天元突破インフィニット・ストラトス   作:宇宙刑事ブルーノア

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第8話『ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第8話『ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノムによる世界征服宣言がなされてから、数日の時が流れた………

 

初戦に於いて圧倒的な物量により、多数の小国を滅ぼし………

 

世界中に存在するISコアの3分の1以上をその手に納めたロージェノム軍。

 

現在は残っている大国と小規模な交戦を繰り返しており………

 

世界は辛うじて均衡状態を保っていた。

 

この戦いに於ける死傷者は、軍・民間を問わず、世界中で既に約10億人にまで達しようとしていた………

 

各国は今まで以上に新型ISの開発を進め、それと同時に縮小していた通常兵器の再配備を進めた。

 

ISの数に限りがあり、敵が物量で攻めて来る以上、人類側も物量で対抗しなければならない為である。

 

これによりISの登場以来、姿を消し始めていた戦闘機や戦車、戦闘艦等が再び数を増やし始め………

 

女尊男卑の風潮で、軍を退役したりクビにされていた男性軍人が、次々に復役し始めた。

 

世界が変わりつつある中………

 

その風は、IS学園にも影響を及ぼしていた。

 

現在のところ、日本でロージェノム軍の襲撃が確認されたのはIS学園だけだった。

 

この事から、ロージェノム軍はIS学園を狙っていると推測された。

 

となれば、通常はIS学園を防衛する為に、戦力を派遣するのが道理だが………

 

各国軍どころか、運営及び資金調達を行っている日本すらも、IS学園を防衛する戦力を派遣する事を拒否したのだ。

 

曰く、IS学園防衛の為に戦力を集中させ、その隙に本国を攻められる可能性がある為、との事であるが………

 

実際のところは、自国民なら兎も角、他国の生徒や代表候補生も居るIS学園を守るのを嫌ったのである。

 

他国のIS乗りは将来の危機になる………

 

ならば今の内に居なくなってくれた方が、各国としても都合が良かったのだ。

 

愚かにもこんな時にまで、各国は其々の思惑を振り払いきれなかった………

 

IS学園もIS学園で、親の意向や本人の自主的な退学者が続出していた。

 

ISが兵器である事は認識していたものの、実際に戦いに出される事になるとは思っていなかった生徒達は、事態の重さに付いて来れなかったのである。

 

退学者の中には本国へ帰国したり、戦中の様に田舎へ疎開する者まで居た。

 

中には故郷を滅ぼされ、難民として保護扱いになった生徒も居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組………

 

そんな中でも様々な思いを抱えて残っている生徒の為に………

 

今日も、IS学園は平常通りに運営されていた………

 

「ねえ、聞いた?」

 

「聞いた聞いた!」

 

「えっ? 何の話?」

 

ロージェノムの世界征服宣言も何処へやら………

 

1年1組の生徒達は噂話に華を咲かせ、何時もと変わらぬ日常を送っていた。

 

神経が図太いのか、何も考えていないのか………

 

「何だぁ? 今日は随分と騒がしいな?」

 

「やっぱり、皆気にしてるんじゃないかな? ロージェノムの世界征服を?」

 

自分の席に居た神谷と一夏がそう言い合う。

 

知らぬが仏、とはよく言ったものである。

 

「席に着け。HRを始める」

 

とそこで、真耶を伴った千冬がそう言いながら教室へと入って来た。

 

それを聞いた途端に、生徒達は一斉にお喋りを止め、自分の席へと着いた。

 

統率力だけならば軍隊並みである。

 

「今日は何と! 転校生を紹介します!」

 

すると、教壇に立った真耶が、生徒達に向かってそう言った。

 

「ええっ?」

 

「転校生?」

 

「しかもこんな御時勢に?」

 

転校生という言葉を聞いた生徒達がざわめき立つ。

 

「では、どうぞ!」

 

「失礼します」

 

真耶が促すと、1人の生徒が教室に入って来た。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それまでヒソヒソ話をしていた生徒達が、一斉に黙り込んだ。

 

「おっ?」

 

「あっ」

 

神谷と一夏も、軽く驚きの声を挙げた。

 

現れたのが、金髪の長い髪を後ろで束ねた少年………

 

つまり、男子だったからだ。

 

「『シャルル・デュノア』です。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

 

金髪の少年………『シャルル・デュノア』はそう言って、ニッコリと微笑んだ。

 

「お、男?」

 

「ハイ。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を………」

 

と、シャルルがそう言いかけた瞬間………

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

神谷、一夏、箒、セシリアを除く生徒全員が、黄色い声を挙げた。

 

「うわっ!?」

 

「っるせえな、オイ!」

 

思わず耳を塞ぎながらそう言う一夏と神谷。

 

「えっ?」

 

「男子! 3人目の男子!!」

 

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「同じ宇宙に生まれて良かったあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!」

 

戸惑うシャルルの様子にもお構いなしに騒ぎ立てる生徒達。

 

「騒ぐな。静かにしろ」

 

しかし、千冬がそう言うと、一瞬で静まり返った。

 

………やはり素晴らしい統率力だ。

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて、第2グラウンドに集合。それから織斑と天上」

 

「あ、ハイ!」

 

「おう!」

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ………では、解散!!」

 

千冬がそう言うと、一夏と神谷を除いた生徒達が、着替えの準備を始めた。

 

「君達が織斑くんと天上くん? 初めまして、僕は………」

 

「ああ、良いから良いから。アニキ」

 

「しゃーねえな………移動すっぞ」

 

シャルルが改めて自己紹介をしようとしたところ、一夏と神谷はそれを遮って席を立った。

 

「ホラ、モタモタすんな! 行くぜ!」

 

神谷はそう言い、シャルルの手を取って、一夏と共に移動を始めた。

 

「!? ふわっ!?」

 

手を摑まれた瞬間、シャルルが一瞬赤面した様だったが、2人には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・廊下………

 

「俺達はアリーナの更衣室で着替えるんだ。実習の度にこの移動だからな。早めに慣れてくれよな」

 

「ったくよぉ、いっその事、一緒に着替えちまえば良いのによぉ」

 

「アニキ、それは駄目だよ………」

 

堂々とそう言う神谷に突っ込みを入れる一夏。

 

「う、うん………」

 

しかし、相変わらず神谷に手を引かれているシャルルは、若干頬を紅潮させ、落ち着かない様子を見せていた。

 

「? 如何した? そわそわして?」

 

「便所か?」

 

「ち、違うよぉ………うん?」

 

と、不意に足を止めるシャルル。

 

「噂の転校生、発見!!」

 

「しかも織斑くんと一緒!」

 

「天上くんが居るのが余計だけど………」

 

3人の前方に、別の学年・クラスの生徒達が行く手を遮る様に現れたのだ。

 

「な、何?」

 

「ったく、急いでるってのによぉ」

 

戸惑うシャルルと愚痴る様に言う神谷。

 

「居たっ! こっちよ!!」

 

「者共! 出合え、出合え!」

 

まるでパンダを見に来た客の如く、一夏とシャルル、序に神谷に群がる生徒達。

 

彼女達に捕まれば質問攻めにされ、次の授業に遅れるのは必然である。

 

「アニキ、如何しよう?………前も後ろも塞がれてるよ」

 

一夏が神谷にそう言う。

 

「チッ! しゃーねえなぁ………よっと!」

 

「うわっ!?」

 

「おわっ!?」

 

そう言うがいなや、神谷はシャルルを右肩に、一夏を左肩に担ぐ様に抱えた。

 

「しっかり摑まってろよ!!」

 

2人にそう言うと、神谷は廊下の窓に向かって突撃した。

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

「な、何する気!?」

 

「おりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして!!

 

そのまま窓を蹴破って、宙に躍り出た!!

 

「えええっ!?」

 

「ちょっ!? 此処3階!?」

 

見物していた生徒達が、慌てて割れた窓から下を覗き見る。

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

一夏とシャルルの悲鳴が、ドップラー効果を効かせながら小さくなって行く。

 

やがて、地面に近づいたかと思うと………

 

「むんっ!!」

 

神谷は両足を踏ん張り、着地を決めた!!

 

3人分の体重を急激に掛けられたコンクリートの地面が、神谷の足の位置を中心に罅割れた。

 

「んんっ!? イ、イテェ………ちょっと高かったかも………2人共、大丈夫か?」

 

若干顔を歪ませながらそう呟くと、神谷は担いでいた2人に声を掛けた。

 

「大丈夫じゃねえよ! なまら恐かったよ!!」

 

「きゅう~~~~………」

 

思わず大○洋になりながら怒りを露わにする一夏と、可愛い声を挙げて目を回して気絶しているシャルル。

 

「兎に角行くぞ。遅れるとあのブラコンアネキが煩いからな」

 

それを特に気にした様子は見せず、神谷は一夏を下ろすと、シャルルを肩に担いだまま走り出した。

 

「全くもう………」

 

一夏は呆れながらもその後に続いた。

 

「………ウソ」

 

「天上くんって………人間なのかな?」

 

取り残された生徒達は、ただ茫然とするだけだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの更衣室………

 

「ハアア~~~、ビックリした~~~」

 

漸く目を覚ましたシャルルが、大きく息を吐きながらそう言った。

 

「すまない、シャルル。大丈夫か?」

 

「う、うん………何とか………」

 

「ったく! 情けなねえぞ、金髪! それでもキ○タマ付いてんのか!?」

 

「キ、キ○タッ!?」

 

神谷の言葉にボボッと赤面するシャルル。

 

「アニキは無茶苦茶過ぎるんだよ」

 

「へっ! 道なんてもんはなぁ! 俺の通った後に出来るモンなんだよ!!」

 

「い、意味が分からない………」

 

「気にしないでくれ。アニキは何時もこうだから」

 

神谷節に付いて行けないシャルルにそう言う一夏。

 

「そうなんだ………」

 

「それじゃあ、改めて自己紹介させてもらうな。俺は織斑 一夏。一夏って呼んでくれ。で、コッチが………」

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

一夏がシャルルに神谷を紹介しようとしたところ、神谷はそれを遮って、お決まりの口上を並べた。

 

「あ、アハハ………よ、よろしく………僕の事もシャルルで良いよ」

 

戸惑いながらも、シャルルはそう返すのだった。

 

「! おわっと! アニキ! 時間ヤバいよ!!」

 

とそこで、更衣室に有った時計を見て、授業開始まで時間が無い事に気づいた一夏がそう声を挙げた。

 

「おっと! そいつはいけねえな! 良しっ! パッパッと片付けちまうか!!」

 

「おう!」

 

神谷がそう言うと、一夏が急いで服を脱ぎ始めた。

 

「!? うわぁっ!?」

 

途端に、シャルルは顔を真っ赤にして、目を隠して後ろを向いた。

 

「? 如何した?」

 

「早く着替えないと遅れるぞ? ウチの担任はそりゃあ、時間に煩い人で………」

 

その様子に不思議がる神谷と一夏。

 

「う、うん、き、着替えるよ………でも、その………アッチ向いてて。ね」

 

「いや、まあ、着替えをジロジロ見る気は無いが………」

 

「ったりめえだ。どうせ見るんなら、女の着替えの方が良いに決まってる」

 

「!?」

 

「アニキ………そう言う事は思ってても言わないでよ」

 

神谷の言葉に何やら反応した様な様子を見せたシャルルだったが、2人は後ろを向いていたので気づかなかった。

 

「何でも良いけど、急げよ」

 

と、そこで一夏がそう言いながら一夏が再びシャルルの方を向くと………

 

「な、何かな?」

 

そこには既にISスーツへ着替えたシャルルの姿が在った。

 

「………着替えるの超早いな。何かコツでもあるのか?」

 

「え、いや………別に………アハ、アハハハ」

 

一夏の問いに、乾いた様な笑い声を上げるシャルル。

 

「コレ、着る時に裸ってのが何か着辛いんだよなぁ。引っ掛かって………」

 

「一夏。そりゃあお前の男が大きい証拠だぜ」

 

「ひっ、引っ掛かって!?………男が大きい証拠!?………ほおお………」

 

そこでまたも赤面するシャルル。

 

「ん? そのスーツ、着易そうだな」

 

シャルルのISスーツを見てそう言う一夏。

 

「デュノア社製のオリジナルだよ」

 

「デュノア? お前の苗字もデュノアだよな?」

 

「父が社長をしてるんだ。一応、フランスで1番大きいIS関係の企業だと思う」

 

「何だよ、お前ボンボンか? さぞ良い暮らししてんだろうな」

 

根っからの雑草な神谷が、シャルルの家の事を聞いてそんな感想を漏らす。

 

「…………」

 

しかし、その言葉にシャルルは表情を曇らせた。

 

「ん? 如何し………」

 

「一夏。何時まで着替えてんだ? 早く行こうぜ」

 

と、そこで着替える手が止まっていた一夏に、神谷がそう言って来た。

 

その姿は、頭部のみを除いてグレンラガンとなっていた。

 

「うわぁっ!?」

 

「あ、ゴメン、アニキ!」

 

グレンラガンの姿になりかけている神谷を見て驚くシャルルと、慌てて着替えを済ませる一夏。

 

「も、もうISを装着してるの? 幾ら何でも早過ぎない?」

 

シャルルはグレンラガンになりかけている神谷に向かってそう言う。

 

「ああ、俺のは正確に言うとISじゃないからな。ホントのところは、ISスーツ着る必要がねえんだ」

 

「えっ? ISじゃないって………如何言う事?」

 

「そいつは………」

 

「うわぁっ! 駄目だよ、アニキ! それは千冬姉から口止めされてるじゃないか!?」

 

思わずグレンラガンの事について話し出そうとした神谷を止める一夏。

 

前回のクラス代表戦乱入事件で、神谷のグレンラガンに疑問を抱いた一夏達は千冬を問い詰め、その正体について教えてもらっている。

 

しかし、本来これは秘匿されるべき事であり、一夏達には機密保持が命令された。

 

だが、当の本人がついポロリッと言ってしまいそうになった事が度々あるので、一夏達は気が気でなかった。

 

「ああ? 良いじゃねえかよ、別に。教えたって………」

 

「駄目だって! さあ、早く行くよ!!」

 

一夏はそう言うと、グレンラガンになりかけている神谷の手を引っ張った。

 

「お、オイ! そんなに引っ張んなって!!」

 

「あ、待ってよぉ!」

 

引き摺られる様に連れて行かれるグレンラガンになりかけている神谷と、慌ててその後を追うシャルルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第2グラウンド………

 

神谷を除いたISスーツ姿の1年1組と2組の生徒達が、白いジャージ姿の千冬の前に整列していた。

 

「本日から実習を開始する」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「先ずは戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット!」

 

「「ハイ!」」

 

鈴とセシリアが揃って返事をする。

 

「専用機持ちなら、すぐに始められるだろう。前に出ろ!」

 

「メンドイな~………な~んで私が………」

 

「ハア~………何か、こういうのは見世物の様で気が進みませんわね………」

 

あまり気が乗らないでいる2人。

 

「お前等少しはやる気を出せ………アイツに良い所を見せられるぞ」

 

すると千冬は、後半の方は一同には聞こえない様にそう言った。

 

「やはり此処はイギリス代表候補生、私セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せる良い機会よね! 専用機持ちの!」

 

2人は途端に、180度態度を変えてやる気を見せる。

 

(如何したんだ? アイツ等、急にやる気出して?)

 

その態度の源である一夏は、ただ首を傾げるだけだった。

 

「それでお相手は? 鈴さんとの勝負でも構いませんが………」

「こっちのセリフ………返り討ちよ」

 

「慌てるなバカ共。対戦相手は………」

 

と、千冬がそう言いかけた時………

 

空から落下音の様な音が聞こえて来た。

 

「わわわぁ~~~~~~っ! ど、退いて下さいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~!」

 

続いて悲鳴が聞こえて来たかと思うと、ISを装着した真耶が落下して来た。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

生徒達は慌てて蜘蛛の子を散らした様に逃げ出すが、一夏は反応が遅れた。

 

真耶は、一夏への直撃コースを落下して来る。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

あわや大激突かと思われた瞬間!!

 

「一夏ぁ! 頭下げろぉ!!」

 

「!? アニキ!?」

 

突如聞こえて来た神谷の声に、一夏は言われるがままに頭を下げた。

 

その直後、その一夏の傍に、完全にグレンラガンの姿となった神谷が立った。

 

その手には、グレンラガンサイズのバットが握られていた。

 

「グレン! ホオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーームランッ!!」

 

そしてそのバットを使い、一本足打法で、落下して来た真耶を思いっきり打ち返した!!

 

「キャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?………」

 

真耶の姿は空の彼方へ消えて行き、とうとう昼間に煌めく星となった。

 

「よっしゃあ! 宣言通りホームランだ!!」

 

「このバカ者がぁ!! 教師をブッ飛ばして如何するぅ!?」

 

自慢げにそう言う神谷に、千冬は血管が切れるのではないかと思わせる様な怒声を挙げたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

「ハア………ハア………ゴメンなさい。お待たせして」

 

如何にか帰って来た真耶が、そう言って生徒達に笑顔を向けた。

 

海に落ちたのか、その姿はびしょ濡れで水滴が滴っており、頭の上には昆布が乗っていた。

 

「山田先生はこれでも元代表候補生だ。侮っていると痛い目を見るぞ」

 

「昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし………」

 

「え? あ、あの………2対1で?」

 

「や、流石にそれは………」

 

実力があると言われても、流石に2対1で戦う事を躊躇うセシリアと鈴。

 

「安心しろ。今のお前達なら、すぐ負ける」

 

「「!!」」

 

千冬のその発言に思わずムッとするセシリアと鈴。

 

「では………始め!!」

 

そう言って、千冬が右手を振り下ろすと、セシリア、鈴、真耶が、第2グラウンドの上空へと昇って行った。

 

やがて、一定高度に達したかと思うと、静止した。

 

「手加減はしませんわ!!」

 

「さっきの見る限り、元代表候補生だなんて信じられないしね!」

 

「い、行きます!!」

 

真耶がそう言うと、セシリアと鈴が動いた。

 

先ず最初に動いたのはセシリア。

 

ブルー・ティアーズを射出し、次々に射撃を見舞う。

 

しかし、真耶は無駄の無い最小限の動きでそれを躱す。

 

「クウッ!!」

 

今度は鈴が、肩アーマーを展開させ、龍咆を見舞った。

 

真耶は、冷静に1射目を躱すと、2射目を物理シールドで防いだ。

 

「デュノア。山田先生の使っているISの解説をして見せろ」

 

とそこで、地上に居た千冬が、シャルルにそう問題を出した。

 

「あ、ハイ! 山田先生のISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代にも劣らないものです。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった全タイプに切り替えが可能です」

 

まるで教科書を読んでいるかの様な説明が、シャルルの口からスラスラと語られる。

 

その間でも、上空では戦いが繰り広げられており、真耶が2人を圧倒している一方的な展開となっていた。

 

やがて連携の取れていなかったセシリアと鈴は空中で激突。

 

そこへ真耶が、グレネードランチャーを見舞った!

 

放たれたグレネードは、狙いを過たず2人に命中。

 

「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」

 

2人の姿が爆煙に包まれたかと思うと、やがて縺れ合う様な体勢で落下して来た。

 

派手な土煙を巻き上げてグラウンドに墜落する2人。

 

「う、ううう………まさかこの私が………」

 

「あ、アンタねぇ! 何面白い様に回避先読まれてんのよ!?」

「鈴さんこそ! 無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!!」

 

互いに詰り合いを始めるセシリアと鈴。

 

「これで諸君にも教員の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

真耶が降りて来る中、生徒達に向かってそう言い放つ千冬。

 

「次にグループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやる事。では分かれろ!………ああ、そうだ。天上。お前はコッチに来い」

 

「あん? んだよ?」

 

名指しで呼ばれた神谷は、首を傾げながら千冬の傍に寄る。

 

「「「「「??」」」」」

 

他の生徒達も、何故神谷だけが名指しで呼ばれたのかが気になる。

 

「天上………お前、授業に来る前に何かしなかったか?」

 

神谷に向かってそう尋ねる千冬。

 

………その声色は恐ろしくなるほど冷たい。

 

「ああ、別のクラスの女子共に囲まれそうになったが、それが如何かしたのか?」

 

しかし、神谷は平然としながらそう言い放った。

 

「貴様、その際に………廊下のガラスを割っただろう」

 

「ああ、そういやそんな事したなぁ」

 

「………そのせいで私の所に学年主任から苦情が来たんだ!! お蔭で私は始末書を書く羽目になったぞ!!」

 

そこで、怒りを爆発させた様にそう言い放つ千冬。

 

「そっか。そりゃ悪かったな」

 

だがそれでもなお神谷は、軽い調子で謝罪をした。

 

「か~~~み~~~~~や~~~~~~っ!!」

 

すると千冬は、地の底から聞こえてきそうな声を挙げたかと思うと、着ていた白いジャージを脱ぎ捨てた!!

 

その下から出て来たのは、ISスーツだった。

 

更にその次の瞬間!!

 

千冬は学園で使っている量産型IS・打鉄を展開し、装着した。

 

「お、織斑先生!?」

 

「千冬姉!?」

 

突如ISを展開した千冬に驚く真耶と一夏。

 

他の生徒達も戸惑いを浮かべている。

 

「貴様には私が特別に個人指導を付けてやる………実戦形式でな!!」

 

日本刀型の近接ブレードを抜き放つと、切っ先を神谷に付き付けてそう言い放つ千冬。

 

その目は完全に本気である。

 

「へっ! 面白れぇ!! 返り討ちにしてやるぜ!!」

 

神谷はそう言うと、再び完全にグレンラガンの姿となり、右手に2本のドリルを出現させた。

 

「ISファイトォッ! レデイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「ゴオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

まるでガ○ダムファイトでも開始するかの様な掛け声を発して、2人は衝突した。

 

その後はもう、神谷と千冬の戦いに全員が目を奪われ、授業どころではなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ………

 

昼休み………

 

一夏達は、校舎の屋上に集まっていた。

 

芝生の上に、輪を描く様に座り込んでいる。

 

「イツツツツッ………チキショー、あのブラコンアネキ………良いヤツ入れてきやがって………」

 

若干腫れ上がっている左頬を押さえながらそう言う神谷。

 

「大丈夫? ハイ、コレ、ハンカチ」

 

それを見たシャルルが、水で濡らしたハンカチを差し出してくる。

 

「おお、サンキュー………ああ~~、冷たくて気持ち良いぜ」

 

それを受け取ると、腫れ上がった左頬に当ててそう言う神谷。

 

 

 

 

 

結局、グレンラガンVS千冬(打鉄)の戦いは、引き分けに終わった………

 

当初はグレンラガンが飛行できない弱点を衝き、ヒットアンドアウェイ戦法で千冬が押していたが………

 

ブリュンヒルデである千冬の操縦に、量産型である打鉄が付いて来れず、オーバーヒートを起こしたのだ。

 

現役時代であればしなかったミスだったが、引退して以来久しいISの操縦であり、尚且つ頭にかなり血が昇って居た千冬は、使っている機体の事にまで頭が回らなかったのだ。

 

オーバーヒートにより飛行が出来なくなった打鉄で、千冬は止むを得ず地上戦を展開。

 

だが、地上ならばこっちのものとばかりに、グレンラガンが反撃を開始。

 

アッと言う間に互角に持ち込まれ、ブレードも折られてしまう。

 

だが、グレンラガンがトドメを刺そうとしたところへ、千冬は渾身の右ストレートを繰り出した。

 

グレンラガンもそれに呼応するかの様に左ストレートを繰り出し、2人は互いの顔にクロスカウンターを打ち込む形となって崩れたのだ。

 

尚、この1件で結果的に打鉄を1機駄目にした千冬には、更なる始末書が追加された。

 

現在千冬は、職員室で痛む胃を押さえながら始末書を書いている。

 

合掌………

 

 

 

 

 

「アンタも相変わらずねえ」

 

「おうよ! 俺は喧嘩には絶対負けねえ!!」

 

呆れる様に言う鈴に、神谷は自信満々にそう言い放つ。

 

「ところで一夏………如何いう事だ? 私が食事に誘ったのはお前だけの筈だ」

 

と、そこで箒が、一夏だけを誘ったのに、セシリアや鈴、挙句に神谷やシャルルまでも居る事にそう突っ込む。

 

………不機嫌そうに。

 

「大勢で喰った方が美味いだろ? それにシャルルは転校してきたばっかで右も左も分からないだろうし」

 

「そ、それはそうだが………」

 

箒は一夏のその答えを聞くと、セシリア、鈴と視線を交差させ、火花を散らす。

 

3人の手元には、其々弁当がある。

 

如何やら、一夏に食べてもらおうと思って作って来たらしい。

 

「ええと………本当に僕が同席しても良かったのかな?」

 

その空気を察したシャルルが、一夏にそう言うが………

 

「いやいや。男子同士、仲良くしようぜ。今日から部屋も同じなんだし」

 

そんな空気など微塵も感じていない一夏は、笑顔でそう言い放った。

 

「その通り! 俺たちゃもうダチ公だろ! ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!」

 

神谷も、シャルルに向かってそう言い放つ。

 

「ありがとう。一夏って優しいね。神谷も、見た目とは違って良い人なんだね」

 

「オイオイ、随分はっきり言うじゃねえか………見た目とは違って、とはな」

 

「えっ? あ! ゴメン! そんな積りじゃ………」

 

先程までの印象もあり、思わず『見た目と違って』などと言う言葉が出てしまった事を謝罪するシャルル。

 

「だが気に入ったぜ! シャルル! お前もグレン団に入れてやる!!」

 

だが、神谷はニヤリと笑ってそう言い放った。

 

「グ、グレン団? 何それ?」

 

「熱い魂の在り処よ! お前もコイツ等と同じ様に、俺が命張って守ってやらぁ!!」

 

「ちょっ!? コイツ等って!?」

 

「私達もグレン団のメンバーにカウントされているのか?」

 

『コイツら』と言う神谷の言葉に、鈴と箒は何時の間にか自分達がグレン団のメンバーにされている事に抗議の声を挙げる。

 

「当たり前だろ! 昔は俺と一夏に連んで色々やっただろうが!?」

 

「ああ、そう言えばそんな事もあったっけ。懐かしいなぁ」

 

神谷の言葉を聞いた一夏が、懐かしそうな顔をする。

 

「私はお前達が無茶しないか見張っていただけだ!!」

 

「アタシだってそうよ!!」

 

しかし、箒と鈴は納得が行かない様で、そう声を挙げる。

 

「えっ? 箒と鈴って、そんな積りで俺達に付き合ってたのか? それはちょっと悲しいなぁ………」

 

すると、一夏がそう言いながら、しょんぼりした。

 

「「ううっ!?」」

 

その顔を見て罪悪感を感じる箒と鈴。

 

「し、仕方ないな! 取り敢えずはグレン団のメンバーという事にしてやる!!」

 

「ア、アタシも! 別に構わないわ!!」

 

やがて折れたかの様にそう言った。

 

「おお! 流石箒と鈴だぜ!!」

 

一夏は屈託無い笑顔を見せながらそう言う。

 

「「!!」」

 

その笑顔を見て、顔を赤くする箒と鈴。

 

「………一夏って、何時もああなの?」

 

「ホントに、いつか後ろから刺されないかが心配だぜ………」

 

そんな一夏の様を見て、小声でそう言い合うシャルルと神谷。

 

「ったく、もう………コレだから……」

 

とそこで、鈴がそう言いながら、弁当の蓋を開けた。

 

「おお! 酢豚だ!」

 

その中身が酢豚である事を確認した一夏がそう声を挙げる。

 

「そう。今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」

 

「ん、んん! 一夏さん。私も今朝は偶々、偶然早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの」

 

と、そこでセシリアも『偶然』という部分を強調する様に言いながら、持って来ていたバスケットを持ち上げた。

 

空いている蓋から、中身のサンドイッチが見えていた。

 

「あ、ああ………そうか………」

 

しかし、それを見た一夏は顔を青くする。

 

実は、セシリア………

 

料理の腕はからっきしなのである。

 

見た目は美味しそうなのだが、その見た目の為に味が犠牲になっているのだ。

 

「んだよ、一夏。折角のセシリアの厚意だぞ。男ならありがたく受け取れ! つーワケで、俺も貰うぜ」

 

「むう………仕方ありませんわね」

 

若干不満そうにしながらも、神谷にサンドイッチを一切れ渡すセシリア。

 

「あぐっ!!」

 

そして神谷は、大きく口を開け、そのサンドイッチを一飲みにした。

 

「ア、アニキッ!!」

 

思わず慌てる一夏。

 

「「!?」」

 

事情を知っている箒や鈴も慌てる。

 

しかし………

 

「んぐ………んぐ………うん! 中々面白い味じゃねえか。悪くねえ」

 

「フフフ、当然ですわ」

 

(((ええ~~~~~っ!?)))

 

至って平気な様子の神谷を見て、内心で驚愕する一夏、箒、鈴。

 

「シャルルさんも如何ですか?」

 

「あ、じゃあ1つ………」

 

と、そこでシャルルも1つ受け取り、一口頬張る。

 

神谷の反応から、不味いとは思っていないらしい。

 

しかし………

 

「!??!」

 

食べた途端に、シャルルは顔色を変えた。

 

(な、何コレ?)

 

そんな感想だけがシャルルの頭を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

神谷には、“不味い”と言う味覚が欠如しているのである。

 

勿論、美味いものを食べれば美味いと言うが、基本的に食べ物は何でも食うタイプであり………

 

早い話が、【悪食】なのである。

 

 

 

 

 

「如何ですか?」

 

セシリアが自信満々の笑顔で聞いてくる。

 

「う、うん………美味しいよ………」

 

若干顔を引き攣らせながら、シャルルはそう答える。

 

「あ、あははは………ほ、箒のはどんなのだ?」

 

一夏は乾いた笑い声を挙げながら、これ以上犠牲者を出さない為に、箒へと話を振った。

 

「わ、私のはコレだ………」

 

箒はそう言い、弁当の蓋を開けた。

 

そこにはシンプルながらも、美味しさを感じさせる献立が並んでいた。

 

「おお! 凄いなぁ! どれも手が込んでそうだ!」

 

「つ、ついでだ、ついで! 飽く迄、私が自分で食べる為に時間を掛けただけだ」

 

一夏に褒められ、照れ隠しの様にそう言う箒。

 

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

 

「フ、フン!」

 

素っ気ない態度を取る箒だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「じゃあ、まあ、頂きま~す」

 

一夏はそう言い、箒の弁当から取った唐揚げを食した。

 

「…………」

 

その様子をジッと見つめる箒。

 

「うん! お~、美味い! コレって結構、手間が掛かってないか?」

 

「味付けは、生姜と醤油、おろしニンニク、それと予め胡椒を少しだけ混ぜてある。隠し味には大根おろしが適量だな」

 

美味しいと言う一夏の言葉を効いた途端、良い笑顔になって自慢げにそう語る箒。

 

「「~~~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアが、その様子を睨む。

 

「本当に美味いなぁ。箒、食べなくて良いのか?」

 

「失敗したのは、全部自分で食べたからな………」

 

「ん?」

 

「あ、あああ!? 大丈夫だ! まあ、その何だ………美味しかったのなら良い」

 

慌てて取り繕う様に言う箒。

 

「箒も食べてみろよ。ホラ」

 

と、一夏はそう言うと、唐揚げを箸で抓み、箒の口元に差し出した。

 

「「あああぁぁぁぁ~~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアから羨望の声が挙がる。

 

「な、何………」

 

やられた箒も箒で、戸惑うばかりだった。

 

「ホラ。食ってみろって」

 

「そ、そうか………それでは………」

 

再度促されて、箒は照れながらも、眼前に差し出された唐揚げを頬張った。

 

「良い………良いものだな」

 

「だろう。美味いよなぁ、この唐揚げ」

 

うっとりとした表情で言う箒に、分かっていない一夏はそう言う。

 

「唐揚げではないが………うん、良いものだ」

 

「ああ! コレってもしかして、日本ではカップルがするって言う『ハイ、あ~~ん』っていう奴なのかな? 仲睦まじいね」

 

そこで、シャルルが突っ込みを入れる様にそう言った。

 

「何でコイツ等が仲良いのよ!!」

 

「そうですわ! やり直しを要求します!!」

 

勿論、そんな光景に鈴とセシリアは黙っちゃいない。

 

2人揃って食って掛かる。

 

「ギャーギャー喚くな。そんなに一夏に食わせて欲しかったら、交代でやってもらえば良いじゃねえか」

 

すると神谷が、その場を収める様にそう言った。

 

「ん? まあ、俺は良いぞ」

 

相変わらず分かっていない一夏はそう言い放つ。

 

「ま、まあ………一夏が良いって言うならね」

 

「私は、本来ならばその様なテーブルマナーを損ねる行為は良しとは致しませんが、『郷に入っては郷に従え』、ですわね」

 

「じゃあ早速! は~い、酢豚食べなさいよ、酢豚!」

 

「一夏さ~ん! サンドイッチもどうぞぉ!!」

 

「ちょっ!? 落ち着けって!!」

 

迫って来る勢いの鈴とセシリアに、戸惑うばかりの一夏だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

一夏の部屋にて………

 

同じ男子同士という事で、一夏と同じ部屋にされたシャルルは、引っ越し作業を終えて、一夏が淹れた緑茶で一服していた。

 

「ふう~~、男同士ってのは良いもんだなぁ」

 

この学園に来て以来、気兼ね無く接する事が出来る人物が神谷しかいなかった一夏にとって、シャルルの存在は大きかった。

 

「紅茶とは随分違うんだね。不思議な感じ………でも美味しいよ」

 

一夏の入れてくれた緑茶にそんな感想を言うシャルル。

 

と、そこで………

 

「一夏~、邪魔するぜぇ」

 

天井から神谷のそう言う声が聞こえて来たかと思うと、一部の天井板が外され、ロープが垂れたかと思うと、神谷が降りて来た。

 

「あ、アニキ」

 

「うええっ!? 神谷!? 何で上から!?」

 

平然と迎える一夏と、突然天井から現れた神谷に驚くシャルル。

 

「ああ、アニキの部屋。この上だから」

 

「えっ? でもこの上って、確か屋上………」

 

「細かい事は気にすんな! 一夏! 俺にも茶くれ!」

 

「ハイハイ、今淹れるよ」

 

そう言うと、一夏は神谷の分の茶を淹れに行く。

 

「………神谷って本当に自由だね」

 

「おうよ! 俺はいつだって自分に正直に生きてる! 自分を誤魔化して生きるのは御免だからな!!」

 

「そっか………良いな」

 

そんな神谷の様子を見て、シャルルは若干羨ましそうな感じでそう言った。

 

「? どした? 何か暗いぞ?」

 

「あ!? ううん!! 何でもないよ!!」

 

慌てて取り繕う様に言うシャルル。

 

「そうか………ま、悩みが有ったら遠慮無く言いな。お前ももうグレン団の一員だ。団員の悩みを聞くのもリーダーの役目だからな!」

 

そう言うと、神谷はシャルルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。

 

「アイタタタタ! 痛いよ、神谷ぁ!」

 

シャルルは若干痛そうにしながらも、何処か嬉しそうにそう言う。

 

「アニキー。お茶入ったよ」

 

とそこへ、一夏が神谷の分の茶を持ってくる。

 

「おう! サンキュー!」

 

それを受け取ると、神谷はじっくりと味わい始める。

 

「そう言えば、一夏と神谷は、いつも放課後にISの特訓してるって聞いたけど………そうなの?」

 

「ああ。俺は他の皆から遅れているからな………クラス代表務めてる奴が弱いんじゃ、恰好がつかないからな」

 

「僕も加わって良いかな? 専用機もあるから、役に立てると思うんだ」

 

「おお! 是非頼む。アニキも良いよね」

 

「おう! 明日からよろしくなぁ、シャルル」

 

「うん、任せて」

 

こうして、シャルルがやって来た1日目の夜は更けて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

IS学園・1年1組………

 

朝のHRにて………

 

教室はざわめき立っていた。

 

「えっと………きょ、今日も嬉しいお知らせがあります。また1人、クラスにお友達が増えました」

 

教壇に立っていた真耶が、戸惑いながらそう言う。

 

そう………

 

昨日シャルルが転校してきたばかりだと言うのに、また新たな転校生がこのクラスにやって来たのだ。

 

「ドイツからやって来た転校生の、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』さんです」

 

そしてその転校生………長い銀髪で左目に眼帯をした小柄な少女、ドイツ出身の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は、教壇の横で目を閉じて仁王立ちする様に沈黙していた。

 

制服の改造具合と佇まいから、軍人である事が感じ取れる。

 

「如何言う事?」

 

「2日連続で転校生だなんて………」

 

「幾ら何でも変じゃない? あんな事件の後じゃ余計に………」

 

2日続けての転校生に、生徒達からも疑問の声が挙がる。

 

「オイオイ、最近は転校が流行ってんのか?」

 

神谷もそんな声を挙げた。

 

「み、皆さん、お静かに! まだ自己紹介が終わってませんから」

 

真耶がそんな生徒達を鎮める様に言うが、その間もラウラは沈黙を保ったままだった。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「ハイ、教官」

 

千冬がそう言うと、初めて声を挙げるラウラ。

 

(教官?………って事は………千冬姉が、ドイツに居た頃の………)

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

 

一夏がそう思っていると、ラウラはそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかし、それ以上の言葉は出て来なかった。

 

「あ、あの………以上、ですか?」

 

「以上だ」

 

ラウラはそう言ったかと思うと、一夏の方を見た。

 

「貴様が………」

 

「えっ?」

 

そう呟いたかと思うと、ラウラは一夏の眼前に寄り、右手を振り上げて、逆平手打ちを一夏に放った!

 

しかし………

 

「!? うおっ!?」

 

一夏は、咄嗟にボクシングのスウェーの様に身体を仰け反らして、ラウラの逆平手打ちを躱した!

 

「!?」

 

躱された事に驚くラウラ。

 

「いきなり平手打ちとは………随分なご挨拶だな。喧嘩売ってんなら………買ってやるぜ!」

 

一夏は怒りを露わに立ち上がると、ラウラを見下ろしながらそう言い放つ。

 

「貴様………」

 

そんな一夏を右目だけで睨み付けるラウラ。

 

「止めんか、馬鹿者共! 授業を始めるぞ!!」

 

一触即発の状態になったが、千冬がそう言って止める。

 

「チッ!!」

 

ラウラは不機嫌そうな顔をしながら自分の席へ向かった。

 

「私は認めない………貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

去り際にそう一夏に言う。

 

「随分な言い様じゃねえか。一夏は紛れも無く、あのブラコンアネキの弟だぜ。まあ、その前に俺の弟分でもあるがな」

 

すると、神谷がラウラに背を向けたままそう言い放った。

 

「………そうか………貴様が天上 神谷か」

 

足を止めると神谷の方を見ながらそう言うラウラ。

 

「ほう? 見ず知らずの女に覚えてもらえてるとは………俺も有名になったもんだぜ」

 

「貴様の事も認めない………教官を堕落させる元凶め」

 

「だーれが認めろっつったよ」

 

神谷は更に挑発の言葉を重ねる。

 

「席に着け!!」

 

そこで千冬が、更にそう言い、ラウラは不機嫌顔のまま席に向かって行った。

 

(如何やら………また風が吹きそうだな………)

 

そんな事を思いながら、またもワクワクとした様子を見せる神谷だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にこの作品のメインヒロインのシャルが登場です。
アニメ放送で一気にファンを増やしたシャル。
私もアニメ見てやられましたねえ(懐)

そんなシャルに気安く接する神谷。
男と思っているせいで色々と遠慮してません。
まあ、女でも遠慮しないでしょうが(笑)

そしてラウラも登場。
次回の騒動は彼女がメインとなるので、そこにも注目です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

新作『新サクラ大戦・光』の投稿日は

  • 天元突破ISと同時
  • 土曜午前7時
  • 別の日時(後日再アンケート)

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