天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第45話『お蔭で………助かったって言ったの』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第45話『お蔭で………助かったって言ったの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園を、ルーマニア軍のIS部隊………

 

いや、正確には『元』ルーマニア軍第10師団トランシルバニア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1・レッドショルダーが襲撃した。

 

人類側から裏切り者………

 

しかもISの装着者が裏切ったと言う事態は、IS学園だけでなく世界各国に衝撃を与えた。

 

現在、ロージェノム軍と人類側との戦況は膠着状態でジワジワ押されて行っている状況である。

 

既に多数のISの撃墜が確認されているものの、それでもISが現在の戦線を維持出来て居る一端である事も事実である。

 

そのISの装着者がロージェノム側に着く様な事があれば、現在の戦線は一気に崩壊しかねない上に、民衆にも動揺が走る。

 

各国政府と国際IS委員会は、この事実を隠蔽しようとしたが………

 

何とロージェノム軍側がこの情報を各国へ公表。

 

民衆、そして前線で戦う兵士に大きな動揺を与える事となる。

 

もしかしたら、自分の国のIS装着者も裏切るかもしれない………

 

前線ではIS装着者部隊内のみならず、他の部隊との間にも亀裂が生じ………

 

一部の政治家達はISを全面凍結すべきだと言う過激論を唱え始め、政治的混乱を起こす………

 

そんな疑心暗鬼に駆られた人々に、ロージェノム軍が付け込まない筈がなかった………

 

今まで以上の攻勢に出たロージェノム軍は、連携を失った前線部隊を虫の様に踏み潰し………

 

政治的に混乱に陥っていた国は、炎に焼かれて消滅した………

 

戦場が更なる地獄と化す中、国連と各国政府は必死に混乱の収拾を目指す………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

レッドショルダーに襲撃されたIS学園は………

 

これまで幾度となくあった獣人達の襲撃よりも多大な被害を受け、復旧が急ピッチで進められていた。

 

しかし、レッドショルダーの人類裏切りの件で………

 

実際にISを凍結し始める国も出ており、それに伴い援助費を打ち切られて退学や本国に帰国する生徒が出始めている。

 

今や、IS学園の全校生徒数は今年度開始時に比べ、半分にまで減っていた………

 

 

 

 

 

その保健室にて………

 

「う、ううん………」

 

「一夏! 気が付いたか!?」

 

寝ていた一夏が覚醒すると、視界に箒の顔が飛び込んで来る。

 

「一夏! 大丈夫!?」

 

「一夏さん!」

 

「一夏!」

 

続いて、鈴、セシリア、ラウラが覗き込んで来る。

 

「箒………鈴………セシリア………ラウラ………」

 

視界に映った者達の名を呼びながら、まだ半分覚醒していない頭を徐々に目覚めさせる一夏。

 

「一夏、目が覚めた?」

 

「良かった~。心配したニャ」

 

「何か前にもこんな事があったなぁ」

 

すると、視界の外からも、シャルとティトリー、神谷の声が聞こえて来た。

 

「シャルロット………ティトリー………アニキ………!? ぐあっ!?」

 

その声に反応して身を起こす一夏だったが、途端に左肩に激痛が走る。

 

「一夏! まだ起き上がっては駄目だ!!」

 

「そうですわ、一夏さん!!」

 

「アンタ、左肩に穴開けられたのよ!!」

 

「安静にしていろ!」

 

途端に、箒、セシリア、鈴、ラウラは、一夏を再び寝かし付けようとする。

 

「だ、大丈夫だよ、これぐらい………!? そうだ! 簪は!? アイツもかなりの怪我だった筈だろう!?」

 

と、痩せ我慢で額に脂汗を浮かべながらそう言う一夏。

 

「えっ? あ~」

 

「アイツはね~」

 

「「…………」」

 

途端に箒と鈴が言葉に詰まり、セシリアとラウラも無言で目を逸らす。

 

「? 如何したんだ?………!? まさか!?」

 

最悪な展開が一夏の脳裏を過ぎるが………

 

「皆………コーヒー淹れて来たよ………あ………一夏………目が覚めた………?」

 

次の瞬間、普段と同じ調子で、コーヒーが入ったカップの載ったトレーを手に、簪が楯無と布仏姉妹を連れて保健室に入って来た。

 

「か、簪!?」

 

平然とした様子の簪を見て、一夏は呆気に取られる。

 

「?………如何したの?………そんな顔して………?」

 

「い、いや………お前………怪我は!? バリバリ撃たれてたじゃないか!!」

 

一夏が心配する様にそう言うが………

 

「撃たれた?………ああ………コレとか………?」

 

簪は首を傾げた後、スカートを捲って左足大腿部を見せた。

 

「ブッ!?」

 

「おおっ!? 良い脚線美!!」

 

一夏は思わず赤面し、神谷は食い付く。

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

「!? ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

途端に一夏は箒達に制裁を喰らう。

 

しかも、よりによって負傷している左肩に………

 

「か、神谷! 脚線美だったら、僕も自信有るんだよ!!」

 

そしてシャルは、対抗するかの様に自分もスカートを捲って大腿部を見せる。

 

「おお! オメェも良い脚線美してんなぁ!」

 

「何やってるのよ、貴方達は?」

 

そんなシャルの足を見てそう言う神谷に、楯無がツッコミを入れる。

 

「にゃ、にゃはははは………」

 

そして、そんな一同の様子を見て、苦笑いを浮かべるティトリーだった。

 

「………って、アレ? 傷が………」

 

とそこで一夏が、激痛の走る左肩を押さえながら、簪の大腿部の銃創がほぼ塞がっている事に気づく。

 

確かに銃で撃たれた痕跡はあるものの、もう既に治っていると言って良い。

 

「ああ、私も最初に見た時は信じられなかったが………」

 

「コイツ、アタシ達が保健室に運び込んだ時には、既に傷が全部治りかけてたのよ」

 

「今思い出しても信じられませんわ」

 

「人間の回復力ではなかったぞ………」

 

それを聞いた箒、鈴、セシリア、ラウラがそんな事を言い合う。

 

「私………昔っから………怪我の治りが………早かったから………」

 

「いやいや、そう言うレベルじゃないよ!!」

 

簪が微笑みながら事も無げに言うと、一夏がそうツッコム。

 

「アレか? 毎朝コーンフレークを山盛り2杯食べてたのか?」

 

「何処の宇宙海賊ですか………」

 

「ヒューッ!!」

 

神谷がそう言うと、虚がツッコミ、のほほんが口笛を吹く様に囃し立てる。

 

「気にしたら負けよ、一夏くん。簪ちゃんのこの体質は生まれつきだから」

 

すると、楯無がツッコムだけ無駄だと言って来る。

 

「はあ………」

 

「そんな顔………しないで………ハイ………コーヒー………」

 

疲れた様な様子を見せる一夏と、そんな一夏を見ながら、一同にコーヒーを配って行く簪。

 

「あ、あの………コレって………ウドのコーヒー?」

 

「勿論………」

 

シャルの恐る恐ると言った問いかけに、簪が『良い笑顔』で返事をする。

 

「ア、アハハハハ………」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一夏は乾いた笑いを挙げながら受け取り、箒達もこの世の終わりの様な顔で自分の分を受け取った。

 

「「…………」」

 

楯無と虚も、絶望しきった表情を浮かべている。

 

「おさっとう~、ミルク~」

 

そして、のほほんが今回もちゃっかり、自分の分の砂糖とミルクを用意していた。

 

「サンキュな、簪」

 

只1人、神谷は顔色を一切変えずに美味そうに飲んでいる。

 

他のメンツは、飲んだ途端に渋面となっている………

 

と、そこで………

 

「一夏さん!!」

 

「オイ、一夏!! 大丈夫か!?」

 

五反田兄妹が、慌てた様子で保健室に入って来た。

 

「弾!? それに蘭も!!」

 

「うわっ!? 酷い怪我!!」

 

「オイオイ、一夏。大丈夫かよ?」

 

一夏が驚いていると、五反田兄妹は身体が包帯グルグル巻きにされている一夏を見て、心配する。

 

「あ、ああ………大した事ないって………それより、お前等、如何して此処に?」

 

「いや、アニキからお前が大怪我したって聞いて………コイツが居ても立っても居られなかったもんだからよぉ」

 

「一夏さん! ホントに! ホントに大丈夫なんですか!?」

 

「だ、大丈夫だって………ホラ、この通り!!………!? イデェッ!!」

 

蘭があんまりにも心配して来るので、元気に振舞おうとして左腕を動かして見せる一夏だったが、途端に激痛が走って思わず声を挙げてしまう。

 

「ああ、無理しないで下さい!!」

 

「一夏! 楽にしろ!!」

 

蘭と箒にそう言われ、一夏は再び寝かし付けられた。

 

「安静にしてなさい。養護教諭も2、3日は入院だって言ってたんだから」

 

「えっ!? 2、3日!?」

 

そこで楯無がそう言うと、一夏は驚きの声を挙げる。

 

「当たり前よ。肩に穴開けられてるのよ。寧ろその程度で済んだのが奇跡よ」

 

「いや、でも………明日には、蘭の学校の学園祭に行って………夜は箒とディナーを………」

 

一夏はそう言って、箒と蘭を見遣るが………

 

「私の事は気にしないで下さい、一夏さん」

 

「そうだぞ。お前は先ず、自分の身体を治す事を考えろ」

 

蘭と箒はそう言って来る。

 

彼女達としても、一夏に無理をしてまで自分の事を優先して欲しくはないのだ。

 

「蘭………箒………ゴメン………この埋め合わせは必ずするよ」

 

申し訳なさそうにそうにしながらも、2人の心遣いをありがたく思う一夏。

 

しかし………

 

「ちょっとお待ち下さい、一夏さん………」

 

「蘭の方は100歩譲って良いとして………」

 

「篠ノ之とディナーとは如何言う事だ?」

 

セシリア、鈴、ラウラが、箒とのディナーの約束発言に食い付く。

 

「えっ? い、いや、それは………」

 

一夏がマズイ予感を感じ取ったが、時既に遅し。

 

「「「一夏〈さん〉!!」」」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

合掌………

 

「そう言うところは相変わらずだな………一夏」

 

「イテテテテテテ………そういうところって何だよ………アレ? そう言えば、弾。良く学園の中に入れたな?」

 

とそこで、一夏が思い出したかの様にそう言う。

 

IS学園は全寮制であり、余程の事が無い限り、部外者を入れる事はないのである。

 

「守衛さんに止められなかったのか?」

 

「いや、それが………守衛さん、居眠りしたんで」

 

「居眠りぃ!?」

 

弾の言葉に驚く一夏。

 

「それじゃあ守衛の意味が無いじゃない」

 

「おかしいわね………守衛さんの事は良く知ってるけど、居眠りする様な人じゃない筈よ」

 

鈴が呆れる様に言い、楯無は信じられないと言う。

 

「そういやぁ………アレは寝てたって言うより………気絶してたって言った方が良かったかな?」

 

「気絶してた?」

 

「それに………何か殴られた様な跡もあった気が………」

 

「「「「「「「「殴られた跡?」」」」」」」」

 

蘭のその言葉を聞き、一夏達は神谷を見遣った。

 

五反田兄妹を呼んだのは、確か神谷である。

 

「~~~~♪~~~~♪」

 

その神谷は、ワザとらしく目を逸らし、口笛を吹いている。

 

((((((((((………絶対、アニキ〈神谷〈さん〉〉の仕業だ))))))))))

 

それで、守衛を気絶させたのが神谷であると確信する一同。

 

………勿論、この件の責任は千冬が被る事となり、彼女の連続始末書記録が更新され、ストレスで胃は更にボロボロとなるのだった。

 

「あっと………ゴメンナサイ………貴方達の分の………コーヒー………用意するの………忘れてた………」

 

と、そこで簪が、五反田兄妹の分のコーヒーが無い事を思い出し、用意しに向かおうとする。

 

「あ、どうも………」

 

「すみません、気を遣わせちゃって………」

 

簪に礼を言う五反田兄妹。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一方、簪の入れる殺人的な苦さのコーヒーを知っている一夏達は、五反田兄妹にその事を言うべきが言わざるべきかを葛藤し、結局黙り込んでしまう。

 

「………一夏………姉さん………それに………皆………」

 

と、出て行こうとして、簪は一夏達に背を向けたまま呟く。

 

「ん?」

 

「何? 簪ちゃん?」

 

一夏と楯無が返事を返し、他の一同も簪に注目したかと思うと………

 

「今回は………本当に………ありがとう………お蔭で………助かったわ………」

 

簪は一夏達に背を向けたままそう言う。

 

「えっ?」

 

「な、何か言った? 簪ちゃん?」

 

一夏が呆然となり、楯無が思わず聞き返すと………

 

「お蔭で………助かったって言ったの」

 

簪はそう言うと、逃げる様に保健室から去って行った。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

残された一同は、暫く呆然としていたが………

 

「あ、あははは………流石楯無さんの妹………不意打ちが上手いですね」

 

やがて漸く我に返った一夏が、楯無に向かってそう言う。

 

「あ、当たり前じゃない! 何たって、私の妹なんだから………」

 

「つい最近まで疎遠だったんだけどね~」

 

「ちょっ! 本音!?」

 

自慢する様に言う楯無だったが、のほほんにそう言われて一気に威厳が崩壊するのだった。

 

(………私も………何時か………姉さんと………)

 

そして箒は、更識姉妹の様に自分も姉の束と………昔の様に笑い合いたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、保健室から出て行った簪は………

 

「…………」

 

先程の行為が、自分でもらしくなかったと思っているのか、早足に給湯室を目指している。

 

しかし………

 

その顔には、微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

仲間か………

 

何やら照れ臭い。

 

けど、久しぶりに私の胸は、温かいものに満たされていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談となるが、数日後…………

 

怪我が完治し、退院した一夏を祝おうと、神谷と楯無の提案で、生徒会室を使ってのちょっとした宴会が開かれた。

 

主役そっちのけで皆が飲めや食えや歌えの騒ぎに興じていると………

 

自分にマイクが回って来た簪が………

 

酒焼けした様な渋い声で、『鉄のララバイ』を歌い出した時には………

 

神谷とのほほんを除いた一同から、ドン引きされたのだった。

 

尤も………

 

本人は一切気にせず、気持ち良さそうに歌っていたが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドショルダーの襲撃………

 

即ち、タッグマッチの翌日の夜………

 

「ったく! アイツ等ふざけやがって!!」

 

「いや、神谷も悪いと思うよ………」

 

夜の街並みを神谷が憤慨した様子で歩き、隣のシャルが宥めている。

 

先程、薫子の姉の渚子の取材を受けた報酬に貰ったディナー券で、ホテル『テレシア』の最上階レストランで食事を取ろうとしたのだ。

 

当初は一夏と箒の事もあり、自分達は行くのを止めようとしていた神谷とシャルだったが、本人達に自分達の事は気にせず行ってくれと言われ、その厚意に甘える。

 

しかし………

 

高級レストラン故か、入店の際には男はスーツかタキシード、女はドレスでなければお断りと言われたのだ。

 

しかも、ロージェノム軍の登場で変わりつつあるが、今は女性優遇の社会………

 

シャルには店側からドレスを貸し出すと言ってきたが、神谷には自分で買って来いと言い放たれる。

 

当然、神谷は納得が行かず、入店を止めた若い男性………所謂、飼い慣らされたウェイターの胸倉を摑んで持ち上げた。

 

慌てて止めるシャルだったが時既に遅し………

 

その光景を目撃した店のオーナーである女性が、神谷を摘まみ出そうとガタイの良い従業員………

 

所謂、荒事対応用の店員達を呼び出す。

 

だが、それで神谷が引き下がる筈も無かった。

 

荒事対応用の店員達を相手に大立ち回りを演じ、結果店を半壊させる………

 

腰を抜かして呆然となっていた店長に、『2度と来ねえよ』との捨て台詞を残し、悠々とその場を去って行った。

 

レストランは暫く営業停止状態となり、勿論、この件の責任は全て千冬に(以下略)………

 

「あ~! けったくそわりぃ!!」

 

まだ怒りが治まらない様子の神谷がそう言っていると、前から歩いて来た人物とぶつかる。

 

「おわっ!? テメェ、何処に目え付けてやがる!!」

 

「ああん!? テメェがブツかって来たんだろうが!!」

 

「んだとぉ!?」

 

「やるかぁ?」

 

そのまま神谷は、ブツかった人物と睨み合いになる。

 

「ちょっ!? 神谷!?」

 

慌てるシャル。

 

止めたい気持ちは山々なのだが、神谷がブツかった相手は如何見ても一般人とは思えなかった……

 

一言で言うなら、『獣が人間の皮を被っている』………

 

神谷と言い争っている青年は、そんな雰囲気を醸し出していた。

 

「「ぬぬぬぬぬぬ」」

 

互いの胸倉を摑んで睨み合う神谷と青年。

 

「あわわわ」

 

シャルは最早気が気でない。

 

「………あん? オメェ………竜馬か?」

 

「ああん? 何で俺の名前を………って、神谷じゃねえか!?」

 

と、神谷と青年は、突然そう言い合って手を止める。

 

「えっ?」

 

「何だよ、オイ! オメェだったのか!!」

 

「そらコッチの台詞だ! 如何したんだ、一体!?」

 

「それがよぉ、今しがたけったくそワリィ目にあってよぉ!」

 

「え、ええっ!?」

 

突然仲良さ気に話し始めた神谷と青年の姿に、シャルは戸惑うばかりである。

 

「えっと………神谷! その人、知り合い?」

 

「おっと、わりぃわりぃ。コイツは竜馬。俺のダチだ」

 

と、漸くと言った様子で、シャルが神谷にそう尋ねると、神谷はその青年………竜馬を紹介した。

 

「んん? オイ、神谷。誰だ、このカワイコちゃんは?」

 

「俺の女のシャルだ」

 

「何ぃっ!? お前にこんなカワイコちゃんの彼女だとぉ!! 嘘吐け!!」

 

シャルが神谷の恋人だと聞いて、竜馬は信じられないと言う。

 

「ホントだっての。なあ?」

 

「う、うん………」

 

平然としている神谷に対し、シャルは頬を染めながら呟く。

 

「かぁ~っ! マジかよ!! チクショー! 世も末だぜ!!」

 

「オメェは先ず、その極悪面から変えねえと駄目だな。そんな顔じゃ鬼だって逃げ出すぜ」

 

「るせぇっ! ほっとけっ!!」

 

ニヤニヤと笑う神谷に、竜馬は悪態を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

「じゃあ、2人はその時に知り合ったんだ」

 

「おうよ。俺が路地裏でヤ〇ザに絡まれてたところをな」

 

「その後、余計な事しやがってと襲い掛かって来やがったがな」

 

神谷とシャルは、竜馬に連れられ、彼の馴染みに居酒屋に向かっている。

 

何でも、腐れ縁の連中と合って飲み合うらしく、折角だから来いと言う竜馬の誘いを受けたのだ。

 

「そう言や、竜馬。もうヤ〇ザに借りた金は返したのか?」

 

「ば~か。俺がそんな金持ってるワケねえだろ………踏み倒してやったぜ」

 

神谷の問いに、竜馬は獣の様な獰猛な笑みを浮かべてそう答える。

 

「だろうな」

 

「ア、アハハハハ………(ヤ〇ザの借金を踏み倒すって)」

 

満足そうに笑う神谷と、竜馬の恐ろしさに内心で戦慄するシャル。

 

そうこう言っている内に、目的の居酒屋………『早乙女屋』へと辿り着く。

 

「おう、此処だ此処だ。オイ、ジジイ! 隼人達は来てるかぁ?」

 

暖簾を潜って扉を開けるや否や、竜馬が店主らしき老人………早乙女へと声を掛ける。

 

「相変わらず煩い奴だ………奥に居る」

 

何処と無くマッドサイエンティストを思わせる老人は、ぶっきら棒にそう言い、店の奥の座敷席を示す。

 

「遅いぞ、竜馬」

 

「もう先に始めてるぜぇ」

 

「早くしないとお前の分が無くなるぞ」

 

その奥の席には、既に酒盛りを始めている3人の男………隼人、武蔵、弁慶の姿が在った。

 

「あ! テメェ等! 何勝手に初めてやがんだ!! 久しぶりに集まろうって言ったのは俺だぞ!!」

 

竜馬はそう言いながら、その奥の座敷席へと上がる。

 

「フン………遅刻するお前が悪い」

 

「んだとぉ!?」

 

「おっと! 2人ともその辺にしときな!!」

 

「今日は殺し合いに来たんじゃねえ。飲み明かしに来たんだろ。血の味がする酒は御免だぜ」

 

今にも喧嘩を始めそうになった竜馬と隼人を、武蔵と弁慶がそう言って諫める。

 

「フン………」

 

「チッ、しょうがねえな………オイ、ジジイ! 俺にも酒だ!!」

 

「叫ばんでも聞こえとるわい………」

 

店主の早乙女は、凡そ客に対する態度とは思えない様子で竜馬の分の酒を用意する。

 

「邪魔するぜ」

 

「お、お邪魔します」

 

と、その席へ、堂々と混ざる神谷と、戦々恐々と言った様子で混ざるシャル。

 

「ん? 竜馬。誰だ、この兄ちゃんと嬢ちゃんは?」

 

武蔵が2人を見ながら竜馬にそう尋ねる。

 

「ああ、片方は前にも言っただろう、天上 神谷だ。んで、コッチはその女の………」

 

「シャ、シャルロット・デュノアです」

 

シャルはそう自己紹介するが、その身体は震えていた。

 

(み、皆強面………って言うか悪人面だよぉ~~)

 

内心ではそんな事を考えている。

 

失礼かもしれないが、彼等の場合は真実である………

 

「ほう? お前さんがあの天上 神谷か………」

 

「噂は聞いてるぜ。暴れ回ってるみてぇじゃねえか」

 

爬虫類を思わせる様な笑みを浮かべる隼人と、殺人的な笑みを浮かべている武蔵。

 

「まあな………それより! 今日はトコトン飲もうぜ!!」

 

「「「オオーッ!!」」」

 

「フッ………」

 

神谷の掛け声に、竜馬、武蔵、弁慶は歓声を挙げ、隼人はニヒルそうに笑う。

 

「ちょっ! ストップ!! 駄目だよ、神谷!! 僕達まだ未成年でしょ!!」

 

「固い事言うなって、シャル!!」

 

「そうだぜ、嬢ちゃん。此処は居酒屋だ! 飲まにゃあ損ってもんだ!!」

 

公然と飲酒をしようとしている神谷を止めようとするシャルだが、神谷は止まりそうになく、弁慶もそんな事を言う。

 

「駄目だってばあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!」

 

それでも必死に止めようとするシャルであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

「ふみゅ~~~」

 

「オイ、シャル。大丈夫か?」

 

真っ赤な顔をして、可愛らしい声を挙げているシャルが、神谷に背負われて帰路に着いている。

 

「うみゅ~~~」

 

「駄目だ、コリャ………まさかこんな事になるとはなぁ………」

 

相変わらず可愛い声を漏らすシャルを見ながら、神谷は愚痴る様に呟く。

 

あの後、何とか神谷が飲酒する事を防いでいたシャルだったが………

 

そんなシャルに、竜馬が無理矢理酒を飲ましてしまったのだ。

 

しかも、結構アルコール度数が高いヤツを………

 

途端にシャルは目を回してブッ倒れてしまう。

 

止むを得ず、神谷はシャルを背負って、竜馬達の宴会から切り上げる事にした。

 

神谷が去る際も、竜馬達は宴会を続けていたので、恐らく本当に一晩中飲み明かす積りであろう。

 

今頃は、仲良くガチの殺し合い(日常茶飯事)でもしているのではないだろうか………

 

「………神谷~~………」

 

と、神谷に背負われていたシャルが、不意に名を呼ぶ。

 

「あ? んだよ?」

 

神谷は歩きながら振り返り、尋ねると………

 

「………大好き………」

 

「…………」

 

シャルがそう言ったのを聞いて、神谷は思わず足を止めた。

 

「………シャル………オメェ、実は酔い冷めてるだろ?」

 

「…………」

 

神谷がそう言うと、シャルは返事の代わりに、神谷の背中にギュッと抱き付く。

 

「………ったく………ホントにしょうがねえ奴だぜ、お前は………」

 

口ではそう言いながら、神谷はニヤリと笑い、再びIS学園目指して歩き出すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

レッドショルダーを退けたグレン団ですが………
IS装着者が人類を裏切ったという事態は、世界に混乱を与えます。
お陰で膠着していた戦況はロージェノム側に傾きだします。
果たして、人類は立ち直れるのでしょうか?

一方で、簪の異能の力を更に目撃する事になった一夏達。
敵に回せば恐ろしいですが、味方としてはとても頼もしい簪が加入して、グレン団はますます強くなります。

そしてむせる話が続いたので、ちょっと味替えに神谷×シャルのラブコメをお届けしました。
原作で一夏と箒が行ったレストランでのディナーイベントですが、神谷にそんな雰囲気は似合わないと思い、特別ゲストでゲッターチーム(OVA版)の皆さんに出演して貰って、居酒屋で宴会しました。
この方が神谷らしいと思ったので。

さて、大事なお知らせですが………
ここまでで、IS原作の6巻までの流れを書いてきましたが………
次回以降はオリジナルのストーリー展開となります。
この作品は初期のMF文庫J版6巻まで出ていた時点で書き始めて完結させたので。
なので、7巻以降のストーリー展開や設定などは反映しない形になります。
改めてご了承ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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