天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第41話『………ターンピックが冴えないわね』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第41話『………ターンピックが冴えないわね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷と一夏が、簪と出会ってから1週間が経過した………

 

タッグマッチのタッグ申込みは目前にまで迫っている。

 

にも関わらず………

 

2人は相変わらず、虚とのほほんと共に、簪の専用機の組み立てを続けている………

 

 

 

 

 

IS学園・IS整備室………

 

「お姉ちゃ~ん。この配線は何処へ繋げば良いのぉ?」

 

「もう、本音。さっき教えたでしょ。その配線はB回路へよ」

 

内部の配線の組み立てをやっていた虚とのほほんがそう言い合う。

 

「アニキ、そっちを抑えてて貰える?」

 

「おう! 任せておけ!!」

 

神谷は装甲板を持ち上げて抑え、その隙に一夏が溶接で装甲板同士を繋ぎ合わせる。

 

「…………」

 

そして簪は黙々と機体制御用のOSを組んで居た。

 

「本音、コネクターを切り替えて」

 

「どれ?」

 

「もう早くして。電源の傍よ」

 

「だからどの電源?」

 

「アニキ、あのパーツを持って来て貰えるかな?」

 

「ホイ来た」

 

そんな簪の前で、虚にのほほん、一夏に神谷は和気藹々と言った感じに組み立てを続けている。

 

「…………」

 

ふと簪は、OSを組む手を止めて、その光景を見遣る。

 

神谷達の協力により、漸く基礎が組み上がった簪の専用機だが、その姿はかなり歪だった………

 

使っているパーツは元はスクラップであり、しかも様々なISの部品である。

 

その為、見た目は思いっきりアンバランスであり、打鉄のパーツが有るかと思えば、ラファールのパーツが有ったり、他人の専用機パーツも有れば、まるで見た事もないパーツまで有る………

 

例えるならば、その姿はフランケンシュタインの怪物である。

 

(ま………私にはお似合いかもね………)

 

そんな自らの専用機の姿に、簪は心の中で1人ごちた。

 

「う~ん………如何するかなぁ………」

 

「困ったね~」

 

と、そうしている内に、一夏達の作業の手が止まり、何か悩む様な様子を見せている。

 

「………如何したの?」

 

「簪様、それが………」

 

「バーニアの出力が足りないんだよ~」

 

簪の問いに、虚が答え難そうにしていると、のほほんが代わる様にそう言う。

 

「足りない………?」

 

「ええ………元がスクラップの部品ですから………機体を飛行させるまでの出力が得られないんです………」

 

「これじゃあ飛べたとしても、精々ジャンプが良いとこだな………」

 

簪の専用機のバーニアを見ながら一夏がそう言う。

 

「そう………」

 

簪は、自分の専用機に近付くと、バーニア部を撫でる様に触る。

 

「如何する、簪さん?」

 

そこで一夏がそう尋ねる。

 

「………仕方がない………飛行能力を………捨てる………」

 

「「えっ!?」」

 

「なっ!?」

 

簪の言葉に、虚とのほほん、そして一夏は驚きの声を挙げた。

 

IS同士の戦いの場合、当然ながらそれは空中戦となる。

 

だが、簪は飛行能力を捨てると言った。

 

それはつまり、完全な陸戦用のISを組み上げると言う事である。

 

局地戦を目的として開発するのなら兎も角、普通に考えればデチューンでしかない。

 

空を自在に飛べる者と、地上を動くしかない者では、空を飛べる方が圧倒的に有利であるからだ。

 

「ちょっと待ってくれ、簪さん。それじゃあ………」

 

「空を飛べる事は………有利になると言う事だけど………勝利の絶対条件では無い………」

 

何か言おうとした一夏に、簪はそう返し、機体から飛行機能を司るパーツを取り外し始める。

 

「いや、ちょっと………」

 

「ならコイツを代わりに使うかぁ?」

 

と、そう言いながら神谷がISの脚部パーツを持って来る。

 

しかし、それは只の脚部パーツでは無く、足の裏にローラーとキャタピラの様な推進装置が付いている脚部だった。

 

「アニキ? そのパーツは?」

 

「スクラップに中に混じってたぜ」

 

「………じゃあ………その脚部パーツに………換装して………」

 

簪はそのパーツを少しの間だけ見ていたかと思うとそう言う。

 

「アイヨ!」

 

「それと………機動性を重視したいから………装甲をギリギリまで削って………」

 

「簪様! それは危険過ぎます!!」

 

虚がそう声を挙げる。

 

如何にISが何があっても操縦者を守る絶対防御を備えているとは言え、そのシールドはエネルギーに依存している。

 

エネルギーが無くなれば絶対防御も無くなり、ISはガラクタと化す。

 

全身装甲(フルスキン)とまでは行かないでも、装甲にはある程度は厚さを持たせたのを多めに装着するに越した事はないのだ。

 

「良いからやって………」

 

しかし、簪は譲らぬ様子でそう繰り返す。

 

「簪様!!」

 

「まあ、良いじゃねえか。コイツの専用機なんだ。コイツが造りてぇ様に造らせてやろうぜ」

 

虚が食い下がろうとするが、今まで付いていた脚部パーツを外し、ローラーダッシュ機能の付いた脚部パーツを新たに取り付けに掛かっている神谷がそう言う。

 

「………分かりました」

 

虚は根負けしたかの様にそう言い、工具を持つと、簪の専用機の装甲を削って薄くして行き、軽量化して行く。

 

「…………」

 

その様子を見ながら、簪は再び機体のOS組みに掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「かんちゃ~ん! 基礎組みが終わったよ~!!」

 

「そう………」

 

のほほんがそう声を挙げた瞬間に、簪も機体用のOS組みを終えた。

 

「…………」

 

そして、改めて基礎組みが完了した自分の専用機を見遣る。

 

相変わらず全体的なフォルムは少々歪だが、神谷達が塗装してくれたお蔭で、大分見栄えは良くなっている。

 

緑色と象牙色の組み合わせは、質実剛健であり、正に兵器と言った感じを醸し出していた。

 

「………悪くない」

 

「簪様………今一度尋ねますが、装甲を限界まで落としましたけど、本当に宜しいのですね?」

 

「そうだよかんちゃ~ん。最大でも14ミリって、幾ら何でも薄過ぎない~?」

 

虚が食い下がる様にそう言い、のほほんも心配そうにそう言う。

 

彼女の注文通りに機動性を重視する為、装甲を薄くして行ったところ………

 

最大でも何と14ミリと言う紙の様な装甲となってしまったのだ。

 

下手をすれば拳銃で撃たれても貫通するレベルである。

 

「構わないわ………」

 

と、簪は冷めた様子でそう言い、専用機を待機状態のクリスタルの指輪に変えると、右手の中指に填めた。

 

「それがお前のISの待機形態か………そう言や、ソイツの名前は何てんだ?」

 

「名前………?」

 

そこで簪は、まだ自分の専用機の名前を考えていなかった事を思い出す。

 

「…………」

 

少しの間、右手の中指に填めた待機状態の専用機を見ていたかと思うと………

 

「………ドッグ」

 

「あん?」

 

「ドッグ………『スコープドッグ』………それがこの子の名前よ」

 

一同に聞こえる様にそう言った。

 

「スコープ?」

 

「ドッグ?」

 

顔を見合わせるのほほんと虚。

 

「へえ~、可愛い名前だな」

 

一夏はそんな感想を言う。

 

「………アリーナで試運転してみる………」

 

と、簪はそう言うと、整備室を後にしようとする。

 

「あ、オイ、待てよ!」

 

慌てて一夏がその後を追って行く。

 

「俺達も行くか」

 

「ほ~い」

 

「そうですね………」

 

それに続く様に神谷、のほほん、虚も整備室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5アリーナ………

 

そこにはタッグマッチに向けての調整を行っている箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、楯無の姿も在った。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「良いよ箒ちゃん! もっと打ち込んで来て!!」

 

箒は、楯無を相手に模擬戦闘を行っている。

 

「照準を右に+2修正………」

 

「トリガーの引き金がちょっと硬いかな………?もう少しバネを調整しなきゃ………」

 

射撃を行いながら、細かな調整を付けているセシリアとシャル。

 

「フッ! ハアッ!!」

 

「フンッ! トアッ!」

 

そして、鈴は中国拳法の型を取っており、ラウラもCQCの型を取っている。

 

「皆~、良い感じだよ~」

 

と、ピットの出入り口でクリップボードを手に記録を取っていたティトリーからそう声が挙がる。

 

「? アレ? 神谷に一夏だ」

 

「!? 何!?」

 

「「「「!?」」」」

 

と、ティトリーが向かい側のピットの出入り口に目を遣った瞬間に、神谷達の姿を発見してそう言ったかと思うと、箒達が一斉に動きを止めて反応。

 

同じ様に一夏と神谷………

 

そして簪と布仏姉妹の存在も確認する。

 

「簪ちゃん………」

 

簪の姿を見て、楯無は表情を曇らせる………

 

「えっ? じゃあ、アレが楯無さんの妹さん?」

 

それを聞いたシャルが、視線を神谷から簪へと移す。

 

他の一同も同じ様に、視線を一夏から簪へと移した。

 

「…………」

 

だが、簪はそんな箒やシャル達、そしては楯無の事も、まるで最初から居ない様に思っているかの様に気にせず、無言でスコープドッグを呼び出す。

 

緑色と象牙色の迷彩を思わせるカラーリングに、様々なISのパーツを継ぎ接ぎした様なデザインのスコープドッグは、他のISに比べて、かなり無骨であった。

 

その中でも目を引くのは、目の部分に付けられたバイザー状のパーツであり、そこにはスリットが入っており、そのスリット上を移動する回転ターレット式3連カメラが装着されている。

 

その視界補助カメラ・ターレットレンズが回転すると光が灯る。

 

「白式!」

 

と、それと同時に、その隣に居た一夏が、白式を呼び出して装着する。

 

「………完成したんだ………簪ちゃんの専用機………」

 

楯無がそう言った瞬間、スコープドッグを装着した簪が、ピットの出入り口から飛び降りた。

 

そのままアリーナの地面に着地するが、その際に衝撃を緩和する為、脚部を変形させて装着者の身体の部分を前方に沈み込む姿勢………『降着姿勢』を取り、少し土煙を巻き上げる。

 

一夏も宙に舞い上がると、アリーナの地面の上に降りた簪の傍に寄る。

 

神谷と布仏姉妹は、ピットの出入り口から、そんな2人を見守っている。

 

「…………」

 

と、キュイイイィィィィィンッ! と言う耳障り………いや、心地良い音が聞こえて来たかと思うと、簪の足元から火花が散り始め、機体が前進する。

 

そのままローラーダッシュで、アリーナ内を自在に走り回る簪。

 

「? おかしいですわね?」

 

「ちょっと………アイツ何で飛ばないのよ?」

 

その様子を見ていたセシリアが違和感を感じ、鈴がそう声を挙げた。

 

「トラブルか?」

 

「オイ、一夏。聞こえるか?」

 

ラウラがそう呟くと、耐えかねた箒が一夏に尋ねようと通信を送る。

 

「あ、箒」

 

「あ、箒、じゃない。その………簪だったか? 何故ソイツのISは飛行しないのだ?」

 

「何かトラブル?」

 

箒が一夏にそう尋ねると、シャルもそう口を挟んで来た。

 

「いや、トラブルじゃなくて………簪さんのISは、最初から飛べない様になってるんだ」

 

「何っ!? 如何言う事だ!?」

 

「そんな!? ISは基本空戦兵器だよ!! それを完全な陸戦使用にするなんて………デチューンもいいところじゃない!!」

 

一夏からの回答を聞いた箒が驚きの声を挙げ、横でコッソリと聞いていた楯無も、思わず口を挟んで来る。

 

「いやでも………簪さんがそうするって聞かなくて………」

 

「何を考えてるのよ、ソイツ?」

 

「織斑 一夏………」

 

と、鈴がそう言った瞬間、今まで黙々と機体の動作チェックをしていた簪が、通信回線に割り込んで来た。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「うわぁっ!? な、何だい、簪さん!?」

 

「火器管制のテストも………平行して行いたいの………仮想標的を………出してくれる?」

 

突然通信回線に割り込んで来た簪に、箒達と一夏は驚くが、簪は特に気にもせず、一夏にそう要望する。

 

「あ、ああ、分かった………今やるよ」

 

一夏は若干焦りながら、アリーナに仮想標的を出現させた。

 

「…………」

 

簪はローラーダッシュ移動で攪乱する様な機動を取りながら、手近な仮想標的に接近。

 

そして右腕を構えたかと思うと、ローラーダッシュでの突撃と共に仮想標的に向かって突き出す。

 

その瞬間!!

 

右腕装甲から炸裂音が聞こえたかと思うと、右腕が伸びて、仮想標的に命中。

 

まるで杭打機の様に、仮想標的を破壊した!!

 

「………『アームパンチ』………問題無し………」

 

薬莢が排出されて、右腕が元に戻ると、簪は手を閉じたり開いたりしてチェックを終了する。

 

「…………」

 

続けて簪は、その右手にスコープドッグの基本武装………レーザー照準器付きアサルトライフルを拡大した様な形状のGAT-22・30㎜べヴィマシンガンを出現させる。

 

ターレットレンズを再び回転させると、先ずは足を止めての射撃を開始。

 

単射で正確無比な狙いで、仮想標的を撃ち抜いて行く。

 

そして、不意にローラーダッシュをし始めたかと思うと、今度は移動しながらの射撃を開始。

 

止まっていた時と変わらない精密射撃で、仮想標的が次々に減って行く。

 

「す、凄い………」

 

「何と言う正確な射撃だ………」

 

まるでマシーンの様な簪の戦いぶりに、シャルとラウラが舌を巻く。

 

と、移動しての射撃を繰り返していた簪は、アリーナの壁に接近していた。

 

「…………」

 

簪は脚部パーツの踝の部分に付いている可動式のスパイク・ターンピックを起動させ、地面にスパイクを撃ち込むと、急激に向きを変えようとする。

 

だが………

 

「………!?」

 

ターンピックは打ち出されたものの、地面には浅くしか刺さらず、ターンの軌道が狂う。

 

途端に簪はバランスを崩し、背中からアリーナの壁に突っ込んだ!!

 

アリーナの壁は破壊され、簪は瓦礫に埋まる。

 

「!? 簪さん!!」

 

「簪ちゃん!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一夏と楯無が慌てて倒れた簪に駆け寄り、遅れて箒達も駆け寄り、神谷もピットの出入り口から飛び降りて、簪の元へと向かった。

 

「…………」

 

簪は無言のまま、自分の上に乗っかっていた瓦礫を退かして起き上がる。

 

衝突したせいで、装甲の薄い簪のスコープドッグは、所々がひしゃげてグチャグチャになっていた。

 

「大丈夫か!? 簪さん!?」

 

「簪ちゃん!!」

 

一夏と楯無がそう言って来るが………

 

「………ターンピックが冴えないわね………それに制御系もおかしいみたい………」

 

簪は淡々と、スコープドッグの問題点を記録し始める。

 

「あ~………大丈夫そうだな」

 

「やれやれ、元気な野郎だぜ………」

 

こんな時でも淡々とした様子の簪に、一夏と神谷が呆れる様な声を挙げる。

 

「…………」

 

それを聞き流しながら、簪はピットへと戻ろうとする………

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

と、その簪を鈴が呼び止めた。

 

「…………」

 

簪は足を止めると鈴の方を振り返る。

 

「アンタねえ、一夏達が心配してるのに、その態度はないでしょ! 今回の事情は知っているから、アンタと一夏が組む事になっても別に恨みはしないけど………それでもその態度は如何なのよ!!」

 

胸の内に抱えていたモノを吐き出す様に、鈴は簪に向かってそう言い放つ。

 

「そうだぞ! 折角人の嫁を貸し出してやってると言うのに………」

 

「ちょっとラウラさん! 前々から言いたかったのですけど………一夏さんは貴女のお嫁さんではありませんわよ!」

 

「そうだぞ! 一夏は男だぞ!!」

 

そこへ、ラウラ、セシリア、箒が参加して来て、話は何時の間にか簪から一夏の事へと移っていた。

 

「一夏! やはりタッグマッチでは私と組め!!」

 

「一夏さん! タッグマッチの件、どうか御再考を!!」

 

「やっぱりアタシと組みなさい! 一夏!!」

 

「やはりお前のパートナーは私しか居ない様だな」

 

「ちょっ! ちょっと待ってくれよ!!」

 

すっかり楯無との約束の事など忘れ、タッグマッチで自分と組めと一夏に詰め寄る箒達。

 

「説明しただろう。今回俺は簪さんと組む事になるかも知れないって」

 

「皆、お願い………私からも頼むわ」

 

一夏がそう返し、楯無もそう言って頭を下げる。

 

「「「「うっ………」」」」

 

生徒会長に頭を下げられて、箒達は流石に黙り込む。

 

「あの………盛り上がってるところ悪いけど………当の本人が聞いてないみたいなんだけど………」

 

とそこで、シャルがそう口を挟む。

 

見れば、先程まで足を止めていた簪が、一同にすっかり興味を無くした様に、再びピットへと引き上げていた。

 

「ちょっ!? 待ってくれよ、簪!!」

 

一夏が慌てて後を追うが、簪は立ち止まるどころか振り向きもしない。

 

「何よアレ! これだけやられて無視なんて、図太い神経してるわね!」

 

「いや、違うよ………多分、最初から僕達の話に全く興味が無かったみたい………」

 

鈴が怒る様にそう言うと、シャルが簪の様子からそんな事を推察する。

 

「やれやれ………無愛想も極まってんな………」

 

「本当にゴメンナサイ。ウチの妹が………」

 

神谷がそう言うと、楯無が一同に向かって再び頭を下げる。

 

「い、いえ、そんな………」

 

「何も生徒会長が頭を下げなくても………」

 

「いえ………私は生徒会長として頭を下げてるんじゃないわ。あの子の姉として頭を下げてるの」

 

セシリアと箒が、若干恐縮していると、楯無はそう言い放つ。

 

「まっ、気にすんな、楯無。妹の方は暫く俺達に任せておきな」

 

そんな楯無に、神谷はそう言いながら片腕を上げた。

 

「………お願い」

 

「おう」

 

楯無がそれだけ言うと、神谷は短く返事を返し、簪と一夏達が消えたピットへと引き上げて行く。

 

「…………」

 

それを見ていた一同の中で、箒が再び楯無を見やる。

 

仲の良くない姉妹………

 

その姿に、自分と束の境遇を重ねる。

 

束がISを開発したと言う事で、箒は人生を狂わされた。

 

しかし、彼女には自分の専用機を貰った恩が有る。

 

それに………

 

臨海学校の時、生徒達に向かってゴメンと言った束の姿が、箒の脳裏に甦る。

 

昔は人嫌いで、自分と千冬、そして一夏と神谷以外の人間には興味を示さず、親の事も辛うじて認識できる程度だった彼女が、生徒達に向かってゴメンと言った………

 

その意味は分からないが、端的に箒は、束が変わっている………

 

そして変わろうとしている事を感じ取っていた。

 

それと同時に、今まで避ける様にして来た束の事を、もっと知りたいを思う様になったのである。

 

だから、目の前の自分と似た境遇の姉妹………更識姉妹を放って置く事が、彼女には出来なかった。

 

「楯無さん………妹さんとの仲直り………私も協力させていただけませんか?」

 

「!? 箒ちゃん!?」

 

「「「「!?」」」」」

 

箒のその言葉に、楯無とシャル達が驚いた様に視線を向ける。

 

「御存じだと思いますが、私にも姉が居ます………楯無さんと同じ様に、今は少し疎遠になっているのですが………前に会った時に………私は姉が変わろうとしているという事を感じました」

 

そんな楯無に、箒はそう語り出す。

 

「そんな姉の姿を見て………私はまた前見たいに仲良くなりたいと思いました。結局、話をする前に、姉はまた何処かへ行ってしまったのですが………だから、楯無さんにも妹さんと仲良くして欲しいんです」

 

「箒ちゃん………」

 

楯無は驚いた表情のままで箒の事を見つめる。

 

「じゃあ、僕も協力するよ」

 

と、それに続く様に、今度はシャルがそう言って来た。

 

「!? シャルちゃん!?」

 

「神谷は兎も角………アイツに一夏を独り占めされるのは癪ね」

 

「仕方ありませんわ………ココは一時休戦と致しましょう」

 

「異論は無い」

 

「あ~! じゃあアタシも~!!」

 

更に続けて、鈴、セシリア、ラウラ、そしてピットの出入り口に居たティトリーもそんな事を言って来る。

 

如何やら、彼女達も手伝ってくれる積りらしい。

 

「皆………ありがとう」

 

「気にしないで下さい、楯無さん。僕達は………グレン団の仲間じゃないですか」

 

と、シャルがそう言ったかと思うと、自分のISに何時の間にかマーキングしてあった、グレン団のマークを見せる。

 

「アンタ、それ何時の間に?」

 

「この前の整備の時にちょっとね………」

 

「呆れたな………」

 

鈴の問いにシャルがそう答えると、ラウラがそう呟いた。

 

「さて、行くか………」

 

箒がそう言うと、一同は簪達を追って、アリーナを後にし出す。

 

と、最後尾を行っていた楯無がふと立ち止まると、それに気付かず箒達はティトリーを加えて、ピットの中に消えて行く。

 

「仲間か………」

 

先程シャルに言われた事を思い出す様に呟く楯無。

 

楯無は更識家の当主であり、IS学園の生徒会長である。

 

幼馴染の友達である布仏姉妹は居たが、自身の優秀な能力も有って、並び立って共に事に当たる仲間と呼べる者は余り居なかった………

 

だが、シャル達はそんな彼女を仲間だと言ってくれた。

 

その事がとても嬉しい。

 

と………

 

「仲間のありがたさを知ったか? 更識 楯無」

 

「!?」

 

突然後ろから聞こえて来た声に、楯無が驚きながら振り返るとそこには………

 

腕組みをして悠然と佇むシュバルツ・シュヴェスターの姿が在った。

 

「シュバルツ・シュヴェスター!?(何時の間に!?)」

 

対暗部用暗部としての訓練を受けている自分にさえ気取らせずに背後を取ったシュバルツに、楯無は驚くと共に警戒する。

 

報告によれば、彼女は一夏達に味方していたらしいが、この前は一夏に襲い掛かったのである。

 

正体が不明な以上、立場上も警戒せざるを得なかった。

 

「更識 楯無………お前は何をしている?」

 

「えっ?」

 

しかし、シュバルツはそんな楯無の警戒を無視し、そう問い質して来る。

 

「お前の事を仲間と認めてくれた者達は、お前の為に必死になろうとしている………だが、そのお前は如何だ?」

 

「だ、だって………簪ちゃんは私の事を………」

 

シュバルツの得体の知れない迫力に押され、思わず素直に答えそうになる楯無だったが………

 

「愚か者ぉっ!!」

 

「!?」

 

覆面を被っている顔で唯一露出している目をクワッと見開き、シュバルツは楯無にそう言い放つ。

 

「1度の拒絶で諦めるとは………貴様それで良く更識の当主だ、IS学園最強の生徒会長だと名乗れたものだな………」

 

「あ、う………」

 

一見すると無茶苦茶な理屈なのだが、シュバルツが言い放った言葉は有無を言わせぬ説得力が有り、楯無は狼狽する。

 

「更識 楯無………貴様が本当に恐れているのは、妹を傷付ける事では無く、自分が傷付く事ではないのか?」

 

「!?」

 

その言葉に、楯無は自分の心を見透かされた様な気持ちになる。

 

「己が傷付く事を恐れる者に………真の絆は芽生えはせんぞ………」

 

シュバルツがそう言い、楯無に背を向けたかと思うと立ち去り始め、途中でその姿が幻の様にスーッと消えてしまう。

 

「…………」

 

残された楯無は、只その場に佇んでいるだけだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

???………

 

「よろしいですかな? 螺旋王様?」

 

グアームがロージェノムに向かって畏まりながらそう言う。

 

「………何用だ? グアーム」

 

相変わらず頬杖の姿勢を崩さず、ロージェノムは無表情のままでそう尋ねる。

 

「ハッ、先程ヨーロッパ戦線の連中から面白い報告が入りまして………螺旋王様の耳に入れておこうかと………」

 

「………言ってみろ」

 

「ハッ」

 

ロージェノムに許可されると、グアームはその『面白い報告』について申し上げる。

 

「………との事です。如何為さいますか?」

 

「貴様に任せる………」

 

「ハハッ! ではその様に………」

 

それだけ言うと、グアームは再び前線任務へと向かう。

 

「………人間とは実に愚かな生き物よ………それ程までに我が身が可愛いものか………」

 

グアームが消えた後………

 

ロージェノムはまるで嘲笑するかの様な笑みを浮かべて、そう呟いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ボトムズの名台詞が飛び出しました。
次回はあの名台詞も出ますので、お楽しみに。

そして仮組が出来上がった簪のIS………
最低野郎の棺桶『スコープドッグ』
早速テストするもまだまだ調整の余地あり。
遂に箒達も簪の世話焼きに参加してきます。

一方、ロージェノム軍の方では何やら不穏な動きが………
ヨーロッパで何があったのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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