天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第60話『漢は約束を死んでも守るもんだ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第60話『漢は約束を死んでも守るもんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸・動力炉………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「つえああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

気合の雄叫びと共に、ラファールラガンの右拳と、ザガレッズの左拳がぶつかり合う!!

 

両者が纏っているエネルギーがスパークを起こし、動力炉中に飛び散る。

 

「ぬうっ!?」

 

「チイッ!!」

 

やがて両者は弾かれる様に距離を取る。

 

「ザガレッズインパクト!!」

 

ザガレッズの両脇下からミサイルを放つ。

 

「何のぉっ!!」

 

だが、ラファールラガンはレイン・オブ・サタディを取り出し、ミサイルを撃ち落とす。

 

「チイッ! ならばこれで如何だ!?」

 

ザガレッズは続けて、素早いハイキックを見舞って来る。

 

「それぐらい! ブーストキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

だがそれに対し、ラファールラガンもブーストキックを繰り出す。

 

ザガレッズのハイキックと、ラファールラガンのブーストキックがぶつかり合い、またもスパークが飛び散る。

 

と、余りのスパークの量に、遂に爆発が起きる!!

 

「ぬううああっ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

「うおわっと!?」

 

「わああっ!?」

 

ジギタリス、ティトリー、神谷、シャルの声が響き渡り、ザガレッズとラファールラガンは互いにブッ飛び、機材へ背中から突入する。

 

「イデデデデデ………」

 

と、ラファールラガンが後頭部を擦りながら起き上がると、

 

「ぬおああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

先に体勢を立て直していたザガレッズが、片手に長い鉄骨を持ち、ラファールラガンの上を取っていた。

 

「!?」

 

咄嗟にラファールラガンが横に転がると、先程までラファールラガンが居た位置に、ザガレッズの持っていた鉄骨が槍の様に突き刺さる!!

 

「ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーんっ!!」

 

ザガレッズはそのまま、長い鉄骨をまるで棒術の棒の様に振り回して来る。

 

「うおっ!? テメェッ! そりゃ卑怯だろ!!」

 

右手にグレンブーメラン、左手にブレッド・スライサーを握って受け流しながら、ラファールラガンの神谷がそう言い放つ。

 

「如何した、天上 神谷! この程度で弱音を吐くとは情けない!」

 

「! んだとぉ!?」

 

「ちょっ! 落ち着いて、神谷! 挑発だよ!!」

 

挑発にアッサリと乗ってしまいそうになった神谷を、シャルが制する。

 

「隙有り!!」

 

その一瞬の隙を見逃さず、ザガレッズは手近に有ったタンクを摑むと、床から引っ剥がし、ラファールラガンに向けて投げ付ける。

 

「!? なろぉっ!!」

 

避けられないと思った神谷は、グレンブーメランでそのタンクを斬り裂く。

 

すると、タンクの中に在った燃料と思われる液体が飛び散り、ラファールラガンと床一帯にブチ撒けられる!

 

「おわっ!?」

 

「!? マ、マズイよ! 神谷!!」

 

神谷が一瞬怯み、その状況にシャルが慌てた時には既に遅し!

 

「ザガレッズインパクトッ!!」

 

ザガレッズが、再びザガレッズインパクトを放った!!

 

ミサイルはラファールラガンの手前に着弾。

 

そのまま、一気にばら撒かれた燃料に爆発的に燃え移り、ラファールラガンに襲い掛かる!!

 

「「!?」」

 

ラファールラガンは、一瞬にして炎に包まれた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ヴィラルのエンキドゥと戦っている一夏と箒は………

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

雨月・空裂を喪失してしまった為、展開装甲の展開部分に形成されているエネルギーを刃にして、徒手空拳の様にエンキドゥへと攻撃を仕掛けている箒。

 

「如何した!? そんな動きでは蠅が止まるぞ!!」

 

しかし、慣れない攻撃方法の所為か、エンキドゥには掠りもしない。

 

「くうっ!!」

 

「そうらっ!!」

 

反撃に、エンキドゥからヤクザキックが繰り出される。

 

「ぐあっ!?」

 

咄嗟にガードしたものの、衝撃までは殺し切れず、甲板の上を足裏から火花を散らして退がる。

 

「シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と、そこで今度は一夏が、雪羅からのシャイニングフィンガーをエンキドゥに仕掛ける。

 

「フッ」

 

しかし何と!!

 

エンキドゥは、迫り来るシャイニングフィンガーに対し、自ら左腕を掲げてガードし、態と左腕を摑ませた!!

 

そして、右手にエンキソードを握り、左腕を摑んでいる雪羅を突き上げる!!

 

「!? 雪羅強制自切!!」

 

と、一夏は咄嗟に、雪羅を強制パージして捨てる。

 

雪羅はエンキソードに貫かれ、爆発する。

 

その爆発でエンキソードが片方折れたが、エンキドゥは残ったもう1本を再び右手に握る。

 

「これで、貴様の獲物はその刀だけだな」

 

左腕からオイルと血の混じった様な液体を垂らしながらも、エンキドゥはまるで堪えていない様子でそう言って来る。

 

「何て奴だ………自分の腕を盾にして………」

 

「貴様とは覚悟が違うのだ! 覚悟がなあぁっ!!」

 

そう叫んだかと思うと、エンキドゥは右手1本だけでエンキソードを振るい、襲い掛かって来る。

 

「!!」

 

エンキドゥからの絶え間無い攻撃を、実体剣モードの雪片弐型で往なしながら、防戦一方となる一夏。

 

エンキソードの刃と、実体剣モードの雪片弐型の刃が触れ合う度に激しく火花が飛び散る。

 

「如何した! 防ぐだけで精一杯か!?」

 

「クソッ! 隙が無い!!」

 

反撃したい一夏だが、隙が中々見つからず、相変わらず防戦一方である。

 

「一夏! クウッ!!」

 

援護したい箒であったが、格闘しか攻撃手段の無い今の彼女では、介入しても却って一夏の邪魔をしてしまうと思い、躊躇する。

 

(クッ! 紅椿!! お前が私のISだと言うなら応えろ!! 一夏を助ける手段を!! 私に!!)

 

と、心の中で念じる様にそう思う箒。

 

すると!!

 

紅椿の両肩の展開装甲が変形!!

 

まるでクロスボウの様なブラスター・ライフルとなった。

 

「!? コレは!?」

 

箒が驚きの声を挙げると、眼前の投影ディスプレイに、武器の3D図と『穿千(うがち)』と言う名前、そして詳細データとスペックが表示される。

 

「穿千………それがコイツの名前か?」

 

そう呟きながら、箒は穿千のグリップを握る。

 

「良し! コレで!!」

 

そしてそのまま、エンキドゥへと狙いを定める。

 

「! そうはさせん!!」

 

だが、それに気づいたエンキドゥは、一夏と至近距離での斬り合いを始めた!!

 

「うわっ!?」

 

「一夏!?」

 

「フフフ、下手に撃てばこの男に当たるぞ? もうシールドエネルギーも大分少ない筈だ。防ぎ切れるかな?」

 

「貴様!!」

 

エンキドゥの機転に、箒は吠えるが、それで状況が変わる筈も無い。

 

「さあ、如何した? 撃たないのか?」

 

「クウッ………」

 

「箒! クッソォッ!!」

 

何とかエンキドゥを引き剥がそうとする一夏だが、エンキドゥはピタリと張り付いて来て、まるで離れない。

 

(駄目だ………下手に撃てば、一夏に当たってしまう)

 

遂に、穿千を構えるのを止めてしまうかに見えた箒だったが………

 

「箒! 良いから撃て!!」

 

「!? 一夏!?」

 

他ならぬ一夏がそう言って来た。

 

「し、しかし! 下手をしたらお前に!!」

 

「何言ってるんだ! 夏祭りの時に言ってただろ! 弓なら必中だってよ!!」

 

「!?」

 

その言葉に、箒は驚く。

 

あの時の他愛も無い会話の一部だった話を覚えていてくれた事に。

 

「し、しかし、コレは弓では………」

 

「似た様なもんだろ! 撃て箒!! 撃つんだ!!」

 

「ええい! 黙れ!!」

 

戸惑う箒を叱咤する様にいう一夏を目障りに思ったのか、エンキドゥの攻撃が激しさを増す。

 

「! クウッ!!」

 

それを見た箒は、再び穿千を構える。

 

だが、やはり狙いが定まらず、引き金を引く事が出来ない。

 

「クッ! 駄目だ! 私には撃てない!!」

 

「箒! 自分を信じるな!!」

 

「!? えっ!?」

 

「俺を信じろ!! お前を信じる俺を信じろ!!」

 

箒に向かって、嘗て自分が神谷に言われた言葉を叫ぶ一夏。

 

「………!!」

 

その言葉を聞いて箒は目を見開き、やがて集中するかの様に目を閉じる。

 

視界が真っ暗になると、耳から聞こえて来る音も徐々に遠ざかって行く。

 

やがて、その真っ暗闇の空間の中に………

 

静止画の様に一夏とエンキドゥの姿が浮かび上がった。

 

「! 見切った!!」

 

目を開くと同時に、箒は穿千のトリガーを引く。

 

熱線が、一夏とエンキドゥ目掛けて放たれる。

 

「死ねぇっ!!」

 

丁度その時、エンキドゥは一夏に向かってエンキソードで突きを繰り出していた。

 

「!?」

 

反応が遅れた一夏は避けられず、エンキソードの刃は一夏の胸を貫………く寸前で穿千の熱線が通り過ぎ、エンキソードの刃を一瞬で蒸発させる!

 

「!? 何っ!?」

 

エンキドゥが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

「! 貰ったぁっ!!」

 

一夏が素早く雪片弐型を上段に振り被り、縦一文字にエンキドゥ目掛けて振り下ろす!!

 

「!? グアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

エンキラッガーが砕け、ボディにも縦一文字の傷を付けられるエンキドゥ。

 

「ぐうっ!!」

 

しかし、それでも致命傷には至らなかった様で、少し後退ると止まり、片手で傷を押さえる。

 

「!? 何てタフな奴だ………」

 

エンキドゥのタフさに驚きを示す一夏。

 

「ぐう、まさか………ISを使えるだけの只の人間にこうまでやられるとは………誤算だった………天上 神谷に拘ったのが仇となったか」

 

しかし、やはりダメージは大きい様で、戦闘継続は不可能だった。

 

「織斑 一夏………この借りは何れ返すぞ!!」

 

そう言い放つと、エンキドゥは煙幕を放出。

 

そのまま撤退する。

 

「逃げたか………」

 

「一夏!!」

 

と、一夏がそう呟くと、箒が傍に寄って来る。

 

「箒………ありがとうな」

 

「一夏、本当に大丈夫か? 私の攻撃は当たっていなかったろうな」

 

心配そうに一夏にそう尋ねる箒。

 

「大丈夫だって。掠りもしてないよ。俺は箒の事、信じてたからな」

 

屈託の無い笑顔で、一夏は箒にそう言った。

 

「!?」

 

途端に箒の頬が紅潮する。

 

「? 如何した!?………!? うわっ!?」

 

それに気づいた一夏が尋ねた瞬間、箒に突き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿者!! 何を言うんだ、貴様は!!」

 

「イテテテ………何だよ箒?」

 

そっぽを向いて怒鳴る様に言う箒に、尻餅を着いた一夏は愚痴る様に言うのだった。

 

と、その時!!

 

突然天岩戸に震動が走ったかと思うと、続いて爆発音が響く。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

箒と一夏が驚きを示した瞬間、天岩戸の彼方此方から火の手が上がり始める!!

 

更に砲塔に有った弾薬等にも誘爆し始めているのか、次々に小爆発が起こる!!

 

「コレは!?」

 

「誰かが動力炉を破壊したんだ! このままでは天岩戸が吹き飛ぶぞ!!」

 

一夏が戸惑っていると、箒がハイパーセンサーを展開して状況を把握する。

 

「「「「「「一夏〈さん、くん〉!!」」」」」」

 

とそこで、内部に突入していた筈の鈴、グラパール・弾、セシリア、ラウラ、楯無、簪が姿を現した。

 

「皆!!」

 

「艦内で………彼方此方から火の手が上がったから………慌てて撤退して来たわ」

 

「如何やら動力炉を破壊したのはアニキとシャルロットさんらしい!」

 

「神谷が!?」

 

「全く………ホントにアイツはいつも良いとこを持ってくわよね」

 

「兎に角脱出よ! 此処に居たら巻き込まれるわ!!」

 

「しかし! 神谷さんとシャルさんがまだですわ!!」

 

セシリアが、動力炉を破壊した本人である神谷とシャルがまだ出て来ていない事を指摘する。

 

「でも………モタモタしている時間は無い」

 

簪が冷静そうな様子でそう言う。

 

天岩戸の爆発は断続的に続いているが、段々小爆発と小爆発の間の間隔が短くなって来ている。

 

このままでは、間も無く大爆発を起こすだろう。

 

「戻って探している時間は無いぞ」

 

「ったく! あの馬鹿!! 何やってんのよ!?」

 

ラウラがそう言うと、鈴がそう悪態を吐く。

 

「………皆、脱出しよう」

 

するとそこで、一夏がそう言って来た。

 

「!? 一夏!?」

 

「一夏さん!? ですが………」

 

「アニキなら大丈夫だ! きっとシャルロットを連れて帰って来る!!」

 

「そうそう! アニキがこんな所でくたばるかよ!!」

 

驚く箒とセシリアに、一夏はそう言い、グラパール・弾もそう言って来る。

 

「………皆、此処は一夏くんや弾くんの言う通り、神谷くんを信じましょう。私達は脱出よ!」

 

そこで楯無が一同を見ながらそう言い放つ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

一同は顔を見合わせて黙って頷くと、天岩戸から脱出して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸が爆発を起こす少し前………

 

天岩戸・動力炉にて………

 

「………やったか?」

 

燃え盛る炎を見て、ザガレッズはジギタリスの声でそう呟く。

 

爆発的に燃え上がった燃料の炎の中に、ラファールラガンは消えていた。

 

「如何に合体したグレンラガンと言えど、これ程の炎に包まれては、只では済むまい………」

 

「………神谷………シャル………」

 

と、今度はティトリーが、神谷とシャルの名を呟く。

 

「………ティトリー」

 

それを聞いたジギタリスの声色に、複雑な感情が垣間見える。

 

すると!!

 

「呼んだか? ティトリー?」

 

「「!?」」

 

何処からとも無く、神谷の声が響いて来た。

 

「神谷!?」

 

「馬鹿な!? 何処に!?」

 

ザガレッズが声の主を探す様な動きを見せた瞬間!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

足元の床を突き破って、右腕をドリルに変えたラファールラガンが飛び出す!!

 

「!? ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

「ニャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!?」

 

そのドリルでのアッパーカットを喰らって、ザガレッズは装甲から火花を散らしてブッ飛ばされる。

 

「ぐおあっ!?」

 

「ミャアッ!?」

 

そのまま床の上に背中から叩き付けられるザガレッズ。

 

「へへっ! アレ位でこの神谷様がくたばると思ったのか!?」

 

「まあ、実際ヒヤリとしたけどねぇ………死ぬかと思ったよ」

 

着地したラファールラガンから、神谷とシャルの声が響いて来る。

 

「ぐぬぬ………そうか………貴様の武器がドリルであると言う事を失念していたわ」

 

ジギタリスのそう言う声と共に、ザガレッズが起き上がる。

 

今の1撃が大分効いたらしく、全身にスパークが走っている。

 

しかし、ラファールラガンのダメージの方も決して軽くは無かった。

 

完全に爆発と炎から逃れられたワケでは無く、装甲が一部融解している。

 

両者共に満身創痍。

 

(次で決めねえと………)

 

(こちらの負けか………)

 

神谷とジギタリスも、それが分かっているのか、互いに最高の1撃を繰り出そうとする。

 

右手に出現させた灰色の鱗殻(グレー・スケール)を構えるラファールラガンと、右拳にエネルギーを集中させるザガレッズ。

 

「「…………」」

 

その状態で、互いに睨み合いとなる。

 

互いに摺り足で微妙に横移動して相手の隙を窺う。

 

そのまま1分、2分と時間だけが経過して行く………

 

動力炉内は、動力炉の駆動音と燃え盛る炎の音だけが静かに響いていた。

 

と、その時!!

 

炎が動力炉の機材に引火したのか、小さな爆発が起こる。

 

「!?」

 

その爆発に、ラファールラガンが一瞬気を取られる。

 

「貰ったぞぉっ!!」

 

当然その隙を見逃さず、ザガレッズは突撃する!!

 

「! チイッ!!」

 

後れを取ったラファールラガンは、突撃して来たザガレッズを迎え撃つ様に灰色の鱗殻(グレー・スケール)を装備した腕を振るった!!

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーと、ザガレッズのエネルギーを集中させた拳がぶつかり合う!!

 

そのままスパークと火花を散らし始める両者!!

 

「ぬうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びを挙げ、両者互いに相手を押し切ろうとする。

 

だがその瞬間!!

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーにヒビが入り始める。

 

「!? 神谷!!」

 

「黙ってろ!!」

 

シャルが慌てた声を挙げるが、神谷は一喝する。

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、次の瞬間!!

 

ジギタリスの気合の雄叫びと共に、灰色の鱗殻(グレー・スケール)が完全に砕け散った!!

 

「ああっ!?」

 

「勝った!!」

 

狼狽するシャルと、勝利を確信するジギタリス。

 

しかし!!

 

「まだだぁっ!!」

 

神谷がそう叫びを挙げたかと思うと、ラファールラガンの左手には、何時の間にかブレッド・スライサーが握られていた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「!?」

 

「うおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そのブレッド・スライサーをザガレッズ目掛けて振るうラファールラガン。

 

「ええいっ!!」

 

そして、ザガレッズの拳がラファールラガンのボディに叩き込まれた瞬間………

 

ラファールラガンの握ったブレッド・スライサーも、ザガレッズを斬り付ける!!

 

そのまま互いに硬直するラファールラガンとザガレッズ。

 

そして………

 

「ぬうあっ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

ジギタリス、ティトリー、神谷、シャルの声が響いたかと思うと、ラファールラガンとザガレッズは互いに弾かれる様にブッ飛び、合体が解除される。

 

更に、ザウレッグとメガヘッズの方は、ジギタリスとティトリーの姿へと戻る。

 

「イツツツツツ………シャルゥ、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないよ、イタタタタタ………」

 

一方、グレンラガンとシャルの方は、共に損傷して痛がっている様子を見せているが、まだ健在であった。

 

「見事だったぞ………グレンラガン」

 

「オッサン!」

 

立ち上がろうとしているジギタリスの傍に駆け寄るティトリー。

 

と、その時!!

 

2人の真上の天井が爆発!!

 

瓦礫が2人目掛けて落ちて来た!!

 

「ニャアッ!?」

 

「!!」

 

それを見たジギタリスが、ティトリーを突き飛ばす!!

 

「ミュアッ!?」

 

「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

瓦礫はそのまま、ジギタリスの上に降り注いだ!!

 

「オ、オッサン!!」

 

「ジギタリス!?」

 

「!?」

 

ティトリーが慌てて再度駆け寄り、グレンラガンとシャルも駆け寄る。

 

「ぐ、むう………」

 

幸いと言って良いか分からないが、ジギタリスはまだ生きていた。

 

しかし、その上には大量の瓦礫が圧し掛かっている。

 

と、更にそこで、動力炉の彼方此方で爆発が起こり始める。

 

「!? マズイ! 炎が彼方此方に誘爆してるよ! このままだと大爆発が起きるよ!!」

 

「オッサン! しっかりして、オッサン!!」

 

シャルがそう声を挙げる中、ティトリーはジギタリスを助けようと、瓦礫の撤去に掛かっている。

 

しかし、獣人と言えど見た目は完全に10代の少女。

 

持ち上げられそうな瓦礫は高が知れていた。

 

「ティトリー………逃げろ」

 

「!? な、何言ってるのさ!?」

 

「………グレンラガン………いや、天上 神谷。恥を忍んでお前に頼む………ティトリーを頼む」

 

「!? 何っ!?」

 

ジギタリスの言葉に、グレンラガンは驚きを示す。

 

「我等獣人は全て螺旋王様によって生み出された………貴様等の言う親、兄弟………家族の概念等は無い………だが、ティトリー………俺はお前を………何時の間にか娘の様に思っていた」

 

「お、おっさん………」

 

「頼む、天上 神谷………後生の頼みだ………ティトリーを………娘を頼む」

 

息も絶え絶えに、グレンラガンにそう頼み込んで来るジギタリス。

 

「…………」

 

そんなジギタリスの姿を、グレンラガンは黙って見詰めていた。

 

とそこで、動力炉から上がっている爆発が更に激しさを増す。

 

「! 神谷! コレ以上は危険だよ!!」

 

「………シャル。ティトリーを連れて先に脱出しろ」

 

シャルがそう言うと、グレンラガンはそう返す。

 

「!? 先にって、神谷は如何するの!?」

 

「決まってんだろ。俺は………」

 

そう言うと、グレンラガンはジギタリスの上に乗っかっている瓦礫に手を掛けた。

 

「!? 神谷!!」

 

「! 貴様、何を!?」

 

「無理だよ、神谷! 時間が無いよ!!」

 

驚くティトリーとジギタリスに、時間が無いと言うシャル。

 

「直ぐに済ませる」

 

「じゃあ! 僕も手伝うから………」

 

「駄目だ。オメェはティトリーを連れて行け」

 

「神谷!!」

 

「俺を信じろ!!」

 

「!?」

 

短く、簡潔な言葉………

 

だが、その言葉は、何よりもシャルの心に響いた。

 

「………分かった。必ず帰って来てね」

 

「安心しろ。漢は約束を死んでも守るもんだ」

 

「………さ、ティトリー」

 

それを聞くと、シャルはティトリーを抱き抱える。

 

「ま、待って、シャルロット!」

 

ティトリーの抗議には耳を貸さず、シャルはそのまま踵を返すと、動力炉から脱出して行った。

 

「おっし!」

 

それを確認すると、グレンラガンは再びジギタリスの上に乗っかっていた瓦礫の撤去に掛かる。

 

「む、ぐっ! ぐぐぐぐぐぐ………こなくそぉ!!」

 

しかし、先程までのザガレッズとの戦いの消耗が響いているのか、パワーが上がらず、撤去は思う様に進まない。

 

「何をしている。お前も早く逃げろ」

 

「ああ、逃げるぜ………お前を助けてからな」

 

そう返すと、更に瓦礫の撤去を続けるグレンラガン。

 

「情けを掛ける積りか?………見損なうな。俺には獣人としての誇りが有る………」

 

「その誇りってのは、ティトリーへの親心より重いのかよ?」

 

「何………?」

 

グレンラガンからの思わぬ言葉に、ジギタリスが驚きを示す。

 

「俺には親は居ねえ………いや、正確には親父の方は最近まで生きてたんだが、会った途端に死に別れちまった」

 

「…………」

 

「一夏だってそうだ。ブラコンアネキは居たが、ガキの頃に親に捨てられちまったそうだ。箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも、親が居ないか、居ても何時でも会えるワケじゃねえし、碌な奴じゃなかったりしやがる」

 

「…………」

 

ジギタリスは、ただ無言のまま、グレンラガンの言葉に耳を傾けている。

 

「アイツ等だけじゃねえ。最近は人間だって碌な親もやれねえ奴が増えてやがる。けどオメェは、獣人でありながら、ティトリーの事を娘だって言うじゃねえか」

 

そう言って、ジギタリスの上に乗っかっていた鉄骨を1本放り投げるグレンラガン。

 

「だったら生きろ! 生きて………アイツに色々と教えてやれ! アイツにはまだオメェが必要だ!!」

 

「………天上 神谷」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びを挙げて、グレンラガンは鉄塊の除去に掛かる。

 

だが、その時!!

 

天井で再度爆発が発生!!

 

燃え盛る新たな瓦礫が、グレンラガンとジギタリスに向かって降り注いで来る。

 

「!?」

 

「! こなくそおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更に叫びを挙げるグレンラガン。

 

すると、その身体が螺旋力に包まれる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

先に天岩戸から脱出した一夏達は、やや離れた見晴らしの良い崖の上で、天岩戸から次々に火の手が上がって行く様子を見ていた。

 

「………もう大爆発するのも………時間の問題よ………」

 

天岩戸の様子を見ていた一同の中で、簪が冷静にそう呟く。

 

「クッ! 神谷はまだか!?」

 

「あの馬鹿! 何モタモタしてんのよ!?」

 

箒と鈴が、苛立っている様な声を挙げる。

 

((アニキ………))

 

一夏とグラパール・弾も、流石に心配になって来ている。

 

と、その時!

 

「ん!? アレは?」

 

ラウラが、天岩戸から何かが飛び出すのを捉え、カメラを望遠にしてその何かを映し出す。

 

「! シャルロットさんですわ! ティトリーさんを連れておられます!!」

 

と、同じく望遠カメラでその姿を確認したセシリアがそう声を挙げる。

 

「シャルロット!!」

 

一夏が声を挙げると、シャルは彼等の元へ舞い降りて来る。

 

「皆! 無事だったんだね!!」

 

「あ、あの………」

 

一夏達が無事なのを見て喜びの声を挙げるシャルと、気不味そうにしているティトリー。

 

「ティトリー………」

 

「「「「…………」」」」

 

一夏達も、ティトリーに何と言って良いか分からず、沈黙する。

 

「ちょっと待って! 神谷くんは!?」

 

とそこで、楯無が脱出して来たのがシャルだけである事に気付いてそう声を挙げる。

 

「!? そうだ! シャルロット! アニキは!?」

 

「え、えっと、神谷は………ジギタリスを助けるって言って、未だ中に………」

 

「!? 何だって!?」

 

「馬鹿な! もう時間が無いぞ!!」

 

と、箒がそう声を挙げた瞬間!!

 

天岩戸が一瞬光を放ったかと思うと、大爆発を起こして木端微塵に吹き飛んだ!!

 

「「!? うわあっ!?」」

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「「!?」」

 

強烈な爆風が一夏達が居る位置まで吹いて来て、一夏達は地面に倒れる。

 

「イタタタタタ………!?」

 

頭を擦りながら起き上がった一夏が、天岩戸が在った場所が巨大なクレーターとなっているのを見て驚愕する。

 

「コレは………」

 

「危ないところだったわね………」

 

箒と楯無も、思わずそう呟く。

 

「オイ! アニキは!? アニキは如何なったんだ!?」

 

とそこで、グラパール・弾がそう声を挙げる。

 

「「「「「!?」」」」」

 

そこで一同は一斉にハイパーセンサーを展開。

 

グレンラガンの反応を探す。

 

しかし、どれだけ探しても、反応は出て来なかった。

 

「まさか………」

 

「そんな………」

 

ラウラと鈴の脳裏に、最悪の想像が過る。

 

「神谷!!」

 

と、シャルがそう声を挙げた瞬間!!

 

彼女のISのハイパーセンサーが、グレンラガンの反応を捉えた!!

 

しかも、如何言うワケか、自分達が今居る場所にだ。

 

「えっ!?」

 

如何いう事か分からず、シャルが首を傾げた瞬間!!

 

突如一同の目の前に、緑色の光が溢れた!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「な、何ですの!?」

 

「!? コレは!?」

 

楯無、セシリア、簪が驚きの声を挙げると!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

その光を突き破る様に、中からグレンラガンがゆっくりと姿を現す。

 

片腕でジギタリスを抱えながら。

 

「!? アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「おっさん!!」

 

一夏、シャル、ティトリーがそう声を挙げた瞬間!!

 

グレンラガンは光の中から完全に飛び出し、一同の前に着地する!!

 

「ぐうっ!?」

 

そして、そのまま神谷の姿に戻り、ジギタリス諸共前のめりに倒れた。

 

「! アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

慌てて一夏とシャルを先頭に、一同は神谷の傍に駆け寄る。

 

「おっさん!!」

 

ティトリーも、ジギタリスの傍に駆け寄る。

 

「アニキ! しっかり!!」

 

「神谷! 大丈夫なの!? 神谷!!」

 

一夏とシャルが神谷へと呼び掛ける。

 

すると…………

 

ぐぎゅおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~

 

まるで獣の咆哮の様な音が、神谷の腹から聞こえて来た。

 

「「「「「「「「「………えっ?」」」」」」」」」

 

「腹減った………」

 

一同が唖然とすると、神谷は絞り出す様な声でそう呟く。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

呆然となる一夏達。

 

「ク、クフフフ………アハハハハ! ハハハハハハハッ! もう~! 神谷ったら~! アハハハハハハハハッ!!」

 

やがて、シャルが堪え切れなくなった様に笑い出し始める。

 

「プッ! ハハハハハハハッ!!」

 

一夏もプッと噴き出して笑い出す。

 

「「「「「「アハハハハハハハッ!!」」」」」」

 

他の一同も、そんな2人に釣られる様に笑い始める。

 

「…………」

 

簪も、一見何時もと同じ無表情に見えるが、笑いたいのを必死に我慢しているのが見て取れた。

 

「おっさん! おっさん! しっかりして! おっさん!!」

 

と、一方ティトリーは、傷だらけのジギタリスに呼び掛けを続けている。

 

「………う………ううむ………」

 

すると、ジギタリスが僅かに声を漏らす。

 

「! おっさん!!」

 

「………死に損なってしまった様だな」

 

目を開くと、ティトリーの姿を見て、優しく微笑みながらそう言うジギタリス。

 

「! おっさん!!」

 

ティトリーはそんなジギタリスにしがみ付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始から6時間39分………

 

天岩戸はグレン団の手により破壊される。

 

これにより、IS学園壊滅の危機は、回避されたのであった。

 

数日後………

 

グレン団はIS学園学園長から直々に表彰される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

まるで何かの研究室の様な施設の中に居た束は、目の前にモニターを展開させており、先程までのグレン団の天岩戸攻略作戦の様を見ていた。

 

「一時的にとは言え、螺旋界認識転移システムを作動させるなんて………流石かみやんだね。何時も私の予想の上を行くんだから」

 

シャルや一夏達に揉み苦茶にされている神谷を見ながら、束は嬉しそうにそう言う。

 

「それにしても、ロージェノム軍があんな物まで持ち出すなんて………やっぱりこっちも建造を急がないと………」

 

と、束がそう呟いた瞬間、

 

「失礼します」

 

そう言う台詞と共に、研究室に1人の少女が入って来た。

 

背は低く、体躯はかなり華奢であり、年齢は12歳くらいに見える。

 

何より目を引くのは、流れる様な銀色の髪で、腰まであるそれを太い三つ編みにしている。

 

何処となくラウラに似ている様に見える。

 

「ああ、くーちゃん。如何? 状況は?」

 

少女の事をくーちゃんと呼び、束はそう尋ねる。

 

「建造状況は現在60%と言った所です。武装及び内部設備の艤装も順調ですが、反重力エンジンの搭載がやや難航しています」

 

「分かったわ。そっちは私が何とかするから、くーちゃんは他の作業を急がせて」

 

「分かりました」

 

くーちゃんと呼ばれた少女は、それだけ告げると、踵を返して研究室から出て行った。

 

「急がないと………『インフィニット・ノア』の建造を………」

 

決意を秘めた表情で、束はそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

天岩戸攻略最終戦。
箒への信頼で、見事ヴィラルに文字通り一太刀浴びせた一夏。
彼も強くなったものです。

そして動力炉で戦っていた神谷達も決着。
ティトリーだけは助けようとしたジギタリスですが、勿論神谷が見捨てる筈もなく、見事彼も救出してみせます。
この2人の今後に付きましては次回の冒頭にて説明します。

そしてその次回は、私が好きな戦隊ヒーローの神回のオマージュ・リスペクトとなっています。
主役は弾です。
彼の活躍にご期待ください。

それと、先週話した新作………
新サクラ大戦とウルトラシリーズのクロスについてですが、活動報告の方に大まかなプロットと第1話の次回予告を掲載しますので、そちらをご覧ください。
ご意見などあればそちらにお寄せください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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