これは………
女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………
それに付き従う女達の物語である………
天元突破インフィニット・ストラトス
第40話『ったく、動き難くてしょうがねえぜ………』
簪の領域へ、お馴染みの強引さで踏み込んで行った神谷。
そんな神谷に影響されていた一夏も、嘗て神谷に言われた言葉を、そのまま簪へと投げ掛けた。
まだタッグマッチのパートナーとしては認められていないが、簪の心に大きな影響を与える事には成功している。
そして、嘗て姉がそうした様に、1人で自分の専用機を組み立てていたのを手伝いに入る。
相変わらず姉である楯無には拒絶の意思を示しているものの、神谷は長期戦を覚悟し、時間を掛けて簪の心を変える事を密かに決意する。
部品の発注が滞り、深刻な部品不足となっていた簪の専用機を組み上げる為に………
神谷は何と!
スクラップから使える部品を流用すると言う手段に出る。
この型破りな方法に戸惑う一夏達だったが、簪自身がそれを受け入れた事により………
世界でも類を見ないスクラップを使ったIS専用機の組み立てが開始されたのだった………
その作業が続く中、とある休日………
以前、薫子か受けていた取材の仕事の日取りが決まり、一夏と箒、そして神谷とシャルは、薫子の姉が勤める編集部へと向かっていた………
「う~ん、国連と国からの取材かぁ~………緊張するな~」
私服姿のシャルが、緊張している様子でそう言う。
専用機持ちとしての取材のされ方は、デュノア社に居た頃に一通り受けていたが、依頼主が日本政府と国連とあっては、流石に緊張せざるを得なかった。
「気にすんなシャル! 相手が何処の誰だろうが、俺達は無敵のグレン団!! 恐るるに足らずだ!!」
一方の同じく私服姿(と言っても、素肌の上に晒を巻いて同じマントを羽織っている状態)の神谷は、相変わらず根拠の無い自信を炸裂させている。
「神谷~………ハア~、ホント、神谷見てると、細かい事で悩んでたのが馬鹿らしくなるよ」
呆れる様な溜息を吐きながらも、シャルは笑顔を浮かべてそう言う。
神谷の根拠の無い自信程、頼りになる物はないのだ。
「ハッハッハッ! 昔っから言うだろ! 細かい事は気にすんなって!!………ところで、取材って何すんだ? 美味いモンが食えたりすんのか?」
「ええっ? 其処から!?」
ノリノリで引き受けた割に、取材の事に関して一切分かっていなかった神谷に、シャルは1から丁寧に教える。
………因みに、2人は現在、ナチュラルに腕を組んで居る。
(アイツ等………平気で腕など組みおって………)
その後ろで、私服姿の一夏と横並びになって歩いていた私服姿の箒は、羨ましそうな視線を送っている。
「箒? 如何したんだ? 何かさっきからアニキとシャルロットの事を睨み付けてるみたいだけど………」
そんな箒の様子に、一夏がツッコむ様に言って来る。
(お前は分からんのか!? 一目瞭然だろうが!!)
一夏の方に向き直ると、若干理不尽な思いを浮かべる箒。
恋する乙女とは多かれ少なかれ理不尽なものである。
(いや………相手はあの一夏なのだ………やはりココは私から動かなければ………)
だが、何とか思考回路を冷却し、そういう考えに至らせる。
「い、一夏!」
「ん?」
「きょ、今日は、な、何だか冷えるな!」
「ああ、そう言えばそうだな。取材の時間まではまだ余裕あるし、あそこのコーヒーショップで何か買うか?」
箒のその言葉を聞いた一夏は、近くに在ったコーヒーショップを指差しながらそう尋ねる。
「い、いや! そうではなくてだな………」
「じゃあ何だよ? ハッキリ言えよ」
(貴様は~~~~っ!!)
そんな一夏の態度に、箒は心の中で理不尽な怒りを募らせて行く。
「さ、さ、寒いのならば、て、て、手を繋げば良い!!」
決心したかの様にそう言う箒だったが、直後に恥ずかしさで赤面し、俯き加減となる。
「ああ、それは良いな。んじゃ、そうしよう」
だが、そんな箒の心情などこれっぽっちも理解出来ていない一夏は、ヘラヘラと笑いながら箒の手を取る。
「!?」
箒は驚き、無言となる。
「さ、行こうぜ」
一夏はそんな箒の様子も知らず、手を引いて行く。
(アイツ………)
(一夏………箒が可哀そうだよ………)
そんな一夏の姿を振り返りながら見ていた神谷は呆れ、シャルは箒への同情を感じるのであった。
雑誌『インフィニット・ストライプス』の編集部………
一同は地下鉄を利用し、漸く薫子の姉が勤める雑誌『インフィニット・ストライプス』の編集部へ辿り着き、取材用の部屋へと通される。
「どうも、私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長やっている『黛 渚子』よ。今日はよろしくね」
薫子の姉………『黛 渚子』が、一夏達に向かってそう挨拶する。
「あ、どうも、織斑 一夏です」
「篠ノ之 箒です」
「初めまして、シャルロット・デュノアです」
3人が渚子に向かって挨拶を返す。
「そして俺が言わずと知れたグレン団の鬼リーダー! 天上 神谷様よ!!」
最後に神谷が、自分の事を親指で指して、ビシッとポーズを決めながらそう言った。
「おおっ! シャッターチャンス!!」
すぐにそのポーズの写真を撮る渚子。
「ア、アハハハハ………」
「ま、こうなるよね~」
「…………」
神谷の予想通りの態度に、一夏は苦笑いを浮かべ、シャルは何処か悟った様な顔になり、箒は憮然として黙り込む。
「と、ゴメンなさい。天上くんがあんまりにも良いポーズしてくれるものだから、つい写真を撮っちゃったけど、先にインタビューから始めさせてもらうわね。写真撮影はその後」
と、そこで渚子は一旦カメラをテーブルの上に置くと、ペン型のICレコーダーを取り出し、手の中でクルンと1回転させる。
「じゃあ、先ず織斑くんから。女子校に入学した気持ちは?」
「いきなりそれですか………」
「だってぇ、気になるじゃない。読者アンケートでも君への特集リクエスト、すっごく多いのよ?」
呆れる様な一夏に、渚子は重ねて問い質す。
「え~と………使えるトイレが少なくて困ります」
「ぷっ! あは、あははは! 妹の言ってた事、本当なのね! 異性に興味の無いハーレム・キングって!!」
「は、ハーレム・キング?」
「アハハハハッ! 因みに、天上くんはどんな気持ちですか?」
一頻り笑うと、渚子は今度は神谷にも同じ事を問う。
「悪かぁねえな。右を見ても左を見ても女ばかりだからな。良い目の保養だぜ」
「そ、そう………」
一夏と違い、露骨な神谷には、流石の渚子も少し戸惑う。
「むぅ~! 神谷! 何時も女の子の事、そんな目で見てたの!?」
途端に、シャルは嫉妬の声を挙げるが………
「何だ、シャル? 妬いてんのか?」
神谷はニヤリと笑いながらそう返す。
「べ、別に、僕は………」
「ハッハッハッ! 今のお前も良い目の保養だぜ!」
赤面するシャルに向かって、神谷はそう言い放つ。
「も、もう~! 神谷~!!」
「ハッハッハッ!!」
(((………余所でやってくんないかな)))
当の本人達は楽し気だが、見せ付けられている3人は堪ったモノじゃない。
「あ~、えっと………じゃあ、次は篠ノ之さんに質問ね」
やがて耐え切れなくなった様に、渚子は箒へと質問を振った。
「えっと、篠ノ之さんにはお姉さんの話を………」
と、渚子がそう言った瞬間、箒は座っていた椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。
やはり姉の事に関して触れられたくないらしい。
「………ディナー券あげないわよ」
「うっ!」
しかし、渚子のその言葉を聞くと、少し逡巡する様子を見せた後、諦めたかの様に椅子に座り直す。
「良い子。うふふ、素直な子って好きよ………それで、お姉さんから専用機を貰った感想は? 何処かの代表候補生になる気はないの? 日本は嫌い?」
「紅椿は、感謝しています………今のところ、代表候補生には興味ありません。世界の情勢が情勢ですから………日本は、まあ、生まれ育った国ですから、嫌いではないですけど………」
矢継ぎ早にされた質問を、丁寧に1つずつ答える箒。
(そう言えば………姉さん………あの時………生徒達にゴメンって………)
ふとそこで、紅椿を貰った時、束が生徒達に謝罪していた姿を思い出す。
あの時は紅椿を貰った事と、束の悪戯芝居に怒っていた事もあって深く気に掛けなかったが、今にして思えば、信じ難い光景だった………
箒と一夏、千冬に神谷以外の人間にはまるで興味を持たなかった束が、見ず知らずの他人である生徒達に謝罪する………
彼女の知る束の性格からは考えられない光景である。
良く思い出せば、あの時の束は、とても悲しそうな顔をしていた………
(姉さんは………変わろうとしているのか………?)
「ふむふむ、成程………ありがとうね。それじゃあ、次は天上くんに質問ね」
「おう! 待ちかねたぜ!!」
と、箒がそんな事を考えていると、今度は神谷が渚子に話を振られ、待ってましたと言う様な様子を見せる。
「知っての通り、今年の春頃に出現したロージェノム軍は世界征服宣言をして、各国に攻撃を仕掛けたわ。小国の幾つかは滅ぼされ、大国との戦闘は膠着状態。日本も自衛隊が少なからず被害を受けているわ」
コレまでのロージェノム軍の動きを振り返る様に、渚子は解説する。
「そして貴方達が居るIS学園も襲われている。でも! そんなロージェノム軍の快進撃を食い止めたのが………」
「この俺! 天上 神谷様とグレンラガンよ!!」
と、そこで神谷は椅子から立ち上がると、テーブルの上に片足を乗っけて、ビシッと右手の親指で自分を指差す。
「うんうん、良いね良いね~。今まで日本を襲ったロージェノム軍の殆どがグレンラガンと貴方が言うグレン団のメンバーが撃退してるけど………根本的な質問で申し訳ないけど、グレンラガンって何処の誰が作ったISなの?」
「何言ってやがる? グレンラガンは………」
「「「わ~っ! わ~っ! わ~っ!!」」」
と、何か言い掛けた神谷の口を、一夏、箒、シャルが一斉に塞ぐ。
「な、何!? 如何したの!?」
その様子に驚く渚子。
「い、いや~! 何でも無いです! アハハハハ!!」
(駄目だってアニキ!!)
(グレンラガンの情報は機密扱いだと言うのを忘れたのか!?)
シャルが誤魔化す様な笑いを挙げ、一夏と箒が神谷に小声でそう言う。
(ああ、そういやそうだったな………すっかり忘れてたぜ)
神谷は悪びれた様子も無く、あっけらかんとそう言い放つ。
(千冬さんが懸念する筈だ………)
そんな神谷の姿に、箒は千冬に同情する。
本来ならば、グレンラガンや神谷に対する取材等は、IS学園………と言うよりも千冬がブロックしているのだが、日本政府は兎も角、国連からの要請は断れず、神谷に取材を受ける事を許可した。
勿論、千冬は心配からまた胃を痛めている………
「えっと、グレンラガンは………あ! そうそう束さん………もとい篠ノ之博士が作ったんです」
とそこで、一夏がそうフォローを入れる。
「篠ノ之博士が?」
「ええ、実はアニキは篠ノ之博士とも幼馴染で、仲が良かったんです。それで博士が直々に………」
「成程ね~。篠ノ之博士って人付き合いが嫌いな事で知られてるけど、仲の良かった幼馴染だったって言うなら納得かな~」
渚子は手帳を取り出すと、メモを取る。
「さて、次はデュノアさんに質問ね………今更かも知れないけど、天上 神谷との関係は?」
「ええっ!?」
渚子の質問に、シャルは赤面する。
「え、えっとその………こ、ここ、こここ………恋人同士です」
そしてモジモジしながら、呟く様にそう言う。
「やっぱりね………それじゃあ、付き合う様になった経緯は? 告白はどっちから?」
「えっと、経緯はちょっと込み入った事情があるので言えませんけど………告白は………神谷の方から」
「因みに、どんな告白のされ方だったのかな?」
「そ、それ本当にインタビューする内容なんですか!?」
まるでゴシップ記事のネタでも訊かれている様な気分になり、シャルはそう言う。
「勿論よ。まあ、半分は私の趣味も入ってるけどね」
「な、渚子さん!!」
「ハイハイ。あんまり弄ると可哀そうだから、この辺にしておきましょうか」
「も~う」
悪びれた様子の無い渚子に、シャルは頬を膨らませて抗議するのだった。
その後も一夏達への質問は続き、一夏達は時折機密事項をアッサリと話してしまいそうになる神谷に慌てながらも、如何にかインタビューを終了。
いよいよ写真撮影へと入る為に、男女に別れ、スポンサーの服に着替えに行く。
箒&シャルサイド………
「…………」
「箒、早く着替えないと………撮影スタッフの人達が待ってるんだよ」
「わ、分かっている! 分かっているが………」
箒は、用意された衣装を前に、1人苦悩している。
用意されていた衣装と言うのが、かなり大胆に胸元が開いたブラウスに、フリルが可愛らしいミニのスカート、それにショート丈のジーンズアウターという一式である。
普段の箒ならば絶対に着ない服であり、箒は如何するべきかと固まっていた。
因みに、シャルは既に同じ衣装の色違いに着替え終えている。
「覚悟を決めなよ。それに良い機会かも知れないよ。一夏にそういう服も似合うんだ、ってのを教えてあげたら如何かな?」
「い、一夏に!?」
シャルのその言葉を聞いた箒は、きっかり2分間程考える素振りを見せていたかと思うと………
「よし! 着るぞ!!」
まるで戦いに赴くかの様にそう決意したのだった。
「やれやれ………」
着替えている箒に見えない様に、シャルは両手を広げて肩を竦める。
10数分後………
撮影場所で、化粧をされ、準備が整った箒とシャルが、一夏と神谷を待っていた。
(い、一夏はまだか? この恰好、スースーして落ち着かないのだが………)
「箒。少しは落き着きなよ」
居心地が悪そうにしている箒に、シャルがそう言う。
しかし、彼女の気持ちも良く分かった。
着飾った美女2人を前にして、アシスタントカメラマンを含めた男性スタッフが、先程から何度も熱っぽい溜息を吐いているのである。
(あ~、神谷早く来ないかな~)
(い、一夏が褒めてくれたら、今日の夕食は外で一緒に取ろう。わ、私から誘うんだ。私から………私から………)
神谷の登場を待ち焦がれているシャルと、内心でそんな計画を立てている箒。
すると………
「すみませーん! 遅れましたー! 織斑 一夏くん! 天上 神谷くん! 入りまーす!!」
通路のメイク室から、スタジオスタッフのそう言う声が響いて来た。
(い、一夏が来る………!一夏が来る………!)
(神谷達はどんな恰好なんだろう………?)
箒はそれに胸を高鳴らせ、シャルは神谷達の恰好がどんなものかを気にする。
「う~ん、何かコレ変じゃないですか?」
「ったく、動き難くてしょうがねえぜ………」
すると今度は、一夏と神谷の声が聞こえて来た。
「ぜーんぜん! 超似合ってるわよ! 10代の子のスーツ姿っていうのも良いわね。それと天上くん。それでもかなり妥協したんだからね。文句言わない」
続いて、渚子のそう言う声が聞こえて来る。
(ス、スーツだと!?)
(神谷にスーツ? ファッションモデルにジャージ着せるぐらいミスマッチだよ)
一夏がスーツ姿であると言うのを聞いて、益々動悸を早まらせる箒と、若干失礼な事を考えるシャル。
そして、遂に本人達が姿を現す。
カジュアルスーツをキッチリと着こなしている一夏と、対照的に上着どころかシャツのボタンも全開にして晒を巻いた上半身を露わにしており、挙句に袖を肘の辺りまで捲ると言うワイルド系な着こなし方をしている神谷。
共通して言えるのは………
どちらも似合っていてカッコイイと言う事だ。
「い、一夏………」
「お、おう。待たせたな、箒」
「う、うむ………」
箒と一夏は、お互いに言葉に詰まる。
(うわ………箒………すっげぇ可愛い………)
だが一夏は、普段の彼女なら絶対にしないであろう服装を見て、そんな思いを抱いていた。
「に、似合っているな………そ、その何だ。わ、悪くないぞ」
「お、おう。サンキュ。箒も、その………可愛いぞ」
「か、かわっ………!?」
そこまで言うと、2人は互いに黙り込んでしまう。
「神谷」
「おう、シャル。中々グッと来る恰好じゃないか」
「ありがとう。神谷もスーツって聞いた時は無理があると思ったけど、そういう着方なら案外似合ってるね」
「そうかぁ? 俺としちゃあ、動き難くてしょうがねえぜ………」
一方、シャルと神谷は自然に会話しており、神谷は慣れないスーツに窮屈さを感じていた。
「はーい、それじゃあ撮影を始めるわよー。時間押してるから、サクサク行っちゃいましょう」
とそこで、渚子が手を叩きながらそう指示を出し、いよいよ写真撮影に入る。
神谷、シャル、一夏、箒の4人はポーズを変え、立ち位置を変え、時には写る人数と組み合わせを変えて、次々に写真を撮られて行く。
(さっきはびっくりしたなぁ………まさか、箒があんなに変わるとは………メイクって凄いな)
そんな中、一夏は箒の姿が脳裏に焼き付いており、撮影中、箒を見ない様にしていた。
(いつもの箒なら絶対に着なさそうだよな………何だろう? いつもと違って大人びているって言うか、その………駄目だ。適当な言葉が見当たらない)
「織斑くん。篠ノ之さんともっとくっついて。もっと」
と、一夏がそんな事を悶々と考えていると、不意に渚子からそう声を掛けられた。
「えっ!? あ、は、ハイ! こうですか?」
と、一夏は思わず若干高い声を出してしまったが、すぐに取り繕って指示に従う。
「あー、ダメダメ。もっと、もっと!」
「え!? いや、その、これ以上は………」
「一夏、何やってんだ? 男だったらドーンと決めろ!!」
煮え切らない態度の一夏に、神谷からそんな声が飛ぶ。
そんな神谷は、現在………
シャルを右腕だけで片腕抱きして持ち上げていると言う、何ともワイルドなポーズを決めている。
「…………」
抱き抱えられているシャルは、顔を真っ赤にして照れ捲っている。
(ア、アニキ………)
そんな神谷の姿に、一夏はギャグ汗を掻く。
その後、怒っているであろうと予想していた箒の様子を確かめるが………
「…………」
箒は怒るどころか、顎を引いた弱々しい上目遣いで、懇願する様に一夏を見つめていた。
(ううっ!?)
そんな箒の様子に、一夏は内心で狼狽する。
気持ちを如何にか落ち着かせながら、一夏は箒の更に傍に座り直す。
「あっ………」
と、その際に腕が僅かに触れ合い、箒が普段からは信じられないくらいに可愛い声を出す。
(!! ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!)
自分でも良く分からない衝動に襲われながら、一夏は必死に気持ちを落ち着かせようとする。
「うーん、何か並んで座ってるだけって絵にならないわねー。織斑くん、篠ノ之さんの腰を抱いて」
と、そんな一夏の行為を台無しにするかの様に、渚子はそんな事を言って来る。
「………は?」
「こ・し・を・だ・い・て。早く!」
「は、ハイ!!」
渚子の剣幕に押され、一夏は思わず何も考えずに箒の腰に手を回して、自分の方に抱き寄せた。
「「!?」」
突然腰に手を回された箒と、ふと我に返った一夏が、思わず顔を見合わせ合う。
「「…………」」
そのまま、僅か10センチ足らずの距離で見つめ合い、互いに顔を赤面させる2人。
「うわぁ………」
「ひゅう~」
それを見たシャルは自分も再び赤面し、神谷は冷やかす様な事を言って来る。
と、その瞬間にカメラのシャッターが切られた。
「んん~。良い絵が撮れたわ。ナイスリアクションよ、2人共」
「「!!」」
渚子の言葉で、2人は漸く自分達の状況を理解し、パッと距離を取り合う。
「ハイ! お疲れ様! じゃあ4人共パパッと着替えちゃって。あ、服はそのままあげるから、持って帰っちゃって」
「は、はぁ………」
「わ、分かりました………」
「やれやれ………漸くこの恰好から解放されるぜ」
「お疲れ様でした」
一夏達は多種多様な返事をしながら、撮影の疲れを感じる。
「えーと、ディナー券は携帯電話にデータ転送してあげるから、帰る前にアドレス教えてね。それじゃあお疲れ!!」
渚子はかなり軽いフットワークで、既にカメラから画像データを抜き出して、携帯端末で確認しながらそう言っていた。
「ん! あ~~~! さて、帰るか」
「うん、そうだね」
神谷が伸びをするとそう言い、シャルが返事を返す。
「「…………」」
一方、一夏と箒はまだ若干呆然としていた。
「オイ、一夏。何やってんだ?」
「箒、行くよ」
そんな2人に、神谷とシャルは呼び掛ける。
「あ、ああ………」
「今行く………」
力無く返事を返すと立ち上がり、互いに無言のまま、其々の更衣室へと向かう一夏と箒。
「「…………」」
そんな2人を見送ると、神谷とシャルは顔を見合わせ、呆れた様に肩を竦め合うのだった。
◇
その後………
取材と撮影を終えた一同の中で、箒は一夏に夕食を外食で済ませようとの誘いを出す。
特に深い意味で考えなかった一夏はそれを了承。
そのまま所謂、『恋人同士のディナー』を楽しもうとしたが………
神谷は用が有ると言い、学園への帰路に就いた。
神谷が帰ると言う事で、シャルもそれに付き合い、一夏と箒は2人で夕食を楽しもうとしたのだが………
色々あって、箒は撮影での幸せが吹っ飛んでしまう様な思いをしたのである………
一方………
学園へと帰った神谷の用とは………
ジギタリスへの尋問だった。
グレン団に投降し、IS学園に監視された状態で拘束されているジギタリスだが………
未だにロージェノム軍に関する有益な情報は得られていない。
彼が遊撃部隊隊長と言えども、獣人の中では末端に近い事もあり、詳細を知らされていないと言うのも有るが、それ以上に彼が尋問に口を割らなかったのである。
投降したのはケジメを着ける為であり、貴様達の元に下ったのではないと言うのが彼の言い分である。
千冬やリーロンは辛抱強く何度も尋問を行ったが、ジギタリスの態度は変わらない。
そこで千冬は、今回は彼と直接勝負を繰り広げた仲である神谷も交えての尋問を行う事にした。
IS学園・地下施設の一角………
「如何しても情報を教える積りは無いのか?」
「くどい………俺が此処に居るのはケジメの為だ。ロージェノム様への忠節まで売った覚えは無い」
千冬の問いに毅然としてそう返すジギタリス。
「お手上げね………」
リーロンはお手上げのポーズを取る。
「…………」
今回その尋問に同席した神谷は、そんなジギタリスの姿をジッと見ていたが………
「なあ、ジギタリスよぉ………何でそんなにあの禿親父に義理立てんだ?」
不意に、ジギタリスに向かってそう質問を投げ掛けた。
「ロージェノム様への侮辱は許さんぞ!………俺達獣人はロージェノム様が創られたモノ。つまり、我等獣人にとって螺旋王様は創造主………創造主に逆らう者なぞ居るか………例えば、神谷よ………石を持った手を離したら、石は如何なる?」
「まあ、下に落ちるな」
「そうだ………だが………石が下の落ちる事に………それ自体に理由が有るか?」
「…………」
その言葉を聞いて、神谷は沈黙する。
「俺達獣人にとって、螺旋王様に忠誠を尽くすと言う事は………その石が落ちる事に近い」
「つまり………当たり前だと言う事か?」
そこで千冬がそう口を挟む。
「そうだ………石は落ちる………獣人は螺旋王様に尽くす………ただ、それだけだ………」
ジギタリスは諦めにも似た感情が混じった声でそう返す。
「………何だか良く分からねえ話だな。まあ良い! 俺のドリルは天を衝く! 一夏の剣は天を斬り裂く! そして………無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺達グレン団なんだよ!!」
とそこで、神谷が何時もの様に啖呵を切り始めた。
「石ころが地面に落ちる事が道理だったとしても………関係ねぇ!!」
「…………」
ジギタリスは、黙ってその啖呵に聴き入っている。
(やはりこの男の言う事………ロージェノム様の御言葉と並ぶ程の価値を感じる………ティトリーよ………それがお前がこの男に惹かれる理由か?)
「アラ? 何か考え事?」
今度はジギタリスの方が黙り込み、リーロンがそんな言葉を投げ掛ける。
「まぁ………そんなところだ………」
「そう………今日はこれぐらいにしましょう」
「そうだな………」
と、リーロンは今度は千冬に向かってそう言い、今日の尋問はこれで終える事となる。
「ふぁあぁ~~~………ねみぃから俺はもう寝るぜ」
神谷も大きく欠伸をすると、気怠そうにしながら、ジギタリスの前から去って行った。
「全くアイツは………」
「まあまあ、怒らない怒らない。じゃないとまた胃に穴が開くわよ」
「それを言わないで下さい………」
リーロンと千冬も、愚痴を言いながら去って行く。
「…………」
1人残されたジギタリスは、静かに目を閉じると、まるで瞑想しているかの様なポーズを取り、そのままジッと動かなくなるのだった………
つづく
新話、投稿させていただきました。
今回はちょっとむせるから離れてラブコメをお届けしました。
イチャイチャな神谷&シャルと、初々しい一夏&箒。
良い対比になったかと。
そしてジギタリスとの尋問。
何故獣人が螺旋王に従う理由は、それが当たり前だから………
だが、そんな当たり前を蹴っ飛ばすのが神谷のやり方。
果たして、それが彼にどの様な影響を与えるのか?
次回からはまたむせる全開でお届けします。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。
新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は
-
天元突破ISと同時
-
土曜午前7時
-
別の日時(後日再アンケート)