿を確認してそう呟く神谷と、内心で若干失礼な事を考える一夏。

 

「えっと………もしかして、朝のSHRで説明された、専用機持ちのタッグマッチの相手として、更識さんを選んだ………とか?」

 

「まあ、そう言うこった」

 

恐る恐ると言った具合に尋ねて来た生徒に、神谷があっけらかんと答える。

 

「え?………だってあの子、専用機持ってないじゃない」

 

「今までの行事、全部休んでるしさぁ」

 

「それに、あの子が専用機持っているのって、お姉さんの………」

 

すると、生徒達からは陰口の様な台詞が発せられ始める。

 

「ああん?」

 

しかし、そう言った陰口の様な行為が嫌いな神谷は、思わず生徒達を睨み付ける。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

途端に、生徒達は我先にと教室から逃げ出した。

 

アレほど人が居た教室には、神谷と一夏、そしてコレだけの喧騒が有ったにも関わらず、未だにキーボードを叩き続けている簪だけが残される。

 

「ア、アニキ。やり過ぎだよ」

 

「ヘッ! 俺は陰口なんて叩く奴が大嫌いなんだよ! 言いたい事があんなら正面から堂々と言や良いじゃねえか!!」

 

若干慌てる一夏だったが、神谷は平然とそう言い放ち、残っていた簪へと近付いて行く。

 

「あ! アニキ!」

 

一夏も慌ててその後を追う。

 

「よう!」

 

そう言いながら、簪の正面の席に後ろ向きに座る神谷。

 

「…………」

 

しかし、簪は無視してキーボードを叩き続ける。

 

「こ、こんにちは………」

 

「…………」

 

続いて一夏が右隣の席に座って話し掛けるが、やはり反応は返って来ない。

 

「おうおう。いきなり無視してくれるたぁ、良い度胸じゃねえか」

 

「アニキ! それじゃ喧嘩腰みたいだよ!」

 

若干言葉使いに問題が有ると思い、神谷を止める一夏だが………

 

「…………」

 

やはり簪の反応は無い。

 

彼女からは独特の雰囲気が感じられる………

 

まるで盗まれた過去を探し続けて、見知らぬ街を彷徨う感じだ。

 

若しくは、炎の匂いが染み付いて………

 

 

 

 

 

むせる

 

 

 

 

 

…………様な雰囲気である。

 

「あ、あのさ………せめて返事ぐらいはしてくれないかな?」

 

そこで、一夏が簪の肩を摑む。

 

「!? キャアッ!?」

 

すると簪は、可愛らしい悲鳴を挙げて、椅子から滑り落ちた!

 

「!? ちょっ!?」

 

「オイオイ? 大丈夫か?」

 

慌てて立ち上がり、倒れた簪の姿を確認する2人。

 

「………だ………誰?………何時の前に………?」

 

簪は倒れたまま2人を見上げてそう尋ねて来る。

 

「えっ?」

 

「ひょっとして………今まで気付いていなかったのか?」

 

一夏と神谷が呆れる様な表情になる。

 

如何やら、あまりにも作業に没頭していた為、一夏と神谷の存在に全く気づいていなかった様だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

コレが、私と織斑 一夏と天上 神谷との初めての出会い………

 

そしてこの日を境に………

 

私の運命は劇的に変わって行く事となる………

 

その時私は、頭の片隅でそんな予感を感じていた………

 

今はまだ予感に過ぎない………

 

けどこの2人に付いて行けば、きっと行き着く………

 

私はそれを信じる事にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

タッグマッチ編、開幕です。
シュバルツからの渡された刀で修業に励む一夏。
そんな中で、取材の依頼に加えて、楯無の妹・簪を任される。
独特な雰囲気を持つ簪。
果たして、タッグマッチでは何が待ち受けているのか?

さて、前回の後書きにて、簪が別人と言う事を言っていましたが、今回の話でどういう感じなのか分かった最低野郎の方は多いでしょう。
そう………
ウチの簪は、『むせる』んです!
当然、250憶分の1の確立にも当選しています。
ぶっちゃけ、楯無が思い込んでるだけで、彼女より強いです。
何故こんなキャラ付けをしたのかは次回で語ります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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