パラレル・ゲート   作:小鳥大軍

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まとめ直しました


始まり

 俺がまだ幼かった頃、死というものについて考えたことがある。確か、親父がいなくなった頃だった筈だ。

 その時俺は、今の状況と全く同じようなものを思い浮かべていた。真っ暗な何もない空間に、自分ひとりポツンと居る。本当に、笑ってしまいそうなほど今とおんなじだ。

 ここにくる直前。俺は突然家に入ってきた不審者よって刺され、気を失った。幸い母と妹は外に出ていて怪我をしたのは俺だけで済んだのだが、問題はそのあとだ。目覚めた場所がこの真っ暗な空間だったのである。

 360度左右上下真っ暗で、光のヒの字も見えない。

 更に———足が棒になるほど歩き続けた事で分かったのだが、此処には端と言うものがないようだった。

 果てのない真っ暗な空間。どうしようもないので、その場にゴロリと寝転んだ。

 上を見ても何も見えない。寝転んだ時に何となく上に伸ばした手も見えなかった。どうやら此処には欠片も光がないらしい。

 本当に何も見えないとわかった瞬間、先ほどまで妙に落ち着いていたのがなくなりどんどんと狼狽え始める。

 それに加え、ここがどこでなぜここにいるのか全くわからないので軽くパニックになっていると、突然どこかから声をかけられた。

 

『あの、そろそろ話しかけてくれないと流石に困るのだけれど』

 

 その声は、少年のような少女のような、不思議な声だった。

 自分以外にも誰かいるのかと思い、立ち上がってその声の発生源を探すが、やはり何も見えない。

 再び話しかけれたのだが、その声は少し困った風で、何故か俺の動きが見えているようだった。

 

『この空間が物珍しいのはわかるが、そろそろいいんじゃないか? 約12時間もいるし。そろそろ契約を交わさないか』

 

 契約とは、何のことだろうか。

 契約の意味は知っているし、使い方も知っているが、いかんせんこの場でその言葉を使う理由がわからない。

 そう首を傾げると、声の主はやはり俺の動きが見えているように

 

契約(それ)が目的じゃないのかい?』

 

 光が無いのによく見えるものだ。もしかして、俺が目隠しされているだけなんじゃ無いかと思い顔に手を当てるが、俺の顔には何も付いていなかった。

 

「いや、契約も何も俺気がついたらここにいたんだけど」

 

 諦めてその声に応じる。もしかしたら俺は誘拐されたのかもしれない。

 ウチはごく普通の一般家庭なので脅す価値があるほどの金があるかどうかは疑問だが、犯人にとっては金さえ手に入ればいいのだから。

 

『気がついたらここに居ただって? どういうことだい?』

「……こっちが知りたいぐらいだよ。ていうか、ここはどこなんだ?」

 

 そうたずねると、声は不思議そうに答えた 。

 この相手も誘拐されたのだろうか? それにしては、どこか偉そうだけれど。

 

『ここはボクが封じられている空間なんだけど、気がついたらここに居たって?』

 

 封じられてるってなんだよ。思わずそうツッコんでしまいそうになった。

 先程の契約発言もそうだが、もしかしたらこの声の主は少し()()人間なのかもしれない。

 

「いや、言葉のままだけど。不審者に刺されて、気がついたらここに居たんだ」

『刺された? そりゃまた災難だね』

 

 というと声の主はハァ、とため息をつき、どこか疲れたように確認して来る。

 

『では、君はボク、風の神器を求めてここにきたわけではない、というのだね』

「神器って何?」

 

 そう答えると、自称『風の神器』は再びため息をつき

 

『その調子だと魔法を知らなくてもおかしくないな……ボクは君の正面12歩の所にあるから、近づいて来てくれ』

 

 頼るものが何も無いというのは恐ろしいもので、初対面の痛い奴でさえもそこ居るというだけでどこか安心してしまう。

 俺が何かにすがるような気持ちで正面に向かって歩いて行くと、ちょうど12歩のところで何かにぶつかった。

 

『それがボクだ』

 

 その何かは明らかに人の感触ではなく、もっと無機質的な何かだった。普段なら機械類だと思うのだが、この状況下では正しい判断が働かない。

 この何かが声を発していると思い、ビックリしてそれを掴んでしまった。

 

『掴んだね……これで君はどう足掻こうとボクの持ち主になる訳だ。となると、ボクが君の名前を知らないと不便だろう。君の名前は? ちなみにボクの名前はフール・アルヘイブ・アネガ。フーガとよんでくれ』

 

 フーガが捲し立てた内容は、パニックを起こしかけている俺の頭にはほとんど入ってこなかった。それでも、自分の名前を聞かれたことは分かり、反射的に答える。

 

大神(おおがみ) (なつ)だ。大きい神に、春夏秋冬の夏」

『オオガミナツ……では、ナツと呼ばせてもらうよ。これからよろしくね、ナツ』

 

 そうフーガがどこか楽しそうに言った瞬間、周りの闇は晴れ渡り、今度は360度見渡す限り全て草原の場所に立って居た。

 

「えっと、ここどこ?」

『さあ? ボクも知らないよ』

 

 その声は俺の目の前に浮かんでいる剣から出ていた。

 ありえない。

 目の前にあるのがあまりに現実的じゃなさすぎるため、これは夢なのだろうと思うことにした。そうでなくては困る。

 刺された事も夢だったら良かったのだが、脇腹を触るとやはり少し痛い。では、どこからが夢なのか……暗闇の中からが夢だろうな……

 ここが夢の中ならば、ここでうじうじしても仕方がない。せめて思い切り楽しむぞ、と意気込んであたりを見回した。

 ……何もない。本当に何もない。あるのは草と空と鳥だけ。まるで映画に出てくる草原みたいだな、と思っているとフーガが話しかけてきた。

 

『ところでナツよ、そろそろボクが外で話せる時間が終わりそうだ。予想では一年くらい持つはずだったんだけど、思っていたより外の魔源が少ないね。喋れるのはせいぜい30秒くらいかな』

 

 今なんと言った。30秒くらいしか喋れないと言ったか。……てか魔源ってなんだ。自分でも知らない単語がポンポン出てくる。俺の想像力すげーな。

 とりあえずこの後どうするかをフーガを持ちながら考えていると、バチっと言う音と共にフードを深く被った人物が現れた。そいつを見るや否や、フーガは思いついたように

 

『おお、この魔力はライムかな? ちょうど良い、ナツ。あいつについて行って色々学ぶと良い。あいつは、多分教えてくれるから』

 

 フーガの言い分を聞いた後フードの人物を見てみると、何も言わず身動き一つせずにその場に佇んでいるだけだった。

 フーガの言葉を聞いている筈なのに、すごいスルー力だ。まるでこの世の全てのものに興味がないような雰囲気を漂わせているその人をじっとみていると、フーガが、あっ!!! と大声? を出し、俺に向かって言葉を続けた。

 

『そろそろ、お別れだ。特に何か思い入れがあるわけじゃないけど、君のことは応援してるよ。頑張れ』

 

 フーガは、それきり黙ってしまった。まるで電池が切れたおもちゃみたいだ。あれだな。なんとなく死別みたいな気がして嫌な気持ちになる。夢なのに。

 とりあえず、フーガが言った通り目の前の人物を頼ろうと思い、話しかけるタイミングをはかるべく見ているとその人物は急にフードを脱いで頭をガシガシと掻き始めた。

 女の人だった。明るい茶髪のショートカットで、少しつり目。和と洋が絶妙に合わさったような顔立ちをしていて、全体的にお姉さんという雰囲気をまとったその女の人は、俺に向かって

 

「だから嫌だったんだよ。絶対に私に向かって言ってたよね!? 今の! あー、めんどくさい。あー、めんどくさい。めんどくさいけど、仕方ない、か。ほら、このローブ着な」

 

 と言って、どこかからコートを取り出して、こっちに投げてきた。慌ててキャッチしてそれを着る。見た目はボロいが、何かしらの効果があるのだろうか。

 目の前にいる夢の住人に聞きたいことはたくさんあったが、そんな中から口を突いて出たことはなんでもないようなことだった。

 

「あの、なんでコートいるんですか、えっと……」

「ああ、私の名前はタツ。別に敬語じゃなくていいよ、むしろ敬語はやめろ。なんかムズムズする」

「わ、分かった」

「で、なんでコートがいるかだっけか。それはな、この草原の外にある、『永劫の森』を通り抜けるためだ。この、私特製コートが無ければ、森の魔力に魅入られて最悪森の中で寿命を終えるなんてこともありえるからさ」

「……」

 

 漫画とか読みすぎたかな。

 夢とは言えここまですごいのを見るとは、もしかしたら俺は漫画家とかに向いているのかもしれない。

 とりあえずドヤ顔で胸を張っていたタツに黙ってついていくことにした。

 少し進むと、タツは急に振り返り俺を小脇に抱えて一気に飛ぶ。飛んだあと、一瞬で今までいた場所がかなり小さくなった。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

「うるさい! ただでさえ二日酔いで頭痛いんだから静かにしろ!!」

 

 色々と理不尽なことを言われた気もするが、そんなことは耳に入っていなかった。俺の目が、遥か下に見える景色に目を奪われていたからだ。

 異常なほど輝いている湖に、少しずつだが確かに広がって周りを侵食している森。

 マグマがフツフツと煮えたぎっている火山を、肉眼では初めて見た。

 他にも、見たこともない獣が闊歩している岩場に、遠くの方にあるのは城だろうか。

 いくつもの街が、所々にある。

 何だこの景色は。こんな景色俺は、体験はおろか、聞いたことすらない。いくら夢でも見たこともないものの再現は無理じゃないか? 

 そんなことを考えていると、だんだんと地面が近づいてきた。タツがドスンと着地すると、地面はえぐれ、尋常じゃない量の砂埃が舞い上がってここら一体の地形を軽く破壊した。上空から見ていた限りだと、ここは畑だったはずだが、今見渡すと軽く荒地のようになっている。

 

「いいん……のか? これ」

「ん? 何が」

 

 タツの、まるで元々ここはこういう場所だったと言わんばかりの堂々とした態度に、俺は何も言えなくなった。

 タツ曰く、ここからちょっと行った場所に彼女の家があるそうだ。俺は今更だが、渡されたコートが必要なかったことに気がついた。

 

 ———————————————

 

「アレが私の家だ」

 

 着地地点から小川に沿って歩く事数分。タツの家に着いた。

 その家の周りにはかるい畑があり、何というかファンタジーの中の田舎みたいな家だった。小屋が二つあって、それらが繋がっているという形状だ。

 その中に入って行くタツについていって中に入るとそこは……端的にいえば、汚部屋だった。床の上には無秩序に散らばっている本やゴミ。思わず顔をしかめてしまうほどの異臭。

 タツは入り口で立ち止まってる俺が見えていないかのように家の中に入って行って

 

「あー、ちょっとばかし散らかってるけど、気にせず入って」

「ちょっとってレベルか!? これ!!」

 

 俺は今、一つの決意をした。

 

「掃除するぞ」

「え? この程度で?」

「これをこの程度っていうのはおかしい」

 

 ぶーぶー言うタツを無視してとりあえず目の前の床にあった本から拾い上げる。そこに綴られていたのは、どこか日本語に似ている謎の言語。はいはい夢夢……いや、流石に無理だろ。これが夢だとしたら俺は頭の中で独自の言語を作り上げることができる天才ということになるぞ。ちなみに俺の国語の成績は3だ。

 先ほどの跳躍の時から薄々思い始めてはいたが、これは夢ではないのではないだろうか。夢にしてはやけに感覚がリアルすぎるし、何よりこの文字だ……まあ、なんにせよ今の俺の目的は変わらないが。

 とりあえず本棚がなかったので床の本達は部屋の端っこに積み上げ、異臭の元であると推測できる謎の物体Xは家の外に持ち出した。

 その後はゴミを家の中にあった袋に入れ、そこら辺にあった布で床や壁を拭き、とりあえず『何の変哲も無い小屋』と言えるレベルまでは片付けた。そんな俺を見ながらタツが、おー弟子っていいもんだな、と呟いているのが聞こえたので振り返ってきく。

 

「弟子?」

「ああ、お前、私に色々教わるんだろ? ならお前は私の弟子だ!」

 

 胸を張って言われた。しかもドヤ顔で。

 

「それじゃ、何からする? 私、誰かに何か教えんのって初めてなんだよな。さてさてさてさて、何からする?」

 

 何からと言われても、全部としか言いようがない。この世界のこと、神器の事、後は魔源とやらの事とか。

 ゼロから始めるってか。あながち間違いでもないな……

 

「じゃあとりあえず剣振ってみろ。剣。お前の神器剣型だろ?」

 

 俺はタツの言葉に従い外に出た。そして、手に持ってあるフーガを構えて振るう。

 タツはその俺の動きを見た後、俺に近づくと両肩を掴み

 

「おまえ……下っ手だなぁ。うん。かなり下手。お前喧嘩とかしたことねーだろ」

 

 テンション下がっちゃったなー、と頭を掻いた後

 

「じゃあ魔法! 魔法使ってくれ、その神器で。その神器が何の神なのか気になるし」

「どうやって使うんだ?」

 

 今度は珍獣でも見るような目で俺を見てきた。あるいは原始人。どちらだとしても大した差はないが。

 

「お前、余程の金持ちか貧乏かのどっちかだろ。今のご時世で魔法の使い方知らないとか、今まで自分で魔道具使ったことないか魔道具買う金がないかのどっちかしかない」

 

 タツは、そういうと小屋の中に入り何かを探し始めた。窓から覗くと、ここかなーそこかなーと言いながら本を漁っている。そして、最終的にタツが持って来た本は『&¥@*¥+%*&@*&』(イメージ。実際はもっと日本語っぽい)というものだった。

 うん…………読めん。

 

「よし、これ読んで魔法の使い方覚えろ」

「読めない。てか文字わからない」

「は?」

 

 恐る恐る言ったところ、タツは納得してくれた。だが納得したからといって受け入れるわけではなく、タツは苛立ちを隠そうともせずに言う。

 

「えー、文字から教えなきゃなんないの? 幼児。幼児レベルだよ」

 

 ……この人はもう少し他人のことを考えたほうがいいと思う。さっきから自分のことしか考えてないような気がする。

 

「ハイじゃ、これが『あ』」

 

 と言って『⁂』(イメージ。実際はもっと日本語っぽい)を指差した。次は『⌘』(イメージ。実際は以下略)を指差して『い』と言い、その後は『§』(イメージ以下略)を『う』、『ヾ』(全略)を『え』といったように50音全てをやっていったのだが、すぐに全てを覚えれるわけがない。直後のテストでは5個しか丸が付かなかった。いや、5個も丸がついたと言うべきか。発音が日本語と同じだったので勘、というものも少しは当たりやすくなったのかもしれない。

 

「ダァー! もう! めんどい! なんで文字もわかんないんだ! 学校も行ってないのか!? 貧乏なのか!?」

 

 タツは直ぐに棚から本と紙とペンを取り出してこっちに持ってきた。そしてそれをテーブルの上に置くとバンとそれを叩き

 

「読め、書け、覚えろ」

「別にカタコトじゃなくても伝わるぞ」

 

 むしろカタコトって伝わりにくいんじゃないだろうか。だが、確かに読んで書くのが覚えるのに1番の方法だとは思う。

 俺はまずタツが持ってきた本とタツが言っていた文字を照らし合わせて、この世界の言語の横に同じ発音の日本語を書

 

「ちょっと待てお前。その文字はなんだ?」

 

 なにを言って…….ああ、この世界のものとは違うからか。

 

「これは俺が住んでたところで使ってた文字だよ。そんなに珍しいものでも…………いや、珍しいのかな?」

 

 俺がそう言ったのを聞くと、タツは顎に手を添え少しの間考えた。そしてその姿勢のまま視線だけをこちらに飛ばし

 

「気にすんな。続けろ」

 

 俺が続きを書くのを凝視して待った。おれはそんなタツを少し怪訝に思いながらも、同じ作業を続ける。50音全ての文字の横に日本語を書き終わると、タツはその紙をひょいと奪い取り読み込んだ。しばらくしてからこちらに向かって

 

「お前一体どこに住んでたんだ? この私ですら知らない言語。しかも世界共通語と発音一緒のを使ってるとか」

 

 どこ、か。日本の横浜って言ってもいいのだろうか。

 大抵こういう世界に来た主人公は自分の出身地を言っていない。それは、聞かれなかったからなのかもしれない。それならば、俺がこの状況で言うのは別に全然いいだろう。

 

「日本の横浜だよ」

「ニホンノヨコハマ? どこだ」

 

 思ったよりも薄い反応だ、と思うかもしれないが顔を見ると分かる。先程まで怪訝な顔をしていたかと思えばあら不思議。自分のプライドを粉々に打ち砕かれたような、新しいおもちゃを見つけた子供のような、不思議な顔をしていた。

 

「面白い」

 

 ボソッと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。面白い。なにが!? と言うほど俺は鈍いわけじゃない。恐らく、俺の出身地が意味わからない場所だからだろう。日本ではトップ5に入るくらい有名なのにな。

 

「まあ、細かいところは明日でいいや。もう5時だし。飯食うぞ」

 

 5時にご飯か。早くね? だけど友達に4時に晩御飯食べるって人いたし……

 どうでもいいことに悩みながら、俺は家の中に入っていった。

 出て来たご飯は、日本食、ではなく肉を焼いたものと野菜の盛り合わせだった。これがなぜか美味い。肉は奥からどんどん肉汁が出て来て、それでいてしつこくない。野菜は、ドレッシングが効いて居て美味しく、肉の脂をうまい具合に相殺してくれていた。気がついた時には食べ終わっていたほどに美味かったのだ。

 食べ終わった後も何かやるのかと思ったら、タツはベットに横になって寝てしまっていた。仕方がないので俺は出来るだけ文字を覚えてからタツが出してくれた布団と毛布で寝むる。次の日に目を覚ましてもここに居たら夢ではないと認めよう、と思いながら。

 

 

 次の日の朝。目がさめるといつも通りの天井、ではなかった。木の骨組みに、屋根が付いている。ああ、夢じゃなかったのか。

 俺は自分でも驚くほどに落ち着いて現状を確認できた。もちろん、混乱はある。だけど不思議と本当に落ち着いていた。なんでだろう。そう思いながら、もそもそと体を動かしてベッドから這い出た。タツはまだ寝ている。俺は昨日剣が下手と言われたことが気になったので外で素振りをすることにした。

 

 フン・フン・フンと、声に出しながら剣を振るう。

 今まで一度も素振りという事をしたことがなかったので、漫画などでやっていたのを見よう見まねで真似してみることにしたのだが。

 うーん。いまいちよく分からない。これが上手くいっているのかいないのか。

 この後、日が空の真ん中にきたあたりにタツがのそりと起きてくるまでに勝手に家にあった食材を使ってご飯を作ったり、文字を頑張って覚えたりした。

 タツは、起きるとすぐにどこかへふらりと出かけてしまった。その時、付いて行くかどうか迷ったのだが、付いていってもやることがないと思いここに残った。その後も特にこれといったことはなく、日が暮れてきた頃にタツが戻ってきて飯を食べて寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後、やっと文字を覚えたので、タツに魔法を教えてもらうことにした。

 

「タツ。文字覚えたから魔法教えろ」

 

 ちなみに、タツに敬語を使わないということに対する躊躇いは消えた。この数日間、この人の暮らしを見ていると敬語を使わないでいいように思えてきたのだ。

 

「へー、もう? 1ヶ月はかかると思ってたけど……まあいいや」

 

 そう言うと、タツはこの間出していた本をもう一度出してきて

 

「よし! これ読んでみろ」

 

 本を受け取り、読んでみる。えーと、覚えたと言ってもまだ習得したわけではないので、少し手間取ったがなんとか読むことができた。

 

『魔法学〜入門〜

 

 1,魔法発動の原理

 2,魔法の撃ち方

 3,魔法とは

 4,魔道具とは

 5,神器とは 』

 

 とりあえず目次を読んだ後、一度目線を上に戻す。その先ではタツが二ヒヒと笑っていた。

 

「いやー、私ってほら、考えないで動いてるじゃん? 感覚で。だけどさ、お前考えた方ができそうじゃん? だったら本の方がいいかなって思ってさ」

 

 じゃん? と言われても、知らないのだが……

 けれど、確かに俺は考えた方が上手く行くような気がするので、続きを読無ことにする。

 

『1,魔法は空気中の魔源と言う目に見えない粒子を自分の中の魔力を少し使って繋げることで発動することができる。魔源には人類には把握できないほどの種類があり、それら全ての元となるものが五大源素、炎、水、風、土、雷の魔源である。また、魔源は一度繋げると消えてしまうため、無風状態の同じ場所で何度も同じ属性の魔法を使うと一時的にその場でその属性の魔法を使えなくなる。魔源がどこから発生しどうやって生成されているのかは世界の謎である

 

 2,魔法は人間単体では使うことができない。太古の人間は使うことが出来たそうだが、現在は不可能。なぜ不可能になったかは不明。魔道具を使って自分の魔力と大気中の魔源を繋げることで魔法を打つことができる。

 

 3,魔法とは、自らの魔力を大気中の魔源をつなげ、そこから更に多くの魔源を繋げることで発動する特異現象である。繋げる組み合わせや数によって発動する魔法の種類と威力が変わる。また、違う種類の魔源を繋げることは、基本的に不可能である。

 

 4,魔道具とは世界中のあちこちに生えている『魔法樹(マテリアル)』という木の幹を様々な道具の中に仕込むことで使い手と大気中の魔源を繋げることを可能としたものである。日常生活に使えるものから戦闘用まで様々な物がある。

 

 5,神器とは、神が封じられていると言われている魔道具である。人に作るのは不可能である。普通の魔道具とは比べ物にならないほどの威力の魔法を放すことができ、一人の人間は一つの神器しか持つことができない。神器は魔源の種類の数だけあると言われており、その中でも特に強い力を持っているのが五大源素の神器ある』

 

 読んでもよく分からなかったので要約したが……なんだ、この中学二年生が書いた設定集のようなものは。読んでて少し恥ずかしくなったぞ!? 

 ともあれ、読み終わった旨を伝えるため、タツを見ると、タツは俺に外に出るように言った。外に出ると、タツは家の中から

 

「魔法使ってみろ」

 

 無理である。さっきの厨二設定集を読んだだけで魔法を使えなど、無理な話である。この世界の子供達はあの本を読んだだけで魔法が使えるようになるのだろうか? 

 

「いや、無理だろ。あの本読んでも何つうか、説明フワフワしすぎてて使い方がよくわかんねえ」

「だろぉ。あれ読んだところで何が何だかだよなぁ」

 

 そんなにニコニコしながら言われても……

 

「魔法の使い方を教えてくんない?」

 

 無理だからな!? そんなニコニコされてもできないから。使えないから。発動できないから!? 

 

「まあ、思うようにやってみろ」

 

 思うように……か。どうやらタツは今俺に魔法の使い方を教える気は無いらしい。

 さて、どうやる。さっきの厨二設定集では自分の魔力と大気中の魔源を繋げる、って書いていた。繋げる。繋げるねぇ。で、魔道具の説明には繋げるための道具って書いていた。えーと。つまり。どうやる。理屈や道具の意義が理解できても、使い方が分からなければどうしようもない。飛行機が空を飛べるということを知っているからといっていきなり操縦することが出来ないように、俺には今ここで(フーガ)を使って魔法を放つ事はできないのだ。

 それに、そもそも魔力って何だ。魔源についての説明はあっても魔力については何も無かった。例えその表記があったとしても使える訳がないとは思うのだが……

 無い物ねだりをしても仕方がない。俺は、今俺ができる物でタツを満足させるしかないのだ。

 魔法、ねぇ。一度、漫画でやってたみたいにやってみることにする。

 俺は(フーガ)の切っ先を天に向けて、全力で叫んだ。

 

「風魔法・ロデヨゼカ」

 

 もしかしたら出るかも、と抱いていた僅かな希望をことごとく打ち壊された。風は吹いた事には吹いたが、魔法による風ではなく自然に吹いてくる風だった。

 家の中で爆笑しているタツがとてつもなくウザったい。ウザい。羞恥心で死にそうだ。顔が赤くなっていくのが分かる。

 

「アハハハハハハ!! なに、ヒィ、今の、フゥ、魔法。面白、ハハ、すぎ、ヒフ」

 

 俺なりに頑張った結果なのだが、それをタツは爆笑した。プルプルと顔を赤くしながら震えていると、タツが笑いを抑えて問いてきた。

 

「アハハ、ハハ、ヒヒ。ふふ、ああー、笑った笑った。なかなか面白かったぞ。次はどんな魔法だ?」

 

 次はどんな魔法だ? と言われても、今のが無理なのならば他のも無理だ。魔力とかかけらも感じないし。そう伝えると、タツは笑いながら

 

「じゃあ、そこからだな」

 

 と言い、外に出て来た。外に出てくるとタツは俺の手を取り

 

「今から一瞬お前に魔力流すから、その感覚をつかめ」

 

 手を取られた事で少しドキッとしたのは秘密だ。

 次の瞬間、体の中を()()が通った。今まで使ったことのないところを、知らない何かが通っていった。今のが魔力というものか。……よく分かんないなこれ。

 タツは、まさか魔力が分からないとは思わなかったな、と言うとその場にゴロンと寝転んび、そのまま寝てしまった。そんなタツを見ながら俺は、どうすれば魔力を使えるようになるかを考えていた。

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